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「……ミナト。少し貴方に許可をいただきたいことがあるのですが」
「ん~?」
ニュクスの太腿に頭を預けながら、彼女の顔を見上げる。……といっても、その視線は彼女の世界最高峰級の爆乳に遮られてしまったのだけど。
しかし、わざわざ彼女が何かをするにあたって俺に許しを取るなんて珍しい。
彼女は基本的に俺を立ててくれるし、めいいっぱい俺を甘やかしてくれるが……戦いの事に限ってはそうではない。なんならティアマトよりも鬼畜だと思える所業をたくさん俺に課してきた。今度は一体何をしでかしてくれるのだ、という不安は拭えない。
「今日、夜分に単独行動をしたいのです。時間としては一時間ほど」
「それは別に良いけど……何するんだ?」
……まさか『巨人三国』の《魔王》は彼女の生前の知り合いだから、俺の修練の為に砦に攻めてくるよう頼むとかではないだろうな?
それは流石に断固として拒否するぞ。いくら彼女でもやっていいことと悪いことがある、と言おうとした時、彼女が苦笑した気配がした。
「怖い事ではありませんし、痛い思いもさせません。純粋に、貴方の役に立つ事です。ですから安心してください」
「そこまでいうなら……で、結局何するんだ?」
「ミナト、良い女は秘密で身体を飾りつけるものですよ?」
あ、結局内緒のまま終わるパターンだ、これ。
「──面を上げなさい。使用人」
闇の中に響く玲瓏な声。それは闇の中に差し込む光のように鮮烈に私の耳朶を打った。
そして同時、膨れ上がるのは身体を押し潰さんとする圧力。それは物理的な力ではない。
ミナト様がラピス砦に常駐なさる兵士の皆様に『挨拶』を行った際に放たれた、ただの威圧。だが、その大きさは……彼のそれのおよそ数倍か。
ニ十センチほどの大きさしかない幼子がもたらしたそれとは考えられないモノ。しかし彼女があの現代最強の《勇者》ミナト・ヨイザカの《聖魔》であるならば、自明の理とも言えよう。
この世界に来て三日も経たずして行われた実戦形式の訓練にてアンドリュー騎士団長を下し。そして今では《魔王》に次ぐ脅威とみなされる《異端種》を討伐せしめた理由。
彼の、強さの根源。
それこそが目の前の存在なのだ。
私に許されたことは、ただ彼女の前に膝を折りその玉音に耳を傾け、それに唯々諾々と従うことだけであった。
顔をあげる。
「結構。……しかし何をするにしても、このような姿では恰好がつきませんね」
《聖魔》様の身体が黒色の魔力に覆われる。
部屋を覆う闇よりもなお昏い、純粋な黒。その暗幕が取り払われた先にいたのは──女の私ですら息を呑むほどの、傾国の美女。
彼女の髪や瞳の色に変化はない。纏う装いもきっと変わってはいないのだろう。ただ、全身をすっぽりと覆っていたマントの下にある肢体が顕わになっていた。
私よりも、ミナト様と比較しても頭ひとつぶんは大きいだろう長身。
男性の欲望をそのまま具現化したような極めて大きな……それこそミハロヴィーナ大公のそれと比肩するだろう胸は水着のような装いが支えているのみ。
程よい肉付きの腹部は胸の大きさを考慮に入れれば十分引き締まっていると言えるほどに収まり、パレオのようなロングスカートのスリットから見えるすらりと伸びた脚は長く、されどその太腿はむっちりとしていて、枕にすれば極上の感触であることを視覚だけで理解させられる。
(あぁ、なるほど……)
そして同時に確信した。
我が主、ミナト様を男の子から立派な殿方へと成長させ、女の味を覚えさせたのは彼女だと。
歳相応の純朴な、真っ白の布のような彼の心を己の色へと染め上げて。自分の好みの男に仕上げたのは目の前の存在に違いない、と。
何故か、と問われれば決まっている。
私がミナト様の女だから。同じ殿方を心の底から愛しているのだから。
故にわかる。ただそれだけのことだ。
「改めまして。私がミナトの《聖魔》です。さて、四方山話に花を咲かせる間柄でも無し。単刀直入に、貴方を呼び出した件について話しましょうか」
そして、彼女が私に言うことも大方予想がついている。
「今の貴方は、ミナトに到底釣り合わない。貴方を傍に従えているだけで彼の格が落ちてしまいます」
彼女の言葉に悪意など全く含まれていなかった。
言うなれば彼女の言葉は豚を指差して「あれは豚だ」と言っているのと同じことだった。
単なる事実として。嫌がらせでも、害意もなく。お前はあの方の側にいるには不足が過ぎる、とそう仰ったのだ。
勿論、ショックではあった。けれど誰よりも納得しているのは私自身だった。
だってそうでしょう?
彼は誰に対しても敬意を払って接してくれる。言葉遣いこそ上流階級の出ではないため多少乱れることはあるが……それでも真の礼儀とは形を真似るものではなく、心を込めるモノ。その点、彼に不足はなかった。
単騎にて《魔王》に匹敵すると推測される怪物を、一切の犠牲無しで討ち果たすような存在が。どうしてただの使用人と釣り合いが取れようか。
彼女のような圧倒的な強さも持っていない。ミハロヴィーナ大公代理のような権力も、金銭もない。
唯一利用出来るであろう『女』としての価値も……。
「貴方が彼のためになるとお考えであろう性処理についても、私が行うのでご心配なく」
《聖魔》様の容貌を見てしまえば、とてもではないが自分が彼女よりも上回っているとは思えない。無論、女の身体の価値はステータスのように数値化されるものではないため、一概には言えないが。
それでも……。
(胸の大きさでは完敗ですからね)
ミナト様は大きい胸が大変お好きである以上、その点は極めて重要であると言える。……十中八九、元から大きいお胸がお好きだったところを、《聖魔》様と交わられたことでとどめを刺されたというべきだろうが。
彼女のせいで、彼が『女性』ではなく『女』として見る
「挙句の果てにその役目すら全うすることもできず、主に対する奉仕もできずに意識を失う奴隷に何の価値がありますか。『女』としても貴方は彼を十全に満たす役割を果たせない。……貴方はミナトの為に一体何が出来るので?」
《聖魔》様のお言葉に呻き声も、表情のひとつも変えずに耐えきったことを自画自賛したかった。
……自分が彼の前で晒した痴態を思い返してみろ。
徹底的に乳首を愛撫され、人の尊厳を保っているかも疑わしいオホ声と獣のような喘ぎ声をあげながら、彼に雌の穴を差し出して徹底的に犯していただいた。
それが彼の寵愛を受ける、ただの『女』であれば構わなかっただろう。だが、私は彼の性欲処理の任を仰せつかった『使用人』なのだ。
昨夜の自分が何か彼を愛撫しただろうか。手で彼の性器を扱いて差し上げることもしなかった。口で愛撫することもしなかった。挙句の果てには失神しながら潮を吹き、その後始末──身体を清めることも含めて、ミナト様に全てやらせてしまう始末。
彼の専属メイドという立場にありながらなんという醜態であろうか。
主の世話どころか己の後始末すら出来ない。《性奴隷》の分際で主に奉仕することもしない。単に性処理用の道具として扱うには耐久性に難ありと……欠点を並べればいくらでも並べられる。
この程度でよくもまぁ、己の男に手を出してくれたものだと彼女が立腹するのは当然の事だった。私だって逆の立場であれば苦言を呈していたであろう。
むしろこの程度で済ませてくれている《聖魔》様は酷くお優しいのだ。自分の男にまとわりつく雌など、力ずくで排除してしまえばいいのに、彼女は私と『対話』をしてくれているのだから。
「えぇ。……全く以てその通りです。言い訳のしようもございません」
「随分と聞き分けがよろしいようで。みっともなく喚き散らすものとばかり思っていましたが」
「己の不手際を認めない事には改善も出来ませんから。加えて併せて申しますと……貴方はただ私に嫌味を言うためだけに呼び出したのではない、と確信していますから」
「………………」
怪訝そうに眉を顰める《聖魔》様。その沈黙が『続けろ』と無言ながらに言ってきていたので、私は次いで言葉を紡いだ。
「貴方様は先程、『今の貴方は』ミナト様に釣り合わない、と私に仰いました。逆説的に言えば、将来の私は彼のお役に立てる余地があるということではないでしょうか」
これは希望的観測だ。
彼女の言い分はひとつ。
『ミナト様に何一つ恩恵をもたらす事の出来ない寄生虫風情が、一丁前に彼の横に並ぶな』
以上である。
決してミナト様と私が性交渉に及んだことを咎めているわけではない。
……内心は私の存在が邪魔で仕方ないだろうが。彼女が力で私を以て排除しようとしないのは、ミナト様のご意向を尊重しようとしてくださっているからだ。
ミナト様が私を傍に置いておくと決めた以上、《聖魔》様はそれに異を唱えることは出来ない。だが穀潰しを彼の隣に控えさせるのは、女としての矜持が断じて許さない。
──私が彼に貢献できることと言えば身の回りの世話と、彼のうちに蓄えられた精を受け止めるものだと思っていた。
しかし、彼は王国最強の《勇者》
吐き出された精を受け止める肉の穴にも相応の耐久性が求められ、これが今の私には致命的なまでに不足している。
そしてこの耐久性を向上させる方法とは何か。
レベルアップによるステータス上昇、及び《特殊技術》の獲得。これ以外にない。
だが、私はこれを叶える術を持ち合わせていなかった。
「……傲慢ですね。使用人風情が、彼の力になれるなどと思い上がるなんて」
絶対零度の視線が私の身体に突き刺さる。
事実として、私に戦いの才能はない。
《風魔法》が使えるといっても、それはあくまでも自分の思ったように風を吹かせる程度。嵐を起こせる馬鹿げた規模でもなければ、巨人達に有効打を与えられるような威力もない。
ミハロヴィーナ大公のような社会的立場も、金銭も持ち合わせていない。ならば差し出せるものは己の身体以外にないにも関わらず、その身体も至らぬ点が多く、彼の側には極上の女が控えている。
これでどうして私が彼の隣に控える余地があると思うのだろうか。
「仰る通りです。普通であれば貴方の言葉に膝を折り、彼の側から消えるのが道理でありましょう」
「ならば──」
「ですが」
無礼は承知の上で《聖魔》の言葉に言葉を重ねた。
「普通では駄目なら常軌を逸すればよいのです。正気の沙汰では至れぬのであれば、狂気に身を堕とせばよいのです」
皆が思い描くような道筋を歩んでいては、己の求めるものを掴み取ることはできない。ならば、道を外れ手を伸ばすのみである。
主に控える権利を。彼の情動を十全に受け止めるに足る器を。そして彼に蹂躙され、屈服し、己の生殺与奪の兼すら差し出すあの圧倒的な悦楽を得るためならば。
「私はどのようなことでも致します。ですから、何卒──」
《聖魔》様の眼前で平伏する。
言葉だけならばいくらでも言えよう。しかし私はその肝心な、この内に燃え滾る愛を力へと変じさせるための方法を知らなかった。
そして知らないのであれば、教えを請えばよい。誰もが知る、真理である。
「私に、ミナト様のお役に立つための方法をご教示くださいませ。何卒、よろしくお願い申し上げます」
私は眼前にて頭を垂れ蹲う使用人──確か名はアイズと言ったか──の姿を見て苦笑する。
それは断じて彼女に対する嘲笑ではない。それどころか、彼女に向けたものですらない。脳裏に想い描くは、あの可愛らしくも勇ましい伴侶の姿。
(ミナトも罪な男ですね……)
彼はおそらく彼女のこの狂気的な献身の片鱗すら感じ取ってはいないだろう。
それは彼女が自身の内に溶岩のように滾る愛欲を『主に奉仕する』という建前で覆い隠しているからであり。そして彼自身が己を過小評価する傾向にあるが故、自身に向けられる好意に非常に鈍感であるからであった。
ここまでの私はただの嫌味な姑(彼との関係は師弟兼、式こそ挙げてはいないが夫婦である。断じて夫婦なのである)のように映るため、ここで断言しておこう。
私は最初から、この使用人を彼の露払いとして鍛え上げるつもりでいた。
ただその前に己の内で澱の様に溜まっていた不満を、彼女に自らの立場を把握してもらうついでに吐き出しただけであって誇張は一切ない。
彼女が私やティアマトの下位互換に甘んじていることも、彼女がミナトの性処理用の道具としても扱えないことも、全ては事実。
その上で貴方は一体どうするつもりなのか、と問いただすだけの筈だった。
そしていざ掘り出して出てきたものは、ミナトの暴力的とも言える精力と、彼本来の自らの懐に入れた者の意志を尊重し、心優しく接する気質のギャップに狂わされた哀れな女。
彼女がミナトという底無し沼に飲み込まれる前に抱いていた忠義を尽くす心と、ミナトとのセックスによって身体と共に心も蹂躙されて屈服した心身が──あえてミナトが言いそうな言葉を用いるが──悪魔合体して生まれた愛欲の獣にして肉欲の奴隷。
──私はこの使用人に懐疑的だった。
ミナトが彼女と交わる前に言っていた、『自分とアイズの間には肉体を交らわせるに至るまでの関係性の構築がない』という言葉。あれは私のようなミナトに一目惚れしたケースを除けば、概ね事実である。
それがないにも関わらず肉体関係に至ろうとする女が求るのは、己の身体という代金を支払う事で相応の利益を得んとするケースが大半。
しかしミナトと結ばれる事、そして彼が生み出す莫大な利益を僅かでも獲得せんとするならば、女の身体ひとつでは到底釣り合いがとれない。故に私は彼が女を抱く際に条件を設け、その上で使用人を見極めんとした。本当に彼女が、ミナトの慈悲を賜るに値する女であるのかと。利を貪るだけ貪って、彼が不利に陥れば即座に男を鞍替えする売女なのではないか、と。
(杞憂もいいところでした)
ここにティアマトがいれば使用人の態度を面白がると同時に心底呆れていたであろう。彼女の語彙に合わせるのであれば『ドン引き』だったに違いない。私だってそうなのだ。
彼女がミナトを裏切るわけがない。
彼女はたった一晩の逢瀬で、ミナトなしでは到底生きていけないほどに躾けられていたのだから。
「はぁ……面を上げなさい。貴方の望み通り、彼に仕えるに足る力を授けてあげましょう」
「ッッ! あ、ありがとうございます‼‼」
全く、ここまで喜びを隠さないなんて。ミナトの前で見せる冷静な姿が見る影もない。きっとそれほどまでに不安で、必死だったのでしょうね。
こちらは彼女を害する気は欠片もなかったとはいえ、使用人からしてみれば気が気でなかったはずでしょうし。
「では、私はどのようなことをすれば……?」
「貴方が主に鍛えるべきは、魔力制御能力です」
私がミナトに課している鍛錬方法は──誠に遺憾なことにミナトからは懐疑的にみられているのだが──ミナトが持つ能力、その限界を見極めたものである。
私は人に合わせた鍛錬方法というものをきちんと提供できるのだ。現にミナトはあの炎熱の巨人を相手であっても、《闇魔法》を使わずに勝利を収められている。
その点、この使用人に課す鍛錬方法は彼よりも随分と優しくしてやらなくてはならない。
彼女には《聖魔契約》によるステータス・《特殊技術》の補正がない。故に《不死》や《超高速再生》を前提とした実戦形式鍛錬の反復など出来るはずもなし。
その点、即座に彼女を改善できる余地があるとするならば魔法において他にない。
幸いなことに彼女は魔法を使用するにあたって最初にして最大の難関、『才能』の壁を既に突破していた。
そこさえ達成してしまえばあとは簡単だ。魔法を成長させるやり方は反復練習と理論、そして自身に合う師と好敵手の存在によって乗り越えられる。
「貴方が憂慮しているであろう攻撃範囲、そして威力についての問題はそう遠くないうちに解決できます」
「……ミナト様に注いで頂いた魔力があるから、ですか」
「その通り」
私は使用人の胸元を杖で指し示す。
「貴方本来の魔力は、はっきり言って乏しい。此度のような魔法の運用法ならばともかく、正面から戦闘を行う基準には到達していません」
だが、彼女の《特殊技術》《性奴隷》の存在がその前提を覆す。
彼女の体内には精液から変換されたミナトの魔力が存在し、それが彼女の貧しい総魔力量と、そこから放たれるそよ風を大嵐へと変じさせる。
雑な理論ではあるが、大量の魔力を注ぎ込めば魔法の威力は上がるのだ。非効率極まりないが。
「加えて貴方はそう遠くない未来、《闇魔法》を使用できるようになります」
「《闇魔法》を……?」
あらゆる生物の魔力の属性適性は基本的に先天的に決定される。先に私が言った『才能の壁』はこの適性のことで、ここで『適性なし』とみなされれば魔法使いとしてのスタートラインに立つことすらできないというのが一般的だ。
しかしこれには二つほど例外が存在する。
一つは《聖魔契約》による《特殊技術》の完全共有化。
そしてもう一つは、
「貴方も知っていることだと思いますが」
「……《魔王》が放つ魔力による周辺環境や動植物への進化促進、でしょうか?」
「…………辛うじて及第点をあげましょう」
あの大貴族の女が、《強魔地帯》の説明をする場合においては正しいものだったが、この説明は正確なものではない。より定義を明確にするのであれば。
「『莫大且つ高純度の魔力を絶え間なく浴び続けたもの及び環境は、その魔力の影響を受け、適応する形で魔力性質が変容していく』が正しい説明になります」
その一帯の場所を指し示す言葉が《強魔地帯》
魔力の影響を受けた動植物を人間達は《強化種》、中でも突出した異常進化を遂げた個体を《異端種》と呼んでいる。
それこそ朝にミナトが戦った『バーン』が彼と交戦せず、力を蓄える事になったのなら『巨人三国』の一部の気温は人類が生存不可能なほどに高まっていただろう。
つまり周辺環境に影響を与えられるほど強大な魔力を保有している存在、という基準として《魔王》を定めているに過ぎない。
その本質が人類に仇為す魔であるか、人に希望をもたらす《勇者》であるかはどうでもいいのだ。
「貴方は現代最強の《勇者》宵坂湊の魔力を《特殊技術》によって貯め込んだ。それも自分が本来貯蔵できる魔力量の八倍にも及ぶ膨大な量を。故に貴方は……貴方の身体はミナトの魔力に染め上げられ、彼の魔力に極めて類似した性質へと変化している只中にある」
これは極めて異質な例である。
そもそも魔力とは『第二の血液』と称される程度には人体に重要な物質だ。
他人の物を外部から注ぎ込まれてもはい吸収できました、これで回復しました、とはならない。
むしろ逆、自分以外の魔力を吸収すれば極めて激しい拒絶反応を示す。
ミナト達《勇者》が《聖魔》と契約して後天的に魔法の才に目覚めることができるのは、『彼の世界に魔力が一切存在せず、あらゆる魔力性質を受け入れられるだけの余白があったため』であり、故に複数体の《聖魔》と契約し魔力が混ざり合おうとも受容できる。
『魔力』という物質を収める器自体が空だったから。
そして《勇者》という存在は……ミナトの知識で例えるならば、ドリンクバーであらゆる飲み物を混ぜても飲み干せることができる存在だから、耐えられる。
ブリステンの者達は《勇者》を『人型決戦兵器』という形で運用しているようだが、別の活用法などいくらでも思いつけて、そして悪用できる。
《勇者》の肉体は私の知る限り、最上級にして最大の汎用性を誇る魔法素材なのだ。
……少しばかり話が逸れたか。
「それは……珍しいことなのですか? 《強化種》達に起こった事象が私の身体にも起きているというだけなのでは」
「見当違いにも程があります」
自身の身体がどれほど『異質』なものであるのか、この女はまるで理解していない。
いいですか、と私は出来の悪い生徒に講義をしてやる。
「生物の進化はそう簡単に起こるものではありません。小さな変化であれば、数十年単位の時間をかければ一個人に起こることもあるでしょう。ですがそれが種として異なる程の変容を遂げるともなれば百年単位の時間を要します。……問題はその
彼女は自身の持つ《特殊技術》に由来する変化であると推測しているようだが、それは否だ。
《性奴隷》はあくまでも精を魔力に変換し、貯蔵する《特殊技術》それ以上でも以下でもない。
このアイズという使用人にはあったのだ。
単純な強さでも、影響力でも、金銭でもない。
この私やティアマトですら持っていない、極めて貴重な才覚が。
──他者に『染め上げられる才能』
彼女が主と認めた者に傅き、付き従い、一切の比喩なしで『主の奴隷』となる能力が。
それは決して《特殊技術》で再現できることのない、まさしく《異能》と呼ぶべき力である。
これに気付いたからこそ、私は彼女をミナトのハーレムに加えることを良しとした。
彼女を彼の愛妾として側に置いておくことは、間違いなく彼の力をひとつ上のステージへと昇華させられることに繋がる。
……あぁ、不快で仕方がない。
この女が何を考えているのか、私には手に取るようにしてわかる。
何故ならこの才能は、名実ともに宵坂湊の男のモノになれる力なのだから。
言葉だけならいくらでも『ミナトの女』『ミナトのもの』だと彼の周囲に寄ってくるメス共は言えるだろう。だが、この使用人がそれを言うとなると言葉の重みがまるで違う。
彼女は、ミナトのためだけに、ミナトの色に塗りつぶされ、ミナトに使われる事を目的に変容した人間版の《異端種》と呼ぶべき存在に成った。
比喩表現でも、意志表明でもなく、ただの事実。
この優位性は今後どれほどミナトが女を手籠めにして篭絡させようと、決して揺らがないだろう。
ある意味この女は、私よりも希少な権能で以て彼が築くハーレム内での立場を確立したのだ。これを腹立たしく思えずにいられようか。
……しかし、私の駄々で本来彼が得られる筈だった強さを失う事になるのは決して看過できない。
彼の師として、そして妻として。ミナトの価値を貶めることはできなかった。
「そしてここで最初の『貴方は何をするべきか』という話に戻ってきます。結論として、貴方の主な運用法はミナトの外部魔力貯蔵槽です」
仕組みとしてはミナトの世界にあった銀行のシステムに近い。
平時にミナトとこの女が性行為を行う事で使用人の体内にミナト由来の魔力を貯蔵。必要に迫られた際に魔力を引き出せるようにしておく。
問題があるとするなら……。
「おそらくミナトから魔力を引き出せることは出来ない事でしょうね。貴方の魔力はミナトのそれに極めて近しいというだけで、決して同一ではない。今回のような特異な例を除いて他者の魔力に干渉することは不可能である以上、貴方がミナトに対して魔力を受け渡す技術を習得する必要があるでしょう」
他者に魔力を受け渡す──正確に言えば注ぎ込むことは可能だ。
私がミナトの《聖魔》となる以前、とある《魔王》との戦いでその技術を用いて勝利している。上で言ったように魔力は血液に例えられる。適合しない魔力は猛毒だが、彼女の魔力なら問題にはなるまい。
その技術を可能とするために必要なのは、
「故に魔力制御技術を鍛えろと……」
「最初は肉体的接触を通じて。最終的には彼に触れずとも魔力を受け渡せるようになる事が目標です。それと並行して貴方のレベルアップも進めます。貴方の現状はとてもではありませんが、器としても成立しているとは言い難い。早急に耐久性を担保してもらう必要があります」
《性奴隷》による超過魔力の貯蔵に限界があるのかは不明だが、貯蔵槽の耐久力を上げることは目下最重要課題である。
彼女の現状はミナトとの性行為に耐えられないという状態。おほおほみっともなく喘いで、潰れたカエルのようにひっくり返って精液をベッドの上にぶちまけているようでは話にならないのだ。
「ですが、今の私の実力では巨人の討伐は──」
「えぇ、難しいでしょうね。ですが私も鬼ではありません。《闇魔法》も使えないうちから巨人と直接戦えなどとは言いませんし、巨人を討伐する手段……空間干渉の術はミナトに教わればいいでしょう。貴方はただ、空間切断の魔法を使いこなすことが出来る水準まで魔力制御技術を引き上げれば結構。そして……鍛錬方法も指示して差し上げます。それも貴方ならば真っ当に鍛えるよりも迅速に、且つ洗練されるだろう特別なものです。ありがたく受け取りなさい」
ミナトにだってこれほど懇切丁寧に指導などしなかったというのに。
いや、彼に行う指導は愛ゆえのものであるし、その後のアフターケアはあまったるいほどの極楽で包んでいるのだから釣り合いは取れているのだが。
それを加味しても横合いから急に現れて、名実ともに『ミナト専用肉便器魔力貯蔵槽』に成り果てたこの女を相手になんて親切なのだろうか。
その方法とは──。
《聖魔》様が私の為に考案してくださった、鍛錬メニュー。その内容とは、
「自慰行為をなさい」
「………………………………は?」
何かの聞き間違いかと思った。
しばしの沈黙は、私の頭が鈍器で殴られたような衝撃を受けて思考が停止していたためだ。意味を理解してようやく絞り出せたのは、ただただ息を吐いたような疑問のみ。
(この方は何と仰った? 彼女の言う自慰行為とは、あの自慰行為なのか?)
マスターベーション。オナニー。セルフプレジャー。
性行為ではなく、自らの手や道具を用いて性的快感を得る行為。……あれを、やれと?
「ただし手や道具に頼ってはなりません。魔力放出、あるいは魔力による障壁展開を用いて性的快感を貪りなさい」
私の考えに『然り』と頷いた《聖魔》様は続ける。
「ミナトの世界には百聞は一見に如かず、という言葉があります。百回物事について説明を受けるよりも、一度眼で見る……即ち実践したほうが確かであり、理解できるといった意味だそうで。彼の世界の先人は見事な言葉を遺されましたね。あぁ、そうそう──」
何気なく、ふと忘れていたことを思い出したと言わんばかりの気軽さで彼女は宣う。
曰く、私の魔力制御技術が目標に達するまでミナト様との性行為を禁ずると。
「…………は?」
その声音は本当に私の口から洩れたのか、自身ですら疑わしいほどのドスの効いた低い声音。
性行為を禁ずる? 何の権利があって《聖魔》様は──否、この忌々しいメスは私とミナト様との逢瀬を阻むのだ?
彼の寵愛を一番に受けた正妻だから? 私にミナト様のお役に立てる術を指導してくださる師であるから?
歯が砕けんばかりに怒りと憎悪を噛み締める。
憎くて仕方がなかった。彼女の言葉に異を唱えられる立場にない自分が。彼女を打ち倒し、己の意志を貫き通せるだけの強さを持たない自分が。
己が非力である事をここまで悔しく思ったのは、初めての事だった。
私を見下ろして女は面白くて仕方がない、と言わんばかりにふふ、と嗤う。
えぇ、愉快で仕方がないでしょうね。己の夫を誘惑し、道を踏み外させた女がこれほどまでに苦しんでいれば。
「ご心配なく。万一ミナトから注いでもらった精が尽きたのなら、いくらでも補充してあげましょう。ただし…………
彼の世界にある避妊具の話をこの女は語っているようだが、そんなものはどうでもいい。
(この……っ! 性悪乳牛女が……‼)
確かに私ならば……彼のおちんぽ様に躾けられ、魂の根本から彼専用に書き換えられた女には非常に効果的だろう。それはさながらニンジンを目の前に吊るされた馬の様に必死に駆ける筈だ。
彼の精液がこの女に注がれていることが到底看過できない。決して許せない。認められない。
(えぇ、構いませんとも)
何が《闇魔法》何が空間切断の術。
そんなものミナト様の性奴隷としての矜持を、そして彼に抱く情念があればすぐに習得してみせる。巨人族なにするものぞ。彼に抱いてもらうための障害は、すべて踏み越えていくだけだ。
投稿時間についてのアンケート※一週間程度を目安に〆
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0時(今まで通り)
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6時
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12時
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