蛍光灯が照らす室内で今日の対局の盤面を再現した鋼介は手にしているブランデーの入ったグラスを空にする。
その表情は普段の温厚な顔ではなく、今日の対局の最終番、敗着の一手前を再現して眉間に皺を寄せていた。
決して惜しい内容ではない。序盤から相手方が優勢でそのままふっ飛ばされた試合だった。
これが順位戦ならば悔しいがある意味で納得するだろう。
しかし、今回の相手は今年B級に昇級したばかりの若手棋士だったからくるものがあった。
たまたまにせよ無様な将棋を指してしまったことに変わりはなく、悔しさに歯を食いしばる。
苦境や悔しさにある度に噛んでいたせいで歯の表面のエナメルが砕けて奥の神経が剥き出しになっていた。
出来なくなる前にインプラントをと勧められているが、結局は噛み砕いてしまいそうで放置していた。
若手に大敗したという現実はそれほどに鋼介のプライドを傷付けていた。
グラスに注いだブランデーを一気に飲み干す。
痛みや悔しさを誤魔化すのにアルコールが欠かせない。
焼けるような感覚が喉を通って腹の奥に落ちていく。
ずきずきとした嫌な痛みが引いていき、ようやく今日の敗北の整理、とはいかないまでも納得は付いてきた。
ようやく落ち着いて来た所に睡魔が重なり、鋼介の手が蛍光灯の紐に伸びる。
「ん?」
紐を握った所で襖がノックされた。
返事を待たずに襖が開く。
真っ暗な廊下に鋼介の部屋から光が漏れて艶やかな光を返した。
「どうした、銀子?」
「電気……、見えたから」
顔を襖で隠しながら銀子は鋼介の方を見た。
どうやら光が廊下に漏れていたらしい。
「こんな時間まで起きとったんか?」
時刻は午前1時を過ぎている。子供が起きておくには余りにも遅い時間だった。
鋼介の心配する声に銀子は首を振った。
「トイレに起きた」
「そか。せやったら、さっさとトイレ行って寝なさい。子供が起きてていい時間じゃないからな」
銀子に背を向けた鋼介は布団を広げる。
しかし、布団を敷き終わり、襖の方を見ても銀子は全く動いていなかった。
「もしかして、一人でトイレは怖いか?」
最初に思い付いた理由を尋ねたが、銀子は首を振る。
「じゃあ、どうした」
「……一人、……寝れない」
「一人、桂香は……あぁ、そういえばテスト期間だったか」
銀子は桂香と一緒に普段寝ていた。
今は桂香がテスト期間中で、試験勉強をしなければならないということで、例外に別々に寝ていた。
「でも、別々に寝るんは初めてじゃないやろ?桂香がテストの時は黙って別で寝てたやん?」
責めていると取られないように出来るだけ優しい口調で尋ねる。
「…………部屋が静かで怖い」
十分過ぎる沈黙を置いて、恥を堪えるようにして声が絞り出される。
「そうか」
平静な表情で言葉を返した鋼介だが内心では、その子供らしい理由に驚いていた。
普段、自分や弟弟子の八一相手に生意気、もとい、剛胆な態度で、今みたいな年相応の反応は新鮮だった。
「しゃーないなぁ」
頭を掻きながら鋼介は半歩下がり、部屋に入るように促した。
銀子は鋼介の身体をくぐり抜けて部屋に入ると中央に置かれた将棋盤に吸い寄せられるように座る。
黄色いパジャマが蛍光灯の光で色を増した。
「今日はもう終いや。それに今将棋なんか指したら目が冴えて寝れんようになる」
銀子が頬を小さく膨らませる。
「んな顔しても駄目や」
鋼介が人差し指で膨れた頬をつつくと銀子はそれを叩いて払い除けた。
特に話す事も見つからずに沈黙が部屋を包む。
指さないと言われても銀子の視線は将棋盤から離れず、本人にその気はないのだろうが、催促されている気分だった。
「一局だけやぞ」
溜め息を吐いた鋼介を、銀子は目を爛々とさせて見た。
盤に駒が並び、お互いに向き合って頭を下げる。
先手の銀子はいつも通り穴熊に持っていこうとしていたが、鋼介はその前に仕掛けた。
それよりも彼女の指し筋が鋼介の気に触った。
どことなく今日の対局相手に似ているのだ。
直接戦った数は片手で数える程もないが、いくつかの棋戦での対局の検討は見た事があった。
よく見れば違いはあったのだろうが、アルコールの回っている鋼介にはそこまで頭が働かず、直感的な感想が思考を支配する。
駒を指す手に力が入る。
銀子が駒を指すとノータイムで指し返すという大人げない将棋を指していた。
加えて無意識に勝負の気合いで望む鋼介からは殺気立った雰囲気が放たれている。
駒を指す銀子の手が一手毎に重くなり、最後は気圧されるように盤上に手をやれなくなる。
「負けました」
頭を下げる銀子に鋼介は見下ろすと、
「服を脱ぎなさい」
ぽつりと呟いた。
「え?」
頭を上げた銀子の顔は呆然としている。
「前に負けた時に裸になったことがあったやろ。あれや、あれ」
たっぷりと時間が空き、銀子の手がパジャマのボタンに伸びる。
ボタンを全て外し、上着を脱ぐと立ち上がり、ズボンを脱いで座ろうとした。
「パンツもや。後、上のシャツもついでに脱ぎぃ」
銀子は戸惑うように鋼介を見ながらもショーツに手を掛けた。
ゆっくりと踝まで下げて片足ずつショーツから足が抜かれる。
シャツも脱いだ銀子は秘所を手で隠していた。
「手ぇ、横に」
鋼介の低い声に操られるように銀子の手が秘所から離れる。
「足、開きぃ」
声に従って銀子は肩幅に足を広げた。
薄い肉の双丘が左右に開く。
恥ずかしそうに顔を赤くして銀子は鋼介を見ていた。
「そんじゃ」
指が銀子の秘所に伸びる。が、座った姿勢では盤を挟んだ先にいる彼女には届かない。
それに加えて、手が自分に向いた瞬間銀子は後退り距離が更に開いていた。
鋼介は空を切った手を返して見た。
「銀子」
鋼介は自分の膝を叩いて彼女を招き入れる。
しばらく考えるように視線を泳がせていた銀子はのっそりとした動きで鋼介に近寄ると彼の膝の上に腰を下ろした。
膝を抱える手を離させ、曲げたまま左右に開かせる。
内腿に力が入って抵抗を見せたが、鋼介の手が膝の上から腿に来ると身体を強ばらせて抵抗が弱くなる。
手は更に腿を伝い陰核に触れた。
「クリちゃん到着や」
鋼介は陰核を優しく爪で引っ掻いた。が、
「?」
銀子は自分の股、正確にはそこに触れている鋼介の指を不思議そうに見ていた。
「何も感じんか?」
銀子が頷く。
「そうか」
鋼介は室内を見回す。だが、将棋中心に生活している彼の部屋にはそういう道具は一切無かった。
どうしたものかと下を向いた鋼介の目に手持ち無沙汰そうにグーパーと動かしているのが見えた。
その手を取り、陰核の前に持ってくる。
変だとは思っている様子だが、危険は無いと判断したのか銀子は抵抗しなかった。
普段から突拍子もない行動をしているからかもしれない。
「何?」
自分の陰核に人差し指をぴたりと着けさせられた銀子はその様子を見ながら尋ねる。
鋼介は自分の人差し指を銀子の人差し指に重ねて、彼女の指に陰核を刺激させる。
「こうやって、自分で気持ちいいところ掻いてみ」
しばらくすると鋼介は自分の指に抵抗が無くなり離す。
離しても銀子の指は一人でに陰部を弾き、膝が動いていた。
「んっ、んっ」
俯いている彼女からは可愛らしい声が漏れる。あえいでいると言うには余りに拙く、漏れ出る声が抑えきれない様子だった。 鋼介は銀子の空いている手を彼女の胸の上に重ねて、隙間から自分の指を通し、銀子の乳首を撫でる。
「はぁ」
溜め息のような声が漏れた。
銀子はそれが気持ち良かったのか鋼介の指を払い自分でも乳首を撫でたが、あまり気持ち良くならないらしく、鋼介の手を取ると自分の乳首の上に誘導する。
「気持ちええか」
銀子がせがむように何度も頷く。
鋼介が乳首に触れている指の動きを早めると、陰核を掻いていた銀子の指も早くなる。
「あっ、あっ、ッアッ」
本能的とも思える声で鳴いていた銀子の身体が小さくなる。
足を閉じて、間に挟まれた腕を固くする。
胸にあった手は臍の所まで痙攣で動いた。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ」
鋼介に背中を着けて身体を預けた銀子は肩で息をしている。
イッたかを聞こうと思ったが、銀子にその手の知識があるとは思えなかった。
「どうや?この遊び好きか?」
どう尋ねるか考えて、答えやすそうな言葉で質問した。
身体の力が抜けて一息吐いている様子だった銀子は小さく頷いた。
ーーー
「お父さん」
声を掛けられた鋼介は身体を動かそうとして節々が傷む。
いつの間にか寝てしまったらしく、その寝方も将棋盤に臨んだ格好だった。
「お父さん、そんな姿勢で寝たら身体痛めちゃうよ」
襖から顔を出した娘の桂香が心配そうに注意する。
「ああ。今度から気ぃ付ける」
首を揉みながら鋼介は答えた。
起きたばかりで目の焦点が合わない。
鼻に届く微かな味噌汁の匂いだけが今の時間を示していた。
眼鏡を外して凝っている眉間を揉み解し、綺麗に掛け直す。
目を細めて焦点が合ったのを確めると襖の方の桂香を見た。
「もう行くんか?」
「もうも何も七時半過ぎてるよ。予定が無いからってだらだらしない」
「はぁい」
大きく伸びをした鋼介が間延びした答えを返す。
「八一は?」
「もう学校に行ったわ」
「そうか」
「じゃあ、私も学校行くから銀子ちゃんのお世話お願いね」
「っ!」
鋼介は冷や水を頭から被ったように背筋が寒くなる。
既に桂香の姿は無く、パタパタという足音も離れていた。
あわてて周囲を見回すと銀子が鋼介の布団で寝息を立てていた。
掛け布団から黄色い服が覗き彼女がパジャマを着ていることが判り、鋼介はほっと肩を撫で下ろす。
改めて思い出すととんでもない事をやってしまった。
酔っていたとはいえ少女に手を出してしまうとは。
しかし、未だに手には銀子のすべすべの柔らかい感触が残っていた。
「まあ、銀子も嫌がって無かった、よな?」
掌を見ながら誰かに尋ねるようにぽつりと鋼介は呟いた。
立ち上がり、固まってしまっている腰を捻りストレッチをする。
ゴキゴキと不健康な音を立て、代わりに腰が軽くなった、ような気がした。
顔を洗って台所に向かうと二人分の食器が流し台の上に水が張られた状態で置かれている。
引き出しからインスタントの味噌汁を二人分取り出すとその内のひとつを漆塗りの黒い椀に入れ、お湯を注ぐ。
白味噌の匂いが鼻をくすぐる。次いで具材の昆布の香りが続いた。
普段は桂香が味噌汁を作ってくれているが、試験期間中は勉強に集中させる為にこうしてインスタントの食材をフルに活用していた。
昼食や夕食は近所の惣菜屋で済ませていた。
冷蔵庫から梅干しの入ったパックを出し居間に朝食を並べていく。
「おはよう」
眠そうに目を擦りながら銀子が挨拶をしてきた。
「おはよう。顔、洗ってきや。朝飯にしよう」
銀子は頷き、ポテポテとした足取りで洗面所に向かった。
鋼介は銀子の分の朝食も並べる。
「「いただきます」」
顔を洗って来るのを待って二人は手を合わせた。
それにしても、いつもと変わらない様子に鋼介は胸を撫で下ろす。
眠そうにうつらうつらしながら白米を食べる姿はモキュモキュと音が聞こえてきそうで、なんとなく小動物っぽい。
あちこちに跳ねた髪を気にする様子もなく白米を食べ進める。
「銀子、寝ぐせがついとる「っ!」
伸びた手に銀子は口に運んでいた白米を箸から落とした。
鋼介の手を見ながら小さく震えている。
「あー」
寸での所で手を止めた鋼介はそのまま手を引っ込める。
「あー、昨日は悪かった。大分酔ってたんや。正直ほとんど覚えとらん。でも銀子にとんでもない事を教えたのだけは覚えとる。すまんかった」
落とした派遣を拾いながら銀子は頭を下げる鋼介を見た。
「…………もういい」
テーブルに残った米粒を皿に擦り付けた銀子がポツリと呟く。
「ついでに、昨日の事は内緒にしてくれんか?バレたら桂香にしばかれる所の話や無いから、頼む」
拝み倒す鋼介をぼーっと見ていた銀子はやや時間を置いて、
「わかった」
とだけ小さく呟き食事を再開した。
いつもと変わらない仏頂面だが、どことなく嬉しそうに見えた鋼介だった。
銀子は空になった食器を流し台に持っていく。
先に食べ終えた鋼介が食器を洗っていた。
「銀子、洗い終わったら一局相手したるわ」
鋼介は蛇口から落ちる水音に負けない声を上げる。
返事は無かったが、まあ、聞こえてるやろと納得して残りの洗い物に取りかかった。
いつもなら、洗っていたら無言で銀子が手伝ってくれるが、今日は台所に来る気配は無い。
昨日、もとい今日の深夜の事を思い出しながら洗った食器を布巾で拭いた。
洗い物を終えた鋼介が居間に戻って来ると、
「銀子……」
テレビを付けずにマグネット将棋盤を広げている弟子の名前を呼んだ。
俯いたまま顔を上げないこの弟子は僅か振り子のように規則的に前後に揺れていた。
いつもなら駒を握る手を股に差し込み、もう一方の手は胸の上にある。
いつも寡黙な少女は、いつもなら考えられない声を出していた。
「あっ、んっ、あっ」
昨日の今日でコツを掴んでしまったのか、股間にある手の動きと声が連動している。
乳首はあまり感じないのか当てているだけで手の動きはほとんど無かった。
テーブルを挟んで鋼介は対面に座る。
やっと存在に気づいたのか、銀子は股にあった手を放し駒を握った。代わりに胸にあった手を股に入れていたが。
「銀子、股に手をやるんはワシと二人きりん時だけな」
「?」
どうして、という風に銀子が首を傾げる。
「お前ん齢でオナニーなんてしとったらワシがお前に手を出したと思われてまう。事実やけどそれは非常にまずい」
「オナニー……」
噛み締めるようにゆっくりと銀子が口を動かす。
「でも」
こんな気持ちいい事を止めさせるのといった様子で言葉を詰まらせた。
「誰もするなとは言わん。でも、他の人にしてるとこ見られたらまずいって話や。せやからオナニーはワシと一緒に居る時だけや」
尚も銀子は不満そうな視線を鋼介に送る。
「しゃあないな。そしたら手ぶらでオナニー出来るオモチャ買うてきたるから、人前でどうしてもオナニーしたくなったらそれ使いぃ」
良く解らないという表情をしながらも銀子は了解とばかりに小さく頷いた。
この師匠はCV.関俊彦じゃないな。