これには作者もご満悦しながらも驚愕を隠すことができません。
本当にありがとうございます。今後とも「クラスメイト、異世界で勇者やるってよ。」をよろしくお願い致します。
「ミナト様。お客様がお見えになっています」
「お客様、ですか?」
俺は街から帰ってきた後すぐに、俺専属のメイドさんであるアイズさんからそんなことを言われた。
奴隷娘ちゃんを助けた後も、町の散策を続けていた。具体的に言うなら、サブウェポンである投擲用ピックの調達と、この1週間で結構使ってしまった剣の手入れを行うために武器屋に。その後、使ってしまった治癒魔法薬の調達だ。中々に財布が軽くなってしまったが必要経費だ、仕方あるまい。
そうでなくても今日は結構遅くまで街を探索してくると事前にアイズさんに伝えていたのだが、こんなジャストタイミングで部屋を訪ねてきたことを考えると、結構待たせてしまっていたのかな。
「すぐに行きます。どちらにいらっしゃいますか?」
「城の応接間にてお待ちになっています」
「わかりました。すぐに向かいます、とお伝えしてくれますか?」
「かしこまりました」
俺に向かって礼をして、失礼しますと言って出ていくアイズさんを見送って、俺はふぅ……と小さく溜め息をついた。
──やれやれ、ゆっくりできるのはもう少し後になりそうだ。
賑やかな場所は好きだが、長くいると疲れてしまうからに今日は早めに寝床につこうとしていたのに調子が狂ってしまったな。まぁ、お客様を散々待たせておいて「今日は遅いので帰ってください」というわけにもいかない。じゃあ、今日は予定を変更して《投擲》の特殊技術でも習得するべく頑張ってみるか。そのために後でアイズさんにダーツの的でも持ってきてもらおう。
俺は起き上がり、扉を開けようとするがそこで思い直す。
俺が現在着ているのは、この世界での平民の一般的な姿である何の装飾も施されていないラフな格好だ。一応爵位を得ている《勇者》であるが、俺としてはそんな権力を振るうようなことはしたくなかったため、《勇者》であると気付かれない格好をアイズさんに頼んで調達してもらった。まぁ、この世界で黒髪というのは非常に珍しいため、気付く人は気付いてしまうのだが。
つまり、俺が今着ている服は客人──それも王城の応接間には入れるような人間と会うにはふさわしい格好であるとはお世辞にも言えない。TPOを弁えなければならないのはこちらの世界でも一緒だ。
俺は制服を模して仕立ててもらった──といっても、目玉が飛び出すような金を使用してだ──ロクに来てこなかったブレザー風の服を纏って部屋を出ていった。
……試着の時にも思ったが、服に着られている感が半端じゃない。絶対似合ってねぇだろ…………。
──この王宮には応接間というものが存在する。
他の城に応接間があるのかは俺は知らなかったが、地球で読み耽っていたライトノベルにはそんな描写が一切なかったんだために、そんなものはないだろうと思っていたんだがこの城には当たり前のように存在する。
なんでも宰相に代表されるような王の政治をサポートする者が使用するのだとか。そういう者達は個人の住居を持っていて、そこで客を出迎えるのではないかと思っていただけにそういう使い方をするのは意外だった。
ならばこの国の最高戦力である《勇者》が使うのはごく自然なことだと思うのだが、俺が呼ばれる理由が一切思い付かない。いくらアンドリューに勝利したからといって勇者のなかでスター的存在となっているのは《聖魔》の強大さが分かりやすく伝わる陸堂と《聖魔》の数が多く、多彩な攻撃をすることで有名になった桐生先生だ。双方ともに、異世界人にも引けをとらない──この世界の住民は皆顔面偏差値が高め──美男美女であるために救世の象徴とするには適役である。
客が──しかもこんな夜分に──来るというのであれば、間違いなくその2人のどちらかに来るはずであるというのに、どうして俺なんだろうか。正直、呼ばれる理由が全く思い付かないんだが。
扉の前に控えていたアイズさんが、俺の到着に気付くと扉にノックして俺の到着を知らせてくれる。そのまま流れるような動きで、扉を俺が通りやすいように開けてくれた。……これがアイズさんの仕事とはいえ、まだ慣れない。身体からいまだに庶民性が抜けず、自分で扉を開けようとしてしまう。あと、そんな下らないことのためにわざわざすみません、という罪悪感も。これは多分、抜けることがないんだろうな。
などという事を考えながら、部屋の中に入る。
そして、長時間待たせてしまったことを詫びるべくお客さんの方に身体を向けると──ド肝を抜かれた。
「……馬鹿な…………!」
──そこにいたのは美女だった。
年齢は二十代後半ほど。緩くカールされたダークブロンドの長髪。漆黒のドレスの胸元を押し上げる圧倒的なバストは胸元のシースルーによって透けており、その谷間を惜しむことなく晒している。
虚空に向けられていた同色の瞳がこちらに向けられ、彼女は微笑んだ。クラスメイトとは比べ物にならず、桐生先生とは別ベクトルの妖艶な笑みに俺は目を釘付けにされてしまう。
だが、俺が驚愕したのは容姿ではない。彼女の事を俺は知っていて、尚且つ彼女が俺を指名して呼び出したことにある。
「こんな夜分にごめんなさいね、宵坂くん」
「何故、あなたが──ミハロヴィーナ大公がこちらに……⁉」
ミハロヴィーナ大公。
フルネームはエリザ・フォン・ミハロヴィーナ。
この国の西部の管理を王から任された貴族達を取り纏め、この国を発展させてきた女性。彼女がいなければこの国が現在の発展状況になるまで二十年は要したと言われるほどの頭脳を持つ、現国王の妹の娘であり、女性でありながら貴族位の最高位──大公を国王から与えられた、国王の右腕と言っても間違いない人物だ。
そんな女性が俺をご指名とは一体どんな用事なのだろうか。もしかしたら俺の知らぬ間にとんだ粗相をしでかしたのではないだろうか。
「あら、私の事を知ってくれているのね。《勇者》様の一人に知っていただけているなんて光栄だわ」
「…………お戯れを」
名前を知らねぇ方が頭おかしいくらいの女傑だぞ。
いや、魔族を倒すことしか考えてねぇあの男子クラスメイト共ならワンチャンあり得るか?
「ねぇ、メイドさん。彼と誰にも邪魔されずに2人っきりでお話がしたいの。悪いけれどしばらくの間──そうね、一時間くらいここには誰も近づかないように人払いをしておいてくれないかしら」
「畏まりました」
そう言ってアイズさんは果実酒──俺は20歳未満であるが、この世界の成人は15歳以上のため合法だ──を置いて、出ていってしまう。大公の言った通りに人払いをしに行ったんだろう。
あぁ、やめて! 2人っきりにしないで!
……なんて言えたらどれだけ楽なことか。ここでは流石に俺のお願いよりも大公の命令が優先される場面だ。それに呼び出された要件が分からない現状に置いて、迂闊な行動は彼女の機嫌を損ねてしまうかもしれない。
それは不味い。非常に不味い。あまりの緊張に胃がキリキリと痛んできた。
それは彼女が自分よりも遥かに国に貢献してきた女傑であるという前に、初対面の女性と二人っきりである──それも最上級の美人と──ということも合わさっている。一挙手一投足に妖艶さを感じさせる上に、男の子の純情を容易に弄ぶ事ができる微笑み。それに扇情的なスタイルが合わさって、もう最高にたまらんです。
──いや、下半身ビーストになってる場合か! 早くなんか話題を出さないと──!
「とりあえず座ったらどうかしら?」
「は、はい⁉ し、失礼します」
思わず声が上ずってしまった。
そんな俺の様子がおかしかったのか彼女はクスクスと笑う。うっわ……恥っず…………! 穴があったら入りたいわ。いや、穴がなくても自分で掘って入るわ。
「そこじゃなくて。こっちに来て」
彼女は俺に自分の隣に来るように手招きする。それにさらに緊張は膨れ上がる。もしこれに、目盛りでもあったのなら間違いなく振りきれていることだろう。しかし、言われたことに従わないのは彼女の機嫌を損ねてしまうことにも繋がる。俺は彼女の言葉に従って腰に席を下ろす。
瞬間、俺の鼻腔に甘ったるい香りが入り込む。しかし、それは不快なものではなく、その逆──できることならずっと嗅いでいたい、そう思わせてくれる香りだった。……字面だけで見るととんでもない変態だな、俺は。
「ふふ、緊張してる?」
「……えぇ、まさかお客様が大公であるなどとは思い付きもしなかったもので」
「大公、だなんて冷たい呼び方はしないで頂戴。できるならそうね……エリザさん、と呼んでくれたら嬉しいわ」
流石にそれは距離が近すぎやしませんかね。
俺と大公は初対面も初対面、俺は名前と顔を知っている程度であったし、彼女に至っては俺の事をどこで知ったのかすらも不明という有り様だ。というか、本当にどこで知ったんだよ。
国王は《勇者》の召喚に成功した、と言っただけで陸堂と桐生先生以外は名前も顔も現段階では公表されていないのに。
だが、反抗するのは不味い。大人しくしたがっておくのが得策だろう。…………まぁ、美人のお姉さまから『名前で呼んで』という一生あるかないかという貴重なイベントを逃すわけにもいかないからな。うんうん、仕方ないから名前で呼ぶとしよう。
「わ、わかりました。え……エリザさん」
あ、ヤベェ。どもった。ここに来てから調子が狂いっぱなしだぞ。おのれ、大公──エリザさんめ!
またエリザさんに笑われてしまった。くぅ、ここで女性とのコミュニケーションの有無が問われることになろうとは思わなかった。
「ええ、それでいいのよ。ふふ、すごく可愛らしい」
「…………男に可愛らしいというのはやめていただけると……」
「あら、ごめんなさい。別に貶した訳じゃないのよ? ただ本当に可愛らしくてね。……さて、それじゃあ早く本題に入るとしましょうか」
「そうです、俺──いえ、私にご用があると伺っておりましたが…………?」
「別に無理する必要なんかないわよ? 普通に俺、でいいわ。それで用というのは私の奴隷を救ってくれたことでお礼を言いに来たのよ」
「奴隷、ですか…………?」
そんなエリザさんと知り合いになれるような事──しかも奴隷を救うようなことなんてした覚えが……あっ。
「あの子ですか……」
思いっきり覚えがあった。というか今日起こったことだった。
今日の昼頃、女の子を蹴っているクソ野郎がいてムシャクシャしたからその顔面一発ぶん殴ってやろう、という軽い気持ちでその現場に乱入。その場を軽く制圧し、女の子を助けたことがあった。
俺が《勇者》であることをそこで名乗ったような気がせんでもない。それ以前に名前の並びが名姓の順番であるのが一般的なこの世界の住民にとって姓名の順で並んでいる日本人の名前は気付きやすかったであろうし、そこに黒髪というのも合わさり、加えて名乗ったことによって名前まで特定されていれば俺にたどり着くのは容易であろう。
まさか、何気ない気持ちで助けた女の子のお陰でミハロヴィーナ大公とお知り合いになれるなんて思ってもみなかったが。
「買ったばかりでロクな服も与えていなかったからしょうがないことではあるのだけれど……まさか貴族──しかもモヤネブンの坊やにぶつかってしまうとは運が悪かったわ」
「……正直、ぶつかったのかどうかも怪しかったですけどね」
「貴族というのは下に向かっては威勢が良いのが多いから。ぶつかったか否かに関係なく、私の奴隷はちょうどいいストレス発散の道具に映ったのでしょうね。……まさかその近くに《勇者》がいて、しかもその《勇者》が自分達を殴り飛ばしに来るなんて想像もしていなかったでしょうけど」
「ははは…………」
俺の口から乾いた声が漏れる。
正直、地球では考えられなかった行動だ。自分はここまで血の気の荒い性格だったのだろうか。
というか、彼女の言葉からしてこのような行動に出る《勇者》は少ないのか。そんなことは──あるな。間違いなく。俺は流石にあのレベルの暴力を見過ごす人間は多くないだろうと思ったが、即座に思い直した。
この世界で呼び出される《勇者》は人数に差はあれど必ず日本人らしい。だからこそ、日本では度々原因不明な失踪事件が起こっていたらしいのだが重要なのはそこではない。
──日本人とは集団を重んじる傾向にある。逆に言えば主体性がまるでない人間が非常に多い。故にあそこで奴隷の子を助けようとする人間が一人もいない場合、《勇者》も行動を起こせない可能性が非常に高いのだ。『自分がやらなくても誰かがきっと助けてくれるだろう』なんて考える馬鹿が。
「そこで聞きたいのだけれど、どうしてあなたは私の奴隷を助けてくれたのかしら?」
「どうして…………ですか」
──どうしてだろうか?
あのクソ共にイラついたからか。善行をすることによって民衆からの支持を稼ぎ、さらに良い待遇を得るためか。
そのどれもが違う気がする。イラついていたのは事実だが、行動を起こしたメインの理由ではない。後者なんて今さっき思い付いた後付けの理由だ。正当防衛を成立させなければ民衆の印象が不味いことになる、とは考えたもののメリットなんてまるで考えていなかった。
──それはもっと単純な理由だ。
「……偽善者だ、なんて言われるかもしれないですけど」
「言わないわ、そんなこと。けど、何?」
「……困っている人を助けるのは当たり前です。それが可愛らしい女の子なら、尚更」
「…………良い子ね」
「良い子、ではないと思いますよ。イラついたから暴力沙汰にしましたけど、本来はそんなことをする必要はなかった。それに民衆からの印象を良くしようという狙いもありました。加えて子爵の息子──自分が行動を起こしても問題がない相手だとわかっていたからこそとれた行動です」
「それでも、よ。それにあなたはとても頭が回る。行動を起こすことによる利点と欠点をすぐに把握できる。加えてレベル1の状態ながらも王都守護騎士団団長に勝利できるほどの実力も持つ。……ここまで好条件が揃った《勇者》は他にいないわ」
「……誰に聞いたんですか?」
《勇者》であるとはいえ流石にレベル1の人間に負けるということが民衆に公表されれば、王都の防衛力に問題があるのではないかと世論が立つためにこの件は『アンドリューとほぼ互角に戦える』という風に改竄されて公表が行われたはず。
「アンドリュー本人よ。今世代の《勇者》は一際優秀なのが三人いると自慢気に語ってくれたわ。その三人のうちの一人が私の奴隷を救ってくれたとは思っていなかったけれど。流石は《勇者》ね」
「そこまで言われるようなことでは。……散々《勇者》だ《勇者》だと持て囃されてはいますが、俺達はこの国が言っているような素晴らしいものではありません。暴力でしか魔族との平和を勝ち取れない無能──戦うしか能のない17のクソガキですよ、俺達は」
……ヤバい。流石にこの国の重鎮に言って良い台詞じゃなかった。
「……この話はどうかご内密にお願いします」
「ええ、分かっているわ。流石に未来の救国の英雄が言っていい言葉じゃないものね」
鳥が囀ずるように笑うエリザさん。
そこで彼女の表情が切り替わる。今までの優しいお姉さまと言う表情から、この国の重鎮──大公としての表情に。
「ねぇ、宵坂くん。私に雇われてみない?」
「雇われる、とは一体どういうことでしょう?」
「宵坂くんはこの国の西部の事は知っていて?」
「確か……いくつもの《強魔地帯》に面する領土であったと記憶しておりますが」
「なら《強化種》の事も知っている?」
「まぁ、概要は一通り叩き込んであります」
《強魔地帯》というのは魔王が統治している場所の事を指す。そこでは魔族がいるのはもちろんの事、元々そこに住んでいた魔物がその地域を治めている魔力に当てられ、身体能力や魔力などの能力が軒並み増大し、魔王の属性に沿った進化を遂げている。
人間が住んでいる領域に住んでいる魔物よりも遥かに強く、魔物の身でありながら魔族に匹敵する強さを誇る魔物も存在しているといわれている。
魔王の属性さえわかっていれば、その弱点を突けば良いため分かりやすい相手ではあるのだが、それを補って余るほどの能力を持っているために、総合的に考えれば《強魔地帯》に住む魔物──《強化種》による被害の方が大きいらしい。《強魔地帯》や《強化種》の情報はまだ座学ではやっていないため、これは図書館で得た情報になっている。
「そう、それなら話が早いわね。近頃フェイルメール辺境伯──私が纏めている貴族の一人なのだけれど、彼が治めている場所に隣接する《強魔地帯》の王2人が勢力争いを始めたみたいで、その影響か《強化種》が彼の領土に流れ込んでいるの」
「……それはまた傍迷惑な」
「でしょう? 現在は《強魔地帯》に隣接していない地域の貴族達の兵や私の私兵、様々な街の冒険者などを雇って迎撃している状態であるのだけれど……状況が好ましいとは言えないわ。《強魔地帯》付近にある寒村に莫大な被害が出ている状況よ」
「つまり、俺にその状況を何とかしてほしいと?」
「いいえ。現在魔王を討てば、激情に駆られた魔族などが王国の領土に流れ込む恐れがある。そうなれば現在の《勇者》の強さから考えると、何とかできたとしても王国に──ひいてはあなた達に甚大な被害が及ぶわ。だからあなたに頼みたいのは状況を何とかするというよりも、王国の領土内に入ってくる前に《強化種》を迎撃、それを討伐してほしいの」
……俺としては非常に引き受けたい案件だ。
しかし、今まで訓練の一貫として行ってきた魔物討伐とは比べ物にならないほどに危険が伴うだろう。しかし自身を死地に置くことで強くなってきた漫画のキャラクターは山ほどいるし、それが俺にとって大きな収穫になることは間違いない。虎穴に入らずんば虎児を得ずという故事成語もある。
しかしいざ自分がそれをやろうとすると躊躇ってしまうのも事実な訳で。
「無論、報酬はしっかりと用意させてもらうわ。金銭はもちろん、武具や防具──あなたが望むものを可能な限り用意する。どう? 引き受けてくれないかしら?」
その言葉に一気に天秤が依頼を受ける方向に傾いた。
何度も繰り返すようであるが、エリザさんは大公。爵位のなかでは最上位に位置している女性だ。そんな彼女が可能な限り、俺の欲しいものを用意してくれるという。そんなもの乗らずにはいられない。
加えてこの一週間で多少遠出をして魔物を狩ったりもしていたのだが、正直言って王都近辺の魔物は相手にならず、戦闘経験もレベリングにも役に立たなかった。ぬるま湯なのだ、この環境は。
故にここで一気に環境を変化させ、自身の更なるレベルアップに繋げるためにもここは受けておくべきだと思う。
しかし、ここでひとつ問題が発生した。
「……俺は現在、アンドリューさん──王都守護騎士団団長の元で鍛練を積んでいます。そのため彼に無断でというのは……」
「それは問題ないわ。宵坂くんがここに来るまでに彼には話を通しておいた。多少レベル面で心配していたようだったけれど、自分に勝てるのだから特に問題はないだろうとのご判断よ。本人が良ければ構わないそうよ」
「なら……俺が断る理由はありません。是非協力させてください」
「ありがとう。ならすぐに出発……といきたいけれど、私も多少王都でこなさなければいけない用事もあるし、あなたもお仲間さん達との積もる話はあるでしょう。三日後の早朝にまた迎えに来るわね。詳しい事は三日後、私の馬車の中で話しましょうか」
「わかりました」
「とりあえず……これはプレゼントするわ。大切に使って頂戴ね」
そういって彼女の左側──右側には俺が座っている──の横に置いてあったポーチから取り出されたのはこの世界では一切目にしたことがなく、地球でも実際には目にしたことがなかった物だ。それは──、
「日本刀……⁉」
「こちらの世界では東和刀というのよ。《強魔地帯》の魔物は今まであなたが持っていた剣程度では傷もつけられないから代わりにこれを使って。……プレゼントとは言ったけど、前報酬の様な物ね。あと……これ」
そう言って彼女が取り出したのは巾着袋だ。中から金属音のようなものが無数に響いてきたということは、おそらく金貨の類いだろう。
「開けてみてくれる?」
彼女の言葉にしたがって、それを開け、中身を見てみると銀貨とは違う、純白の硬貨。それが1杯に詰められている。
「聖白金貨……!」
それは王国内で出回っている最高価値の硬貨。名を聖白金貨と言い、それ一枚で金貨50枚分の価値を誇る。これだけあれば豪邸のひとつやふたつ、簡単に買うことができるだろう。農民がこれだけの大金を得たのであれば、一生遊んで暮らせるはずだ。それだけの大金、それをこの人はぽんと俺に渡してきてくれた。
「これは前金。好きに使ってちょうだい」
それじゃあね、と言って彼女は立ち上がる。
瞬間、俺の頬に謎の感触。そちらの方に視線を向けると、顔のすぐ近くにはエリザさんの顔があった。彼女は俺の頬から顔を離し、くすりと笑うと手を軽く振って部屋から出ていった。
──まさか初めての頬キスを彼女でもないお姉さまからされてしまうとは…………。
今夜は中々に眠れそうにないな。エリザさんはあんなにさらっとこなしていったのに、俺の心臓はバックバクだ。これが異性との触れ合い経験の差とでもいうのか。
とりあえず落ち着きを取り戻すために、自分の部屋に行こう。
俺はドアの外で待機していたアイズさんにダーツのようなものを自室に持ってきて貰うように頼み、静寂が支配している王宮の夜の廊下へと歩みを進めた。
未だに暴れ狂う心臓の拍動に耳を傾けながら。
エリザさんの明日はどっちだ!
(訳エリザさんとのエロシーンが入るかどうかは作者の気分次第で決まります)
投稿時間についてのアンケート※一週間程度を目安に〆
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