自分自身の身体に残る大火傷の痕とねじれた貴族社会の闇を背負ったレオナールと、朴訥を絵に描いたような火無き灰。
レオナールの悪意を持った独擅場が徐々に形勢逆転していく。
(レオナールの襲い受けが苦手な方はごめんなさい)
けれど、大火傷を負ったかつて貴族だったらしいという設定はあるので、それをヒントにしました。
火無き灰はプレーヤー自身で、固有名詞は使わない方向で行きました。
エロ小説ですが、なるべく擬音に頼らずきちんと文章表現で書く事を心がけてみました。
少しでもレオナールを好きになってもらえればなあと思います(*´∀`*)
簡素な防具と少しナマクラになった武器を下げて、男がふらりと現れた。
ロスリック城を頂く山の中腹から少し離れた位置にある祭祀場にたどり着き、目をいましめている銀髪の妙齢の女性、― 火守女と言うそうだが ― に我が身の宿命を告げられ、男は奇妙な旅をすることになった。
名前を失っていた男はこれより「火無き灰」と呼ばれる事となった。
祭祀場とはなんとも不思議な場所で、どういった魔法なのかは知らないが、篝火を介して場所を移動できる。
また、外で出会い、火無き灰である彼を必要とする者どもを住まわせ、得てきた戦利品を渡せば魔術や呪術、そして見合うだけのソウルと引き換えに様々な物品を手に入れられるちょっとした町の機能を持つ場所として、蝋燭の火が彼らの気配に揺らぐ程には賑わう様になった。
もちろんそうしたお互いのやり取りをする以外の者も居るが、大抵は邪魔にならぬようにひっそりと存在を消して隅に居る。出自も境遇も判らぬ者たちがそれぞれに暗黙の掟と距離を保ち、平穏な時は過ぎていった。
【1】
その日も祭祀場を見て回っていると、見慣れぬ輩が中央の玉座の壁面にもたれて居た。
目だけが見える銀の仮面を付け、鎧とはまた違った装いと、変わった三角形の皮帽子を被っていた。一見すると剣士のようで、火無き灰よりも線が細く見えるが、厚く着込んでいる所為でよくは判らない。
「…ほう、貴公、火の無き灰だな…。そして律儀にも、玉座を捨てた王を探している、そうだろう?」
蛇を思わせるような声で、彼は薬指のレオナールと名乗った。
レオナールは生まれ変わりの母・ロザリアという女神に仕えている騎士で、自分の他に仲間が3人居る事、その気があるなら火無き灰を彼の仲間に迎えるのもやぶさかではない事をつまびらかにした。
レオナールとこの場所で二度目に会った時、その独特な響きを持つ声色は、他の者が聞けば生理的な嫌悪を感じるのだろうが、何故か火無き灰には好奇心そそるものとして受け止められた。
だが口から紡がれる一句一句は、身体の敏感な部分をぞろりと撫でていくようななまめかしさをはらみ、明らかに普通ではない。さすがに魅了の術の類を警戒した火無き灰は、隙を見るやレオナールを壁面に押し付け、後ろ手に捻り上げると静かに警告した。
「すまんな、何が目的か知らぬがあんたと話していると身体がむず痒くなる。何か術を混ぜているだろう。早急にこの場より立ち去れ。そして二度と戻ってくるな。さもなくばその女神に仕える貞潔の身体にイヤと言うほど下賎の穢れを教え込んでやるぞ。」
ところがレオナールは慌てる様子も、火無き灰の威圧的な態度も意に介さぬと見え、
「…貴公、何か勘違いしている様だが俺が女神の騎士とて、いつ色事を嗜まないと言ったかね」
うっそりと仮面の男は捻り上げられた腕の肩越しに火無き灰を見た。
そして小馬鹿にした様に小さく鼻を鳴らし、
「むかし、俺の居た貴族社会というのはな、表には出ないドロドロとした階級争いや、力関係が絶えず変化している世界の上に成り立っていたのだよ」
会話で気を逸らせて反撃する心づもりかと思いきや、話は続く。
「生き馬の目を抜く様な場所では使える手は何だって使うのさ。己の身体でさえもな。俺はそういう世界を渡っていく為に年端も行かぬ頃から男も女も知っている。言葉巧みにその気にさせて、上流貴族の年増女にあの手この手で天国を垣間見せ、支配層の将軍や騎士長どもに取り入り何度も身体を自由に使わせてやったものだ」
再び自分を抑え込もうとしている男をねめつけると、
「…その俺を手篭めにしようとは、なんの戯れだ。笑わせてくれる。だが、久しぶりの挑発に乗ってみるのも悪く無いか。
フフッ。…貴公を後悔させてやろう。…恨むなよ」
言い終わらぬうちにぐりっと手首を返され、あっという間に態勢が入れ替わる。
名うての騎士候やいかつい軍人相手だったと言うのは伊達では無いと見え、護身のこなしも確かなもののようだ。
どう、と火無き灰の身体が玉座の台に叩き付けられ、ほんの微妙な角度に手首を掴まれただけで身体全体の動きを封じられた。レオナールはのっしと背中に体重を乗せると無防備な耳朶のすぐ後ろで囁いた。
「…俺の味を、忘れられぬようにしてやろうか…」
聞こえてくる含み笑いに、火無き灰は思わず首をすくめた。
その一瞬の隙にレオナールの手が器用に防具の隙間から入り込むと、体温が一番集中しているであろう箇所を掴まれた。
予想もしなかった行動に思わず腰が引けたが、指はすでにソレの先端をまさぐっていた。
その時。仮面の目がはたりと止まった。
「貴公…、よもやと思うが本当に俺の言葉で濡れたのか?ほんの挨拶代わりのつもりだったのだがね…、フッフフフフ…!これはこれは!なんと貴公、まるでウブな処女のようではないか!」
心底面白そうにレオナールは呟き、
「幸い時間だけはたっぷり有る。ひとまず俺のお使いごとは棚上げにして、かつての腕が落ちていないかを早急に確かめなくてはなるまいな!…ククククク」
【2】
あっという間に巧みに両手首を結わえられた火無き灰は仰向けに転がされ、不本意にもレオナールに自由を許していた。
「先ほどの威勢の良い貴公はどこへ行った。それともただの虚仮おどしだったのか?」
「違う。俺は勘だけは鋭い。理由は判らないがあんたはどこか危うい。俺に何をさせたいのだ」
さて、なんだろうな、とレオナールはうそぶき防具を取り去った灰の胸元に、つ、と指を走らせた。
「それはそうと、なかなか正直な良い身体だな」
前開きの上衣を一枚引っ掛けられただけのあられもない姿にされ、爪を立て引っ掻くような乳首への小さな折檻に、脚の間に屹立したものがピクリと反応し、透明な雫が溢れ糸を引いて落ちた。
「俺の顔を見てみろ」
仮面を外したその顔は、大部分が酷く焼けただれて溶け固まった凄惨なものだった。
「炎に焼かれた痕だ。このバケモノの様な顔にされるがままというのも、なかなかそそるだろう?」
べろりと不自然なほどに紅い舌が、敏感な出口を舐めた。
温度差に思わず身体が撥ねあがり、熱っぽい吐息が口をついて出る。
「ふん、良い反応だな」
「やめろ…俺は、女の方が、好きだ」
精一杯の強がりを言ってみたが、焼け石に水だった。
「全く説得力ないな。じゃあこれは何だ。こんな所からだらだらとよだれを垂らしておいて貴公、行儀が悪すぎやしないかね?」
薄ら笑いを浮かべながら、熱く脈打ち、絶えず細い糸を落とし続けている火無き灰の自身をゆっくりと、まるで蛇のように喉の奥まで飲み込んでみせた。
「あっ…!やめろ…!ああっ…!」
強烈な快感を享受する事を理性で必死に拒もうとするが、身体は正直に相手の口の中で暴れた。
レオナールの目は火無き灰の苦悶を見るや楽しそうに歪んだ。
わざと聞かせるように湿った音を立てながら、怒張した得物をゆっくりと口から引きずり出し、また口の中に収め、男のみが知っている絶妙な快感の箇所をその身体に教えてやった。
ヌルつく液体を集め指に絡ませると、灰のまだ開かぬ蕾に塗り込み始めた。
「あ!ああっ、よせ、そこはやめろ…!」
「ここからが女との愉しみ方が違うところだ」
懸命に抵抗を叫ぶ男をよそに、ぐいと脚を広げ、きつくすぼませている小さな穴に指をめり込ませ、奥まで無情に差し込んでやると、男は大きく身体を反らせて悲痛な声を上げた。
「あっ、ああっ…ッ…クソッ…ちくしょう…!」
なすすべも無いまま一番繊細な部分を良いようにされ、せり上がる快感と屈辱の板ばさみから無意識に意味不明な悪態をついた。
「貴公も御無沙汰なのだろう。僭越ながら俺が慰めて差し上げようかね?」
クククと好色そうな笑いとともに、レオナールは服を解くと事も無げに火無き灰に跨がり、静かに自分の中に導いた。
しかし、こうした行為を当たり前のようにして来たと壮語している割に、どこか自棄めいた気配が見え隠れするのが気になった。
饒舌が途絶え行為に集中しようとするレオナールを見るに、生きる為の手段という他に、更に深い闇もありそうだ。
時折眉間を苦しそうに歪めているのを見た時、その違和感に思わず聞いてしまった。
「あんた…、男にヤられてホントに気持ち良いのか?」
我ながら場にそぐわぬ間の抜けた問いだとは思った。
「…そういう、貴公は…どうなの、だ…」
質問を質問で返してくるのはそれが聞かれたくない質問だからだ。
それならなぜ、この貴族だった男はわざわざ俺に身を預けるような事をするのだろう。
敵とみなせば、剣を抜くなり術が使えるなら呪殺すれば良いだけの話だ。
なんの取り柄も無い村民あがりの俺をどうしたかったのだろう。
もしかしたら彼は貴族とはいえ、そんなに階級が高くない出自なのだろうか。
中途半端な位置にいる有力者は、たいてい板ばさみになって俺たちのような下賤の者に圧政を敷くような理不尽を行う。
力の弱き者を鬱憤晴らしの対象にするのは、古今東西、決まりごとのようにすらなっている。
見ればまだ青年として充分に通用しそうな年齢、そして貴族であるにも拘らず…春をひさいで居たのならば…。
火無き灰の思考はそこで立ち止まってしまった。住む世界が違えば想像もつかぬ事があるとはいえ、この男に幼き頃から普通ではないたわめ方を強いた者たちが居た事に、不穏な気持ちを抱かざるを得なかった。
今までに無い感情が火無き灰に湧き上がって来た。憐憫…、同情…、どれも違い、またどれも正解だった。
身体が繋がっているその瞬間を共有してる相手をなぜか「愛しい」と思ってしまった。それはむしろ彼の特性ともいえる直感に近かった。
「なあ。たのむ…逃げないから…戒めを…縛りを解いて…くれ…」
「なに?」
「あんたを…触りたい。触ってみたい。」
レオナールは警戒したが、他意は無いと判断すると解いてやった。
「こんな醜い身体を触りたいなどと、貴公は馬鹿か?頭を黒死病にでもやられたか?」
騎乗の体勢から見下ろして悪態をついた。
火無き灰はレオナールの両脇へ腕を差し込むと、ぐいと自分に引き寄せ軽く接吻した。
「…血迷ったか。貴様」
突然唇を奪われ、ぎらりと殺気を帯びた視線を火無き灰に突き立てる。
「正気…のつもりだ。いや。おかしいのかもしれない。何故か今はあんたが厭じゃない。あんたのその酷い火傷の痕も俺は厭じゃない。触りたい。好奇からではないんだ。その、なんだかすごく知りたくて…」
一瞬の間を置き、呆れたようにその男を見た。
「刺激が強すぎて混乱してるようだな貴公。俺を見てそんな風に言う奴は今まで一人もいない」
「触らせてくれ。あんたの身体、…綺麗だ」
これにはさすがのレオナールも閉口した。
必死に抵抗する火無き灰を完膚なきまでに陵辱し、鬱屈を晴らし黒い悦びを味わうつもりで居たのが一気に毒気を抜かれてしまった。
「ハッ。とうとう狂ったな!そこまで言うなら好きにしたまえよ。ただし、妙な動きを見せたら命はない」
【3】
火無き灰が上になるとレオナールの身体に口づけ、掻き抱いた。
ところどころ引き攣れて盛り上がり、色も痛々しく黒ずんだ肉色の身体を丁寧に舌でなぞり、また、火傷を負っていない白い肌をも同様に愛撫した。
その間、触れられた場所からじわりと魅惑的な疼きが水紋のように広がり、内心困惑していることなどレオナールはおくびにも出さなかった。
彼は気付いていなかったが、身体はその困惑を正しくカタチにしつつあった。
「痛かったら言ってくれ。あんたを苦しめるつもりは無い」
「…無用の心配だ。いいから動け」
ぎし、と腰を動かし始めると、経験豊富といえどレオナールも無表情のままで居られなくなる。
目を瞑り、痛みを散らす為に集中する…というのが今までのお決まりだったが、この火無き灰とのそれは、なぜか厭では無かったし慰み事をしているという感覚も無かった。
…むしろ、これまで受けて来た全ての辛苦を凌駕するほどの痛みで上書きして欲しいとすら願った。
だが、即座に打ち消した。こんな訳の分からない感情が湧き出たのは、この馬鹿者の所為だと思う事にした。
「あんた、辛そうだが…」
「いいか…らッ…、早く、済ませてしまえ…」
「…判った…少しの間辛抱してくれ」
形の良い指の間に武骨な指を滑りこませ、レオナールの身体を逃げられぬようにすると、それまでは相当手加減をしていたと判るほどに何度も深くえぐり、そして精を放った。
レオナールは声を上げなかった。いや、上げたのだが声にならなかった。
それは望み通りの強烈、かつ、身震いするほどの甘い痛みが全身を貫いたからだ。
気が付けば、火無き灰の背中に引きずるような爪痕が何本も残されていた。
【4】
「すまん…手加減できなかった…きつかっただろう」
「フン…案外女とやるのと変わらんだろう」
「いや…あの…あんたとの方が…はァ…そういえばあんたは、まだ…?」
「気にするな。ハッ、貴公は本当にお人よしというか、馬鹿―」
「こんどはあんたが俺を抱いてくれよ」
― もう、何を言われても驚かないつもりだったが、この火無き灰は本当に何を言っているのだ ―
「その…、萎えてしまったのなら、どうして欲しいか教えてくれ」
殊勝な申し出に妙案を思いついた。してやられ放しの意趣返しとばかりに、意地悪く口角を上げ笑ってみせながら、
「…そうだな。俺のを勃たせてみろ、貴公の口技だけでな」
― 半分冗談のつもりだった。男は精を放ってしまえば正気に戻る。もうあのような馬鹿げた事は口にせぬだろう。
― それに俺はあの焔で男としての機能を失った。だからそれはありえないのだ。
そういう無理難題を押し付けて困らせる心づもりであった。
火無き灰は律儀にわかった、と返事をするとおもむろにレオナールの唇だった肉の盛り上がりに接吻した。
「貴公、俺の話を聞いていたか?」
何もかもが、レオナールの想像の斜め上を行き過ぎ、調子を乱され、思う通りにならない。
「心を一時でも移した相手に、俺は雑なことは出来ん」
しかも火無き灰の言う事の道理は通っているから余計にタチが悪い。
「それに、こんなまっとうな人間だった頃の気持ちになったのも久しぶりだったしな。あんたには感謝こそすれ怨みなど無い」
朴訥な男は、日の下で働いていた事を思わせるような手でレオナールの爛れていない頰にそっと触れた。
「もしかしたら、亡者になってしまう前の最後の人間らしい事かもしれんしな」
ニッと笑ったその顔は昏い道のりを歩んで来たレオナールには眩しすぎた。
この男は本当にねじれた世界を知らずに過ごして来たのだろう。のうのうと人並みの幸せを感じながら。
やり場の無い、怒りにも似た説明できない感情が、ふつふつとこみ上げてきた。
こやつは、この火無き灰は、どこまで馬鹿者なのか!阿呆め!
「…貴様…、俺を愚弄するのか…。貴様もそうやって俺を嘲笑うのか…?」
出合った時の冷静さは徐々に感情に支配され、どんな顔をして言葉を投げつければ良いか判らずに居る男に、火無き灰はぽつりと言った。
「あんた、…随分と辛かったんだな」
「俺を憐れむな!俺を!おれを…」
「…いいから、少し黙ってな」
手を伸ばし、レオナールを引き寄せ身体を慈しむようにゆっくりと包み込んだ。
頭を撫で、手の届く範囲を子供をあやすように優しくさすった。
しばらくののち、わずかな震えを感じ見てみるとレオナールは腕の中で小さく嗚咽していた。
涙を流す器官はとうに焼け潰れていたが、レオナールは泣いていた。
火無き灰は言った。
「俺はこう言う事には不慣れだし、また、大した手技も無い。あんたの慰めにすらならぬかもしれんが、俺はあんたとこうしていたい」
知覚も触覚も炎に殆ど奪われた肌では、愛撫など無意味に等しい。
しかし、そうされている事を知るだけで心は満ち足りるのだと初めて知った。
僅かに残っている生来の肌は、そうした中で更に感覚が研ぎ澄まされ、敏感に反応した。
柔らかな肉の上を何度も何度もついばまれると、格式張った物言いと悪態しか出てこなかった口からは、次第に色のついた吐息がこぼれてきた。
「あっ、あ、は…。あ…。そこは…、そこは…。ああッ…」
「…あんた、案外イイ声で啼くんだな…」
「ばっ…!だまれ…!…んっあ…ッは…」
「ほら、凄いな。触って居ないのにさっきの一戦より硬くてデカいぞ」
「言うな…!やめろ…」
まさか本当に勃つなど思っても見なかった。これなら充分に―
レオナールの自身ははち切れんばかりに天を仰ぎ、滴が滲んでいた。
「さっきは、…こうやってくれたんだよな」
ぎこちない舌遣いで舐め上げられると、思わず鼻を鳴らすような切ない声が出た。慌てて手を噛んで口を封じようとしたがその手を阻まれた。
「…駄目だ。あんたのそういう声を聞かせてくれ。俺しか聞いてないから。頼む」
そんな辱めをまさか自分が受けるとは思わなかったが、それに対して不覚にも興奮した。
己の脚の間に吸い付く男の髪をまさぐり、快楽を与えられるままに声を上げた。
「…そろそろ俺で試してみるか?」
「…は?…貴公は無理だろう。俺の指だけで大げさな事になっていたではないか」
「ん…正直なところ少し怖いな。ただ、さっきも話したが亡者ともなれば一切合切を忘れてしまうのだろうから、その前に人間としての全ての感覚をもう一度刻んでおきたいと思った」
真面目な人柄をそのまま言葉にしたような返事だった。
「それに、どうせ痛い思いをするなら心を移した奴にやって欲しい。その痛みは喜びとなるだろうから」
つい先だって同じ事をレオナールは思った。あの甘い痛みの事だ。
「貴公はホントに…救いようが無いな…」
「だろう?」
【5】
既に指一本分の開通は済ませてしまったが、レオナールはさらに緊張を取り除くために時間を掛けて丁寧にほぐしてやった。
以前の彼なら絶対しない行為だった。だが彼自身にもその理由は明確に説明できなかっただろう。
なぜなら他人の痛みに添おうとする者の存在はおそらく彼には理解の範疇外だったはずで、それに対し「善く」報いるべきである事に自力で思い至るのは至難の業だからだ。
慣れぬ被虐の感覚に目を瞑って耐え、それでも堪らず低い声を漏らす火無き灰をレオナールは見守っていた。
ほぐされた入り口につややかな自身の先端を当てると、少しずつ中に押し込んで行き、逃げぬように相手の腰をしっかり掴んだ。
「うっ…ぐ…。ん、ん…。う、…待っ、んッ…」
「辛いのは途中までだ。そこを過ぎれば素直に入る。耐えろ」
言葉は素っ気ないが、なるべく辛く無い体勢を探しレオナール自身を完全に埋め込んだ。
「ん…なんとも…背徳的な感じが…変なものだな…だが、悪くはない…」
「そうか。…あとは俺に委ねろ」
レオナールはかすかに笑った。
【6】
流石に欲深な上流社会の人間どもを相手して来ただけあり、凡夫の火無き灰は何度も快楽の果てを見せられ、その巧みな秘戯に舌を巻いた。
だが、レオナールの方はまだ一度も自らを解放していない。
「…俺はな、ある種の不能なのだ」
大火傷の心的外傷の所為で、興奮によって精は出るが勃起せず、通常の射精が出来ないのだとレオナールは言った。
「ただまあ驚くべき事に貴公とので、この様な事が出来るまでには、なったがな」
「…そうか。…そういうことか。解った。…あんたには多分、こうする事がどんなまじないや薬より効くのだ」
「もう、やめろ…。俺は…」
火無き灰は、何かに思い至ったらしく半身を起こすと再びしっかりとレオナールを抱擁した。
またかというため息と共に力なく押し戻そうとするレオナールをさえぎり、何度目かの惜しみ無い口付けの雨を降らせ、そして―
「…笑うなら笑うでかまわぬ。俺はあんたが好きだ。好きになってしまった。この先あんたと敵対する事が有るのかもしれないがな」
起こした半身を支えているのとは逆の手でレオナールの頬を撫でながら、まっすぐ瞳を覗き込んだ。
白く濁った片目は、機能していない事が見て取れる。だがそれすらもオパールのように美しいと思った。
もう片方の瞳は、恐れと不安の色に揺らいでいた。
「万が一明日敵対し、たとえあんたに殺されたとしても、今日好きだった事は俺の宝物にして笑って死んでやるさ」
サッとレオナールに緊張が走り、
「やめろ、死ぬなど。もう、やめてくれ…」
「例えばの話だ。俺はそう簡単に死なぬよ。だがいつどうなるか判らないゆえ、今は言葉を吟味せずに率直に言わせて貰おう。…あんたの事を忘れたくない程に好きなのだ、とね」
一呼吸置くと、
「レオナール、…俺はあんたの事が心底愛しい」
レオナールの肌に己の顔をそっと擦り付けると甘えるようにスン、と鼻を鳴らした。幸せな時を過ごす恋人の戯れのように。
焔禍に容姿を焼かれたレオナールを人々は恐れ、遠巻きにし、排除していった。当然誰もその無数の長蟲が這っているような綴れた痕に触れようともしなかった。親でさえも。
それまでも心休まる事が一時も無く貴族社会のしがらみを生き抜いてきたが、傷を負って以来、人を信じる事そのものを完全にやめた。
彼はたった一人でさすらい、生まれ変わりの母・ロザリアに出会うまでは文字通り己だけが頼りだった。
そこへ自分とはかけ離れた純朴の人種である火無き灰が現れ、あまつさえ短時間に盛大に振り回されたのだ。
レオナールは明らかにこの状況に対して大いに混乱を来たし、どう振舞うべきかを完全に見失った。
「…ウ…、あ、ああっ、やめ…ろ…ああ、ア…、糞ッ、糞ッたれ!貴公!貴公!貴様ァ!一度ならず二度までも!ちくしょう!」
突然引火したように理性はかなぐり捨てられ、恐ろしいほどの支離滅裂な感情をぶつけて来た。
火無き灰の両肩を力の限り鷲掴みするや否や、全体重を掛けて押さえつけ、眼下に組み敷く顔が苦痛に歪むまで激しく腰を打ちつけた。
「俺を、愛しい、だと?、ふざ、けるな!、誰も、俺を、愛するわけが、無いだろう!、この!大、嘘つき…め…!ううッ…ああ、ああ。糞ッ!…好きだ、俺も、…お前が好きだ、大好きだ、大嫌いだ、糞ッたれ!…愛してる、だが、殺して、やりたい、俺を、掻き、乱しおって…!許さぬ!許さぬ!」
火無き灰は、まるで子供に八つ当たりされるように理不尽な仕打ちを受けていた。
押さえつけるその腕を受け入れるように支えてやり、一切抵抗せずにされるがままに居た。
度を越した攻めに唐突な瞬間が訪れ、レオナールは操り人形のように動きが突然止まると、体中を痙攣させ苦しげに呻いた。
火無き灰の中で、重みのある液体様のものが排出される脈動が響いた。
全てを察した火無き灰は、呆然と視点の定まらないレオナールをゆっくり胸の上に休ませてやると、その身体をしっかり抱いてやった。
冷やりとした空気が火無き灰の頬を撫でたので目が覚めた。
どれほどの刻が経ったのか、いつの間にか眠ってしまったようだ。
辺りは祭祀場の蝋燭が変わらず点在して周りを僅かに明るく照らし、いつも通りの静けさがそこにはあった。
仮面の男はもう居なかった。
深緑色の上等なマントが火無き灰に掛けられていた以外は、レオナールの痕跡は見当たらなかった。
彼の過去は真に壮絶を極めるものだったのだろう。普通の姿かたちならばもっと楽に生きられたのだろうに。
他人が見れば化け物のようでも、火無き灰にとっては唯一無二の存在になっていた。
マントを抱きしめ残り香を胸に吸い込むと、
「また会えると良いな。あんたと戦わずに済む事を願うばかりだ…」
火無き灰はひとりごちた。
― END ―
ロザリア美容クリニックの隣に併設して、ED問題を解決できる窓口が出来そうだなと思ってしまいました。(すごい蛇足)
自分が気になっている問題点については、
・スムーズに話が展開できてるかどうか
・言葉の選び方が適切かどうか
・文を読んでその場がビジュアルとして思い浮かべやすいか
の3点です。
些細な事でもよいので、ご指摘などいただければ幸いです。
ご精読有難うございました!