※この作品はR-18です。

クラスメイト、異世界で勇者やるってよ。   作:bear大総統

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いざゆかん!《強魔地帯》!

 俺達5人はエリザさんが管轄するミハロヴィーナ領の大地を踏みしめた。

 といっても王都から馬車でえっちらおっちら向かったわけではない。

 

 なんと先のアーチ状の建造物、アレは転移門であったのだ。王家の血のみに反応する代物との事で、俺が触ってもうんともすんとも言わなかった。

 

 そしてエリザさんは王家の血に連なるもの。女性であるがゆえ王位継承権は存在しないが、この門を作動させるに足る資格を持っている。

 

 この門は同様のものが王都の東西南北に存在し、ブリステン王国の領土の大半を治める『四大貴族』の直轄地に繋がっている。

 そしてエリザさんの拠点であるミハロヴィーナもまた、この転移門が置かれた街だ。

 

 故に馬車を使えば4日ほどかかる王都からミハロヴィーナまでの道程を、エリザさんがいればショートカットできる。

 

 ──ミハロヴィーナの街は素人目で見れば『田舎』と言えるのかもしれなかった。

 王都のように活気に溢れているというわけではない。馬車の数、即ち商人の数こそ多いが、王都のような煌びやかな家や劇場といった娯楽施設などは存在しない。

 

 ひたすらに機能と合理のみを追求した街。そういった印象を受けた。

 

「王都のような派手な街をイメージしてたかしら? だとしたら期待を裏切ってしまったわね」

 

「いえ、ミハロヴィーナ領の事は事前に調べてたので、そこまでは。ミハロヴィーナ領は大規模な穀倉地帯であり、王国の魔法薬(ポーション)生産を一手に担う農夫と薬師の街だと」

 

「あら、わざわざ調べてくれたの?」

 

 ミハロヴィーナ領……というか、ミハロヴィーナの家系は元はただの薬師の家系であった。

 ここ一帯の森は魔法薬の主原料となる薬草の群生地であり、彼らはそこから薬草を積み、薬を製作してきたのだと。

 

 しかしこの世界において人類の生活圏の外は即ち、魔獣達の住処。そこに薬を積みに行くのは相応の危険性があり、如何に戦闘技術を獲得したとしても犠牲が出ることは仕方のないことであった。

 

 これを憂いたのが、5代前のミハロヴィーナ。エリザさんの曽祖父にあたる人物であった。

 薬師であり、そして地質学者でもあった彼は、森の環境を……即ち、薬草にとって最高の生育環境を人工的に再現できないかと考え、これに着手。

 

 数十年にも及ぶ試行錯誤の末、晩年にその成果は実を結んだ。

 そして彼が亡くなった後、研究成果を引き継いだのは彼の息子だ。父の努力を側で見ていた彼は、父が確立した手段の拡大に注力し、これを成功させた。

 彼らの尽力によって薬草は『外から採ってくる』物から『内で育てる』物になった。

 

 そしてミハロヴィーナには、幾百年もの間蓄えられた農業のノウハウがあった。

 

 ブリステン王国は魔法薬の大量生産、持続供給の手段を確立したことで魔法薬の価格が安価になり、国民全体の死亡率が減少。

 そして使用可能な薬草の絶対量が増えた事により、魔法薬の品質向上研究も加速的に進んだ結果、クオリティそのものも爆発的に向上した。

 

 今の下級魔法治療薬が当時の上位魔法治療薬と同等の効能を持ちながら、価格は1/10まで下がったと言えばミハロヴィーナ家の方々の尽力がどれほど偉大であったのかは察せられるだろう。

 

 以上の要素によりブリステン王国は疾病、傷害を原因とした国民の死亡率を大幅に減少、人口増加に多大な好影響をもたらした。

 

 この偉業を讃えたブリステン王家はミハロヴィーナ家に爵位を与え、そして先代のミハロヴィーナには現国王の妹を嫁がせた事で『四大貴族』入りを果たしたのである。

 

「……というのが俺の調べた限りの情報でしたけど、合ってますか?」

 

「もう完璧よ。びっくりしちゃった。ミナトくんは強いだけじゃなくて、勉学にも精通しているのね」

 

「流石にお世話になる方の家の歴史は調べますよ」

 

 エリザさんの素直な称賛に笑みが溢れる。

 たとえお世辞であっても褒められるのは気分が良い。

 

 ミハロヴィーナ家が管轄する王国西方の領土は、《強魔地帯》と隣接している事の影響か、王国内でも随一と言っていいほど魔獣の数が多い。

 

 ミハロヴィーナ領自体は先ほど言った通り農夫と薬師の街であったが、西方に行くに連れてその街の様相は魔獣との戦争のための砦としての役割が大きくなっていく。

 

 王国西方で魔法薬文化が根付き、成長し続けた事に、魔獣との生存競争が背景にあったことは容易に察せられよう。

 

「本当、真面目なんだから」

 

「……なんかオレより詳しくって複雑っす」

 

「いや、それは仕方ねぇだろ」

 

 ロペルの不貞腐れたような言葉に苦笑する。

 

 片や多忙極まるエリザさんの護衛兼御者を兼ねるロペル。片や特定の誰かを主君とせず、大して働きもせず好きに鍛錬をし、好きに勉学に励み、好きに休む俺。

 いくら彼がエリザさんのお付きの部下であったとしても、勉学の大半は実務に必要な物が大半を占めてしまうだろう。

 

「環境の差だ。お前の落ち度じゃないよ」

 

 俺はロペルの頭をわしゃわしゃ、と撫でる。

 うわ、何この毛並み。高級カーペットもかくやという心地よさだ。彼が許してくれるのなら一生触っていられる自信がある。

 

「ふふ、微笑ましいわね。けれどミナトくん、そろそろお仕事の話をしても構わないかしら?」

 

「あ、勿論です」

 

 愛しのもふもふから手を離し、傾聴の姿勢をとる。それにエリザさんは満足げに頷き、切り出したのは依頼内容の再確認。

 

 俺が今回引き受けた依頼の内容は大別すると、

 

 一.エリザさんをフェイルメール辺境伯領へと護送すること。

 

 二.フェイルメール辺境伯領と隣接する《強魔地帯》に存在する魔獣の掃討。滞在期間は一ヶ月ほどを想定する。

 

 以上二つだ。

 

 この依頼を引き受けるにあたって俺は前金として聖白金貨15枚を受け取っている。

 肝心の依頼達成報酬はどれほどかというと、魔獣の掃討は歩合制だが、最低額として聖白金貨30枚。

 護送依頼については片道で聖白金貨5枚、往復はその倍であるという。ただし帰り道は俺が《強魔地帯》で戦闘継続に支障をきたすほどの重傷を負った場合はキャンセルされるとの事。

 

 つまりは俺は現段階で聖白金貨50枚を受け取ることが保証されているということだ。

 これがどれほどの金額であるかというと、ミハロヴィーナ家が管轄する農村──つまりは極めて豊かな村であり、領の主要な収入源のひとつから徴収される一年の一般的な総額が聖白金貨10枚程であるという。

 

 つまりは俺の月収=村の年収5年分というわけだ。

 ……うん、そうだよね。あまりにぶっ飛んでるよね。

 

 いや、俺もエリザさんに言ったのよ? これはあまりに高額すぎるのではないか、別にもう少し安くたって俺は真面目に働く、と。

 

 しかし……。

 

『ミナトくんは己の力を軽んじているわ。今の貴方の評価はね、「僅か半月で魔王にすら勝利する可能性がある程の成長を遂げた存在」なの。そんな貴方を一月半の間拘束する対価としては、これでも安すぎるほどよ』

 

 このように過度な卑下は侮辱である、とお叱りを受けてしまった。

 彼女ほどの女傑が俺をこれほどまでに評価してくれている、これほど嬉しい事はない。この誉れに恥じることがないよう、粉骨砕身の想いで依頼にあたる所存である。

 

「……以上よ。何か質問はある?」

 

 と、一連の依頼内容を振り返ってくれたエリザさんは俺に視線を向けてくるが、これに俺は挙手して応えた。

 

「エリザさんの護送についてなのですが、これの目的と日程について確認したいです」

 

「目的?」

 

「はい。エリザさんがフェイルメール伯領を目指されるのは、『領内の視察を兼ねている』のか『ただ早く着けばいいのか』を伺いたくて」

 

 ただ目的地を目指すのであっても『寄り道前提』なのか『目的地一直線』なのかは全く以て異なる。

 

 もし視察を兼ねているのであれば、事前に滞在する街や宿などが綿密にスケジューリングされ、ここを徒に崩すべきではない。俺はあくまでも戦闘要員であり、文官などではないからだ。

 

「フェイルメール伯領に一直線、速さだけを優先していいなら……辺境伯領に到着する日数を1/2程度にまで縮められると思います。必要な道具などは買い足さなければなりませんが……」

 

「ふむ……何をするのか教えてもらえる?」

 

「俺の《闇魔法》の時間操作のひとつ、《時間加速(アクセレラシオン)》を馬と御者をしてくれるロペルにかけます。他人にかけるならおそらく2倍が限度でしょうが……そうすれば旅程を1/2程に短縮できる筈です」

 

 俺が愛用する魔法《時間加速》はその通り、対象の時間を加速させる魔法だ。それによって馬達の時間を早くして道を駆け抜けてやろう、というのが俺のプランである。

 

 無論、この魔法にも弱点はある。

 

 この魔法が早くしているのはあくまでも対象の時間。分かりやすく言えば『動画を2倍速で再生することで、視聴終了までの時間を半減させる』ことに近い。

 

 するとどうなるのかというと、対象に付与されたバッドステータスの進行も倍速で進む。

 毒を飲んだ状態で《時間加速》を行えば毒は倍速く身体に巡るし、血を流した状態であれば普通の倍の速度で出血する。

 

「えっと……つまり?」

 

「倍の早さで動けるかわりに、倍早くお腹が減る」

 

「なるほど!」

 

 うん、ぐだぐだと喋ったがルーにした説明が一番わかり易いな。

 時間を倍速して倍の距離を移動できたにも関わらず、消費する体力は等倍です、なんて都合の良いことは問屋が卸さない、ということだ。

 

「なのでこれするなら、活力回復薬(スタミナポーション)が必要です。そうしないとロペルと馬の体力が持ちませんから」

 

「……そうね。やりましょう。活力回復薬は丁度手持ちがあるしね。いち早くミナトくんに到着してもらって、辺境伯領の民を安心させてあげたいわ」

 

「了解です。ロペルもいいよな?」

 

「はいっす!」

 

 エリザさん、そして一番割を食うだろうロペルの許可も得られたことで、俺はエリザさんが手配してくれて馬車を引く馬2頭と彼に《時間加速》をかけていく。

 

 そして同時に俺は内心でほくそ笑んだ。

 

 ──先に述べておくが、俺が先ほど言った事に嘘偽りは一切ない。

 

 エリザさんが言う《強魔地帯》での魔獣達の活発な動き、それに早急に対策を講じるためには一刻も早く俺がフェイルメール辺境伯領に到着する必要がある事も事実。

 

 言葉には出さなかったが一日でも長く《強魔地帯》で戦い、報酬を嵩増ししたいという目的もなくはない。

 これは別にエリザさんに言った『貰いすぎじゃね』という気持ちとは矛盾しない。支払いが歩合制、且つ諸々の日程を踏まえれば最初に彼女から提示された日程と何も変わらないのだから。いっぱい働いて、その分お金を得たいというのは当然の考えだろう。

 

 ──しかし、宵坂湊にはそれとはまた別に狙いがあった。

 

 ぶっちゃけて言おう。

 オナ禁期間の短縮である。

 

『いや、馬鹿でしょコイツ。何をこんなキメ顔でアホな事言ってるの』

 

 うるさい!

 男にとっては死活問題なの!

 

 いいか、俺のような先日まで童貞を拗らせていた男にとって『異性と近い距離で過ごす環境』は猛毒も猛毒。

 おまけにエリザさんは人妻の色香に溢れていて(身分があまりに不釣り合いな事、何より旦那様がいらっしゃるから断じて手は出さないが)、アイズさんは檸檬の香気のような清涼系の美人であり、俺専属のメイド。

 そんな彼女達と約一週間もの間、大半の時間を馬車の中という密室で過ごす?

 

 耐えられるわけないだろうが! おちんちんが爆発してしまう! 男子高校生の性欲、そこにニュクスとティアマトの影響で嵩増しされた分を舐めるなよ!?

 

(そっ……それは、申し訳ないとは思いますが……。自慰行為、いえ、性交渉だって宿に到着すればいくらでも出来るではないですか! 私ならいくらでもミナトの事を受け止めてあげられます……!)

 

 ニュクスの気持ちは大変ありがたい。俺だって出来る事なら毎日ニュクスといちゃいちゃして、その母性の山脈に顔を埋めて安眠を得たい。ニュクスのしっとりもちもちむにむにボディと俺専用でいてくれるニュクスの深奥に愚息と一緒に帰りたい!

 

 ニュクスが俺を求めてくれるように、俺だってニュクスを求めたいさ! でも駄目なんだよ!

 

 ──そもそもの話、俺が何故この依頼を引き受けることになったのか。

 それはミハロヴィーナ大公代理、エリザ・フォン・ミハロヴィーナからブリステン王国国王、アルドルフ・フォン・ブリステンに『フェイルメール伯領に隣接する《強魔地帯》の魔獣掃討のため、《勇者》宵坂湊を借り受けたい』という話が通され、彼はそれを了承。俺に話が通されたという経緯がある。

 

 そう、これは勅令……つまりは国王からの直接命令なわけよ、これ。

 

 下手な事できるわけなくね?

 

 いや、ただ失敗するだけならまだいいのよ。真面目にやった上での業務の遂行不可ならば情状酌量の余地はあろう。エリザさん自身が、俺が当時異世界に来て一週間程度の俺を引っ張りたいと言ってきていたのだから、無茶は承知の上の筈。

 アンドリューだって戦闘経験の浅さから俺の派遣には渋っていたという話であるし、真面目な彼の事だ。それを国王に進言している筈さ。

 

 けど、女に溺れていたせいで仕事ができませんでした、申し訳ありません、なんて言ってみ? ふざけてんのかテメェって思うだろ? 俺も思うもん。そんな頭チンポ野郎、使い物にならねぇって判断されて然るべきだろ?

 

 これでも俺だけに悪評が立つのなら、あ~、馬鹿な事しましたね。はい自業自得です、で済んだよ。

 

 だが、俺の振る舞いによってエリザさんに塁が及ぶ可能性があるとなれば話が違ってくる。

 

 エリザさんは病で床に臥せっている旦那さんの代わりに、女性の身で広大且つ王国全土に多大な影響力を持つミハロヴィーナ領を治める女傑であるが、民草からの評判はともかくとして彼女と同じ貴族からの評判は決してよろしくない。

 

 何故ならエリザさんは女であるから。

 

 男が絶対、女は血を後世に残すための道具といった価値観が蔓延する貴族社会において、女性でありながら夫の業務を代行し、何より成果を上げ続ける彼女は大変目障りなのだろう。

 なんとかして彼女を陥れたい、しかし彼女自身は自分よりも極めて優秀となれば周囲を切り崩すほかない。

 

 おっと、そんな中でこの世界に来て一月も経っていない、強さだけが取り柄のガキがいますね?

 

 はい、そうです。俺の事です。

 俺は暴力で解決できる事態ならばニュクス、ティアマトの協力を得られれば大抵の事を解決できるが、貴族同士の謀略になれば格好の餌。葱と豆腐、白菜、しいたけを背負ってくるカモのような存在なのだ。

 

 俺はつい先日までただの高校生をしていた身。

 常に他者を蹴落とし、騙し、利を獲得せんとする獣の巣に放り込まれたら骨までむしゃぶりつくされるのが目に見えている。

 

 そんな奴らに俺が付け入る隙を与えて、エリザさんに甚大な悪影響を与えてしまったら? そのせいで領地の経営に深刻な被害をもたらし、善政だと評判のミハロヴィーナ領の民達の生活に影を落としてしまったら?

 

 そんなもの到底看過できることではない。

 

 俺はエリザさん以外の貴族は──エリザさんの配下である西方貴族たちも含め──全員が敵だと思うくらいが丁度いい、筈だ。少なくとも彼女が信を置く者以外は俺も表面上の付き合いだけをしていく。

 

 だがこれも《強魔地帯》に到着するまで──つまりは貴族達の眼が届かぬところまでの我慢だ。

 そこまで行けば俺はニュクスやティアマトと思う存分にすんぐほぐれつが出来る筈。

 

 故に俺は宣言するッ! 《強魔地帯》に到着するまでのおよそ四日間、決して性欲を発散しないことを!

 

(……無理だと思うけど?)

 

 そこの外野、うるさいぞ!

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