サキュバス・トリップ-魅了スキルで異世界トリップ- 作:悠木仁
「着いたわ。ここが私の生まれた世界よ」
ソフィの声を聞いた俺は、閉じていた目をゆっくりと開いた。そこに広がっていたのは、テレビや小説で見慣れた光景だった。以前の世界で例えるならヨーロッパ、時代は中世といったところか。現代の日本と比べると文明の発達が遅れているようにも見えるが、いくつか見たことのない食べ物や建物が視界に入ってきた。おそらく独自の進化を遂げてきたのだろう。
街を見回してみたが、今のところ人間以外の種族は見当たらない。
「ここはこの世界で最も大きな人国、シトリニア王国の城下町よ」
「人国?やっぱりサキュバスと人間以外の種族が存在するのか?」
「あたり前じゃない。といっても、人族が一番数が多い種族なんだけどね。他にはエルフやドワーフなどの妖精族、ヴァンパイア族、人狼族……。色々いるけど、これらは全て魔族と呼ばれているわ」
「おお!」
ファンタジーの世界といえば、やはり魔族の存在は欠かせないだろう。特にエルフなんかは男なら誰もが憧れる妖精だ。
しかし、それよりも気になるのは――
「魔王とかは……」
「いるわよ。従えてるのは悪魔と呼ばれる魔族と魔物だけだけどね。魔族の間では影響力こそ低いけど、長年人族と争ってるわ。おかげで私たちも人国では肩身がせまいのよ」
言われてみれば、ここに来てからソフィの角と羽が見当たらない。おそらく隠しているのだろう。服装も人間が着るような普通の服だ。――やはり露出度は高いが。
それよりも魔物、というのは所謂モンスターのことだろうか。やはり世界の支配を目論む種族というのは、どこにでもいるらしい。俺の世界では人間がそうだった。目論んでいるというより、既に支配していた気がするが。
「さてと、話はこれくらいにしてそろそろ歩かない?」
「ん、そうだな」
ソフィに契約を持ちかけられた俺は、流されるように承諾してしまった。よりによってサキュバスと契約なんて、嫌な予感しか感じない。
とはいえ、別段悪い気はしない。異世界でハーレムを作れるというのだから、男なら誰でも受け入れてしまうだろう。
「まずは今日の宿を探さなきゃな。お前の家はだめなんだろ?」
「それだけは絶対だめよ。あなたがいつ食べられるかわかったもんじゃない」
「お、おう。俺もできればそれは避けたいな……」
ソフィは俺を殺さずに精液を得る方法を考えていたらしいが、他のサキュバスが同じことを考えているとは思えない。前回は先にソフィの意識が飛んでくれたから助かったものの、次は死ぬまで搾り取られるかもしれない。
「それなら方法は一つしかないわね」
「ああ、働いてお金を――」
「女を堕として泊めてもらうのよ!」
「……」
唖然とした。
「いや、何言ってんだ!?」
「それはこっちのセリフよ。あなたこの世界に何しに来たの?まさか、ここでも前みたいな生活をするつもり?」
「ぐっ……」
たしかに、働きながらその日暮らしの生活を送っているようでは、前と何も変わらない。せっかくサキュバスと契約してまでこの世界に来たのだ。もっと楽しむべきだろう。
「でも堕とすって、一体どうすれば……」
「来る前に私と契約の儀式をしたでしょ?あの時点で魅了スキルは発動してるわ。好みの女に声かけて口説けば一発よ」
「儀式、ね」
儀式といってもたいしたことはしていない。――最後以外は。儀式は契約の内容を互いに読み上げるというものだった。俺はソフィの言われるがままに紙に書いて会った文字を読み上げた。そして顔をソフィの方へと向けると同時に――軽くキスをされたのだ。
「なによ、まだ気にしてるの?」
「気にするだろ!初めてだったんだぞ?」
「なーに女みたいなこと言ってるのよ。別にいいでしょ、これから女の数だけすることになるんだから」
「俺そんなに見境なくないからな?」
どうにもサキュバスの思考にはついていけそうにない。貞操観念に差がありすぎる。
セックスしたことだって俺にとっては特別な経験でも、彼女にとっては日常の一ページにすぎないのだろう。
「いいから早く声をかけなさいよ。どこかに気になる子はいないの?」
「そんなすぐに見つかるわけ……あっ」
辺りを見回した俺の目に入ったのは、路地裏に入っていく男女だった。複数の男たちに囲まれていた女性は、明らかに様子がおかしかった。
「どうしたの?ぼんやりしちゃって。可愛い子でも見つけた?」
「いや、今あそこで女性が男たちに……」
「ふーん。ま、他人がどこでセックスしようが襲われてようが私たちには関係が――いや、これはいいきっかけになるか……?」
興味なさげに聞いていたソフィの態度が急変した。ソフィは俺の手を掴み、俺が指差した場所へと走り出す。
「お、おい!」
「助けに行くわよ!」
ソフィの細い腕からはまったく想像できないほどの強い力で引きずられた俺は、なす術もなく路地裏へと向かった。
***
路地裏へと到着すると、そこでは案の定少女が男たちに襲われていた。
「や、やめてください!偶然ぶつかっただけで、悪気があったわけでは……」
「おいおい、そりゃねぇだろ。こっちは怪我したんだ。悪いことしたら償うってのが常識だろ?」
「怪我なんて……。軽くぶつかっただけなのに――」
「ああ?何か言ったか?」
「ひっ!」
男の一人が少女に向けて拳を振り上げた。俺が少女を助けようと飛び出した刹那、今まで俺の隣にいたはずのソフィが、男の振り上げた腕を掴んだ。
「暴力プレイなんて、その子には荷が重すぎるんじゃないかしら?よければ私がお相手しましょうか?」
「へぇ、いい女じゃん。いいぜ、お前も可愛がって――ぐほっ!?」
あたりに鈍い音が鳴り響いた。
もう一人の男が近づいてソフィに触れようとした瞬間、ソフィが掴んでいた男を振り回したのだ。二人の男は白眼をむいて地面に倒れこんだ。
「戦闘は得意じゃないけど、人間のチンピラなんかに負けたりしないわ」
「い、意外と頼りになるんだな……」
俺はソフィの予想外の強さに呆気にとられてしまう。
「さて、あなたはどうする?」
「……!お、俺はやめとくぜ。あんたには敵わねぇ」
「賢い選択ね。頭のいい男は好きよ?」
ソフィの強さが予想外だったのは俺だけではなかったようだ。残りの男は気絶した二人を見下ろした後、走りながら逃げていった。
「あ、あの!助けていただいてありがとうございます」
声の主は襲われていた白髪の少女だった。年は15歳くらいだろうか。遠くからではよくわからなかったが、顔立ちも整っていて可愛らしい子だ。あと、胸がかなり大きい。もしかしたらソフィよりも大きいかもしれない。
「いや、俺は偶然見かけただけだからさ。俺よりも彼女にお礼を――」
そう言って少女の後ろに立っていたソフィの方へ目を向けると、そこには何かを訴えるように口をパクパクさせているソフィの姿があった。
(なになに?い・う・い・お……?いういお――あいつまさか、キ・ス・し・ろって言ってるのか!?)
「できるか!!」
「ひっ!」
思わず声を張り上げてしまい、少女を怖がらせてしまう。
「あ、ごめんな。つい……」
「だ、大丈夫です。あ、あの、なにかお礼をしたいんですけど……」
「お礼、お礼か――」
ソフィの話を聞いてみようとしたが、左手で作った輪に指を出し入れしてるのを見た瞬間俺は目を逸らした。彼女の無茶振りには付き合っていられない。
「それじゃ、何日か家に泊めてくれないか?お金がなくて困ってたんだ」
「い、家に、ですか?えっと、それは……」
困った表情をする少女。いくら恩人とはいえ、男を家に泊めるのは抵抗があるのだろう。さっきもあんな目にあったばかりだ、無理もない。
「無理そうなら別に――」
「そ、そんなことないです!うちでよければ……」
「本当か!?」
「きゃっ!」
喜びのあまり思わず手を握ってしまう。驚いた少女が小さく悲鳴をあげた。
「あ、悪い。嬉しくてつい」
「い、いえっ!驚いた、だけです、から……」
少女の声が小さくなり、顔も下を向いてしまった。悪いことをしたと焦ったが、ちらりと少女の頰が赤くなっていたのが見えた。
「い、家に案内します。付いて来てください」
そう言ってそのまま歩き出した少女に付いていくように、俺とソフィも歩き出した。
本日20時に小説家になろう(ノクターン・ノベルズ)にて第13話を投稿予定です。よろしければそちらもご覧ください。こちらの更新は1日1回〜2回を予定しています。