※この作品はR-18です。

神戯姦濫   作:水晶水

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 おかげさまで評価バーが真っ赤に染まりました。感謝の極み、恐悦至極でございます。


E.天に届き得る音色で

「寧々、前に言ってた通り今日は部活行けないから」

「え? あっ、今日は取材の日でしたね」

 

 一緒に登校することになった通学路で、寧々と並んで歩きながら、俺は彼女にそう伝えると、彼女は一瞬呆けた顔をした後にその表情を納得の色に変えた。彼女の言う通り、今日は取材が入っている影響で午後の授業から放課後まで拘束されるのだ。

 一応公欠という扱いになってはいるが、そのまま特別扱いというわけにはいかないので別途課題提出という形になっている。世知辛い。

 

「天都君の演奏、楽しみにしてますね」

「うん、頑張るから応援してて」

 

 寧々は俺が背負っている楽器のケースを一瞥してからそう言って、ふにゃりとした笑顔を俺に見せてくれた。今日も彼女が可愛い。

 彼女の言う演奏とは、インタビューが終わった後、放課後に体育館で単独ライブのようなものを行うことを指している。学院内では楽器職人としても演奏家(アーティスト)としても知名度は塵に等しいので、動員数が心配な所である。テレビ的な意味で。

 個人的には友人たちと久島先生ぐらいにしか話していないのもあって、割とどうでも良かったりするのだが。その証拠として、今回はキャップモデルの楽器ではなく、自分が作った楽器を持ってきている。しかし、同時に手を抜くつもりもないので、その中でも最高傑作レベルの子ではあるが。つまり、単にやる気の問題であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは、今日はよろしくお願いします」

「はい、こちらこそお願いします」

 

 時は飛んで午後の部。昼休みから準備を行うために教室を抜け出して、最終的な打ち合わせを軽く流してから、今は取材陣の方々と初顔合わせをしているところだ。

 テレビで見たような記憶がある女性と男性のキャスター? 芸能人? ……とにかく有名人と俺が空き教室の中で向かい合ってお互いにお辞儀をし合う。

 まずはジャブ程度に仕事の遍歴やそれに至る経緯など、基本的な問いから始まり、それと並行する学院生活のこと、更にはプライベートなことについて尋ねられる時間が流れていく。日本のテレビ局だなぁといった感じである。

 それを放送は地方だったか全国区だったかなどと、至極やる気のない内面で熟していくが、神様が与え給うし顔──具体的に言うとAPP16ぐらい──にそれを察せられる色を映すヘマは犯さない。

 しかし、やる気がなくとも手は抜かないが信条の俺は、それを小粋なトーク(当社比)を交えて、自身が世界の様々な演奏家(アーティスト)と相対してきたエピソードを語っていると、あっという間にインタビューの時間は終わりを告げることとなった。期間は五年と短いが、特濃な人生を送ってきたつもりではあるので、微妙に語り足りない気持ちがあるのはご愛敬だ。

 

 その後、放課後になって休憩──その間、スタッフさんたちは学院内の生徒たちにインタビューをして来たらしい──を挟んで、場所は移って体育館。しばらく舞台の袖に引っ込んでいるので正確な数は把握できていないが、漏れ聞こえてくるざわつきや気配から察するに、結構な人数が見に来ているようだ。

 そのことを不思議に思いはしたが、テレビ効果なのだろうと適当に納得して、舞台に出るべくケースを開いてバイオリンを取り出した。今回は独奏(ソロ)なのでこの子を使うつもりだ。

 

 さっき話していた女性に呼ばれて舞台袖から出ていくと、そこには体育館を埋め尽くすほどの生徒たちがひしめき合っている光景が目に入った。テレビ効果を考慮したとしてもこれは集まりすぎじゃないだろうか。

 それに、よく見るとステージ上には演奏に使わない機材が多く置いてあり、また、聴衆も舞台上を見てはいるが、それは俺を見ているというよりも何か別のものを期待しているような眼差しだ。……ははぁん、これはサプライズでスペシャルなゲストがいるな? ギャラとか大丈夫なのだろうかと切実な心配をしてしまいますわよ。

 そして、その予想を裏付けるかのように、もう一度マイクを握った女性が誰かを舞台袖から呼び出す。その声に呼応して舞台袖から見知った顔がエレキギターを持って現れた。

 

『ニッグ! 旅行に行ってるんじゃなかったっけ!?』

『ようアマト、驚いてくれたようで何よりだ』

 

 使用言語を英語に切り替えて俺が驚きながら話しかけたのは、ニッグ=ティールその人である。彼はそれに対してニィっと口角を上げながらこちらへと歩いてきた。

 先日メールで日本にお忍び旅行に行くとは聞かされていたが、よもやこのためだったとは。ちょっと待って、本当に出演料大丈夫なの?

 司会の紹介と俺とニッグの再会についての語り合いがバッググラウンドで進む間、軽く彼について説明することにしよう。

 ニッグは今年で40になる、以前奇抜な髪形をしていた頃に娘に「ムカデみたい」と言われてガチ凹みしていた、世界に名を轟かせるギタリストだ。子煩悩であることで有名である彼だが、そのギターの腕は世界で一番といっても過言ではないだろう。俺がキャップのエレキを彼に譲り渡したのがその証拠でもある。一芸を磨き続ける者は、神の指導を賜った俺の技術をも凌駕することがあるということだ。正しく、神域に到達したということである。

 繰り返すが、世界的に有名な彼は、ぶっちゃけるとこんな日本の片田舎に来るような人物ではない。それはこの割れんばかりの歓声が物語っているであろう。近々二回目の世界ツアーを行うとも言っていたし、本当に何で来たのだろうか。

 

『ニッグ、そういえばどうしてここに?』

 

 世間話もそこそこに、俺は歓声が止まぬ中でそう尋ねる。色々と状況が奇妙だからというのもあるが、どうしても気になったのだ。

 

『いや何、ベラからお前さんが表でデビューするって聞かされたから、伝手使って出させてもらったんだよ』

『身バレしたのあの人のせいか!』

 

 そして返ってきた答えは彼がここにいる理由と事の元凶についてだった。ベラ姐さんについては機会があれば話すことにするが、全部あの人のせいか!

 

『まあまあ、それに関しては今は置いておいて……今はセッションを楽しもうや』

 

 溜息を吐く俺に対して、ニッグは実に嬉しそうに笑いながらギターを掲げてこちらに見せてくる。

 彼の手にするCapのコンセプトは「揺さぶる様な情熱」。聴く人の魂に干渉するのが天の都(Heaven's Capital)の神髄であり、また、それが奏でる音色はどんな賛美の言葉をも陳腐なものへと変えてしまうものだ。Capは天の都(Heaven's Capital)の略称でもあるが、文字通り至高(Cap)を意味し、人が作る楽器とは比喩でも何でもなく格が違う。

 そして、それは神の指導を経たとはいえ、俺の作る楽器も例外ではない。セッションをするのであれば、同(・)じ(・)レベルのものでないとその威光に瞬く間に呑まれてしまうであろう。

 

『ニッグ、五分だけ待っててくれる?』

『ん? それはいいが何を……あぁ、そういうことか。いいぜ、本気のアマトと久々にガチで合わせてやろうじゃないの』

『察しが良くて助かるよ。それじゃあ、トークで場の繋ぎはよろしく!』

 

 しかし、それに対抗する手段がこの場に無いわけではない。というわけで、その準備をするために俺はバイオリンをニッグに預けて再び舞台袖へと姿を消すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この前天都君の家に遊びに行ったメンバーで彼の雄姿を見るために、超満員の体育館の中で彼を見守っていると、天都君は再び何事かをニッグさんに伝えてから舞台袖の方へと消えていきました。何かトラブルでもあったのでしょうか。

 そして、消えた天都君の代わりにニッグさんがざわつきが止まない中で話し始めます。彼に追従するように話される翻訳を聞く限りでは、先程司会の方が仰っていたように、彼と天都君の間に交友関係があって、今回の出演を聞いた彼がノーギャラで遊びに来たのが今回の事の顛末らしいです。正しく友情出演ということですね。

 先月、つまり夏休みの間にも天都君はニッグさんの家にお呼ばれしていたようで、ニッグさんの家族に混ざる天都君の写真を見せられた司会の女性が驚きを露にしているのが妙に印象的でした。夏休みにアメリカに旅行していたのは知っていましたが、まさかそんなことになっていたとは……。

 そして、そのニッグさんの心の底から楽しそうな様子を見て、今まで半信半疑で話を聞いていた他の生徒たちも、話が本当であると思い始めて、ざわつきが更に大きくなっていきます。

 

「Thank you for waiting!!」

 

 体育館で大スターがトークするという奇妙な光景の中、ニッグさんに声をかけながら天都君が戻ってきました。大きな声を出せばその方向に視線が向かうのは当然で、皆の視線がニッグさんから天都君へと移り変わった時、まるで時が止まったかのようにシンと会場が静まり返りました。

 悠然と緊張を感じさせない様子で歩いてきたのは疑いようもなく天都君でしたが、明らかに戻ってくる前までとは彼の様子が異なっているのです。

 普段降ろしている髪を掻き上げて露になった顔は異(・)常(・)な(・)ほ(・)ど(・)かっこよく、その身体から満ち溢れる輝きと言いますかオーラと言いますか、とにかく見ている者を理屈抜きで圧倒し、魅了する雰囲気を発しています。化粧で化けたとかそういうレベルではありません。そもそもあんな短時間で化粧も何もありませんが。

 体育館の誰もが様変わりした天都君に息を呑む中、ニッグさんだけは先程と変わらない様子で天都君に話しかけています。つまり、彼は天都君の変化について知っているのでしょう。……私もこれが終わったら天都君に尋ねないといけませんね。これは嫉妬ではありません。

 

「Are you ready?」

「Yeah!」

 

 そして、司会の人でさえ呆ける中、手早く準備を済ませてしまった彼らは掛け声とともにセッションを始めました。私は恐らくこの光景を生涯忘れることはないでしょう。……天都君のことなら何でも覚えてるんですけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 準備を終えてステージ上に戻って来た時、予想通り聴衆は凪いだ海の如き静けさを誇っていた。理由に心当たりがある私(・)とニッグはそれを意に介することはない。

 

『さて、久しぶりに頼むよ兄(・)さ(・)ん(・)。ニッグも準備は良い?』

『応とも!』

 

 受け取ったバイオリンを基本姿勢で構えながら、私は二(・)人(・)に声をかけると、ニッグは豪快に、そしてエレキギター(兄さん)は嬉しそうに声を返してきた。そして、今、世界でも滅多に行われることのない、C(・)a(・)p(・)二(・)本(・)によるセッションが始まった。

 初っ端から飛ばしていき、エレキから発せられる魂への干渉波と私自身から発せられる干渉波がお互いにぶつかって共鳴し合う。それが上手く混ざり合うことで全く異なり、巨大な波を生み出すことで、聴衆たる生徒たちを瞬く間に演奏へと引き込んだ。

 神様(師匠)に頼まれて伏せていたことだが、視聴者(神様)方にネタバラシの時間である。繰り返すことになるが、私の名前は空閑天都。またの名を天の都(Heaven's Capital)が最終作品、カテゴリー「奏者・歌唱者」の第十一天(Eleventh Heaven)である。神様(師匠)の「音楽を奏でるものは須らく楽器である」という思想から生まれた人(・)型(・)の(・)楽(・)器(・)ということだ。

 作品としてのコンセプトは「至高たれ」。それは楽器としての性能だけでなく、運動性能や知能の面でも表れていているので、目まぐるしい日常を倒れることなく熟せていたのはそういうことだ。上の世界で死ぬほど頑張ったおかげとも言えるが。

 そして、個人的に一番注目しておきたいところは自身の容貌の変化だ。楽器態としての私の容姿は数値にすると驚異のAPP20。これは神様の「超一流の楽器は芸術品としての価値もある」という考えからこういうことになっている。

 今は人間態よりも顔が良くなっているだけであるが、状況に応じて、例えば女性の声を出す時は──元から中性的な顔つきではあるが──それが声質と共に、より女性のものへと変化することとなる。

 また、カテゴリーが意味するように、私は聴衆の魂への干渉を歌唱とあらゆる楽器による演奏で以てして可能とする。流石に素人用の安物では無理があるが、私が作った楽器であれば問題なくキャップ級の音色へと昇華できるということだ。先ほど言っていた対抗手段がこれである。

 さて、至高のBGMを聴きながらの長々とした解説であったが如何だったであろうか。早い話、私は人間びっくり箱だったということだ。音楽に関することであれば何でもできると思ってくれて構わない。

 

 並行思考のように思われたかもしれないが、Cap同士でのセッションは当然そんなに簡単なものではない。あれはさっきの五分の間で前撮りしてもらったものを神様に流してもらっていただけだ。

 実際の演奏はお互いに呑み込まれないように完璧に音、つまり干渉波を合わせる集中力を要し、二人とも演奏が終わるころにはかいた汗でびしょびしょになっていた。ただ演奏するだけでも心身共に大きく消耗する故に、Capの担い手はそれこそ神の領域に達した奏者でなければならない。まあ、今回は合わせだったので、慣れた人間でもこの疲労だったとも言えるが。

 

『はは! 相変わらず末恐ろしい腕だなアマト!』

『そちらこそ、本当にどういう鍛え方してんだろうね、まったく』

 

 用意してあったタオルで汗を拭いながら大きく息を吐いていると、ニッグは笑いながら声をかけてくる。本当に良く笑う人で、その辺りは兄さんの担い手らしいなと思いながら、私も口元に小さく笑みを浮かべた。そして、近づいてきたニッグと私で大きくハイタッチをする音が会場に響いた瞬間、正気に戻った聴衆から爆発的な歓声が上がるのであった。

 

 あの後、興奮冷め止まぬ内に、スタッフさんたちの要望で予定にはなかった俺(・)とニッグの対談形式? のインタビュー─後から聞いた話では本当はアンコールがある予定だったが、俺たちの疲弊具合を見て中止にしたらしい──が行われ、その日の取材は幕を下ろした。俺も久々に全力全開で演奏出来て、その上ニッグとも話すことができたので、今日は物凄く充実した一日だったと言えるだろう。

 ニッグの件を含めても想像を遥かに超えるものが撮れたため、取材陣の人たちにそれはもう感謝されることとなり、今度は局の方でお願いしたいと言われたが、それは曖昧な返事で濁しておいた。言うまでもなく普通に面倒だったからだ。

 ちなみに、この回は特番を組んで一週間後には放送されるらしい。編集さんはどうか死なないでね。




 何食わぬ顔で出てくるオリキャラですけど、本筋にはあんまり関係ないので気にしないでください。
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