ティアマトとのエロシーンをどうやって書いたらいいのかわかんなかったからだよ!
はい、すみません。女性が攻めになるシチュエーションはすこすこのすこなんですが、いざ自分で書くとなるとどうやってやったらいいのかわかんなかったでござるの巻。
なのですっ飛ばしました。そのうち投稿すると思います。
でもエロシーンがなかったところで大した影響はありません。たかが湊くんに新しく《性豪》という特殊技術と称号を手にしたくらいです。
それでは。
「──《
闇の魔力を凝縮させた漆黒の弾丸が、俺の指先に創造される。対物ライフルの弾丸を模して作られたこれは、俺の試行錯誤の末に完成したオリジナルの魔法のひとつである。
射程3000メートルという、現段階で知識にある魔法の中でも最大射程の魔法だ。まだまだ改善点はあるが、最初の射程300メートル、弾速《黒神宝玉》と比べて遥かに遅いという話にならない状態からよくぞここまで持ってこれたと自賛したいほどには精錬されてきた。
それを俺は眼前──といっても彼女がいるのは2500メートルほど先だが──の敵に向かって放つ。
──これの問題点は前述した通り、弾速が極めて遅いことと射程距離が極めて短いことにあったが、その欠点は同じところにあったのだ。
そもそもの速度が遅く、威力が減衰する。その二点だ。
いくら魔法に空気抵抗などが働きにくいとはいっても、火薬を炸裂させてライフリングなどで加速を得やすい地球の銃などと比較すれば、初期の《女皇の黒銃》は加速させるための術式を全くと言っていいほど組み込んでいなかった。
そりゃ、あんな大惨事になるわ。
それを踏まえて改良したのが、現在の《女皇の黒銃》だ。
射出された瞬間に組み込んだ《
それと同時に発動するのが、《
そして連鎖的に発動するのは──第二、第三の《爆裂》である。
一度目の《爆裂》によって得られた加速が減衰し始めたところで第二の《爆裂》が発動、第二の《爆裂》の勢いが失われてきたところで第三の《爆裂》が発動することで、常に威力・弾速を維持する。
これが現段階の完成形だ。
しかし──そこまで仕上げたとしても、今戦っている彼女は容易く返してくる確信があった。
そのため俺は《時間加速》を発動させ、大地を蹴った。
《爆裂》と同じような爆発音が周囲に響き、俺は草原を比喩抜きで弾丸よりも速く走破する。踏みしめるごとに、ティアマトと《聖魔契約》を果たしたことによる膂力と敏捷が吼え、彼女との距離を詰めていくが──クソッ!
「シィッッッ!!」
上空から飛んでくる黒い円錐状の物体──《女皇の黒銃・狙撃》の弾丸が俺の身体を狙って返ってくる。それを居合い抜きで切って落とすが、2つに分かたれた弾丸が着弾することで《爆裂》が発動し、土煙が俺の視界を封じる。
が、そんなことは大した問題にもならない。周囲の気体化した水を操ることによって土煙を吹き飛ばす。流石にこの程度のことすら返せないと思われているなら随分と舐められたものだ。
なぁ──、
「ニュクスゥゥゥゥ──ッッッ!!!!!!」
俺は上空に浮かぶ、漆黒の闇を纏いし魔女──ニュクスの名を吼える。
──普段ならばティアマトとこうした模擬戦はやっているのだが、ティアマトと模擬戦しかやっていないわけではない。彼女は魔法と剣技を組み合わせたスタイルであるため、俺のスタイルと極めて類似している。
故に戦闘でのアドバイスはニュクスよりもティアマトから貰っている方が多かった。
実戦を交えた訓練──訓練と呼ぶにはあまりにも三途の川をさ迷い続けたが──によって俺の剣技は初日に比べれば遥かに精錬された。そして強化合宿の最終日──つまり今日に、ティアマトから言われたのだ。
『ニュクスに喧嘩売ってみない?』と。
今まで鍛え上げてきた成果を存分に発揮する機会だと俺はそれに乗り、ニュクスもまた自分が見ていないところでどれだけ強くなったのか見たいと快諾。
こうして師匠対弟子の戦いが幕を開けたわけだが──。
ここまでは予想通りと言っていい。
《女皇の黒銃・狙撃》は俺がどれだけ成長できたかという成果を見せるための一撃だ。そも、彼女の前で見せた技はまず通じないということは、同じ魔王であるティアマトとの戦いで嫌というほど学んでいる。
「素晴らしい一撃でしたよ、ミナト。最初のあれとは比べ物にならないですね」
「言ってろ。すぐにそのすかした顔歪ませてやる……!」
俺が上空に佇むニュクスを睨み付けて言う。
それに彼女は僅かながら恍惚が混じった笑みを浮かべ「期待していますよ」と余裕の表情を浮かべている。
──落ち着け、俺。
俺のことを侮ってくれるならこれ以上にありがたいことはない。ステータスはもちろんの事、魔法に関する技術は比喩抜きで天と地ほどの差がある。
なら彼女の慢心があるうちにカタをつけるしかねぇ。
「《
「──《
俺は全身に漆黒の靄を纏い、物魔防御力を上昇させ、刀身には大地を幾億年もかけて削ってきた天然にして至上の刃である水を鞘の中で高速巡回させた状態で纏わせる。この刃はティアマトから魔王にも届きうる刃であると太鼓判を押してもらったものだ。
対して彼女が発動させたのは《万魔神殿》
超高密度な闇属性魔力で構築された悪魔を作り出す、俺達が使う《神魔術法・闇》の中でも最高難度かつ魔力消費量も最多である魔法のひとつだ。
行ってくる攻撃は物理攻撃のみだが、その拳は山をも崩し、その肉体は隕石を受け止め、その脚は雷よりも速いと形容されるほどである。
ただ強く、ただ硬く、ただ速い。
故に相手に左右されない純粋な強さを持っている。ニュクスの作り出した悪魔ならば、たとえ俺や陸堂、桐生先生を除く《勇者》が束になったところで決して倒せはしないだろう。
俺も発動そのものはできるが、彼女の悪魔と比べれば羽虫のようなもの。魔力消費が馬鹿でかいだけの使い物にならないものなので、使用はしない。それくらいなら単騎で突っ込んだ方がまだ勝機はあるだろう。
それはまさしく軍勢である。
魔王は単騎で国家の存続を危ぶませるという評価に間違いはない。彼女は今のブリステン王国を滅ぼすことは、俺に魔法の指南をしている片手間でこなせるだろうという確信があった。
「──跪け、《
だが、俺はそんな魔王二人から剣術を叩き込まれ、魔法技術を鍛えられた《勇者》だ。この程度の軍勢を切り捨てられないで、何が魔王の弟子か。
俺は悪魔の軍勢が列を成している前方の扇形の空間を指定し、重力を通常時の100倍ほどにまで高める。その結果、飛翔していた悪魔は地面に叩きつけられる。その時に何体か獣型の悪魔を巻き込んで、その両方が闇属性の魔力となって霧散した。
これによって軍勢の機動力を全体的に削ぎ、そこにこの重力場を意に介さぬ俺が斬獲する──!
「るるぅあ──!!」
俺は自分の姿が掻き消えるほどの速度で軍勢の中に飛び込んだ。そしてそこで暴虐の限りを尽くす。獣型の悪魔を蹴り飛ばし、鉱物人形型の悪魔の拳を刀で受け、その後身体を駒のように回して身体を切り裂く。有翼の悪魔が苦し紛れに尻尾を振るってくるがそれに関しては尾を片手で掴み、ハンマー投げの要領で軍勢の中に放る。
──当然ながら、こんな真似ができるのは俺の純粋な肉体関連ステータスやティアマトから叩き込まれた剣術があるからだとかいうわけではない。それも確かに一助にはなっているが、決定的な要因となっているわけではない。
それはニュクスと契約してから俺にもたらされた魔眼、《未来視》のお陰である。『視』と特殊能力名にはあるが、その能力の根幹にあるのは『未来に起こることを把握する』という事である。
俺も最初は目からしか未来の情報を得ることができなかったが、使用していくにつれ──主にティアマトとの修行のお陰だが──未来の情報が脳に直接的に浮かぶようになったのだ。感覚的には第三者視点のアクションゲームをプレイしているような感覚だが、その状態で実際に身体を動かすとなれば当然困難を極めた。
が、その進化した《未来視》──ニュクスいわく『特殊能力に慣れていないため、特殊能力そのものが制限をかけていた状態』から脱却したらしい──を使いこなすために最初は雑魚の魔物で練習、最終的にはティアマトとの模擬戦で使いこなすとは言わないまでも、なんとか慣れることはできた。
それによって視界の外から来る攻撃も完全に把握することができたため、一騎当千などという馬鹿げた真似ができるようになったわけである。
──捉えた!
軍勢を食い破り、無数の悪魔を切り捨てたことでニュクスを射程距離内に捉えた。
そこで俺は空中の水分に干渉、温度を急激に降下させるとそれを槍状に整形。天然の槍衾を作り出すと、背後から突進攻撃を繰り出そうとしていた獣型の悪魔の悉くが頭蓋や脚を穿たれ霧散する。
そのことで刹那の余裕が生まれたために刀を納刀。柄に限定的に重力場を発生させ負荷を産み出すと──それを一気に解き放つ!
「《
重力場によってかけられた負荷、それによって最大限に威力が高められた水の刃がニュクスの身体を切り裂かんと迫る。
この技《龍墜とし》はティアマトの魔法剣技《海竜尾刃》を居合い抜きの理法で改良したものだ。
居合い抜きは身近なところで言うとデコピンと同じ原理が働いている。前に力が働く人差し指を親指で押さえつけることによって威力を増しているのだ。
ティアマトは及ばずとも、すでに人間をやめている俺の力ならば充分すぎるほどの威力があるが、それは人間や並みの魔族を相手にしたときの話で魔王を相手にしたときには心もとない。
そこでこの《龍墜とし》だ。
《海竜尾刃》の射程を犠牲にすることによって速さと威力を追及。この一撃は事実、空を翔ぶ竜すらも一刀両断できよう。
そんな一撃がニュクスに迫るが。
「《空間歪曲》」
ニュクスに水の刀身が切り裂こうとしたところで、空間が不自然に歪んだ。そのまま水の刀身は彼女の横の大地を綺麗に削り取り、背後の樹木を二つに割った。
「チッ! ──!?」
空間を捻り、攻撃を防ぐ魔法を使われたことで俺は舌打ちするが──そんなことが些事だと思えるほどの驚愕に目を見開いた。
彼女が飛ばしてきたのは《黒神宝玉》と比較すると二回りも小さい円錐状のものだった。それを彼女はこちらに向けて射出。
この魔法はニュクスの知識を共有した中にはなかったものだ。その知識を漁らずとも、俺はこの魔法を知っていた。
なぜならこれは──
「《女皇の黒銃・連砲》」
「クッソがぁぁぁ!!」
《空間歪曲》や魔力を固めて盾でも作ろうかと思ったが、その程度のものなら《術式干渉》を受け打ち破られることは容易に想像できた。故に俺ができることは、全力でこの弾丸を打ち落とし続けるのみ。
「《
俺はこの修行の中で新たに入手した特殊技術《限界突破》を発動させる。
この能力は言わば火事場の馬鹿力を意図的に発動できるといったものだ。それによって本来ならば生存本能によって発揮することを禁じられているパワーや魔力にまで手をつけることができるのだ。
同時に身体中に闇属性の魔力を流し、痛覚を鈍化。そこに《激痛耐性》も同時に発動させ、この弾幕を真正面から力ずくで突破するための算段を整える。
俺は左手に剣の鞘を持ち、刀と同じく《水纏迅刀》を発動。擬似的な二刀流で弾幕を打ち落としていく。
──だが、そんなことをしても彼女の《連砲》のすべてを落としきれない。《激痛耐性》を以てしても防ぎきれない重力という純粋な質量攻撃が俺を襲い、それで腕の動きが鈍るとそこに弾丸を打ち込まれ、さらに動きが鈍り──という悪循環を産み出す。
《限界突破》と《未来視》の併せ技によってどれが一番早く着弾するのかは見える。しかし、身体の方がそれについてこないのだ。
そんなことをしている間にも《限界突破》の弊害が身体を襲い始める。身体中の筋繊維が悲鳴をあげ、脳味噌が溶けているような頭痛が俺を襲うがその悉くを《超高速再生》で癒されていく。
「どうしましたかミナト! そのままではやられてしまうだけですよ!」
完全にじり貧な状況。《超高速再生》が外傷を癒しているため、純粋なスタミナの回復は望めない。
そんな状況にニュクスが俺に発破をかけるが──準備は整った。
「──!? 馬鹿な、それはッッ!」
ニュクスの目が驚愕で見開かれる。
そりゃそうだろう。俺だってこれを初見で見たときはそんなんありかよって驚いたさ。
彼女が目を剥いた理由、それは《連砲》の銃弾がすべて俺の身体をすり抜けていったからだ。まるで霞のように──否、現在俺の身体は真実霞と化している。
「《
この魔法《水神変成》は《自身の肉体を気体化させる》魔法だ。
肉体なんてものがあるからダメージを受ける。なら肉体を気体化させてしまえばダメージを受けないだろう。なるほど、そりゃ道理だが話はそんなに単純じゃない。
この魔法は自分の肉体を気体化させるという都合上、終わったあとには肉体を気体から戻すという過程を必要とする。
その時点で少しでもしくじったから肉体にどんな障害が残るかわかったものではない。故にこの魔法の発動には魔力制御の技術はもちろん人体に関する知識が完全不可欠。
つい二時間ほど前、ティアマトから使用許可が降りたのでニュクスはこれを使えることを知らない。そして肉体を気体化させたということは即ち、この空間に存在するすべての水に干渉できるということでもある。
「がっ、ぼ……!?」
その時、ニュクスが突然呼吸でもできなくなったように苦しみだす。
それはそうだろう。あいつの肺は今、水風船のように水が満ち満ちている状態だ。そのような状態で、呼吸が行える道理はない。
が、しかし、奴も当然のようにそれの解決法には気づいているはず。だが、刹那、ほんの刹那さえあればニュクスに距離を詰めるのには事足りる。
俺は地面を蹴るために《水神変成》を解除。そして──。
「《
問題はここ。こここそが俺にとっての分水嶺だ。
ニュクスが自らの肺の中にある水を身体の外に排出するまでに、彼女の意識を刈り取ることができれば俺の勝利。できなければ俺の敗北が決定する。
俺は《限界突破》の発動によって手をつけることが出来るようになった脳力までも使用し、現在俺が到達できなかった20倍の速度で動く。その過程で鞘に刀を納刀、その状態で剣を振ることによって間合いを二倍に拡張する。決して正道とは言えぬ邪法の剣技でニュクスの顎を狙う。
狙うは脳震盪による制圧ただひとつ。
それは決して殺人剣とは言えぬ技なれど、俺がニュクスを打倒するために、この数日で学んだ剣術と魔法の技術、そのすべてを注ぎ込んだ一撃だ。
だが。
「《
それがどうしたと言わんばかりに彼女は涼しい顔をして俺の猛進を無効化する。
──俺の身体は完全に硬直した。
どれだけ力を込めても微塵も俺の身体は動くことなく、刀の鞘にのみそのまま力が働いていたように刀身の上を走り、そのまますっぽ抜け宙を舞う。
「どれだけ足掻こうが無駄ですよ。《魂縛の短剣》は影を媒介し魂を拘束する技。もがいたところでどうにかできる代物ではありません」
俺の影に突き刺さっている刺繍針ほどの、剣と形容するよりも爪楊枝とかそういう類いに近いそれ。それを引き抜けない限り身体は動かせないのだとニュクスは言う。
しかし、《純黒の羽衣》によって暗黒の帳が降りているはずだと言うのにどうして『影』などという代物があるのか。それをモノクロでしか捉えられていなかった視界に色が戻ってきたことで理解する。
「して、やられたな…………」
俺が視線のみをやると、俺とニュクスが戦っていたほんの一部分のみに穴が開いて、月影が差し込んできていたのだ。視界の色を処理する機能すら魔法の演算処理に使用しており、なおかつすべての集中力をニュクスの打倒に賭けていた俺は、周囲の環境の変化に気づくことができなかったのだ。
なんたる愚行か。
純粋にステータスだけで勝敗が決まるのはゲームの中だけの話であり、実際の戦闘では周囲の環境なども重要なファクターであると教えられたにも関わらず、そこに気を配ることを忘れているとは。戦士としてこれ以上のミスはあるまい。
「ミナト、あなたの敗けです」
「…………あぁ、俺の──」
かん、という乾いた音が響いた。
それは宙を舞っていた東和刀の鞘が、落ちてきたときの音だった。しかし、それだけではこの不自然な音に納得がいくまい。
だが、鞘がたまたまぶつかったのが──俺の存在を拘束していた《魂縛の短剣》となればそれも納得できよう。
「《限界突破》・《加速》──ッッッッ!!!」
──本当にこれはたまたまだった。
偶然発動させたままになっていた《未来視》が落ちてくる鞘の姿を捉え、それがこれまた偶然《魂縛の短剣》に衝突し、それが地面から引き抜かれ俺が行動可能になるなど。
奇跡にも近い偶然がいくつも重なった結果、俺は特殊技術と魔法を同時発動。
だが、その対価は決して安いものではなかった。
遥かに《限界突破》の可能発動時間を越えているために全身の筋繊維が引きちぎれ、限界を越えた速度で動くことを強要された骨には亀裂が走り、それだけの稼働を可能にするために加速した血流に耐えきれず血管は破裂。
それでも俺は力を微塵も緩めない。
──仮にこの場を見ている人間がいたら、全員が俺のことを滑稽だと笑うんだろう。
彼女の慢心。幾度の偶然を引き起こしたビギナーズラック。そんな要素にすがり付いてまで勝つために足掻く俺を、笑いたければ笑えばいい。
そうしてでも俺はニュクスに勝ちたいんだ。俺はこんなにも強くなったんだぞって彼女に勝つことで証明したいんだ。
「るるぁ──ッッッッ!!!!」
俺は全力で吼えて、刀を振るう。
狙うは彼女の首ひとつ。そこしか見ない。そこしか見れない。
そうして俺の魂を燃やしながら放つ一撃は──。
どさり、と人が倒れる音がした。
その人物から血色の煙が立ち上ぼり、並外れた自己再生能力によって彼の身体が癒えていく。
「はぁ……っ! はぁ……っ!」
私は荒い息を吐きながら、全身を幾本もの暗黒の槍で貫かれ、地に伏したミナトを見る。
ロクな術式も組まずに速さだけを優先した急造の槍は、彼が倒れた瞬間に形を保つことができずに霧散した。
《限界突破》による火事場の馬鹿力の強制発動によって上昇したステータス及び脳の機能上昇。それによって彼にとっては未到の域であった30倍もの固有時間加速。
そして振るわれる彼の渾身の一撃。それだけ込めてもなお、私には届かなかった。
が、それはほんの僅かの話である。
現に私は自らの首が撥ね飛ばされる、明確な死のビジョンを幻視した。
回避が間に合わないと展開した、普段の彼ならば容易に術式に干渉してくるであろう防護膜があと一層でも少なければ。彼の全身を強襲させた漆黒の槍の創造が刹那でも遅れていたら。
彼相手に本気を出していいものか。
そんな下らない躊躇を捨てるのが、僅かでも遅ければ。
「──倒れていたのは私の方です」
自分が無傷でいられることが奇跡にも近い。それほどに彼の一撃は研ぎ澄まされていた。
「いや~、凄かったわね。あんた《聖魔化》してなかったら冷や汗だらだらだったんじゃない?」
「……ティアマト」
けらけらと笑いながら、粒子から人の形となるのは彼が契約しているもう一人の《聖魔》であり、初代龍族魔王──ティアマトだ。
彼女は彼の手にあった東和刀を握ると自身の左手をざっくりと切り裂くと、彼の全身に彼女に血をかける。──彼女と初めて戦ったときには面食らったが、龍族の血液は治癒や魔力回復を大きく促進する効果があるらしい。
彼女と契約していようとも、人間であるミナトには『龍血』の恩恵が存在していない。おまけに彼は正真正銘、自身のすべてを使いきったため普段の自己再生速度と比べるとそれは遅々としたものだ。
故に彼の回復をいち早くしてやろうということなのだろう。私も彼の身体を慮った上で《時間加速》によって彼の傷の治りを早くする。
「ほんと、強くなったわね。あんた負けててもおかしくなかったわよ」
「…………えぇ」
「ま、あんな戦い方してれば当然だけどね。相手を慮って懇切丁寧、労るように戦ってればそりゃ綻びも出るでしょ。私と契約してから初めて私と戦ったときも十数分はまともに剣戟ができてたこと、加えてあんたから更なる魔法の手解きを受けていたこと、私との戦いでいくつかの特殊技術を習得しておりそれを活かす術を一緒に考えてたこと…………それらを踏まえず、未だにミナトのことを『手加減してあげなくちゃいけないくらい弱い、可愛らしい弟子』だって侮ってたあんたに一番問題があるわ」
少なくとも私があんただったら、彼が降参と言うまで《未来視》は発動させたままにしてたと彼女は言う。……それに対して私はなにも言い返すことはできなかった。
彼を守ってあげないと、と思っていたことは事実であるし、彼から勝負を挑まれたときも自分が勝利することを微塵も疑っていなかった。
その結果、彼に私の命を刈り取られる寸前まで肉薄されたのだ。
「それにしても勝てなかったかぁ。もしかしたらって思ったんだけど」
「あなたは今回の勝負、どういう風に考えていたんですか?」
「6:4であんた有利。あんたがミナトのことを侮ってる……って言い方は悪いけど、それに近いことを考えてる事は分かってたしね。それにニュクスが持つ魔法に知識は全部ミナトに共有されてるわけだし、すべてとは言わないまでもある程度は無力化できるんじゃないかって思ってたから。それでもやっぱり、実戦経験の差は大きかったわ」
「あなたと戦ったときは……?」
「私が勝ったけど。それでも《狙撃》で左腕ブッ飛ばされたし、ミナトが考えた魔法剣術で神竜腕剣は吹き飛ばされたし、初日に比べたらだいぶ追い詰められたわ。……間違いなくミナトは現段階で、並みの魔王を真正面からぶっ殺せるくらいの実力はあるわ」
師匠としての贔屓目抜きで、と彼女は断言し、それに私も「そうですね」と同意する。
私達の支援があったとはいえ、この合宿において彼は飛躍的な成長を遂げた。これならば魔王の庭である《強魔地帯》でも大した苦戦はせず乗りきることができるだろう。
「さて、と。そんじゃミナトを部屋まで送り届けないとね。確か今頃帰るって言ってあるんだっけ?」
「えぇ、そうです。明日……いえ、もう今日ですか。今日の早朝に大公が彼を迎えに来て、西方のフェイルメールとかいう者が統治する領土に向かうとの事でした」
彼としてはもう少しコンディションの確認などを行っておきたいのだろうが、早朝という時間帯では睡眠の方がよっぽど大事だ。ならばこのまま寝かせておいた方がよいだろう。
幸い、ティアマトだけなら彼を抱き抱えた上で部屋まで戻らなければいけなかっただろうが私がいるため、《
彼女の迎えが来れば起こしてあげればいいだけの話であるし。
「《転移》」
瞬間──景色が変わる。
夜風が頬を撫でる草原から、人工物に囲まれた空間。言わずもがな、ミナトが借りている王城の一室だ。この合宿の間に泊まっていた時に使っていたベッドとは比べ物にならない柔らかさのそれに、彼をそのまま寝かせてやる。
これまでの疲労をすべて拭いさらんと熟睡するミナトを私達はずっと眺めていた。
投稿時間についてのアンケート※一週間程度を目安に〆
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0時(今まで通り)
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6時
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12時
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18時