巨根なグラン君が色んな女の子にいいようにされたりしたりする話 作:空使い
アレ大っ嫌い(正直者)
危険極まるブツを大切にベッド下へ封印したあと、買ったばかりのエロ本を使うような気分も湧かないアリーザは、なんだか迷走気味な頭の中を整理すべく外の風でも浴びようかと甲板へ向かった。
港に係留されたフロンティア号の甲板では、夕方の出港を前に団員達がポツポツと荷揚げを行う賑やかな声が飛び交い、あたたかく湿った風が風見鶏の羽をクルクル回していた。
欄干に寄りかかり、風に踊る髪を片手で押さえながら、わずかにオレンジのグラデーションがかかってきた空平線を眺める。
大きな綿菓子みたいな多層雲をバックにティアマトとメドゥーサが追いかけっこしているのを目で追いながら、アリーザは自分の気持ちというモノに向き合ってみようとした。
(アタシは、スタンが好き)
いままで、この気持ちを疑ったコトなんてなかったハズだ。
ずっと昔、泣き虫だった自分を守ろうとしてくれた時から。
炎鳴流を継ぎ、お互いの立場が逆転したあとも。
ヘタれで情けなくて、しょっちゅう自分をヤキモキさせる幼馴染み。
昔はカッコよくて、そんなアイツとずっと一緒にいたくて心身を鍛えたアタシは、あっという間にアイツより強くなっちゃったけど。
自分と同じ思いのハズのアイツなら、すぐに隣に来てくれるって思ってた。
ネフティスに拐われた時だって、自分より弱いスタンが、それでも絶対に助けに来てくれるって信じていた。
(アタシは……スタンが、好き)
実際、弱虫なアイツは期待通りに自分を助けに来てくれた。
最近は昔よりかは修行に真剣になり始め、段々と腕をあげてきている。
一緒に故郷を訪ねた時なんて、ママに向かって堂々と交際の許可を求めてくれたし、認めてくれないお母さんを納得させるために、危険なタルウィにまで乗り込んでくれた。
今はもっと実力をつけるため、時々騎空団に立ち寄りつつ放浪の武者修行に精を出している。
自分は、そんなスタンのコトが大好きなハズだ。
それは間違いないのだ。
「団長は……」
今度は、自分をモヤモヤさせてやまない、グランについて考えてみる。
始めての出会いってどんなだったか……。
(そう、確かネフティスに拐われてスタンを待ってた時だった)
炎鳴流で鍛えぬいた自慢の脚であっけなく星晶獣の住処の壁を壊した自分は、他に捕まっていたヒト達を逃がしたあと、物語の王子様のようにスタンが颯爽と助けに来てくれるコトを期待してわざと逃げもせずに待っていたのだ。
あまりに遅いスタンにいいかげんイライラと不安になっていた所で――――
『大丈夫ですか? 助けに来ましたよ、お姫様――』
団長――グランが、怯えるスタンの首根っこを掴んでアタシの前に連れてきてくれたのだ。
「そうだ……そんなだったっけな……♪」
星晶獣の根城を前に怖じ気づいていたスタンと、弟を探すジェシカに頼まれて何の見返りも無しに協力を約束し、即座にネフティスを小突き回してゴメンナサイさせたあと、颯爽と私を助け出してくれたんだった。
まるでおとぎ話の王子様のように――
「…………んん?」
その後、クライス家の継承権を放棄した私と、護衛という仕事を失ったスタンを温かく騎空団に迎え入れてくれた。
バルツから一度も出たことがなかった私達は団員としていろんな島を巡りつつ、星晶獣を素手でおとなしくさせるほどに強かった団長に頼み込んで、自分とスタンに稽古をつけてもらったのだった。
(…………すっごく強くて、手も足も出なかった)
初めての手合わせ。
スタンや自分と同年代のグランに対抗心を燃やして、手加減無用を申し出たアタシは、ルリアの開始の合図と同時に意識を失った。
目が覚めると、甲板に大の字に倒れたアタシの顔を覗き込んだ団長はホッとしたように言ったのだ。
『修行、続けようか』
(あの時、団長は気迫を飛ばしただけだったっていうんだもんなぁ……アタシ、ゼッタイ殺されたと思ったモン。……手加減すんなっていったのはアタシだけどさ)
その後、なんとかグランに追い付きたくてムキになったアタシを、団長は今度はちゃんと手加減して――ボコボコにしてくれた。
心配したルリアやビィが止めようとしても、アタシが参ったっていうまで、本当に真剣に相手をしてくれたのだ。
とうとう構えも作れなくなって降参したアタシは、確か……、
「バッカみたいだったな、アレは……」
治癒魔法を掛けようとしてくれた団長に全力でゴネて、傷をそのままにしてもらったのだ。
炎鳴流を継いで初めて、男の子に負けた。
その悔しさを忘れたくなくて、その痛みが自分をもっと強くしてくれるって本気で思って、アタシは身体中についた青アザをそのままにしたかったのだ。
結果、ケガは後でヒールをかけるつもりで身体中に生傷を作ってしまった団長は青い顔をしてアタフタし必死にアタシを説得しようとしていた。
なんせ、途中で露骨に顔や胸なんかへの打撃を避けている様子のグランに、バカにするな! と大声で叫んで顔面、急所攻撃を解禁させ、顔や胸や、女の子の大切なトコロにまで痛々しい内出血の痕をつけさせたのだ。
いくら武闘家とはいえ、自分と同年代くらいの女の子をボロボロのキズモノにしてしまったコトに団長はかなりの動揺を見せ……アタシはそんなグランを見てなんだか最後に一本だけ取れた気がして嬉しかった。
「――そんでその日のお風呂でソッコー後悔したんだった」
アリーザは心底おかしそうに笑った。
いま思い返しても酷い思い出だ。
痛みと疲れに朦朧としながら、なにも考えずにシャワーを身体に浴びた瞬間、アタシは大きな悲鳴を上げてお風呂場でひっくり返ったのだ。
今でも思い出すと身体がブルリとアツくうずく。
驚いて覗きにきたアンナが青あざだらけのアタシを見てまた悲鳴を上げ、すっ飛んできたカタリナとイオに有無を言わさず傷を癒されたあと、団長はこってりと締め上げられて船首に逆さまに吊られ、一晩中反省させられるコトになった。
さすがに悪いと思ったアタシは毛布を一枚だけ被って同じく船首に寝転んで、しょげてはいたものの割りと平気そうなグランに付き合って朝までお喋りをしたのだった。
以降、修行前には必ず治療を約束させられ、あちらからの急所攻撃も大っぴらには禁止されてしまった。
(ま、他の団員がいないトコではマジメにやってくれるケドね)
禁じ手無しはゴネにゴネてなんとか飲ませたが、治療だけは断じて譲ってくれない団長に、ちょっとした反抗心も込めて毎回最低一ヶ所だけは申告しない傷を残しているのは未だに誰にもバレていないヒミツだ。
「アタシやスタンがこんなに強くなれたのも、団長の……グランのおかげなんだよなぁ……」
アリーザは、前回の手合わせでこっそり残しておいたおヘソの下あたりの青アザを服の上からそっと撫でてみた。
(イテテ……もうなんか、最近はどこか一ヶ所痛いトコロがないと落ち着かないくらいだもんなぁ……コレのおかげで自分はまだまだだっ! って思えるし、あとちょっとだけキモチ――)
少しアツくなった頬を、ブンブンと左右に頭を振って冷ます。
薄く桃色がかった銀髪が、夕方の風に流れてキラキラと光の線になる。
ティアマトとメドゥーサの追いかけっこはいつの間にか攻守が逆転して、涙目のメドゥーサを小さな竜巻が追い回している。
(……イタいとキモチイイは紙一重だってよく聞くもんね! ひ、ひとりでエッチするトキ、痛いトコロをちょっとだけつついてみるなんてきっと誰でもやってるハズだし! こ、これくらいゼンゼンヘンタイじゃないって! うん!)
それは十分にヘンタイだぞ!
ほっぺたをグニグニと揉みほぐし、思考を元に戻してゆく。
(えっと……そうだ、団長にはスタンとのコトもけっこうイロイロ相談したんだった)
稽古でひとしきりコテンパンにされたあと、ゆっくりと治療している間黙っているのもなんだか気まずくて、スタンとの仲について男の子からの意見でも聞こうかとよく相談に乗ってもらったのだ。
「そうそう……それで――」
グランは煮え切らないスタンのコトについて相談すると、困ったような顔をしつつもけっこう適切なアドバイスをくれるのだ。
二人はゼンゼン似ていないと思うのだが、男の子同士なにか通じるトコロでもあるのか、アタシ達がギクシャクとうまくいってないときには、団長がアタシではゼッタイに気づけないようなスタンのキモチと、どうすればよいかを教えてくれるのだ。
『――――確かに、最近のスタンは修行もサボりがちだし、アリーザにもちょっとよそよそしかったかもしれないけどさ、それはなにも諦めとか、嫌いになったとかじゃなくて、自分のコトがイヤになっちゃってるっていうか……男ってこう、ナニよりも自分の弱さが許せなくて、その、そんな情けないトコロを許して欲しいんだけど、でも許さないで叱ってほしい、期待してほしいっていうか…………とにかくその! ……多分明日にはアリーザの所に謝りにくるハズだから、それまでゼッタイにアリーザから謝らないコトと……それから謝るのは前が見えないくらいボコボコにしたコトでも無理矢理古戦場の依頼やパンデモニウムでの修行に連れ出してぼろ雑巾みたいにしたコトでもなくってさ、”見損なった” って言っちゃったコトだけ、その言葉は訂正せずに ”まだ許したわけじゃないけど、少し見直した” って言ってやると良いとおもうよ。……部屋まで来てまだ口ごもってるようだったら、”アンタが謝るまでゼッタイに謝らない” くらい言えば大丈夫……だと思う』
『でも……アタシ、スタンにけっこう酷いコト言って……立てないくらいボロボロにしちゃったし……!』
『……それでも。先に謝るのはスタンに譲ってやって欲しい』
『でもっ、ホントにあの時のスタン、スライムかゴーストかってくらいに生気の欠片もないホドぐっちゃぐちゃにっ!!』
『………………そ、それでも、うん』
その時も、ゼッタイ悪いのは自分の方で、先にアタシが謝らなくちゃいけないって思っていたけど、本当に次の日にスタンは部屋を訪ねてきて、ドアの前で黙り込んでしまったトコロまでグランの言った通りで、それでアタシはもしかしたらと思って、グランに言われた通りのコトをドアの外に向かって震える声で叫んだのだ。
『あ、アンタが謝るまで、アタシ、ゼッタイ謝んないかんねっ!!』
結果。
本当にアッサリ、スタンは自分がいかに情けなかったかを正直に全部謝り、自分なんか見捨てられて当然だけど、これから本当に頑張るから、どうか見ていて欲しいと泣きながら訴えかけてきたのだった。
そんなスタンに内心驚きながら、グランに言われた通りの、それってホントに許してるの? としか思えないセリフを言ってみると、スタンは本当に、ホントに心底嬉しそうに泣き笑いして、ありがとうとアタシにお礼を言い、その日から生まれ変わったように修行に打ち込んだのだ。
信じられないことに、あのスタンが三週間も!
魔法でも見せられたのかと思った。
グランには……自分と年も変わらないアイツには、全部お見通しだったのだ。
マリーやカルバも、ジェシカやティナやカレンも、勇気を出して相談したメーテラさんでさえ解決できなかったアタシ達の仲違いを、アイツは一瞬で解決してしまった。
アタシはそのコトを、手合わせ後の火照りも冷めやらぬ間に興奮気味にグランに報告した。
『え゛っ!? ――う、うん、そうか。良かったね。…………うっそだろアイツマジかよ……どんなマゾだよ……』
……もちろん我らがムッツリグラン君が自分のトコのかわいい雌ドラフの恋路なんか本気で応援するワケがなかった。
しかも相手はあのスタンだ。
金髪イケメンエルーンで幼馴染みでヘタレでイケメンで時たま一所懸命でしかもイケメンである。
童貞グラン君的にはそんな主人公丸出しなツンツン頭なぞ許されざるよ!
しかし根がみみっちぃグラン君、真っ正面から寝取る度胸なんぞないのは皆さんご存じの通りなので、アリーザに絶対うまくなんか行きっこないトンでもアドバイスを吹き込むコトによってなんとか破局までもって行こうと童貞頭をひねり回したのだったが、裏目に裏目った結果はご覧のありさまである。
グラン君はスタンの恐るべき主人公ポテンシャルに恐れおののきしめやかに全面降伏した。
童貞がイキってサーセンっした!
コレからも読み終わったエロ本回して下さいっ!
ナニか小声で言っていたコトはよく聞き取れなかったが、グランはアタシの頬の痣に、ほんの少しも痛まないように温かなヒールをゆっくりとかけながら、また少し困ったような、優しい笑顔を返してくれた。
(……なんだろ)
思い返すと、チクリ、と、ナニかが胸に刺さるような感じがする。
(そうだ、確か)
当時も、似たような引っ掛かりを覚えたのだ。
なんというか、たいして年も違わないのに、余裕ぶって笑っているアイツが、アタシは気に入らなかったのかもしれない。
武術でも、恋愛でもかなわない……そう考えた時、私は確か思わずこう言ったのだ。
『……団長にもさ』
『ん?』
『団長だってさ、その、男の子なわけじゃん。……団長にも、弱いトコロってさ、あるの……?』
(……あの時)
今でも、思い出せる。
アイツは一瞬、本当に一瞬だけ、それまで一度も見たことないような悲しそうな、寂しそうな――――そう、泣きそうな顔をして、
『うん、あるよ(童貞)』
それが勘違いだったかと思うようないつも通りの優しい笑顔で、そう答えたのだ。
アタシは、それが何なのか、アイツに、あんなに強くて、悔しいくらいなんでも出来るアイツにあんな顔をさせる ”弱み” ってヤツが無性に知りたくて。
『…………ふ、ふーん』
でも、聞けなかった。
怖かったのだ。
自分のキモチがわからなかった。
聞いて、アタシはどうしたいのか。
それを、取り除いてあげたいのか。
認めてあげたいのか。
はたまた勝ち誇りたいのか。
ただ、知りたいのか。
アタシは弱かった。
さんざん助けてもらって、知らなかった色々なコトを教えてもらって、世界を、空の広さをこれだけ自分に感じさせてくれたグラン。
ソイツにずっと守ってもらって、いざソイツが助けて欲しそうな顔をした時に、自分は何一つ出来ないでいる。
隠しておいた青アザが、ズキリ、と傷んだ。
『ほら、全部治せたよ。他に治してないトコロはある?』
『……団長ってさ。ルリアのコト、どう思ってるの?』
『っ、え?』
あたしはすがるように、ナゼかそんな意味のわからない質問をしていた。
『いつも……最初から、一緒にいたんでしょ? 団長が旅に出たきっかけってさ、ルリアじゃん』
ルリア。
星の民の力を持った、不思議な青い少女。
星晶獣と心を通わす特別な力と、透き通るような美しさと可憐さをあわせ持った、謎多き少女。
空の子供。
グランの、旅立ちのきっかけ。
『すっ…………す、好きなの?』
『…………』
そして、きっと――――
『好きだよ』
グランの、好きな女の子だった。
『……ふーん』
その時アタシは、自分で聞いたクセに、薄々分かっていたクセに、ナゼかその答えを聞きたくなくて、”大切な旅の仲間だ” とかそんな玉虫色の返事を期待していて、
チクリ
と、再び傷んだ胸の痛みに、思わずそっぽを向いてしまった。
そのせいで、その時アイツがどんな顔していたか、未だにわからないのだ。
『アリーザも好きだよ』
思わずスゴい勢いでアイツに振り向いて、いつも通りの優しい笑顔で立ち上がったアイツに、
『ばっ!? えっ!? ちょっ、なっ、ななっ……!!』
『ジータもカタリナもイオもロゼッタも、みーんな大好きさ』
『な゛あっ』
(……思い出しちゃったよ、くっそぉ……)
アレは人生最大の失態だった。
面白いくらいに赤面して、ひたすら口をパクパクさせる私を見てアイツはとうとう堪えきれずに吹き出した上、実に楽しそうに笑ってこう追い討ちをかけた。
『でも君だけは特別だよ、アリーザ♪』
『ばっ――――――!!!』
『ごめんごめん』
『バッッッッッッッッッッッッカじゃないのっ!!?』
(……なんか今思い出してもムカつく)
アリーザはせっかく冷ましたばかりの頬がまた真っ赤に熱を持ったのを感じ、グランのコトを思い出せば思い出すほどにおかしくなる自分がなんだか無性に悔しくて、またそれが決してイヤじゃない自分が不思議でしょうがなかった。
スタンが相手ならいくらでも言い返せるのに、アイツが相手だといつもやられっぱなしになってしまう。
グイっと、お腹の青アザを強く押し込む。
(っ……つぅ……! そうだ、そんでなんか悔しくなって、アタシはスタンとちゃんと付き合い初めて、アイツにバルツに行ってもらうように頼んだんだ!)
『アタシさぁ』
『ん?』
『スタンに告白された』
『……良かったじゃん』
『……そんだけ?』
『え? えっと……そういや付き合ってなかったんだ』
『まあ、なんかそのヘンなあなあな感じだったし。告白されて初めて、そういやアタシ達ってちゃんと付き合ってなかったかもって……でさ』
『次左腕上げて……何?』
『んっ』
『あっ、ゴメン、染みた?』
『んーん、へーき。……なんて答えよっかなって』
『はあっ!? 返事してないの!?』
『うひぃっ!? 強い強い!』
『あっ…………と、ゴメン……いや、迷うことないじゃん』
『そうなんだけど…………その、だ、団長はさ、どう思うかなって?』
『はぁ……………………』
アタシはナゼか、スタンに告白された時以上にドキドキして、アイツが何て言うか、アタシがどうすべきかゼッタイに間違いない、魔法のような答えを言ってくれるんじゃないかと期待して、
『好きにしたら?』
(……スタンにオッケーしたんだ)
それからも、当て付けのように何度もスタンとの小さないざこざをアイツに相談して、その都度ビックリするくらい完璧な正解をくれるアイツがなんだか無性に腹立たしかった。
そんなに恋愛に詳しいなら、自分だってルリアとか、他の誰か可愛い団員と付き合っちゃえばイイのに、アイツはけして誰か一人を特別にしなかった。
アイツは、みんなに愛されてるのに、ずっと独りぼっちだった。
そしてアタシに、ゼンゼン平気そうに笑うのだ。
自分の弱みを、決して誰にも見せずに。
それが無性に、イラついた。
何度スタンとの仲(実のところ、手すらほとんど繋いでなかったケド)を自慢しても、ちっとも表情を変えないアイツになんとか一矢報いたくて、アタシはムキになってアイツを実家に誘ったのだ。
バルツの懐かしい家で、久しぶりに会ったママに突然スタンが交際の許可を求めた時、アタシは思わずアイツの顔を盗み見た。
『……!』
そしてほんの一瞬、アイツの顔が無表情になるのを見て、アタシはとうとうアイツからこの表情を引き出せた喜びに舞い上がりそうになり、
『……スタン君には悪いのだけれど、認められません』
ママの冷たい声に、背筋に氷を落とされたような気分になった。
慌てて視線を戻すと、ママはスタンじゃなく、娘の私にしか分からないような僅かに険しい顔で、咎めるように真っ直ぐ私を見ていた。
(そういえば、なんでアタシはあんなにアイツの反応にこだわってたんだろ……?)
そのあと、禁じられたタルウィに一人で突っ走って、案の定ピンチに陥ったマヌケなスタンのヤツを助けてくれたのも、やっぱりアイツだったのだ。
スタンを見つけ、ドゥルジを説得し、呪いの正体を看破し、スタンを治療してくれた。
アイツがいてくれなかったら、どうなっていたか……きっとスタンは死んで、ママは一生自分を責め続けただろう。
結局スタンは自分の不甲斐なさを再確認して、いつかアタシと並び立てるようになるまで修行の旅に出るコトを決心し、大人になって再開するまで、アタシ達の恋人関係は解消されたのだった。
いくらか頼もしい顔をするようになったスタンを見送ったあと、アイツは思い出したようにポケットから金色に光る一輪の花を取り出した。
『これ、ドゥルジが俺にくれたんだ。伝説の花なんだって……どんな願いでも叶うらしい。スタンはこれをアリーザにとって来たかったんだろ……だから、あげるよ』
アタシは、それを見て、ナニも言えなくなってしまった。
アイツは、きっとその花のもつ意味をナニも知らないのだ。
アイツはいつもそうやってアタシをヘンなキモチにする。
アタシばっかりヘンに意識して受け取らないというのもシャクで、アイツと目を合わせずにその花を受け取りボソボソとお礼を言う私を見て、ママはナゼか妙に機嫌よくアイツを家に誘い、一晩泊まっていくようにお願いした。
ママはアイツにアタシの昔話とか、アタシの好きなものや嫌いなものについて、アタシがどんなに恥ずかしがってもお構い無しに次から次へとなんでもしゃべってしまった。
いつの間にかアイツの隣に椅子を引っ付けて、しまいには自分自身の話までしだしたママをアイツから引き剥がすにはかなり苦労した。
久しぶりのお客がよっぽど嬉しいのか、真夜中に起き出して枕をもってアイツの部屋に突撃しようとしていたママにはビックリしたモノだ。
たまたま自分も眠れなくて、アイツとおしゃべりでもしようかと部屋をでなければ、危うくスケスケのベビードール姿のママをアイツに見られるトコロだった。
いくらアタシがお世話になってる、よく手紙に書いていた団長に色々言いたいことがあると言っても、うっかりそんな姿で出てこられたらアイツだって困るハズだ。
ママは時々びっくりするくらい抜けている。
(……っていうかアイツママにデレデレしすぎ。別にアタシのお母さんなんだからそんなに気を使わなくたっていいのに……)
それからも、イロイロなコトがあった。
(この前なんて、アイツがアタシとジェシカをプロデュースしてアイドルの真似事までしたっけ)
歌って踊る、なんて始めての経験だったけど、アイツはヘタクソなアタシに可愛いって言ってくれた。
目を回して伸びているメドゥーサを小脇に抱えて自慢げな表情のティアマトが、フヨフヨとグランサイファーの方へ降りて行くのを見送りながら、アリーザはその時を思い出してニヤニヤとだらしなく笑った。
アイツは私に可愛いって言ったのだ。
歌も躍りもあんまり得意じゃ無いけど、アイツがそう言ってくれるんなら、たまにならまたあの衣装を着てやっても良いと思える。
「うーん……結局よく分かんないなぁ……」
思い返して見たが、やっぱり自分にとって団長がどんな存在なのかさっぱり分からなかった。
なんかすぐそこまで出てきているんだけど、なんかあとちょっとのトコロでしっくり来ないのだ。
アリーザは、お腹の青アザをグリグリと擦りながら、このナゾの解決を諦めた。
多分団長は自分の中で、かけがえのない、大切で、ずっと一緒にいて欲しい、いつか並んで立ちたい、守ってあげたい、自分を一番に見て欲しい――――
「トモダチ……友達だよね!」
しっくりは来ないが、どう考えてもそうとしか思えないのだから、きっとそうなのだ。
「っていうか、団長はアタシのコトをどう思ってるのかな?」
団長は、おんなじようにアタシを友達と思ってるのだろうか。
(……なんだろ、また……)
団長が自分を友達と思っているか。
そう考えたら、また胸がチクリと痛み、なんとなくモヤモヤする。
(スタンのトコロ行って、ちょっと話そうかな)
スタンならちょうど前回の三日間の放浪が終わったトコロで、一週間くらいこの船に滞在しているハズだ。
何度か食堂で見かけた。
アリーザは欄干から手をはなし、グッと大きく伸びをした。
もうすっかり夕焼けが空を覆って、幻想的な光が雲間にたなびいている。
くるりとキビスを返すと、船内に戻って行く。
スタンと話せば、このモヤモヤも収まるかもしれない。
私が好きなのはスタンなんだって、確認できるかもしれない。
そう思って、アリーザは足早に廊下を歩いて行く。
自分が思考に無理矢理蓋をしているコトに、全く気付かないふりをして。
最後にはほとんど駆け足でスタンの船室近くまで来たアリーザは、乱れた息を整えつつ、ゆっくりとスタンの部屋のドアの前まで歩いて行く。
(さて、と。とりあえず次はいつ頃旅に出るかでも聞いてみよっかな……ん)
そこで、アリーザはスタンの船室の扉が細く空いたままなコトに気がついた。
「?」
なんとなく。
ホントになんとなく、その隙間から中を覗き込んでみた。
「今っ日~のオカズは~♪」
ガサガサ
「なっるッなっるッナッルメ~ア♪」
ガサガサ、ペラペラ
「そーれーと~も~」
パラパラ
「ルリルリリルリルル~リルリッ♪」
ガサっ
「かな~~♪」
ドサッ
「今日はプルプルナ~ルメアっ♪」
よいしょっと……
「フレッシュバストのビキニ~♪」
バーン!
「……よし」
よしじゃないが。
スタンは妙に軽快な正味15秒程度の歌(たしかペンギーちゃんの冷凍食品かなんかのコマーシャルソングの替え歌だ)を歌いながら、ベッドの上に広げたエロ本の山から一冊を取り出し、更に封筒の中から魔導プリント写真の束を取り出し、恐らく盗撮であろうナルメアの水着写真を抜き取って開いたエロ本のページの上にクリップで留めた。
「ナルメアさん、今日もよろしくお願いします」
正座で深々と頭を下げたと思えば、ポンポーンとあっという間に服を脱ぎ捨てて全裸になった。
(…………!?)
あらわになる、グランとは比べるべくもない細っ白い身体。
スタンは仰向けになると、左手にエロ本を、右手を自らの分身に添え、
「……いやっ、今日はあえて左だ!」
左右の手を入れ替え、右手でエロ本を支えつつ、左手で息子をしごき始めた。
(………………うそ)
スタンが、オナニーを。
ナルメアさんの写真を使って。
(……スタン……)
「あっあっあっ……ナルメアさんっ! ナルメアさん気持ちいいっ! ああっ!」
そしてそのペニス。
左手の三本の指で小刻みにしごかれている。
初めて目の当たりにするそれは、一瞬どこにあるか見失うくらい、
(ちっちゃい……)
ウッ……! というスタンの手の中に、ぴゅるっとシジミの潮吹きくらいの液体が飛ぶ。
アリーザはフラフラとドアの前を離れ、
ドンッ!!!
と一発廊下の壁を蹴りつけたあと、呆然自失なまま船内をさまよい、気付けば自分の部屋の中だった。
鍵をかけ、机の上を見る。
袋に入ったままのエロ本が、無造作に放置されている。
ツカツカと机に近づき、袋から騎空士モノを取り出す。
ブーツを脱ぎ捨て、サークレットを鏡台に放り投げ、着ていた服を乱雑に脱ぎ散らかして下着姿になるアリーザ。
鏡を見て、お腹の下の青アザを一撫でしたあと、ベッドの下から革のケースを引っ張り出し、中から疑似精液ローションと一番小さいディルドを取り出すと、エロ本と一緒に引っ付かんで、無言で浴室に向かい、
静かに扉を閉めた――――
「えっ!? ナニ? なんなの!? オレそんな声デカかった!?」
スタン君は廊下から首だけ出して左右を見渡し、壁に足の形の陥没跡を発見して戦慄したとかしないとか。
強く生きろスタン。
古すぎて伝わらないスタンの替え歌元は活動報告へ。