雨の降るあの夜に 作:水月星名
雨の降るあの夜に、俺は彼女と邂逅した。
傘も差さずに一心に空を見上げる彼女の姿に俺は言葉を失い、気付いた時には彼女の横に立っていた。彼女は気にする様子もない。変わらず空を見つめているだけ。
「雨は好き?」
彼女はそう問いかけ再び空を見上げる。
「嫌いじゃない」
俺は自分の思いを言葉にした。
「そう。私もよ」
その時彼女が浮かべていたのは笑顔だったか、それとも悲しそうな表情だったか、はたまたその間だったか。わからない。わからないのに引き込まれてしまった。
「うち、来るか?」
なぜ彼女が家無しだとわかったのかはわからない。わからないがそう感じたのだ。そして、今彼女を俺の元から手放してはいけない、そう感じた。
「……行くわ」
雨の降る夜に、俺は彼女と邂逅した。
その日、彼女……
最寄りの駅から二時間。バスを二本乗り継ぎ見えてくるのが俺の住んでいる村だ。
山に囲まれ、見渡す限りの水田、今目に見えているだけでも家は十軒程。まあ、一つ一つが大きい為、思ったよりも視界は詰まっている。
どこをどう見ても田舎としか言えないTHE田舎。キングオブ田舎といっても間違いではないだろう。
「駅から二時間とか最寄りの駅とは言わねえだろ。……まったく、何が悲しくてこんな田舎に移住しちまったんだ……」
「都会での暮らしに疲れたからでしょう?」
「そーでした」
俺の隣に立つ少女、雨野照子から的確な答えが帰ってくる。
そう、俺は都会の暮らしに疲れ、この村へと逃げてきた。
大金持ちとは行かなくても、それなりの良家に生まれた俺は親の期待のまま有名大学に進学し、そのまま一流企業へと就職した。
それから十年真面目に働き、それなりの地位を手に入れた俺は会社を辞めた。
親は当然の如く俺を責め立て、会社の俺よりもさらに上に立つ上司のように俺を散々罵ってくれた。まあ、それは当然のことだしあまり気にはしていない。
しかし、俺はそんな毎日に飽きてしまったのだ。
親の期待に応え就職し、親の期待通りに金を稼ぐ。そんな毎日がたまらなくつまらなくなってしまったのだ。
その結果、この田舎へ移住。要は俺は逃げ出した。あの生活から尻尾を巻いて逃げてしまった。
「洋介、そんなことよりお腹が減ったわ。早く帰ってご飯にしましょう。作るのが面倒なら私が作るから」
「そうだな。じいさんに今日の売上渡したらな」
「そうね。早く行きましょう」
そう言って照子は黒にも見える深い青の髪を揺らして先を急ぐように歩いていった。
「軽トラあるんだから歩く必要ねえだろ」
「……忘れてたわ」
「あほか……」
恥ずかしそうにこちらに戻ってくる照子を助手席に乗せ、村ただ一つの休憩所を後にした。
「じいさーん。今帰ったぞー」
「おー、洋介君、照子ちゃんおかえり」
村の中でもそれなりに大きい家の前に車を止め、玄関の扉をガラガラと開くと奥から一人の老人が出てくる。
「玄おじいちゃんただいま。はい、今日の分」
「いつもすまないね。そいじゃ、これが今週の分ね」
「おう、確かに受け取った」
じいさんは照子から手渡された封筒を受け取ると、傍らに置いてあった封筒と袋に入った野菜と米俺達に渡す。
別に怪しい取引をしているわけではない。
このじいさんの名前は
今は息子夫婦と一緒に畑を回している。その他にも二人正社員のような立場の者がいるのだが、こちらとはあまり関わることはない。
職のあてもなくこちらへきてしまった俺に、このように仕事を与え、それに対する対価を払ってくれるいわば命の恩人だ。
俺と照子が任されているのは、ここから一時間半程いったところにある道の駅で開かれる朝市に行き、じいさんが作った野菜を売りにいくことだ。勿論、時々ではあるが畑の手伝いもしている。
その労働の対価として、ほんの少しの給料と野菜や米を分けてもらっているということだ。
「今日も大盛況だったよ。一時間で持って行った分売り切れちまった」
「そうかいそうかい。それはよかった」
「さて、照子帰るぞ。帰って飯だ」
「わかったわ」
照子に野菜の袋を持たせ、俺は封筒をポケットに入れ米の袋を持つ。
「気を付けて帰るんだよ。明日もよろしくね」
「おう、じいさんも倒れるんじゃねえぞ」
「じゃあね、玄おじいちゃん」
挨拶も程ほどに俺達は高野家を後にした。
「ただいまっと」
「ただいま」
村の中でも一番小さな家、と言っても二人で住むには広すぎる建物が俺達の家だ。
「どうする?ご飯私が作る?」
「いや、昨日もお前が作ったろ。今日は俺が作るよ」
「そう、じゃあお風呂でも沸かしておくわ」
「了解」
朝市は結構汗をかくからな。今すぐにでも風呂に入りたい気分だ。その関係もあって俺達は昼と夜の二回風呂に入るからな。
「さて、作るか」
俺達の食事当番はその日の気まぐれだ。俺の気が向けば俺が作るし、照子の気が向けば照子が作る。
料理といっても移住してきてから覚えたもので、ほとんどがじいさんの受け売りであり、男の料理に部類されるようなものが多い。まあ、それでも味は美味いし別にいいだろう。
逆に照子の料理はじいさんの息子の嫁に教わったものであり、こちらはお袋の味に近いものだ。どちらかと言えばこっちの方が美味い。できることなら毎日作ってほしいが、任せっきりというのもあれだしな。
「うーん。……適当に切って野菜炒めにでもするか」
これが俺の得意料理だ。
適当な大きさに切った野菜を片っ端からぶち込み、適当な量の調味料をぶっかけひたすら炒める。これに別個で肉でも焼いて米を炊けばそれで腹は充分膨れる。
まあ、これを料理と呼んでいいのかは微妙だが、意外と美味いし別にいいだろう。照子も美味いと言って食べるし。
「お?今日は野菜炒めね?」
適当な大きさに野菜を切っていると、横に照子がやってくる。
「風呂沸いたのか?」
「あんなのちょっと掃除してボタン押せば勝手に沸くじゃない」
「田舎の幻想壊すなよ。都会人は今でも田舎は五右衛門風呂って思ってるんだから」
「ありえないわ」
「おい」
そんな完全否定しなくてもいいじゃないか。五右衛門風呂いいじゃないか。今度作ってみようかな……。
「大皿出しといてくれるか。あと飯も机に出しといてくれ。すぐできる」
「わかったわ。……うちにかまどなんてないわよ」
「自分の家なんだからわかってるよ」
さっきの五右衛門風呂も冗談だっての……。
「ふぅ、生き返る」
「おっさんみたいよ?」
「おっさんだからな」
湯気の立ち込める浴槽に肩までつかると、その温かさが全身に染みわたっていくのがわかる。これがわかるようになったのは二年位前だな。俺もおっさんになったということだろう。
あの後、昼食を食べ終えた俺達は沸かしておいた風呂に入っている。
「そうね。ほら、足を広げなさい。私が入られないじゃない」
「へいへい」
俺が浴槽の中で足を開くと、その間に照子の体が入ってくる。
照子はそのまま力を抜き、背中を俺に預け楽な状態を作り上げ、俺はその体を支えるように抱きしめた。
「気持ちいいわ」
「だな」
俺の顔のすぐ下には照子の頭があり、先に頭と身体を洗ったからか良い匂いがする。相変わらず綺麗な髪だ。俺は思わず髪に鼻を近づけてしまう。
「……くすぐったいわ」
「悪い」
「別に構わないけど」
照子もくすぐったそうにはするが拒絶はしない。むしろ何かを期待しているようにも見える。
「洋介……」
「照子……」
物欲しげに俺の名前を呼ぶ照子に俺は応えるように頭を撫で名前を呼ぶ。
そして、ゆっくりとお互いの顔を近づけ、やがて唇を重ね合わせる。照子の体がぴくりと震え、小さく吐息が漏れる。
その吐息は俺を焚き付ける材料となり、俺は照子を強く抱き寄せ、先程よりも激しく照子の唇をついばむ。照子の口からは吐息と一緒に小さな喘ぎが発せられる。
やがて、ついばむだけのキスは舌を絡める濃厚なものへと変わり、お互いの口からは唾液が艶めかしく垂れ始めていく。俺の手も、片方は大きさは標準だが柔らかくハリのある胸へと伸びていき、もう片方は更に下のワレメへと伸びる。
照子の手も俺の下半身にそそり立つ棒に添えられ、湯の中で艶めかしく撫でている。
「照子、湯より熱いものが溢れてるぞ」
「洋介のここも湯より熱いんじゃないの?」
「なあ、照子……」
「いいわ。来て、洋介」
照子は俺のそれにまたがるような体勢になり、自分の秘所にそれを当てる。お互いのそれが接触した瞬間、二人の体が同時にピクリと震えるが、照子は気にせず腰を下ろした。
「はぁぅ!」
「大丈夫か?」
「大丈夫よ……気持ち良いわ」
照子の中に俺のものが入った瞬間、身体が少しだけ浮き、今日一番の喘ぎ声が浴室に響く。このいれる瞬間というのは何度経験しても緊張するものだ。照子を傷つけてしまわないだろうか、急ぎすぎてはいないだろうかと考えてしまう。
「動くぞ」
「ええ……」
確認を取り、ゆっくりと動き出すと、それに呼応するように浴槽の湯も小さく波を立てる。ただ湯が跳ねる音ですらエロく感じてしまうのはこの状況が作り出したものだろう。
しかし、それが耳に届くのも照子が声を上げるまで、そこから先はもう照子の声と息遣いしか耳に入らない。
俺が腰を打ち付けるたびに照子は激しく嬌声を上げる。
その嬌声は俺を昂らせ、照子自身をも昂らせる。
やがて、それまで高い声を上げ続けていた照子が何かを我慢するような苦悶の表情を浮かべ、俺の背中に手を回し強く抱きしめてくる。
「ふぅ……んぅ……」
このように唸るような声だけが俺の耳元で囁かれる。その瞬間、俺の下半身の奥底からこみ上げてくるものを感じる。
「照子……」
「いいよ、わたしも……」
言葉を交わし、軽くキスをすると、落ち着いていた動きが先程よりも一段と激しくなり、俺も思わず声を出してしまう。
「気持ち……いい……。もっと、もっときて、洋介!」
「照子……!そろそろ、俺!」
「きて、きて!私も……イクッ!」
強く、深く、俺は腰を打ち付ける。
もう、我慢できん!
「照子……!イク!」
「あ、あぁぁぁ!」
奥底からこみ上げてきたものが照子の中で弾けた瞬間、照子の身体が今日一番の嬌声と共に大きく反る。照子の身体は小刻みに震え、俺のものも同じように震えていた。
「気持ちよかった……」
「俺もだよ」
力が抜けたのか、照子は俺の胸元へと体重を預ける。
これがあの日から始まった俺達の関係。
この正体が何か分かっている。そう……。
依存だ。