Familiar Phobia~倒錯のすゝめ~ 作:友井架月
ゲーム制作が一旦落ち着いてきたので更新です。
私があの人に出会ったのは、地獄のような奴隷生活から解放され、孤児院での生活に困惑しながらも必死に対応しようとしていたある日のことだった。
カウンセラーと名乗る、くたびれたスーツを着た白髪交じりの冴えない風貌の男性が私を訪ねに部屋まで来たのだ。年齢は還暦近くに見えるが、苦労を積み重ねてきたのだろう顔のシワや彼が纏う重厚な雰囲気から老けて見えるせいで、もしかしたらもっと若いのかもしれない。見知らぬ大人に対面し本能的に身構える私を相手に、彼は腰を落とし視線を合わせ話しかけてきた。
「初めまして、お嬢さん。おじさんは寂しがり屋でね、人とお話するのが大好きなんだ。今日はお嬢さんとお喋りしに来たから、良かったらおじさんの話に付き合ってくれないかな?」
敵意や悪意が全く感じられない、聖人の如き柔和な笑みだった。汚れた欲望で醜悪に歪んでいた父の笑みとは正反対の、純真無垢な子供のような朗らかな笑顔である。そんな顔を見せられたら、誰だって一瞬で彼に心を許してしまうだろう。実際私も、彼の一言で身に纏っていた警戒心をあっという間に剥がされてしまった。ここまで無垢な笑顔を浮かべられる大人の男性がこの世に居るのだろうか。
理由はない。ただなんとなくこの人は信じられる。あまりにも毒気のない表情に圧倒された私は、無言のまま頷いた。私の同意を快く受け取ったのか、彼はまたニッコリと笑い話を続ける。
「ありがとう。それじゃあ、おじさんと話をしようか。まずは何から話せばいいか……そうだ、まだ名前を言ってなかったね。私の名前は……」
それが先生との初めての出会い。私の心を救ってくれた恩人との邂逅である。
◇淫らに堕ちて
「昴くん、はいこれ」
私立
「優馬くん、これって……」
それは彼が大切にしていたキーホルダーだった。先日の体操着紛失事件に紛れて無くしてしまった品と再会し、少年は驚愕で目を見開いた。
「実は、あの後門間先生がこれを見つけてくれてね」
「門間先生が……?」
もちろんそれは真っ赤なウソだ。むしろキーホルダーが紛失した原因は彼女にあるのだが、そんなことを彼に伝える必要はない。真実を暴き門間香織を社会的に殺すことよりも有意義なことは沢山ある。優馬は自分の楽しみのため、優しい嘘で純粋な少年を騙すことを選んだのだ。
「門間先生、ありがとうございます!」
残酷な現実など何も知らないような少年の輝く視線が、教卓に立つ女性教師に降り注ぐ。彼女は教え子の純朴な眼差しを気まずそうに浴びていた。自分の悪事を悪魔の悪戯で無罪放免されて素直に喜べるほど、彼女は根っからの悪人ではない。少年の私物を盗んだことへの罪悪感は当然あるし、その心の裏に隠された欲望への羞恥心も常人並みに持っているのだ。
彼女は自分の行為を恥じている。その過ちを歪曲して伝えられ好意を持たれるなど、丸く収まって良かったと安堵できるはずがない。
「何はともあれ、星見くんの大切なものが見つかって良かったです」
あの不気味な笑みを浮かべた悪魔は一体何を考えているのか。彼女は優馬の思惑が読めずに困惑するしかなかった。昴のキーホルダーは自分が見つけたことにすればいいものを、優馬はなぜ香織の手柄にしようとするのだ。悪魔に施しを受けたようで気持ちが悪い。
きっとこの状況も彼の掌の上なのだろう。そうと知りつつ何もできない自分が歯がゆくもあるものの、心の何処かで受け入れている自分が居た。幼少の頃から身体に染み付いている奴隷根性が抜けきっていないのか、それともどうあがいてもあの悪魔に勝てないことを思い知ってしまったのか。どちらにしても、今の香織に為す術はない。海を漂う動力を失った小舟が如く、ただ流れに身を任せることしかできなかった。
「うんうん。昴くんのキーホルダーも無事に戻ってきたことだし、今回のことは一件落着って感じかな。終わり良ければ全て良し、やっぱり平和が一番だよね」
優馬は心にもないことを言って話を終わろうとしている。やはり彼は香織の件を咎めるようなことはしないようだ。後で脅迫でもするつもりなのだろうか。いや、あの悪魔がそんな単純なことで済ませるはずがない。もっと悪辣な、それでいてその人の欲望を刺激する拒み難い何かを提供してくるはずだ。
そうと薄々感じていても、香織には何もできない。あるいは、自分は彼に期待しているのだろうか。もしかしたら、身を滅ぼすような悪魔の誘惑を望んでいるのかもしれない。
香織は胸の奥に熱い衝動がこみ上げてくるのをひしひしと感じていた。
「……あぁ、来ましたね門間先生」
その日の放課後、香織は優馬に呼び出され教室へと来ていた。彼に弱みを握られている彼女に拒否権などない。嫌な予感を胸に抱きつつ、悪魔の棲む城に足を踏み入れた。
「私に何の用ですか? まさか昨日のことでまた私と……」
「先生が考えていることはなんとなく分かりますけど、僕は別に先生を性欲のはけ口にしたいとか、そんな野蛮な欲求があるわけではないんですよ。僕はただ、あなたの本心が知りたいんです」
「私の、本心……?」
優馬の言葉で、香織は昨日の痴態を思い出す。十年ほどしか生きていないような少年を相手に、自分はなんて卑猥なことをしたのだろうか。思い出すだけでも身悶えしてしまう愚行は、しかし本当に一時の気の迷いなのか。あの邪な行為こそ自分が心の底から望んでいたことではなかろうか。
彼女の内心に沸々と湧き上がる感情。その愚かな衝動を認めても良いものか。己の偽らざる本心に戸惑う香織に、悪魔の誘惑が優しく忍び寄る。
「先生が抱える欲求は、決して悪いものではありません。それは人間の誰もが持っている様々な欲望の、ほんのひとつに過ぎないのですから。だから先生が思い悩むことはありません。先生は自分が思い描くままに行動すれば良いんです」
少年は温かな声音で諭すように語りかけてくる。砂糖の如き甘い誘惑に、香織の脳は侵食されてしまった。彼は催眠術でも操っているのだろうか。彼の言の葉ひとつひとつが身体に染み込んでくるのだ。
この不可思議な感覚には覚えがある。これはそう、自分が崇拝する恩師と対話している感覚だ。
許容しがたいことだが、少年には奇妙な魅力がある。それは人が持ちうるカリスマ性を超越した、人ならざる者のみが放つ独特の気配だ。こんなことを大真面目に話せば正気を疑われるだろう。しかし彼らのような人種に出会った者なら同意してくれるはずだ。この世界には人智から外れた存在がいることを。それらに遭遇すると、ヒトは自分の心を丸裸にされてしまうことを。
「先生には他人に言えない趣味がある。それは確かに世間から見れば忌避するべき性癖なのかもしれません。けれど先生に罪はありません。あなたの行動に間違いはありません。僕はちゃんと先生の想いを理解してますから、本心を留めず口に出してみてください」
「うぅ……」
優馬の瞳が香織を捉える。怪しくも眩しい視線が彼女を射抜く。それだけでもう、香織は一歩たりとも動けなくなってしまう。けれども金縛りにあっているかのような怖気は抱かない。
自分は少年に期待しているのだろうか。窮屈な檻に閉じ込められている自分の精神を救い出してほしかったのだろうか。
心の整理はできずとも、身体は正直なものだった。香織はいつの間にか肉体が火照ってきているのに気づく。こんな状況で……いや、こんな状況だからこそ背徳感で興奮しているのだろう。社会の倫理から外れた自分の性癖に嫌気が差すものの、僅かな理性で抑えつけられるほど彼女の欲求は弱々しいものではない。膨らみ続ける風船はいつか破裂してしまう。今日までよく持ったほうだと観念するしかないのだ。
「さぁ、恐れずに言ってみてください。先生の願いは僕が全て受け止めてあげますから」
「私は……」
そうして門間香織は悪魔の誘惑に導かれるまま、底なしの沼へと沈んでしまう。
それが果たして彼女の未来にどういった意味をもたらすのかは、元凶である優馬でさえも分からないだろう。
彼はあくまでも観測者だ。サイコロを振っても出目を操れるわけではない。何が出るかは運次第。鬼が出るか蛇が出るか。少年は好奇心の傾く方へと、愉悦を噛み締めながら進んでいく。
◇背徳の交わり
「……優馬くん、話って何かな?」
その日の放課後、昴は教室に残るよう優馬に言われていた。優馬のことを信じ切った昴は何も疑うことなく言いつけを守り、他の生徒が帰るまで待っていたのだ。
教室に残っているのは優馬と昴の二人きり。この時間帯に入ってくる者など他にいない。
昴は薄々、優馬が何をやろうとしているのか察しがついていた。放課後の教室に呼び出されるのはこれが初めてではない。それではなぜ質問したかというと、彼が何か企んでいるように感じたからだ。友人の表情の変化は、一年以上付き合っていれば分かるものだ。ただ自分の理解をいつも超えてくる相手なので、問わなければ答えは解らない。素直に聞けば友人は正直に答えてくれるだろう。そう思って昴は呼ばれた理由を訊いたわけだが、彼の親友はやはり予想外の回答を出してきた。
「なんでも昴くんに告白したいというヒトがいてね。今日はその仲人を務めたわけなんだよ」
「告白……?」
少年は一瞬、優馬が発した言葉の意味を理解できなかった。告白という言葉の意味は分かる。だが、そのワードと自分が繋がらなかった。今までの人生で良い意味で告白された経験がなかったのだ。昴は当然困惑する。誰が一体どういう理由で? 動揺から保身のために身構える昴を、優馬は落ち着くようにと言葉を続けた。
「そう、告白だよ。ごめんね、前もって相談せずにいきなり呼び出したりして。誰だって突然告白だなんだと切り出されたら困惑するよね。そこは僕の配慮が足りなかったよ。でも、そこはどうか勘弁してほしい。相手だって本気だからね。告白の熱というのは、時には勢いが大事なものさ。念入りに準備をしすぎて肝心な時に熱が冷めては興ざめというものだ。鉄は熱いうちに打てと言うけど、今回は正にその典型だね。いやぁ、僕としても人助けができて幸いだよ」
昴の理解が追いつく間もなく、優馬は意気揚々と捲したてる。まるで少年が冷静になる隙を与えないようにしているかのようだ。優馬の話の半分も耳に入ってこない昴は、戸惑いつつもどうにか根本的な疑問を口にする。
「でも告白って誰が……?」
「それは昴くんも知ってる人だよ。そうだよね、先生?」
「先生……?」
混乱する昴の前に現れたのは門間香織だった。彼女は気まずそうに教室へ入ってくると、それぞれ対象的な表情を浮かべている二人に視線を巡らせる。優馬は意味深な微笑を浮かべ、昴は困惑を通り越して恐怖すら抱いているようだった。
香織としても非常に居心地が悪い。できることなら、回れ右をしてこの場から逃げ出したいくらいだ。ところが、二人の前に顔を出した以上退くことはできない。香織はなんとか絞り出した一握りの意地だけでそこに立っていた。
「星見くん、これは……」
「門間先生は、昴くんのことが好きなんだよね?」
想いを上手く口に出せない香織に代わり、優馬が肝心なところを口にする。停滞しそうになっていた状況に特大の爆弾を投げ込まれ、他の二人は唖然とするしかない。
「えっ……先生が、僕のことを……?」
優馬の言葉を聞いても、当の本人である昴はピンときていないようだった。少年からしてみれば、自分より一回りは上の大人の女性が自分のことを好きだという事実に理解が及ばないのも仕方のないことだろう。頭の上にクエスチョンマークを浮かべぽかんと口を開けている少年に、優馬は優しく語りかける。
「昴くん、好きというのは恋愛的に好きという意味だからね。門間先生は昴くんのことを、ひとりの男性として好きなんだよ」
「古神くん、なんてことをっ……!?」
「だって本当のことでしょう? ここまできて今更隠し事はできませんよ。ささっ、自分に正直になって言うこと言っちゃってください」
教え子の小学生に背中を押され、香織は昴の前に立つ。少年はまだ情報を把握しきれていないのか、困った顔でこちらを見つめてくる。困っているのは同じなので、そんな表情で見ないでほしい。香織は柄にもなく赤面し俯きそうになるが、それでは駄目なのだ。
彼女はギリギリのところで自分を奮い立たせ、覚悟を決める。中腰になって昴と目線を合わせ、禁断の想い人へと話を始める。
「星見くん……先生実はね、星見くんのことが好きなの。それがいけないことだって私も分かってる。本当は胸の内に秘めておくべき想いなんだけど、どうしても我慢できなくて……」
それは愛の告白と言うよりは懺悔のように見えた。あれだけ躊躇していたのに本人の前で言葉が淀みなく出てきたのは、諦めの境地だからだろうか。これ以上自分の感情を隠すことができない。本音を晒すことへの羞恥心はあるが、いつまで耐えても晴れることのない鬱屈とした気持ちで気が狂ってしまいそうだった。それならいっそのこと、全てを吐いてスッキリしてしまおう。そんな自暴自棄にも似た動機で、香織は無垢な少年に己の恥部を見せたのだった。
「私、先生失格よね。よりにもよって、守るべき教え子のことが好きになっちゃうんだから……」
「先生、それっておかしいことなんですか?」
「えっ……?」
香織は驚愕で言葉が詰まる。嫌われると思って話した昴の表情が、あまりにも澄んでいたからだ。嫌悪の欠片もない純粋な瞳で見つめ返してくる少年の質問に、香織はすぐに反応できなかった。
「僕だって先生のことが好きです。これって両思いってことですよね?」
幸か不幸か、まだ幼い昴は教師が生徒に手を出すことの禁忌を理解してはいなかった。だから香織の告白を素直に受け入れることができたのだ。
「でも私は、星見くんが大切にしていたキーホルダーを……」
「これ、門間先生が見つけてくれたんですよね? 本当にありがとうございます!」
「は、はい……」
心の底から嬉しそうに頭を下げる昴に、実は自分が盗んだんですとは正直に言えず怯んでしまう。なんて情けない教師なのだろう。少年より大きいはずの彼女の背中は、今は彼よりも縮んでいるように見えた。
「うんうん、お似合いのカップルだと思いますよ。いっそのこと、付き合ってみたらどうですか?」
「古神くん、一体何の冗談を……」
「冗談ではありませんよ。言ったでしょう、自分に正直になるようにと。せっかく両思いなんですから、尻込みせずに挑戦してみましょうよ。大丈夫、このことは誰にも言いふらしたりしませんし、何なら僕がお二人のサポートをしてあげます」
背筋が寒くなるほどの全面協力だが、この悪魔は腹の中で何を企んでいるのか。深く考えずに頷いてしまうのはマズイと頭では分かっていても、こうなってしまった以上引き返すことはできない。
「星見くん、私はその……」
「丁度保健室のベッドが空いてますから、ご自由にお使いください。僕は外で見張ってますので、誰にも邪魔されることはありませんよ」
優馬の申し出が決め手だった。気づくと香織は昴の手を引き教室を出ていた。
時は夕暮れ。夕日が差し込む保健室に、二人の人影が映っている。
「星見くん……」
その内のひとり、大きい方の人影である香織は緊張した面持ちで立っていた。小学生を相手になぜ顔を赤らめているのかと思われるだろうが、彼女は一般的な生活から外れた環境で生きてきた人間である。まともな恋などしたことないし、当然このような状況に慣れているわけがない。性的経験だけは豊富だが、それだけで上手くいくほど人間関係は簡単ではない。付き合うと言っても、何からすれば良いのかと慌てふためく香織だった。
「門間先生……」
一方昴は昴で、予想外の状況に困惑していた。先生が自分に好意を抱いていたことは嬉しかったが、彼は別にそれ以上の関係を望んでいたわけではない。元々昴が香織に抱いていた感情は、恋慕に近い尊敬である。教師として大人の女性として憧れていた対象と仲を深められるなんて夢にも思っていなかったので、彼自身も何をすればいいか分からなかったのだ。
こうしてちぐはぐで初々しいカップルは、明確な目的があるわけでもなく見つめ合っていた。ただこうして緩やかに流れる時間が愛おしく、心地よく、いつまでも浸っていたい温かさであった。これまで香織が胸に抱いていたもどかしい衝動が浄化されていくようである。
彼女にとっては正に夢のような時間ではあるのだが、この状況をセッティングしたのがあの優馬なのが正直なところ不本意ではあった。悪魔の掌の上で踊らされているようで納得はいかない。だが本望なのは事実なので拒絶はできなかった。胸の内から湧き出してくる感情に歯止めが効かなくなった香織は、気づくと今まで封じてきた欲求を口に出していた。
「星見くん……キスをしても良いかしら?」
「え、キス……?」
担任教師からキスをねだられ、昴はキョトンと目を丸くした。恋愛経験のない少年に、彼女の心情を察することはまだできなかった。夕暮れの保健室で異性と二人きりという状況の意味すら完全に理解していない彼に、女性をリードしろというのも酷な話だろう。
とは言え彼も幼いながらも立派な男である。尊敬し好意を抱く先生に求められ、嬉しくないわけがない。香織の純粋なお願いに少年は迷うことなく頷いた。
「うん、いい……ですよ。先生とキス、してみたいです」
「ありがとう、星見くん。それじゃあ……んっ」
昴の同意を得ると、香織は腰をかがめて少年と目線を合わせる。熱い吐息を女性経験のない無垢な少年に降りかけ、自分の想いを唇に乗せて重ね合わせる。
「んっ、ちゅう……んんっ、んくっ……星見くん、痛い?」
「んちゅぅ、んんっ……いえ、先生の唇、気持ちいいです」
口づけを交わしていたのは十数秒。たったそれだけの時間で二人の脳は沸騰したかのように熱くなる。これが恋によるものなのかただの性欲なのかは香織にだって判別できなかった。今の彼女は恋に恋する純情な乙女そのものであり、子供を導く教師ではなくなっていたからだ。
「……星見くんのここ、とても硬くなってる」
「あぁ、恥ずかしいです……先生……」
視線を昴の顔から下半身に移すと、少年の股間が膨らんでいるのが見て取れた。香織には昴の欲情が愛おしくてたまらなかった。彼が自分のことをひとりの女として見てくれているのを実感したからである。昂ぶる衝動は留まるところを知らず、天井を突き抜け暴走寸前にまで達しようとしていた。それを彼女は努めて冷静に振る舞おうと努力し、精一杯の自尊心で年長者ぶろうとしている。
実に滑稽だと香織自身も思っていた。こんなこと法的にも社会的にも間違っている。そうと理解しつつも伸びる手を止めようとしないのは、生まれる前から定められた呪いのようなものなのだろうか。
「先生に星見くんのおちんちんを見せて」
「うぅ……」
恥ずかしがるものの抵抗しない少年のズボンを脱がしペニスを露出させる。幼くも雄々しい屹立を眼前に捉え、香織の瞳に熱が籠もる。それは母性を滲ませた母親の眼であり、情欲を孕んだ雌の眼でもあった。
「星見くんのおちんちん可愛くて美味しそう……舐めてもいいかしら?」
「は、はい……よろしくお願いします……」
「それじゃあ……れろっ」
昴の了承を得ると、香織はすぐさま少年ペニスにいやらしく舌を這わせ始める。プニプニとした瑞々しい舌触りが心地よく、鼻孔をくすぐる雄の臭気で頭がくらくらする。ちょっと舐めただけで気持ちが舞い上がって仕方ないのだ。これを自分のアソコに挿入したらどれだけ気持ちが良いことか。その瞬間を想像し、彼女の舌の動きが段々と活発になっていく。その様子は餌に飛びつく飢えた肉食獣のようであった。
「んんっ、れろ、れらっ……ちゅっ、んちゅう、ちゅぷっ……んくっ、星見くん、気持ちいい?」
「はいっ、とってもっ……おちんちんが蕩けそうですっ……!」
「それじゃあ、もっと気持ちイイことしてあげる……あむっ」
少年の反応に気を良くした香織は、小ぶりな男根を根元まで咥え口内で弄ぶ。唾液をたっぷりと口に含み、グチュグチュと淫らな水音を立てながら舌先で転がす。性経験の少ない昴には刺激的過ぎる体験だろう。子供相手に大人げない本気のフェラチオで、少年の脳内は瞬く間に夢のような快楽で埋め尽くされていく。
「じゅぷっ、じゅるる、んぐじゅっ……くちゅ、んちゅう、ずちゅっ、じゅじゅじゅっ……!」
「んあっ、すごいっ……すごく気持ちいいです、先生っ……ふあぁっ……!」
舌を生き物のように巧みに動かし、男根を口内でぐるぐるとかき回す。それと呼応するように昴の思考もぐちゃぐちゃに乱され、まるで頭と股間が一体化したかのようだ。快感の荒波に揉まれたペニスが唾液と一緒にドロドロに溶かされてしまう。男性器をただの排泄器官としてではなく生殖器と認識し始めた少年に、新たな感覚を植え付ける女教師がそこには居た。
男女の交わりとは、前戯とは、口淫とは、これ程までに心を惹かれるものなのか。性に目覚めた少年に、香織のフェラチオは過激に過ぎたのかもしれない。価値観を揺るがすお口の奉仕により、あっという間に射精まで追い込まれてしまう。
「んじゅっ、じゅじゅうぅっ、んちゅうぅっ……んぐっ、んんんっ、んじゅぶるうぅっ……!」
「あぁっ、ダメっ先生っ……出ちゃう、もう出ちゃうよぉっ……!」
悲鳴のような喘ぎ声とともに、陰茎の先端から白濁液が勢いよく迸る。初々しい性のエネルギーを口内に浴び、香織は恍惚とした表情を浮かべていた。純真な少年に大人の快楽を教えているという背徳感と、己の欲求を発散しているという愉悦で多幸感を得ていたのだ。舌の上で踊る精液の感触を心ゆくまで楽しみ、許されざる禁忌の快感に酔っていた。尿道に残るザーメンまで下品な音を鳴らして吸い上げ、満足そうに嚥下する。どんな極上の酒でも彼女をこのように酔わせることはできないだろう。濃厚な精液こそ香織にとっての魔法の酒だった。
「あぅっ、先生ぇっ……そんなに吸ったらっ……あぁっ……!」
「んんっ、んくっ、んじゅるっ、んふうぅぅ……星見くんのおちんちん、とても美味しかったわ。星見くんは良かったかしら?」
「はいっ、すごく……腰が抜けちゃいそうで……」
「良いのよ、抜かしても。私が支えるから」
魅惑の口淫で骨抜きになる昴の腰を支えながら、香織は物足りなさそうにお掃除フェラを続ける。出すものを出してスッキリしたかに見えた男根だが、射精直後でも容赦のないネットリとまとわりつく濃厚な攻めで元気を取り戻したようだ。若々しい陰茎はすぐにピンと直立し、小さな亀頭を真っ赤にしていた。
「あらあら、また大きくなってきたわね。星見くん、まだできる?」
「……はい、先生ともっとしたいです」
普段の理知的な門間教諭とは違う妖艶な姿に、昴は興奮を隠せなかった。彼だって幼いとはいえ立派な男子に他ならない。肉感的な女性を前にして欲望を抑えられるわけがなかったのだ。
「それじゃあ、星見くんは横になって。全部私がするから」
再び勃起した昴をベッドに寝かせ、香織はその上に跨る。そして自分の濡れそぼった蜜壺にゆっくりと挿入した。
「ああぁっ、先生っ……!」
挿入した瞬間、少年の性器に今まで感じたことのないような快感が走り抜ける。香織のフェラチオも絶品だったが、締まりの良い肉壷もこれまた甲乙つけがたい名器である。女性経験のなかった初な少年には勿体無いくらいの快楽であろう。女性器の魅力に取り憑かれた昴は、訳も分からぬまま本能的な嬌声を上げていた。
「んんっ……どう、星見くん。先生のおまんこは気持ちいい?」
「んあぁっ……はいっ、先生っ……すごく、気持ちよくて……あぁっ……!」
「ふふっ、気持ちよさそうで先生嬉しいわ。星見くんがイケるように頑張るから、存分に楽しんでね」
そう言って、香織は慣れた仕草で腰を上下に動かし始める。不本意ながらも幼少期から鍛えられてきた動作なだけあって、その動きは熟練の娼婦が如き巧みな腰使いであった。どんな男も虜にする魔性の淫穴に囚われたら、経験の浅い少年などひとたまりもないだろう。あっという間に至上の快楽に呑まれた少年は、理性を溶かして肉欲に流されるだけの獣になっていた。
「んあっ、あくっ……先生、すごいよぉっ……おちんちんがヌメヌメして、温かくて……溶けてなくなっちゃいそうだよぉっ……!」
「いいわよ、星見くんっ……そのまま感情も肉体もドロドロに溶け合いましょうっ……!」
香織は眼下の少年が本能のままに自分を求めてくれることがただただ嬉しかった。道具のように扱われてきた過去とは違う人の温もりを感じる交わりに、かつてない高揚感を抱いていたのだ。今までの苦悩も苦痛も、全てはこの時のためだった。そう思えるくらいに彼女は幸福の只中に居た。
「あぁっ、先生っ……いいっ、すごいっ……んあぁっ、ああぁっ……!」
一方、昴は昴で想像外の幸運に困惑していた。好意を寄せる教師とこのような行為に至れるとは思いもしていなかったからだ。
香織と結ばれるのは確かに嬉しい。彼女との性交は望外の極みであるはずだ。
だが、まだ十年しか生きていない少年が手に入れるには重すぎるほどの幸運でもあった。
「ふふっ、星見くんのおちんちんも気持ちいいわ。んんっ……一緒に気持ちよくなりましょうっ」
「はいっ、先生っ……あうっ、んあぁっ……おまんこすごいですぅっ……!」
これから成長していくであろう小ぶりの陰茎を、大人の膣圧で容赦なく締め付ける。腰を動かす度に昴は可愛く喘ぎ香織を楽しませた。彼の蕩けた表情だけでイッてしまいそうだった。少年の自由を奪い主導権を握っている。禁忌に満ち溢れた行為に、自然と腰捌きにも気合が入ってくる。香織は妖艶な舞踊をするように腰をくねらせ、少年を快感の先へと導いていく。
「あっ、あっあっ、あぁっ……先生っ、いいっ、おちんちんがぁ……壊れちゃいますぅっ……!」
「大丈夫よ、星見くん。貴方のおちんちんは立派だから、先生のおまんこもすぐに慣れるわ」
一度射精したとはいえ、初めての女性器への挿入で三分と保てば十分頑張った方である。
少年の成長を確認し満足した香織は、本気の腰使いで昴を落としにかかる。鬼のようなピストンで竿を扱き、執拗に精液をねだってくるのだ。その様は獲物にとどめを刺そうとする肉食獣のそれだ。絶頂を前にした彼女には、誰であろうと逃げられない。
血が沸騰しそうなほど熱く交わる二人の温度は更に上昇し、昴の快楽は次第に臨界点へ達しようとしていた。
「あぁっ、んんっ、ふぅんっ……先生っ、僕もうっ……!」
「星見くん、イキそうなのね。いいわ、先生の膣内に射精してっ……」
昴の限界を察した香織は、腰をくねらせ膣を締め付け射精を促す。唯でさえ名器な上に熟練の技術と怒涛のラストスパートが合わさり、少年のペニスはオーバーヒート寸前だろう。年端もいかない子供相手に容赦がないというものだが、これもまた香織なりの愛情表現なのかもしれない。
「んあぁっ、もうダメだっ……出るぅっ……!!」
香織の熱心な奉仕もあり、すぐさま射精の時はきた。昴は少しでも子宮の近くで射精しようと本能的に腰を突き出し、香織は膣圧でペニスをがっちり固定し中出しに備える。
そして歓喜の瞬間、淫乱教師の膣内に少年の濃厚なザーメンが発射された。
「あぁっ、きたあぁっ……星見くんのせーえきぃっ……いいっ、気持ちいいっ……!」
膣内中にドロドロの白濁液を浴び、香織は絶頂した。これまでに何度となくセックスはしてきたが、これほど歓喜に打ち震える絶頂は初めてだった。意中の少年と至れることがこれだけの幸福感を生むのだ。今この瞬間が、彼女の人生にとって間違いなく最大の絶頂期であった。
「んっ、んあぁっ、私もイクうぅっ……あぁ、あぁんっ……!」
絶頂、歓喜、痙攣、そして脱力。今まで味わったことのない充実したアクメを堪能した香織は、身体から力が抜けて昴の身体の上へと覆いかぶさった。
「ふぅ、んんっ、あふぅ……」
「あう、先生……んくっ……」
全身から体液を垂れ流す二人は、興奮冷めやらぬままに熱い息を吐きだす。行為が終わった後の抱擁もセックスの醍醐味だが、ここまで満足したのは久しぶりだと香織は思った。
これが本当の男女の交わりなのだろう。二十数年間生きてきてようやく確かな幸福感を得た彼女は、お礼を兼ねて真下の少年に優しくキスをした。
「んちゅっ、んんっ……んはぁ……先生、とっても気持ちよかったです……」
「星見くん、私もよ……」
二人は繋がったまま、しばらく抱き合って事後の余韻に浸っていた。数分が数秒に感じられる幸福の中で、一秒たりとも無駄にはすまいと互いの体温を感じあっている。この一時間にも満たない時間が人生の答えだとでも言うように、香織と昴は刹那の幸せを大切にしていたのであった。
それがたとえ倫理的に禁じられた関係であろうと、彼らにとっては問題ではない。
これから待ち受ける数々の試練に比べれば、この程度は緩やかな坂道も同然だ。
その予兆を感じ取ってか、保健室の前で意味深な微笑を浮かべる小さな悪魔は呟いた。
「……まだまだ面白くなりそうだね」
悪魔が求める享楽の先に待っているのは、悲劇か喜劇か地獄か楽園か。
その狭間で微笑む少年は、ベッドで絡み合う男女を見届けて保健室を去っていった。
◇もうひとりの悪魔
「あんっ、あぁんっ……んんっ、んくっ、んあぁっ……!」
「んっ、んぅんっ……んちゅっ、んんぅっ……んあっ、あうぅ……」
「あふっ、ひゃぁっ……んっんっ、ふあぁっ……あふあぁっ……!」
キングサイズのベッドの上で、複数の幼い少女の嬌声が響く。色を知るには早すぎる年齢の少女たちが、まるで手慣れた娼婦のように喘いでいるのだ。それを天国と見るか地獄と見るかは人それぞれだが、そこに常軌を逸した光景が広がっているのは確かだった。
「んちゅっ、んちゅうぅ、んんっ……れろ、れちゅる、んはぁ……ご主人様ぁ……」
十歳かそこらの胸がわずかに膨らんだ華奢な体躯の少女が、大人顔負けの熱烈なキスをしていた。舌と舌を絡めあい、供給される相手の唾液を美味しそうに啜っている。のぼせたように火照った顔は、とても正常な状態には見えなかった。しかし彼女にとっては慣れた光景なのか、楽しそうに口づけを交わしている。
「んっ、んあっ、ひゃうんっ……お股こしこし良いっ……んちゅる、ちゅうぅ、んんぅっ……!」
年齢が十歳にも満たないようなやせ細った少女が、嬉々として秘部への愛撫を受けていた。幼い女陰からは透明な雫が垂れており、彼女が快楽を得ているのが分かる。快感のあまり少女は中腰のままもたれかかり、お返しとばかりに相手の乳首を飴玉でも転がすように舐めている。彼女にとっては当たり前の行為のようだが、その自然な動きがこの場の異常さを際立たせていた。
「あぁっ、んあぁっ、あぁんっ……! んぐっ、ひっぐぅ、おっき、んああぁっ……!!」
三人の中で一際大きな嬌声を上げているのは、最年少とみられる七歳くらいの少女であった。なぜ年端もいかない幼女が悲鳴にも似た声を上げているのかは、彼女の状態を見ればすぐ分かる。少女の小さな膣口が限界以上に広げられ、赤黒く屹立したペニスが突き立てられているからである。あまりにも惨たらしい状況ながら、しかし少女は泣き叫ばない。この狂った情事を楽しんでいるようにすら見えるのが、より一層の狂気を助長していた。
何もかもが異常なこの場の中心にいるのは、でっぷりと醜く太った喜寿過ぎの男だった。性欲が枯れていてもおかしくない老人のはずなのに、その男はそこらの若者よりも性豪で獣じみた肉欲を少女たちにぶつけていた。
正に檻に入れられた野獣と子兎のようであった。抵抗できない子供たちを、欲望のままに喰らい辱めているのだ。人間社会において人権を無視した、それも子供を玩具のように扱う所業は到底許されるものではないだろう。
間違いなく悪辣な行為を、だが男はやって当然とばかりに楽しんでいた。その醜悪に歪んだ表情からは、自分なら許されるという確信が見て取れた。なんとも傲慢な人間ではあるが、それはただの屈折した自尊心からくるものでは決してない。
「おおっ、いいぞ……射精しそうだ、膣内に射精してやるからな」
男はそう言うと、邪悪な笑みをたたえながら抱えた少女の腰にぐっと力を入れた。唯でさえ男根が半分しか入っていない幼膣の奥の奥まで魔羅をねじ込み、初潮の来ていない未熟な子宮を汚してやろうというのだ。弱者をいたぶることに優越感を抱いているのか、男はペニスを膣奥に叩きつけるように少女を動かしながら射精した。
「あぐっ、んんっ、んあぁんっ……!」
男根を串刺しにされた少女は、為す術なく射精を受け入れる。狭い膣道はあっという間に白濁で染まり、結合部からは溢れた精液が飛び散っていた。
「ふーっ、気持ちよかったぞ」
幼女の膣内に精子を吐き出し、男は満足そうに息を吐いた。許されざる悪行に一欠片の罪悪感も抱いていないのだろう。むしろ、その表情からは自分の行いに対する誇りのようなものまで窺えるのだ。それだけで、この男がどのような性格なのかが察することができる。
「……さて、それでは相手を変えてもう一回戦……と」
少女の膣から射精直後でも萎えていない剛直を引き抜き、横で待機している別の少女の肩に手をかけたその時、枕元に置いていた携帯電話が高らかに鳴る。
着信だ。せっかくの情事に水を差されて苛立つ男だが、無視するわけにもいかない。男は嘆息しながら携帯を手に取ると、軽く舌打ちをして電話に出た。
「……なんだ、お前か」
『もしもし、お忙しいところ申し訳ございません。……もしかして、お取り込み中でしたか?』
「あぁ、ちょうど奴隷たちで遊んでいた最中だったわい」
『それはそれは、津雲様の大切な時間を邪魔してしまい痛恨の極みでございます。重ね重ね、申し訳ございません』
電話の相手は、心から申し訳無さそうな声音で謝罪する。その言葉は建前ではなく本心であろうことは理解しているし、もしかしたら電話越しに頭を下げているかもしれない。
誠実だがどこか胡散臭さを滲ませる電話の声に対し、津雲は煩わしさを隠さない声音で返答する。
「口だけの謝罪などいらん。それで、お前はワシの邪魔をするためだけに電話してきたのか?」
『いえいえ、そんなことは滅相もございません。私はひとつご確認のために電話した次第であります』
電話の主は、平坦な口調で次の言葉を口にする。
『それで具合の方はどうですか? 子供たちはお気に召したでしょうか?』
悪意の感じられない、真心すら感じ取れる声だった。それを津雲は薄気味悪さを抱きつつ答える。
「悪くはない、まずまずだな」
『それはそれは、ご満足いただけたようで何よりです。他に何かご注文等はございますでしょうか?』
「ない。あればこちらから電話する。もう切るぞ」
『はい、分かりました。ご要望があればいつでも伺いますので。津雲様の益々のご活躍を心より願っております』
最後の挨拶から一拍置いた後、電話は切れた。終始不気味なまでに腰の低い奴だったと、津雲は寒気すら抱いていた。
「ふん、相変わらず気味の悪い男だ」
奴は麻薬のように危険な男だと津雲は思っていた。一度でも手を出せば、奴が提供してくる快楽に溺れてしまい手を切れなくなってしまう。かといって、野放しにしておくのには惜しい人材なのは確かである。
信頼はできないが信用はできる。だからこそ、自分の目の届くところで最大限働いてもらうのが一番効率がいい。その結果己の欲望を満たせるのであれば、相手が鬼だろうと悪魔だろうと利用するまでだ。
「まぁ今はいいか。ヤツのことなど」
いざとなれば、自分の権力でどうにでもなる。そう結論し、津雲
『はい、分かりました。ご要望があればいつでも伺いますので。津雲様の益々のご活躍を心より願っております』
そう言って、彼は電話越しに深々と頭を下げながら通話を切った。その表情は穏やかであり、争いごとなどできなさそうな人の良さが張り付いていた。
人畜無害そうな還暦くらいの男。その男を見た十中八九の人間がそういう印象を受けるだろう。
くたびれたスーツを着た白髪交じりの冴えない風貌からは、長年の苦労と哀愁が読み取れる。人を惹きつける柔和な表情には敵意が感じられず、聖人のような雰囲気すら醸し出していた。
そんな見るからに善人そうな男がいる部屋のドアがノックされ、女性の声が外から聞こえた。
その声に反応し、男が「入っていいですよ」と声を掛けると、ひとりの女性が部屋に入ってきた。
「先生、申し訳ありません。……その、今日も相談に参りました」
女性が心苦しそうに言うと、男は「構いませんよ」と笑顔を見せた。
「古神さん……また、息子さんのことでご相談ですか?」
「はい……優馬のことで、お話が」
「分かりました。まずはお茶でも飲んで一息ついてください」
男は微笑む。聖者のように悪魔のように。
「ぜひお話を聞かせてください。必ずや貴方のお力になってみせますよ」
上辺をいくら飾ろうと、本心までは他人には預かり知らぬことである。
しかし男が発したその言葉は、間違いなく彼の本心であった。
人と人とが縁を結び、誰かが誰かと繋がっている。
自分の知らぬところで結ばれた縁は、もはや宿命とさえ言えるだろう。
掌の上で踊る人間たちを操るのは、人か悪魔かそれとも神か。
古神優馬が投げた小石は、どのような波紋を起こすのか。
彼の周囲で、あるいは彼の知らない場所で、それぞれの思惑が複雑に絡み合い動き出す。
平穏の少し先、暗闇より暗い闇の奥へと、少年は一歩踏み出した。
第二章 悪魔の掌 完
次章 第三章 籠の鳥
今回で第二章は終わりです。
当初の予定ではもう一話あって小学校組の乱交シーンとか書こうと思っていたんですが省きました。代わりに番外編で書くかもです。