霧から現れる唐突な攻撃の日から、特に何も無く時間が経過してスーパームーンの当日たる月曜日の23日。
先日は桃子さんやなのはから「怪我とか平気?」等のいつもと同じような質問であったが、何かあったのかとかの疑問みたいなものを感じさせられるような目もしていた。
士郎さんが「何も無いよ」と笑って、彼女達を誤魔化して心配そうな表情を消してはくれたものの、それが一時的なものであるのかは分からない。
それに、例の霧野郎と関連があるかは確証は無いが、やけに自分が無意識に気にかかるような感覚に陥っていた殺害事件。
あれは、俺達が出かけたあと報道されたようで、その頃はまた増えていたようだが、その日以来死体は増えていないという。
どこかで野たれ死んだのか、殺すのをやめたのか、どちらにせよ少し物騒な空気が数週間ほどは漂うけど、いずれは平穏になってはいくだろう。
けど、もしあの霧と関連があるとして、狙いを誰か一人に絞ったとしたら……。
「……」
いや、やめよう。あまり気分の良いものでは無い。
「アキく~ん! 行こう!」
「あぁ、今行くよ!」
玄関で待っていてくれる、栗色ツインテガール少女ことなのはへそう返事をして、俺は彼女のもとへと早歩きで向かった。
◇◆『月に叢雲、花に風』◆◇
送迎バスで乗り込めば先にアリサとすずかが奥の最後部座席に着席していて、俺達を見つけると声を掛けてくれる。
「おはよ~なのは、それに明良」
「おはよう。なのはちゃん、明良くん」
「おう、おはよう。二人とも」
「おはよー。アリサちゃんにすずかちゃん」
互いに挨拶を交わして左側が空いているので、そこに俺達は座る。
座席の順としては、右から俺・なのは・アリサ・すずか、という形になっている。なのはが俺から大体離れないことはアリサもすずかも交遊の日は少ないけれど、察しているので何も言わない。
俺が今なのはの位置にいる時もあるが、頻度的にはそんなに多いほうでは無い。
「あ、今日体育あったっけ?」
「おう、今更それ聞くかい」
「明良の言うとおりね。まぁ、安心していいわよ、なのは。今日は無いから」
「あ、ありがとう。今思い出して、少しどうしようってなっちゃった」
少し怖い発現するなのはに俺とアリサがそう対応し、彼女は体育の無いことを知って安堵の表情を浮かべる。
昨日は何も無かったにせよ、一昨日のことで何か察して気がかりでもなったか、それとも別のことか。よく分からないが、なのはが右手で握る俺の左腕には普段より力が入れられている気がしなくも無い。
「なのはがコレだと、明良も何か忘れてたりすること無いわよね」
「さ、流石に無いんじゃないかな……」
「ちょ、ちょっと。すずかちゃん……? それ、私はダメダメってこと……?」
アリサの発現をもとに思考を巡らせて見るが、ちゃんと鞄の中に今日行う授業に必要なものは入れてあるし、プリントとか宿題も入れてある。ましてや筆箱なんぞはもう忘れてたりはしてない。宿題と同時に入れたのはちゃんと、この我が目で確認しているのだ。
俺の左でキャーキャー喚いて少しなのはが驚いたような顔を浮かべて、すずかが少し焦った様子が見受けられた。
「お、おい。大丈夫か……?」
「う、うん。なのははダメダメじゃないなのははダメダメじゃない」
「よくねぇだろ」
「よくないわね」
「あ~~っ! ご、ごめんねっ! なのはちゃんはダメダメじゃないよ!」
「そ、そうだよね!」
すずかの否定に顔を上げてそう自分を肯定し、「なのはは大丈夫!」と自分で発言しだした。
「まぁまぁ、たまには忘れ物もある時はあるさ」
「そ、そうなの……? アキくんは、したこと、あるの?」
「あー、どうだったかな……」
「な、無いよね。なのは、知ってるもん。アキくん、いつもチェックしてるの」
「……はい、無いです」
「うん、じゃあなのはもチェックちゃんとしなきゃ!」
「あ、はい」
励ますつもりでなのはに声を掛けたが、なんだか知らないけど方向が変なような合ってるような感じに進んでしまったので黙ることにする。
その後も、色々塾云々とか今日の昼飯の場所とかを駄弁りつつ乗車しているバスは目的地へと走行していった。
――――
「明良、そろそろテスト近いけど、順調かい?」
「おう、ヘマさえしなければOKよ」
「その位なら大丈夫そうだね。で、例の勝負相手は?」
「すずかの所にいってるんじゃないか?」
湧屋と会話しつつ隣の席を見てみると、そこは空席で席を座ることになっているアリサはこの教室にはいない。
「あー、あの月村家の娘さんだね」
「そうそう、見かけたことはあるんだっけ」
「一目だけね。でも毎回、お姉さんらしき人と一緒にいるか、そのお姉さんと彼女のご両親しかいないって感じだったね」
「なるほど、ね」
湧屋も集会というか舞踏会みたいな場所で参加していた時に月村家の人を見かけたことがあるようだ。彼は両親二人に遠めでも出会っているようだが、俺は生では一度も見たことは無い。
「でも最近はそういう集まりには僕は参加していないから、今は分からないよ」
「あぁ、最初の頃言ってたね。学業の方に重視するって」
「うん、まぁ趣味嗜好は休息の時に楽しませて貰ってるけどね」
「それは何より。休息は大事だからの」
如何なる事であっても休息は大事なのは、年齢関係なく誰でも同じだからね。無理しまくって死に掛けた経験が何度もある俺からの一言です。
「今日は昼こっちで食べるのかい?」
「あぁ、今日は屋上じゃなくてここだとさ」
バス内で先に決定された予定の一部である昼飯場所。その場所は俺とアリサがいるこのクラスで今日は行うようで。
「そういや、今日担任のあの先生諸事情でお休みって言ってたけど、何だろうね?」
「さあ? 俺達生徒には分かりかねない何かがあるかもしれないよ?」
「あー、大人の事情というものだね?」
「そうそう、それ」
「良く耳にするよ……」
「まぁ、そちらの御世界じゃありそうだもんな」
湧屋と会話を続けようとした所、鐘が校内に鳴り響くと同時に授業を担当する教師がクラス内に扉を開けて入ってきた。
「じゃ、また」
「うん、またね」
「ねぇ、知ってる? 結構ニュースでやってる事件なんだけど……」
「あの、さつがい事件ってヤツ?」
「うん、そうそれよ」
昼食の弁当を空にした俺はアリサの言葉を耳に入れる。なのはは、確認するようにそう彼女に聞き、返事で合っているのを確認して思い出したのか少し恐怖心が顔ににじみ始めている。
「あの事件、おかしいっていうか……。随分と早いなって、思うんだけど……」
「うん、そうだね。二日の間であんなに死人が出るているし、かと思えば急に止まるし」
「このまま何も無い方が良いんだけど」
三人の少女は憂鬱気な顔つきになっていき、俺達の空間が少し重くなっていくような気がした。
なので、この会話を振った本人に俺は声を掛ける。
「……重くなったから、何か良い方の話題出して、アリサ」
「えっ、えええっ!? いきなりは無理があるわよ!」
「何か考えて」
「無慈悲!」
わたくし、むじひなんてことはありません。当然です。
「その、キリっとした顔やめなさいよッ」
「あ、すまない。無意識」
「……」
あ、そろそろやめとかないと、拳が飛んできそうだ。危ない。
「まぁ、話振ったのはアタシだし、良いけど……」
「「おおーっ!」」
何処か期待の眼差しみたいな目つきをしていた二人の少女が、アリサの了承の声を上げた瞬間にそう歓喜みたいな声を上げる。
「うぅ……。味方がいない……」
「何でも良いんだよ、何でも」
「じゃ、じゃあ……。あっ、明良となのはって兄妹なの?」
「あー、そういや言ってなかった」
「確かに、言ってなかったね〜」
アリサから振られた話の話題とはなのはとの関係性についてだった。
確かになのはの言う通り、まだ名前を名乗っただけで苗字が一緒という事は分かっても、どんな関係かまでは述べていなかった。
なのはと苦笑を浮かべた顔を見合わせ、俺から切り出すことにした。
「兄妹じゃないよ、俺は高町家の養子って感じかな」
「あー、そういう感じなのね」
「明良くんとは別に、兄妹のような関係の人はいるの?」
「うん、いるよ~。お兄ちゃんとお姉ちゃんの二人がいて、お兄ちゃんの方が最近『高校生』ってのになって、お姉ちゃんがその一つ下で『じゅけんせー』で勉強頑張ってるみたい」
なのはが微妙に覚えていないのか曖昧な感じで彼女達に説明していく。
「上に二人もいらっしゃるんだね」
「お姉さんの方が受験生ってことは、今大変な時期なんだ」
すずかが微笑を浮かべ、アリサは二度ぐらい頷きつつそう呟く。
確かに、美由希さんの方は受験生の身であるため、翠屋にいるとき姿を見かけると平気なのかと心配になるが、全くもって余裕らしい。でも、一応学校内とか家に帰宅して直ぐとかは受験勉強しているようだが。
「あぁ、ここ最近は結構勉強しているみたいだよ」
「そら、勉強しないといけない時期だもんね」
「あっ、家族の話で思い出したんだけど。今日大きい満月を皆で見に行くの」
「あー、そういや今日だったわね」
大きい満月。所謂スーパームーンの事だが、あれ見に行くの20時過ぎとかその辺とかだっけか……?
裏山の方で見るとか言ってたから、かなりの絶景だと思うし期待はしている。
「アタシの方は月村家の方で見させて貰う形でいいんだったわよね?」
「うん、後でまた詳しく連絡すると思うよ」
「二人はそっちで見るんだね~」
「うん、そうするわ」
アリサとすずかの方は月村家の所でスーパームーンを観る様だ。あの広い屋敷だと庭みたいな場所もありそうだし、そこで忍さんやアリサの親族達皆揃っていくんだろう。
「あ、でも何気にまだすずかの家にお邪魔するのは初めてだったわね」
「あ、確かにそうだね。友達呼んだのは明良くんだけかも」
「……え? 何ですって?」
「あー、一昨日か」
「ちょ、ちょっと? それ本当なの?」
「え、何でそんなに信じないん」
少し驚いた様子の表情で二度も聞いてくるのでそう問えば若干悔しそうな表情でこう返答される。
「いや、ちょっと何かしてやられた気分で……」
「そんくらい……ん? そんく、らいでもないか?」
「誰だって異性の友達を初めて家に呼ぶのは『そんくらい』とは言わないと思うわよ」
確かに俺でも家に初めて女性を招き入れた時は…………いや、あれは家族同然みたいなもんだ、なんも感じずに平然と入れたわ。しかも、アイツの時だって招くよりこっちから行ったし。
「まぁまぁ、お昼を一緒にしただけだから、ね?」
「あ、あぁ。その一緒に食事をした場所しか行ってないし」
「あ、そうなの。月村家もアタシと同じくらいの広さなのかしら……?」
「アリサちゃんのお家がどんなのか分からないから、どうにも言えないよ」
「あっ、それもそうね」
三人で会話をしていると、横のなのはが俺への拘束を解き右手を微妙に上げながら会話に入る。
「えと、今度なのはも行ってみていい?」
「うん、明良くんと一緒に招待するよ」
「アタシからも、今度するわね。パパとママに初めて出来た友達を紹介したいしね」
「あ、ありがとう。よろしくねっ」
「うん、全然構わないわよ」
「私もいいよ。じゃあ、そろそろ戻るね」
「あ、私も~」
「うん、また後でね、すずかになのは」
俺はそう戻っていく二人に軽く手を振るだけでにして、弁当箱とかをやっと片しにいく。
自分の荷物を纏めながら次の授業の準備をしていると隣でアリサから声が掛かる。
「あ、明良。すずかの家ってどんなんだった?」
「んー、普通に御貴族様の屋敷って感じかな、見た目はね。内部は一つの場所しか知らないから、なんとも」
「なるほどね、ありがと」
「どもども~」
そう軽く返事を返し、数分後に鐘と共にやってきた教師の合図により五時間目がスタートした。
数時間経って学校での活動時間が終了して、帰路にも入りアリサとすずかと別れ、そろそろ自宅に着くという頃合。俺となのはは乱雑に入れられたのかちゃんと入っていない白い封筒が、家のポストからはみ出ていた。
「何だろ、これ」
「誰からだろう……?」
ポストから、その封筒を取り出してみると、宛先も何も書かれていないようだ。
「……?」
「と、とりあえず、中にはいろ? アキくん……」
「あ、あぁ……」
俺は封筒の中身にあった折られた便箋を取り出しながら自宅へと入り、二人で「ただいま」と声をかける。
「あ、おかえり~」
奥から帰ってきた美由希さんの返事になのはが反応して、彼女のもとへ駆けていった。
俺は靴を脱ぎつつその便箋を広げてみてみると、走り書きなのか読めないように見えて読めるって感じの字体の羅列だった。
「明良も、おかえり。それ手紙?」
「うん、ポストに変にはみ出てて気になってさ」
「はは、帰ってくる二人の姿を見つけて、ぱぱっとしたら雑になっちゃったんじゃない?」
「ありえるけど……。だとしたら俺宛かね?」
「なのはは知り合いいっぱいいるわけじゃないから、多分そうじゃないかな?」
「なるほど、ね」
なのはと美由希さんにそう言われて、俺は自室にコレを持ち込もうことにした。そんで、一旦これをまた折って封筒の中にしまい、鞄やらを片付けるために自室に向かう。
「あ、着替えはいつものでいいよね?」
「あぁ、頼むんだ、美由希さん」
後ろから掛かる彼女の声に振り向いてそう返事をしながら部屋へと足を運んだ。
背負っていた鞄から荷物を取り出して制服を脱いだり、先ほど美由希さんに用意してもらった着替えを着たりと準備を終えて、俺は自室の机上に置いていた手紙の入った封筒を手に取る。
「さ~て、中身は何と書かれてるのかね~」
椅子に座りながら中身を取り出して、広げて黙読してみる。
「……」
『我が子のように大切な子が、あなたを殺しに来るかもしれません。どうか、夜道にはご注意ください。
彼は、私では止めることが叶わず、数人も死者が出てしまっています。私も病床の下です。
もし、彼を止めるような力をお持ちであるなら、どうか、ご迷惑おかけしますがお願いします。これ以上、犠牲者を出さないためにも。
これを読んでくれた方が、私の想像の方では無い場合、破棄してください。』
「……絶対、あいつのことだろうな」
俺はあの霧野郎を思い浮かべながら、この手紙をビリビリに破って丸めてゴミ箱へと投げ捨てる。
「へんな正義感を、出さなきゃいけない訳ですか……」
にしても、アレと関わりのある人物で生存者なんているんだなぁ。しかも、「止めて下さい」じゃなくて「お願いします」ってことは、どうするかはこっちに丸投げじゃねぇかい。
「かったりぃ~~。こういう依頼は嫌いなんだよ……」
俺は両腕を真上に上げて伸びをしながら、そう一人ごちる。
報酬金があるなら渋々でもやんなきゃなとかモチベが出てきたりするが、そんなもんは無い上に面倒なモノである訳で……。
「って、何であの筆者は俺? が狙われるって分かったんだ?」
なんか反抗したときに聞いたのか、それとも何か元々知っていたのか、ちょっと分からないがそこは不思議。
「はぁ……。今世、初の実戦ですかい」
溜息を一つ吐いて、総魔力量とかを確認しつつ「ただいま~」と恭兄や高町夫婦の二人声を耳に入れたら、俺は彼らの下へ向かった。
――――
「じゃ、行こうか。明良は、本当にいいのか? 頑張るのも良いが、今日ぐらい大丈夫だぞ?」
「いや、昨日もなんやかんやちゃんとやれてないから、一昨日と同じ感じで頼むよ、士郎さん」
「お、おう。分かったよ」
士郎さんの心配気な声にそう応答しながら、満月を見るために行く準備を整え終えている皆と共に裏山の方へと向かった。
今日は車で向かうそうで、俺ら全員が乗れるような自動車に士郎さんが運転手として俺達を自分と共に運んでいく。
「やっぱ、他の人も外に出てる人はいるみたいだね~」
「あぁ、確かにそのようだ」
車窓から見える他の住宅を見てみると、ベランダに集まっていたり外に出ていたりと、今日の満月を見るために幾つかの人はいるようだ。
「まぁ、車まで使う人は中々みないけどね」
「ははは、確かにな~。まぁ運が良かったと取ればいいさ」
士郎さんが微笑を浮かべながらそう返事を返し、段々見えてきたいつもの裏山の近くにある駐車場へと俺達が乗車している車を停める。
「さて、着いたぞ~」
「よし、じゃ降りよ!」
俺達はこの後、皆で裏山を登って良い感じに空が見える場所で辿り着いたら写真を取ったり、空の景色に声を漏らしながら楽しんだ。
今日の夜空は結構星が見えるほうで、目的であった満月も若干いつもの満月より大きく見えた。
そのため、満月の光も強いようにも感じ、少しくらい薄くなっても良いんじゃないかと内心感じてしまった。
「さ、明良。一戦で良いんだろ?」
「うん、よろしくお願いします」
そう声を掛けて、数秒後に開始された一昨日並の攻防にヒヤヒヤしつつも、士郎さんの攻撃がこちらの身に当たらないように、いなし続けた。
「お、おーー……」
「やっぱ父さん早いね……。それに何とか追いつけてる明良も凄いけど……」
士郎さんとの一戦を一昨日と同様の結果で終えて、俺達は自宅へと先ほどと同じ形式で戻った。
道中は何事も無かった上、外に出ていた人達も既に各々の自宅へ戻っているようだった。
「よし、着いたよ」
「は~い」
なのはの気の良い返事を耳にしながら、俺は車の扉を開けて外の空気を身体に浴びせる。
家の鍵を開けた桃子さんが中へと入っていき、次になのはや恭兄と順々に中へと入っていく。
「どうした? 明良、何かあったか?」
「あ、いや。少し自販で買ってくるよ」
「あ、あぁ。そうか。くれぐれも暗いし気をつけろよ~」
士郎さんにそう言って、自販機のある場所まで歩いていった。
彼と何処かからの視線を身体に受け続けて……。
――――
自宅から歩いて数分かからない場所にも自販機はあるにはあるのだが、俺は敢えてそこではなく、大きめな大木がありいくつかのベンチがある方の公園までやってきている。
士郎さんの視線も若干気にはなったが、今は感じられない。けど、先刻から感じられる視線が途絶えないので、今は誰もいなさそうな所までやってきた感じだ。
時間としては約21時頃。夜のバイトをしている人とかなら、この時間帯でも頑張って務めてそうだが、この公園付近からコンビニへは死角になっているので見えない。
「ふぅ……」
自販から買ってきた飲料を一口に口に含んで、それをベンチに置く。俺は腰に掛けている木刀が落下していないかの確認みたいに左手を置き、前へと歩んでいく。
「……来たか」
何も無い状態から唐突に出現してきた濃霧にそう一人呟いて、左手から木刀を防護壁で纏う様に術をかけていく。
そして、それを行って数秒も経たぬうちに例の銀髪野郎が釵型の武器で攻撃しに来る。
「――ッと!」
左手で木刀を引き抜いて衝撃を抑え、それと同時に消えていった野郎の気配を探りながら木刀を右手に持ち変える。
そして、次の一手の来襲。
「――くっ!」
両手で柄の様な部分を持ってその攻撃を防ぎ、それと同時に風で周囲の霧を消し飛ばす。
殺気のようなものを感じられる方向を見てみれば、例の銀髪少年がいた。
「……やはり、貴様か」
「あ? 何だって?」
少し聞き取ることは出来たが、あえてそう返事をして木刀を構えなおす。
「桜糀の姓では、無いようだが……。まぁ、どちらでもいい――ッ!?」
「おっと、避けられちった……」
どう考えても聞き覚えの苗字を口に出され、戦闘不能にしようと防護壁で固めた木刀で殴打しようとしたが回避されてしまった。
「お前、どっかで会ったか?」
「……」
「ノーコメント、かい」
声は聞こえているだろうが、ヤツはしかとし両手に持っている釵状の二つの武器を合わせるようにすると、その武器からか機械音声のようなものが発声した。
『Mode:dispair』
「……」
その音声と共に白く発光する武器は、大きく変形をしていく。
刃の部分は巨大と言っても同じ大きさで、柄もそれなりのものと化していく。
簡単に言うならば、モン○ンの大剣って感じのものだ。かなりのでかさである。
身の丈とほぼ同じ大きさもあるその武器は常人ならとても扱うには叶わないだろう。
そして、アレが報道されていた殺害事件に使われた武器であろうと推測できた。
「すまないが、仕留めさせてもらう」
「――っと!」
あれを木刀で受け止めるのは流石に無理がありそうと瞬時に思った俺は、回避行動を取って後ろに移動した。
「どうか、遣られて欲しい。桜糀家の末裔よ」
「嫌なこった! 俺はまだまだ人生楽しみたいんじゃ! 銀髪野郎ッ!!」
振りかかって来る大剣を両手で持った木刀で受け流し、次の攻撃へと備える。
全身に魔力を纏い始めた俺は、曇り始めた空に気付かずにヤツから来る攻撃を再び防御に徹した。