※この作品はR-18です。

クラスメイト、異世界で勇者やるってよ。   作:bear大総統

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勇者の本懐。そして……

 俺達がフェイルメール辺境伯のお膝元、『フェイルメール』の街に到着したのは王都を発ってから三日目の黄昏時だった。

 なんだかんだと魔物から襲撃されたり、ロペルと馬の体力や体調を気遣って多めに休憩を取っていたらこのくらいの時間になってしまった。とはいえ、本来は一週間かけてこの街にやってきていた筈だったのでかなりの日程短縮にはなっているのだが。

 

 夕日に照らされる『フェイルメール』の街並みは伯爵の地位に就く者が治めているにしては、随分と簡素な作りになっていた。

 馬車の走る道は規則正しく敷かれ、空からこの街を見たのなら碁盤の目のようになっていただろう。民家自体も作りは複雑ではなく、似たような見た目の家が延々と続く。違いと言えば、軒先に出ている店くらいのものだ。

 王都は日本人が想像する中世ヨーロッパのような風景だったが、この街は長屋を世界観に合うようにアレンジしました、といった方が相応しい。

 

 唯一簡素だとか、簡易的だと言えないものは街全体をぐるりと覆う、魔力強化が常に施された石壁と見張り台、そしてそこに立ち西を、つまりは『巨人三国』を見つめる兵士や魔法使い達くらいだ。

 

 ──おそらくは、『巨人』に街を踏み壊されても、撃退が済み次第、即座にその機能を回復させるための工夫だろう。対巨人戦を考慮し整備された、徹底した合理と割り切りによって造られた街。

 それがフェイルメールであった。

 

 そしてひたすらに実用性を追求した外見をしていたのは、街のみならず領主の屋敷もまた同様であった。

 

 権威を示すというよりは堅牢さを重視したその門を潜る。

 街の高台に建てられたその城館は、おそらく伯爵という身分の者が住まうには小ぶりと言えるのだろう。貴族らしい如何にも大金をはたいて整備しています、といったフラワーメイズや生垣、噴水の類は一切ない。殺風景とも言えるほどだ。

 シンメトリーのその館──否、要塞にはおそらく本当に必要最低限の人員しか配置しなくても良いようになっているのだろう。少なくとも庭師よりは兵士の方が間違いなく需要は高い筈だ。

 

 俺達はフェイルメール家に仕える執事達──メイドさんは見た限りではいなかった──に歓待の言葉と共に出迎えられた。

 ロペルが操縦していた馬車は彼らに引き取られ、馬車内に乗せていた荷物もまた流れるような所作で彼らの手元に収まった。その洗練された動きは、王城という国内最高権力者の住まいで働くアイズさんのそれに匹敵するほど。

 

 そんな彼らがザッ、と道を開けるようにして──否、事実、道を開けたのだ。

 屋敷の扉を開き、姿を見せたのは青髪をオールバックに固めた細身の男。おそらくは40代前半頃であろうか。目算2メートルに達そうかという長身で、左目のモノクルが彼の怜悧さを際立たせている。

 藍色のジャケットを着こみ、彼が纏うホワイトシャツやトラウザーズには一切の皺は見られない。

 抜身の刃物の具現化のような男。彼が馬車を降りた俺達の元にやってきて、使用人達に負けない整った動きで頭を下げた。

 

「ようこそおいでになられました、ミハロヴィーナ大公。お出迎えが遅れてしまい、大変申し訳ございません」

 

「構わないわ、フェイルメール伯。貴方も随分と多忙でしょう。それに当初の予定を1/2まで縮めての強行日程をとったのはこちらよ。貴方に落ち度はないわ。一応、その旨を伝える文も出したのだけど……届いていたかしら?」

 

「はい。ご連絡をいただいた時には現実問題、そのような事が可能なのかと眼を疑いましたが……《勇者》様のご助力を賜れたのならばそれも頷けました。彼が件の?」

 

「えぇ、ミナト・ヨイザカくん。私達の依頼を請けてくれた、今代最強の《勇者》よ」

 

 フェイルメール伯の深海を彷彿とさせる双眸に俺の姿が映った。

 彼の容貌は非常に整っていると言えるが、『巨人三国』という死と隣り合わせの領地を治めるからだろうか。その眼は鋭く、眉間には深く皺が刻まれている。正直、ステータス云々の前にそんな大人にじっと見つめられれば緊張もする。

 

 だが、そんな俺の様子を見透かすように彼はふっと口の端を緩めた。

 

「お初にお目にかかります、ヨイザカ様。此度は我々の願いにお応えいただき、心より御礼申し上げます。私はフェイルメール家現当主、ヨハン・フェイルメールと申します。以後、お見知りおきください」

 

「あっ、すっ────」

 

 息が詰まる。何より自分よりは二回りは年上だろう男性に敬語を使われ、恭しく頭を下げられるなんてシチュエーション、現代日本で暮らしてきた高校生にあるはずがない。

 言葉はどもってしどろもどろ。ちゃんと返事をしなければならないとわかっているのに、口も身体も動いてはくれず、脳ミソだけがぐるぐると回った。

 

『コミュ障』

 

 うるさい!

 

『ミナト、何も緊張する事はありません。この男自身が言っていたではないですか。貴方はこの男の頼みによって、わざわざこの地に来たのです。つまりは貴方が上で、この男が下。堂々と振舞えばよいのですよ』

 

 それができたら苦労はしねぇ……!!

 ティアマトもニュクスも、これだから魔王ってやつらは……!!

 

 とはいえ、いつまでも挙動不審にコミュ障を拗らせているわけにもいかない。

 なんとか言葉を絞り出さなければ。

 

「さ、先程ご紹介に預かりました、ミナト・ヨイザカと申します。微力ながら、フェイルメール伯領、及び王国の平穏のため精一杯励む所存です。何卒よろしくお願い致します……!」

 

 なぁこんな感じで良いか!? と頭を下げた後、エリザさんに確認すれば『ばっちりよ』とウィンクを送ってくれた。優しい。実際には全然よくないんだろうけど。

 だが、実際フェイルメール伯は「ご丁寧にありがとうございます」と返してくれて。なんて優しい世界なんだ。けどあまりにちゃんとしていて、俺には息苦しい。

 

 故に、俺は言葉を続けた。

 

「あの、フェイルメール伯。不躾ながら、二つほどお願いをしてもよろしいでしょうか……?」

 

「勿論構いません。何なりとお申し付けください。当家に可能な範囲であれば、尽力いたします」

 

「その、なんですけど……もう少し、言葉を崩していただくことは出来ますか……? あと、様付けも……やめていただきたいな、と」

 

 もうね、無理です。

 俺はただの力に訴えかけるのが得意で、暴力で物事を解決する事しかできない人間なんです。

 敬われるような人間ではない!! 偉くもない!!

 ましてや伯爵や大公といった、超お偉いさんにそれをされたら胃が捩じ切られてしまう! ストレスで!!

 

 そんな俺からしてみればこれ以上ないくらい真剣なお願いは、彼のきょとん、とした顔──本当に失礼だがちょっと面白かった──に受け止められ、そしてもう一度微笑んだ。

 

「──わかった。ではこのような雰囲気でどうだろう? ヨイザカくん。失礼があればまた気軽に言ってくれ。その度に改めよう」

 

「ありがとうございます……! 失礼だなんてとんでもない! むしろ変な事を頼んだのはこちらの方で……!」

 

「謝罪の必要はないよ。こちらこそ申し訳なかったね。貴族の社会では見栄と目上への敬意が最重要視されるものだから。君もあまり堅苦しくなる必要はないよ。貴族社会には不慣れなのだろう?」

 

「そう、ですね……何分戦ってばかりでしたので。お目苦しい点は多々あるかと思いますが、何卒ご容赦いただけますと幸いです」

 

 一応、こちらに来たばかりの頃に一通り習った筈なのだが……正直あまり記憶にない。アイズさんが側にいるうちに学び直したほうがいいかもしれない。

 

「あぁ、了解した。とはいえ、君ならば然程問題ないとは思うがね」

 

「と、言いますと……」

 

「確かに礼儀は重要だ。君とて覚えていて損をすることはない。だが極論、我々が君に求めているのはお行儀よくマナーを守ることではないのだよ」

 

 フェイルメール伯の視線が更に鋭くなり、沈みゆく夕日を睨みつけた。

 その姿は無礼な子供にも丁重に接してくれる寛大な貴族のそれではない。

 あらゆる理不尽に晒されながらも、なお折れず、屈さず巨人と戦い続けてきた『戦士』の顔であった。

 

 彼は小さく息を吐いて、俺達に向き直る。

 

「少し話が長くなるな。続きは食事をしながらにしよう。……お前達、皆様をお部屋までご案内しろ」

 

「「「はっ」」」

 

 

 俺達にはそれぞれ個室があてがわれた。

 フェイルメール伯からは『簡素な部屋になりますが申し訳ありません』と謝罪されたが、俺としては如何にも高級品でございという調度品や絵画がずらりと並ぶ部屋よりも余程過ごしやすい。

 

 ちなみにエリザさんからは『そんなの今更でしょう』と返されていた。随分と長い付き合いらしい。

 

 執事さんの一人──凄い筋肉且つ身長がデカい──に案内され、通されたのは応接室の一つだろう小部屋だ。

 ……正直言ってしまうと、あの貴族の屋敷のお約束である大食堂に極めて長いバンケットテーブル、豪奢なシャンデリアといった雰囲気を待っていた気持ちはある。

 とはいえ、伯爵も含めれば6人しかいないのに、そんな大部屋を使う理由はないと言われればぐぅの音も出なかった。

 

「……して、旦那様のご様子は如何ほどですか」

 

「正直言ってしまうと、芳しくはないわね。未だに確実な治療法は見つかっていない病だから。……私に出来るのは精々進行を遅らせる程度で──あら、ミナトくん。もういいの?」

 

「はい。……その、聞いたらまずい話なら、外に出てますけど」

 

「いいわよ、気にしなくて。ありがとう」

 

 エリザさんは苦笑して、俺に座るように促してくれる。

 それに甘えて俺は彼女の隣に腰掛けた。

 

 ──エリザさんの旦那様であるフィシオ・フォン・ミハロヴィーナ様は、元は王国東方の伯爵家からエリザさんの元に婿入してきたお方である。

 正直、彼自身の評価はよく知らないがおよそ5年前から魔力を原因とした病に罹患したらしい。

 

 妻であり、領内一の薬師であるエリザさんの治療を受けているとは知っていたが……。

 

「正直、いつ逝去してもおかしくない状態ではあるわね……」

 

「その、良いんですか。そんな時に俺についてきてしまって」

 

「個人的には側にいたいけれど、立場がそれを許してくれなくてね。仕方ないわ。それに薬はある程度作り置きをしてきたし、足りなくなる分については都度調合して送るから。

 ただ……本当に火急となったら、申し訳ないけれどミナトくんに頼るかもしれない。ちなみにミナトくん。私一人を、速度だけを優先して運ぶなら、ここからミハロヴィーナまでどれくらいかかる?」

 

「そう、ですね……」

 

 そんな事ないに越したことはない、と考えながらも聞かれれば答えざるを得ない。

 俺は《飛翔》の特殊技術を有している。故に陸路でうだうだと回り道をする必要もない。更に他者に使わないなら《時間加速》の倍率はより引き上げられる。

 

 故にその速さは道中のそれと比較にならない。とはいえ、最低限の安全性だけは考えなければ旦那様の元に駆けつける前にエリザさんが亡くなってしまう。

 

 その辺りのことを考慮するならば……。

 

「大体……1時間もかからないんじゃないですか?」

 

「凄まじいな……」

 

「だから、やろうと思えば毎日送迎もできますけど……如何しますか?」

 

「さ、流石に悪いわよ。それに貴方を雇ったのは、私の脚じゃなくて巨人討伐の戦力としてだもの。切り札をそんな無駄な使い方はさせられないわ」

 

 俺は別に構わないんだが……流石に体裁が悪いか。

 

「そうですね。旦那様には大変申し訳ありませんが……」

 

「流石に『巨人三国』の動向が優先よ。ここを抑えないと主人どころか、数多くの王国民が蹂躙されてしまう。それだけは避けなくてはならないわ」

 

 やっぱり貴族って息苦しそうだなぁ……俺はそもそも領地運営の知識なんて持ち合わせていないから無縁なのだが。せめて彼等の手を煩わせないようにしないと。

 

 などと話していれば、アイズさんやロペル、ルーが入室してきた。

 

「では、全員揃ったところで食事にしよう」

 

 という伯爵の鶴の一声で執事達が次々と食事を運んでくる。

 その様相は高級料理といった風貌ではなく、この地域の郷土料理なのだろう。格式よりもただ栄養を、量を重視した物が並ぶ。

 

「たくさん食べてくれ。ヨイザカくん、ロペルくんは特にな」

 

「い、良いんす……じゃなかった、良いんですか?」

 

「勿論だ。君達はまだまだ育ち盛りの男児だからな。それに大公から、道中大変尽くしてくれたと聞いている。領主として、それくらいの労は労わせてほしい」

 

 鉄板の上で食欲を唆るステーキに釘付けになりながらも、辛うじて敬意の体裁を保ってみせたロペルに伯爵は『気を楽にしたまえ』と苦笑する。

 

「なに、いくら最前線に近い領地とはいえ客人の腹を満たせる程度の余裕はあるつもりだ」

 

 その言葉を皮切りに、俺達は手を合わせて目の前の食事に真摯に向き合った。

 

 

 

 

 

「さて、ヨイザカくん。君は《勇者》に求められるものは何と考える?」

 

 食事を終えた俺達はコーヒーブレイクの最中、伯爵からそんな話を振られる。

 それは屋敷に入る前の話の続き。

 

 伯爵は俺に『礼儀作法の類いは求めていない』と言っていた。ただし今回問われているのはまた違う。

 ……ここはおそらく解答を求めているのではなく、俺自身の考えを聞きたいんだろうな。

 

「色々あると思います。気品、公平さ、誠実さ。誰もに手を差し伸べる優しさ、あと……身も蓋もない事を言ってしまえば容姿とか」

 

「はは、本当に取り繕わないな」

 

「事実の一側面ではあるはずです」

 

《勇者》という存在が対魔王の切り札、人類にとっての救世主として扱われるというのは、これまでに何度か話してきたと思う。

 

 その肩書に相応しい立ち振舞、言葉遣い、そして容貌は民衆に『《勇者》ここにあり』と喧伝するのに必要不可欠であるはず。

 

 事実、桐生先生や陸道にはそういった仕事が入っていると聞いている。……別に凹んでいませんけど?

 あの美男美女と横に並んで見劣りするという自覚くらいありますし?

 

「模範解答通りだな。素晴らしい」

 

「……含みがありますね。俺の答えはお気に召しませんでしたか?」

 

「いや、失礼。馬鹿にしたわけではないんだ」

 

 咳払いをした後に、伯爵は続けた。

 

「ヨイザカくん。少しばかり言葉が粗暴になっても構わないかね?」

 

「勿論です。俺としてはそちらの方が喋りやすくて助かるかもしれませんね」

 

「はは、それはご容赦願いたいな。大公の御前なんだ。私とてある程度は立場を取り繕わなければならないのだよ。君達も、ここでの私の言動は内密で頼むよ? 最悪、不敬の罪で罰則を負う羽目になりかねないからね」

 

「わ、わかりました」「了解っす!」

 

「私はミナト様の従者ですので、御身に対する不敬だけは看過できませんが。それでもよろしければ」

 

「ありがとう。従者の鑑だな、貴方は」

 

 順にルー、ロペル、アイズさんが返事をし、伯爵はそれに頷いた。

 俺は別に気にしないのに……と思わんでもないが、それもアイズさんにとっては『主人』として相応しい振る舞いとは言えないのだろう。こればっかりは価値観の差だな、と考えていれば伯爵に真っ直ぐ見据えられていた。

 自然と背筋が伸びる。

 

 それにしても不敬罪で罰則を負う可能性があるって、どんな事を言うつもりなんだ。この人は。

 

「君の言う通り、我々は君達《勇者》に気品や慈愛の心といったものを求める。実際問題、容貌も然りだ。《勇者》という存在が象徴としての役割も兼ねる以上、見目麗しい男女の方が都合が良い」

 

 結局顔かよ、クソが──流石にオブラートに包むが──と口から漏れそうになったとき、伯爵は断言する。

 

「しかしそんなものは《勇者》の本質ではない」

 

 彼は続けた。

 それらはあくまでも鍍金に過ぎない。

 では、《勇者》の本質とは何か。

 

「他を蹂躙し、敵対者を殺戮する『絶対的な強さ』それ以外にない。ヨイザカくん。私はね。《勇者》の中にも『格』というものが存在していると考えている」

 

 彼は言う。

 具体的には、『俺、桐生先生、陸堂』と『それ以外のクラスメイト』

 そこには隔絶と言ってもなお余りある、絶対的な格差が存在していると。

 

 前者は明確に英雄として崇められる存在、後者は《勇者》という象徴を一生明るく照らすための薪であると伯爵は言う。

 

 勿論、《勇者》がブリステン王国の象徴としての役割を果たす以上、最低限の礼節は備えてほしいという。が、その点においては俺達は問題ないと太鼓判を押してもらった。

 

「品性? 慈愛? 容貌? そのような役割は『ハリボテ』共に担わせておけばよい。それすら担えぬ者は《勇者》に非ず。そのような木っ端共に君が阿る必要などないのだよ。

 食らいたい時に満足するまで食らい給え。欲しい物には好きに手を伸ばし給え。──傲慢になり給え。その不遜さを押し通すに足る『強さ』を君が備え、尚且つ我々を守護してくれるのならば、その対価として我々は喜んで君が望むものを差し出そう」

 

 彼の言い分は清々しいモノだった。

 

 ──弱肉強食。

 

 強きが食らい、弱いモノはただのエサになるほかない。エサになりたくないのなら、強者に傅け。

 道徳にも倫理にも欠けた、獣の法。

 

 それはおそらく巨人の脅威に晒され、生き延びてきたこの地だからこそ根付いたものなのだろう。

 

 それにしたって、一応は《勇者》であるクラスメイト達をハリボテと呼ぶのは俺も頬が引き攣ったが。……いや、伯爵にとっては『それすら担えない枠』に入っていたのかもしれない。

 

「……本当に言葉を選びませんでしたね」

 

「それ故、よく伝わっただろう? 大公も含め、私は君が『絶対強者』として振る舞い、我々を守ってくれることを大いに期待している。それに見合う対価は必ず用意して見せよう」

 

 確かに率直で、残酷とすら思えるほどだったが、それ故にわかりやすかった。

 

「……傲慢云々は、今すぐに……というか、俺には無理だと思いますが。ご期待に沿えるよう、誠心誠意励みます」

 

「あぁ、よろしく頼むよ。──今日のところは長旅で皆様もお疲れでしょう。しっかりと休息を取り、明日からの各々の職務に備えてください。では、解散とします」

 

 

「ふぃ~……さっぱりしたぁ……」

 

 フェイルメール伯爵家に備え付けられた浴場から上がった俺は、自室に戻ってきていた。

 王城の部屋でない以上、《特殊技術》の向上に仕えそうなものは無い。明日に備えて早めに寝ようと思っても、どうにも目が冴えて寝られない。

 

 普段ならばここで自慰でもして寝るか……となるのだが、流石に伯爵の邸宅でそんな事をしでかす勇気はなかった。

 

 水魔法の応用で髪を乾かし、ベッドに倒れ込む。

 本当、学生やってた頃とは比較にならない寝心地だ。もう少し童心に帰っていたら、トランポリンの様に跳ねていたかもしれない。……流石に無いか。

 

 そこでこんこん、と扉が控えめにノックされる。

 

『ミナト様、アイズです。もしよろしければ入室しても構いませんでしょうか』

 

「アイズさん? はい、構いませんよ」

 

 一応手櫛で髪を整えてから彼女を出迎える。

 

「夜分遅くに申し訳ありません」

 

 当然というべきか、彼女はいつものクラシックタイプのメイド服にホワイトプリムという姿ではなかった。

 ネグリジェと呼ばれるようなワンピースタイプの、藍色の寝巻を身に纏った彼女はいつもより無防備だ。それは単純な露出度という意味でも、雰囲気という意味でも。

 

 俺の目線からだとすぐ下を向けば谷間が見えてしまう──というか不注意で見てしまったので視線を逸らした──なのも油断が出来なかった。

 

「このような見苦しい姿で参上してしまって……」

 

「いえ、そんなことはないですよ。その……よくお似合いです」

 

「ふふ、ありがとうございます、お世辞でも嬉しいです」

 

 彼女を迎え入れたは良いものの、そもそも一人で使う事を想定された部屋だ。

 椅子も机も一人分しかなく、俺達は自然とベッドに二人で腰掛ける形になった。

 ……何喋ったらいいんだろうか。こういう時って。

 

「あ、アイズさんの部屋ってここと似たような感じなんですか? やっぱり女性だから、装飾品がある程度多かったり?」

 

「いえ、ミナト様のお部屋とそう変わりません。そも、そのようなお部屋があれば優先的にミハロヴィーナ大公やミナト様に使って頂くようお願いしておりました」

 

「……使用人の鑑ですね、アイズさんは」

 

「誇りをもって従事させていただいておりますので」

 

 アイズさんは控えめに微笑むと「ミナト様」と俺に向き直る。

 

「まことに不躾ながら、本日は貴方様にひとつお願いしたいことがあり、参上した次第です」

 

「……? なんでしょう。俺に出来る事なら何でも言ってください」

 

「──私の事を、抱いて頂けませんでしょうか」

 

「えぇ、勿論──はい?」

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