※この作品はR-18です。

Familiar Phobia~倒錯のすゝめ~   作:友井架月

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今回から新章です。
主役が男の娘ですが、別に男の娘やショタだけでなく色んなジャンルを書く予定です。


第二章 悪魔の掌
第六話 性の芽生え


 この世界は穢れている。

 誰しもが自らを美しく着飾ろうとするのは、自己の薄汚い本性を隠すためだと彼は言った。

 人は理性という名の仮面を被り本心を偽らなければ、とても集団生活を送れる生物ではない。

 法秩序は高度な知性を獲得した人間の特権であるのと同時に、獣を飼う檻のようなものだ。

 どれだけ智能や文明を発達させようと、本能的で野蛮な獣性までは失いようがない。

 善人であれと人は言う。自分を戒めねばヒトは簡単に道を踏み外すからだ。

 他者を重んじろと皆は言う。誰かの手を借りなければヒトは一人では生きていけないからだ。

 私たちは嘘で塗り固めた顔を自分と言い張り、空虚な牢獄の中で偽りの社会を築いているのだ。

 人間の醜悪さを知り尽くした自分は、ただひたすらに屈託のない笑顔を恐れていた。

 その笑顔の裏にはどんなどす黒い感情が隠されているのだろうかと疑ってしまうのだ。

 あぁ、本当に救われない。呪われた出自を持つ者は幸福な人生を歩めないということなのか。

「貴女はそのままで良いのです。何も憂う必要はありません。過去を呪っても未来が明るくなるわけではありませんから。貴女は貴女の思うままに、やりたいように生きれば良いのです」

 ありのままに生きなさいと彼は言う。あぁ、でも先生。己のありのままを晒せというのなら。

 私は自分の醜い欲求までも表に出さねばならないと言うのだろうか。

 この世界は穢れている。

 その穢れの一部である私は、救いようがないほど罪深い存在だというのに。

 

◇面談

 

 ゴールデンウィーク明けの5月、優馬が通う私立津雲(つくも)小学校では家庭訪問が実施されていた。良家の子女が多い有名校なのだから、他にはない何か特別な取り組みをしているのだろうと思う方もいるかも知れないが、案外そうでもない。行われる家庭訪問は、教師が生徒の家に赴き保護者と話をするという、どこの学校でも見られる普遍的なものだった。

 ただし普通の小学校との違いがあるとすれば、教師側ではなく保護者側の話である。裕福な家庭が多い関係上、そこには目に見えないしがらみや権謀術数が存在する。訪問してきた担任を無碍に扱うことは、家名に傷が付き他の保護者からも見下される最低の行為であるため、教師はどこの家でも最上級のもてなしを受けることになる。教員とはいえ彼らも人なのだから、適当に扱われるより丁重にもてなされた方が気分がいいに決まっている。それで学校での生徒の扱いに極端な差が生まれるわけではないが、担任の心象を良くしておくに越したことはない。時代劇の悪代官よろしく教師に賄賂を贈るような露骨な行いをする家庭まではなくとも、限りなくそれに近いことをする家族もいるくらいだった。

 そうでなくとも、生徒たちが楽しく学校生活を送っている上では、保護者たちが醜い権力争いやゴマのすりあいをしていることも珍しくない世界なのだ。ただの学校行事であるはずの家庭訪問も、見方を変えれば親同士の示威行為の場とも解釈できる。なんとも世知辛い話ではあるが、無邪気な子供たちも世間の荒波には逆らえないということだろうか。

 ところで、古神家でもこの日優馬の家庭訪問が行われていた。ちなみに担任の応対をするのは母である。本当は父も同席したかったようだが、どうしても仕事を休めずやむなく母ひとりに任せることとなった。その過程で二人は息子のことで牽制し合ったのだが、それはまた別の話である。

 とにもかくにも、古神家両親の思惑とは関係なく三者面談は始まった。優馬のクラス担任の門間(もんま)香織(かおり)は、眼鏡をかけた理知的な女性だった。真面目そうな外見と温和な性格で、生徒や保護者に信頼の厚い先生である。優馬とは昨年から引き続きの担任であり、転入したばかりの彼を支えたという実績があった。去年の家庭訪問や授業参観で母とは顔を合わせているため、二人の間に難しい説明は不要だった。短い時間とはいえ会話は弾み、優馬の学校生活について話は進んでいた。

「はい、優馬くんは大変優秀で人望もありクラスの中心的人物になっています。私は担任ですが、正直彼に教えられることは何もないくらいで……」

「そんなことはないですよ、門間先生。先生が居てくれたからこそ、僕は転入直後で右も左も分からないクラスに馴染むことができたんです。先生にはいくら感謝してもしたりないくらいですよ」

 母の隣に座る優馬は、小学生とは思えない落ち着きで担任をフォローする。いつも偉そうな彼だが一応教師には敬意を払っているのか、妙に上から目線な敬語で対応していた。相手を持ち上げつつも自分の優位性を失わない彼らしいやり口でクラスメイトを取り込んでいったのだろう。

 普通は学校や社会で経験していくはずの処世術をわずか10歳で会得しているばかりか、逸脱した人心掌握術で周囲を手玉に取っているのだ。大人から見ればこんなに末恐ろしい子供はいないだろう。いくら仕事はいえ、これほど厄介な生徒を相手にしなければならない教師の心境は穏やかなものではないはずだ。

「優馬くんのおかげでクラスが平和で助かっています……と言うと教師失格になりますが、それくらいの影響力を彼は持っています。その分お子さんの負担も大きいと思いますので、お母様から見て何か心配なことがあればいつでも私共にご連絡ください」

 それでも彼女は至って冷静な態度で会話を続けた。昨年一年間彼の担任を受け持っているだけあって、その対応力は見事なものだった。大人びた生徒相手でもムキにならず寛容に話ができるのは教師の鑑と言えよう。

「はい、門間先生。これからも息子のことをよろしくお願いします」

 そんなこんなで、優馬の家庭訪問は何事もなく無事終了した。流石の彼も先生を家に迎え入れて良からぬことをしようという気はないのか、借りてきた猫のように大人しくしていた。

 しかしそれは、災害の予兆を思わせる嵐の前の静けさに他ならなかった。

 

「美人な先生だな」

 門間教諭を玄関から送り優馬が一息ついているところに、二階から降りてきた一真が声をかける。

「お前がおとなしく学校に通ってるわけないよな。次は何を企んでるんだ?」

「まるで僕を不良みたいに言わないでよ。僕は学年一の優等生で通ってるんだから。……でもまぁ、色々面白いことは考えてるよ。そのうちお兄ちゃんも参加させてあげるから楽しみに待っててね」

 やはり良からぬことを企んでいるようだった。悪魔の考えるようなことだ。きっとろくでもないことに違いない。そう分かっていたとしても、一真にはどうすることもできない。無力な小市民には、何もせず縮こまって嵐が過ぎ去るのを待つしかないのだ。

「せめて俺に迷惑がかからないようにしろよ……」

 一真はあからさまに嘆息して弟に釘を刺すが、優馬は兄の小言など意に介さず不気味に微笑むだけだった。

 

 ◇学友

 

 古神優馬は如何にして転入先のクラスの中心人物に至ったか。それは彼の登校風景を見れば容易に理解できるだろう。

「おはよう皆、今日も元気かい?」

 彼が毎朝クラスに入る時、決まってクラスメイト全員に声をかける。面倒がらずにひとりひとり顔を見て挨拶するのがコツである。もちろんそこまで親しくない人もいるが、挨拶程度を無視するような礼節を弁えていない生徒はこの学校にはいない。多数の人間が同じ空間を共有する集団生活の場において、友好的で愛想の良い人柄は良好な人間関係を構築するための必須条件である。人当たりのいい性格の持ち主は、それだけで人を惹きつける。いくつもの表情を使い分ける悪魔の少年は、朗らかな笑顔で周囲の環境を整えていく。

「喜多くんおはよう。南さんは風邪治ったかな? 西山くん、ちゃんと宿題やってきた? 石田さんは今日も元気でいいね。斉藤さん、新しい髪留め可愛いね。あ、佐藤さん髪型変わってるね」

 クラスメイトに一通り声をかけてから、優馬はようやく自分の席に着く。今日のクラスメイトたちはいつもと変わらないようだ。この朝の日課は彼らとの友好関係の維持という目的の他に、優馬の趣味である人間観察を怪しまれず行うためのものでもあった。毎朝声をかけることによって、返事の仕方、声の調子、表情の変化等から彼らの精神状態を推し量ることができる。毎日積み上げられたデータは悪魔の栄養となり、彼が人間を理解するための大事な情報源となるのだ。

「ふぅ……」

 チャイムが鳴り先生が来る朝の会まではまだ時間がある。暇を持て余した優馬は、一時間目の授業の準備をしようと教科書を取り出す。すると、ひとりの生徒が彼に近づき声をかけてきた。

「優馬くん、授業の予習をしてるの? まだみんな席についていないのに偉いね」

 クラスメイトの星見(ほしみ)昴(すばる)は、純朴で控えめな性格の優馬の友人である。何もせずともその場にいるだけで目立つ優馬とは対象的に、見るからに影の薄そうな大人しい少年である。なぜ二人は親しそうに会話をする仲となったのか。それは優馬が転入したばかりの去年の春のこと。とある事情で他の生徒から虐められていた彼を助けたことがきっかけとなり、今ではこうしてクラスで一番仲の良い優馬の級友となったのだ。

「別に予習なんて大層なことはしてないよ。僕は昔から本を読んでいる時が一番落ち着くんだ」

「それでも、本を読むのが苦手な僕からすると優馬くんはすごいよ。僕なんて、活字を眼にするだけで眠たくなるんだ」

 イジメから救ってくれたことに恩を感じているのか、昴は優馬に大変懐いていた。それも彼の才能に畏怖し媚びを売るような大人たちとは違い、純粋に彼のことを尊敬しているのだ。敬意や憧れの的になりやすい優馬だが、流石に好意を抱かれて悪い気分にはならない。とは言え彼にとっては慣れたことなので、別に嬉しくもなんともないのだが。

「昴くんは勉強が苦手だからね。また今度宿題手伝ってあげようか?」

「うん、お願いするよ。先生に教わるより優馬くんに教えてもらうほうがわかりやすいもの」

 昴は完全に優馬の信者になっているものの、必ずしもクラスメイト全員が彼のことを認めているわけではなかった。この教室で唯一人、優馬のことを嫌う生徒がいるにはいるのだ。

「ふん、ちょっと勉強ができるからって優等生ぶっちゃって。テストで百点を取るくらい私にもできるんですからね!」

「あっ、女鶴さん」

 優馬と昴が仲良く談笑している間に割って入ってきたのは、女鶴(めづる)美聖(みさと)という名の女子生徒だった。いかにも勝ち気そうな表情が特徴の彼女は、この学校では珍しくもない家が上流階級の本物のお嬢様である。両親から甘やかされて育てられたからか、自己中心的で高圧的な性格をしている。それでもクラスで浮くことなく自然と馴染んでいるのは、根が善人で周囲から愛される立ち回りをしているからだ。時より横暴だがどこか憎めない、愛される暴君として津雲小学校五年二組に君臨していた。

 常に自分が話題の中心にいないと気がすまない彼女にとって、優馬の存在は目の上のたんこぶなのだろう。美聖は事あるごとに優馬に食って掛かり、高飛車に挑発してくることも多かった。だが冷徹な悪魔が安っぽい挑発に乗るはずもなく、彼は彼女の攻撃的な言葉を適当にスルーしていた。

 そして優馬だけでなく他のクラスメイトたちも、「またか」という生暖かい表情で彼女のことを見守っている。彼ら二人の茶番劇は、もはやクラスの風物詩と言っても過言ではないほど見慣れた光景だった。何事にも冷静で大人顔負けの振る舞いを見せる少年に喧嘩を売る無謀な少女は、彼らにとって微笑ましさすら抱く教室の癒やし的存在となっていた。優馬の天才っぷりを嫌というほど見聞きしている彼らにとって、雲の上の存在に果敢にも挑み続ける彼女は眩しく映るのだろう。あたかも魔王に立ち向かう勇者のようなヒーロー像を美聖に重ね、テレビ画面に食いつく子供のように彼女を応援しているクラスメイトたちなのであった。

「そういえば女鶴さん、春休みの絵画コンクールで入選していたね、おめでとう」

「あら、どうもありがとう。本当は大賞も狙えたんだけど、忙しくて手が回らなかったのよ。でもまぁ、片手間でやっても私なら入選くらい楽勝よね。次は必ず大賞を取ってみせるから……って、私はそんなこと話したいんじゃないわっ!」

 優馬に話を逸らされ上機嫌に語っていた美聖は、唐突に我に返り声を張り上げる。このように変なところでお調子者なのがクラスメイトから愛される理由なのだろう。表情をコロコロ変えて喜怒哀楽を表現する彼女は、優馬にとっても非常に興味深い観察対象である。こちらから何もせずとも、彼女は勝手に勝負を挑んできては一方的に敗北するのを繰り返していた。

「私は貴方に勝負を挑みに来たのよ! 去年は惜しくも私の負けが多かったけど……今年こそは貴方にテストで勝ってみせるわ、覚悟しなさい!」

「うんうん、女鶴さんは毎日勉強頑張ってるものね。テストの点数は毎回上がってたし、女鶴さんは真面目で努力家だから応援したくなるね。分からないところがあったら教えてあげるから、いつでも聞きにきていいよ」

「真面目で努力家だなんて……私は当たり前のことをしているだけだから……まっ、まぁ一応褒め言葉として受け取っておくわ。ってなんで貴方なんかに応援されなくちゃいけないのよ! 敵からの情けなんて絶対に受けませんからね!」

 いくら気丈に振る舞おうとしても、無垢なお嬢様では優馬の口車についていけないようだった。悪魔の言葉に振り回される少女は、いくら観察しても飽きないほどに様々な表情を見せてくれる。だからついついからかってしまいたくなるのだが、何事も引き際が肝心である。時間もそろそろ頃合いで、朝の会が始まろうかといったところだ。優馬は見る者を魅了する微笑を浮かべ、彼女に労いの言葉をかける。

「女鶴さんのおかげで僕も勉強に身が入って楽しいよ。今年も一緒に頑張ろうね」

「ふっ、ふん! そんなこと言われなくても分かってるわよ。貴方が無様に負ける姿を絶対に見てやるんだからね、絶対よ!」

 ちなみに、昨年美聖はテストで優馬に勝ったことは一度としてない。あの天才児が小学校のテスト程度で満点を逃すはずがないので、彼女はどう頑張っても最高引き分けにしかならないのだ。それでも挫けずに挑んでくる美聖の屈強な精神には目を見張るものがある。優馬としても、彼女のような世間知らずのお嬢様はちょうどいい退屈しのぎになる。悪魔の威光に籠絡されていない貴重な存在として、これからも頑張ってほしいものだ。彼は表情には出さず、心の中で悪い笑みを浮かべていた。

「皆さん、席についてください」

 優馬と美聖が火花を散らしていると、一日の始まりを告げるチャイムが学校中に響き渡る。予鈴とほぼ同時に教室へ入ってきた規則正しい門間教諭は、落ち着いた声音で生徒たちに着席を促した。先生の指示に従い子供たちが次々と着席する中、優馬への文句を言い足りない美聖は渋々と自分の席へ戻っていった。

「優馬くんも大変だね……」

 隣の席に座る昴は、美聖に絡まれる優馬に不憫そうな視線を送っていた。元いじめられっ子な彼にとって、高圧的な美聖は苦手なのだろう。昔の自分を思い出したのか青い顔をしている彼に、優馬は優しい声で訂正する。

「まぁまぁ、彼女はアレで悪い娘ではないよ。ちょっと感情表現が極端だけどね」

 それは優馬が分析した彼女の正当な評価である。まだ幼く親の教育の影響か自分勝手なところがあるものの、芯の部分は誠実で勉強家なのでこれからどんどん成長していくことだろう。

 それだけに、美聖は弄り甲斐のある期待の有望株なのは確かである。磨けば光る原石のような可能性を秘めている彼女をどう料理したものか。人間の醜悪さも世間の残酷さも知らない純真無垢な少女を前にして、優馬の嗜虐心が痛いくらいに刺激されるのだ。早く彼女を滅茶苦茶に汚してやりたい。薄汚い人間の本性を教えてあげたい。

 だが物事には順序というものがある。熟していない果実を収穫するのは長期的に見て悪手になることもある。しかし、じっくり待てば必ず良い結果になるというわけでもない。彼女を自分好みに育て上げるには、途中で何らかのテコ入れが必要になるだろう。優馬は心の中で少女の育成計画を練っていく。人の所業とは思えない悪魔的な妄想に浸っていると、隣の昴が声を潜めて話しかけてきた。

「優馬くん、お願いがあるんだけど……今日の放課後暇だったら、僕に勉強を教えてくれないかな? この前の授業でちょっと分からないところがあって……」

 昴の申し出は、二人の間ではよくあることだった。勉強の成績は学年平均である昴は、よく優馬の個人的な指導を受けていた。本音は一緒に遊ぶための口実だろうが、友人だというのに素直になれない慎ましやかなところも彼の魅力のひとつである。そして親友の本心に気づいても指摘しないのが大人の対応だろう。昴の頼みに優馬は間髪入れずに頷いた。

「なんだそんなこと、お安い御用だよ」

「ありがとう、恩に着るよ」

 こうして放課後の予定は決まった。……そうだ、女鶴さんの前に彼でちょっと試してみよう。

 嗜虐心を唆られる気弱な友人を見て、優馬の心に加虐の火が灯る。サディスティックな笑みを浮かべながら、優馬は悪魔の本性を顕にしていた。

 

 ◇授業

 

「ただいまー」

「おっ、お邪魔しまーす……」

 その日の放課後、優馬と昴が古神家に帰宅した時、母は買い物中なのか不在で家には二人しかいなかった。これは非常にタイミングが良い。優馬は自分の部屋に昴を案内すると、念の為内側から鍵をかける。一真はともかく両親が次男の部屋へ勝手に入ってくることは絶対にないものの、用心しておくに越したことはない。これで邪魔を気にせずゆっくりと楽しむことができるわけだ。

「それじゃあ、最初は今日やったことの復習からしようか」

 始めの数十分、二人は当初の予定通り真面目に勉強会をしていた。いきなり彼を襲っては風情に欠けるというものだ。いくら友人とは言え、何の脈絡もなく不埒な真似をして嫌われても困る。昴の緊張を解す意味でも、まずは軽く頭の体操から始めるべきである。優馬は持ち前の頭脳をフルに発揮して、懇切丁寧に勉強を教えていく。

「……どう? 最近の授業内容は一通り解説できたと思うけど、まだ何かわからないところでもあるかな?」

「ううん、ありがとう。やっぱり優馬くんは教えるのが上手いね。だって先生より分かりやすいんだもの」

 子供とは正直なものだ。優馬を見つめる彼の瞳が、尊敬の眼差しで輝いているのが見て取れる。同級生でこれだけ才能の差を見せつけられたのなら普通は嫉妬してもおかしくないというのに、昴は純粋に友人のことを敬愛しているようだった。それは彼がまだ小学生だからか、それとも心から優しい性格の持ち主だからか。人間の悪辣な姿ばかりに目を向けている優馬にとって、この少年はいささか眩しすぎるというものだ。嘘偽りなく親友を称賛する昴を前に、悪魔の少年は苦笑するしかなかった。

「はは、僕はそう言われて嬉しいけど、そんなこと先生の前で絶対に言わないでよね。唯でさえ僕は先生たちからよく思われていないんだから、これ以上彼らのプライドを傷つけるようなことはしたくないよ」

「えぇ、なんで先生が生徒のことを悪く思わなくちゃいけないのさ。優馬くんがすごいのは、皆知ってるはずなのに……」

「彼らだって教師である前にヒトだからね。自分たちが教える立場にいるはずなのに、教わる立場の生徒の方が態度が大きかったら誰だって不愉快に思うはずさ」

 それ以前に、優馬は厄介払いで今の学校に送られたのだから、教師陣にとっても扱いに困るのだろう。そこら辺の大人の事情は昴に語っても仕方ないので、これ以上は話さないでおく。

「そんなことより、休憩がてらに映画でも見ない? 確か、お兄ちゃんがDVDに録画したやつがあったはず……」

 そう言って、優馬は何も書かれていない無地の録画用DVDを取り出した。もちろん、中身は映画などでは決してない。これは彼と遊ぶために用意した小道具である。優馬は自然な動作でDVDをプレーヤーに入れ、テレビの電源をつける。数秒の読み込みの後、画面に映ったモノを見て昴は絶句する。

「えっ……!?」

 そこに映し出されたのは、男の本能を刺激する肉感的な女性の裸体だった。お察しの通り、これは映画ではなく子供には決して見せてはいけないアダルトなビデオである。裸の男女が激しく交わる光景は、お茶の間を凍らせるどころかウブな少年の時間を停止した。

「あっ、あぁっ……」

 早熟な子ならその手の知識に興味を持ち始めてもおかしくない年齢だが、彼は相当無垢だったようだ。昴は顔を真っ赤にしてテレビ画面を食い入るように見つめていた。小学校では基本的に性教育について触れていないので、両親から教えられていないのであれば、後は個人的に調べるか伝聞でしか知りようがない。優馬の通う学校は真面目な子が多く、昴自身に友達が少ないので性知識に触れる機会が今までなかったのだろう。少年は画面の中で繰り広げられている男女の営みに圧倒されているようだった

「あれれ、おかしいな~。映画だと思ったら別のものが録画されてたぞー。お兄ちゃんったらそそっかしいんだからー」

 わざとらしい演技で兄に責任を押し付けるが、昴はそんなことを気にしている余裕はないようだった。口を大きく開けたまま硬直し、ただただ初めて眼にするだろう性行為に目を奪われていた。

「……昴くんは、こういうのを見るのは初めてなのかな。学校ではまだ教わらないからね。これがセックス……赤ちゃんを作るための男女の性行為だよ」

「これが……」

 セックスという言葉自体は知っていたのだろうが、それがどういう行為なのかを具体的に理解していなかったようだ。少年は秘匿されていた生命の神秘を目の当たりにし息を呑む。これが性交、これが子孫を残すために生物が代々続けてきた生殖の真実である。

 いくら純真な少年であろうと、雄としての本能に抗うことはできない。悪魔から強制的にアダルトビデオを見せられ、彼の心に眠っていた性的欲求が目覚めたようだ。

「うぅ……よく分からないけど……なんだか、すごいね……」

「ふふ、そんなに真剣に見ちゃって昴くんはエッチだなぁ。ほら、アソコが硬くなってるよ」

「えっ……」

 見ると、昴の股間が僅かに膨らんでいた。これが少年に性が芽生えた決定的瞬間である。

「分かるかな、これが勃起っていうんだよ。そのままだと苦しいと思うから、外に出すね」

「えっ、ちょっ、優馬くん何するのっ!?」

 突然のことに動揺する昴を無視して、優馬は慣れた手付きで社会の窓を開けて半勃ちになったペニスを露出させる。初めて欲情したであろう彼の息子は恥ずかしそうに皮を被っており、他人の視線があるからか外気に触れているせいかビクビクと震えていた。

「昴くん、分かるかい。君のおちんちんがいつもより硬く大きくなっているだろう? この状態が勃起……男性がエッチな気分になると起こる現象だよ」

「ぼっき……」

「そう、この状態のおちんちんを女性の性器に挿れて射精をすれば子供ができるんだけど……残念ながらこの場に女の子はいないから、今回は性行為の実習はできそうにないね。その代わりと言ってはなんだけど、せっかくだしオナニーの練習でもしようか」

「オナ、ニー……?」

 脳内に怒涛の如く流れ込んでくる性知識に理解が追いついていないのだろう。昴は優馬の言葉をオウム返しに答えることしかできなかった。今の彼は生まれたての雛鳥のようなもので、誰かの助けがなければ自分の内に目覚めた感情の整理もできないであろう。友人を使って遊ぼうと思っていた優馬にとっては、大変都合のいい状況である。彼にあることないこと色々吹き込んで楽しむとしよう。

「オナニーというのはね、自分の性器……おちんちんをイジって気持ちよくなることなんだ。このままじゃあ心がもやもやして気持ち悪いだろう? だからエッチな感情を出し切ってスッキリしようってことだ。最初はやり方がわからないだろうから、僕が手伝ってあげるね」

 オナニーのオの字すら知らない少年に、自慰の手解きをしてあげよう。優馬は昴のペニスを優しく握ると、シコシコと上下に擦り始める。小さな男根に走る未体験の快感に、彼は驚愕の表情で喘いでいた。

「んあっ、あぁっ……なっ、にぃ……これぇ……!」

「これがオナニーの仕方だよ。まぁ、正確には今やってるのは手コキなんだけど……どう、気持ちいいでしょう?」

「うっ、うんっ……すごいよっ、これぇ……おちんちんが変な感じでっ……あぁっ!」

 優馬の手コキで少年は大人の階段を登りはじめた。禁断の快楽に目覚めた昴は、転がり落ちるように眼の前の快感にのめり込んでいく。純粋な彼に性的刺激は麻薬のようなものだろう。新鮮な愛撫の感触で、身も心も夢の世界へ蕩けていくのだ。

 昴の目の前では、AV女優が男優の巧みな愛撫でイカされていた。メガネを掛けたクールそうな女性が淫らによがっている様は、思春期の少年には刺激が強すぎるのだろう。彼はのぼせたように顔を赤くし恥じらっているが、性欲には逆らえないのか股間の紳士は元気に勃起している。その先端、可愛らしい小さな皮被りペニスの先からは、ちょこんと赤く腫れた亀頭が顔を覗かせていた。

 優馬は繊細な包皮部分を優しく丁寧に握ると、粘土でもこねるような動作で集中的にイジっていく。敏感な部分を刺激され、昴はたまらず声を上げる。あまりに度を越した刺激的な体験は、彼の常識を大きく塗り替えた。魂に刻まれた雄の欲望に目覚めた少年は、悪魔の導きによって己の心に芽生えた感情を自覚していく。

「アダルトビデオとは言え、大人の女性の裸体を見るのは初めてかな? あぁ、お母さんの裸くらいは見たことがあるかもね。でもまぁ、こんな風にエッチな気分になったのは初めてだろう。どう、興奮でムラムラした気持ちが抑えられないでしょう? これが性欲、子孫を残すための生物としての本能だよ。昴くんはビデオの女性に欲情しているんだ。ふふ、彼女はどこか門間先生に容姿が似てるかな。僕は知ってるよ、昴くんは先生のことが好きなんだよね?」

「えっ、僕は……先生のことを……」

 未熟な少年は異性に恋をしたことがまだない。それどころか、恋という感情がどういうものかすら知りはしないだろう。確かに昴は門間先生に好意を抱いていた。しかしそれがライクなのかラブなのかを判別する手段を彼は持ち合わせていない。彼の十年あまりの人生経験では、自分の感情の整理は難しいようだ。

 だがヒトの感情を熟知した悪魔には、彼の内面の有り様が手に取るように分かるのだ。友人の心に宿った瑞々しい気持ちは、ただの好意ではなく間違いなく恋である。優馬は昴の初恋を利用し、彼の心を揺さぶった。思わぬ形で本心を丸裸にされた少年は、為す術もなく精神の弱いところを晒されていく。

「先生のことを好きになったからって恥ずかしがる必要はないよ。うんうん、一回り以上年の離れた教師に恋をしちゃうのも甘酸っぱい青春だね。叶えるのは困難だろうけど、僕は昴くんの恋を応援してるよ。……とその前に、溜まった性欲を発散してみようか。そろそろ射精したくなってきたんじゃないかな」

 見ると少年の陰茎がパンパンに膨らんでいるではないか。鈴口からは透明な汁が漏れ出しており、今にも爆発してしまいそうだった。優馬はカウパー液を竿に塗りたくり、速度を上げて扱いていく。昴も快感の高まりを感じ取っているのだろう。友人に身を委ねて本能の赴くままに意識を下腹部に向けて可憐に鳴いていた。

「あっ、んあっ……優馬くん、おちんちんがおかしいよっ……! 何か変なのがきちゃうっ……おちんちんがっ……おしっこ出そうっ……!」

「今出そうになっているのはおしっこじゃなくて精液だよ。性的に気持ちよくなったらおちんちんから出てくる赤ちゃんの元だから、我慢せずにこのまま出しちゃおう」

「あっ、やっ……そんなに擦ったらっ……出るっ、出ちゃうぅっ……!」

 一際甲高い声で喘いだ直後、昴の亀頭の先端から精液が飛び出した。透明度の高い粘性の白濁液は、勢いよく飛び散ると優馬の手を白く染め上げる。昴は快感のあまり放心し、優馬はニヤニヤと手についたザーメンを舐め取っていた。

「あうっ、んんっ、あぁ……」

「ふふ、昴くん精通おめでとう。気持ちよかったでしょう、それが射精だよ。見てごらん、自分が出した精液を。これを女性の性器の中で出せば赤ちゃんができるんだ」

 昴はまだ自分の身にナニが起こったのか正しく理解していないようだった。夢現の表情で射精後の余韻に浸る友人の横で、悪魔は意味深な微笑を浮かべていた。友達を巻き込んだ危ない遊びを、この程度で終わらせる優馬ではない。性行為への抵抗感がない今のうちに、彼に色々と刷り込まねばならないだろう。

「そうだ、昴くん。せっかく射精の快感を覚えたことだし、他にも大人の遊びをしてみようよ」

「えっ……」

 元々優馬に従順だった昴だが、友人の提案に対して性行為への好奇心もあるのか戸惑いつつも逆らいはしなかった。良くも悪くも素直な彼は、悪魔の誘惑に導かれ深みへとハマっていく。

 

「昴くんはそのまま寝てて。僕が上に乗るから……」

 まだ性欲が治まらないのか勃起したままの昴をベッドに寝かせ、下半身を露出させた優馬は友人の上に乗る。所謂シックスナインの体勢である。

「ほら、僕のおちんちんも大きくなっているだろう? シックスナインと言ってね、次は互いのおちんちんを舐め合うんだ」

「えぇっ、そんなことをして汚くないの?」

「これくらい大丈夫だよ。後学のためにも色々実践しておくのは大事だしね。まずは僕が先にやり方を教えるね……あむっ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 そう言うと、優馬は躊躇うことなく昴のペニスを咥えフェラチオを始める。兄の男根で散々やったことなので慣れたものである。手コキとはまた違う口内の感触で、昴は驚きと歓喜の声を上げる。

「あぁっ、なにこれっ……優馬くんっ、すごく……気持ちいいっ……!」

「じゅぶ、んちゅっ、れろ……ふふ、喜んでくれたのなら何よりだよ。でも、こんなものは序の口で、本番はこれからだからね……んじゅっ、ちゅちゅう、んじゅちゅっ……!」

 優馬は男根を奥まで咥えると、顔を前後に動かし竿を激しく刺激する。兄に比べてペニスが小ぶりなので、飴玉でも転がすような感覚で男根を弄んでいく。皮に包まれた亀頭を舌先で丁寧に剥くと、傷つけないようにねっとりと愛撫する。亀頭を這い回る舌のヌメヌメとした質感は、昴の脳髄に快感の雨を降らせた。精通したばかりの少年に、この刺激は強烈過ぎた。絶え間なく続く快楽の嵐に飲み込まれ、彼の理性は悠久の彼方へと吹き飛んでしまった。

「あっ、んんっ、はあぁっ……優馬くん、気持ちいいようっ……!」

「じゅぶっ、んちゅ、じゅずっ……ほら、いつまでも呆けてないで、僕のおちんちんも舐めてよ」

「あうっ……うっ、うん。わかった、するよ……んっ、れろっ……」

 優馬に促され、昴は恐る恐るペニスに舌を這わせる。少年の舌はたどたどしい動きで竿を伝うも、それがほどよい刺激となって優馬に快感を与えた。初めてながらにセンスを感じる、友人の初々しいフェラである。このままでも十分気持ちいいのだが、指導すれば将来大物になるかもしれない。彼に才能を感じた悪魔は、フェラを続けながら器用に指示を出す。

「んあっ、あぁっ……! 昴くん……いいよ、気持ちいいよ……そのまま、そう……舌を上手く使っておちんちんを舐め回してっ……!」

「うん、わかった……じゅぶ、れろ、ぬら……ちゅぷっ、んくぅっ……」

 信頼する友人の求めに応えたいのだろう。昴は不慣れながらも懸命に口を動かしペニスを舐め回す。その姿は主人に尻尾を振る子犬のようで非常に健気だった。親友とはいえ他人のペニスを、それも同性が咥えることなど普通の神経でできるものではない。純真無垢な彼の幼さを利用した形だが、それ以上に昴が優馬に依存しているのが大きいだろう。恩人である優馬の頼みとあらば、彼は火の中にでも飛び込むはずだ。これが昨年から築き上げてきた歪んだ友情の結晶体である。悪魔の意のままに動く従順な子羊は、疑うことなく一生懸命フェラチオを続けていた。

「んくっ、あぁっ、んあぁっ……昴くん、上手だよっ……! もうすぐイキそうだから、もっと奥まで深く咥えて……そう、そんな感じでっ……んじゅう、んんっ、あはあぁっ……!」

「んじゅっ、れろ、んんっ、こう、かな……? もっと、激しくだね……んぐっ、じゅるる、んじゅうっ……んあぁっ、僕もまた、変なのがきちゃいそうっ……んんっ、んくぅっ……!」

 二人は射精に向けて互いのペニスを熱心に愛撫しあう。この背徳的な遊びは最高潮を迎え、両者の脳内は快楽の奔流でいっぱいいっぱいになっていた。後はこのままフィニッシュまで一直線に突き進むだけである。友人を先導する優馬は、巧みな舌捌きで男根を攻め立てる。昴も必死になって食らいついているが、実力の差は歴然だ。我を忘れるほどの快感に襲われようと、彼は決してフェラを止めなかった。昴も親友をイカせるために頑張っているのだ。友人の思いを股間で受け止め、優馬のフェラもいよいよ大詰めへと差し掛かる。

 口内で竿の脈動を感じた優馬は、口をすぼめて驚異のバキュームフェラをお見舞いする。エロ初心者の昴にアダルティな妙技は少しやりすぎたようだ。はち切れんばかりに膨張した男根はすぐさま沸点を超え、少年は快楽の高みへと到達する。友人の熱意に押され、優馬の息子もそろそろ限界だ。二人は心をひとつにしてフィナーレへと突入する。

「あぁっ、だめっ、出るっ、また出ちゃうぅっ! おちんちんからせーえき出ちゃうよぉっ!」

「んじゅっ、んんっ、僕もイキそうっ……! んじゅじゅっ、一緒にイこうっ……!」

 快楽の果てにたどり着いた二人のペニスから、同時に白濁液が噴き出した。若さ溢れる活きのいい子種が互いの顔面を汚していく。

「んあっ、あうぅっ、いいっ……! おちんちん気持ちいいっ…あぁっ、あぁんっ……!」

「あぁっ、昴くんの精液熱いっ……二回目なのに、こんなにいっぱいっ……!」

 優馬は友人の初々しい迸りを嬉しそうに浴びていた。自分の手解きで少年が射精にまで至ったのだ。少年は自分の中に芽生えた衝動に未だ困惑しているようだが、人間の新たな一面を目撃するのはいつだって興味深いものである。

 二度目の射精を終え、少年は満足そうに放心していた。友人の精液で顔面を汚しながらも、その表情はどこか充実感で満ち溢れていた。平凡な日常とは真逆の刺激的な体験で、彼の中で何かが覚醒したのだろうか。多感な時期の純粋な少年に、大人の快楽の愉悦は毒の周りが早かったのだ。

 友人の変化を目聡い悪魔は見逃さない。射精直後で身も心も隙だらけの昴を落とすのは簡単だ。赤子の手をひねるような感覚で友人を道徳から外れた道へと誘うのだ。

「はぁ、はぁ……優馬くん、エッチなことってすごく気持ちいいんだね……」

「おめでとう、昴くん。君はこれで大人への第一歩を踏み出したんだ。これから僕が色んなことを教えてあげるから、一緒に勉強しようね。大丈夫大丈夫、僕が付いてるから昴くんは何も心配する必要はないさ。うんうん、大船に乗ったつもりで僕にすべてを委ねてよ。そうすれば、君はきっと普通の人では味わえないような貴重な体験をできると思うよ」

 生まれて初めての賢者タイムを味わう昴に、優馬は屈託のない微笑みと共に温かい言葉を投げかける。この先何があろうとも、信頼する友人がいれば大丈夫だと。自分のことを信じきったあどけない子犬は、親友のすすめでどんなことでも挑戦するだろう。それがどれだけ背徳的な行為でも、彼ならきっとやり遂げるはずだ。

 優馬は友人という新たな手駒を加え、己の目的のために邁進する。

 学校という子供たちの学び舎でさえ、彼にとっては恰好の猟場でしかないのだった。

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