「ガハハハハっ そうか、そりゃぁ災難だったな!」
「笑いごとじゃねーぞガイエン、まじで辛かったんだからな・・・」
そうかそうかと ばんばん俺の背中を叩いてくるガイエン。いてぇよ
迷宮都市マルトからミルスティンへ戻ったばかりの頃、俺はガイエンとしっぽ亭で酒を飲んでいた。エールを飲みながら酒の肴にと、ガイエンに迷宮都市での失敗談を話していたのだ
ちなみにミアはここにはいない。女友達と甘いものでも食べにいったのだろう。ミアは甘いもの好きだからな
話の流れはこうだ
マルトのダンジョンは全100階層だといわれている。(数百年前攻略されたマルトのダンジョンに似た構造のダンジョンが、全100階層だったためだ)
マルトの攻略層は78層。(78階層に進入したというのも70年程前の記録で、現在は60~70階層付近が最前線のようだ)俺たちは65階層を探索していた。そこで、宝箱を見つけたのだ
「おい!ミア!宝箱だぜ!しかもでけぇ!こんな深い層で発見したのは初めてじゃないか?」
「アル、興奮しすぎ。罠があったらどうするの」
俺を窘めつつも、ミアの犬耳はピクピクしている。
お前も興奮してるじゃないか
「開けるぜ?」
「慎重に」
わかってるよ
ミアのいう通り慎重に周りを調べ、問題がないことを確認した俺はゆっくりと宝箱を開けていく
「大剣・・・か?」
「うん」
出てきたのは黒い大剣だった。刃渡りはおおよそ130cm 幅は肉厚で柄は35cm程といったところか。特大の大剣だった。
「うぉぉぉぉ、無茶苦茶格好いいじゃないか!しかも、"魔晶石"がはまってるぞ!魔法剣だよ、魔法剣!」
「アル、うるさい。それにアルの刀だって一応は魔法剣」
しょうがないなぁと苦笑しながら言いつつも俺を諫めるミア
かっこいい武器は何本持っていても良い物なのだ
早速魔力を込めてみよう
「アル、待って!」
"何かを吸い取られるような感覚"とともに、大剣にはまった魔晶石が輝きだす。瞬間、大剣の刀身から黒い炎が吹き上がった。
「きゃ!」
「うわぁぁぁぁすげぇぇぇ!黒い炎が出たぞこれ!こんなの初めて見たぞ!」
通常、魔法剣とはミスリルを素材にした魔力伝導率が高い武器に、自分の得意な属性の魔力を込めることで発動する汎用型の魔法剣と、武器の作成時に貴重な魔石"魔晶石"を使い、魔力を込めることで発動する特化型の魔法剣の2種類が存在する
普段俺が使っている刀はミスリル製で前者、今回手に入れた大剣は後者ということだ。後者は現在の技術では作りだすことができず、古代遺跡やダンジョンの中でしか発見することができない、かなりの貴重品となっている。売りに出したら、とんでもない金額がつくだろう。(そもそも、魔晶石すらほとんど出回らず、王都の結界などに使用されているため、お目にかかることなど滅多にないのだ)
しかも、通常の魔法剣は刀身にほんのりと属性ごとの色がつくぐらいだ。決してこの大剣のように炎を纏うことなどあり得ない
「ミア」
「・・・なに?」
「俺、大剣極めるよ」
「は?」
「大剣、使いたいんだ」
ミアは頭を抱えている。
「アルが鍛えているのは"刀剣術"。"大剣術"はそもそも取得すらしていないはず」
「いいんだ。最初はみんなそうなんだよ。親父だって刀剣術と大剣術を両方極めてた。なら、俺にもできるさ」
ミアのジト目が怖い
「ダンジョン探索はどうするの?」
「1階層からやり直す」
いかにこの大剣が強力といえども、スキルレベルが低ければまともに振るうことすらできないだろう。上層からやり直すのが賢明だ
「私は?」
「一緒に来てくれ、寂しいじゃないか」
稼ぎが減ってしまうが仕方ない。ロマンの為だ。宿屋の質は落ちるが我慢してくれ。
ミア、すまない。でもこれ、ほら見ろよ!かっこいいだろ?
・・・殴らなくてもいいだろ。
「・・・好きにすればいい」
「おう、好きにするぞ」
それから2か月、俺はこの大剣"レーヴァテイン"(アル命名)を使い続けた。最初はスキルレベルが低いこともあり、振り回されることも多かったが徐々にそれもなくなってきた。
なによりこの大剣、レーヴァテインはもの凄く強いのだ。
黒炎を発動し、モンスターに当てれば焼き切るように真っ二つ。例えかすった程度だとしても、かすった部分には黒炎が纏わりつきモンスターが死ぬまで燃え広がる。ガードに使えば当てた相手のほうが燃え尽きる
完璧だった。
これこそ"魔剣"だと思った。
今日も俺はミアのことすらほったらかし、レーヴァテインを寝るまで磨き上げるのだ。
最近のアルはおかしい。
今までは刀が大好きで、いつも"親父みたいな刀剣術を身に着ける"って頑張っていた
親の意向に背いた自分への罰として、ご領主さまから教わった刀剣術だけは絶対マスターするって聞かなくて、私が止めてもいつもいつも刀ばかり振っていた。
倒れる寸前まで毎日振って、怪我をするまで・・・刀が折れるまで、モンスターとの戦いをやめない
そのために治癒魔法まで鍛えた。数打ちの刀をたくさん買った。限界まで戦えるようにと・・・
でも、そんなアルの姿が私は好きだった。期待を裏切ってしまった家族との・・・絆を大切にするその姿は、私にはとても格好よく見えた。誇り高い、男の姿だ。
だから迷宮都市にきてお金稼いだ私たちは、まずは武器を買うことにした
アルはミスリルの刀 私はミスリルの忍者刀を二振り 結して朽ちない、魔法の金属。お揃いの武器だ。
とても高かったから、手に入れることができた時は凄く嬉しかった。
アルも大はしゃぎしていた。
なのに・・・最近はあの大剣ばかり使っている。まるで、他のことなど目に入らないかのように。
私が見ている限り、"あの大剣を手放しているのを、この2か月一度も見たことがない"
あの大剣のせいで・・・アルは変わってしまったのだ。
「・・・アル、いい加減にして」
「何がだ?」
「最近ずっとそう。その大剣を寝るまで磨いている」
「別にいいだろう」
「寝るときも、その大剣を抱きしめている」
盗まれたら困るからな。
「ご飯のときも、ずっと背中に吊るしている」
かっこいいだろ?
「刀は?」
さて、使ってないからわからん・・・そういえば最近見ないな?
「・・・私のことも全然見てくれない」
何が悪いというのか・・・レーヴァテインはこんなにかわいいのに・・・はて?かわいい?
ぽろぽろとミアが泣き出す。面倒くさい女だ。
それに比べてレーヴァテインはかわいいなぁ。・・・あれ?
「目を覚まして」
泣きながらミアが訴える。・・・何か忘れている気がする。だめだ、思考にもやがかかったようで何も考えられない。
ミアが俺の手からレーヴァテインを取り上げようとする
「何をする!」
「アル!目を覚まして!」
ミアが霞むような速度の蹴りを俺に見舞う
まさか本気で蹴られるとは思わず、俺は手を離してしまう
「ぐっ!」
壁まで蹴り飛ばされ、強かに頭を打ち付けた
ぼんやりとした視界の中で、俺の刀に風の魔法を付与したミアが泣きながらレーヴァテインの魔晶石を何度も斬りつけているのが見えた
ミアが持っていてくれたのか・・・
「こんなもの!こんなもの!アルを・・・返して!私のアルバートを返してよぉ!」
何故お前は泣いているんだ・・・俺は・・・ミアを二度と悲しませないと誓ったはずなのに・・・そうか、その大剣が悪いのか
「違う、そうじゃない」
俺はミアの持っている刀を取り上げる。八双の構えだ。
「アル・・・?」
「ミア。刀ってのは、こう使うんだ!」
俺は渾身の、しかし余分な場所には力を込めず、流れるような動作でレーヴァテインの魔晶石へと刀を振り下ろす
パキーンっ!という甲高い音と共に、魔晶石を切り裂いた。
瞬間、思考がクリアになり泣いているミアの顔が見える。
俺が・・・こんなにも彼女を悲しませたのか・・・
とてつもない罪悪感に襲われた俺はたまらず刀を床に落とし、ミアを抱きしめる
「うぅ・・・あるぅ・・・あるなのぉ?・・・大丈夫なのぉ?」
「すまない。ミア。どうやら・・・俺はおかしくなっていたようだ。もう、大丈夫だよ」
「ううぅぅうわぁぁぁぁぁぁん!ばか!ばか!だから待ってって!慎重にって言ったのにぃ!」
「ほんとうにすまない。ミア、許してくれ!」
ミアの泣き叫ぶ姿は俺の心を痛ませる。まるで、己の身を引き裂かれるような痛みだ・・・
「うぅひっく・・・大事な刀を放り出して・・・わっわたしのことも見てくれなくてぇ!」
刀もそうだが、ミアを見ないなんて本当にどうかしていたな。
「さっ寂しくて、あっアルに見てほしくて、自分で慰める所を・・・アルに見せたりしたのにぃ!」
・・・ミアもレーヴァテインの魔力にあてられていたのだろうか?
「ばかぁ!アルなんて!きっ!?んん!?・・・ぷはぁ・・・・・・だいすきぃ」
慌てて唇を奪う・・・危なかった。き の続きを言われたら、俺は首を吊るしかなかったぞ
・・・そんなことは絶対にできないが。別に俺の命が惜しいからではない
ミアを押し倒してもう一度唇を奪う。潤んだ瞳でこちらを見つめる彼女が愛おしい・・・
「・・・いっぱい・・・して」
「当然だ。今までお前をほったらしてしまった時間の分だけ愛してやる」
それから時間を忘れるくらい、俺はミアを貪った。
「じゃあな、また飲もうぜ!」
「あぁ、またなガイエン」
千鳥足で帰っていくガイエンを見送り、星を眺めながら当時のことを思い出す。
何故一番大切なはずのミアのことや、刀のことなどをどうでもよく感じてしまっていたのだろうか。
・・・レーヴァテインは本物の"魔剣"だったのだろう。
恐らく、所有者にとって大切なものの"興味"とやらを吸い取っていたのだ。大剣を使って欲しいがためなのか、能力を引き出すのために必要だったのか、今となってはわからないが。
ぶるりと震える。あのまま使っていたら、世界を巡ることも、ちっぽけな自己満足でしかない父への誓いのことも・・・そして、ミアへの愛情すらも忘れてしまっていたのだろうか。
人を惑わす悪魔の剣 それが魔剣なのだろうか。
・・・今更考えても意味のないことだな
「アル」
しっぽ亭の中から愛しい少女の声が聞こえた。
振り向くと美しい銀髪を背中まで伸ばした俺の可愛いミアが、犬耳を伏せつつ少しきつい眼を不満そうに垂らしながら其処に立っていた
「あれ、もう帰ってたのか?」
「・・・ばか。ガイエンと楽しそうに飲んでた時から、もう部屋に戻ってた」
そうか
「部屋、戻ろ?」
そうだな。
「何故、抱きしめるの?」
「お前が愛しいからだ」
ぼんっと顔が赤くなる。相変わらずの恥ずかしがり屋だ。
「・・・部屋に戻ってからにしてほしい。それなら大歓迎」
わかったよ
「わっ お姫様抱っこはやめて。そういうのは部屋でって・・・ん」
唇を押し付ける。
「ぷはぁ あぅ・・・人が見てる。アルはやっぱり・・・ばか、ダメ人間」
「お前がいないとダメなんだよ、俺は」
「わたしも・・・そう。アルがいないと・・・ダメ。今日、甘いものをエミリアと食べに行った。でも、アルがいないと寂しくて・・・途中から美味しくなくなった。だから早く帰ってきた」
「エミリアと行ったのか、仲悪いと思ってたよ」
「・・・あの泥棒猫はアルが関わるとだめ。でもそれ以外ならいい人族」
そうだな
部屋に戻った俺たちは、示し合わせたかのように服を脱ぎ捨てた
今日も、ミアを一杯甘やかそう。
だが、調子乗った俺はミアの静止の言葉も聞かず、勢い良く彼女の尻を掘ってしまった。翌日、めでたく両頬に紅葉をつけることとなった
ミアは痔になったそうだ
"慎重さ"を持つことと、愛しい彼女の"待って"はとても大事なことなのだと、俺は改めて知った。