※この作品はR-18です。

クラスメイト、異世界で勇者やるってよ。   作:bear大総統

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魔王と勇者の強化合宿②

 少し場所は移動して、ここは《時間加速(アクセレラシオン)》の結界の範囲内にある小民家だ。

 元は猟師なんかが使っていたのだろうが、もう使われていなくて久しいのだろう。その証拠に家具も家自体もボロボロだった。人が住まうどころか、手入れすらされていない。その猟師(仮)が戻ってくる様子は皆無であるため、折角なので使わせてもらおうということになったのだ。

 ニュクスが《時間遡行(クロックバック)》という、空間や物体の時間を巻き戻す魔法を使って家や家具を新品同様の状態にする。

 それさえすればベッドに鍋などの調理道具、箪笥などもある為に2日ここで過ごすのに特に問題はない。風呂がないのが難点ではあるが……近くに川もあったし、そこで水浴びでもすれば問題ないだろう。ティアマトとの戦闘は精神も体力も削られ、疲労と恐怖によって汗をかく機会も多かったため、助かった。

 

 そんな民家の椅子に座っていた。木でできており、座り心地が良いとは言えないが座れるだけでも嬉しかった。

 

「どうぞ、ミナト」

 

「あぁ……ありがとうな、ニュクス」

 

 俺が机に突っ伏していると、ニュクスがコップにジュースをいれて持ってきてくれる。ジュースなんて物は当然、この民家にはなかったのでこれはメイドさん達に差し入れるケーキを買うときに購入したものだ。

 ひとつ金貨5枚もする超高級ケーキの店で買うわけにはいかなかったので、手頃な値段のジュースだったんだが……小市民の俺にはこの味が一番親しみやすく、身体に染み渡る。

 

「いえ、ティアマトとの戦闘は疲れるでしょう? 私と戦闘する機会は魔法の試射くらいですから、ここで休憩も兼ねてくださいね。勿論、真面目に取り組んでもらわなければ困りますが」

 

 くすり、と微笑するニュクスに俺は苦笑しながらわかってると返す。

 

 ──本当に完全体になってからのニュクスは、不完全体の時とは印象が違うよな。こんな扇情的な至上の肢体なんて持っていなかったし、可愛いというよりも綺麗だと思うことの方が多くなったし。まぁ、ティアマトに言いくるめられて赤面していたときはすっげぇ可愛かったけど。

 またあんな機会ねぇかな?

 

『そのうちからかってやるわよ』

 

『あ、マジで? 頼むわ』

 

 独り言のつもりだったのにティアマトに拾われてしまった。気持ち悪いなんて言われなくて──ティアマトはそんなことを言ってくるキャラじゃないが──心底ほっとする。でも美人の可愛い顔が見たいって男としては当たり前の感情だし、気持ち悪いと言われようが特に態度を改める気もない。

 

「さて、それでは始めましょうか」

 

「了解。先生」

 

「せんせい…………?」

 

「俺達の世界では、ものを教えてくれる目上の人に敬意を払って先生って呼んでたりするんだよ。まぁ、特に気にしなくても問題なし」

 

「そうですか? それでは改めて──まずは付与(エンチャント)技術について」

 

 ニュクス曰く、付与技術は大きく4つに種類分けされるらしい。

 

 まず一番ポピュラーなのが《属性付与》。呼んで字の如く、火や闇といった属性を付与する。

 武器や徒手空拳にも基本、《斬撃属性》・《打撃属性》・《貫通属性》といった属性が元からあるためそこにプラスアルファする感じだ。

 それによって付与する前の属性では効果がなかった敵に対してダメージを与えるといった使い方が主だ。あと攻撃力を増加させることも可能で、また付与技術を極めれば《重複付与》という、複数の属性を付与することも可能になる。

 

 次に《ステータス付与》。

 この世界では一般的に支援魔法(バフ)妨害魔法(デバフ)なんて呼ばれたりしている。

 バフ、デバフといった呼ばれ方をしている通り、その効果はステータスを向上させたり、逆に低下させたり。ニュクスが作り出し、俺のよく使う魔法にもなっている《闇纏武装(あんてんぶそう)》や《侵食の霧(エロジオーネ)》なんかもここにカテゴライズされる。まぁ、《闇纏武装》は《属性付与》が主な効果で、《ステータス付与》の効果はサブに近いものなんだが。

 

 次に《魔法効果付与》。

 ニュクスがティアマト戦に使っていたものだ。魔力消費量を増加させることによって発動が可能になる。

 威力を極限まで引き上げる《魔法究極強化(アルティメットマジック)》に魔法の効力範囲を拡大、延長する《魔法範囲拡大化(ワイデンマジック)》、魔法を事前に構築しておき、任意のタイミングで使用が可能になる《魔法発動遅延化(ディレイマジック)》などなど多岐にわたるが魔法の効果を強めたりするものが主になる。

 

 

 最後に《特殊技術(スキル)付与》。

 最初は自身の会得した特殊技術を、それを持っていない奴に一定時間与える──みたいな効果かと思ったんだが、それは見当外れのものだった。

 その効果は《ステータス付与》の特殊技術バージョンと思えば間違いはない。特殊技術の効力を上昇させたり、逆に低下したりするものだ。

 例を挙げるなら一定範囲内の自身と敵対行動をとっている人間や魔物を感知する《索敵》という特殊技術があるが、その効力範囲を拡大させたり、ニュクスがティアマト戦に使っていた《超高速再生(グレーターリジェネレート)》の再生速度を低下させたりといったものだ。

 あくまでも効力を上昇、低下の範囲内に収まるため、完全に効力をなくすことはできない。

 そのためティアマトの《不死》はどんな手段を使おうが──自身から《不死》を発動していなければ別だが──攻略することはできないということだ。

 

 主に付与技術を使えるのは《光属性》や《闇属性》であり、《光属性》は主に支援魔法や特殊技術の効果を上昇させる魔法が多く、《闇属性》は阻害魔法や特殊技術の効果を低下させる魔法が多い。

 そのなかには付与術士(エンチャンター)という付与技術を専門に扱う奴もいたそうな。そんな奴は軍団クラスの数の者に支援魔法や妨害魔法をかけることができたという。

 

 あとこれは属性を付与する特殊技術も存在しており、俺の持つ《制裁》がそれに当たる。《断罪属性》という、罪咎特殊技術──《暗殺術》や《強奪》といった犯罪行為にあたる特殊技術だ──を持つ者に対して攻撃力が飛躍的に向上する。

 

「じゃあ、それを使うためにはどうすればいいんだ? 《侵食の霧》や《闇纏武装》は付与する魔法だから扱うのは簡単だが、ニュクスが使ってた再生阻害なんてものは元の魔法に組み込まれてなかっただろ?」

 

 ティアマトやニュクスと契約したことで得られた魔法の究極《神魔術法》。それの知識はニュクスが完全体に戻り、ティアマトと契約した直後にすべて得ていた。発動できる魔法にその効力などが知識として入り込んでいたが、その中に『相手の特殊技術の働きを阻害する』なんて効果を元から持っている魔法はなかったはずだ。

 ならば魔法を放つ過程でニュクスが付与したんだろうが──その具体的な方法が俺にはわからなかった。

 

「魔法を構築する過程で組み込むんですよ。『○○という特殊技術を阻害』という術式を」

 

「あぁ……なるほど」

 

 ──通常ならば魔法の発動というのはいくつもの過程を踏む必要がある。

 なのに何故あれほどの早さで魔法を構築し、発動できているかというと──その過程のほとんどをすっ飛ばしているからにすぎない。

 

 分かりやすく説明すれば算数なんかが分かりやすいだろう。

 例えば『7を8回足してください』と教師から言われたとする。そこで掛け算を知っている生徒は『7×8=56』と簡単に出すことができるが、掛け算を知らない生徒は『7+7+7+7+7+7+7+7=56』と算出する他ない。どちらも答えが出るという結果に代わりはないが、その速度は段違いだろう。

 

 それと魔法も似通った点がある。

 《影球(シャドウボール)》で説明すると、あれに組み込まれた術式は『《影球》という魔法を選択→闇属性の魔力を集約→球を形作る→前方に向かって射出』という4つだが、魔法を使うことに慣れた者や元から才能があった者、高い特殊技術のレベルを有している者は『《影球》という魔法を選択』と『闇属性の魔力を集約→球を形作る→前方に向かって射出』という過程を省略することができる。

 これが《黒神宝玉》など高位の魔法になればなるほど術式は複雑化するため、早く発動するには術式の簡略化──算数で言うところの掛け算をする。

 まぁ、算数の場合は簡単になるからそれでいいんだが、魔法の場合は術式を省略しすぎると不安定になってしまう。そのため魔法の名前を口に出すことによって『自分はこの魔法をしっかりと発動しましたよ』と自身に暗示をかけることによって魔法を安定化させる。

 

 それをするには慣れている慣れていない云々の前に、事前にその魔法を発動するための術式を知っておく必要がある。そのため魔法系特殊技術を保持するものは図書館に通って魔導書を読み、自身が使う属性の魔法の知識を増やす。

 だが、俺達《勇者》は《聖魔》の知識を共有することができるため、その過程をすっ飛ばしている。魔法の『ま』の字も知らなかった俺がアンドリュー戦で魔法をポンポン使えたのはこれが理由だ。

 

 そうやって魔法を構築する過程で付与を組み込む。

 《影球》を例に挙げるなら『《影球》という魔法を選択→闇属性の魔力を集約→球を形作る→○○という特殊技術を阻害→前方に向かって射出』という感じになるのだろうか。まぁ、『○○という特殊技術を阻害』というもの以外、省略できるものは省略して発動するため、こんなにも長くはならないんだが。

 

「付与技術も使いなれていけば省略することもできます。そのためには何度も発動するしかありませんね」

 

「反復練習あるのみってか。当然だな」

 

「そのための格好の練習台がいるわけですし。ですよね、ティアマト?」

 

「えぇ~、私が受けるの? 別にいいけど。ていうか《闇魔法無効化》を持ってるあんたが受ければいいじゃないの。私は《全属性耐性》しか持ってないから、ダメージは通るのよ?」

 

「そんなもの微々たるものでしょう。それにあなたには《超高速再生》もあるんですから、実質無効化系特殊技術を有しているのと同じでしょうに」

 

「ごふっ」

 

 俺は机に突っ伏した。

 何気ないニュクスの言葉が俺のハートに突き刺さった。無意識なんだろうが、俺は私達よりも圧倒的に弱いのだと言われた気がしてへこむ。いや、事実だから否定のしようがないんだけども。それでも傷つくものは傷つくんだよ。

 …………微々たるものですみません。ふたりと比べてまだまだ弱くてごめんなさい。

 

「まぁ、その話はあとにして…………ミナトが楽しみにしているであろう、オリジナルの魔法製作に入りましょうか」

 

「マジで!?」

 

 そのニュクスの言葉に俺の頭は瞬時に持ち上がる。

 オリジナル魔法の開発。それはニュクスとの訓練の中で一番楽しみにしているものだった。でもそれは付与技術の会得、修練に空間に干渉する魔法を使いこなしてからのことになるだろうと思っていた。なのにこれほど早くから魔法の開発に勤しめるとは。

 いや、付与技術も空間干渉魔法も楽しみではあるんだよ。特に《超高速再生》を阻害することができるようになれば、ティアマトを倒す大きな近道になるだろうし、空間に干渉することができればテレポートやライトノベルなんかでよく見る空間を切断するなんてロマンに溢れる事も出来るらしいし。

 

 ──でもそれって結局はニュクスの足跡を追っているだけに過ぎないんだ。

 

 よく異世界転生者で神様からチート能力をもらって無双するって話があると思う。

 圧倒的な力で敵を打ち倒す姿は爽快感があるし、見ていてとても楽しいものだ。俺だってこんな境遇になる前まではそんなことをしてみたいなって憧れもした。

 しかしこうして《神魔術法》という魔法の究極の力を得て、《武神》という特殊技術を得て武の頂にも立った。謂わば俺は異世界転生特典にチート能力を貰ったような立場に意図せず立ってしまった。まぁ、性格は主人公からかけ離れた性格だと思うけれども。

 本来ならば羨まれるような立場なんだとも思う。

 ──それでも、それがどこか『味気無い』と思う俺もいる。

 

 俺の力の殆どはニュクスとティアマトが何百年も努力して戦い抜いて、その果てにようやく得られたものだ。

 彼女達は何とも思わないのかもしれないが、俺は思う。

 

 俺の強さは、彼女達がしてきた努力を横からかっさらう最低な行為の上に成り立っているのではないかと。

 

 ──今なら神様の特典で無双してへらへら笑っている奴が少し腹立たしく思えてしまう。

 

 何故お前はそこまでへらへらしていられるんだと。

 神を自称する奴からポンと最強の力を渡されて。それをあたかも自分の力のように振るって。

 自分の努力なんて欠片もない、他人から渡されただけの力。そんなもので無双していったい何が楽しい? そんな力で勝利して、全うに努力をしてきた人間の想いを踏みにじってどうしてへらへら笑っていられる?

 

 情けないとは思わないんだろうか。

 

 ──まぁ、所詮は同族嫌悪なんだろうけども。というかフィクションの人間にこんな感情を抱くこと自体がおかしなことなんだろうが。

 

「……ミナト? どうしたのですか?」

 

「ん? あぁ、いや。何でもない。下らねぇことだよ」

 

 結構な時間固まっていたらしい。ニュクスが困惑した表情で俺を見つめてくる。

 それを俺は笑って誤魔化した。

 《特殊技術》が完全にニュクスとティアマトのものと統合されてしまった今ではどうしようもならないことだし、わざわざ言う必要もないだろうと思ったためだ。

 

「下らないことなわけないでしょ、あんなに真剣な顔で固まってたんだから。ほら、私達に話してみなさいな。あんたの数十倍は長く生きてるんだから、多少は身になるアドバイスができると思うわよ?」

 

「……はぁ、わかった。ちゃんと話す」

 

 そこまで言われてしまっては流石に何でもないで通すことはできないか。

 俺は堪忍して、さっきまで考えていたことをふたりに話す。

 

 すると返ってきたのは──、

 

「「──はぁ」」

 

「溜め息って酷くないか? 俺は真面目に考えたんだが」

 

「いえ、別に貶しているのではなくて……健気で可愛らしいなと」

 

「あの……リクドウって言ったっけ? アイツもそうだったけど、あんたも大概真面目ね。馬鹿がつくぐらい」

 

 ニュクス、とりあえず17にもなる男に可愛らしいはやめて。そんでティアマト、お前もひどいこと言うよな。俺はあそこまで抜けてないし、脳みそがお花畑レベルでお人好しでもないんだが。

 

「とりあえず私から言うことは……そんなに気にしなくてもいいんじゃない?」

 

「おい、全否定すんなよ!」

 

 質問に答える以前に前提からぶん投げやがったよ、この魔王様!

 

「ミナトが言う……その、いせかいてんせいしゃ? の大部分はそんなこと考えもしないんでしょう? なら、ミナトの方こそ前提を履き違えているではないですか」

 

「そりゃそうだけど…………じゃなくて、お前らはなんとも思わないのかよ? 《神魔術法》も《武神》も全部お前らの努力の結晶の筈だろ、それを何の努力もしてない俺に使われて──」

 

「別に?」

 

「おい」

 

 ティアマトはあっけらかんとしすぎじゃないだろうか? そんな真似を他人からされたら、俺は怒り狂って当然だと思うんだが。出会って1週間、またはそれも満たない人間にならなおさら。

 

「──それに、ミナトはちゃんと努力しているではないですか」

 

「どこが」

 

「寝惚けた状態でまともに頭も働いていない状態であっても、あなたはティアマトに勝利した。全力──とはいかないまでも、その時よりも遥かに強くなっているティアマトと10分以上戦い続けた。これは確かにミナトがちゃんと努力して、強くなっている証拠ですよ」

 

「そうそう。過度な謙遜は聞いてて気持ちよくないわよ。あんたはちゃんと頑張ってる。それでいいじゃないの。──私達の首根っこ引っ掴んで、引き摺り倒して、叩き潰すんでしょう? なら、もっと頑張らなきゃ」

 

「──! ……あぁ、絶対叩き潰してやる」

 

 自分が1日前に言ったことをティアマトから言われ、俺の口角は恐らく吊り上がっていたのだろうと思う。彼女の全身から殺気が立ち上ぼり、瞳の奥に残虐な炎を灯す。

 

「今から()る?」

 

「ん~………それは今度でいいや。今からお前をぶっ倒すための魔法を何個も作ってやるからな。明日、覚悟しとけ」

 

「えぇ。期待してるわ」

 

 ティアマトの姿が虚空に消えていく。瞬間、ティアマトと繋がっていた《念話》がぶつりと切れ、接続ができなくなる。恐らくは俺がティアマトを倒すための魔法を開発すると言ったために、その魔法の概要を聞かないようにしてくれたのだろう。心遣いが痛み入るが、舐められているようで少し腹立たしい。

 

「そんじゃニュクス、悪いが手伝ってくれ」

 

「えぇ。頑張りましょうか」

 

 こうしてニュクスと俺によるオリジナル魔法製作が始まったのであった。

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