同日の夜、いつも通り高町家は机を囲って桃子さんから提供された食事を食べている所だ。
席順も特に変わっておらず、TVの映像を流しながら談笑をしている。
月村邸での出来事は今世としては初めてなのかもしれない。
他人の家にお邪魔して、お昼をご一緒するという事だ。仲のいい友人同士とか親同士が友好関係にあるとかだと、それなりに頻度は高そうだが家は親の友人は多い方であるが、そうしたことは無い。
昼飯を一緒にするとしても、大抵翠屋で高町夫婦が招待とかしてやりくりしている程度だと思う。
「月村さん、という方の所で昼飯をしてきたのか」
「月村って、あの?」
丁度話題になっている「月村家」の存在。この家は工業機器の製造を行う結構有名な会社を経営しているところで、社長の名で苗字は見聞きしたりはあるのかもしれない。俺は無いけど。
「すずかちゃんと会ったんだ~。私も会いたかったなぁ~」
「ま、まぁ。明後日には会えるんだし」
「そうだけど……。もっと色々お話とかしたいもん」
「そりゃあ、ね。すずかだけじゃなく、アリサもだけど」
「うん、アリサちゃんとも色々お話したいよ」
栗色の少しはねたツインテ髪を揺らしながら会話するなのはは、俺に羨望の目線を向けてたりする。
「でも、聖祥だもんねぇ。それなりの所の子だったりが、やっぱいるんだね」
「うん、家のクラスの半分ぐらいはその組じゃないかな」
美由希さんの「納得した」という感じの発現にそう返しながら食を進めていき、そろそろ終わりが見えてきそうだった。
「ふぅ……。今日も美味しかったよ。桃子」
「いえいえ~」
この夫婦のやりとりも見慣れた光景として、もう感じている。ほぼ毎日行われるこの会話は彼らが如何に仲が良いか示してくれていると思う。
「えと、今日は裏山の方に行くんだよね、父さんと恭ちゃんは……」
「美由希さ~ん、一応俺も行くよ~」
「あっ、あ~! そうだったんだっ!」
美由希さんが二人にそう声を掛けるのは良いが、忘れてたのかどうか知らないが、俺の名前が抜けてたので彼女に指摘しする。すると彼女は咄嗟に軽く謝るような感じでこちらに顔を向けた。
「あぁ。そろそろ行こうか?」
「うん、そうだね」
「じゃあ、私達が食器とか片しておくわ」
「「「ありがとう」」」
見事にはもった俺達男組み三人の礼が桃子さんに伝わり、彼女はクスクスと少し可笑しそうに笑う。
「じゃあ、色々準備してそのまま行っちゃうから。多分九時過ぎには帰るよ」
「えぇ、分かったわ」
そして、俺達は道場の方で持参する荷物等を整理した後、玄関からいつも利用している裏山へと揃って足を運んだ。
―◆◇◆―
「あら、またこの手のニュースかしら」
「最近、よくみるよね」
明良達が裏山へと向かってから、なのはと美由希、そして桃子は夕飯の後片付けをしながら耳に入ったTVの報道に意識を向ける。
先日報道された同じような殺され方の三人の死体。
その殺害事件が終息してもいないに、また四人増えている。その死体の何れも前の死体と同様、とても鋭利な武器で殺された模様だ。そして目撃者も、怪しいと思った者も近くには存在していない。
「だ、大丈夫かな……」
なのはは玄関の方に目線を向けながら、そう懸念した声が自然と上がる。
「場所的にかなり散らばってるし……。こ、怖いわね……」
彼女の実母親である桃子も、ニュースの情報を聞いていくたびに恐怖心が増し、不安感が募ってくる。
「あ、へ、平気だよ! 犯人がこっちに来るとは限らないしさ! もし、来ても父さんに敵うような人じゃないって!」
「……う、うん」
「そ、そうね……」
二人の不安と身近な人の死が近づく怖さが顔に表れているのを察した美由希は、そう自身を持って手を動かしながら元気付けようと声を掛ける。
若干涙目になりつつあるなのはは、まだ不安は晴れていないのか少し震えている。
けれど……。
「親の私まで、しんみりとしてちゃ、駄目ね」
「お、母さん……」
なのはの隣に座った桃子は、顔をなのはへと向けながらそう呟き、己と同じ栗色の髪を優しく、あやす様に撫でた。
その行為に不安感が大分膨れていたなのはも、その膨らみが萎んだような気もして身体を母親へと預けることにした。
「そうよ。きっと、きっと大丈夫」
「うん。……う、ん」
美由希もなのはと桃子の所に寄り添い、この場に居る三人で「大丈夫」と信じることに決めた。
一番近くの立場である身内が、不安でも怖くても、信じなくてはならないと思って。
TVの音声は未だ流れてはいるけれど、三人は特に気にはならなかった。
◇◆『霧に潜む影』◆◇
美由希さんも来ることも大体ある裏山での修行は、今回は彼女なしで行うことになる。
しかも、少しいつもと違うのは俺も木刀を使用することになることだ。
以前というかこれまでは、他二人である恭兄と美由希さんが我らの父である士郎さんと持参してきた木刀で打ち合いをしたり、森の木を使ってのことだったりであった。
森の中を駆けたり、武器の扱わない鍛錬なら皆と参加して同じようにこれまでも行っている。そこら辺は、今日も変わらないと思うのだよ。
「やるからには、厳しく。と言ったからね」
「あ、はい」
いきなり攻撃しにかかってくる感じでは無さそうだけど。順番は先に恭兄がやってからで、その次に俺という感じらしい。
「いつも見てると思うけど、今日は明良もやるから。ちゃんと見ておくように」
「はいっす」
士郎さんがそう声を掛けて、既に木刀を手に持ち構えていた恭兄の方へと正面を向く。
「じゃ、やるよ」
「あぁ、今日もよろしく」
彼らは互いに礼をした数秒の後に、戦闘をしない一般人からしたら激しいとか言うレベルではない代物の攻防が開始された。
木刀同士が打ち合う音、動いたときに発する微かな足音、目の前の攻防からはそのような音が響いている。
もっと力強く、もっと素早く、相手を打ち負かせんと激しい勢いがあるこの光景は、何もしていない平常に囲まれている者からしたら目で追いかけるのは難しく、ただ見てるだけの方が楽だ。
だが、俺はそう言う訳にもいかないし、目が追いついていないわけでもない。あの一振りに合わせる様に向かい打つ防御や回避だったり、それから直ぐに隙を突いての攻撃、そしてそれを防いだりなど、どちらも隙の無い感じの戦いだ。感覚でやっている派の俺としては、こういう戦闘面の教えは向いていないと見ていて実感できるし、動いてみせた方が良さそうという感想が毎度上がる。いや、見せるだけで相手に伝わるわけが無いと思うけど。
「一旦、これまでにしようか。次は、明良だね」
「あぁ、お疲れ様。父さん」
「そっちこそ、恭也。」
二人は持参してきたハンドタオルで汗を拭いながら休息に務め、士郎さんは一息ついてから俺を誘った。
「じゃ、始めるよ。明良」
「よ、よろしく、お願いします」
「はは、落ち着いてな」
正直落ち着けるかどうかは自分でも分からない。士郎さんの動きそのものは見えることは見えるが、それにちゃんと肉体が動けて対抗できるか謎だ。
まぁ、そこも探究心という感じで軽めに考えていけばいいかな。
俺は木刀を右手に持ち、手の平の中で少し弄んでから、両手で構えて相手を見据えた。
――来たッ!
真っ直ぐ鋭い刺突の攻撃が己の頚動脈を貫通させようと迫る。いきなり、最初からエグイ攻撃だなっとか感じつつそれを左に避けて、空いてある部分を攻撃しようと振るうが簡単にいなされる。
ヤッベェ奴やんけ……。これ軽くとか考えられる余裕も無いぞ……。
少し、少しだけでもズルしてみたい感じもあるが、多分読まれる可能性が滅茶苦茶高い。
次の一手がどんなのが来るのか、しかと目の前の父の動きを凝視し続けて警戒を怠らないように俺は木刀を構えた。
――――
結局セコ技を未使用のまま士郎さんとの打ち合いは、攻撃がこちらに当たる事は数回程だったがこちらの攻撃は相手に当たる事は一度も無く終わった。
アレに勝て? 通常人は、ムリデス。
当てる事は出来ていないという事なら恭兄も同じだが、彼は攻撃を食らってダメージを受けるという事は無く全て受け流したり防御したりしている。
普通の肉体からあのレベルまで成長できている高校生の人って中々いないと思うんですけど。というか、魔法とかそこら辺の力が主流でないような今世において、知らない人からしたら「嘘やん。そんなんいる?」という反応されてもしょうがないものだと思う。
「あと、二往復位だな」
「お、競争するか? 恭也」
「久しぶりに、してみるよ」
「父さん、まだまだ負けないぞ~」
あんたがこういう面で負ける事は想像出来ないです。
そう前で駆け抜けるように突っ走っている二人の会話を聞きながら、そう反射的に脳内にその思いが浮上する。
「明良はどうする~?」
「俺はいいや~。いつものペースで走るよ~」
「わかった~」
士郎さんとの会話を終えると彼は隣の恭兄に目線を向けて、頷いたとの合図に一気に速度を上昇させてどちらが早いか競争が開始した。
「……右にずれとこ」
俺は道の邪魔にならないように右端にずれて走行していく。
「にしても……」
先の士郎さんとの打ち合い。予想以上に身体が動けたような気がする。無理して馬鹿力を出したという感覚でも無いので、多分体重の軽さとまだ小さいという事ですばしっこく動けたのかなと思う。反射神経とか目で追うとかは、今世何もしていない時でも普通に出来ていたのでそこは影響していないと直ぐに認識できたが、こっちの方ももしかしたら影響していなかったり……? いやぁ、そんな事は無いと思う。うん。
左隣でとんでもない速度で往復している二人の男の影がチラホラと見えていたりするが、それを気にしないようにして俺は終着点へと向かって走行を続けた。
士郎さんと恭兄の二人がゴールに辿り着き、俺を待っているであろうが俺もそろそろだ。後は、彼らのほうに戻っていけばいいだけだし。
でも、この山道。大分、いやかなりの長さだ。良くコレをやろうと思ったなとか思うけど、俺の時のほうに比べるとそこまででもないので、変な気分になる。
「さて、行こう」
走行を再開して待ってくれている彼ら二人の下へ向かうことにする。
疲れ果てるまではいってないんだろうなぁ。と思考しながら走りつつ右を向いた。
「――えっ?」
意識的か、無意識だったか、分からない。けど、俺はその場で足を止め、目に見えている光景を凝視した。
「台座……に、遺体?」
この場から数百メートルは離れているが、視界にうつりこんだソレは、灰色の石才の台座に、白銀の髪を持つ少女の遺体が載せられていた。
「おーい! 明良~! どうしたんだ、止まって~?」
「あ、いや。何でもないよ~!」
咄嗟に聞かれた士郎さんの声にそう答えてしまった。
何かの儀式でも始めるような、そんな準備段階みたいな光景だ。
そこに、俺の脳内にふと月のことが過ぎった。もうすぐ満月だ、それも通常とは大きさの異なる満月。
「まさか、な……」
自分の予想が当たりませんようにと願いつつ、俺は二人のいる道へと走った。
焦燥感と予想の内容を思い出すのに必死だった俺は、何処からかくる視線を無意識に気にしないようにと排除していた。
――――
「よし、忘れ物ないな?」
「あぁ、大丈夫」
「俺も、全部あるよ」
士郎さんの声かけに俺と恭兄がそう返事をしたのを見た彼は「なら良し」と頷き、下山していく。
俺ら二人も彼の後ろをついていくように、山を降りていく。
そう三人で山を降りて家へ帰ろうとしている所に、この付近に唐突に霧が発生し出した。
「霧が、出てきたな……」
「こんな所で、こんな時期に?」
山の方に出来る霧だとしてもそれはもっと標高が高い場所で起きるものだし、時間的にもまだまだ早いと思う。
「じゃあ、何で霧が……?」
「分からないけど、でも結構濃いね」
「あぁ、足元に気をつけて下ろう」
士郎さんの気遣いに頷いて俺達は先程より少しゆっくり目に下っていく。
あの遺体を用意した者が近くにいるのなら、その人物がコレを発した可能性が高いけれど、そいつが本当にいるのかも分からないし。
だが、この霧は決して自然から出来上がったものでは無いと断言できる。
かなり微弱だが、普通の霧に「魔力みたいなもの」なんて感じられるはずがないからだ。
二人は気付いているのかは分からない、彼ら二人が魔力という存在を知っていて、所持しているかも正直曖昧だからだ。いや、まぁ絶対無さそうだけど。
「魔力みたいなもの」なんて表現の仕方したのは、自分の知っている魔力とは全然違うけど、少し似通っている部分があったからだ。細かいこと気にしなければもう魔力と呼んでいいのかもしれないけど。
でも、もしその犯行者がいて、それが近くにいたりなんかしてー……。
と、胸中に思いながら顔を後ろに向けてみると、白銀の髪を持つ知らない少年が「俺に」向かって、釵状の武器を二つそれぞれ両手に持ち攻撃をしかけようという動きをしていた。
――まずっ!?
「――ッ!?」
その両手からの武器の攻撃をなんとか回避した俺は、越しに携えていた木刀に右手を置く。
「ん、明良?どうした……?」
足音が急に聞こえなくなったか、先の回避した音で何かあったのかと尋ねる様子で恭兄が聞いてくるが、奴の姿がいつも間にか見えなくなっている。
「ごめ、今無――ぉあっ!」
奇襲のようにやってくる
「明良!? 父さん!」
「あぁ、聞こえているっ!」
前方にいた士郎さんと恭兄が、流石に俺の今の状況がマズイ状況にあるのを察したのか、こちらに近寄ってくる。
「クソッ、厄介な――ッ!」
舌打ちを一つして、そうぼやくも次の一手が休みなしにやってきて、攻撃をしのぐのに専念しなければならないと思考をさせる。
敵の攻撃は士郎さんよりは遅い速度だ。だが、しのいだり受け流したりをしたら直ぐに濃霧の中へ消えて、別方向から攻撃をしかけてくる。
霧を晴らせばどうにかできるが、未だ力がそんなにあるわけでも無いこの肉体にあの勢いが連続でやってくるのだ。そっちに集中しているとこちらに相手の刃が当たるのは確信した。
肉体の反射神経と殺気や闘気を察知できるような感覚が残ってくれていたのが幸いだ。
――来た。もう流石に慣れたぞ、霧野郎ッ。
そう心構えて木刀をでいなそうと動いた時、その犯行者でもある敵が吹き飛ばされでもしたのか、俺の横を弾丸とまではいかない速度で通り過ぎていった。
「家の息子に、何の様かな……?」
怒りを含ませた声で相手を威圧する士郎さんの声が響いた。
「士郎、さんか……」
敵の攻撃に集中していて反応は返せなかったが、恭兄が呼んで来てくれたのは分かる。多分、呼んだ本人の彼も近くに居るのだろう。
いや、その前にこの濃霧を晴らそう。風を発生させて吹き飛ばせば消えてくれるはずだろう。
そう信じて、俺は総魔力量を増やすだけしか使ってこなかった魔力を数年ぶりに扱い、風を発生させる。
操作方なんぞは幾度となりも使ってきた代物であり、この魂に刻まれているといっても過言では無いものだ。
そのため、この白い濃霧はいとも容易く掻き消されていった。
「ヤツは……」
「……消えた、みたいだな」
先ほど俺を襲い掛かってきた白銀の髪の少年の姿は、既に無かった。
風で音を頼ってみるが、付近には存在していない。
「逃げた、か」
「そうだろうな」
俺の呟きにそう恭兄が淡々と反応し、辺りを見回す。先ほどのヤツを探してくれているのだろう。
「ふぅ……。さっさと、帰ろうか」
「あ、あぁ」
少し悔しげな顔つきをしている士郎さんに声をかけられ、複雑な気分に至ったが俺は返事を返し、帰路を歩いた。
幸いと言って良いか分からないが、この帰路から自宅までは何事も無かった。