雨の降るあの夜に 作:水月星名
「暑い……」
朝の一仕事を終え、家に帰ってきた俺達を待っていたのは戸締りをしっかりした我が家だった。
こんなド田舎に泥棒など出ないとは思うが、一応盗まれて困る物は置いてあるわけで……。爺さんからの助言とも言える言いつけもあり、外出の際は全ての窓や戸を閉め、鍵を掛けた状態にしている。
まあ、何が言いたいかというと。
「照子。この蒸し風呂状態はなんとかならんのか」
「私に言われても、どうしようもないわよ」
すごく家の中が暑いということだ。
いやまあ、ここに来てからずっとこの状態が続いてるし、もう何度もこんな状況の家に帰宅しているのだが……。この部屋に入った瞬間のモワっとするやつが俺はどうにも嫌いでならないのだ。
「もういっそのことずっとクーラー入れておけば?」
「俺の懐事情はそんなに裕福ではない」
「貯金残高は?」
「二千万」
「あるじゃない」
俺のちょっぴり自慢の貯金残高を聞いても照子は驚きすらしない。
大抵の奴は聞いたら驚くんだけどな。こいつは、初めて聞いた時ですらこんな状況だった。あの時はぶっちゃけショックだったよ。
「貯金を崩し始めたら終わりだと思っている」
「その変な意地を捨てればもっと裕福な生活ができると思うのだけれど……」
「贅沢は敵だ」
「良家の生まれとは思えない発言ね」
「良家の生まれだからこその発言だ」
贅沢が悪いとは言わない。金があるなら使えばいいとも思う。思えば、昔は俺も随分と贅沢をしたもんだ。だが、贅沢をした後に残る後悔はあまり良いものではない。
まあ、こういうことを思うことが俺が良家の人間になりきれなかった最大の理由なのかもしれないな。
「あついー、あついー」
「子供みたいな声を出さないでちょうだい。おじさんがやるときついわよ」
「おじさん言うな……とも言えない歳なのは確かか」
自分で言ってて悲しくなったわ。
「でも、確かに暑いわね」
今日の気温は午前の早い時間にも関わらず、すでに三十度近いところまで上がっている。日中になればもっと上がるだろう。考えただけでも気が滅入りそうだ。
流石の照子も暑そうに団扇で顔に風を送っている。
よし、今日は家でグータラするつもりだったが予定変更だ。
「こりゃダメだ。照子、濡れてもいい服持って来い」
「濡れてもいい服?……あぁ、川に行くのね」
「おうよ。家でグータラは明日に延期だ」
家を出て山の方へ向かって十分程歩くと山道への入り口が見えてくる。それを入りもう十分歩いたところに俺達、というよりは村人の多くが集う川遊び場がある。
山の中ということもあり、程良く日陰ができる絶好の避暑地だ。
村の年配たちが川釣りを楽しめば、里帰りをしてきた家族がバーべキューをしたり、村の子供達の数少ない娯楽の場所だったりする。
ここ最近までコンクリートジャングルの中で揉まれながら生きてきた俺にはとても新鮮で、一回来ただけで虜になってしまった場所だ。
「んー、やっぱりここはいいな。何より涼しい」
「うふふ、そうね。暑いのが苦手な洋介には絶好の場所ね」
そういう照子も先程より少しばかり表情が緩んでいる気がする。なんだかんだ言ってこいつもここが好きなのだろう。
「静かね」
「だな」
まだ時間が早い為か、川の周りに人影は見えない。
その為、聞こえてくるのは川の流れる音と木々が重なる音だけだ。まあ、これだけ暑ければすぐに人は集まるだろう。
「冷たくて気持ち良いわ」
「だな。良い感じだ」
俺の足の間に座り、足を水につける照子の言葉に賛同する。胸に感じる小さな温もりも相まってちょうどいい感じだ。
「欲情した?」
「今の流れでどこに欲情する要素があったんだ」
こいつはいったい何を言っているのだろうか。
「濡れた少女」
「アホか」
「濡れたってなんだかエッチよね」
「ノーコメントだ」
「濡れた足、濡れた身体、濡れた髪、濡れた……」
「うるせぇ。はいドボーン」
真剣な顔つきで濡れたを連呼する万年発情少女を脇に抱え川へ飛び込む。
「きゃあっ!何するのよ!」
本当にずぶ濡れになった照子は、普段出さないような声で俺を問い詰めてくる。
「何するのよじゃねえよ。少し頭を冷やせ」
「きゃっ!……やったわね。覚悟しなさい洋介」
軽く水をかけてやると、先程とは違うスイッチが入ったのか、その深い青の髪をかき上げ鋭い目で俺を睨み付けてくる。
「はっ。覚悟するのはお前の方だろ。後で泣いて謝ってもしらねえからな」
「その言葉、そっくりそのまま返すわ」
一瞬の間。
「万年発情女」「髪フェチ、匂いフェチ、いろいろと激しい男」
「多いわ!一つにしろや!」
「いっぱいありすぎる洋介が悪いのよ!」
そこから始まるのは言葉と水の掛け合いっこ。まあ、そんな生易しいものではないが。
「あー!照子姉ちゃんと洋介おじちゃんだ!俺も混ぜろー!」
「だれがおじちゃんだぁ!お兄さんと呼べ!」
「ぷふふ……おじちゃんっ……ぷふ」
「許さん」
あの壮絶な戦いは二十分程続き、俺の体力切れであえなく終了した。やっぱり俺おじちゃんだわ……。
その後は、途中で合流した子供達や年配の様子を見ながらゆっくりと過ごした。
世間は休日ということもあり、町の方から友達を連れて来た子供もいた。そいつらと昼飯を食べたりなど、なかなか楽しい時間を過ごせたと思う。帰り道の照子も満足そうな顔をしていたしそうなのだろう。
「疲れた……」
「はしゃぎすぎなのよ。もう三十過ぎたおっさんなんだから」
「うるせぇ」
まあ、確かに三十過ぎたおっさんが子供を一生懸命追いかけてたらこんな状態になるよな。明日は筋肉痛だわ。
「ほら、マッサージしてあげるからうつ伏せになりなさい」
「エロいことはなしだぞ。おじさんは少し疲れている」
「それはあとでいいわ」
後でするのかよ……。今日はナシの方向で進めてほしかったんだが。
照子の言う通りうつ伏せになると、俺の腰辺りに照子が乗ってくる。
これはこれでエロい状態だよな。いや、照子にも俺にもそういうつもりはないんだけどね。
「少しは普段から運動しなさいよ」
「おじさんになるとな、少しの移動でも息切れするんだ。運動なんてしたら死んでしまう」
「世の中には四十過ぎても活躍しているスポーツ選手だっているんだからあなたにもできるでしょう。同じ人間の男なんだし」
「あいつらと俺を一緒にするな。根本からというか、昔からの積み重ねが違う」
まったく。スポーツ選手と俺みたいな普通のおっさんを一緒にするな。家の関係でスポーツ選手とも少しばかり交流があるが、あいつらを間近にすると身体の在り方から全然違うことがわかる。
「学生時代、部活とかはしなかったの?」
「生憎、スポーツはあんまり好きじゃなかった。外で遊ぶこともあまりなかったな。こっちに来てからだよ。こんなに外で活動してるのは」
「インドア派だったのね」
「まあ、親もそれについて何も言わなかったしな。その代わり習い事やら、塾なんかは色々通わされたけど」
スポーツをしないのなら習い事をしろ、勉強をしろ。家で何もせずにいるということだけは許されなかった。まあ、それについては助かったと思ってる。あのまま行けばニートコースまっしぐらだったし。
「ピアノ、バイオリン、習字、そろばん……その他にもいろいろやったな」
「想像ができないものばかりね」
「俺もそう思うよ」
今思えば、あの時やったものが今には全然生かされてないな。一つの道を極めることもなく、ただ時間だけを過ごし、タイムリミットで終わった。
どうしようもなく無駄なことだった。
「だから、本当にここでの生活は新鮮で楽しいよ。今まで俺が全然知らなかったこの暮らしが都会でしていた贅沢な生活よりよっぽど楽しい」
「贅沢のできない暮らしをしている人が聞いたら怒りそうね」
「怒ればいいさ。隣の芝生は青く見えるっていうしな」
結局のところ、何事も経験してみないとわからないのだ。贅沢が羨ましいというやつは幾らでもいるだろう。しかし、俺は贅沢を経験してあれほど退屈なものはないと思った。
でも、それは俺に合わなかっただけかもしれない。実際、贅沢の中で幸せに暮らしている奴もいるわけだし。
「まあ、ここにはお前もいるからな。あの時、お前に出会えたのが一番良かったことかもしれん」
ここでの生活において、照子という存在は俺にとって非常に大きなものだ。こいつが居なかったらここでの生活も今とは少し変わっていたかもしれない。
「嬉しいことを言うじゃない。そんなに思ってもらえているなんてね」
「少しは照れろよ。それを期待したんだが」
「私がそういう女じゃないっていうのは洋介が一番知っているでしょう?」
「ああそうだった」
そうだった。こいつはそういう女だったよ。
こいつを言葉で照れさせるなんて無理な話だったよ。
だから、しっかり行動に起こさないとな。
「……洋介?きゃっ!……っ!?」
俺は勢いよく体を起こすと、倒れそうになった照子を抱き唇を合わせる。
「な、何をするのよ……」
「ほんとお前、直接的な接触には弱いよな」
「う、うるさいわね」
言葉にめっぽう強いことは知っている、それと同時にこいつの弱い部分も知っている。こいつは直接的な接触にめっぽう弱いのだ。頭を撫でられるだけでも照れるし、こうして不意打ちのキスにも弱い。こういう部分は照子の可愛い部分だと思う。良い反応をしてくれるし俺的にも心が満たされて良い。
「洋介が接触に耐性ありすぎなのよ……」
「普段下ネタばっか言ってるやつが何言ってるんだよ」
「そ、それは!所詮言葉だし……」
「お前の基準が良く分からんよ。まあいい、ほら顔こっち向けろ」
「……はい」
こうなればもうこっちのもんだ。照子は俺の言葉に逆らえない。
こちらへ目を合わせず顔を向けた照子の視線に合わせるように、下から唇を重ねる。
「こっち向けって言ったろ」
「洋介ぇ……」
今にも泣きそうなほどに潤んだその瞳に俺の心は喜ぶばかり、照子を抱く腕の力も強くなる。
「はぁっ……洋介、強いわ」
「痛いか?」
「そうじゃないけど……」
「じゃあ、黙ってろ。痛かった言え」
「……」
俺の言葉に照子は無言で首を縦に振るだけ。その顔は赤く染まり、緩み切っている。
それを確認すると、俺の手はその綺麗な首元へ伸びる。熱を帯びたその首筋は敏感になっているのか、俺が触れた瞬間、ピクリと照子の身体が震える。
「……んぅ……うぅ……洋介!」
「……っ!?」
プルプルと震え、くぐもった声を出したかと思えば、強引に唇を奪われてしまった。
そのキスは激しい。しかし、その中には何かを懇願するようなそんな強い気持ちが込められているようなものだった。
「どうしたんだよ」
「あなたが誘ったのでしょう」
その顔は若干恥ずかしさは残っているようだが、完全にそっち方向にスイッチを切り替えたものに変わっていた。
「ま、そうだな」
「んぅ……」
まあ、強引にスイッチを切り替えた照子と既に切り替えていた俺じゃ雲泥の差があるわけで、今回の主導権は俺が握らせてもらう。
まだ風呂は入ってないがこの際仕方がない。どうせ汚れるのだし後で良いだろう。
「ん?少し成長したか?」
「会った時から一ミリも成長してないわよ」
「おかしいな。こんだけ揉んでるのに」
「んっ……うるさいわね。黙って揉みなさいよ」
「へいへい」
こういう時でもこんな会話が生まれるあたり俺達らしいと思う。
大きくはないが、小さくもない。程良い大きさで尚且つ綺麗な照子の胸を、爪を立てないように優しく包み込むように揉む。
女性の胸特有の柔らかさと、照子の温かさが心地良い。
「焦らさないで……」
「焦ってもしょうがないだろ。ゆっくり行こうぜ」
「私が我慢できないと言ってるのよ……」
「そうかい」
お嬢様の懇願とあっては聞かないわけにいかないな。
俺は唇を重ねたまま、綺麗な色をした乳首へと指を這わせ、もう片方の手をワレメへと持っていく。すると、くぐもったような声から激しい嬌声へと変わっていく。
その嬌声は俺を昂らせ、行為を更に激しくさせていく。
「……うぉ」
「あら、可愛い声」
そんな行為に夢中になっていると、照子の細い指が俺の息子へ伸びていた。
いきなりで思わず変な声出しちまったじゃねえか。
「……ふふ」
「わーお」
なんという事でしょう。あっという間に照子の顔が俺の前から、おっぴろげになった息子の目の前に行ってしまった。
「いい?」
「聞くなよ」
「いい?」
「はぁ……。頼む」
「かしこまりました」
照子はそう答えると俺の息子を根元から先端までゆっくりと舐めあげた。それに呼応するように凄まじい快感が全身へと伝わっていく。油断したら声を出してしまいそうだ。
「ふふ」
まあ、そのような感情が顔に出ていたのだろう。照子は嬉しそうな表情を浮かべると息子を口に含んだ。
やべぇ、毎度思うが気持ち良すぎる。こんなの続けられたらすぐイッちまう。
「いつでもイっていいのよ」
「すぐイッたらもったいないだろ」
「別にいいじゃない。洋介ったら体力はない癖に回復力は凄まじいのだし」
「そういう問題じゃないのよね……」
「知らない」
これ以上の問答は無駄とばかりに照子の行為は激しさを増す。
照子の口が根元と先端を行き来する度に猛烈な快感が俺を襲う。
あぁ、こりゃ本番前に一回イかされちまうな。俺の理想はいつも叶わないなほんと……。
「我慢しないで。お願い」
「わかってるよ。いちいち頼むんじゃねぇ」
言われなくてもこんなの我慢できないっつの。
俺の言葉を聞いて照子は嬉しそうに微笑むとその動きを更に激しくしていく。
「照子……!」
「来て」
おいおい、その表情は反則だろ。
照子の艶めかしく、これ以上ない幸福感に満ち溢れた表情へ俺は自分のものをぶちまけた。
「はぁはぁ……。結局先にイかされちまった」
「気持ちよかったでしょう?」
「……ああ、最高だったよ」
「そう、よかったわ。……洋介」
「わかってるよ」
照子の言葉からすべてを察した俺はすでに回復済みの息子を横たわった照子のワレメへもっていく。
「行くぞ」
「えぇ」
ゆっくり、傷つけないように息子を照子のワレメの更に奥へと進めていく。
「くぅ……あぁ!」
やがて、それが照子の一番奥までたどり着くと、照子は大きな嬌声を上げる。
照子の激しくも、綺麗で尚且つ可愛さを残した嬌声は俺の行為に激しさを増させるには充分で、俺の動きは早く、激しくなっていった。
「洋介、ようすけぇ……」
照子の方も既に若干呂律が怪しくなっており、今にも蕩けそうなほどだ。
しかし、ここで我を忘れることなかれ。
ここで自分勝手に突っ走ってしまえば、俺だけが気持ちよく果ててしまう。それだけは何としても避けなくてはならない。
照子の呼吸に合わせるように腰を動かす。
「洋介、優しい」
「そりゃどうも」
いつもやってることだろうが。今更なんだってんだ。
やがて、照子の呼吸が荒く、早くなっていく。それに合わせ、俺の方も動きを激しく、強くしていく。
「洋介!ようすけ!もう……!」
「ああ、俺もだ」
「来て。あなたの全てをちょうだい」
「言われなくてもそうするよ」
俺は照子の奥へと響かせるようにズンズンと息子を打ち付ける。
「あぁ……イク!もうだめぇ!」
「俺も……!」
「洋介ぇ!」
「……照子!」
お互いの名前を呼び合った次の瞬間、お互いの繋がっている部分が激しく震える。
その震えは少しの間止まることはなかった。
「ねえ、洋介」
「なんだ」
「また川に行きましょう」
「……気が向いたらな」