「ブォォォ──!!」
俺がいる草むらの先、眼前で魔物が吼える。
体長はおおよそ2メートルといったところか。肥満体で衣服の類いは一切身に付けておらず醜悪な顔と生殖器が晒されている。《
数はとりあえず目視できる範囲に13体。魔力の瞬間放射による索敵で発見したのが600メートル先に2体、1200メートル先に5体ほど。奴ら──
これほどの魔物の数となれば近い内に討伐依頼が出される頃だろう。もう依頼が出されていて、それを受けていた場合その冒険者達には悪いが、俺の魔法の試射に付き合ってくれ。
俺はティアマトと契約したことによって獲得した
俺は竜翼を羽ばたかせ、闇に支配された空へと舞い上がり俺が試作した魔法を発動させる。
ちなみにこの魔法──というか、試作魔法一号にはニュクスの助言は一切入っていない。『まずは自力で頑張って作ってみましょう』というニュクスの言った通りに、これから放つ魔法は魔法制作の素人中の素人の俺が作ったものだ。俺が予期しないミスが多々とあるんだろうが、彼女曰くそれで構わないんだとか。
失敗するということは最初から成功するよりも『失敗した』という印象が強くなる以上、その失敗が長期の記憶に残りやすい。そうなれば次に魔法を作るときにそうした失敗があった、という事を思いだし次は失敗しにくくなる。
そうやって幾度となく失敗を繰り返して新たな魔法は製作されていく。最初からニュクスに頼るのではなく、そうやった過程を踏んで魔法を完成させて欲しいというのは彼女の弁だ。
という訳で彼女からは多少のヒントやアドバイスは貰えるものの、魔法のアイデアに術式構築に至るまでそのすべては俺の力によって作られる。そうやって一からなにかを作り上げるというのは非常に楽しいし、ニュクスに頼りっぱなしで作った魔法でティアマトに勝利したとしても、それが俺の力だと言えるのかどうかは怪しいところだったので、彼女のやり方に不満はない。むしろ俺のためになることをしっかりと考えてくれているので嬉しいくらいだ。
──俺は索敵をし、感知した豚悪鬼の中でも一番遠い敵に狙いを定めた。俺の右目に闇属性の魔力で構築されたレンズが3つほど浮かび上がり、それが銃で言うところのスコープの役割を果たす。
1200メートル先の敵を眼前にいるような形でとらえるレンズを豚悪鬼の頭蓋に合わせる。奴は眠りこけているのか、動く気配は一切ない。遠距離を狙撃するのには格好の獲物だ。
「──《
俺の人差し指の先に闇属性の魔力を凝縮させた銃弾を形作る。それは対物ライフルの弾丸──おおよそ12.7x99mmNATO弾を参考にしたものだ。まぁ、実物なんてみたことがないからあくまでもイメージなんだが。
この魔法、《女皇の黒銃・狙撃》はその名前の通り狙撃銃──それも対物ライフルを参考にしたものだ。銃弾の形を模倣することによって空気抵抗を限りなく軽減、着弾した際に威力を高めるために『
さぁ、この世界に銃の──といっても魔法による再現だが──初陣よ。さぁ、銃の威力を思い知れぇッ!!
闇属性の銃弾が闇夜の空を駆ける。それは空を切り裂くようにしながら咆哮──することなく、1200メートル離れた敵の頭蓋にクリーンヒット、鮮血の花を咲かせる──こともなかった。その銃弾は魔法を製作するときに想定していた2キロメートルに遥かに届かない、約300メートル地点に着弾し、そこで爆発した。
「ブォォォッ!?」
「おぉおぉお?」
「おぉぉぉ!!」
くっそ、全然届いてねぇ上に弾速だってクソ遅ぇ!
どちらも《黒神宝玉》よりかは距離も弾速も優れているものの、これを銃と呼ぶにはあまりにも稚拙すぎる。第一、300メートルほどなら《
それに魔法を外したせいで一体も殺せることがなかったのに、
とりあえず狙撃に特化した《女皇の黒銃・狙撃》でこの有り様なら、連射に特化しある程度の遠距離攻撃もこなせるように想定し、機関砲を参考に作った《女皇の黒銃・連砲》なら150メートルを射程内に収められるかすら怪しい。とりあえず《女皇の黒銃》遠距離攻撃シリーズは大失敗に終わったと思っていい。
だが《狙撃》と《連砲》では組んだ術式も全く異なる。そうなれば問題点だって全く違ってくるだろう。俺は恐慌状態になっている豚悪鬼のうちの孤立している、1200メートル地点にいる奴の元に《飛翔》で迫り、そのほぼ上空まで迫り──、
「《女皇の黒銃・連砲》」
《女皇の黒銃・狙撃》の弾丸よりもひとまわり小さい弾丸がいくつも浮かび上がり、一斉に掃射。
この魔法──《女皇の黒銃・連砲》はバルカン砲を再現する形で術式を組んだ魔法である。バルカン砲というのは、アクション映画なんかで戦闘ヘリコプターなんかについている複数の銃身があるように見える機関砲だ。それの発射速度およびその圧倒的弾幕で敵を圧倒するつもりだったんだが──これも弾速クソ遅い、射程が馬鹿みたいに短いという《狙撃》と同じ問題を抱えながら、《連砲》の要である連射速度がこれまた遅い。というよりかは弾を撃ってから再構築までの時間がかかりすぎている。
これも要改善だな。
仕方ないので俺は《飛翔》で豚悪鬼の背後に回り込み、《連砲》を一斉掃射。上空からの攻撃をしてくる敵には出会ったことがなかったのか、《連砲》の弾が足に命中し、皮一枚で繋がっているような状態であったために逃走は不可能となっていた。弾速の遅いバルカン砲(笑)の銃弾が奴の胴体に風穴を開ける。
というかここまで近づいたんだったら別に《連砲》で止めを刺す必要なかったよな? まぁ、いいや。折角だから失敗作もなるべく使ってやりたいという心遣いよ。
俺は跳躍し、木々の中でも大きな枝を持つものに飛び乗り、魔力による索敵を行う。……うん、やっぱり移動しているよね、むしろ移動してなかったら『どうぞ殺してください』って言ってるようなものだよね。まぁ、結局のところ殺すんだけれども。済まないな、俺の糧になっておくれ。
俺は枝と枝の間を跳躍して飛び移っていく。その途中で《収納》からもうすっかりお世話になってしまっている東和刀を取り出し、魔法を発動させる。
「《
抜き放った東和刀に高圧で循環する水がまとわりつく。この魔法はいわば《
──雨垂れ石を穿つという諺をご存じだろうか? あれはどんなに小さな力であっても、根気よく続けていればいつか成果が得られるという意味で使われるものだが、この諺に出てくる通り、ただの雨垂れであっても水という物質は石に穴を開けるほどの力を持つ。ならばそれが高圧で循環する水の刃であったらどうだろうか?
その切れ味は飛躍的に上昇する。
──水に切り裂けぬ物などこの世界に存在しない。
200メートルほど走って移動し、現在は周囲の索敵に務めている豚悪鬼。それを俺は──頭上から強襲する。
「ぼ──」
そんな呆けた声が一刀両断した豚悪鬼の口から漏れた。どちゃり、と奴の身体が真っ二つに別れ肉の塊が大地に倒れ伏す。断末魔をあげる暇さえなく、1匹の魔物は絶命した。
うん、これは成功と言って良さそうかな。
「ぶぉぉぉぉおおおぉおおおおおッッ!!」
相方の豚悪鬼が俺に向かって棍棒を振り上げる。
その動きは《未来視》でちゃんと捉えていたし、隔絶したステータス格差に加え、《集中》によって動体視力が飛躍的に上昇している状態にある俺はそれに瞬時に対応ができる。まともに食らおうが、頬をつつかれた程度の痛みで済むんだが、攻撃を食らってやるのも癪であるし、なにより優先順位を低くしたあの集団に逃げられてしまってはたまったものではない。
できる限り早めに終わらせるとしようか。
「《女皇の黒銃・散弾》」
俺は東和刀を持っていない左手をオークの顔面に向かって突き出し、その掌に《黒神宝玉》よりも一回り大きい球を作り出し──それを発動させる。
瞬間、爆発音のようなものが静寂に満ちた森林に木霊し、瞬間──豚悪鬼の醜悪な豚面は吹き飛んでいた。べしゃり、と背後にあった木々に豚悪鬼の頭の中身や頭蓋骨の欠片、わずかに残った皮膚などが付着する。
──これが今のところ考えた《女皇の黒銃》シリーズ最後の魔法である《散弾》である。名前の通り、これは散弾銃を参考にして作ったもの。原理は簡単、発動した瞬間に球が総計1000個を越えるビー玉ほどの球に分裂、それが着弾した瞬間に組み込んだ『爆裂』の術式が発動するという単純なもの。これは振り替えって攻撃しようにも間に合わない、もしくは両腕両足が何かしらの原因で使えないいうような状態であっても、一発で敵を殺さなければならないというときに使用する。
うむ、威力は申し分ない──というかありすぎるような気もする。まぁ、地球の散弾銃だって近距離なら殆ど一撃必殺だったらしいし、こんなもんだろうよ。それに散弾銃の特徴として距離が離れれば離れるほどに威力が減衰するという特徴もしっかりと模倣してしまっている。だから、近距離ならばこれぐらいの威力が当たり前だ、うん。
さて、最後は群れの一団だが──ん?
「ぶぉぉぉおおおぉ!」
「ぉおおぉおおぉおおおおお!」
どうやら向こうからやって来てくれたらしい。
索敵を発動するまでもなく、木々の影から現れたのは総勢13体の豚悪鬼様御一行。数も増えていないし、先程の《散弾》の音源を確かめにやって来たら仲間が死んでいるのを発見。憤っているという感じかな。
魔物にも仲間の死を悼む感情があるのだと思うとこちらも僅かながら心が悼むが──それでも俺は謝らない。
ちらり、と俺が倒した豚悪鬼──正確に言うのなら奴らが手に持っていた棍棒に目を向ける。そこには他の魔物か普通の動物か、それとも人間か。それはわかりはしないが木製の棍棒の先に乾いた血が付着しているのが目に入った。
飯を食らうためか、それとも己が悦楽のためかわかりはしないが、お前達もまた誰かを殺した。なら、生存競争に破れ自分が殺される覚悟も当然しておくべきだった。いや、していなければならない。それが闘争をするものにとって必要最低限の礼儀にして条件だ。そんな覚悟もしていないくせに、誰かを殺そうなどと傲岸不遜にも程がある。
──当然俺はそれを覚悟している。だから俺は刃をとって戦うし、魔物だって殺す。自分がそうなることを覚悟しているからだ。
そう簡単に殺されてやるつもりは更々ないが。
「──来いよ」
俺のその声が引き金となったのか、俺の周りを囲むようにして一斉に襲いかかってくる豚悪鬼たち。家族だったのか、そのコンビネーションは目を見張るものがある。
だが──、
「《
──そのすべてが塵に成り果てる。
俺を中心とした一定範囲に存在していたありとあらゆる物質──草も木々も、豚悪鬼たちもその死体も、何もかもが塵となり、夜風に浚われていく。根本が塵になってしまった影響でこちら側に倒れ込んでくる木々も、その範囲に入ってしまえば塵になる。
この魔法──《塵神結界》は言ってしまえば『自身を中心とした一定範囲の時間を異常なまでに加速させる』という、一見《
それは《
そのため俺は《塵神結界》の範囲内がどれ程の時間で加速しているかなんて全くわからないが──あれだけの劇的な変化だ、おそらく通常時間軸の1秒が100年、いやそれ以上の速さで時間が流れているはず。
これは俺の──いや、ニュクスが製作したものを含めてもかなり高威力の魔法にはいるのではないだろうか? いや、これは魔法と呼ぶのかすら怪しいけども。
しかしこれは対集団用──しかも魔物以外には使えないな。これを人間に使えばさぞかし有効だろうが、こんなもの人がしていい死に方ではない。ならば魔物だったらいいのか、となるとぐぅの音も出ない。
かくして第一次魔法試射会は俺の大勝利で終わった。
終わった、のだが──、
「ぬぁー、だーめーだー」
俺は森林から草原に当たる場所までやって来ると、地面に寝転がって思いっきり叫んだ。
それはもちろん、魔法の試射が──正確に言うのなら魔法の構築が全く上手くいかなかったためである。『ニュクスパワーの補正が入って何とかなるんじゃね?』なんて思ってた過去の俺をぶん殴ってやりたい。
「ふふ、全然駄目でしたね」
ニュクスは俺の横に実体化すると、笑いながら俺の頭を膝に乗せる。すると俺の目線の先に広がるのは桃源郷、じゃなくて。
「──魔法は重力や空気抵抗の影響をほとんど受けない。だったら、遠距離狙撃なんて余裕だろ……なんて思ってたら」
「実際は全く飛ばない。弾速が早ければまだ救いようがありましたが、想定していたものと比べてしまえば牛の歩み──大失敗でしたね、ミナト」
「だよなぁ……」
現在の《女皇の黒銃・狙撃》の有効射程はおおよそ300メートル。有効射程を2000メートル──《魔法範囲拡大化》を併用すれば3000メートルまで収めたい俺としてはまだまだ物足りない。というか300メートルなら狙撃銃じゃなくても狙えるじゃんよ。たとえば突撃銃とか。連射できない射程300メートルの銃とか現代じゃ欠陥品扱い受けるぞ、火縄銃かっての。
《女皇の黒銃・連砲》の有効射程は約100メートル。連射速度は毎秒10発程度。目標の120発──分間7200発の暴威の嵐には程遠い。射程も6倍近くまで延ばしたいし。機関砲を参考に作ったとは思えない欠陥魔法だ。
「それでもさ、さ──」
「散弾銃?」
「そう、それです。そのさんだんじゅうという武器を参考にしたという魔法は上手くできていましたよ。それに《塵神結界》も」
「あ~、あれはなぁ……」
《女皇の黒銃・散弾》の術式は『《女皇の黒銃・散弾》を選択→闇属性の球を構築→前方に射出→分散→爆裂』という5つの術式で構成されており、これは《神魔術法》の中では術式の数がかなり少ない方に入る。しかし、分裂したビー玉サイズの銃弾ひとつひとつに『爆裂』の術式を組み込んでいるため、それが1ヶ所に集中して命中すれば馬鹿げた威力を産み出すが、距離が離れれば離れるほどに威力は目に見えて減少していく。
そして《塵神結界》は『《塵神結界》を選択→時間を加速』の2つの術式で構成されている。制御を手放し、圧倒的な時間の経過という逃れようのない死の空間を俺の一定範囲内に作り出す魔法──なんだが、正直これは魔法と呼べるかどうか怪しいものだ。言ってしまえば、時間の経過を超加速させた空間を自分の周囲に作り出すだけだし。
「《塵神結界》は魔法なんて呼べるかどうか怪しいものだろ──なんて思ってますか?」
「……お見通しか」
「ミナトは考えていることが表情に出ますから。
それに《
「まぁ、術式数が少ねぇもんばっか成功してたしな」
確かに《塵神結界》に《水纏迅刀》、《女皇の黒銃・散弾》と俺が先ほどの戦闘でしっかりと『魔法』という形に仕上がっていたのは、組んだ術式数が5以下の──言ってしまえば構築が簡単だったものばかり。そちらの方が制御が容易──まぁ、制御を手放している魔法もあるが──で使いやすいというメリットがあるが、《術式干渉》を受けやすいというデメリットがある。
──《術式干渉》という技術は『発動途中の魔法に組み込まれていない術式を加える、または術式の順番を入れ換えたりして魔法を使い物にならなくする』というものだ。
聞いてしまえば滅茶苦茶便利な技術だと思うだろう。なのにどうして現在の魔法社会に普及どころか、認知すらされていないのかと言えば──やるのがクッソ難しい。それに尽きるのだ。
発動中の魔法に干渉するといっても適当にぽんぽん干渉すればいいわけではないのだ。相手に気付かれないように構築している魔法にアクセスし、組まれたプログラムを滅茶苦茶にする。
リアルタイムでパソコンをいじっているプロのプログラマーのパソコンにハッキングを仕掛ける、といえば難しさが多少は伝わってくれるだろうか。それを命のやり取りをしている最中に行う。針に糸を通す、などという表現では収まりきらない困難さがそこにはある。そんなことをするんだったら普通に迎撃するなり、回避した方が早いだろう。しかし、それに成功してしまえば相手は常に暴発のリスクを抱えながら戦うことになるため集中力を欠き、浸け入る隙が生まれるんだが。
そして《女皇の黒銃》シリーズの《狙撃》や《連砲》のように組んだ術式数が多ければ、相手からの術式干渉を受けづらくなるというメリットがあるが──まぁ、見ての通りそれが完成するまでの道のりが果てしなく遠い。
術式が多ければ多いほど魔法は不安定な状態になってしまうために、完全に術式を組み終わった後も暴発のリスクを抱えなければならない。そしてそれを極限まで減らすには魔力制御力やその魔法に対する造詣を深めなければならず、その有効な手段が『何度もぶっぱなして慣れること』しかない以上、完成した後も苦労する。
しかし、一度安定させてしまえば強力無比で《術式干渉》の影響も受けづらい最高の魔法の出来上がりよ。
「でもあれじゃまだまだ程遠いなぁ」
「ですねぇ。とりあえず目に見える課題は飛距離と弾速、連射速度でしょうか。──というか、あれだけ複雑な術式を組まなくても、闇属性の魔力を束ねて放てば良いのではないですか? そちらの方が命中範囲も大きくなりますし」
「まぁ、それも考えたんだけどさ。そうなると
同じ《
魔力消費は可能な限り少なく、それでいて必殺の威力をもった魔法を作るのが俺の課題だ。時代は省エネよ。
それに俺が銃を模倣して魔法を作るのにはもうひとつ理由があった。
「それに、これの最大の強みは『わからない』ってことだ」
「『わからない』──ですか」
「どこから攻撃されているかわからない。何によって攻撃されたのかわからない。なんで味方が死んでしまったのかわからない。いつ次の攻撃が来るのかわからない。
相手の正体、攻撃手段に場所、次の攻撃までのタイミング──そのすべてがわからず、ただわかることはそのわからねぇ攻撃を食らった瞬間に自分は死んでしまうということのみ。
理解不能な死神の一撃が襲い掛かってくる恐怖が足を縫い付け、敵の思考力を阻害する。
恐怖がどれだけ戦いに影響を与えるかはニュクスの方がよく知ってんだろ?」
お化け屋敷というものがあるだろう。俺はあれが本ッッッッ当に嫌いだが、何故嫌いなのかと言われれば、それはいつどこからお化け役または装置があるかが全くわからないからだ。
いつお化け役の人が驚かしに来るかわからない。いつどこで装置が作動するのかがわからない。そもそも人間というのは未知の存在に対して恐怖を覚えるようにできている。
勿論、人によるだろうが命の危険を覚えないものですらそんな有り様なのだ。たった一撃で敵を葬り去る──それも2キロメートル以上という超長距離を攻撃する手段は俺が知っている限り、この魔法以外には存在せず、たとえ俺の位置を特定したとしても視認することがほぼ不可能な魔弾が敵を襲う。
初回はこんな無様な出来になってしまったが、今後改良を加えれば今言ったような魔法になってくれるだろう。
「──本当にミナトは今までに戦闘経験がなかったんですか?」
「武道も全くやってねぇ、ただの素人だよ。ただ、今まで考えていたものを全部試せるようになったからそれを片っ端から試しているだけだ」
事実、この銃や恐怖云々の知識も漫画やライトノベルの受け売りみたいなもんだし、ティアマトなどの強者からすればわからないからといって足が止まることはないだろう。たかだか『ちょっと鬱陶しい攻撃』と思われるくらいだ。
銃がこの世に存在せず、広範囲に攻撃する手段はあっても遠距離攻撃する手段がかなり限られているというアドバンテージもある。仮に俺達より前に来た異世界人が銃を持ち込む、もしくは銃を再現する魔法をすでに構築していたんだとしたらここまで有効な魔法ではなかっただろう。
「まぁ、こんなお粗末な出来じゃ話になんねぇからな。とりあえず2キロ届かせるのを目標に術式を組んで──」
羽ペンが羊皮紙の上を走る音だけがこの部屋に響く。それに混じってペンを走らせている青年の思案する時に漏れる思案の末に出る溜め息や、頭をかく音。
「重力を無効化するか? いや、そうなると距離は延びてもちょっと障害物にぶつかったら弾道がずれるし──」
そんな音に時々独り言が混ざる。
青年──私の主でもある宵坂湊は集中すると辺りが見えなくなり、独り言を漏らす癖があるようだ。
そうして自分の頭の中を整理しているのだと思う。今、彼の中には《女皇の黒銃》の《狙撃》と《連砲》を完全な形に仕上げるために様々な術式のシミュレーションされているのだろう。
私のことなどまるでいないように扱ってくるのは少しだけ寂しいが、それだけ目の前のことに集中しているとなれば私もやりたいことが出来る。
私は改めてミナトの顔をじっくりと見る。
目に掛かりそうなくらいの、男の子にしては長めの黒髪。切れ長な目に、夜を凝縮したような黒瞳。よくよく見てみれば結構睫毛が長い。
顔も整っているし、これで今まで女性と付き合った経験がないというのだから驚きだ。性格だって悪い方じゃないんだし、引く手数多だと思うのだけど──なんて思うのは彼に惚れてしまったからなんだろうか?
まぁ、いない方がいいんですけど。
彼女がいなければ私の思うままに彼を独占──はティアマトのせいで出来ないが、それでも近しい状態にはできることになる。
そして彼女とは、ミナトとの情事の際は彼から2人同時に抱きたいと言ってこない限りは不干渉を貫くことを約束している。
そうなれば──、
──彼の童貞は私のものです。
こればかりは誰にも渡してやるつもりはない。
私は体験したことがないからわからないが、互いにはじめての相手は忘れられないという。だからこそ私が彼のはじめてを奪って──私も彼に溺れて、私に溺れさせるのだ。
そして、いっぱいいっぱい苛めてもらおう。彼には私の立派な『ご主人様』になってもらうのだ。
今日、奪ってしまいましょうか。
今までは完全体に戻れなかった期間が多かったし、人の目も多くあった。
しかしここはどうだ。森林の奥深くにある上に、この小民家の状態からして人が訪れる可能性は限りなく低い。いるのも魔物程度だが、ここには私とティアマトがいるため魔物が寄り付くことはないため、邪魔が入ることもない。
ティアマトと契約したことによってもたらされた性欲と、それを発散するため絶倫になったミナトと全部を忘れてケダモノのように交わり、彼の獣欲を好き放題私で発散してもらうのには格好のシチュエーションだ。
どれだけ滅茶苦茶にされてしまうんだろうか。どれだけ彼の子種を注ぎ込まれてしまうんだろうか。
考えるだけでも子宮が疼いてしまう。
もう限界だ。
今すぐ押し倒してしまいたい。今すぐ彼の唇を奪ってしまいたい。
今すぐ彼のチンポを私の膣内に突っ込んで、ぐちゃぐちゃにしてほしい。
──セックスしたい。
でも耐えなければいけない。
彼がベッドに入るまでは耐えればいい。それまで耐えて、彼の理性を吹き飛ばせば──彼から襲ってくれれば好きなだけセックスできるのだから。
「ミナト、もう遅いですよ。そろそろ寝た方が良いのではないですか?」
「ん──あぁ、もうこんな時間か」
加速する時間の中で過ごしていても、当然眠気や空腹感というものはやって来る。むしろ加速しているせいで通常の時間軸で過ごしているときよりも頻繁にやって来るものだ。
そして現在時刻は2時。《勇者》として活動を開始し始める前であっても、起きている方が珍しいくらいの時間になっていた。
いつの間にかベッドの方へ移動していたニュクスから声をかけられ、俺は背筋を伸ばす。ぱきぱき、と小気味いい音がなった。
「魔法の進捗の方はどうですか?」
「ほぼ完成段階ってところ。これで理論上は弾速も距離も目標に入ったはずなんだが──まぁ、これは試さないとわかんねぇな」
「そうですか、それはよかった。……それにしてもミナト。一人で頑張りすぎではないですか? 私もいるんですから、相談ぐらいしてくれればいいのに」
「いつまでもニュクスに頼ってばっかじゃいられねぇよ。ちゃんと魔法作りのノウハウは教えてもらったんだ、ならあとは自分で頑張らないとな」
ニュクスはかなり人に教えるのがうまい。どちらかといえば感覚派のティアマトとは大きな違いだ。あれだけ懇切丁寧に教えてくれたのなら、うまくいかないのは俺のせいってことになる。
それに──ちゃんと一人の力で完成させれば、多少格好はつくかなって考えてる自分もいる。我ながら子供らしいとは思うんだが、それでも思うのは仕方がない。格好つけるって大事なことだよ。それも、自分が好きだと思っている奴の前では。
それにしたって疲れた。超疲れた。主に精神的な面で。
この世界に来てからは座学に戦闘にと色々頑張ってきたが、魔法製作が一番疲れる気がする。
何かを0の状態から完成まで持っていくというのは楽しいことではあるが、幾度として繰り返すトライ&エラーに複雑な術式構築と苦労も多い。そしてすでに完成され、使いやすい汎用魔法を越えるという点が中々に難しい。
オリジナルの魔法といったって、汎用魔法の劣化版では作る意味もないし。
よっこいせ、とベッドに腰を下ろす。
すると突然、ニュクスに頭を撫でられる。白魚のような指が髪を掻き分けるのが心地よい。
「……急にどうした?」
「いえ、特に意味は。ただ頑張っているんだから、頭でも撫でてあげたいな、と。駄目でしたか?」
「いや、別に」
よしよし、と慈母のような表情を浮かべながら頭を撫でてくるニュクス。
そんな彼女を俺は改めて見てみる。
青と金色のオッドアイに烏の濡れ羽色の長髪。ローブのような、フードつきのマントに覆われた肢体は、非常に艶かしくて扇情的だ。それに水着のパレオのような露出度の高い装束を纏っているのだから堪らない。
そして──、
「……ミナト?」
気付けば、彼女を押し倒していた。
目の前の俺に恐怖している──というよりは困惑した様子で、俺の事を見つめ返してくる。急だったから踏ん張れなかったが、ニュクスは俺よりも遥かに強い。いざとなったら抵抗だって容易に出来る。
だからこその困惑。何故、俺がこんな強行に出たのかと不思議がっている。
だが、それに対する解答を俺は持ち合わせていなかった。
自分でも無自覚だったのだ、彼女を押し倒してしまったことは。故に、聞かれれば『気付いたら押し倒していた』という他ないのだが──なんてクソみたいな真似を! こんなのただの強姦魔じゃないか!
自分でやった行動だというのに、ドン引きする。
「わ、悪い!」
あまりにもクズすぎる自らの行いにドン引きしながら俺は彼女の上から退こうとする。
が、俺の身体はそれとは反対方向、つまりはニュクスの方へと倒れ込んで──、
「んんっ!?」
その唇と唇が重なった。
なんで──と思うものの、気付けばニュクスの腕が俺の身体に回されていた。これでは起き上がろうとしても、起き上がれない。
「ん……んちゅ、じゅるるっ……! れろっ」
彼女の舌が、俺の唇を割って口内に侵入してくる。自分の体内で響く水音、それはさほど大きなものではないものの筈なのに、部屋自体が静かなお陰かやけに響いて俺の理性を飴玉のように甘く溶かしていく。
ぷはぁ、とニュクスが俺の唇を離す。すると唾液の橋が俺とニュクスの間にかかる。
「──別にいいんですよ?」
「………!」
「別に押し倒したっていいんです。むしろ、私でそんなに興奮してくれたのなら……嬉しいくらいです。だから、ミナト──」
そう言う彼女の姿は、今まで見たなかで一番扇情的だった。
蕩けた瞳に、赤く染まる頬。呼吸に合わせて胸は上下を繰り返し、押し倒したことによってベッドに広がった髪の数本は汗で彼女の身体に張り付いてしまっている。
はぁ、はぁ、と荒い息が彼女の口から溢れる。
「──しましょう?」
そう言われて、俺の理性は欠片も残さず吹き飛んだ。彼女に覆い被さり、再び口を塞ぐ。
「……計画通り」
彼女がその直前に何かを言った気がするが、俺には何も聞こえなかった。
待たせたなぁ! やっとこの小説がR18するぞ!
次回の投稿はかなり遅くなると断言しよう。エロシーン書くの人生二回目だからね!
感想なんかお待ちしておりますぞい。そうすれば執筆スピードが上がって、次回の投稿が早くなる──かもしれない。スランプに勝てるかどうかによるから断言はしない。
投稿時間についてのアンケート※一週間程度を目安に〆
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0時(今まで通り)
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6時
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12時
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18時