時の流れは早いもので、特に学院の行事もなく、依頼も舞い込んで来ない日々を過ごして一週間の時が流れた。
それはつまり、今日が今世最期の思い出作りの日であることを意味していて、今、私はデートの定番の待ち合わせタイムということで、おめかしして駅前にいるところだ。
「そーっと……」
そして、集合時刻の十時まであと十分という時間になると、声を押し殺しながら私の背後から迫る寧々の気配を感知する。耳が良すぎるというのも、こういう点では考えものかもしれない。
というか、寧々も私がそれぐらいの音でも気付けるということは知っているはずだろうに。
「えいっ」
「おっと」
案の定、私に悪戯をしたかったようで、寧々は立っている私の目を両手で塞ぐために、私の背中にむにゅっと胸を押し付けるほど密着しながら、私の顔に手を伸ばしてきた。
まあ、楽しみにしていたという点では私も同じなのだが。
「だ~れだ?」
「もー、私にこんなことするのは寧々しかいないでしょ」
「えへへ、正解です♪」
茶目っ気たっぷりに寧々が私に問いかけてきたので、私はノータイムで正解を言い当てると、寧々は嬉しそうに笑いながら拘束を解いて、私の正面に回ってきた。視界の少し下ににゅっと現れた
「うん、いつもと大分趣が違うけど……可愛いね、寧々」
「えへ、えへへへ……っ♡ あ、天都君はいつも通りの軽装ですけど、やっぱりかっこいいですね」
そして、その目に映る寧々の姿を見て、私は顎に手を当てて何度も頷いた。
雰囲気としては動きやすさと可愛らしさを両立させていて、羽織るタイプの萌え袖丈のパーカーに黒シャツを始め、この前買っていたデニムのホットパンツ、更には剥き出しの脚をカバーするための低デニールのタイツで、最後は歩きやすいスニーカーか。髪もポニテに纏めているのを見ると、やはり今日は相当動き回る予定らしい。
ふむ、どれも普段寧々が着るタイプの衣装ではないので新鮮みが強いが、なるほど、こういう少し遊んでそうな感じの寧々も悪くないな。何だかフーセンガムを無性に食べさせたくなってきたぞ。
ちなみに、私も今日は動き回ることを予想していたので、全体的に軽めの服装だ。まあ、寧々の言う通り普段から軽装ではあるのだが。
「よし、じゃあまずは何処から行こうか」
「えっと、最初はスイパラに行きましょうか。移動時間的には、着く頃に丁度開店するはずですので」
二人揃ったということで早速出発を促すと、どうやら初っ端に食事をするらしい。食い気が盛んなのが可愛くて、私は思わずくすりと笑ってしまった。
「あ、ち、ちが、違いますよぅ。早めに食べておいた方が焼肉も沢山食べられると思ってですね」
「それ、スイーツも焼肉もめいっぱい食べたいって言ってるようにしか聞こえないよ?」
「あっ……う、うぐぐ、で、でも、どうせなら沢山食べたいじゃないですか!」
女子的に、あまり食べ物にがっつくのは恥ずかしいと思っているようで、寧々は慌てて言い訳を始めたが、その言い訳が食い意地を余計に主張している感じになってしまっている。最終的には顔を真っ赤にしながら開き直ってしまったようだ。可愛いの極みかな?
「じゃあ、二人でお店にひいこら言わせるぐらい食べちゃおっか」
「そ、そうですね、二人で、えへへ」
しかし、可愛いのはいいが、機嫌を損ねたままでは折角のデートも楽しくなくなってしまうので、私はにこやかに笑いかけながら、寧々へと広げた手を伸ばす。それを見ると、寧々は途端に機嫌を良くして私の手を指を絡ませるようにして握ってきた。可愛いが過ぎるのでは?
「では、こっちの方です。行きましょう、天都君」
「ん」
こうして、開幕早々甘い空気を辺りに撒き散らしながら、私たちのデートは始まるのであった。
「ん~~~~♪ やっぱり、甘いものは美味しいですねぇ」
「うんうん、やはり時代は甘味だねぇ」
ケーキのほど良い甘さに頬を緩めながら、寧々が嬉しそうに感想を漏らす。私もそれに追従するようにフォークを動かしながら、感嘆の息を漏らした。
さて、あれから目的地に辿り着いた私たちは、デートなので当然黙したまま食べ進めるはずはなく、私たちは多少の行儀の悪さには目を瞑りつつ、お喋りしながら食べ放題のスイーツを頬張っている。それだけなら微笑ましいデートの一幕であったろうが、双方の量が問題であった。
「いくらでも、入ってしまいます」
「やっぱり、美味しいものは、沢山食べるに限るよ」
上品にフォークを動かしながら、私たちが口にケーキを運ぶこと、都合十皿目。初期のペースから落とさぬままに楽しく食べ進める私と寧々を、店員や周りのお客さんは不思議なものを見るような目で見ている。まあ、開店直後からこんなことをしていれば目立つのも当然か。
「はい、寧々」
「あ~むっ……! えへへ、天都君も、あ~ん……」
「んむっ……うん、美味しいよ」
まあ、注目されているのは合間合間に甘々に甘い空間を形成しているのが八割方原因であろうが。だが、デートというのであればこれを外すわけにもいくまいて。
「ふぅ、あまりお腹いっぱいまで食べてしまうとこの後支障が出るので、私はこの辺りで止めておきますね」
「そう? じゃあ私もこれ食べ終わったら終わりにしようかな」
それから更に五皿分のスイーツを食べると、寧々が口元を拭きながらフォークを置いたので、私もスケージュール過密気味であろうデートの時間を確保するために、ここいらで止めておくことにした。まだ時間は三十分残っていて、お腹具合も腹七分目といったところなので少し勿体ない気もするが、変に急ぐことになるよりは万倍マシである。
そんな私たちを見て、明らかに店員さんが安堵の表情を見せたことに関しては何も見なかったことにしよう。
「さて、じゃあ次は何処に行くんだい?」
「えっとですね、次はカラオケに行こうと思います」
二人分の支払いを手早く済ませて、私と寧々は店内からの視線を浴びながら外に出て、次の目的地を確認する。何やらメモの様なものを確認する寧々は、それから視線を上げると、先ほど出てきたお店のすぐ側にあるカラオケ店を指差した。
なるほど、やりたいことを雑多に並べるのではなく、位置関係なんかもちゃんと考えてプランニングをしているらしい。こういう所をきっかりしているのは寧々らしいな。
「何時間歌うの?」
「予定では二時間ほどのつもりです。この後も色々ありますからね」
瞳を爛々と輝かせる寧々曰く、どうやら予定はてんこ盛りのようだ。まだ正午になっていないとはいえ、全部回れるかどうか若干不安である。
「~~~~♪」
斯くして、寧々の初めての体験行軍が幕を開けて、まずはカラオケ。慣れない機械操作に手間取る寧々と笑い合いながら、私たちはお互いの歌声に聴き惚れて二時間というあっという間に過ぎていく時間を過ごした。
流石に点数勝負では負けなかったものの、寧々が95点を出した時ははしゃぐ寧々と抱き合いながら喜び合って、それから全力で歌って火照った寧々の身体を鎮める様に濃厚なキスをマイクに響かせて交わしたのは良い思い出だ。
「え、えっと、アレ? あわ、あわわわわ……!」
ほどよく疲れてから二番目に向かった先は駅近くにあるゲームセンター。所狭しと並べてあるゲームの筐体に忙しなく目を走らせる寧々は子供のようで、今にも走り出しそうにうずうずとしている様子が可愛かった。
音ゲーであわあわと慌てる様子、ガンアクションで迫るゾンビに半泣きで応戦する様子、UFOキャッチャーで息を呑みながら景品へとアームを伸ばす様子、そのどれもが思い出に刻まれていくのを、私は噛みしめる様に心で感じていく。
「見て下さい天都君! ストライク取れました!」
沢山の百円玉を消費してから向かうのは、少し離れた場所にあるボーリング場。元々は一ゲームの予定らしかったが、初めてで勝手が分からずに全然点数が稼げなかった寧々が闘志を燃やして追加の三ゲームで上達していき、ストライクを初めて取った時の嬉しそうな顔は、きっと、生涯忘れられないだろう。
「あ、あまっ……天都君、て、てて、手を離さないでくださいね……!」
最後はボーリング場と併設された建物にあったスケートリンク。この地ではまず普通は拝めない氷上というフィールドで、慣れないスケート靴を履いてペンギンの様によちよち歩く寧々は可愛かった。
二人で綴る思い出を、私は確かに魂へと刻んでいく。忘れてはならない大事なものを、今度こそ忘れてしまわない様に。
「えへへ、ちゃんとしたいこと全部できちゃいました♪」
「楽しかったかい?」
「はいっ!」
あれから、我ながら巧みなスケジューリングで私のやりたいことを効率良く、かつ十分に堪能しながら時を過ごして、今の時刻は午後九時。私が機嫌良く終わりに近づいていくデートの感想を述べると、天都君が頭を撫でながら私にそんなことを口にします。当然、想定よりも何倍も楽しめた私は、満面の笑みで返事をすると、天都君は更に笑みを深めて、愛おしそうに頭を撫でてくれました。
「本当に、こんなに贅沢で、楽しくて、何より心の底から嬉しい気持ちになれるなんて、少し前までは思いもしませんでした」
「寧々……」
遠くで輝く夜天の星を見て、私が万感の想いを込めて漏らす言葉に、天都君は子を慈しむような瞳で私の顔を眺めてきます。その慈愛に溢れた、母の温もりを与えてくれる天都君のことが、私は大好きで堪りません。
「天都君」
「何だい?」
「最後に、最後にもう一つだけ、一緒に行きたい場所があるんです」
しばらく黙りとした時間を過ごしてから、私はふいにそう口にします。真っ直ぐに天都君を見つめながら紡ぐ言葉に、天都君は微笑んで了承してくれました。
「いいよ、行こうか」
「はいっ」
笑みを崩さぬまま、デートの初めの時のように天都君は私に手を伸ばしてきて、私もそれを笑顔で指を絡めます。そして、一日歩いたり走ったりして疲れた足を労ってくれる彼の歩調に嬉しく思いつつ、私と天都君はゆっくりと最期の目的地へと歩き始めました。
大魔法が発動するまで、あと少し。
いっぱい食べる女の子は可愛い。