Familiar Phobia~倒錯のすゝめ~ 作:友井架月
天から与えられた一本の救いの糸は、私にはもったいないほどの輝きを放っていた。
これを頼りに登っていけば、救いようのない私でもまともな人間になれるかもしれない。
そう思い至り、悩みながらも
これで私は本当に救われるのだろうか。途中で糸が切れないだろうか。
拭いきれない疑問を抱きつつそれでも私は登っていく。それ以外に選択肢などないのだから。
あぁ、ただ私はひとつ失念していた。この糸を登った先を、疑ってすらいなかったのだ。
遥か見上げる先には天国がある。そこで私は救われる。地獄よりも下があるはずない。
なんて甘い考えだろうか。辿り着いた先が必ずしも現状よりマシだとは限らないのに。
私は天に向かって堕ちている。進んだ先も、振り返った後方も、救いなんてありはしない。
あぁ、もし私に翼があったなら、ここよりも幸福な場所に飛んでいけるのだろうか。
救いの糸に
◇二人の変化
環境が変われば生活も変わる。例えば
環境が新しくなっても変わらないものもある。例えば一真と友人たちとの関係は変わっていない。同じ大学に進学した彼らは、今日も今日とて馬鹿で平和な日常を謳歌していた。
「モテる男は常に身だしなみに気を使っているものだ。誰だって道端に落ちている汚いゴミを拾いたいとは思わないだろう? 大事なのは清潔感と、話しかけやすい雰囲気だ。道端ですれ違った時、あの人イケてない? 話しかけられたいって思われるように外見を整えるのがデキる男のすることさ」
そう持論を熱く語るのは、一真の友人の
「服装はもちろん、口臭や体臭にも気を使う。いつ突然そういうコトが起こっても良いようにな。爪はちゃんと切っておけよ。女の子は些細なところもちゃんと見ているからな」
「はいはい、そうですか」
甲太の横で聞き流している一真は、青空でも見上げながら適当に相槌を打つ。こいつの話に意識を割くくらいなら、空でも眺めていたほうが何億倍もマシだ。不毛な現実を見なくて済むからな。
そうやって一真が甲太の熱弁を話半分、いや右から左に流しているのでほぼ聞いてない状態でも、彼は構わず持論を披露している。こいつはマネキンとでも楽しく会話しそうだな。
「だから君たちも俺みたいに身なりを整えたほうが良いと思いますよ。特に一真、そのモテないオタク感丸出しの服装はやめなさい」
「うるせーこの金髪野郎。まずは彼女のひとりでも出来てから言いやがれ」
「いきなりその言い方酷くない!?」
うるさい。お前に気を使ってせっかく話をスルーしてたというのに、いきなりケンカを売ってきたのはそっちだろうが。
「彼女いない歴=年齢の男がいくら熱弁したところで、怪しい自己啓発本と大差ねーよ。もう少し説得力を持たせてから言いやがれ」
「うぐぐ……ぐうの音も出ない」
時折うるさい甲太だが、彼女の話を持ち出せば大人しくなるので簡単だ。しかしこれは諸刃の剣。一真も彼女いない歴=年齢であることには変わりない。甲太を黙らせるために出したナイフが、自分にもグサグサ刺さるので結局痛み分けなのだ。本当、不毛な争いで嫌になる。
「やめやめ。非モテ同士が傷つけあっても悲しくなるだけだ」
「そっ、そうだな。俺たちは非モテ童貞同盟だもんな!!」
「あ、あぁ……そうだな」
言えない。友人たちの知らぬ間に、自分が弟や弟の友達らと背徳的な関係を築いてることなんて。
一真が友人にも明かせない秘密を抱えているとも知らずに、甲太は話の矛先をもうひとりの友人に向ける。
「俺たち非モテと違って敬二は良いよな、女にモテてさ」
悲しき童貞男に攻撃を向けられたのは、相変わらず会話に入ってこないクールガイ、
「俺もお前たちと変わらない。彼女いないしな」
「そっ・れっ・はっ! モテないんじゃなくて作ろうとしないだけだろうが!! 俺は知ってるんだぞ! 裏で何人もの女性に告白されたことがあるのを! それを全部断ったのをな!?」
敬二の反論に、甲太は怒号する。悲しき非モテ童貞男の心からの叫びを、隣で頷く一真は全面的に同意する。甲太が叫ばなければ、代わりに自分が叫んでいるところだった。
そうなのだ。この彫りが深く昭和の俳優みたいな顔立ちの男は、クールな性格も相まってそれなりにモテるのだ。中学高校の時も学年に一人か二人は好意を寄せる女子がいる、くらいには人気があった。しかし本人が硬派すぎるので、好意があっても告白まで行く勇気のある女子は少ない。そして数少ない勇気のある健気な女子の告白も、この男はことごとく断ってきたのである。
彼女がいない一真からすれば、お前ふざけんなという気分なのだ。
「同じ彼女いない男でも、俺たちと敬二は天と地ほどの差があるの! なんで誰とも付き合わないんだよ!! ふざけんなよこのヤロー!?」
「なんで付き合わないかって、彼女に興味ないからだ」
「敬二、お前世界中の非モテ男を敵に回したぞ、たぶん」
流石に一真もツッコまざるを得ない。今日も世界は不平等に出来ているのである。終わり。
こうして今日も今日とて何の益体もない会話で一日は消費されていく。徐々に日常は変化していくが、こうやって友人たちとバカなことで笑いあえる日々ならそう悪くないだろう。
一真はなんだかんだ平凡な大学生活を楽しんでいた。友人たちと一緒にいれば、最低でも退屈はしない。その上でハッピーで刺激的なことでもあれば申し分なしだ。
そこでふと、先日のことが脳裏をよぎる。自分のような平民では絶対に手が届かない、はるか上空の存在、高嶺の花。市内有数のお嬢様、
彼女のアブノーマルな秘密を知り、親近感が湧く自分が居た。先輩には人に言えない趣味があろうと、それで対等になったわけではないはずなのに。これも自分勝手な思い込みなのだろうか。
本心と理性の間で揺れ動く一真。まだ自制心が残っているのか、あと一歩のところで踏み止まり悶々としている最中、彼の心境を煽るかのように状況は進んでいく。
「あっ、白雪先輩じゃないっすか」
野郎三人の前方に、件の白雪が現れた。神は悩んでいる暇すら与えてくれないのか、一真に強制的な選択をさせたいようだ。
「あ、皆さんお早う御座います。今日もお元気そうですね」
「いっ、いえいえ、白雪先輩こそ」
突然のイベントに一真は動揺する。同じ大学に通っているのだ。遭遇する機会など珍しくもないだろうに。この前の件もあってか、焦りを隠せず会話ができそうにない。
躊躇でその先の言葉が見つからない一真を見て、横の甲太がニヤけながら話を切り出す。
「なんだ一真。先輩を前に恥ずかしがってんのか、根性なしめ。白雪先輩、お暇でしたら俺達と一緒にお茶でもどうですか?」
「あっ、お茶、ですか……」
そこで一真は白雪の異変に気づく。この表情はアレだ。以前彼女の痴態をうっかり目撃してしまった時の顔に似ている。羞恥と動揺と困惑を混ぜたような、内心パニックになってしまった状態だろう。そしてこの焦りを帯びた表情は、ただ偶然知人と出くわしたくらいで見せるものではない。
つまり今の彼女に余裕はない。それは時間的理由か、精神的理由か、それとも……。
「あっ、もしかして都合が悪いですか? この後予定が入ってる、とか」
「あっ、はい、そうですね。この後、ちょっと用事が……」
彼女の反応は歯切れが悪い。都合が悪くて申し訳無さそうにしているというよりは、何かを隠したくて言葉を濁しているといった感じだ。
甲太や敬二には白雪の変化が分からない。傍目から見れば渋々断っているようにしか見えないからだ。
一真には理解できる。彼女の秘密を垣間見た、自分なら。
「それじゃあ仕方ないですね。またお時間合えばご一緒しましょう」
「……そうですね。またの機会に」
友人に悟られぬよう、一真は自然な笑顔で対応する。白雪も一真の意図が伝わったのか、微笑を浮かべつつ残念そうに会釈した。これなら、どこからどう見ても社交辞令の一幕だろう。甲太と敬二も、不自然を感じずに白雪へ別れの挨拶をする。
それは取るに足らない、何気ない日常の一コマであった。
最低でも、一真と白雪を除く二人の友人にとっては。
「白雪先輩っ……!」
その後友人たちと別れた一真は、白雪の後を追った。彼女が向かう先に見当はついていなかったが、なんとなく追いつけそうな気がしたのだ。
実際、彼は繁華街から一本外れた路地裏に向かおうとしていた白雪を偶然発見できた。彼女の足取りに意思はなく、フラフラと当て所なく歩いているように見えた。
無事に追いついた一真は白雪の背中に話しかける。背中越しにも、彼女の様子がおかしいことが分かった。
「白雪先輩……?」
再び彼女の名を呼ぶ。そこでようやく一真の存在を把握したのか、白雪が後方に振り返る。
「あれ、一真さん……?」
白雪は心底不思議そうに一真を見る。彼がなぜそこにいるのか理解できないという顔だ。
「なぜここに……?」
それは自分のセリフだ。一真は問う。内心に湧いた疑念を晴らすために、そして彼女の不満を解消するために。
「白雪先輩、今日はどんなプレイをしているんですか?」
「えっ……」
一真の問いに、白雪はハッと驚きの表情を見せる。しかしその顔に以前の公園の時のような気まずさは感じられなかった。
それはある種の喜びだ。自分の異変を見抜いてくれたことへの、感謝と感動の念。それを一真も理解する。だからこの後、念を押す言葉はひとつしかない。
「良ければ俺も手伝いますから、教えてくれませんか?」
一真は気づいていた。白雪の太ももに一筋の雫が垂れているのを。それは決して汗ではない。ならば雫の正体は何か。断定はできないが、それが異変の原因なのだと断言はできる。
彼の確信を裏付けるように、白雪は歪んだ笑みを浮かべながら言う。
「……やっぱり、バレちゃいましたか?」
白雪はおもむろに、穿いていたスカートを捲ってみせた。
「なっ……!?」
スカートの下、太ももの部分にピンク色の箱が張り付いている。
それはローターのスイッチだった。そしてローターの線が伸びる先にはバイブレーターのカプセルがある。最初は性器に挿入しているのかと思ったがそうではなかった。カプセルは性器の後方、お尻の穴に入っているようであった。
「申し訳ないんですが、少しお時間を取らせて頂いてもよろしいですか?」
白雪は尻穴にローターを挿れながら、お嬢様らしい優雅で丁寧な口調でそう言った。
◇劣情か愛情か
ラブホテルの一室に、若い男女が居心地悪そうにベッドに座っていた。
そのうちの一人、一真はどう話しかけようか迷った末、隣で気まずそうに縮こまっている白雪に声をかける。
「……どうしてお尻にローターを挿れて大学に行こうと思ったんですか?」
聞かずにはいられない反射的な疑問だった。だが赤面する白雪を見るに、聞かないほうが良かったのかもしれない。
一真が配慮に欠けた質問に後悔している中、黙っていた白雪がおずおずと答えを口にする。
「あの、その……慣れるとお尻も気持ちいいって本で読んで、気になったものでつい……」
羞恥心で死んでしまいそうなほど、白雪の顔は真っ赤だった。好奇心に突き動かされたのなら仕方ない。一真がとやかく言うことでもない。今、現状聞くべきことは……。
「白雪先輩、良ければ俺が先輩のプレイをお手伝いしましょうか?」
「えっ……?」
一真の申し出に、白雪は素っ頓狂な声を上げた。ドン引きされると思っていたのだろう。一真の予想外の反応に、彼女は驚愕で言葉を失っていた。
一真自身も、自分からこんな積極的な言葉が出るとは思っていなかった。ある意味常軌を逸した余計なお世話である。通常ならば、いくら彼でもこんな恥知らずなお節介を焼きはしない。
彼を暴走させた理由のひとつは、彼女の境遇を知ってしまったことにある。高嶺の花だと思っていた絶世の美女が他人には言えない性癖を抱えている。届かない存在だとばかり思っていた相手に自分との共通点ができたのだ。つい男としての本能が暴走しても仕方ないだろう。
そしてもう一つの理由が、弟の優馬の後押しだ。彼が兄を執拗に焚き付けたおかげで、一真の心に火が点いた。白雪と親密な関係になりたいという、彼の切実な衝動に原動力を得たのだ。
「お尻の開発はひとりでは難しいですから、誰かに手伝ってもらったほうが効率的ですよ。俺なら先輩の事情を知ってますから気兼ねないですし、このことはもちろん誰にも言いません」
「それは……」
このことを秘密にする。それは白雪にとって一番重要なことだ。一真の口が堅いかどうかは、先程の甲太たちの反応から大体察することができる。彼は気の知れた友人たちに先輩の秘密を喋ってはいない。喋っていたら、一真だけ気まずそうにはしていないだろう。
彼は信用できる。信用できないなら、そもそも自分の身の上話を明かしてはいない。そして話した以上は、相手のことを受け入れなければ信頼関係は築けない。
だから白雪は、藁にもすがる思いで一真に頭を下げた。
「……分かりました。汚れた私の欲求に付き合っていただくのは申し訳ないんですが、どうかよろしくお願いします」
「いえ、こちらこそ余計なお節介を……」
二人が互いに頭を下げるおかしな光景が広がる中、こうして白雪の秘密のアナル開発が始まった。
「……あの、本当に良いんですか?」
「あ、はい。構いません……覚悟はできていますから」
ラブホテルの一室。備え付けのユニットバスに若い男女が入っている。
男女の男の方、一真は顔に困惑を浮かべながらある物を手に取っていた。
浣腸器だ。アダルトビデオやエロ漫画でしか見たことのない器具を持ち、所有者である白雪に視線を向ける。
白雪は湯船の隣りに設置されている便器に跨り、一真に背を向けていた。これからする行為のために下半身だけ露出しており、まるで彼女のお尻と会話している気分だ。
「それにしても、よくこれだけの物を集められましたね」
彼女が持っていたカバンには、様々な性玩具が詰まっていた。さっき見たローターを筆頭に、バイブ、アナルパール、浣腸器、コンドーム、ローション、エトセトラ。須納家という厳格な家に住みながら、よくもまぁこれだけ用意したものだと感心する。
「こういうのはネット通販でこっそり……自室に隠しておけば、流石に家族はあら捜しまではしませんから」
「家族に隠れてこういうことするのは大変でしょうね。男だからその気持ちはよく分かります」
そう言いながら、一真は浣腸器に浣腸液を注入する。これから白雪に浣腸し、腸内を洗浄するのだ。
「お家でも試しにやってみたのですが、ここでも念のため……すみません、こんな汚いことを手伝わせてしまって……」
「これくらい平気ですよ。こちらこそスミマセン。先輩の恥ずかしいところを見てしまって」
「お願いしたのは私の方なので……私に構わず浣腸をなさってください」
お嬢様の頼みだからと自分に言い訳し、一真は浣腸器の先を白雪のお尻の穴に挿入する。まさか女性に浣腸をする機会に巡り会おうとは、人生何が起きるか分からないものである。万感の思いを彼女の肛門に込めて、一真は浣腸液を注入した。
「あぁっ、んぐっ……んんっ、んあぁっ……!!」
腸内に浣腸液が侵入し、白雪は不快感で悲鳴を上げた。アナル初心者の彼女にしてみれば、浣腸などまだまだ慣れない代物だろう。そもそもお尻の穴は排泄するための穴であって、何かを挿入するための穴ではない。初めから嬉々としてアナルセックスをするような、どこぞの男子小学生の方がおかしいのだ。
「白雪先輩、大丈夫ですか……? きつそうなら止めましょうか?」
「いえっ、大丈夫ですっ……! この程度なら耐えられますので、もう一本お願いします」
「分かりました。無理そうなら遠慮せず言ってくださいね」
彼女は『辛くない』でも『苦しくない』でもなく『耐えられる』と言った。その言葉の裏に隠れた白雪の背景を想像しつつ、一真は浣腸液をもう一本追加した。
「あくっ、んんっ、はあぁっ……んぐっ、うぅっ、はうぅっ……!?」
浣腸器二本分の浣腸液を平らげ、白雪は苦悶の表情を浮かべていた。浣腸初心者にこの量は狂気の沙汰だ。苦痛を感じるのも無理はない。
「白雪先輩、苦しそうですけど……やりすぎましたかね?」
「いえ、これくらいならまだ……それよりも、出そうなので外で待っててもらえますか?」
「……あっ、はいっ! 分かりましたっ!」
白雪の言わんとしていることを察し、一真は慌てて退避する。ドア越しに音でも聞いて……とも思ったが、彼女にバレて反感を買うのは良くない。ベッドに正座して大人しく待つことにした。
「……ありがとうございます。お待たせしました」
数分後、腸内をスッキリさせた白雪がやってきた。心なしか緊張感も解けているので、よほど苦しかったのだろう。
さて、と。一真は背筋を伸ばし気を引き締める。
女性に浣腸をするというだけでもビッグイベントだが、ここまではあくまで前座だ。本来の目的はこれからなのだ。
「それじゃあ次はいよいよ……」
「……はい。お尻の……その、開発をお願いします……」
自分の発言で、白雪は気恥ずかしそうに頬を赤らめた。自分から頼んだこことはいえ、恥ずかしいものは恥ずかしいのだろう。それに知り合いとはいえ男性の一真が助手なのだ。この場から逃げ出しても誰も文句の言わない状況で、彼女は大したものである。
「まずは四つん這いになって、こちらにお尻を向けてください」
「はい、こうですね……」
一真の指示通り、白雪は四つん這いになってこちらに綺麗なお尻を向けてきた。何の汚れもない赤ちゃんのように色白な美尻であった。これからこのお尻でイケないことをするだなんて、まったく想像できない。
「綺麗なお尻ですね……」
「恥ずかしいので言わないでください……」
おっと、思ったことがつい口から出てしまったようだ。
気を取り直して、続いて白雪の肛門に注目する。彼女の肛門はシワの一つ一つまできめ細やかで美しかった。今すぐにでもペニスを突っ込みたくなる衝動に駆られる。
しかしそれはダメだ。物事には順序というものがある。何の準備もなくアナルセックスを迫る弟の方が異常なのだ。彼女のアナルが男根を受け入れられるよう、開発する必要がある。一真は逸る気持ちを抑えて、白雪所有のアダルトグッズからある物を取り出した。
アナルビーズだ。比較的ビーズの小さい初心者向けのものをチョイスし、ローションで滑りを良くする。
「アナルビーズを少しずつお尻に挿れますから、苦しくなったら言ってください」
「はい、分かりました」
白雪の確認を得て、一真はビーズをひと粒ずつゆっくりとアナルに挿入していく。最初は抵抗あるだろうなとは思ったが、思いの外すんなりと彼女の尻穴はアナルビーズを受け入れた。
「ああっ、んんっ、んくっ……んぐっ、んあぁっ、あくぅっ……!」
ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ。アナルビーズの半分ほどまでは、結構簡単に挿入することができた。もっと苦戦すると予想したが、意外な結果である。そのことについて彼女に聞いてみた。
「意外とスルスル入っていきますけど、もしかして既に開発してましたか?」
「……お恥ずかしながら、家族に隠れて少しずつ慣らしていたのです」
どうりで。一真は内心で納得を得た。思い返せば、彼女はアナルにローターを挿れていた。本当に経験のない初心者ならば、いきなりローターを挿れながら外を歩かないだろう。それも体裁が大事なお嬢様が、欲求優先でそこまでするとは思えない。白雪はあらかじめ、ある程度準備をして行為に及んでいる。ならばアナルビーズがすんなり入ったのも道理であろう。
自分の手で一から彼女を開発するという想定は崩れたが、これはこれで準備が楽でいい。うまく行けば今日中にアナルセックスまでイケるかもしれない。
想定外の好機に武者震いする一真は、アナルビーズを根本までズブズブと挿入する。
「ああぁっ、んぐっ、ううぅ……んくっ、ふうぅっ、あぁんっ……!」
程なくして、全てのビーズが腸内に埋没した。手を離すと、アナルビーズの取っ手が尻尾のように揺れて官能的であった。
「全部入りましたね。それじゃあ、次は抜きますよ」
「はいっ、お願いしますっ……! んっ、あぁっ、ふあぁっ……!!」
ゆっくりと時間をかけた挿入から一転して、抜くときは一気にビーズを引く。スポンという小気味いい音とともに、アナルビーズが尻穴から抜けた。
「はあぁ、んはあぁ、んあっ、んあぁ……」
「先輩のお尻の穴、ヒクヒクしてて可愛いですね」
「いやっ、恥ずかしい……そんなこと言わないでください……」
恥ずかしがる白雪も可愛いものだ。この調子なら、開発もうまく進みそうだ。
「この感じならイケそうですね。先輩の玩具をどんどん試してみましょう」
「はぁ、んはぁ……んっ、んあっ、んくっ、んあぁ……」
それから数十分間、丹念に丹念に白雪のアナルを慣らしていった。時には指で、時にはバイブで、肛門をほぐし、かき回し、広げていく。人間の性器が入るようになるまで、一真は丁寧に準備を整えていった。
「先輩……そろそろイイですかね?」
ここまでよく我慢したものだ。一真は己の理性を褒めていた。白雪の耽美な喘ぎ声を聞いて、彼女の扇情的なアナルを見て、よくここまで自制心を働かせたものだ。
しかしその抑制もここまでだ。これまでの開発で彼女のアナルは十分にほぐれている。この状態なら、男根の挿入も問題ないだろう。
加えてアナルで感じてきたのか、白雪の喘ぎ声に快感の色が滲んできたのだ。彼女の欲求は次第に膨らんでいき、性玩具などでは満足できなくなっているようだった。
「はぁ、んはぁ……お願いします。貴方の性器を……お尻なら、挿れても大丈夫ですので、どうぞご自由に。私も……これ以上我慢できそうにないので、お尻で感じさせてください……」
とんだ淫乱なお嬢様も居たものだ。
最高だ。お嬢様のご要望とあらば、心置きなく犯すことができる。
一真は鼻息を荒くして、ギンギンにいきり立ったペニスを白雪のホカホカアナルに挿入した。
「あぁっ、んあぁっ、はあぁんっ……!!」
九十九市の重鎮たる須納家の高貴なご令嬢とは思えない嬌声を上げて、須納白雪はアナルで感じていた。まさか彼女との初の交わりが、アナルセックスになるとは思わなかった。世の中何が起こるか分からないものである。ならば、この奇跡的な交わりを存分に楽しむとしよう。
「白雪、先輩……性器が根本までお尻に入りましたよ。痛くはないですか?」
「んあっ、あぁっ、ひあっ……大丈夫です。辛くはないので、一真さんの好きなように動いてください」
「……分かりました。痛かったら言ってください」
白雪のアナルは初物なだけあって、凄まじい圧力で男根を締め付けてくる。あまりに強烈な締め付けで、油断するとすぐイッてしまいそうになる。しかし先輩の前で早漏はかっこ悪いので、一真は腰に力を入れてピストンを開始する。
「あっ、くっ、んんっ……んあぁっ、んくっ、あぁんっ……!」
「っ……先輩のお尻、すごく気持ちいいです……!」
「んあっ、あぁっ……それは、良かったです……一真さんのも、奥まで響いてきますよっ……!」
いよいよ本番となり、二人の間に余裕はなかった。付き合ってすらいない出会って間もない男女の、初めての交わりなのである。それも普通のセックスではなく、アブノーマルなアナルセックスなのだ。人生経験の少ない二人にとっては高いハードルであり、良くも悪くも慣れてない初々しい雰囲気で包まれていた。
「あっ、くっ、んんっ、んあぁっ……! かっ、一真さんのがお尻の中いっぱいに詰まってぇ……変な感じがしますぅっ……! んぐっ、でっ、でも、痛くはないですっ……んあぁんっ!」
「そっ、それは……お尻でのセックスにまだ慣れていないんだと思います。慣れてくれば気持ちよくなると思うので……このまま続けましょう」
せっかく憧れの先輩と行為にまで至れたのに、ここで止めてしまうのはもったいない。せめてフィニッシュまで頑張ろうと、一真は加減してピストンを行う。準備はしっかり行ったとはいえ、先輩の肛門が裂けてしまっては元も子もない。彼女を傷つけるのは本意ではないので、一真はできる限り丁寧に腰を振り、彼女の腸内を自分のペニスの形に広げていった。
「あっ、んっ、そこっ、深い、ですっ……んあぁっ、一真さんの大きいっ……あぁっ、あぁん!」
最初こそは辛そうな声を漏らしていた白雪だったが、ゆっくりとピストンを続けていく内に段々と気持ちよくなってきたようだ。その嬌声には甘い吐息が混ざり始め、表情が若干和らいできたように見える。
「どう、ですかっ……白雪先輩。お尻でのエッチ、気持ちよくなってきたんじゃないですか?」
「あくっ、んんっ、これがっ……お尻で感じてるんですかねっ……一真さんに突かれる度に、お尻の奥がジンジンって熱くなりますっ……んんっ、はあぁんっ!」
白雪は嬌声を上げながら仰け反り、アナルセックスの快楽に目覚めているようだった。彼女が感じているのならば是非もない。一真としては、先輩と一緒に気持ちよくなるだけである。一真は少しずつピストンを速め、腸内の至るところを突いていった。
「あっ、んあっ、一真さんダメですっ……! そんなに激しく突いたらぁっ……んあぁっ!!」
「先輩のお尻、俺のモノをぎゅうぎゅうに締め付けてきますよっ……! 先輩も楽しくなってきましたか……?」
「んあぁっ、よく分からないですっ……! 頭の中グチャグチャでっ……あぁっ、ダメぇっ!?」
男根で腸内を擦り付けると、彼女は可愛い声で鳴いてくれる。先輩の反応が見たくて、一真は懸命に腰を振っていた。性の快楽を憧れの先輩と共有できるのだ。これほど嬉しいことはない。一真は極度の興奮と多幸感に包まれながら先輩とのひとときを楽しんでいた。
「んんっ、あぁっ、んあぁっ……一真さんっ、私もうイキそうですっ……あぁんっ、ふあぁっ!」
「先輩っ……俺も、もうすぐっ……! あくっ、一緒にイキましょうっ……!!」
白雪の限界を感じ取り、同じく射精感がこみ上げてきた一真はラストスパートに入る。二人で一緒にイクために、心を一つにして絶頂の階段を駆け上がる。
「んっ、あぁっ、んぐっ、ああぁっ……一真さんっ、イキますっ……!」
「あっ、くぅっ、俺も射精ますっ……!」
最高の快楽の瞬間。脳内で火花が散り、視界が明滅し、股間が爆発する。どうしようもない圧倒的な衝動が体内を駆け抜け、行き場を求めて白雪の腸内へと欲望を解き放った。
「んあっ、あぐぅっ、んはあぁっ……一真さんの熱いのがっ、お尻の中に流れてきますっ……!」
「んぐっ、あぁっ……先輩の中、気持ちいいですっ……!」
焦げるような、溶けるような、サウナにも似た灼熱の時間が過ぎていく。全身から汗が吹き出し、意識が朦朧とし、自分が自分じゃなくなっていた。
ただ眼前の快楽に身を委ねハメを外し我を失おうと、決して嫌な気分ではなかった。少々アブノーマルとはいえ、高嶺の花と一線を越えたのだ。恋人いない歴=年齢の男が意中の相手と行為に至ったことに勝る感動などこの世にないのだから。
「……はぁ、はぁ。先輩、身体は大丈夫ですか?」
「……はい、なんとか。お尻でのセックスってすごいんですね……」
絶頂の余韻で夢見心地の状態なのか、白雪は焦点の合っていないとろんとした瞳で一真を見る。
夢のような時間だったが、これは紛れもない現実だ。衝動に任せて白雪と行為に及んでしまったことを一真が理解するのは、事が終わり冷静になった後だった。
◇自分の居場所
「一真さん、本日は私のワガママを聞いてもらい本当にありがとうございました」
ラブホでの行為を終えて身支度を整えた白雪は、一真に向かって深々と礼をした。
「いえ、俺も楽しかったのでお礼なんて……」
先輩に頭を下げられて、一真としては困惑するしかない。未だに白雪で性欲を発散することに罪悪感を抱いているのに、お礼を言われるなんてむず痒いのだ。一真は気恥ずかしそうに頭を掻きながら先輩に言う。
「こんな俺でも先輩の役に立てるなら、そんな嬉しいことはないです。これからも何かあればいつでも言ってください。俺大体暇なんで、先輩に付き合いますよ」
良い人ぶって、下心を隠して、上から目線で何を言ってるのか。一真は内心で自分に悪態をつきつつ、しかし表面上はそれを見せない。
先輩には嫌われたくないから、できるだけ善人の皮を被っていたい。そう思うのは、果たして罪深い行為だろうか。
「……ありがとうございます。そう言ってくれて助かります。……それでものは相談なんですけど、この後も少し付き合っていただけませんか?」
申し訳なさそうに、それでいて期待するように、白雪は一真に申し出る。
「構いませんよ」
断る理由のない一真は、彼女に負い目を感じながらも笑顔で頷いた。
「ここは……」
白雪に連れてこられたのは、市内で一番大きな病院である
なぜ先輩が病院に……? 一真の疑問を察したのか、白雪はすぐに答えてくれた。
「私の妹は病弱でして、よくお世話になっているんです」
「そうだったんですか……」
一真は白雪の家族について詳しくは知らない。以前の話で先輩は家族のことを良く思っていない印象を受けたが、妹は別なのだろうか。妹のことを話す時、彼女の口調に温かみを感じたのだ。
先輩の妹はどんな娘なんだろう。一真が脳内で想像を膨らませる中、程なくして目的の病室にたどり着く。
「
「……姉さん? 大丈夫、入っていいよ」
病室の前。ドアをノックし、返事を聞き中へ入る。
中へ入ると、ベッドから起き上がる少女と視線が合う。
「姉さん、また来たの? ……って、その人だれ?」
白雪を一回りニ回りほど幼くしたような、小学生くらいの少女だった。
全体的におっとりとした浮世離れしたお嬢様然とした白雪に対し、キリッとした凛々しい顔立ちが特徴の女の子である。全体的に華奢で、パジャマ姿で布団にくるまっている姿は、雪原の白ウサギを連想させた。
そんな利口そうな少女に不審な目で見られる一真。そりゃあ、姉がいきなり知らない男を連れてきたら変に思うだろう。先輩の妹さんに嫌われるのは避けたいので、一真は不格好な愛想笑いでその場をなんとか取り繕おうと試みる。
一方、疑いの視線を向けられた白雪は慌てて妹に説明する。
「彼はその、大学の後輩で……」
「えっ、もしかして彼氏なの?」
「ちっ、違うわよ!? 彼氏じゃなくて、ただの大学の後輩で友人の……」
「古神一真です。深雪ちゃん……だっけ。白雪先輩にはお世話になってます」
白雪の紹介で、一真は深雪に挨拶する。まだこちらを警戒しているのだろう。深雪は訝しげな表情で一真のことを見ていた。
「ふーん、姉さんの友人ね……それで、なんで友達と一緒にお見舞いに来たの?」
「それは……そこで偶然彼と会ったから。そうですよね、一真さん?」
「えっ、そうです。先輩とは病院の前で会って、妹さんの話を聞いてお見舞いにって……」
誰が聞いても嘘と分かる苦しい言い訳だった。
そもそも先輩は何で自分を病院へ連れてきたのだろうか。彼女の真意が一真には読み取れなかった。
妹に一真のことを紹介したかった? 恋人でもないただの大学の友人なのに? それも前もって打ち合わせをせずに、今日突発な訪問である。彼女にしては行きあたりばったりというか、余裕の無さが窺える。
「へぇ、はぁ、そこでばったりねぇ……」
姉の異変を妹も察知したようだ。聡明そうな彼女なら、白雪の言葉が嘘であることを見抜いているだろう。嘘を見抜いた上で、彼女には姉を追求する気はないようだ。深雪は呆れたような冷めた視線を白雪に送るだけだった。
「…………」
「…………」
「…………」
気まずい。あまりにも気まずすぎる沈黙が病室内を覆った。
上手くごまかせず狼狽する白雪と、姉に疑いの視線を向ける深雪と、二人の間でただ困惑するしかない一真。
いっそのこと、自分はここに来ないほうが良かったのではないか。遅すぎる後悔に一真は苛まれる。さっきまでは天国にいたのに、今は一転して地獄のような様相を呈している。世の中はよく出来ている。そう美味い話ばかりではないということだ。
一言も発さずに沈黙を守る三人。その中で遅々として進まない時間。一分が一時間に感じられ、全身を針でチクチクと刺されているかのような生殺しの状態が続く。
誰かこの緊迫とした空気を変えてくれ。一真の声にならない悲痛な願いは、意外な方向から叶えられた。
「おや、白雪さん来てたんですか」
声がした方に一真が振り返ると、病室の入り口に白衣の男が立っていた。
この病院の医師だろうか。メガネを掛けた理知的な男はまだ若く、三十代に届いてなさそうに見える。それでいて未熟な雰囲気は一切なく、自信と誇りに満ちているような貫禄さえ放っていた。
「
入ってきた医師に気づくと、白雪は強張った声で男の名を呼んだ。京介という名の男は、白雪の顔を見ると整った顔に笑みを作った。
「白雪さん、今日も妹さんのお見舞いですか? 本当に貴女は妹思いの方だ。貴女のような人が世界中に増えれば、世界はきっと平和になるでしょうね」
「あっ、はい。ありがとうございます……」
白雪は医師の雰囲気に気圧されているようだった。京介は彼女と親しげに話しているが、先輩とはどのような関係なのだろうか。会話に混ざれずハブられている一真は、黙って見守ることしかできない。
「京介さん、入ってくる時はノックしてっていつも言ってますよね?」
京介の対応に何故か困っている様子の白雪に、深雪が助け船を出す。
深雪の指摘に、男は頭をかきながら申し訳無さそうに苦笑する。
「えっ、ノックしたつもりだったんですけど、聞こえませんでしたか。すみません、ドアの隙間から白雪さんが見えたもので、いつもの見舞いだと思って入ってしまいました」
「京介さんってたまにデリカシーが欠けていることがあるから、気をつけたほうが良いですよ。姉さんだって困ってるじゃないですか」
「深雪、私はそんな……」
深雪の辛辣な意見に、苦笑いを浮かべる二人。どうやらこの場の力関係は、深雪が一番上らしい。
「あぁ、白雪さんを困らせてしまいましたか。重ね重ねすみません、配慮に欠けた男で」
「いえ、京介さんは何も悪くないので……」
京介と白雪の間に流れる微妙な空気。一真は部外者なので居たたまれない気持ちになる。
早くこの場から逃げ出したい。さりとて、黙って帰るのもできそうにない。
どうしたものかと内心困り果てている一真に、幸か不幸か京介の視線が向いた。
「それで白雪さんと一緒にいるのは、見ない方ですね。白雪さんのご友人ですか?」
「あっ、はい。私の大学の後輩で友人の古神一真さんです」
「初めまして……」
白雪に紹介され、一真は礼をする。
それを受け取る京介は、ニッコリと屈託のない笑みを浮かべて言う。
「こちらこそ初めまして、古神さん。私の名前は院善京介。この院善総合病院の院長の息子で、ここで医師をしております」
やはりお医者さん。それも院長の息子とは。男の堂々とした立ち居振る舞いに納得する一真。
しかし次の一言で、一真は更に驚愕することになる。
「分不相応な身ですが、私はここに居る白雪さんの許婚ということになっております」
その瞬間、一真の時間が止まった。