ロンドンの有名探偵も出てきます。
ああ、夢だ、そんな気分で目が覚めた。
女性の体、丸みを帯びた柔らかい線と、その手触りはなんともいえない感触
だった、世の中の女性は皆、こんな感じだろうか。
迷いながらも行為に至ったが、終わってしまうと後悔はなかった、まるで酔
ってしまったような、そんな感じさえする。
「アイリーナ」
名前を呼ぼうとしたが声には出さず、胸の中で呼んで見た。
疲れを感じるが、それは行為のあった証だと考えると、嬉しいというだけで
はない、今までにない感情が胸の中に沸いてきた。
アイリーナ、彼女は自分のものだ、そうとも、今まで、これからもだ、ロン
ドンには行かず、ずっと、ここで自分のそばに居てほしい、プリマになるのが
いやなら舞台に立ちたくないのなら、それは後で考えればいい。
だが、二人きりの夜を何度か過ごした後、ある日、突然に彼女は姿を消した
のだ、何も言わずに。
ロンドンへ行くという言葉が頭をよぎった、あれは本気だったのか。
なら、自分とのことはパリを離れるまでの、退屈しのぎだったのだろうか、
だとしたら。
「おまえは裏切った、私のことなど、どうでよかったのだ、最初から」
「すみません」
女の言葉に医者はにっこりと笑いを浮かべて隣を歩く長身の男を見た。
医者は女の荷物、食材の入った紙袋を持ち、機嫌良く女性の隣を歩いてい
た、だが、彼の友人の探偵派というと、いつもと変わらず、いや、険しい顔つ
きだった。
買い物帰りに同じアパートの人間と出会ったのは幸いとばかりに医者は声を
かけて、彼女の荷物を持ちましょうと声をかけた。
こういう人間、いや、性格だからこそ、誰からも好かれるのだろう、特に女
性にはと探偵は感心せずにはいられなかった。
自分は、そこまで他人に親切にする、いや、関心を持てない、ところが。
「ホームズ、どうしたんだい、急に」
自分の部屋へ入るなり、真面目な顔になり、今日は泊まっていかないかとい
われて医者は驚いた。
「何かあったのかい」
「不審者、怪しい奴がいるんだよ、このアパートを見張っている」
「ほ、本当かい、ホームズ」
「最初は気のせいかと思っていたんだが、数日前の夜、あの通りから人影を
見つけてね」
表の通りに目をやり、探偵は険しい顔で医者を見た。
「昨夜もだよ」
「もしかして、君に恨みを抱く犯罪者かな」
「だとしたら簡単だよ、でも、ここ数日だよ、僕が気づいたのは」
その言葉に医者は、うーんと唸った、だが探偵の出す過程の答えには、この
時は少しも気づいたはいなかった。