刀を正眼に構えた姿勢でこちらを見据えるアルを観察する。・・・正直、隙が無い。
私もそれなりに刀剣術は鍛えたきたけれど、アルを相手に接近戦を挑めば恐らく5秒と持たない。
それくらい、私とアルの刀剣術の腕は差が出来てしまっている。勿論スキルのレベル差もあるが、何よりアルの洞察力、反射神経はズバ抜けているのだ。
不用意に近づこうものなら忽ち斬り伏せられてしまうだろう。
「どうした、来ないのか?」
乾いた風が吹き、アルの濡れた漆黒の様な髪がたなびく。私を見据える目は真剣そのもの。普段の軽い感じと違ったその姿に、思わず頬を赤くしてしまう。
あぁ、今日も格好いいよアルバート。出来るならこのまま彼に抱いて欲しい。
・・・いけない、集中しないと。こんなだから彼に"エロ狼"なんて言われてしまうのだ。愛しい彼に"エロ狼"などと呼ばれ続けるのは絶対に嫌だ。
・・・でも、アルだって寝ている私に悪戯していたのだ。私を求めてくるアルが愛おしくて・・・正直嬉しかったが。
だがそれとこれとは別だ。私だけを責めたアルに謝らせたい。私にだってプライドがある。
意識を戦闘時のものに切り替え、私の手札を確認する。
私の強みはアルより幾分か上の身体能力と魔法の腕、弓を使った遠距離攻撃だ。・・・正直、獣人の私と身体能力で張り合えるアルはちょっとおかしいと思う。アルは私の身体能力を羨ましがるが、彼より少しだけ早く動けたりする程度であまり大きな差はないのだ。
そうすると魔法、弓を使った遠距離攻撃で攻めるべきなのだがこれも今は難しい。私達がいるのは荒野のど真ん中だ。身を隠す場所もなければ相手の頭上をとれる場所も無い。お互いの距離も10歩程しかないので、私とアルならあってないような距離なのだ。
「・・・ふむ、これはフェアじゃないな」
アルは刀を仕舞うとこちらに背を向けて歩き出した。
「・・・アル?」
「この距離でこの見晴らしだ。俺に都合が良すぎる」
彼はそう言って私と30歩程の距離の所まで行くとこちらを向く。
「魔法を使うなら最初だけは待ってやる」
・・・随分と余裕がある
「・・・本気?」
「ああ、本気だとも」
少し声を張りながらお互い確認する。・・・彼は勝負を投げたのだろうか。私の魔法の腕は知っているはず。いくらアルといえど、私に魔法を撃たせたらほぼ間違いなく負けるのはわかっているはずだ。なのに・・・
「その代わり、俺も少し本気を出そう」
そう言うとアルは足を開き、刀に手をかけた状態で目を瞑った。さっきと比べて隙だらけの構えだがあれは・・・
「抜刀術・・・」
背筋が凍った。あれは、確かにアルが本気を出した時の構えだ。勿論、あの間合いに入らなければ意味はない。斬撃を飛ばす・・・なんてことも勿論ない。だが一度だけ刀剣術の訓練の時に見たことがある。
彼の抜刀術は異常だ。
"見えない"のだ。何時刀を抜いたのかも、動いたことすらもわからない。獣人の私は人族と比べて五感に優れている。その私でさえ、彼が何をしているのかすらわからないのだ。
だが、それは剣の間合いでの話。魔法を撃たせて貰えるなら負けることはない。・・・そう理解していても怖い。アルなら・・・何か私の予測を超える様なことをしてくるに違いない。
「なら、私も本気で行く」
「ああ、そうするといい」
彼は目を閉じたままニヒルに笑ってそう言い放つ。少しカチンときた。
魔力を練る。彼が何をしようとしているかはわからないがそれすらも私は超えて見せる。私は、アルの恋人で相棒だ。妹でもあるけど。
彼に守られているばかりじゃない。私が彼の隣に居る為に磨いた力で、今度はアルを守りたい!
それができるってことを今、証明して見せる!
私の一番得意な風魔法、それでアルの本気を叩き潰す!
「"トルネード!"」
強大な竜巻が私の前に出現する。それを魔力でもって撃ちだし、指向性を与える。竜巻が地面を巻き上げ、抉り取りながらアルに迫っていく。
「アル。何をするつもりかはわからないけど、この竜巻をどう凌ぐの?」
風のせいで聞こえないとは思うけど気になって口に出してしまった。
彼の方を見ると僅かに口が動いているように見えた。
やはり、アルは何かをするつもりだ!
そう、例えば"魔法を斬る"なんてことも彼ならやり兼ねない!
いよいよ竜巻がアルの眼前に迫った所で、アルの閉じられていた眼がカッと開かれた。
「バカ野郎!恋人にこんな魔法を撃つ奴がいるか!」
そう叫んだ彼は竜巻に巻き上げられ、遥か上空から鼻水を垂らしながら落下してきた。
どさっと音と共に地面に落下した彼はズタボロだった。全身傷だらけだしどうみても戦闘不能だった。
・・・抜刀術は?
急いでアルに駆け寄る。
「・・・なぁ、ミア」
「・・・なに、アル」
「・・・殺すつもりか?」
「・・・ごめんなさい。でも・・・」
「・・・でも?」
「その・・・アルなら、竜巻とかも斬れるかなって・・・」
「・・・出来る訳ないだろう!!」
急いで治癒魔法を使った。
「どうした、来ないのか?」
忍者刀を構えるミアに言い放つ。ミアは何やら頬を赤くしたり真剣な顔になったりと忙しそうだ。
俺は接近さえしてしまえばまず間違いなく勝つ自信がある。彼女に勝ち筋は俺とひたすら距離を取って魔法を使う隙を作り出すことだろうか。
そう考えているとあることに気づいた。
ここには遮蔽物もなければ高台も無い。俺と彼女の距離も10歩程しかない。・・・これでは、俺に有利すぎるな。
恋人相手の決闘で自分の有利な状態から始めるなぞ余りにも男らしくないだろう。
「・・・ふむ、これはフェアじゃないな」
俺は刀を仕舞うとミアに背を向けて歩き出す。
「・・・アル?」
「この距離でこの見晴らしだ。俺に都合が良すぎる」
・・・30歩程の距離を取り、彼女に向き合う。
「魔法を使うなら最初だけは待ってやる」
これはサービスみたいなものだ。それに、試したいこともある。
「・・・本気?」
「ああ、本気だとも」
俺も魔法は使えるが、俺の最大の武器は何といっても刀剣術だろう。訓練を続けていく中で俺の中にはある確信が芽生えていたのだ。
"魔法は斬れる"
そう。俺の技量と刀剣術のレベルがあれば、低位の魔法ならば斬れると確信があった。魔法と言っても所詮は魔力を使って無理矢理物理現象を引き起こしているに過ぎない。
特にミアの風魔法と氷魔法。風魔法ならば剣速にもの言わせて風魔法以上の風を引き起こせば相殺できる・・・はずだ。氷魔法なら氷を叩き斬ってやればいい。だが、それをするにも少々本気を出さなければいけないだろう。
「その代わり、俺も少し本気を出そう」
そうミアに言い放つ。足を開き、刀に手をかけた状態で目を瞑る。
抜刀術の構えだ。
魔力は目を閉じていても感じ取れるため、精神を集中させるために敢えて閉じておく。
俺の抜刀術ならば、例え風魔法が飛んできても斬り捨てることができる・・・はずだ。何でもありの決闘とはいえ、ミアも竜巻を引き起こす"トルネード"や指定した地域全体を凍らせる"アイスエイジ"なんて流石に使わないだろう。あんなの使われたら普通に死ぬからな・・・
「なら、私も本気で行く」
「ああ、そうするといい」
俺は余裕を持ってそう答える。・・・目を閉じていてもミアから膨大な魔力を練っている様子が感じ取れるが気の所為だろう。恋人の俺に一撃必殺の範囲魔法なんて使ってくるはずがない。
さぁ、"ウィンドカッター"でも"アイスランス"でもなんでも来い!
「"トルネード!"」
・・・え?
今"トルネード"って聞こえたような・・・
すると膨大な量の風が俺の全身を叩いてきた。
「・・・嘘だろ?」
正直怖くて目を開けられない。
ああ、嘘だろミア。何かとんでもないものが俺に近づいてきてるような・・・
俺は意を決して目を開く。・・・巨大な竜巻が俺の眼前に迫っているのが見えた。
こんなの刀一本でどうにかなる訳ないだろうが!
「バカ野郎!恋人にこんな魔法を撃つ奴がいるか!」
俺はその台詞を最後に、竜巻に巻き上げられた。
アルバート・ディレス 14歳(17歳相当) 身長 178cm
スキル:刀剣術:8 火魔法:4→5 雷魔法:5 治癒魔法:4
装備 :上質な鋼の刀 変異リザードマンの革鎧セット
所持金:およそ金貨120枚
ミア 14歳(17歳相当) 身長 168cm Fカップ
スキル:刀剣術:5 風魔法:6 氷魔法:5 治癒魔法:5 弓術:4
装備 :鋼の忍者刀×2 カーボンの合成弓 変異リザードマンの革鎧セット
所持金:およそ金貨270枚