「うぅ・・・」
俺の隣に居るミアはまだ唸っていた。
「そんな気にすることでもないだろう。俺だって眠っているミアに欲情して襲いかかったことがあるぞ」
跳び起きたミアに蹴り飛ばされたが・・・
「私はアルの相棒。アルがえっちにだらしない分、私がしっかりしなくてはいけないのに・・・これじゃ獣と同じ・・・」
いや、獣だろ
ぶつぶつと何か言っているミアを連れ、少し遅い朝食をとるためにしっぽ亭の1階へと降りてきた。既に他の宿泊客は朝食を終えたのか、1階はがらんとしている。
「あら、おはようさん!アルさんにミアちゃん、今日は珍しく遅いのねぇ」
話しかけてきたのは人族のおかみさん。
「ラーマさん、おはよう。いやね、今朝ミアが・・・いや、なんでもない。朝食残ってる?」
ミアがものすごい力で俺の手を握っている。おい、爪が刺さって血が出ているじゃないか
「あはは、相変わらず仲いいね!朝食はとっといてあるよ、好きな席に座って待ってておくれ」
「ありがとう」
ミアと向かい合うように席につき、テーブルの下で治癒魔法を使う。温かい光が傷ついていた手を修復し、何事もなかったようになった
「アルはデリカシーがない。何故言わなくていいことを言おうとする」
彼女の視線で人が死んでしまいそうだ。この場合死ぬのは俺だが。
「口が滑ったんだよ」
頭をなでてミアのご機嫌をとりつつ、朝食が出てくるのを待つ。窓に目を向けると太陽の光が差し込んでくる。位置的にはお昼前ってとこか
「はいよ、お待ち。サラダと肉を挟んだパンだよ」
「お、旨そうだ」
早速だが手をつける。うまい。
前を見るとうれしそうに目尻を垂らしたミアが、両手でパンを持って噛り付いていた。
犬耳はぴこぴこ元気に動いている。
「しっかし、こんなにゆっくりしていていいのかい?今日もギルドへ行くんだろうけど・・・もうめぼしい依頼なんてないんじゃないのかい?」
ミアの犬耳がみるみると萎びるように前へ倒れていく。なんてかわいいんだ
「いや、いいんだよ。この間でかい獲物を獲ったし。しばらくはゆっくりしているつもりなんだ」
「そういえば前ワイバーンがなんとかって言ってたね、凄いよ二人とも!その若さでワイバーンを倒しちまうんだから!A級冒険者なんて、この街にはあんた達以外いないんだからさ」
自分たち、天才ですから!
きりっとしているとミアにぽかっと頭を叩かれた
「調子にのらない」
「あはは!こうしてみているとほんとお似合いだね!若夫婦さん!」
ぼんっとミアの顔が赤くなる。
「いやいや結婚はまだしてないですよ。俺は何時でもいいんですがね」
ちらっとミアの顔見るとますます赤くなる。
「・・・まだご領主様にご挨拶していない。私はお世話になった。アルと結婚するなら正式にご挨拶にいってからでないと、筋が通らない」
ミアの言っている"ご領主様"というのは俺の親父のことだ。
-ギルバート・ディレス-
25年前に起こった隣国[ガーランド帝国]との戦争において、若輩ながらも数多くの敵将を討ち取った[バレシア王国]の英雄の一人。元々、傭兵団の団長でしかなかった親父だが、その戦功において戦死したディレス男爵の長女"リリアーヌ・ディレス"と婚姻を結び、バレシア王国の男爵位を賜ることとなった。
(元々ディレス家には嫡男がおらず、養子などをとって存続させるつもりであったようだ)
ディレス家の領地は辺境でモンスターの数が多く、あまり実りが多くない。親父は領民のことばかり考えた政策をしてしまい、経営が上手くなかった。だからこそ没落気味ともいえるのだが・・・
親父は魔法を使えず、剣のみで武勇を轟かせた生粋の剣士だ。そんな親父の子供である俺だからこそ、僅か17歳という年で刀剣術を達人クラスまで鍛えられたのかもしれない。いや、俺も勿論努力したよ?
「そうだな、あの時"冒険者になる"って飛び出してから一度も帰ってない。家が建って落ち着いたら、そろそろ顔でも見せにいくかぁ」
「それがいい。私も、ご領主様や奥方様にまた会いたい。アルはあの時も嘘をついていた。私はご領主様の許可があれば、喜んでついていくといったのに・・・」
そういわれてもなぁ
「親父は"貴様は俺やお前の兄と同じく王国騎士団に入るんだ!"って言ってきかなかったじゃねーか。ミアはどうするんだっつっても"ミアはうちの娘だから俺が家で愛でるんだ"って言ってたし。俺はどうしても、お前と離れたくなかったんだよ」
「私も・・・アルと離れたくなかった。だからといって私に"許可が出たから行くぞ!"って嘘をついて連れ出さなくてもよかった。私はご領主様や奥方様に恩がある。奴隷出の私を、本当の娘のように育ててくれた。お二人には申し訳ないことをしてしまった」
ミアが非難めいた眼でこちらを見つめる
「しょーがないだろ!騎士学校への入学まで時間がなかったんだよ!あのままだと、無理やりにでも入学させられてた。親父が王都に行ってる間に、逃げ出すしかなかったんだよ!」
それに、お袋は笑顔で見送ってくれたしな
「・・・奥方様は泣きながら"待ちなさい"と叫んでた。」
そうだったっけ?
ラーマさんの笑い声が厨房の方から聞こえた。