金髪娘ことアリサ・バニングスから半泣きで強引にテスト勝負を仕掛けられてから翌日の4月17日。
テスト自体は一ヶ月後だし、内容自体も問題があるかと言われれば、そうでもない。
けれど……。
「また見てるけど……」
「見てないわよ!」
「あ、はい」
現在休憩時間なのだが、席に座って冊子カバーを取り付けた小説を読書中だった俺に湧屋がそう声をかけた。
けれど、その話声がバニングスに聞こえたのか、そう彼女は返している。
そう、「また」ではある。
今日授業中も含めて大体チラチラ見てるので、気になってしょうがなく声を掛けたら「見てない」の一点張りである。
数回聞いてもこれなので、もう気にしないことにしている。
「まぁまぁ。良いでしょ。何かあるんだ。」
「あ、あぁ……」
ちょっと「外見可愛い金髪娘」という印象を持っていた湧屋は少し引き気味になっている。俺は見た目は可愛いのは変わらないし、なんか「敵の観察してるみたい」とか思い始めちゃったので。
「あ、明良。今読んでた本の名前は何てものだい?」
「あぁ、これは『その○の前に』って本。今は三編目の途中」
「へー……」
「そっちは基本何やってるん?」
「僕も空いてる時間は読書かな」
「へー、どんなん?」
「推理小説が多いかなぁ。アガ●・クリスティとか聞いたことないかい?」
「あー、あるある。でも読んだことはないかな。確か結構その人有名だよね」
「そうだね。それなりに有名だね」
推理作家ア●サ・クリスティ氏。
今世で初めて聞いた小説家の名前だ。俺が小説を選ぼうと思って探す時に大分この名前を見たものだ。確か、「オリエント急行殺人事件」が一番有名じゃなかったかと思う。推理小説系はまだ一度も読んだことはないが……って、まともな小説を読むこと自体がこの本初だ。読んでないのは当然である。
でも、この書籍名。確か前世でもチラリと目にした事はあったような無かったような気がする。冊子自体は手に取ったことも無いが……。
あぁ、そう。俺の読書趣味だが、小説とこの間見栄張ってしまって何も読んでないと何か感じが悪いので読み始めたのだ。
それが、意外と面白いというか身に合って気楽に読書は進んでいる。
まぁ……身体を動かす事のほうがやっぱり多いけど。
「あっ、と。じゃあ後で」
「おう」
休憩時間終了を知らせる鐘が鳴り響き、湧屋の様に会話していた生徒や便処理にトイレに行っていた生徒等が各々自席へと戻っていった。
次は算数だったな。得意分野過ぎて楽勝だし、最も暇な時間になってしまう。
……なんかイキリみたいになった。
◇◆『二人の少女』◆◇
今日の昼飯の場所は屋上のようだ。白のヘアバンドを紺のような紫の色を持つ髪に装着している美少女を引き連れたなのはに誘われた。
その時に同時に「アリサちゃんもいこー!」と誘い、彼女が俺の方をチラっと見てから言葉を発さずに承諾したので合計四人でのお食事タイムとなっている。
「この娘が月村すずかちゃん! こっちはアリサ・バニングスちゃん! アリサちゃんとは同じクラスなんだよね?」
「あぁ、同じだよ」
「え、えぇ……」
なのはが自前の微笑で俺に二人の少女を紹介した。ヘアバンドを装着している紫色の髪の女子は月村すずかという娘らしい。
落ち着いた雰囲気、というより人見知りな感じな娘なようだ。
バニングスの方は同クラスだし、今どんな状態か知っているのでいいだろう。
「俺は高町明良。よろしく月村さん」
「う、うん。そ、その月村、すずかです。よろしく」
「……何でアタシのときと違うのよ」
「何か言った?」
「な、何も言ってないわよ!」
俺の聴覚を侮らないで欲しいゼ。アンタの時は突っかかってきた様なもんだからね。
バニングスの小声で呟いた発現に脳内でそう応答しつつ、少し悔しげな顔をしている彼女が可愛く感じる。
「昨日初めてアリサちゃんとすずかちゃんと会ってね! 友達になったんだ!」
「知り合いってだけじゃないの……。これから友達関係になるんだから、どっちにしろ同じか?」
「同じだよ! 同じ!」
あの出会いで直ぐに友達と宣言できるものですかねぇ。とか思ってしまう俺は少し捻くれてるのかもしれない。
まぁ、なのはが初めて俺以外の同い年と友好関係を持つようになるのだ。祝っ……うものでもないな。
「「……友達」」
目の前の月村とバニングスの二人がそう小さく呟いて視線を此方と目前にいた隣の相手に交互させている。
「あれ、どうしたの?」
「いや、なんでもないよ」
「うん。何でもないわよ」
両者とも顔の前で両手と首を横に振って大丈夫だとなのはに示す。
「さっさと食べよう。冷めるよ」
「そうだね」
三人にそう声を掛けて月村とバニングスは頷き、なのははそう返答した。
「あっ! アキくん! はい、あーん」
「えっ、えっ?」
「えっ?じゃなよね?あーん」
ここでするんですか。結構人いるここで、しかも目の前に人居るのに?
だが、このままだと無理矢理口を開けられそうなので、脳内抗議も虚しく俺は渋々口を開ける。そして、なのはに俺の弁当から運ばれたおかずを口に含む。
「えへへへ~」
「「…………」」
「わわ、わーー」
俺はそのおかずを噛み解しながら食べ、バニングスは興味があるような目で監察し、月村は驚きと共に声を上げてしまっているが興味津々という感じで観察している。
実行犯のなのはサンは物凄く満足そうに声をあげております。
その後も残り4つはなのはに「あーん」食べをさせられ、俺達の昼飯の時間は終わった。
――――
それから数日程経ち週末の20日。
昼休憩で昼飯を食べる場所は俺のクラスか屋上のどちらかになり、基本なのはとアリサ、そしてすずかを入れた俺含む4人で集まっている。
呼称は「高町姓」が二人いるからという事で、俺となのはは下の名前で呼ばれる事となった。それに伴ってなのはもアリサとすずかの事を下の名前で呼ぶようにしたようで、積極的に話しかけている。
俺の方はアリサの方から「何か気に入らない」とか理不尽な理由で半ば強引に下の名前で呼ぶことに決められた。まぁ、若干長かったし良かったけど。
でも、その時に断ったり「バニングス」呼びしたら殴られた。手が出るウーマンである。
すずかの方は「私はどっちでも、いいよ?」という愛い感じの言葉だったが、二人が名前呼びでこの娘だけ苗字なのもと感じそう決めた。思考内、脳内ではこう呼び捨てではあるが、会話の時には「さん」付けで話している。
こう、性格的な面を見るとアリサとすずかは完璧に対になっているような感じだと思う。
どちらも美少女ではあるが、先述した通り我の強いワガママウーマンのアリサは若干行動派とかそんな風だ。何か気に入らないと手が出てくる、俺に。
すずかの方は淑女という言葉がピッタリ当てはまるような女の子で落ち着いている雰囲気を感じた。穏やかとも言えるかもしれない。読書が趣味であるらしく、お勧めの本だったりを教えてくれることもある。
さて、現在授業間の休憩時間で隣席のアリサと俺は会話している。湧屋は別の友人の所に行っている。
「てか、何故に勝負仕掛けたん?」
「気に入らなかったのよ。何よ、アタシに負けそうだから話に来たの?」
「や、そうじゃないけ――あぶねっ!また打とうとするのやめてくださいよ!」
「しょうがないでしょ!何かイライラするんだもん」
「お、おう。別に勝って何があるとかあるか?」
「……特にはないけど。何か、このイライラも収まるかなって思って」
「あー、自分でも分からないみたいな?」
「そ、そうよ。でも、アンタと会話してるとイラつくときもあるけど、気楽にもなれるから」
「じゃあ、もっと会話しないとな」
「あ、すずかよりは気楽さは無いわよ」
「…………」
この女、さらっと言うんじゃないよ。
彼女ことアリサは、最近すずかと交流が大分深くなってきているようだ。感じた理由はなんとなくだが。以前、昼時での会話ですずかも金持ち部類の一人と分かった。アリサはもう彼女本人から言われなくても察してたし、合ってたのでいいが。察した理由は言うとまた殴られそうなので言わない。
で、やはり二人ともお稽古とか湧屋も行っていた茶会みたいなものがあるらしく、茶会みたいな集会は少なくなったようだが稽古は決まった曜日に毎週行っているらしい。
「とりあえず、勝負はするからね!」
「あぁ、いいよ」
次の授業時間となり各々の生徒が自席へと戻っていく。
チラチラ見てくる彼女の行動も大分最近では収まってきており、やってない日もあるようになった。
読書状態だが現在は3冊ほど完走し、今その三冊目を返却しに学校の図書室へ足を運んでいる。
図書室への道を歩いていると、紫色の髪の後姿が見えすずかと思って声をかけた。
「すずかさーん」
「あ、明良くん」
「そっちも図書室行くの?」
「うん、今日は学校の方から借りようと思って」
まだ相手が俺のような異性という事もあって、黙りこくったり躓いてしまう時もあるが、趣味の読書関係の話しになると少しは勇気でも出ているのかこうやって話が出来るときはある。まぁ、少ないけど。
「明良くんは、それを、返しに?」
「あぁ、丁度読み終わってさ。大分良かったよ」
「それは、良かったよ」
会話しながら辿り着いた図書室に入り、俺はそのまま流れで司書の人に返却の手続きをしてもらった。
「アリサちゃんとなのはちゃん、待ってるだろうから見つけたら早々にしないとね」
「そうだね、俺も見つけるわ」
一旦、彼女と別れ本棚の方に向かう。彼女は恋愛小説とかSF系とかが好きであるようで、そのようなものを勧められる事が多く、先ほど返した本も恋愛小説だ。
こういう内容もいいなとか思った俺は恋愛小説とか並んでいる本棚の方に行き、目星がついたものを二冊ほど借りることにした。
「あ、それにするんだね」
「おう、ちょっと気になって」
彼女の方も手に持っている本を借りるようで、司書の人の所へ向かい手続きをしてもらった。
俺達は借りた本を鞄の中にしまって、なのはとアリサが待つ校門付近に向かって歩き出した。
――――
「あ、通ってる塾同じだったんだね~」
「確かに二人の姿、見たことあるかも……」
帰路を四人で歩きながら談笑する俺達の今の話題は塾のことだ。
通ってるところが凄みの深いものなので、塾も利用している俺となのはだが、アリサとすずかも一応塾を利用しているようだ。
家庭教師も利用していたらしいが、それは聖祥に入学する前までで今の家庭教師は別の部門の方で、主に稽古関係らしい。
「じゃあ、これからは塾も一緒に行こうね!」
「そうね、いいわよ。すずかも、良い?」
「うん、私もそれで構わないよ」
通う曜日も同じだったので、塾までの道も四人で。ということに決まった。
友好関係が深くなるので俺にとってもなのはにとっても良い事だと思うので、構わないしわざわざ別で行く方が面倒くさい。
「でも、なのははアキくんいるからなんとかなってるけど、国語本当に大丈夫かな~」
「いや、別に大丈夫でしょ。満点確実に取る必要はないんだし」
「え? 何いってんのよ」
「え?」
おっと、アリサと価値観の違いでも出てしまったのだろうか。
「満点は当然でしょ?」
「そっちの方だとそれが当然になるん?」
「うーん、確かに満点じゃないと少し良い顔されない時が私もあるね」
「ひえー。こっわ」
家庭教師の人によるのだろうと思ってはしまうが、金持ち位の人たちはテストの問題くらい満点なのは当然という考え方もしくは教えられ方をされているようだ。
「じゃあ、なのはも頑張って国語やらないと……」
「頑張るのは、確かに大事だな。でも、満点が当然でなんか疲れない?」
「いや。あー、でもちょっとはそうね」
「ずっとそうしろって感じだと、ちょっと怖いよ」
「なるほどね。だったら満点に拘る必要も無いんじゃない?」
「多分、そこを狙うことで勉強するからじゃないかな?」
「あ、なるほど」
すずかの言葉に納得した俺はそう頷きながら応答した。
確かに、満点を目標にしとけば「楽勝」と過信する以外の人は大抵勉強する。俺も実際に「満点取るぞ!」とする場合は少なからずは努力はする。
「あ、来た」
「お迎えか?」
「そうよ」
車道の方に黒い高級感ある車がやって来て、アリサとすずかがその車へと向かっていく。
「じゃあ、また来週ね!」
「またねー、二人とも~!」
「うん。またね~!」
「おう、またな」
彼女達が車に乗り込むのを確認した俺となのはは再び帰路を歩き出し、自分の自宅へと帰った。
――――
「最近、物騒ねぇ……」
「あぁ、なのはと明良も気をつけろよ?」
夕飯時、家族で食卓を囲いつつTVを見ていると報道されたニュースを耳にした桃子さんと士郎さんが俺となのはにそう声をかけた。
「あんま暗いとこ行かないようにしなきゃね」
「だね!」
このニュースは殺害事件の報道で、結構惨い殺され方をしているようだった。
テレビ上では惨殺死体としか言われていないようで、どこまで酷いものかは想像しにくいが、計3人程が亡くなっているらしい。
殺害対象自体に共通点はないが、殺害現場はバラバラであってもどれも人通りが少なそうな場所である事が共通しているようだ。ただそれっぽい人物を見たとか変なの聞いたとかがないし、現状死体以外手がかりが無いため犯人は逮捕されてないという。
TVだし死体がそのまま映るなんてことは勿論無かったので、実際どんな死に方をしていかなどはやはり分からない。けど、今朝のニュースでこんな報道があったかというと、無かった気がする。
取り上げて無いか見逃していたという可能性もあるが、今世で朝は同じチャンネルを見続けている身として殺人事件を取り上げないような放送局では無いと思っているし、今朝も寝坊とか変なトラブルとか無かったからなのはと友に朝飯を食べながら朝のニュースを見届けている。
だとするなら、今日の朝登校してからこの夕飯時より数刻前に事が起こったという線が大きい気がする。探偵並みの推理力は持ってないから、本当かは不確定だが。
何故数刻前と思ったというと、殺害事件が起こった状況から直ぐに報道されたとかは、いくら情報を手に入れやすい21世紀とは言え、1時間以上もかからずに整理して報道なんぞ無理に近いからだ。「緊急ニュース」というものはあるが、だったらあんな言い方はしない。
そしたら夕方辺りとかその辺だと思う。
でも、人通りが少ないとは言え殺される瞬間に悲鳴ぐらい上げれば、誰かしら気づいたりはしないのだろうか。いや、気づいたとしても向かわない人は殆どだが。
それか悲鳴を上げる前に死んだか、上げさせないようにしたか。
「って、ちょっと怖い殺人事件だろ。何でこんなに思考して……」
「アキくん……? どうしたの?」
「あ、いや。何でもないよ」
思考ししすぎたか、今の発言を耳にしたか、その両方か分からないが、なのはが心配そうな顔つきでこちらを覗き込んでくれて、俺は平気の意を応えた。
そうだ。自国内で起こってしまった少し物騒な事件だ。たかが殺人事件、どうってことない。
「…………」
でも、何か起こりそうな予感はする。そんな胸騒ぎみたいなもが、残響している。
「次のニュースです。スーパームーンまで、もうそろそろとなって来ました」
報道内容が変わり、スーパームーンの話題に変わった。これは確かあと数日そこらだった気もする。
「あ、確かにコレもうそろそろね」
「じゃあ、その日に裏山の方で見に行こうか。とても綺麗だと思うからさ」
「お、それは俺も賛成だな」
「私も良いと思うよ」
士郎さんが提案した案に恭兄や美由希さんが賛成の意を示し、桃子さんもその後に賛同した。俺達小学生組も勿論YESだ。
「ごちそうさま」
「あら、今日は早いのね。何かあるの?」
「ちょっと、早めに道場の方行こうかなって」
「あ、じゃあ明良。すまないけど、先によろしく」
「いいよ」
恭兄の頼みにそう答えながら食器を台所へと水をつけながら置いて、手を若干洗った俺は道場の方へ足を運んだ。
粗方雑巾がけをし終えた俺は、引き戸式になっている扉を開けて壁に立てかけてあった木刀を取り出した。
「これで、練習してみるかな。いつも竹刀だし」
俺はその引き戸を閉じた後、木刀に防護の魔法をかけて素振りを開始した。
自分の中にこびり付くざわつきを晴らすように。