ちなみに12時投稿にしようとして失敗しました 恥
ラピス砦の周囲は魔力地雷や毒物の散布などの影響もあって、草木の生えない不毛の地となっている。
故にその視界を遮るようなものは無く、我が愛おしき主の勇ましいお姿も……目を背けたくなるような惨状も目に入ってしまう。
「ミナト様……!」
巨人族の中でも極めて大きな部類に入るだろう、体長五十メートルを超える怪物。
その咆哮を受けたミナト様のお身体は、両腕が欠損。纏う衣服は炎に包まれて消え失せ、全身に大火傷を負ってしまっている。極めてステータスが高く、《特殊技術》が充実しているからこそ辛うじて御存命ではあるが……それでも形勢としては圧倒的に不利と言わざるを得なかった。
「よもやここまで強力な《
《異端種》
それは『異端』の言葉の通り、これまで確認されてきた種には決して備わっていなかった特徴を獲得した魔獣である。
その種が住まう環境には何の変化がないにも関わらず、異常な進化を遂げたそれは例外なく既存種よりも強力であり、その中でも突出した個体は《魔王》に匹敵する脅威であるという。
彼が戦う巨人は、紛れもなくその『突出した個体』。その事実にクリストフ隊長が歯噛みする。
「……なるほど、極めて厄介だな」
伯爵が吐き捨てるのは《鑑定》によって、異端種のステータスを覗き見る事が叶ったからであろう。あの巨人が何故『異端』であるのか。その理由を彼は知り得たのだ。
曰く、奴は基礎代謝によって生み出される熱量が通常種の三十倍ほどまで膨れ上がった個体であり、それに耐えうるだけの強靭な肉体を備え、その上で体内で生産された熱を自在に放出できるという。
「……討伐は叶いますか?」
「情けない事を言うがね。アイズ女史」
伯爵は苦笑し、
「ヨイザカ君が勝てなければ、我々の。ひいては王国の負けだ」
その絶望的な状況を端的に言い表したのだった。
目下の課題は、二つある。
まず奴が纏う炎熱の鎧のせいで、俺は迂闊にバーンに近づけないという事。
あの熱波をまともな防御もせずに受け止めてしまった結果が、両腕欠損、全身火傷という有様。仮に《不死》がなければ、《
奴の代謝熱自体は魔法や《特殊技術》でもない、ただの身体活動の産物。
それが《特殊技術》《放熱》の存在に依って、熟練の炎魔法使いが放つ術を遥かに上回る威力と範囲を備えた必殺技へと早変わり。全く、《勇者》のそれに勝るとも劣らない
そして二つ目は俺に許された魔法《水魔法》が現状、奴には通じないという点だ。
俺がティアマトとの契約によって獲得した《神魔術法・水》は、《水魔法》の極致。あらゆる耐性《特殊技術》を貫通してダメージを与えられるそれだが、あくまでも『水』という物質を魔力から変換、操るものである。
圧倒的な熱による蒸発には逆らうことが出来ず、その結果が先の《廻龍刃》だ。
つまりまとめると、俺がバーンに苦戦するのは『まともに攻撃できないから』であり、逆説的に言えば攻撃が届きさえすれば奴を討滅することが可能ということだ。
「《龍鱗》」
魔法による攻撃が殆ど無力化されている以上、俺はバーンを相手に近接戦を挑むほかにない。
その対策こそが、氷雪の鎧《龍燐》。
系統としては闇をその身に纏い、攻撃力・防御力を向上させる《闇纏武装》に類似する。
だが、この魔法の目的は防御よりも奴の代謝熱の相殺に主眼が置かれたもの。バーンが周囲を熱くするなら、俺は周囲を冷たくして活動できるようにする。
辿り着く
されどそこに至るまでの過程が真逆の絶対零度の甲冑を身に纏う。
赤褐色の大地に霜が降り、白が徐々に赤を塗りつぶしていく。それはまるで今の俺とバーンを暗示しているようで。
(追加で魔力障壁も展開して、熱のシャットアウトはできた。それ以外の攻撃は全て《未来視》によって回避し、なんとしてでも有効打を叩きこむ!)
「GAAAAAAAAAAAAA‼‼」
《未来視》の魔眼は的確に俺の敗北の映像を映し出してくれる。
天を飛翔せんとした俺を叩き落とす熱波の息吹。そこに叩きこまれる、隕石を思わせる右拳。それらがモノクロに流れ、『あり得たかもしれない未来』として俺に忠告してくれた。
まず初手で俺に手痛い傷を負わせてくれた咆哮の致命域から左に横っ飛びに跳ね、そして龍の膂力で以て全力疾走して逃れる。
熱放射を完全に速度で振り切った後、俺はバーンの背後から奴の必殺の領域──奴が纏う炎熱の鎧の勢力圏へと踏み込んだ。
ただ身に纏うだけであらゆる生命を滅ぼす巨人の熱の守り。
ただ呼吸するだけで敵対者の鼻腔を、気管を焼く攻防一体の具足に対抗するは、全存在を凍てつかせ停止させる白龍の神威。
白き加護を得た俺の身体は先の様に大火傷を負う事はなかった。とはいえ障壁を展開した上で《龍鱗》を溶かすのは流石としか言いようがないが。それでも補修が間に合わないほどではない。
──バーンが如何に通常の巨人達とは隔絶した特性を有した存在且つ、埒外の巨体であるとはいえ基本的な構造は人間のそれと変わらない。それはこれまで討伐してきた巨人達から明らかになったこと。
狙いを定めるのは脚。それも向こう脛と呼ばれる場所。 そこが何故『弁慶の泣き所』と言われているかといえば、ここは他の骨の様に筋肉や脂肪によって守られておらず、痛みがダイレクトに伝わることが挙げられる。
守りが薄く、そして俺達と同じように直立二足歩行での活動を前提としている身体構造を持つ生物は……足を潰せば、その機動力が格段に落ちるのが道理というもの。
ならば狙わない理由なんてないだろう?
「オラァッッ!!」
俺は大地を深く踏みしめ、魔力放出も加え、全身を使った飛び蹴りを見舞う。
あまりにも無茶な攻撃だと自覚はしているが、これぐらいのリスクを冒さなければ俺とバーンの体格差では有効打にならないのだ。
ステータス上では互いにぶっ飛んだ数値をしているだろう物理攻撃。しかしそこに質量差が加われば、破壊できる範囲と攻撃に込められるエネルギー量は天と地ほどの差になる。
こっちは全身を使った攻撃でなければそもそもダメージにならない、あちらはただのデコピンでも当たれば俺に致命の一撃を与えられる。全く以て理不尽な話だ。
しかもあちらさんは……ただ足を上げるだけで回避ができるのだからふざけているとしか言いようがない。
こちらは攻撃の風圧だけで致命傷を負うには充分だっていうのに。
俺の脛を狙った攻撃を避けてみせたバーンは、そのままの勢いで激しく大地を踏みしめようとする。
あわよくば俺を踏みつぶせる。そうでなくとも放った熱風によって俺を引き離せる。
バーンにとって俺は羽虫も同然。しかも虫よけスプレーさながらに全身から熱を放っているというのに、それを無視して血を流させてやるとまとわりつくのだから鬱陶しくて仕方がないだろう。
あぁ、気持ちはよくわかるよ。だが……それは流石に雑なんじゃないか?
「ッッ!?!?」
バーンが右足を大地に叩きつけた瞬間、奴の体勢が大きく崩れる。奴の足元で地面が爆ぜる。白い煙が吹き上がり、轟音と熱波、衝撃が俺達の身体を叩き付けた。
あぁ、『何故?』って言いたいんだよな。先程までは地面を踏み締めたところでなんともなかったはずなのに、と。
流石にそれは俺を侮りすぎだ。
俺は世界最強の魔法使い、ニュクスの一番弟子なんだぜ?
──先も言ったように俺が《水魔法》を攻撃に用いていないのは、バーンに魔法を撃っても水が蒸発させられて無効化されてしまうためだ。
決して魔法そのものを使えなくなったわけではない。
ならばバーン以外には使うさ。俺が《龍鱗》を常に身に纏っているように。あるいは今回の様に、バーンが立つ地面を対象にとったりな?
俺がやったことは単純だ。
《水》でバーンが立つ地面、その地中をめちゃくちゃにかき混ぜてやったのよ。
『巨人三国』の道中からずっと、圧倒的質量がもたらす戦闘での優位を言い続けてきたが、この質量最強論に弱点がないわけではない。
その一つがこれ。自身の体重を支える土台が堅牢でなければ、身体を支えられない点だ。
これまで俺達は『巨人三国』の広大且つ盤石な大地の上で魔法をぶっ放したり、蹴ったり、殴ったり、散々暴れてきたさ。そんな俺達の無茶を支えてくれていた地面。
見てくれは同じでも、その地中だけが水分を多く含んだ泥状に変化していたら?
勿論、足場の土質が変化していればバーンは気づいただろう。けれどその辺りは当然抜かりない。
俺は地中を水でかき回す間、魔力で大地の強度を補いバーンの体重を支え続けた。
とはいえ、推定体重何十トンもあるバーンの身体は、支えるだけで精いっぱい。ましてや思いっきり踏み抜かれでもしたら、魔力による強化は容易く砕かれ……奴は泥に思いっきり足を突っ込み、ド派手に転倒ってわけよ。
とはいえ並の水量では先の白煙をあげる爆発──水蒸気爆発によって水は気化してしまうのが道理。
巨人族の種族的特徴とて魔法防御力よりも物理防御力の方が高い傾向にあるため、爆発によるダメージには然程期待していなかった(奴の代謝熱と同様に、水魔法によって生成した水と高温の物体が接触することによって発生する水蒸気爆発は、『物理現象』であるため物理防御力によって軽減される)。
だからといってほんの少し皮を擦り剥きしました、程度の傷しか負っていないのはどうなんだ、とは思うが。 だが地面であれば奴ほどの理不尽な耐久性は備えておらず、水蒸気爆発によって十分な穴を開けられる。
その点、俺の体重はサイズ相応の細マッチョ。所詮は六十キロ後半程度。多少地面の強度が柔くなっていようと、爆発で吹き飛ばされようと適切な守りさえ敷いておけば問題なく着地も移動もできる。
奴の想定しない『爆発』という攻撃によって大地を砕き。
そして俺が奴の纏う熱が水分を蒸発させるよりも速く、足元に水と氷を生成し続けることで、大地を泥状に変化させ不安定にさせる。
これがバーン転倒ショーのあらましだ。
とはいえ、まだフィナーレには少しばかり遠い。
形作るは宵坂湊が生成可能な、最大強度を誇る魔力の騎士槍。
《未来視》によって丁度首の辺りに刺さるように作れば、バーンは自ら己の急所を差し出す形で転倒する。
堪えようとしても無駄だ。バーンの全力の踏み締めは、奴自身にすら止められないほどの威力を持っていた上……、
「《
当然俺が妨害するからだ。
黒と蒼が混ざり合った質量を持った光──ただ魔力を束にして放つだけのレーザービームがバーンの肘関節に命中。それはさながら膝カックンの様に、強制的に肘を折りたたませ……俺の目論見通りに魔力槍は奴の首を大きく貫いた。
「くっ……!」
バーンの身体が俯せに大地に倒れ伏す。
ただそれだけで比喩表現ではなく大地は激しく揺れ、轟音と爆風が俺の身体を全力で殴りつける。それはバーンが最期に命を燃やして俺を葬り去らんとしたのかもしれない。
『まだよ』
「わかってるッ!」
……なんて思えたら、どれほど良かったか。
首を山と形容すべき巨大な槍で貫かれようと、そこから溢れ出た赤が赤褐色を上書きしていようとも、俺の脳裏には戦闘終了のアナウンスが流れてこない。
つまりバーンは未だ健在。
跳躍し、そのまま《飛翔》
バーンの上部にまで仮初の翼で飛び上がれば、
「《
奴の喉笛を貫いた槍と同じ要領で、魔力の剣を形成。
バーンの肉体に向けて一斉掃射。
レイピアをモチーフに作成した二振りは奴の双眸を瞼越しに貫いた。やや小ぶりな直剣は腹部の右上……人間で言えば大体肝臓がある場所に突き刺さり、俺の渾身の一振り──刃渡り二十メートルにも及ぶ大剣の刃は胸部を貫通。心臓や肺といった気管に少なくない損傷を与えただろう。
その上で、
「爆ぜろッ‼」
《魔力剣刃》に込めた術式、《
奴の体内に突き刺さった刀身がそのまま巨大な爆弾となって、バーンの頭蓋、腹部、心臓を破砕した。
夜色の閃光。次いで轟音。
それは俺の全身全霊を込めた魔力爆弾だった。
その威力は、ラピス砦の防衛に用いられているそれの──あくまでも目算だが──のおよそ30倍は下らない。それを体内に直接プレゼントしてやったのだ。
身体の中でダイナマイトが四本爆発して生きていられる人間なんていない。ましてやそれが、人体の主要機関全てを攻撃しているのだ。
あぁ、これでようやく終わった──。
瞬間、俺は己の死を見た。
モノクロで過ぎていくその景色の中で、俺は爆発に巻き込まれ肉片を一切残さず消し飛んでいた。
抵抗すら出来なかった。ただ圧倒的な暴力に圧し潰され、流される様を見せられた。そしてそれは、今すぐに退避行動を取らなければ現実のものになるという確信があって。
「~~~~~~~~~~~~~~~ッッッッ!?」
俺は遮二無二に逃げた。体裁を取り繕うこともできない、格好つけようだなんてもってのほか。
正真正銘、全力で、空を切り裂いてバーンの身体から離れた。
その刹那、バーンの肉体が一際強い光を放って──爆発。
「ぐっ! うおぉッ!?」
俺の全力の《飛翔》でも完全に爆風からは逃れられなかった。
バーンのその身をそのまま爆弾にしたのだろう、圧倒的な威力を持つ熱風に《飛翔》の制御が乱れ、地面に落ちる。ダンブルウィードよろしく転がりながら、俺はようやく魔力による壁の構築に成功。爆風が収まるのを待った。
……その爆発は煙や塵を巻き込みながらキノコのような形の雲を形作った。
それは到底、一個人が発生させていい現象ではない。巨大な火山が怒髪天を衝いて、ようやく生み出される代物である筈だった。
けれどキノコ雲の下。炎熱どころではなく、火炎を身に纏ったその巨躯が身体を起こす。あれこそがこの惨劇を生み出した原因。単身にて国家を滅ぼす事が出来る、意志を持った天災。
……俺は最初、あの爆発はバーンの死なば諸共の、自死を前提とした攻撃だと思ったんだ。
何故なら、アイツが保有している《特殊技術》その中にあった防御系統の物は『耐性』止まり。
如何に自分の意志を持って発動した攻撃であったとしても、あれほどの威力を発揮させようと思ったのなら肉体が耐えられるわけがない。
いや、そもそもの話をすれば、だ。
俺はアイツの頭蓋を内側から爆破した。眼球は欠片として残っていないだろう。
一部とはいえ脳を破壊した。喉仏を貫いた。心臓を突いた。肺には裂傷が走り、腹部に空いた穴からは腸がソーセージさながらにまろび出ている。
その上、アイツは自分自身の身体を爆弾にしたんだぞ?
なのにっ……!
「なんっで生きてんだテメェは! 死んどけよ! 生物としてさぁ‼‼」
「ゆ゛う゛じゃあああああッッッッ‼‼‼」
《勇者》と怨嗟の炎を燃やして吼えるバーンに、こちらも負けないくらいの怒りを込めて吠え返す。
……あぁ、わかってるよ。
コイツは俺やティアマトの様に不死性を有しているわけではない。それどころか、『自己再生系』の《特殊技術》すら持っていない。現に俺がアイツに与えた致命傷に、治癒の兆候は見られていないからな。
なら、理由はひとつだ。
俺が数多与えた致命傷も、最期の一撃とばかりにバーンがその身を犠牲にした自爆攻撃も、奴はその並外れた生命力で耐えきったということ。
奴が今なお生きていられているのは、《特殊技術》や魔法ですらない、ただの頑健さが故ということ。
本当にふざけた話だが……それでも、これまで俺が叩き込んだ攻撃の全ては無駄になってなどいない。
加えて奴のあの全身燃焼は、明らかに奴の身体の限界値を超えた攻守両立の策。そう遠くないうちに奴は自分自身の炎に焼かれて息絶えるだろう。
問題は……。
「その『そう遠くないうち』の間に、どれだけの被害が出るかだな……!」
戦いは短期決戦へ。
心身を文字通り焼き尽くしながら、その熱風と剛腕、そして業火を振るう異端種。
対するミナト様は全身から深海色の魔力を滾らせながら空を舞い、必殺の連打を掻い潜っていく。
そしてここラピス砦に控える兵士達は、
「速やかに魔力地雷を設置し直せ! 土壁による防護も整えろ!」
「いいか! 異端種はヨイザカ様が引き受けて下さる! その代わり他の巨人は絶対に通すな! 《勇者》様の初陣に泥を塗るような真似は断じて許さんぞ!」
クリストフ様の指揮の元、再度防御態勢を整えていた。
というのも、異端種がミナト様を殺めんとした自爆攻撃。
その余波があまりに強力であったため、本来は巨人が踏み締めなければ発動しない筈の魔力地雷が一斉に爆破。
加えて爆風によって巨人達の侵攻を防ぐため、そして『カステール』を守るための防壁として用いていた土の壁が一つ残らず消し飛んでしまったのだ。
幸いにも砦そのもの、そして私達にこそ被害はなかったが……ただの余波でこの有様。それを私達よりも遥かに近くで受けた筈のミナト様に外傷が見られないのは……流石は私の主であると感服するほかにないのだが。
「どうしてミナト様はあれほど魔力を誇示して……?」
ミナト様は魔力を隠す術にも長けたお方だ。
彼の魔力の運用については──私からしてみればという枕詞が付くが──熟練の域にある。そのような彼があれほど魔力を猛らせる様というのは、先の致命の攻撃を異端種に仕掛けた時くらいのものだ。
率先して攻撃を仕掛けず、ただ異端種の攻撃をやりすごす事に注力されている今はそぐわないような……。
「自身の失策を補うためだよ」
稚拙な出来ではあるが『カステール』が展開する障壁の更に上から、防御用の障壁を展開する私の隣に立ったのは伯爵だ。
彼は砦の周囲に自身の魔法で以て雪雲を発生させ、周囲の気温を低下させながら魔法、そして戦闘に疎い私に対して講義をしてくれる。
「いや、正確に言えば判断が裏目に出た、というべきかな」
「と言いますと……?」
「彼の魔力で形作った槍、《魔力剣刃》《爆発》の複合攻撃は異端種を確実に殺める前提で振るわれたものだ。その過程で彼は、脳を破壊するために刃を眼球に突き刺し視界を奪っている。奴の脳を破壊せんとした場合、真正面から頭蓋骨を突破するのは困難極まりないため、極めて合理的な手だが……奴の生命力が我々の想定を遥かに上回っていた」
人体の急所を三カ所、取り返しがつかないほどに破壊され、その上で生き残り攻撃を仕掛けてくる。そんな生物を想定しろというのが無理があろう。
現に砦にて彼らの戦いを見守る全ての者は、ミナト様の勝利を微塵も疑わなかったのだから。
「今の奴は、ヨイザカ君に対する憎悪だけで生命を維持しているような有様。もはや彼以外眼中にないのだろうが……そんな中、ヨイザカ君の気配を感じ取れなくなれば、一体どうなると思う?」
「……! 無差別に暴れまわるしかない……?」
「その通りだ。そうなれば砦に攻撃が向く可能性があり、それに『カステール』の魔力障壁は、そして我々は到底耐えられない。その可能性を、彼は己の身体と命を使って断っているのだ」
魔力を運用できない人間は周囲の知覚に視覚を八割ほど用いているとされている。
ミナト様は異端種を撃滅するために、この知覚手段の大半を潰してしまった。彼は意図せず、あの暴力の具現から『指向性』を奪い去ってしまったのだ。
それはラピス砦の防衛の任を負うミナト様にとってはあまりにも都合が悪い。
ご自身は奴の熱波や炎に凌ぐことが可能だが、砦に控える我々はとってはそうではないから。仮に何かの偶然で砦に異端種の暴威が向けられてしまえば、その瞬間に彼は大公、ひいては王国からの依頼を達成できなくなる。
故に、彼は魔力を滾らせ炎の巨人に声高に吼える。
俺はここにいるぞ、と。お前の敵はこの俺だ、と。
『ゆ゛う゛じゃ゛あ゛あ゛ぁああああ‼‼‼』
異端種が怨嗟を吼え、炎を束ねて熱線を放つ。
それは人間のスケールにあてはめるのなら、対軍……否、対国家級の儀式魔法に比肩する範囲と威力。ただ一撃放たれればそれだけで国が滅ぶほどの一撃をミナト様は、更なる上空への移動によって凌ぐ。
その空中機動は飛行を可能とする魔獣のそれに比肩する。否、それを上回る程の的確さと速度を持つ。
縦横無尽に空を裂いて、されど砦にはその熱線を向けないように細心の注意を払って、彼は空を舞う。
彼から攻撃は仕掛けない。
いいえ、仕掛けられないと言った方がきっと正しいのでしょう。
全身を炎で覆ってしまった異端種には、いくら純白の鎧を纏っていようとも近づけない。
かといってあの巨躯に有効打になる程の魔法を放とうとすれば、あの熱線や腕に捉えられ終い。
手を拱いていると判断される方もいらっしゃるのかもしれない。けれど私は、ミナト様は今勝利のために最善を尽くしていると断言できる。
所詮は戦いの素人に過ぎない私は、そう考えていた。
あまりにも侮っていたのだ。
異端種ではなく、《勇者》たるミナト様の実力を。
──バーンと戦う中で、ひとつの違和感があった。
バーンの出血が止まっていない。全身を炎で包みながらその殺意を俺に向けてくる中で、その血は不思議な事に蒸発するどころか炎を纏って大地を赤く染め上げているのだ。
当然のことながら、全身から人体を即座に灰に出来るほどの熱波を放ちつつ、体液を保全する事など──魔法による不思議パワーなら話は別だが──不可能だ。
熱を放つと同時、敵と一緒に体液も瞬時に蒸発させてしまってゲームセットとなるのが自然。けれどそうなっていないのは、奴が《炎属性耐性》を獲得しているためだ。
炎、ひいては熱による耐性を獲得する《特殊技術》によって体液の沸点を大幅に上昇させることで、奴は命を保つことが出来ている。
……あまりに当然の事だから思考から抜け落ちていたが、奴は肉体を持ち、体内に液体を──即ち水を保有している。通常の人間に照らし合わせるのなら、大体質量の五割から六割程が水分によって構成されている筈だ。
ここで俺は考えた。
これ、《水魔法》でなんとかできるんじゃないか? と。
《水魔法》が可能とすることは魔力を水に変換し、操る事であると先に述べたがこれはあくまでも主たる用法。
もうひとつ。周囲の水に魔力を浸透させ、操るものがある。
これは専ら雨が降っていたり、あるいは湖といった大規模な水が存在する時に用いる方法なのだが……あるじゃねぇか。滅茶苦茶デカくて暴れてる水たまりが。
幸いな事に、今なおバーンの体内には先の爆破によって砕けた《魔力剣刃》の破片がある。
それを触媒として奴の身体に俺の魔力を浸透させ、体内の水分を掌握する策を密かに進めていたのだ。
俺自身は魔力を激しく燃え上がらせ、進める作業は決して悟られぬよう細心の注意を払って行う。
さながらブレイクダンスを踊りながら茶道をするが如し──比喩表現のため実現不可能だろというツッコミはご容赦いただきたい──だったが、《超高速演算》もあってなんとかこの無理難題を実現することが出来た。
「GAッッ!?!?」
怒りで思考が染まっていたバーンも、自身の身体に生じている以上に気付いたらしい。
なんとかしてこの異常を解決せんと魔力を滾らせるが……。
「無駄だよ、バーン。確かに物理攻撃や防御力では、俺は逆立ちしたってお前に勝てないが……魔法に関してはお前に絶対に負けない。毎日毎日、世界最高の師匠に鍛えられたからな」
その全てを退ける。
世界最強の水魔法使いの力を、世界最優の魔法使いの弟子が扱うのだ。
魔法を扱えもしない奴に、自分の土俵で負けるんじゃ恥晒しもいいところだ。ニュクスの顔に泥を塗るような失態を、俺は決して看過できない。
「ゆ゛う゛じゃあぁああああッッ!!!」
「《命脈簒奪》」
生命が例外なく保有する、『水』という生命維持に不可欠な物質。
その全てを俺は奪い去る。
眼窩から、胸元、腹に空いた穴から炎上する水が重力に逆らって球状になって俺の横に集まっていく。
自分の命が、これまでとは比較にならないほどの速さで吸い出される事実に、バーンは必死になって傷口を抑え、あるいは奪われんとする命に手を伸ばす。
だが、無駄なのだ。
奴の体内に存在する水、その全ての保有者はバーンではなく俺であると魔法によって上書きしたのだから。
「強かったよ、本当に」
俺の心を埋め尽くすのは、心からの称賛。
俺のこれまでの戦いは、圧倒的な蹂躙かあるいは手心を加えられているか、もしくは互いの修練の結果を発揮する模擬戦のいずれかであった。
俺とバーン、双方が互いに死力を振り絞った。
己に許された武と魔、そして策略その全霊をぶつけあった死闘であった。
俺が、俺自身の力で初めて掴み取った、真の意味での格上への勝利。
その充実を拳と共に握りしめ、
「ありがとう。お前の事を、俺は絶対に忘れない」
「────」
目の前の強敵に、心からの感謝を。
お前のおかげで、俺は更に強くなれた。
『戦闘終了を確認。巨人族、個体名称:バーンに勝利。
経験値の取得を確認。宵坂湊のレベルが80から84にまで上昇。
体力、魔力の全回復を確認。
体力ステータス値が404上昇。
物攻ステータス値が508上昇。
物防ステータス値が321上昇。
魔攻ステータス値が774上昇。
魔防ステータス値が334上昇。
敏捷ステータス値が723上昇。
《特殊技術》:《鑑定Lv.6》が《鑑定Lv.7》へ上昇。
《特殊技術》:《集中Lv.9》が《集中Lv.10》へ上昇。
《特殊技術》:《ゾーン潜行Lv.1》を獲得。《集中Lv.10》の統合を確認。
《特殊技術》:《激痛耐性Lv.7》が《激痛耐性Lv.8》へ上昇。
称号:《巨人殺し》の取得を確認』
水魔法がもたらす大半の事象とは対極的な、渇きによる死をを受けたバーン。筋骨隆々の益荒男の体躯は見る影もなく痩せ細り、大地に崩れ落ちた。
そこに当然ながら命の気配はない。身体を擬似的なミイラにされてもなお生きていられるような機能を、流石の彼の身体も備えていなかった。
「はぁ……っ」
大きく息を吐く。
全く、初陣からとんでもない難敵に見えたものだ。
『巨人三国』は魔王のお膝元であるという事実を、この身をもって体感させられた。
そして何よりも。
「バーンより強いだろうバケモノが、少なくとも三体いるんだろ? イカレてるな……」
三体の魔王が三国志の真似事をしてくれていて助かった。出来る事なら一生、巨人達には自分達の国に引きこもって同士討ちに励んでいてほしいものだ。
『考え事は後にしなさい。凱旋までが戦いよ』
ティアマトの言葉に頷く。
……バーンとの死闘は確かに俺に得難い体験をもたらしてくれた。けれど、願わくば。
今度はもう少し楽な戦いになってほしい。そうでなければ、いくら命がいくつあっても足りない。
投稿時間についてのアンケート※一週間程度を目安に〆
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0時(今まで通り)
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6時
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12時
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18時