戻ってきて最初に目にしたのは、遠い記憶の中にあった二度と戻ることができなかったかつての自室。
記憶を確かめるようにきょろきょろと部屋を見渡していると部屋の隅の方に姿見を見つけて、そこに映る幼い頃の自分と目が合って、そこでようやく自分が過去に戻ってきたという実感が湧いてきました。
「本当に、戻って……」
呆然とする私の口から出て行く言葉は先程までの私の声より幼くて、沸々と心の奥から魔法が成功したという喜びが去来して、でも、それと同時に
「う、うぅぅ……ふ、ぐ……っ!」
二つの大きな感情が私の心を乱して、幼い身体に精神も引っ張られてしまったのか、私は込み上げてくる涙を堪えることができませんでした。
「あま、とくん……ぐすっ……」
ボロボロと頬を涙が伝っていって、助けを求めるように、私は天都君の名前を呼びます。当然、彼が来てくれるはずもありませんが、ふと、私は自身の側に何かがあることに気が付きました。
「これ、は……?」
光り輝く何かを手のひらで掬い上げて見てみると、それは一枚の羽でした。
それは私に因縁があるもので、私が何度も何度も見てきたもので、そして、私の愛する人の象徴のようなもの。見た目では心の欠片と見分けがつきませんが、これは確かに天都君の純白の一枚が剥がれ落ちたものです。確信へと導いたのはただの直感ですが、だからこそ、私はそれを信じることにしました。
「温かい……」
天都君の羽を抱くとそれは一瞬眩く輝いて、私の胸の中に吸い込まれる様にして消えていきます。そこから柔らかい温もりがじわりと全身を包み込んでいって、その温かさと共にあの世界で最後にしたデートから遡る様に思い出が走馬灯のように頭を駆け巡っていきました。
それは辛くも、悲しくも、楽しくも、嬉しくもあった、私の大事な大事な思い出。それは新しくやり直すこの世界で、私が強く生きていくための糧。
「約束、しましたから」
気付けば涙は止まっていて、頬に残った痕を誤魔化すように、私はごしごしと袖で顔を拭って呟きます。天都君に胸を張ってあなたの恋人だと言えるように頑張ると宣言したからには、弱音を吐いてはいられません。
新生綾地寧々、気合を入れて頑張ります。
なんて風に奮起してから、時の流れは早いものでして、あっという間に月日は流れていきました。戻ってきた初めての朝に部屋を出てから目に入ったのは、離婚する以前のお父さんとお母さんの姿で、また戻ってきたという実感で胸を満たされたことは、今でも思い出すことができます。その後に見た光景が私にとって少なからずショックな出来事であったので。
初めに感じたのは微細な違和でした。以前のように口喧嘩はしてないので最初の数日は気付かなかったのですが、二人の間に何かが足りないような感覚がある気がして、そして、きっかけさえあれば気付いてしまうもので、私はそれからすぐにその正体に行き着きます。
そこに存在していなかったのは愛。より正確に言うのであれば、お互いに好きでいようとする努力と意思です。恋を知って、今も恋をしている私にはそれが分かってしまいました。魔法で成就されたのは二人が離婚していないという事実だけで、お互いを想い合うことを忘れてしまって、冷めきってしまった感情をどうにかするわけではなかったということです。
でも、それで良かったのだと思います。契約した時には露ほども分からなかったことでしたが、人の恋心を、想いを魔法でどうこうしようなんて烏滸がましいにも程がありますから。
そして、その答えに行き着いた私は、自分が長年追い求めた願いを捨てる覚悟で両親に離婚を勧めました。二人にお互いへの想いが残っているのであればともかく、喧嘩もしないお互いに不干渉で冷え切った関係を魔法の呪縛によって続けさせることに意味なんか無いですから。
それから、私は以前のようにお父さんに着いていって天都君との思い出の地に戻ってきて、しばらくしてまた継母との再会を果たします。今度は恐る恐る歩み寄ってくるお
以前の世界とは大きく変わってしまっていて、アストラル能力なる魔法とは似て非なる力が存在していたり、以前は聞いたこともない大人気アイドルがいたりと、パラレルワールドに来てしまったみたいな状況を、私はそれなりに楽しんでいます。
「子供の身体だと、何だか遠くに感じてしまいますね」
そして、そんな風に世界を楽しむ私は今、休日を使ってある場所に足を運んでいる最中です。それはまだこの世界に来ていない天都君のお店兼お家である天の音色工房。今の私が小学五年生ですから、恐らく天都君は二年後にこの建物へと再びやってくることでしょう。
しかし、それが頭で分かっていても、今の私にとって二年という月日は途方もなく長いです。待ちきれないという感情を噴出させて、思い出に浸りに来るぐらいは許してください。
「あ、あれ……開いて……?」
そんな風に心で言い訳している内に辿り着いたようで、私は工房部分の入口に顔を向けると、そこに掲げられていたのは"
しかし、そんな思考とは裏腹に、私の心は期待で高鳴っていきます。もっと先だと思っていた再会がすぐそこにある様な気がして。
「し、失礼します……」
逸る気持ちを抑えながら、私は両開きの扉を恐る恐る開くと、来店を知らせる鈴の音が静寂な店の中に控え目に鳴り響きます。
「いらっしゃ……おや?」
視界に映る懐かしい光景を、人を探しながら眺めていると、久方ぶりに聞いた、然れど、とても聴き慣れた、心が落ち着く、私が大好きな声が店の奥から聞こえてきました。私はもうはち切れんばかりに期待で胸をいっぱいにしながら声がした方に視線を送ると、そこには────
「あ、あま……」
「これはこれは、予想外のお客様だ」
見慣れた黒とは違う白銀と
「天都君……っ!!」
「ふふ、久しぶり、寧々」
確かに、
他のゆずソ作品のキャラは何時頃出そうかな。