「アル!起きて!お願い!」
ミアが必死に俺を起そうとしている
「みあ・・・まだ早いじゃないか・・・」
昨日はあれから激しかった。
リザードマンを殲滅した俺達は、もてなしてくれるという村の人達が呼びに来るまでに6回。宴が終ってからも酔った俺達は獣のようにお互いを求めた。おかげで寝た時には朝になっていたくらいだ
だから昼くらいまでは寝ようと決めていたのだが・・・
「お願い・・・起きて・・・」
ミアの涙声に俺は跳ね起きる、彼女を泣かせたままではとても寝ていられん
「ミア、どうした!?何故泣いているんだ・・・」
彼女を抱き寄せて話を聞く
・・・嘘だろ?
「なんだと?馬鹿な、昨日あれ程したじゃないか!」
「そうなの・・・でも・・・」
ミアは力なく俺にもたれかかる
「氷魔法のスキルが・・・消えた?」
俺が呟くとミアは声を上げて泣き始めてしまった
「・・・本当になくなったんだな」
項垂れるミアを抱きしめながら話をする
「うん。ちょっと喉が渇いたから起きて・・・毎朝してたから癖でスキルを確認したら・・・」
そうか・・・
「無くなったのは氷魔法だけか?」
「うん・・・」
それが不幸中の幸いだな
「でも・・・何時かまた全部消えてしまうかもしれない・・・」
そうだな・・・
「ミア、鉱山都市に向かうのは後だ。俺達は能天気に考えすぎていたのかもしれない。先にライフ・リンゲージについて詳しく調べる必要がある」
えっちをすればなんとかなるなどとはやはり甘い考えだったようだ
人を生き返らせる程の禁呪なのだ。お袋すら知りえないリスクが・・・呪いのようなものがあってもおかしくはない
「でも・・・」
「でもも何もない。俺達には必要なことだ」
「・・・わかった」
俺達は急いで旅の支度を始める
「ごめんなさい、アル。新しい武器のことあんなに楽しみにしていたのに・・・」
「武器なんぞ何時でも手に入る、気にするな」
ミアは俺にとって唯一無二なんだ
「俺のことは気にするな。俺にとってはお前のことが一番大切なんだ」
「うん・・・ありがとう」
俯いているミアを連れ、村長に挨拶した俺達は村を出た
ミアのスキルを・・・取り戻す為に
それから半年、バレシア王国内を旅して回った。
各地の治癒魔法使いを訪れて話を聞いたが、成果は一向に上がらなかった
そもそも、著名な魔法使いでもライフ・リンゲージについては知っている人すら少なかったのだ
その間にもミアはまた1つスキルを失った。今度は治癒魔法だった
彼女はどんどん不安定になっていき、夜には不安からか今まで以上に俺を求めるようになった
少しでも彼女の不安を取り除こうと、俺はミアを必死に慰めた
それがいけなかったのだろうか・・・
ミアは、とうとう弓術以外のスキルを全て失ってしまった。
「あぅ・・・ぐすっ・・・どうして・・・」
ミアは泣きながら俺の胸に顔を埋める
「ミア・・・」
「なんで・・・私・・・これじゃあ・・・足手纏い・・・アルにはもう付いていけない・・・」
「そんなことはない!・・・なんとかする。何とかしてみせるから・・・そんなことを言わないでくれ・・・お前を・・・愛しているんだ・・・」
戦う力の大半を失った彼女は、何度も自分は街にでも置いていってくれとお願いしてきた
だがそんなことはできない。今のミアから目を離せるわけがない。彼女がこうなった原因を作ったのは俺だ。俺が彼女の傍にいないでどうするというのか
「ミア、まだ調べていない場所がある」
ここが一番情報を得られる可能性が高いだろう。しかし、彼女に更に辛い思いをさせてしまうかもしれない・・・
「ぐすっ・・・何処?」
「王都だよ」
それから2週間後、俺達は王都のすぐ近くまで来ていた
「ミア、フードを絶対にとるなよ?」
「うん・・・」
王都は人族至上主義者が多い
もしここで彼女の存在が明るみになれば、心無い人達からどんなことをされるかわかったものではない
最悪、彼女程の容姿であれば連れ去って奴隷にしようとする輩も居るだろう
本当はこんなところにミアを連れて来たくはなかった
だが、もうここに望みをかけるしかなかったのだ
俺達は王都に着くとすぐに宿をとってミアを匿うことにした
「ミア、俺が戻ってくるまでここに居ろ。絶対に外に出るな」
「わかってる・・・アル、気を付けて」
「ああ」
俺は後ろ髪を引かれる思いだったがミアを宿屋に残して外に出た。フードを被っているとはいえ、できるだけ彼女を人の目には晒したくなかったのだ
向かうのは王立図書館だ
王立図書館は巨大な建物だ
国中から集められた文献や資料などを集めている、この国で最大の情報機関と言ってもいい
俺は王立図書館の受付女に話をする
「どのような資料をお探しですか?」
「・・・禁呪について調べたい。"ライフ・リンゲージ"についてだ」
受付嬢は目を丸くしている
「・・・禁呪ですか。勿論文献はございますが・・・貴族以上の身分の方でないとお見せできない規則となっております」
貴族か・・・ん?俺は貴族じゃないか!
「俺は貴族だ。ディレス男爵の三男、アルバート・ディレスだ」
「身分を証明できるようなものはございますか?」
しまった、家紋か何かが必要なのか。雷で溶かしてしまった刀の柄には家紋が入っていたんだが・・・
「ないな、その場合どうすればいい?」
「・・・あなたの身分を証言できる方がいらっしゃれば」
受付嬢は俺を訝し気に見ている。・・・疑われているな
「わかった。少し待っていてくれ」
俺は踵を返すと王立図書館を出る
「やれやれ、兄達はこんな俺を許してくれるだろうか?」
俺がこれから向かうのは王国騎士団の詰め所だ
「ガルバート兄、シルバート兄、どっちでもいいから居てくれよ」
「なんだと!?アルバートと名乗った黒髪の男が王都に来ているというのか!?」
僕とアルバートの兄であるガルバート兄さんが怒声をあげる
「そうだよ兄さん、城下街の衛兵から報告があった。僕たちはずっと人相書きを出して探していたからね」
まぁ僕はアルとミアはミルスティンに居ると知っていたんだけどね。2年以上前に僕は既に彼らに出会っている。・・・見つかると連れ戻されてしまうから、王都には来るなと言っておいたんだけどなぁ
「だけどおかしいんだ」
そう、衛兵からの報告はおかしかった
「何がだ!?そもそも何故見つけた時点で衛兵は奴を捕えない!そう命令を出していたはずだ!」
「アルバートと名乗った男はね、どうみても17歳くらいにしか見えなかったそうだよ。だから衛兵も彼らをすぐには連れて来なかったんだ」
そう、今年14歳のはずのアルバートは・・・衛兵の報告だと身長は170cmを軽く超え、人相書きとは全然顔が違っていたそうだ。まぁ物凄くいい男だって報告も上がっているからきっと本人なんだろうけどね
「俺の可愛いアルバートが・・・17歳くらいになっている・・・だと」
まずい、兄さんの悪い癖が出た
「どうしてしまったのだあいつは!急に家出をしたと思ったら2年も消息が掴めん!その上でやっと見つかったと思ったらなんだその報告は・・・。俺は・・・あいつと騎士団で活動するのを愉しみにしていたんだぞ・・・」
ああ・・・
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!アルバートぉ!お前の身に何かあったというのか!?今会いに行くぞ!ミアという可愛い妹も一緒なのか!?ああ!兄妹達よ!今お兄ちゃんが迎えに行ってやるからなぁ!!」
ガルバート兄さんは走り去って行った
恐らく報告にあった、彼らが取ったという宿に行ったんだろうけど
「・・・兄さんは兄弟愛が強すぎる」
僕は兄さんの猪突猛進振りに頭を悩ませた
「アル・・・大丈夫かな」
私はアルが取ってくれた宿でただ彼の帰り待ち続けていた
「私の所為で迷惑ばかりかけてしまって・・・本当にごめんなさい」
何時も私の所為でアルを困らせてばかり・・・
この半年、段々と戦えなくなっていく私を守ってアルは傷ついてばかりだった
襲ってくるモンスターや野盗との戦いでアルは身も心も疲弊していた
旅を急いだ所為で普段より注意力が散漫になって、強襲を受けたこともあった
その度にアルは私を庇って大怪我をしてしまった
「ごめんなさい・・・」
行き場のない憤りや悲しみを、私はアルにぶつけてしまったこともあった
「それなのに・・・」
彼は・・・それを嫌な顔一つせず受け止めてくれた
「わっ私なんかのことを・・・愛しているって・・・」
涙が止まらない
「馬鹿な女でごめんなさい・・・足手纏いでごめんなさい・・・」
彼は・・・あれからずっと・・・本当に"私だけを見てくれていた"
私がどんなに役立たずでも、決して"私を離そうとはしなかった"
私の為だけに・・・何時でも頑張ってくれていた
「もう・・・アルの気持ちは十分すぎる程伝わったよ・・・」
もう"彼が私以外の女の子を見ることなんてないだろう"
「だから・・・あなたの役に立ちたいよ・・・」
だからお願い・・・私の力を返して・・・
「アルの・・・隣に居たいの・・・寄りかかってばかりじゃ嫌・・・私は・・・私の足でアルと一緒に歩いて・・・一緒に生きていきたいよ・・・」
だから・・・
「お願い!私の力を返して!アルに迷惑をかけるだけじゃ恋人何て言えないの!だから・・・お願い・・・」
私は慟哭する
もうどうなっても"アルは私を捨てることなんてあり得ない"。そう信じられる
だから・・・お願い!
その時、私の中に何かが満ち足りた気がした
どくんっと心臓が跳ね、全身に熱が行き渡る
「なに・・・これ?」
これはまるで・・・あの時、ライフ・リンゲージで使ってしまった命の力が戻ってくるみたい・・・
「もしかして・・・」
私は急いでスキルを確認する
「うぁぁ・・・」
涙が溢れる
「うぁぁぁぁ・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
私はまた泣き叫ぶ
私のスキルが・・・全て返ってきていたのだ
「なんで・・・今になって・・・」
本当によくわからない魔法だと思う
「よかった・・・よかったよぉ・・・アル・・・またあなたと一緒に戦えるよぉ・・・あなただけに背負わせなくて済むよぉ・・・」
ぐしぐしと目を擦って涙を拭く
「アルに知らせなきゃ・・・」
どちらにしても一度はライフ・リンゲージについて調べなければならないだろうが・・・
「今は・・・アルに会いたいよ・・・」
あなたが恋しいよ・・・
でも外には出ることはできない。彼に迷惑をかけてしまう
どうしようかとベッドで蹲っていると・・・突然部屋の扉が吹き飛んだ
「え・・・?」
「アルバート!!何処だ!?何処にいるのだ!・・・む?君は・・・」
なんか変な人が来た
「やぁ、アルバート。2年半振りかな?大きく・・・なり過ぎだね。変な物とか食べたんじゃないのかい?」
もう僕とあんまり変わらないじゃないか・・・と呟いている
俺は騎士団の詰め所に向かい、其処に居たシルバート兄と彼の執務室で話をしていた
「いや、話すと長くなるんだが・・・協力して欲しいし全部話すよ」
「協力?」
シルバート兄に俺の身分を証明してもらうにも今までの経緯を全て話すのが筋だろう
俺は、今までの冒険の話とこれから何をするつもりなのか全てシルバート兄に話した
「成程ね・・・ミアの魔法でそうなったと・・・」
「ああ、そうだ。全て俺が悪い」
彼女が力を失ったのは全て俺の責任だ
「わかったよ、その魔法について調べるのに僕も協力しよう。可愛い弟と妹の為だ。だけど・・・」
シルバート兄は立ち上がると俺の顔を思いきり殴りつける
「ぐっ!」
あまりの衝撃で俺は床にへたり込んでしまう
「言ったよね?ミアを傷つけたら僕が君を殺すと」
こんなに怒ったシルバート兄は見たことがない
「まぁなんだ、ここまでしっかりミアを守ってきたからこれで許すけど・・・次はないよ?」
今じゃ君を殺したらミアも死んでしまうらしいしね っと付け足す
「浮気はもうダメだよ!僕もやらかしたけど女性は本当に怖いんだ!」
あんたもやらかしたのかよ・・・
「ははっ、実は僕も恋人に二度刺されてね。いや~あれは危なかったよ」
笑顔で言うことじゃないと思うが・・・
「ガルバート兄さんは僕の知ってる限り既に4回くらい刺されてるよ」
何をしているんだあの人は
「僕達兄弟はモテるから・・・それに女の子に甘い。きっとそういう星の元に生まれたんだろうね」
「親父の所為だな」
親父はすぐメイドに手を出していたからな
「僕もそう思うよ。・・・よくよく考えたら、僕にアルを殴る権利なんてないじゃないか・・・」
気付いたか、あんたの話を聞いて理不尽だと思ったんだ
「あっ・・・やめてくれよアル・・・そんな拳を振り上げて・・・ぐえっ!」
兄弟ケンカが始まった
「アル!この兄を殴るなんて!冒険者の生活に染まって貴族の礼儀を忘れてしまったみたいだね!」
「シルバート兄・・・俺はあんたの誠実さを尊敬していたんだが・・・どうやら思い出させてやる必要があるみたいだな!」
この後、二人ともぼっこぼこになった
「シルバート!妹だ!俺達の妹を連れてきたぞ!・・・誰だお前達は」
どうやらガルバート兄が帰ってきてしまったようだ
「アル!どうしてそんな顔に!?あぁ・・・今治すから・・・」
ミアが俺に駆け寄って来る・・・なんでミアがここに?
「なに!?アルだと?その顔が腫れ上がった不細工がアルバートだというのか!」
「そうです!ガルバート様の弟のアルバートです」
「じゃあこっちの不細工は・・・シルバートか?」
「お、お帰り・・・兄さん・・・」
「ガルバート兄、ひ、久しぶり・・・」
こうして俺達、ディレス家の兄弟全員は再開を果たした
アルバート・ディレス 14歳(17歳相当) 身長 175cm→177cm
スキル:刀剣術:7 火魔法:4 雷魔法:5 治癒魔法:4
装備 :上質な鋼の刀 変異リザードマンの革鎧セット
所持金:およそ金貨130枚
ミア 14歳(17歳相当) 身長 168cm Fカップ
スキル:刀剣術:5 風魔法:6 氷魔法:5 治癒魔法:5 弓術:2
装備 :鋼の忍者刀×2 カーボンの合成弓 変異リザードマンの革鎧セット
所持金:およそ金貨150枚
ライフ・リンゲージの呪いが解けました