アンドリューが出ていって約5分が経ったときだった。彼が玉座の間を開け、再び戻ってくるが彼一人だけではなかった。
彼が引き連れていたのは、昨日――俺たちが異世界召喚をされた際にもいたローブの者達数十名だ。手には相変わらずの木製の魔法の杖が握られている。
「それじゃあ頼むぞ」
「畏まりました」
ローブの者達は俺たちの一歩手前ほどに、円を描くように並ぶ。瞬間にぼそぼそと何かを呟いたかと思ったら、杖の先に付いた球が淡い光を放ち、床に光と同色である水色に発光する魔法陣が浮かび上がる。それは五芒星がいくつも組み合わさったような形をしており、その中心部に目のような物が浮かび上がっている。
「これが《聖魔召喚》に使うための魔法陣だ。さぁ、順番に中心部に立って《聖魔》に語りかけてみろ。なに、やってみればわかるさ」
アンドリューの言葉に従って、クラスメイトの一人が目玉のある部分へと立つ。目を閉じ、立ったまま気絶したのではないかと思えるほどに身動きをしなくなった時、薄く明滅していた淡い水色の光が一際強くなった瞬間、植物によく似た羽根を持った妖精が三匹ほど周りを飛んでいた。
その可憐な姿に女子からは黄色い歓声が漏れる。自分もあんな子が来てほしいと言う姿は、あの子を愛玩動物か何かだと思っているようだ。
一方男子からは逆に絶対に強いのや格好いいのを引き当ててやると意気込んでいる。やはりと言うべきかここは男子と女子で趣味の差が出てきてるな。
…………というか平然と三体も召喚しやがったな。こういうのは普通、一体だけが選ばれてその子をずっと大切にし続けるとかそういうのじゃないの? 普通に複数出てくるのね。…………まさかここで一体しか出せなかったら周りから浮いてしまうパターンなのでは?
あぁ、不味い。それは不味いぞ。……いや、でも一体だけでもその子がアホみたいに強かったら…………まぁ、一体しか出なかったときのことは一体しか出なかったときに考えればいいだろうさ。
…………なんて考えていたら、一際歓声が大きくなる。その中心――魔法陣の上に立っているのは、こりゃまた例の如く、陸堂だった。
彼の正面には3メートルに迫ろうかという身長の、黒い皮膚を持った屈強な男が立っている。
纏っているのは赤い日本の着物によく似た装束に扇子。だがそれ以上に目立つのは、額の生え際辺りから生えている髪と同色の双角。そしてそいつが現れた瞬間から空気が俺の皮膚を突き刺している。
状況から言えば奴は陸堂の《聖魔》だ。襲いかかってくることはないと分かっていたとしても、恐れがなくなるわけではない。
クラスの中心人物でもあるがゆえに、奴の《聖魔》を近くで一番に見てやろうという輩は男女問わずにいた。だからこそほぼゼロ距離で奴の放つ圧力に当てられ、膝が笑っている。
「…………心配するでない。貴様等が我が主に危害を加えぬ限り、こちらからも手を出すつもりはない。故に剣を仕舞え、騎士よ。…………まさか
「い、いや、そんなつもりはない。あなたが勇者を害するのではないかと考え、念のために剣を抜いただけのこと。こちらとしても戦わなくて済むのは助かる」
「そうか。…………さて、主よ。名を聞いておこうか」
「光義…………陸堂光義だ」
「ミツヨシ……ふむ、ミツヨシか、良い名だな。手前は冥界にて亡者を断ずる十王がひとり、閻魔王。好きに呼ぶが良い、ミツヨシ」
その名に、クラスメイト達が一気にざわついた。自分達も名前を知っている存在が現れたことに驚愕したのかもしれない。俺としてもまさか閻魔王――閻魔が現れるとは思っていなかった。
閻魔は本人が言っていたように十王――冥界で亡者を裁く十人の裁判官のひとりだ。当然ながら他に9人彼と同じく十王と呼ばれる存在がいるのだが、閻魔王だけ飛び抜けて知名度が高い。十王信仰も彼だけを指すと勘違いされてしまうほどだ。
「さて、とりあえず退くとしようか。手前らがこのままここに留まっていては、他の《勇者》達が《聖魔》を召喚できんであろう」
「そ、そうだな」
そう言って陸童と閻魔王は魔法陣から離れ、クラスメイト達から一際離れた壁際に移動した。それでようやく奴に群がっていた生徒達が移動することが可能になった。
俺もこれで安心して移動することができる。
気付けば《聖魔召喚》を行っていないのは自分だけになっていた。見逃していた先生は茶色いフード付きのローブを纏った50センチほどの子供や緑色の風を纏った妖精と水を纏った妖精に炎を纏った蜥蜴であった。四体召喚できるとは流石は先生だな。大体が2体か3体だというのに。あっ、陸童は別な。閻魔王は召喚された《聖魔》の中で断トツの力を誇っている。これに敵う《聖魔》が召喚される可能性はまずないだろう。
できることなら平均の2、3体は当てたいところであるが……。
「どうした? 早く魔法陣の中心に立たないか」
「はい」
俺は魔法陣の中心に立った。
瞬間に感じるのは自分という存在が自分の肉体から離れていく感覚。幽体離脱というものを体験したことがないために確かなことをいうことはできないが、おそらくはそれに類似しているものだと思われる。
身体から意識が離れていく。
そして気付けば――俺は無数の視線を感じていた。
五感は一切働いていない。ただ意識だけが虚空を
イメージ的には漁港近くの市場の場景を思い浮かべてくれれば分かりやすいだろうか。俺は魚で辺りの視線は俺の良し悪しを見極める仕入れ人の物だ。
……想像していたのとは違ったな。
俺としては《勇者》に自身が契約できる《聖魔》が並び、その中から好きな《聖魔》を選ぶもの、もしくはソシャゲのガチャのような完全運任せの物だと思っていたのだが、これはそのどちらでもない。
《聖魔》が《勇者》を見極め、選んでいるのだ。自分達の前に立ったこの《勇者》が自分達の主に足る人物なのかを。
なにか暖かいものが俺の意識を包み込んだ。
五感は一切働いていないために確かなことは言えないが、もし手があったのならそこを両手で包まれたような感覚が一番近いだろう。
その暖かいもの――《聖魔》に導かれ、俺の意識がふわりと浮いた。
そして――、
「……戻ってきたか」
閉じていた瞼を開ければ、まだ見慣れない玉座の間に帰ってきていた。目の前には固唾を飲んで見守るアンドリュー。加えて陸堂も桐生先生も《聖魔召喚》が終わり、こちらに興味を全く示さないクラスメイト共。本当にお前らはなんというか…………。
「……なん、だと…………⁉」
クラスメイト達に目を向けていると、驚愕したアンドリューの口から言葉が漏れた。彼の目線は指と共に俺の肩の辺りに注がれている。何事かと俺の肩を見てみるとそこには俺の《聖魔》がいた。
「あら可愛い」
身長はおおよそ20センチほど。ぐだ~、と寝そべるようにして俺の肩に乗っている愛くるしい見た目をした少女だ。フードが付いているマントで身体をすっぽりと覆い、フードから溢れている黒髪は非常に艶やかで、前の世界でファッションモデルをやっているような人間にも匹敵するだろうものである。そんな髪の奥から覗くのは青と金色の色の異なる瞳――いわゆるオッドアイで俺を見上げ、『そんなに見てどうしたの?』と言わんばかりに首を傾げている。
右手に握られているのは
ああああああ! 可愛いぃぃぃ‼
そんな可愛い俺の《聖魔》に一体何の文句があるんだ。喧嘩なら言い値で買ってやるぞおらァ! とアンドリューに視線を向けると、
「《聖魔》が一体…………か」
彼の言葉ですべてに合点がいった。
――正直言って俺の《聖魔》は可愛さならばどの《聖魔》にも負けない自信があるが、強そうかと言われればそうではない。俺の前である陸堂の聖魔、閻魔王のインパクトには完全に負けている上に、クラスメイト達は2、3体――桐生先生に至っては4体も召喚しているのだから良いところなんてまるでない。
はっきりと言ってしまえば俺はこの中でも最弱であるように見えるだろう。
事実、俺の《聖魔》を見てクラスメイト達が明らかな落胆や、僅かながら嘲笑する気配も感じ取れた。そんな連中は相手にするつもりがないため、こちらに明らかな危害を加えない限りは無視を決め込むが。
「さて、全員の《聖魔召喚》が終わっただろう。ここでもう一度ステータスプレートをチェックしてみてくれ。自分が持っていたスキルの他に《聖魔》自身のスキルも加えられ、ステータスの値にも多少補正が加わっている筈だ」
名前:宵坂湊
種族:人間族
年齢:17歳
称号:《異世界人》《勇者》
レベル:1
体力:131
物攻:167
物防:101
魔攻:199(+171)
魔防:151(+123)
敏捷:211
《言語理解》《聖魔契約》《闇魔法Lv.1》《鑑定Lv.1》《闇属性無効化》《超高速演算》《未来視》《????》
特殊技術:《闇魔法》……《影魔法Lv.MAX》で派生する上位互換スキル。純然たる破壊をもたし、身体を蝕む闇を操る魔法。
特殊技術:《鑑定》……スキルを使用した際に相手のステータスを閲覧することが可能になるスキル。
特殊技術:《超高速演算》……《高速演算》の上位互換スキル。スキル保有者の脳の演算速度を大幅に向上させる。
特殊技術:《未来視》……《予知》の上位互換スキル。未来に起こる行動を視覚を通じて理解することができる。的中確率は100%。
特殊技術:《????》……現在閲覧許可が存在しないため、閲覧不能。
……ふむ、なるほど。
《聖魔》を召喚する前からステータスの値が変わってないため()の中身が恐らくは補正されているステータスの値。俺の《聖魔》は見た目通り魔法戦に特化した個体であるようだ。にしても《闇魔法》か…………響き的にはロマンを感じて大変俺好みではあるのだが、これは大丈夫なのだろうか。仮にも世界を救おうと《魔王》を倒しにいくのに、これでは明らかに魔王側の魔法ではないか。これが《勇者》として活動するのに問題が発生しないことを願うぞ。
それ以外は特に問題はない。
《鑑定》はどんなライトノベルでも活躍していた。レベルが存在するのが気にはなるが、そこは大した問題ではない。徐々にレベルを上げていけば良いのだ。
《超高速演算》と《未来視》はレベルも存在しないために最初から大いに活躍してくれることだろう。それに加えて効果も絶大。
《超高速演算》は魔法以外にも普段の考え事や大いに役立ってくれるだろうし、未来視は戦闘に大きなアドバンテージになる。
閲覧許可とやらが必要なスキルは詳しく見ることができなかったが、許可が必要な時点で凡百のスキルではない。デメリットがないことを願うばかりであるが強力無比な物であることはほぼ間違いないだろう。
俺は優しく頭を撫でてやると、気持ち良さそうに目を細めた。……こんな可愛いなりしておきながら、凶悪なスキルをお持ちのようで。
「特殊技術のチェックは終わったな? それでは次に
アンドリューの言葉に一緒に来ていたローブの男達は軽く礼をすると、前の世界でいうところの台車のようなものに大量の本や日本昔話に出てくるような巻物を台車に乗せて持ってきた。
クラスメイト達はそれに一気に群がる。《聖魔召喚》で一気に特殊技術が増えたことで興奮しているんだろう、まるで特売の商品を奪い合う主婦のように次々と巻物を手に取り、これじゃないと戻していく作業が繰り返される。
「しかしこれじゃあ取りに行きにくいな」
俺は目の前の光景を見てつい口から言葉が漏れてしまった。
あれでは巻き込まれるばかりで一向に巻物が置いてある台車には辿り着けそうにない。しかし早く取りに行かなければ自分が取りたい特殊技術を取得するために必要な巻物がなくなってしまうかもしれない。変に遠慮なんてする必要なんてないんだが、ただでさえ陸堂のあとにこんなに可愛らしい《聖魔》を1体だけしか引き当てられなかったんだ、クラスでも目立たないように過ごしてきた自分であるが現在は悪い意味で目立ってしまっているため、変に
すると頬を軽く《聖魔》に引っ張られる。
「ん? どうした?」
《聖魔》は俺の腕を伝って床に降りると、俺の方を向き『任せて!』と言わんばかりにとん、と胸を叩くと手に持った紫色の宝玉が付いた杖を掲げると俺の影に沈んだ。先に付いた宝玉が紫色に輝いたことから魔法を使ったのだろう、まるでプールに飛び込むかのような違和感の無さだった。
そして再び、俺の影から《聖魔》が出てくる。
その身体には大きな巻物を3軸抱えている姿は見て非常に苦しそうだ。サンキュー、とその巻物を受け取り、《鑑定》をそれに対して発動する。
巻物:《隠蔽》……特殊技術《隠蔽》を内包する巻物。
特殊技術:《隠蔽》……物を隠す才能に目覚める。物を隠す際や特殊技術を使用した際に看破され難くなる。ステータスの値を相手から閲覧されることを防ぐことが可能。より高レベルの《鑑定》によってそれは看破される。
巻物:《剣術》……特殊技術《剣術》を内包する巻物。
特殊技術:《剣術》……刀剣を用いて戦う才能に目覚める。刀剣を用いた攻撃の際に物攻のステータス値に微弱な補正がかかる。
巻物:《体術》……特殊技術《体術》を内包する巻物。
特殊技術:《体術》……己の肉体を用いて戦う才能に目覚める。徒手空拳での攻撃の際に物攻のステータス値に微弱な補正がかかる。
「これがお前のおすすめなのか?」
俺が《聖魔》に問うと、彼女はこくん、と頷き俺の腕をよじ登ってまた俺の肩の上でだらける。
……確かに最適と言ってもいいスキル構成だ。遠距離の敵に対しては《闇魔法》、近づかれた場合には《剣術》で対抗し、剣などとっていられないような状態――例えば闇討ちや寝込みを襲われたときのような状況だ――の場合には肉弾戦で対応が効く。
俺の《聖魔》が明らかに魔法に特化した姿をしているために勘違いしやすいが俺のステータスは物理攻撃もそこそこの値がある。充分、肉弾戦でも戦えるだけのステータス値はあるはずなのだ。
《隠蔽》は言わずもがな。恐らくは《鑑定》と共にレベル制だと思われるが、これは《鑑定》と違って常時発動していたって何の問題もない筈だ。《鑑定》は人間に対して使用した場合、相手に気付かれる危険性があるために常時発動しっぱなしというわけにはいかない。特殊技術のレベルアップの条件が特殊技術の使用だとするのなら《隠蔽》のレベルアップは最優先事項だ。流石にステータスを誰彼構わず見せるわけにもいかないからな。
俺はこの巻物を開けてみると、それが光となって俺の身体に溶け込んでいった。そしてステータスプレートを見てみると特殊技術に《隠蔽Lv.1》と《剣術Lv.1》、《体術Lv.1》が追加されていた。とりあえずは《隠蔽》を発動させたままにする。
これでそのうちレベルが上がってくれるだろうし、他の《鑑定》持ちからの《鑑定》もある程度は防ぐことができるだろう。まぁ、アンドリューが《鑑定》を仕掛けてきたら、レベル的な問題で防ぐことは叶わないが、クラスメイト達さえ防げれば構わない。《聖魔》によって《鑑定》を取得した場合も、《巻物》によって《鑑定》を取得した場合もレベルは1だろう。ならば今のままでも防ぐのには問題ない筈だ。
「よし、それでは訓練を始める! しっかりとついてくるんだぞ!」
アンドリューの言葉に従って俺達は玉座の間から出て、訓練を行うための場所に移動していった。
城からさほど場所の離れていない平原に移動した。
そこにはべこべこにへこんでしまった鉄製の鎧や、木にかけられた的――おそらくは弓の訓練に使うものだろう――があったりと王都に常駐している兵士達も恐らくはここで訓練を行っているんだろう、それらしい姿がいくつか見受けられた。
さて、ここで行ったことといえば攻撃手段の報告だ。例えば特殊技術《剣術》を取ったものは刀剣を扱った訓練を多くし、特殊技術《弓術》を取ったものは弓を扱った訓練を多くし、属性問わず《魔法》を主軸にするものは魔力関連の訓練に比重を多くかけるといった具合だ。
俺は《剣術》、《体術》、《闇魔法》という3つの戦闘用特殊技術があるためにどれにしようか迷ったが、《剣術》クラス――と言っていいのかはわからないが――に所属した。俺が気にしている陸堂は俺と同じく《剣術》クラス、桐生先生は《魔法》クラスだ。ここは『剣を握って振る』という行為自体にロマンを感じる男子と、『わざわざ敵に近づかなきゃいけないなんて怖い』という女子でほぼ真っ二つに別れた。まぁ、大体は《聖魔》が得意とするジャンルで選んだようであったが。
俺がやったのは木剣での素振りやマラソンなどの体力作り等が主であった。クラスでは目立たないようにしている俺ではあるが、運動神経は上の中ぐらいに位置しているため、難なくこなせたのは幸運だった。とはいっても各人、《聖魔》で身体能力が強化されているために俺がほとんど中間に埋もれてしまったのだが、目立たないということを考えれば最適だったのではないかと思われる。
さて、そんな中アンドリューが俺達を全員集め、とんでもないことを言い出した。
「最後に俺との模擬戦を行う」
…………一気に場が喧騒に包まれる。
そりゃそうだ。アンドリューはブリステン王国王都守護騎士団団長。そう、ヒラの騎士ではなく団長なのだ。ここで並外れているし、《勇者》の教育を任される男が並大抵であるはずがない。潜在能力的には魔王に匹敵すると言われる《勇者》であるが、レベル1ならステータスもまず負けているし、一日前まで戦闘とは無縁だった俺達と騎士団長を勤めるアンドリューでは戦闘経験も負けている。
まず勝ち目がない。
「心配するな、別に勝てと言っているわけではない。お前達が現在、どれ程この世界で通用するかを教えてやるだけだ」
さぁ、最初は誰からにする? と言って腰に差している剣とは別の、俺達が訓練に使うような木剣を構える。そんな姿に当然ながら誰もが躊躇する。当然だ、自分が負けると分かっていながら挑める輩はまずいない。勝てる可能性があるからこそ、人は何事にも挑戦するわけで。
「俺がいきます」
俺がアンドリューにはっきり見えるように挙手をする。
最初は陸堂か桐生先生が立候補してくるのではないかと思って冷や冷やしたが、そんなことはなかったようで安心する。
「宵坂湊だな、いいぞ。どこからでもかかってこい」
アンドリューは俺が座った状態から立ち上がるまで待ち、木剣を構えた。
そこに俺は言う。
「アンドリューさん。出来れば真剣でお相手願えませんか」
「何…………⁉」
クラスメイトから驚愕に混じって嘲笑する気配を感じた。
自らハンディキャップを放棄して馬鹿じゃねぇのか、なんて奴等は思っているんだろうな。もしくはあんな弱そうな《聖魔》を一体しか召喚できなかったくせに調子に乗るんじゃねぇ、だろうか。
「何故か、問うてもいいか」
何故か、そんな言葉が出てくる時点で馬鹿馬鹿しい。
俺の背中を見て笑っているクラスメイトも、真剣で戦えと言ってそれに躊躇うアンドリューも。
「決まっているではないですか。加減されて勝っても嬉しくないからですよ。それとも貴方は俺に敗けた際に『真剣ではなかったから』と言い訳されるおつもりで?」
「…………! くく、ふはははは! そうだ、確かにそうだな。やるのならば真剣勝負、手加減は何事においてもつまらない。良いぞ、宵坂湊。俺も本気でお相手しよう。少し待ってくれ、お前の分の真剣も用意させる」
「ありがとうございます」
俺はアンドリューに頭を下げる。
激情する可能性も考慮にいれていた――というより激情して当たり前の状況だというのに寛容なおっさんだな、あの人は。あろうことか、俺はお前に勝ってみせると宣言してやったのに。
「…………身の程知らずが」
「《聖魔》を一体しか召喚できなかったくせに…………陸堂君ならともかく、あいつ何様のつもり?」
そんな声が俺の背後から聞こえてくる。
全く、身の程なんか知って一体何が楽しいのか。大物食いこそが本懐だろうに、分相応で生きたところでつまらないだろ。それに現在で俺がどれだけ戦えるのかも知っておきたかったしな。
「すまないな、待たせて。これがお前の分だ」
アンドリューが俺に彼の腰に指してあるようなブロードソードを俺に手渡してきた。木剣とは異なるずっしりとした重みが俺の手に伝わってくる。
「よし。それじゃあやろうか」
「よろしくお願いします」
こうして俺とアンドリューの真剣勝負の火蓋が切られた。
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