月村邸からの招待を受けた、その数日後にバニングス邸からの招待も事前に言われていた通り貰った。彼女の屋敷も月村邸と同じくらいの大きさを誇っていて、それなりのものであった。
また、彼女の屋敷は月村邸が猫屋敷だったのに対し、こちらは犬屋敷という感じであるようだ。現に物凄くまとわりつかれている。
「ちょっ、おまえら、やめっ……!」
「す、すごいね……明良くん、いっぱい懐かれてる……」
「わ、わーー。いいなー……」
「アタシも少し、羨ましいわね……」
雄犬と雌犬どちらも区別なんてものはなく、アリサの飼っている犬が俺の身体にまとわりつき、転倒しているのを良い事に脚にひっつくように座って自分の場所だとばかりにしたり、顔面をめっさ舐めようとするワンコが数体と俺の周りに殆どと言っても良いほどの数がいる。
ちなみに、隙間がなくて入れなかった犬はアリサやすずかの方にいるようだ。
「あ、アリサちゃんも、こんな時あるの……?」
「まぁ……ある時はあるけど、ここまで皆殺到するようなことは滅多に無いわね」
「珍しい光景ではあるよね……」
「よっt――うわっ、またっ」
身体を起き上がらせようと脚にくっついている犬に配慮しながら移動し、顔面正面までよじのぼって舐めてくる犬を両手で抱えてどかそう試みるが、その途中で別の犬に片腕の上に手を乗せられ舐められる。
何をこのワンコロ共がこんなにさせたのか分からないが、何か俺に感じたのは絶対に理解できた。その「何か」は分からないけど……。
「はいはい! 皆っ! アキラが、参ってるからそろそろ――きゃっ!」
「ちょっ……!?」
俺の所に集っている己の飼い犬たちにそう声をかけて、どかそうとしてくれたアリサは俺の下に歩いていく。だが数が多いため踏まないように気をつけていたのか、それで自分がつまづき此方に倒れ掛かってくる。
「「あー……」」
なのはとすずかの苦笑を含んで漏れた声を耳にしつつ、なんとか胸部にいた犬をどかしたおかげでその犬はアリサの肉体に潰れずに済んだ。
だが、今原因不明で俺に懐いている犬達と、いつも触れ合って好感度が高い飼い主本人もこちらに来たので、嬉しげな感情が周囲の犬から湧出しているように感じた。
「お、おい。平気……?」
「う、うん……なんとか、大丈夫」
三寸先でぶつかりそうな距離にあるアリサの顔を見て、どこも苦痛を感じていない事に安堵をしつつ、一瞬見詰め合って――
「――ひゃあああっ!?」
「ぶえぁっ」
唐突な彼女の叫びと右手による押し手を顔面に食らい、再びこける。
この惨状に一瞬戸惑った犬もいれば、これを好機と見た犬もいてこちらに近づくというのに分かれるが、後者のせいでまた起き上がるのに時間が長引きそうだ。
「はぁ……はぁ……」
「えと、大丈夫……? アリサちゃん……」
「ちょっと、ビックリしちゃったのかな……」
「あ、うん……。あっ、アキラは……」
「また、やられちゃってるよ」
「しまった」という感じで俺のことを尋ねるアリサと苦笑を混ぜた返事をするすずかの声を耳にしながら、再度アリサのおかげ起き上がることに成功した。
◇◆『バニングス邸』◆◇
「さ、さっきはごめんなさいっ。急に、押しちゃって……」
「いや、いいよ……」
「でも、あんな顔近づけるのって、なのはは羨ましいと思ったの」
「じ、事故よっ!」
少し赤面したアリサがなのはに振り向いてそう強く返し、彼女の部屋へと四人で向かって歩いている。
先の犬達は彼女の執事こと鮫島さんによって全匹連れてかれていった。
「まぁ……事故みたいなものだったけど」
「ま、まぁまぁ……アリサちゃんの部屋ってそろそろだよね」
「うん、もうじきよ。今日は皆と集まって楽しめるように、準備してきたんだからっ!」
そう彼女は自信たっぷりと発言して、金髪の髪を揺らしながら先行していった。
「ここが、アタシの部屋よっ!」
そう声高に話す彼女の表情はドヤ顔に満ちていて、その頬を摘んでみたくなったが行動には移さず、先に入っていくなのはとすずかの後に部屋へと入った。
高貴なお嬢様としての部屋で、全体的に赤系統の色合いで明るい感じを醸し出している。
ベッドも二人用のように見えるほどの大きさだが、それほど豪華というだけで実際は然程大きくもないのかもしれない。
「はいはい、なのはもアキラも。アタシの部屋を見てくれるのは嬉しいけど、今日のメインはこっちっ」
「わわっ」
「にゃっ」
猫のような驚きの声を上げたなのはと自分の漏れ出た声にクスっと微かに笑うすずかの声が聞こえつつ、アリサの見せたい方向を見やる。
「おう、買ってたんだ」
「アリサちゃんって、こういう感じのも楽しむんだね〜……」
なのはは意外そうな表情でそう発言しており、それを受けたアリサは「そうよ」と言ってから説明をしだす。
この時代に見合っている据置機ゲームと一世代前のものやら最も古い物が置かれていて、ゲームのカセットの側面の数的に種類は多く揃えているようである。
「パパがこういう感じの好きでね、私もやってみたら結構ハマっちゃって、置かせてもらったの」
「私室に置かせてもらうってのはいいね。その親父さんの方はどうしたの?」
「パパは本体ならまた買うって言ってたわ」
「おう、流石リッチー」
「ふふん。じゃあっ、早速やるわよ!」
「「おーーっ!」」
彼女は掛け声と共にTVの電源と今回皆で遊ぶ本体を起動して準備に務めた。
俺達はその前に設置されているソファに座り、自然と俺が中央の位置となって量となりにすずかとなのはが座った。
「よし、あとは少し待てば……」
アリサが準備をしつつ、どのソフトをやるか思考しているが彼女の位置はTVの目の前で膝たちをしている状況にあり、俺らが座っているソファはぎりぎり空いていない。
起動された本体の機械を見た所、前世の世界では最早古代とまで言われるまでのものだが、現世界に置いては新世代のものと言われるものだろう。まだまだ、今世界においてのゲーム事情は詳しくはないが、実際前だって滅茶苦茶詳しいかと言うとそうでもないので、このスタンスは変わらないし変えないつもりでいる。
「あっ、ならすずかの前に座ろうかしら」
「え……?」
彼女はそう言ってすずかの脚下の部分に、本人にはとても言えない女の子らしいとは言い難い胡坐で座った。
「あっ、アリサちゃ……少しくすぐったっ……」
「ご、ごめんなさい。この辺りだと平気?」
「うん、その辺りなら、平気だよ……」
彼女の金髪が膝元に当たっているせいかくすぐったく感じていた、すずかの言葉をもとに彼女は少し前に移動する。
「あぁ、これやるのか」
「そうそう、アキラ知ってた?」
「そこまで詳しく知ってる訳じゃないよ」
「集まってやったら、楽しそうだよね~ってのは話したよねっ」
「そうだね」
画面上に映し出されているソフトのタイトルを見て俺はそう呟く。TVやらのコマーシャルなどで見た記憶はあるし、その関連の話をなのはと会話をしたこともある。
アリサに手渡されていくコントローラーを手に馴染ませながら、「1P」である彼女の操作を見つつ己が「3P」であることを認識する。
「パーティモードって奴をやるわ」
「おっけー」
「「おぉーー」」
俺達の返事と選択した効果音の後にそのモードが開始されていった。
――――
楽しい時間というのは体感的に早く流れていってしまうもので、時計や窓を見てみれば夕方頃になっていて終いにしなければと思う頃合になる。
「じゃ、これでキリがいいから今回はここで止めね」
「うん、わかった」
俺もすずか同様に肯定の意を示し、なのははプレイに集中しているようだが頷いてはいるため了承しているだろう。
そうして数分後、このターンが終了しソフトを終了してホーム画面に戻って……と、アリサが色々片し始めていく。
「あ、アリサちゃん……その、お手洗いって……」
「あっ、ちょっと待ってて、なのは。今案内するわ」
手早くTVの画面やらを消した彼女は、「なのはを案内するから少し待ってて」と俺達に告げた後、なのはの手を引いて彼女はその方向へ去っていった。
「なのはちゃんもだけど、今日はありがとうね」
「お、おう……。でも、何ですずかが……?」
「あ、あのね、アリサちゃん、二人が来るのすごく楽しみにしてたから。あんまり、表にはでてないみたいだけど、私には分かっちゃって……」
「なるほどね、まぁアリサが呼んでくれたから俺ら来たわけだし、お互い様ってことで」
「うん、そうだね」
「素直の時は滅茶苦茶すごいときあるんだよ?」と以前なのはと話していたときにアリサのことを少し教えてもらったことがあるが、俺の前ではそういう状態のアリサを見たことが無いため、実際すずかやなのはからこういう類のことを話したりするのは新鮮味があったりする。
どうすごいのか俺には分かりかねるが、喜ばしいということは相当顔がニヤついていたりして……。
「お待たせ、二人とも」
「うん、ごめんね二人とも~」
「や、そんなに待ってないよ」
「私もアキラ君と同じだよ」
すずかと話しているうちにアリサとなのはが「用事」を終えて、こちらに戻ってきた。
「何話してたの?」
「んー、アリサちゃんの話」
「アタシの?」
「そうだよ」
自分の名前が出たことに一瞬驚き、そして直ぐに気になる様子を見せたアリサはすずかと俺に目線を向けるが、すずかはニコニコと微笑むだけで詳しくは話そうとはしない。
「……まぁ、いいわ」
「言ったら、顔真っ赤にするだろうなって」
「……ますます何か気になってきたわ」
「アリサちゃんが、私達が来るのを待ち望んでたような感じがしたな~って話」
「あっ、えぁ、……えっ?」
「あ、アリサちゃんお顔真っ赤~」
彼女の背後にいたなのはがいつのまにか顔を覗かせていたようで、なのはは彼女の表情の様子を認識し、俺もすずかも同様に認識する。
「そ、そりゃ、来て欲しいなって、思ったんだもの……」
「私と同じだね……」
「……う、うん」
すずかもなのはの位置とは左右逆の場所に移動して、アリサを抱擁して話しかける。
少し俺としては、彼女の照れが移って来たのかもしれないが居辛くなり、声を掛けたい気分だが、タイミングをどうすればいいのか分からず多少狼狽する。
「な、何、あんただけ、見てるだけ、なの、よ……」
「……えっ、いや、その雰囲気に男は、混ざりづらい、といいますか……」
「別に、いつもなのはがしてるみたいにすればいいんだよ……?」
「それ俺からはしてないやつぅ……」
なのはにそう提案を受けるも、それは毎度毎度彼女の方からで俺から能動的にやった試しが一度もない。
アリサとしては、俺が一人だけ楽になってるのを見つけたという気分か、ただ何故混ざらないのかという疑問からかなのかは分からんが、彼女の声掛けから会話できるタイミングを得たので続ける。
「えと、この後どうする? 時間的には六時付近回りそうだけど……?」
「………………そろそろ出ましょうか」
「そうだね、ちょっと興奮しちゃってたのかも……」
「にゃはは、多分なのはも……」
彼女達は抱き合うのをやめて、少し顔を赤面させながら皆それぞれの反応を示す。
この後は、荷物をまとめたあと前回の月村邸とは逆にアリサとすずかに玄関で見送られて、俺となのはは鮫島さんが運転する例の車で自宅へと帰った。
――――
月村邸と初のバニングス邸へ遊びに行ってから、大分経過して学年も一つ上がり2年生となった。
昨年の夏休みはアリサとすずかという友人を新たに得る年ではあったが、彼女達の予定は結構埋められていたらしいのと、中々会えないご両親との交流に時間を置き、彼女達と遊んだ時間はそこそこ多いというわけでは無い。
だが、彼女達が各々の両親に話してくれていたのか、秋ごろになるとバニングス家と月村家のご両親の皆さんと俺ら高町家組が会合して顔合わせとかをしたりした。
勿論、子供組と大人組でわかれたりはしたが、すずかとアリサ、そしてなのはの三人が上手く馬が合っているように大人側のほうも気が合った様子で、聞こえた会話の調子がとてもよい風に感じた。
そのため冬休みの頃には、皆で遊ぶ日数は増えたような気もしたし、その前段階からでも更に仲良く慣れたような感じはした。
流石に年末の大晦日は集まってとはいかなかったが、それを行う年もこれからあるかもしれない。
湧屋の方は彼なりに色々友人を得ているので、そちらでよろしくやっている様子だった。
このように彼女達の交流関係具合はとても良好に進んでいるし、彼女達自身も良い方に変わってきている。アリサはクラス内のリーダーのような姉御のような感覚で慕われるような行動をし始めていることから、男女共に人気が高く、なのはもすずかも委員会なりに入ってそれぞれ自主的に活動を始め、アリサ程ではないにしろ湧屋によれば一部からは慕う対象になっているらしい。
「どうしたの? 右手見て、何か怪我でもしたの?」
「あ、いや。間違って切ったとかは無いよ」
「そう……? なら、良いんだけど……」
アリサの怪訝そうな表情で放つ言葉に少々の有り難味を感じつつ、目線を彼女の方へと戻す。
彼女との席は前後の関係になっただけで、距離は変わらない。友好関係の深い者と席が近いのは、俺にとってとても嬉しいことなので良い。
で、先程己の右手の甲を見ていたのは「己の力の一種」のことだ。生誕してからまだ二桁目の年齢に辿り着いていないし、まだまだ魔力的に物足りないか何かが無いかのどちらかだが、コレは未だ無反応に近い。
正直、風の魔を扱い続けるのは新鮮味があって良いのかもしれないが、やはりずっと使用し続けてきたものを扱いたいという欲求がでてきてしまい、たまにこうやって期待の視線を向けるが全く反応はしてくれない。
まだまだ、この件は時間が必要のようだ。
魔力関連の話ではあるが、大分伸びたのと扱える魔法種が増えた。飛行や風の刃を固めて腕に装着したりするものなど、下級から中級ぐらいの相当レベルのものだ。
まぁ、今の所何も起きてないし特に心配事とか無いのでそれはそれで良いが、前のときみたいに油断してると唐突に起こったりするのが俺の運なので、準備はそれなりにしてはおく。
「あ、アキラ」
「ん、どうしたの?」
「時間が、あいてたらさ、土曜日良い……?」
「お、おう……。基本あいてるし問題ないけど、なのはとかすずかはいいの?」
「うん、ちょっとアンタにしか頼め無さそうっていうか……」
「あぁ、二週間後にある体育祭の……?」
「……そ、そうよ」
「わかった、予定はなんとかなのはに言い訳してあけとく」
「あ、ありがとっ」
「おう」
その彼女の礼を伝えてきた表情が可愛く見えて、少し胸に響いてしまったのは、打ち明けずに心にしまっておく。
そして、今度の土曜に彼女との約束をとりつけ、今夜桃子さんとかに説明しようと動いたが、当然の如くなのはが介入し、彼女への誤魔化し時間の方が勝った。