※この作品はR-18です。

クラスメイト、異世界で勇者やるってよ。   作:bear大総統

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『巨人三国』での初陣

 ──さて、まずはラピス砦に存在する装置『カステール』について軽く触れておこう。

 

 この装置は『巨人三国』の領土から魔力を汲み上げ、濾過した上で自身の動力とする複合術式搭載型魔法装置──要するに一個の機械で複数の役割をこなしてくれる便利な魔法道具である。

 

 そしてこの『カステール』こそが王国西方防衛の屋台骨であり、これを破壊されることが俺達の敗北に繋がると言ってもいい。

 

 この装置の役割は三つ。

 

 一.魔力障壁展開。

 二.敵性存在の索敵。

 三.敵性存在の誘引。

 

 魔力障壁展開は読んで字の如く。

『巨人三国』から攻めてくる巨人達の防衛のために馬鹿真面目に城壁を築いていれば、万理の長城並みの長さの砦を造らなければならない。だが、それを築くまでの間延々と巨人達を退け続けるのはあまりにも現実的ではない。

 

 故にそこを不思議な魔法パワーで解決したのがこの装置。

 これを作動させれば、なんということでしょう。自動的に地面から魔力を吸収し、約三千キロメートルにも及ぶ超広範囲魔力障壁を展開してくれるというわけだ。

 いや本当に馬鹿げてるよね。おまけに一回作動させれば二十四時間三百六十五日、障壁を展開可能。勿論定期的なメンテナンスは必要にはなるが、それも起動させながら行えるというとんでもマシンである。

 

 だが『カステール』さんの能力はこんなものじゃない。

 第二、第三の機能。敵性存在の索敵・誘引がある。

 

 いくら馬鹿げた距離を誇る魔力障壁とはいえ、王国の国境全てをカバーできるわけではない。

 巨人達にとっても長距離移動をする羽目にはなるが、守りを固められた西部よりも『巨人三国』を脱出し、北部や南部から攻勢をかけた方がまだマシだと考える奴が出てくるかもしれない。

 

 それをこれらの機能が許さない。

 

『カステール』は常時微細な魔力波を扇状に発している。

 これがソナーの役割を果たし、範囲内に魔獣がいれば砦に搭載された警報が鳴り響く。

 加えてこの魔力波には《挑発》が乗っている。

 

 《挑発》は所謂『タンク職』のような役割の者が持つ《特殊技術》なのだが、この影響を受けた者は発動者──今回で言えば『カステール』だ──を攻撃せずにはいられなくなるそうだ。

 

 これを利用する事で広大な面積を有する『巨人三国』が相手であっても防衛範囲を限定し、これによって防衛費用や物資、人員の削減に成功した。

 

 ……無論『カステール』にも欠点はある。

 

 防衛範囲を限定するという事は、敵が集中してやってくるということ。故に今回のような砦の許容量を超えた数、頻度で敵に襲来されれば現場に多大な負担がかかる。

 

 そして何より防衛の要である装置そのものをエサに敵を釣っているため、『カステール』が破壊されるリスクを設計理念の段階からして跳ね上げているということ。

 

 だが、そうさせないために俺は呼ばれたのだ。

 

 莫大な報酬が約束されている以上、俺は成果を以てその信頼に報いなければならない。

 

 

『カステール』が展開する魔力障壁をすり抜け(この装置はあくまでも対魔獣を想定したものであるため、人間や、人間が発した攻撃などには効力を発揮しない)、宙に身体を躍らせる。

 この四日ほどはずっと馬車の旅であったため、突風が身体を撫でていく感覚は随分と久しぶりだ。

 

 これが戦場でなければもう少し感動に浸っていられたのだが仕方がない。

 

「《勇者》様! いけません! この先には巨人用の魔力爆弾が──」

 

 埋められている、とでも言いたかったのだろう。

 心優しい兵士の方に返事をする代わりに、俺は《特殊技術》を発動させた。

 

 ──《飛翔》

 

 本来空での自由を許されざる身にありながら、重力の制縛を引き千切る異能。

 同時に行った魔力操作によって魔力地雷を探知すると、それが埋められていない場所まで一気に飛んで地面に降り立った。

 

 俺としてはブチ上がったテンションのままに巨人達の殲滅へ向かいたいのだが、俺の任務はあくまでも拠点防衛。『カステール』目掛けて殺到する巨人達を相手にわざわざ打って出る愚行は犯さない。

 

 《特殊技術》《索敵》を起動。

『巨人三国』までの道中はまともに働いてくれなかった《索敵》ちゃんだが、今回は如何ほどか……お、引っかかった。

 イメージとしては頭の中に思い浮かべたざっくりとした地図にマーカーが記される感覚、とでも言えばいいのか。その数は二十。

 

 随分と大所帯でいらっしゃったものだ。初出勤日だからと言って楽をさせてくれる老婆心は巨人達には備わっていないようで。

 

『巨人達の総数は二十三だそうです』

 

『了解、ありがとな。ニュクス』

 

 砦に残って伝令役をしてくれている俺の妻に礼を言ったところで、耳朶を打つ地響き。

 

『ほら、お客様がいらっしゃったわよ』

 

 その姿はまさしく『巨人』──大きな人であった。

 体長は今視界に入っている者達でもばらつきはあるが、乱暴に平均を取るなら八メートルほどになるだろうか。

 しかし彼らには《魔獣》《魔族》と聞いて真っ先に思い浮かべる特徴。即ち角が生えているだとか、筋組織が露出しているだとか、腕が四本生えているだとか……そういったわかりやすい異形ではない。

 

 故に気味が悪い。

 

 巨人達は衣服を纏っていない。防具の類もない。

 口の端から涎を垂らし、爛々と瞳を輝かせて、笑みを浮かべながらこちら目掛けて走ってくる。

 

 確か不気味の谷現象、というのだったか。

 身体の大きさ以外は自分達と然程変わらない外見の存在が、羞恥心の欠片もなく肌を晒し、無言で、されど表情だけは底抜けに明るい。そんな存在にどうして嫌悪感を覚えずにいられようか。

 

 あぁ、確かに彼らは魔の者だ。

 どれだけ姿かたちが似ていようと、根本に相違があるのだと一見して理解できる。

 奴らは生まれながらに人類に仇為す邪悪に違いなかった。

 

『HAHAHAHAHAHHAHAHAHAAAAHAHHAHAHA‼‼』

 

 音というよりは振動と呼ぶべき哄笑の大合唱が俺の身体に叩きつけられる。ダメージはないが、精神に与える悪影響は甚大だ。

 

「すぐに黙らせてやる……‼」

 

 彼らの走破を止めるためにはまず、俺が脅威だと奴らに認めてもらわなければ始まらない。

 そもそも俺を視界の端に捉えているか怪しいあの醜悪な巨躯に、俺という存在を刻み込まなければそもそも『戦い』になりえないのだ。

 

『ミナト、こいつらが相手なら魔法を使うまでもないでしょう? 準備運動がてら冥土までご案内してやりなさい』

 

「あぁ!」

 

 標的に定めたのは、一際早くこちらに迫ってきている女型の巨人。

 全体的にスレンダー……というか、ガリガリと言うべき、見事な骨と皮具合。股にぶら下がっているモノがなかったから女だと判別できただけで、顔と上半身だけみて男女どっちだと言われれば男と答えるのが大半なのではないかという醜悪さ。

 

 個人的には奴が生物学上はニュクスやティアマト、エリザさん、アイズと同じ『女』であると認めたくない。

 

「男女平等パンチ!」

 

 軽く六メートルほど跳躍し、その勢いのまま拳を振り抜けばその醜悪な面が爆散。

『巨人族』の特徴として、ティアマトのような理不尽とも言える自己再生能力がないのは確認済。とはいえ、念を入れて事に及ぶのは悪い事ではないと、魔力を下方に放出。かつて巨人だったものは大地の染みになった。

 

『アンタのモノローグを考慮に入れればブス女処刑パンチって呼んだ方が良いんじゃない?』

 

 そんな最悪な名前言えるか! 最近はコンプラだの色々厳しいんだぞ!

 

【巨人に勝利。経験値の取得を確認しました】

 

 脳裏に響くアナウンスを他所に、俺は水流を身に纏って血を洗い流す。

 

 その間、巨人達の疾走は止まっていた。

 それもそのはず。彼らからしてみれば自分達の前を走っていた女が、なんの前触れもなく頭を吹き飛ばされて死んだのだ。挙句には地面の染みになったともなれば、二の舞を演じることは避けたいと考えるのが自明の理。

 

 だが、動きもしないのならこちらとしてもやりやすくて助かる。

 

 不毛の大地を蹴り砕いて駆ける。目指すのは先程殺した巨人の次に前に出ていた男の巨人。

 

「テメェも男だってんなら、ここぶっ叩かれるのは効くよなァ!?」

 

 狙うのは股座にぶら下がった気色悪いブツ。

 男である以上、絶対に存在する生物としての急所。そんな場所を一切守らずぶらぶらさせてたら、どうぞ私を男として生きられないようにしてくださいと言っているようなもの。

 ならば望み通り命も尊厳も揃って冥土に送ってやる。

 

「かぁ…………ッッ!!!」

 

 一昔前のバラエティ番組では気軽に行われていた金的。それは実際のところ内臓を何の守りもなく殴打されている事に等しく、そんなものをくらってまともに動けるような男はいない。

 男の象徴に蹴りを叩き込んでやれば、巨人は先程のにやけ面が嘘のように顔を真っ青に染めて百面相。これ以上ないほどにその苦痛をこちらに教えてくれるが、俺だって男だ。苦痛を長引かせずに頭を蹴り飛ばしてすぐに楽にしてやる。

 

 地面に降り立った後、再度跳躍。

 

「首置いてけ!」

 

 刀を抜く。

 しかし普通に振るったのであれば、巨人の首を切断することはできない。単純に長さが不足しているからだ。

 故にその刀身に魔力を纏わせ、間合いを伸長させる。

 

 イメージするのはより鋭く、より薄く、洗練された刃。

 ロングソードやツヴァイヘンダーといった西洋で用いられた、重さと力で押し切るものではない。

 技と鋭さで断ち切る、極東の島国で発展したそれである。

 

 余計な属性は付与せず、ただ魔力のみで象られた長刀は俺の想定通りに巨人の首を断ち切った。

 

 崩れ落ちる身体は無視し、俺が掴んだのは頭部。

 それを未だ現実を受け止めきれていない女型の巨人の頭蓋めがけて全力で投げる。

 

 《聖魔》の影響を受け爆発的に強化された膂力に《特殊技術》《投擲》が組み合わさったそれは、人外を絶命させる威力を保証してくれる。

 

「ストラァイクッ!!」

 

 ふたり──片方は既に絶命しているが──は幸せなキスをして人生を終了。

 頭部をぶつけられた方の巨人はボウリングのピンさながらに吹き飛んだ。俺の頭の中で討伐完了のアナウンスが響く。

 レベルは上がらない。《特殊技術》の習得もなし。ならば今の宵坂湊にとってあれらは雑兵ということなのだろう。

 

『GAAAAAAAAAAAAAAAA‼‼』

 

 奇襲はこれでおしまい。あとは一対二十の真正面からのぶつかり合いだ。

 

 

「……凄まじいな」

 

 私の28年という人生において、《勇者》という存在を見たのは初めての事だった。

 しかし……ここまで圧倒的なものなのか?

 

 双眼鏡で覗き込んだ先の景色は、まさしく獅子奮迅。

 

 ──我々、ラピス砦に駐在する者にとって巨人族という物は絶対的な脅威であった。

 

 白兵戦など夢のまた夢。

 たとえ魔力を用いて身体を強化できると言っても、素の肉体性能が隔絶している。

 

 ただ速く、ただ堅く、ただ強い。

 

 たったそれだけの特性で以て五十年前に《勇者》を三名殉職させ、その上で『パール砦』『ガネット要塞』の二か所を陥落させた怪物達。

 そんな彼らを相手に同じ地面に降り立って戦うなど愚の骨頂であるとして、我々王国西部の者達は魔法を洗練させてきた。

 

 魔力地雷。対巨人壕。毒物の散布に地形を用いた罠の作成。そして埒外の性能を持つ拠点防護装置の存在。

 魔法使いの正道とはとてもではないが言えない卑劣な手段を以て、ようやく討滅できる。

 

 筈だったのだ。

 

 ヨイザカ様が巨人の足の指を掴み、振り回している。

 さながら局所的に発生した、意志を持つハリケーン。生きたままに棍棒として利用されている巨人は悲鳴をあげながら、なすすべなく仲間の身体を殴打し、吹き飛ばし、血を流している。

 その悲鳴は苦痛を訴えるものなのか、はたまた仲間を自分に殺させないでくれと懇願するものであったのか。

 自分達にそれはわからない。

 

「対象、四体沈黙。残り、六体です……」

 

 ただその圧倒的な暴力を前に、息を呑むだけだ。

 

「《勇者》というものは、ここまで理不尽な存在なのか……?」

 

「いえ、それは違います」

 

 そう断言するのはアイズ女史。

 ヨイザカ様の専属の使用人であり、他の《勇者》とも多少の面識があるという彼女は続ける。

 

「失礼ながら申し上げますと、他の《勇者》様はもう少し『常識的な』強さをしていらっしゃいます。現時点で『巨人三国』でも通用すると、アンドリュー騎士団長より太鼓判を押されている方であってもミツヨシ・リクドウ様、ミカゲ・キリュウ様を加えた三名のみです。そのお二人であってもあのような真似が出来るとはとても思えません」

 

「……なるほど、父上が仰られたように『最強の《勇者》』という前評判に嘘偽りなしということか」

 

「加えて、だ。気付いているか? クリストフ」

 

「……? 何がでしょう」

 

 父上からの鋭い眼差しは、きっと生涯慣れることはないのだろう。

 かつて《群狼》の名で畏れられた氷結魔法を得意とする、実戦に特化した魔法使いにして指揮官は「よく見てみろ」と戦場を──正確に言えば、そこで巨人達を蹂躙するヨイザカ様を指し示す。

 

()()()()()()()使()()()()()()()。そうではないかね? アイズ女史」

 

「お見事な慧眼です、伯爵」

 

「ばっ……!?」

 

 そんな馬鹿なことがあってたまるものか。

 礼節をかなぐり捨てた、そんな荒々しい言葉は口から洩れる事はなかった。

 しかし父上とアイズ女史はさも当然、と言わんばかりに話を進めている。

 

 ……つまりは、そういうことなのか。

 

「彼は、ただの身体能力と魔力操作技術で以て巨人達を蹂躙していると! そう仰るのですか!?」

 

「仰る通りです」

 

 微笑み──おそらくは主に対する心の底からの尊敬と称賛を滲ませながら頷くアイズ女史の肯定に、私の足場は崩れ落ちそうになっていた。否、事実崩落していたのだろう。私のこれまでの人生において築かれた『常識』という足元は。

 

 それは我々、王国西方の人間が最初に捨てた戦い方。

 巨人達との白兵戦。それを彼はやってのけているのだ。しかも魔法を自ら禁じた上で……?

 

「ふざけている……」

 

「それが《勇者》、絶対強者と呼ばれるような者達の振る舞いなのだよ。だが……いよいよその禁を解くようだ」

 

 父上が仰られたまさにその時だった。

 目算で十五メートルを超える、比較的大型の巨人。それが巨大な氷の柱によって串刺し刑に処された。言うまでもなく絶命した。

 

 さも当然のようにこれまで一挙手一投足で巨人を殺害してきたヨイザカ様であったが……いかんせん今は位置が大変よろしくない。

 

「なるほど、単身では撃破不可能と判断しヨイザカくんを囲んだか。無い知恵を絞って策を練ったようだな」

 

 これまで一対一を複数回繰り返して、あるいは巨人そのものを武器として扱い、奴らの撃破を繰り返してきた彼であっても、複数同時に巨人を相手にするのは不利と言わざるを得ないだろう。

 小柄な彼を取り囲む十メートルを優に超えた六体の巨人というのは、あまりにも地獄絵図。とはいえこちらから援護を行おうにも、距離があまりにも遠い。

 

 ……そんな私の憂慮を「心配するなど烏滸がましい」とばかりに、彼は蹴り飛ばしてみせる。

 

 突如として発生した、巨大な水の球がヨイザカ様も含めて彼を取り囲む巨人達を飲み込んだ。

 間違いなく彼の《水魔法》だ。

 あまりにも大規模、しかしその魔法はお世辞にも洗練されているとは言い難い。私自身、父上から受け継いだ《水魔法》の素養があるからこそ、あの魔法が稚拙な出来だと理解できる。

 

 規模や威力こそ保有する魔力量の都合で難しいかもしれないが、似たような事をやれと言われればきっと私にだって出来るだろう。彼が展開した水のドームはそういったものだ。

 

「……窒息死させる腹積もりなのでしょうか?」

 

「確かにそれも悪くはない策ですが……」

 

 巨人族の肉体構造や生命維持方法は人間のそれと大差ない。

 呼吸器を水で塞がれれば、息が出来ずに死に至る。だが、そんな悠長な真似をあの巨人達が許すだろうか?

 

「なるほど、ヨイザカくん。君は中々容赦がないな」

 

 巨人達の絶叫がラピス砦に叩きつけられた。

 戦場に明らかになれていないだろうアイズ女史は耳を抑えて悲鳴に耐えているが、それは他の兵士達もまた同様。私も本音を言えばすぐさまに耳を塞ぎたいのだが、父上が平気な顔をしているため意地で耐える。

 

 私の視界の先では、先程までやや青みがかった透明の水だったものが真っ赤に染まっている。十中八九、巨人達の血液だろう。

 内部の様子は伺い知れないが、この世の物とは思えない地獄が顕現した事だろうことは想像に難くなかった。

 

 ……巨人達の絶叫は、一分ほど続いただろうか。とはいえそれは私がこれまでの人生の中で過ごしたどの一分よりも凄惨な物だったと断言できる。

 

 鮮血で染まった水球が風船に針を刺した時の様に吹き飛ぶ。現れたのかやはりというべきか、ヨイザカ様お一人だけ。

 

「対象、六体沈黙。……全敵性存在の殲滅を確認しました」

 

 観測手が告げるのは戦闘終了の報せ。

 巨人達はその全てが葬られ、対する彼は一切の外傷なし。あまりにも一方的な虐殺だった。

 

「伯爵、ひとつご質問をしてもよろしいでしょうか」

 

「何かな。アイズ女史」

 

「私は《水魔法》、それも戦闘に用いるものとなると寡聞にして存じ上げません。先程、ミナト様は何をされたのでしょう?」

 

「彼は巨人達を包み込んだ巨大な水の塊と同時に、その内部に数多の小さな氷の塊を生成した。その上で極めて速い水流を起こして内部を攪拌。巨人達を粉微塵に切り刻んだのだ。原理としては貴方もご存じであろうミキサーとそう変わらんよ」

 

 尤も、切り刻むのは人ならざるものとはいえ今なお生きている生命だ。

 それを何も躊躇いなく殺す選択を取れたことは、人としては恐ろしいが、肩を並べ共に戦う戦友としては頼りになりすぎる。

 

「して、アイズ女史。貴方の《風魔法》でヨイザカくんに戻ってくるように伝えることは可能かね? これが出来る者の話では、風に音を乗せて運ぶようなイメージだそうなのだが」

 

「やってみます」

 

 アイズ女史が父上の言葉に頷いた時、再び『カステール』の警報装置がけたたましく鳴り響く。

 ……それは間違いなく、新たな敵の襲来を告げるものであった。

 

 

「おいおい……とんでもねぇのが来やがったな」

 

 ニ十体超の巨人を殲滅し、さぁ凱旋だと息巻けばそうは問屋が卸さぬと頼んでもいないおかわりがやってくる。

 

 数は一体。

 だが《索敵》が告げてくるのは、これまで俺が殺してきた巨人の十倍では効かないほどの脅威であるという報せ。《特殊技術》による警報が頭の中でけたたましく鳴り響く。

 

 推測にはなるが、《魔王》ではない。

 ニュクスやティアマトと相対した時のような、こちらに決して揺るがぬ『死』という結果を叩きつけてくるほどの理不尽さはない。だが、奴をこのまま放置しておけばまず間違いなくその境地に達するだろうという存在。

 あえて名前を付けるのなら『魔王候補者』とでも呼ぶべきか。

 

 こんな奴が雑魚散らし用の地雷や落とし穴で止まるとは到底思えない。これを後ろに通せば『カステール』は粉微塵に踏み砕かれ、アイズやフェイルメール伯爵はあの世行きだ。

 

 故に俺が選ぶのは前進。奴を決して砦に近づけてはならない。

 

 とはいえ、何一つ障害物のない不毛の大地だ。

 奴の姿はすぐに視界に入った。

 

「デカ……」

 

 これまでの巨人達だって確かに巨大だった。

 だが、奴の巨躯は彼らを比較対象にした上でなお大きい。

 

 目算は十五階建てビルほど……五十メートルはあるだろうか。

 これまでの巨人が黄色人種、あるいは白人種のような肌色をしていたのに対し、奴の肌は褐色。

 衣服を纏っていないのは共通しているが、その身体は筋骨隆々と呼ぶべきもの。武器の類こそ見られないが、その身体は武人のそれだ。

 

 なるほど。これまで俺が殺してきた奴はあくまでも斥候。

 彼らの後ろに控えていたコイツこそが、ド本命ってわけか!

 

「OOOOOAAAAAAAAAAAAAッッ‼‼」

 

 俺達のサイズ比はおよそ1:25。

 それほどの差があったとしても、奴の眼は俺をしっかりと捉えて下さっているようだ。

 奴の咆哮は俺をしっかりと見据えた上で行われ、そして。

 

「あっづぁッ!?」

 

 熱風が俺の全身を叩きつけ、そのままの勢いで身体は宙を舞う。

 ……俺には全ての属性の魔法の威力を軽減する《全属性耐性》の《特殊技術》がある。その上で、こっちは魔力障壁による防御を行った。

 確かに半ば反射的に展開したものであったが故、お粗末な出来であったことは認めよう。だが、その二重の守りで以てしても頭部を庇った()()()()()()()ほどの熱と威力だと!?

 

「イカれてるっ! ……クソッ‼」

 

 空に投げ出された俺を追撃せんと巨人が放つは右腕のスウィングパンチ。それはさながら岩石が真っ直ぐ明確な殺意を持って飛来するよう。

 奴の拳を《飛行》によってなんとか紙一重で回避するが……俺が馬鹿だったのは、巨人族を相手にするときは『紙一重の回避』は直撃でこそないが、ほぼ命中した時と同一の結果をもたらすという事実が頭からすっぽ抜けていたことだ。

 

《飛翔》が効力を失い、俺の身体が地面を転がる。いや、転がるなんて生易しい表現ではない。

 吹き飛ばされ、大地を削りながら跳ね……およそ一キロメートルほど吹き飛ばされてようやく止まった。

 幸運であったのは、吹き飛ばされた方向がラピス砦方面ではなかった事か。あそこに突っ込んでいれば、追い打ちとして魔力地雷による爆発もセットでくらっていただろうからな。

 

 あぁ、畜生。

『巨人三国』に向かう道中、エリザさんからのご厚意でいただいた新しいバトルドレスが享日三日であの世行きになるなんて!

 炭化した腕や全身の火傷は《超高速再生(グレーターリジェネレート)》によって癒えつつあるとはいえ、着ている服自体はどうにもできないんだぞ!

 

『流石にそれは直してあげますよ』

 

 ニュクスがかけてくれた《時間遡行(クロックバック)》によって炭すら残らず燃えてしまったバトルドレスの時が戻る。

 奴の熱波攻撃によって俺は巨人達と同じく全裸になっていた。メロスじゃあるし、《勇者》が全裸というのは流石に不相応というものだ。勿論、エリザさんからいただいたものは戦いに用いる物であるとはいえ大事にしたいという想いもあるが。

 

 さて、肝心の巨人はというと俺達を無視して砦へ向かう──などということはなく、俺達目掛けて全力で走ってきていた。

 先の例えにも出したが、ビル十五階相当の大きさの存在が明確な殺意を持ってこちらを撃滅せんとする有り様はあまりにも恐ろしい。

 それに奴は砦の破壊ではなく、俺達の殺害を優先している。つまりは俺達を無視して砦に向かえば手痛い反撃を受けることになるという判断が出来るほどに知能が発達した巨人であるということ。

 

 巨人族の中では異端であろう魔法の使用、他の巨人と比べることも烏滸がましい知能、そして圧倒的な巨躯から繰り出される高威力かつ超広範囲の物理攻撃。

 なんとしてでもここで殺さなければ、王国西方どころか国そのものの存続すら怪しいだろう強敵に改めて兜の尾を締め直す。

 

 奴が次に繰り出してきた攻撃は……跳躍。

 全身を使ったフライングプレス。ルチャリブレといった格闘技で見られるこの攻撃だが……それを身長五十メートルの奴がやってくると考えれば、その馬鹿さ加減が良く分かるだろう。

 威力、範囲、何から何まで桁違い。

 

 これに対して俺は全力の逃避を以て凌ぐ。

 

 ──ステータスにおいて、おそらく物理攻撃と物理防御力では俺の大敗だろう。

《強魔地帯》の魔力によって強化された存在は、物理攻撃・防御力の成長に大幅な補正がかかる。その上、俺はティアマトとの契約でこの二つのステータスが強化されているとはいえ、本領はニュクスとの契約によって獲得した魔法攻撃・防御力だ。

 これらのステータスは上回っている……否、上回っていてくれないと奴を殺すのは滅茶苦茶キツイ。真正面からの力のぶつかり合いで奴を打倒出来るなら、それが一番楽なのだから。

 

 そして敏捷は体感にはなるが……俺が上か? とはいえ、身長差が馬鹿げてる以上追いかけっこで俺が勝つのは絶望的。だが小回りという点で言えば、俺に軍配が上がる。

 

 総合するとトントン、もしくは奴さんが微妙に有利と言ったところか。

 

 されど逆境こそが俺の日常。

 ここから何度も何度も大物喰らいを果たし、強くなってきたからこそ俺は今『巨人三国』の大地を踏みしめているのだ。

 そう簡単に負けてやるわけにはいかないなぁ!

 

「《廻龍刃》──!!」

 

 振るうはこれまたエリザさんからの頂きものである東和刀。

 水流によって刀身を射出し、なんちゃって抜刀術として放たれるその刃には当然《水》を纏っている。

 

 この技は有体に言ってしまえばウォーターカッターだ。

 つい先ほど巨人達を切り刻んだ《死海》──規模はオリジナルであるティアマトとは比較にならないほど小さいがその分お手頃だ──と同様の理合い。それを刃に纏わせ、振り抜く。

 

 今の俺ではこの技の原典である《海龍尾刃》ほどの速さと威力を出せないために作り出した、小手先の魔法。とはいえこれまた本家よりも魔力運用効率がお安いという利点があるので、どちらが優れているのかと言えばどんぐりの背比べ。

 

 そんな二人の魔王のお墨付きを得た俺の刃は……奴に届かなかった。

 

 間合いをしくじっただとか、魔法の発動を失敗しただとかそういう問題ではない。奴に触れる前に水の刃が()()()()()()()のだ。

 

「また熱か……‼」

 

 一般論として《水属性》は《炎属性》に有利とされている。

 しかしそれは両方の実力、規模が拮抗していればの話だ。

 燃える山にコップ一杯の水をかけようとしたとき、さて水は一体どうなるでしょう? その答えが、先の光景だ。

 

「《鑑定》……!」

 

 とにもかくにも、褐色肌の巨人の情報を知らなければ攻略もクソもあったものではない。

 だが、そう遠くない未来《魔王》に匹敵しうる強さに到達するだろう存在が、《鑑定》を妨害する技術を備えていないわけがない。

 

 故に俺は最初から閲覧する情報を指定することで、鑑定妨害の難易度を引き上げる。本来であれば閲覧できる情報を最初から拒否する事で、《鑑定》の性能を一時的に向上。その上で範囲を限定して情報を読み込む速さを担保する。

 

 絶対に見るのは《特殊技術》、次に魔法関連のステータス、それ以外の情報はいらない。

 

《特殊技術》で奴が現在用いている熱の鎧の仕組みを暴き、その上で未だに伏せている札を盗み見る。

 魔法関連のステータスに関しては、奴のざっくりとした魔力量を推定するためだ。

 奴の熱は十中八九《炎魔法》によるもの。ならば魔法の燃料である魔力がなくなってしまえば、熱波を放つのは不可能になる。

 

 そしてこの手の我慢比べにおいて、俺は極めて有利。

 何故なら俺はニュクス・ティアマトとの契約によって最大保有魔力量が著しく向上しているからだ。

 

《超高速再生》によって肉体の治癒に魔力が用いられていることを鑑みても、奴は種族からして魔法を扱うのが不得手な巨人族。如何に魔法を扱える異端であったとしても『より大きく、重く成長するために魔力が用いられる』という種族的特性までは無視できまい。

 

 問題は俺が奴と戦っている間、砦の守りが疎かになるということだが……現在《索敵》に引っかかっている敵はいない。それに砦に控える兵士達は巨人狩りの専門家。

 明らかに規格外の存在であるコイツさえ引きつけておけば、彼らは砦に迫る敵を撃退してくれる筈だ。

 

 

◆ ◆ ◆

 

魔攻:0

魔防:86231

 

特殊技術

《格闘術Lv.10》《身体能力強化Lv.8》《放熱》《節制Lv.9》《剛力Lv.7》《堅牢Lv.6》《進撃Lv.10》《炎属性耐性Lv.10》《物理攻撃耐性Lv.10》《激痛耐性Lv.2》《集中Lv.3》

 

特殊技術:《放熱》……熱を任意のタイミングで放出できる。

 

特殊技術;《節制》……活動に使用する消費エネルギー量を大幅に削減する。

 

特殊技術:《剛力》……自身の物理攻撃ステータスに大補正。

 

特殊技術:《進撃》……自身の敏捷ステータスに大補正。戦闘時は更に補正される。

 

◆ ◆ ◆

 

「はァ!?」

 

 奴の全身を使った押し潰し攻撃、起き上がるまでの大きな隙に攻撃を叩きこもうとすれば、奴は全身から熱を放出する事で俺の企みを挫いた。

 

 しかしそれに歯噛みするよりも早く、俺の思考は驚愕によって染められた。

 

 なんで、《炎魔法》がない……!?

 それどころか魔法攻撃力が皆無というのはどういうことだ!?

 

『そんなの決まってるでしょ。というか、アンタがわかってないわけないじゃない』

 

 ティアマトの冷静な指摘が思考を冷やしてくれる。

 あぁ、そうさ。わかってるとも。信じたくない気持ちがあまりに大きすぎて、現実から逃げたくなっていただけだ。

 

《炎魔法》の《特殊技術》がない。魔法攻撃力が0である。

 それが指し示す事実とは即ち、奴は《魔法》を使えない。彼が放っている熱波はどこまでも単純な『物理現象』に過ぎないという、揺ぎ無い証拠だということ。

 

 それを可能にしている要因は《放熱》の《特殊技術》であろう。

 『熱を放つ』という単純明快なこの《特殊技術》こそが、ドラゴン顔負けの超高熱息吹(ブレス)を実現し、炎熱の鎧を実現する核。

 

 だが、ここでひとつの疑問が生じる。

 

 ずばりこれらを可能にする『熱』は一体どこから生じたものなのか?

 

 科学の代わりに魔法が発展したこの世界であっても、無から有を生み出す事は不可能だ。

 《特殊技術》として『魔力を熱に変換する』といったものがあれば話は別だったのだが、奴がそのようなものを有していないのはこの眼で確認している。

 

「……まさか」

 

『そのまさかよ。間違いなくアイツは()()()()()()()()()()()()()()。そしてそれを、攻撃に転用しているのでしょうね』

 

「ふざけやがって……!」

 

 つまりは目の前の巨人は『人より体温が高い』だけということ。ただし、その振れ幅があまりにもイカレているだけで。

 

「……名前を付けるなら『バーン』ってところか」

 

 息を吐くだけで人体を消し炭に出来る。

 歩くだけで周囲の生命・環境を焼き払える。

 それを魔法も使わず、ひとつの《特殊技術》とただの『体質』だけで実現でき、これらを実現するためのエネルギーの枯渇には到底期待できない。

 そんな奴の名前として──何の捻りもないが──燃焼(バーン)は相応しいのではないだろうか。

 

 なんという怪物。なんという理不尽。

 こんな化け物に初日から遭遇するという己の不運を嘆く他にない。

 

 とはいえ、いつまでも泣き言を言っていては始まらない。

 なんとかして、奴を殺す方法を探らなければ。

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