オールマイトは平和の象徴。
存在そのものが犯罪の抑止力。
組織だって活動していたヴィランはことごとく彼と、彼に勇気づけられたヒーロー、警察組織の前に破れ去り、今は散発的に暴れるヴィランばかりになった。
『でもね~。人の悪意と欲望は滅びないのよぉ。』
嗤う母。いや、洗脳ヴィラン〝スモーキング・クィーン〟。
『闇の市場もすっかり冷え込んじまった。
闇のブローカー、義爛さん。
『オールマイトが雄英の教師に赴任するのは間違いないわぁ。後継者でも養成するんじゃないかしら~。』
スモーキング・クィーンは携帯端末……普段使っている普及品ではなく、ハッキングや対ハッキング機能に優れた闇市場のサポートアイテムですね。それをいじりながらシガレットホルダーで紫煙を燻らせている。
『
義爛さんが咥えたタバコに、クィーンは自分のタバコの先端を押し当て火を点けてあげました。
シガーキスですか。
『どーも。……つまり、オールマイトを擁する雄英に打撃を与えれば、次代の時代に楔を打ち込める、と?』
艶然と微笑むクィーン。
『可能性は大きいわぁ。オールマイト、私はここにいる。そして、私の育てた愛しい娘が、お前の元に忍び寄るンだから。』
『忍び寄れるかどうかはこれからですけどね。』
私はクィーンにそう答えると、身につけた装備のチェックを進めます。
『伊吹ちゃんなら大丈夫よぉ♪あ、ママとシガーキスする?』
『しません。……個性使用時以外は喫煙はしないって言ってるでしょう。』
ここは義爛さんと母が手配した、父の会社の地所内に有る倉庫……の地下に有る隠し部屋です。
ちょっとした公園並みの広さを有するこの場所が、スモーキング・クィーンのアジトの一つとなります。
今日の目的は、雄英の実技試験に向けた装備の確認と、ヴィランとして耳目に触れる形の活動をするときの装備。
その双方の確認です。
前者だけならこの様なシークレットスペースを使う必要は無かったのですが。
まずは表向きの装備。
あくまでも父の会社のコネという形で、社内のラボで作製した物。
正式に、ヒーローライセンスの
ガントレットとグローブ、ロングブーツ……というよりはグリーブですか。
その手足に付けるパーツから伸びた伝達チューブが、私の口許を覆うフェイスガードに繋がっています。
『私の表向きの個性、息使いを攻撃と移動補助に用いる装備ですね。』
射撃試験スペースに移動しながら、手足の取り回しを確認します。
少し重いですね。試験までに体力増強も課題となりそうです。
20メートルぐらいの距離でしょうか。
人体の形を模したターゲットが並んでいます。
『まずはアイテム無しで。』
個性を発動。呼気を圧縮します。
常に体内には大量の空気を蓄えているため、大きく吸気をする
ブォッ!!
口から放った圧縮空気は、衝撃をもってターゲットに亀裂を入れます。
常人ならこの一撃で骨を折れるでしょう。
『悪くないな。』
義爛さんがコンソールを操作し、ターゲットが交換されます。
『右腕の装備。』
右腕のガントレットに備え付けられた射出口をターゲットに向け、私はフェイスガードから右腕への伝達チューブに息を吹き込みます。
ガッ!!
円錐形のバレットが、ターゲットにめり込み、大きく破片を散らせます。
粉砕骨折、内部致命傷レベルですかね。
……国の認可、おりるんですねー。
『左腕の装備は射程が短いので……移動補助!』
今度はグリーブへと息を吹き込むと……体が軽く浮き上がります。
とっ、とと……スケートの感覚に近い、ですかね。
床を滑って加速。
ターゲットまで5メートル!
左腕を向け、射出!!
ガガガガガッ!!!
左腕から放たれたのは、超硬合金の極小のキューブからなる
ターゲットも、その背後のコンクリートの壁もズタズタです。
『悪くないですね。後は立ち回りの練度を上げることと、体力増強ですか。』
『雄英のテストはおそらく対人戦闘、障害物踏破、対ロボット戦闘のどれかだ。充分対応できるぜ。合格したら、それをベースに被服控除申請をすればいい。……どうした、クィーン?』
『もっと可愛いのが良かったのにぃ。』
『……正式コスチュームまで待てよ。』
クィーン……母は通常運転ですね。
『では、裏装備……コントロール・プリンセス用のヴィラン・スーツですか。着替えてきます。』
『ママが手伝ってあげましょうかぁ?』
『余計なところを触られるからイヤです。』
『……はぁーい。』
特殊繊維とラバーのアンダースーツ。
先ほどの装備よりずっと軽量化されたロンググローブとロングブーツ状のパーツ。
鼻から下を完全に覆い隠すマスク。
瞳の色を赤く偽装するカラーコンタクト。
桃色の地毛を押し込んで、漆黒のウィッグをなびかせる頭部防護性も有するヘッドギア。
なるほど。
装着して戻ってくると、クィーンがきゃあきゃあと喜びました。
『伝達チューブは細分化してアンダースーツに組み込んである。』
ふむ。動きやすいですね。
『右手のパーツからは、お前さんの個性を強化するドラッグをミスト、スモーク、シャワーと切り替えて放出。』
『左手のパーツからは、ニードル射出、パイル突出、ネット発射だ。ニードルとパイルは超超硬合金製。ネットはカーボンと耐熱性の高い特殊樹脂の混合。』
『セレクターはベルトについてる。後は、マスクのボイスチェンジャーと、隠し武器としてウィッグの中に混ぜたワイヤーブレードだな。』
なかなかの装備ですね。特にニードルやパイルは完全にプロヒーローの殺傷前提、と。
『改善や修繕はすぐやらせる。何かあったらすぐ連絡をくれ。』
『これでママと現場に行けるわね♪可愛いヒーローでもデビュー戦で拉致っちゃう?』
それも楽しそうですけど、あまり目立つのは良くないのでは?
というか、表に出ないで暗躍するヴィランでしょうが、母さんは。
『これから受験に向けて忙しいんです。ヒーロー相手にデビューしてる暇なんてありませんよ。』
『え~。つまんなぁい。』
『だから……ヴィランや
『ステキ♪ステキ♪さすがは私のお姫様ぁ。』
私の言葉に義爛さんは苦笑しました。
『さすがはクィーンの娘だ。優等生ぶってるが充分あかれたヴィランだなぁ。。いいぜ、だいじな商売のパートナーだ。ご要望に答えましょう。』
『よろしくお願いいたします。あ、そういえば……義爛さん。〝不死身の少年〟って知ってらっしゃいます?』
私はここ数日、ネットを騒がす少年の話題を口にしました。
動画投稿サイトにアップ・削除を延々と繰り返しているその動画は、〝ヒーロー殺し〟の異名を持つヴィランの殺害現場に出くわし、現場の混乱に巻き込まれて死亡した少年が、その場で復活するというものです。
喉を切り裂かれて倒れている少年の側で、赤く輝く靄が体を……全裸の肉体を形成する様は、以前に見た瓦礫の下敷きから復活した少年と同じものでした。
つまり、少なくとも2回は生き返った事になります。
しかも、自分の死体の側で新しい体に生まれ変わって。
なんというか、レアですよね?
『あぁ、名前は
『お詳しいですね。』
『まぁ極レアだしな。ヒーローになるなり、ヴィランになるなり、将来
『まぁ今は雄英に入る事、協力者を作ることを優先しますけど、やはり、不死身というのは気になるでしょう?』
あら?どうしたんですか母さん?
『伊吹ちゃ~ん!そんなどこかの馬の骨に心動かすなんてやめてぇ!ママ寂しいのおっ!』
……はぁ。相変わらずですね。
今晩は又おそわれそうです。
大丈夫ですよ。私は……ママだけの伊吹だから。
次回はヴィランのデビュー戦か、それともお付き合いしてる女性との日常回かな?