ある日、ベータは朝練をしている「松風天馬」を見て小さく息を吐いた。
「・・・」
あんなに一生懸命ボールを追いかける姿に不思議と目が惹かれる。とても不思議な事だ。何故なのだろう。別段天馬に興味がある訳でもないのに。
「はぁ...」
ベータため息を吐くと、手に持っていた『たまたま』余分に買ったスポドリを持って天馬の元へ向かった。
・・・・・・・
「はい。相変わらず、特訓しかしませんね。キャプテン」
「ベータ」
天馬が休憩で座っている所にベータが現れた。スポドリとタオルを一緒に手渡した。
「ありがとう。ベータも朝練?」
「いえ、私はただ、早く起きただけです」
どこか素っ気ないベータに天馬は首を傾げた。
「ベータ、どうかした?なんだか元気なさそうだけど」
「え?あー....いえ、なんでもないですよ〜。私はいつも通りです」
何気ない笑顔を作って見せた。天馬もそっか、と納得してくれた。
「じゃあ私教室戻りますね。今日は日直なので」
「うん。わかった。あ、ベータ!」
「はい?」
呼ばれたので振り返ると。
「飲み物ありがとね!」
眩しいくらいの笑顔で手を振ってきた。ベータもその笑顔を見て、ふっと口元を緩めた。
「はい。どういたしまして」
さっきの何気ない笑顔とは違う、純粋な笑顔でベータも答えた。
・・・・・・・
放課後...
「なんだか、機嫌がいいな」
「え?」
ベータはただ普通にケータイを弄っていると、部活の練習メニューを確認していた神童が言ってきた。
「そ、そうですか?」
「あぁ、今日はなんか笑顔が多いな。何かいいことがあったのか?」
「あー、う〜ん。どうなんでしょう...。まぁあったと言えばありましたね」
その顔もまた嬉しそうな顔だった。ベータは天馬に会ってから、何故か機嫌が良かった。後から聞いたら鼻歌も多かったらしい。不思議なものだ。最近は天馬が部活に来ていない時は乗り気がしないし、天馬と話してる時は楽しい。
一体自分はどうしてしまったのだろう。
「すみません!遅れました!」
考え込んでいると、天馬がやってきた。
「珍しいな。お前が遅れるなんて」
「すみません。先生に捕まってしまって...」
「なんでです?」
「前のテストで点数が悪くて怒鳴られてました」
「お前...」
「ふふっ、天馬さんらしいですね」
呑気そうに笑う天馬と、頬に汗を垂らした神童を見て、ベータもつい笑ってしまった。
「すぐ着替えてきますから!」
天馬はそのまま、急いで更衣室に向かった。
「さ、俺達は先にグラウンドに行ってアップでもしてるか」
「はい」
・・・・・・・
「ベータ!パス!」
今日は紅白戦。
神童率いるチームと天馬率いるチームで分かれている。
そして、天馬チームのベータにボールが渡った。黄名子との連携も取れている。既にゴールは目の前だ。
ベータは笑うと、ギラリと目の色を変えた。
「くる...!」
キーパーの三国は構えた。
「来い!『虚空の女神 アテナ!』アームド!」
ベータが唱えると二丁拳銃の化身。『虚空の女神 アテナ』を召喚。さらに、それを纏いシュート体制に入った。
「シュートコマンド07!」
『ダブルショット』
足を高くあげ、ボールを分裂。そこから、バク転して空中へ飛び、二つのボールを蹴り、超パワーでシュートを放った。
三国は拳を強く握り、高く飛んだ。
「止めてみせる!」
無理。
言ったな?
確定演出。
「バーニングキャッt......うわぁぁぁ!!!」
やったぜ。
三国のキーパー技は虚しく貫通して、天馬のチームの得点となった。やっぱり三国はクソザコブロッコリーだった。
「っは、相変わらず歯ごたえのねぇ奴だな」
「やったな、ベータ!いいシュートだったよ!」
「はぁい。ありがとうございまぁす」
天馬の方へ振り返ると、あの荒々しいベータとは違う優しいベータが顔を出していた。これが、彼女の性格なのだ。ベータは天馬に向けてピースをすると自分のポジションに戻った。
(ふふっ♪褒められちゃった♪)
ちょっと、スキップ寄りの歩き方のベータを見て天馬も今日は調子がいいと頷いた。
「よし!このまま、勝つぞ!」
『おお〜!!』
・・・・・・・
試合終了のホイッスルと共に、今日の紅白戦が終了した。結果は二対一で天馬チームの勝利。そして、この試合でこれからのそれぞれのメンバーの練習メニューが変わるという。
「はぁ〜、疲れたぁ〜」
「お疲れ様、信助。今日は大活躍だったね!」
「うん。天馬も、すっごく楽しそうだったよ!」
いつもの二人の会話を聞きながら、ベータも疲れた体を休めていた。すると、黄名子がテコテコとやってきた。
「あら、黄名子さん。お疲れ様です」
「お疲れやんね、ベータ。はい、飲み物!」
「ありがとうございます。いただきます」
飲み物とタオルを一緒に手渡してくれた。その後、黄名子がベータと隣に座る。やたらと、ニヤニヤしながら。
「ベータ、今日はキャプテンの事見てるの多かったやんね」
ベータはその言葉を聞くと、ピタリと動きが止まった。
「き、黄名子さん?なんで、そんなことを?」
頬に汗を垂らしながら、頭を壊れたロボットのようにゆっくりと黄名子の方を向いた。
「ベータ。すっごいニコニコしながらキャプテンのことみてたやんね。わかりやすかったよ。あ〜んな、純粋な顔、こっちが恥ずかしくなるやんね〜」
黄名子はキャーと、顔を覆い横に何回か振ってベータの方へ向き直した。さらに耳元で渾身のシュートチェイン。
「もしかして、キャプテンの事好きだったりするやんね?」
「はぇ!?」
その言葉に、ベータは急に名前を呼ばれたかのように立ち上がった。その顔は真っ赤で、ひっくり返った亀のように手が動いている。
「そ、そんなこと、だ、だって私はっ.....」
「ふふふ、隠さなくてもええやんね!乙女のカンは当たるやんね」
二人でワチャワチャしてると、天馬がやってきた。
「お疲れ様!二人とも。ん?どうかしたの?」
「あ、キャプテン聞いてやんね!ベータが...もがもがっつ!」
「な、なんでもないですよ〜。二人で練習メニュー決めてただけですよ〜」
ベータは勢いよく黄名子を自分の後ろに立たせると、物陰へ連れていった。そこで、顔を真っ赤にして胸ぐらを掴んで迫真の顔をした。
「てめぇ、これ以上調子にのると潰すぞ」
顔が真っ赤なので、全然怖くない強気なベータちゃん。
「大丈夫やんね。これは二人の秘密にしておいてあげるから、さっさと告ってくっつくやんね☆」
「なっ.....っ....っっ...」
そう言って、黄名子は去っていった。顔から爆発が起きたように赤面して、ベータは今まで言われたことのない言葉に戸惑いを隠せなかった。直接人に好きだなんて。ましてや、天馬になど、言えるはずもなかった。
「コクハク。か....」
また、ため息を付き壁に背を預ける。
「私は...」
続く。
果たして、ベータはどのようにして天馬へこの想いを伝えるのか。