「コンドームはしてくださいよ」
せめてもの悪あがきに、そう提案する。とりあえず借り物だと意識してもらうために一線を引いておく。いずれはなし崩しにされてしまうだろうが、獲物を楽々と横取りされるのは面白くなかった。
「あんま使いたくないなぁ。必要な歳でもないやろ」
案の定、妊娠する可能性のない相手に避妊具をするのが不服らしい。ここで引くわけにはいかない鋼介は鬼沢と目を合わせる。睨むというほどはないが、両者の目には力が込もっていて迫力があった。
鬼沢が小さく息をはく。
「まあええよ。挿入する時にはコンドーム着ける」
答えを渋ったわりにあっさりと了解したことに鋼介は訝しむ。この老人がのらりくらりと言葉巧みに言い訳をしてコンドームをしないのではという疑念が浮かぶ。
本番行為はこれまでに両手で数える程度しかしていない。他の家族の目を避ける必要があるので、八一と桂香が長時間出掛ける日にしか機会がなかった。
ふと、鋼介は肝心なことに気づいた。
「銀子、コンドームって知っとるか?」
「知らない」
性知識を吹き込むのは自分以外考えられない環境で、むしろ知っていたら驚くところだ。鬼沢の言う通り、必要になるのは数年後だと思っていたので、コンドーム見せたことすらない。学校の授業や友達に教えてもらっている可能性も限りなくゼロに近いだろう。
当然の答えに鋼介は何の感慨もなかったが、このまますんなりと渡すほど鬼沢の言葉を信用していない。
「コンドーム、一つ貰えます?」
「何に使うんや?」
「軽く説明しとこうと思って」
使い方くらいは教えておくべきだったと悔やみながらも、付け入る隙を見せないように淡々と答える。
説明を鬼沢に任せるには不安すぎるので、せめて自分の口から説明したかった。
未だに恋人の噂が出る鬼沢がコンドームを持っていないのは考え難かった。毎回身体の外に射精しているにしても、一人か二人くらい真否は定かではなくても、鬼沢の血縁者を主張する者が出てきても不思議はない。鬼沢はそれだけの価値を持つ男だ。
それが一切ないということはフォローが上手いのか、可能性がないのか、その両方のどれかだ。
鋼介の予想は当たっていたようで、
「ちょっと待っとってや」
そう言って鬼沢は部屋から出ていく。追及がないのは気掛かりだったが、こちらから打てる手はない。
ドアに向けていた視線を銀子の方に移す。
彼女はスラックスを皺が寄るほどに強く握っている。抱えていた膝を伸ばしていた。
「どうした?」
スラックスを掴む手を上から覆うように自分の手を重ねた鋼介は、優しげな声で尋ねた。
返信はない。
鋼介が銀子の手を揉み解す。硬直していた筋肉が伸びるのと反比例して表情が固くなっていく。
何かを迷うように、頭をもたげては下ろすを繰り返していた銀子はようやく決心したのか、下が向いたまま話し始める。
「今日、あの人?」
「そうや」
「したくない」
「さっきどっちでもいいって言ったのは銀子やないか」
「やっぱり嫌」
鋼介は椅子から立ち上がり、身体を屈めて銀子の両手を取ると、彼女の膝の上に持っていく。目線の高さを合わせると、俯いていた銀子が目だけ上げて鋼介を見た。
「いっぺん決まったことはなかなか変えられん。今回も鬼沢センセが楽しみにしとるみたいやから、今さら止めるんは無理や。下手したらワシらの関係がバラされるかもしれん」
「別にいい」
そうはいかない。将棋以外で飯を食っていく術など鋼介は知らない。棋界を追放されたら残るものなどない。
今まで秘密にして来られたが、こういうふうに投げやりな態度だといつ口を滑らせるか不安になる。
「銀子、くれぐれも言うとくけど、ワシのことは周りには言うたらいかんぞ」
「わかってる」
数秒の沈黙を置いて、鋼介は銀子の手を取る。
「何も難しいことあらへん。言われたことだけをすればええんや」
力づけるような、言い聞かせるような、優しい口調なのに迫力のある言葉が鋼介の口から出る。
「いつも通りや」
「……うん」
念押しするように鋼介が言うと、じっとして聞いていた銀子がようやく首を縦に振った。鋼介が頭を強めに撫でると、普段のすまし顔を少しだけ不機嫌そうに歪めて髪を手櫛で直した。身体の緊張が僅かに緩んだように見えた。
「おまたせ」
ようやく戻ってきた鬼沢からコンドームの入った袋を受け取った鋼介は、そのままバケツリレーのようなテンポの良さで銀子に渡した。
いきなりのプレゼントに銀子が目を丸くする。袋を摘まみ上げて、扱いを伺うように鋼介に視線を向ける。
鋼介が封を切るジェスチャーをすると、銀子は両端を摘まんで指示通りに袋を破く。丸められたコンドームを抜き出し、初めて見るだろうそれを興味深げに眺める。そして、コンドームを翳して赤い半透明のナイロン越しに外を覗き見た。
「これ、なに?」
赤み掛かった景色から目を離した銀子が尋ねる。性具なのは解ってほしかったが、銀子は中心の部位を用心深げに触っているばかりだった。
まあ、無理もないと鋼介は一人ごちる。小学二年生に見せるにはあまりにも早いことは鋼介にも解っていた。
「ちょっと席外してもらえます?」
コンドームを説明する姿を他人に見られるのは気まずく感じた鋼介は、銀子と二人きりにしてくれるように鬼沢に願い出る。
しかし、
「ワシのことは気にせんでええよ」
鬼沢は気遣いは無用とばかりな手を上げる。下手に問答しても時間の無駄なので、鋼介は銀子の前に立ち、スラックスのファスナーを下ろしてトランクスから逸物を抜き出した。
銀子は勃起していない逸物を一瞥すると、すぐさま掌のコンドームに視線を戻した。
「師匠」
銀子が戸惑った声を上げる。内緒と言った本人が人前で逸物を晒していることが理解できないといった様子だ。
「実物見せながらやないと説明しにくいからな」
鋼介はコンドームを顎で指す。見上げていた銀子はもう一度掌に視線を戻す。
腰を突き出した鋼介は下腹部に力を入れる。銀子から見られているという興奮も手伝って、逸物はすぐに胴体とは垂直に反り上がった。
「それじゃあ、被せてくれるか」
「被せる?」
「こうや」
そう言って鋼介は亀頭の先にコンドームを乗せて銀子に持たせると、彼女の手に自分の手を添えてガイドする。コンドームがくるくると逸物を包み込む。サイズが小さいのか逸物が締め付けられるが借り物なので仕方ないと諦める。
テカテカと光る逸物を眺めていた銀子は、触り心地を確かめるように逸物を握って、手を前後させる。
また、気になるのか、先端の液溜まりを摘まんでいた。
ついでに逸物の言い方を改めさせる。
「そう言えば銀子、そこ、なんて言うんや」
鋼介が逸物を目で指す。
「……ちんちん」
「ちゃう。チ○コや。はい、言い直し」
「……チ○コ」
「声が小さい。もう一回」
「チ○コ!」
「ええぞ。二人ん時はチ○コ呼びな」
今まで約束通りに内緒にしてきた銀子なので、これも誰にも漏らさないだろう。たとえ口を滑らせても、同級生が言っていたと誤魔化せる。
一人よがりにならないように、鋼介はそれを伝えておく。あらかじめ言い訳を教えておけば心配も少なくて済む。
銀子の頭を掴み、逸物との距離を詰める。銀子はいつも通りに口を開いて受け入れる。
冷えた逸物を暖めるには十分な温室は、コンドームのせいか感触が鈍い。
一方で、奉仕している銀子は、肉棒から味がしないからか、滑らかに頭を前後させる。小さな口に逸物を頬張る姿はいっそ可愛くすら見える。
「生よりも大分くわえやすそうやな」
銀子は顔を股間に埋めた状態で頷く。
「うっ」
限界に達した鋼介は喉を突かないように気遣いながら、銀子に逸物を押し付ける。銀子の方も解っているのか、すんなりと顔を股間に埋める。息の合った動きだった。 頭から手を放して銀子を解放する。
コンドームを逸物から外す。射精して落ち着いているおかげか、楽に離れた。
「それじゃ、行こか」
鬼沢に部屋を出るように目配せされた銀子は、判断を仰ぐように鋼介を見た。
「銀子だけですか」
鋼介が尋ねる。
「見てたいんなら構へんけど」
それは遠慮したい。消極的とはいえ、銀子が自分で決めたことなので止めはしないが、客観的に彼女の恥態を見たいとは鋼介は思わなかった。
(性的な)常識を教えるのを忘れてた。(故意)