執筆中小説ばかりが溜まっていく。
デレたネルソンさんはとても可愛いのです。
導入についてはさらっとした表現です。催眠状態に入った艦船少女達を描きたいので。
執務室のソファーに深く腰掛けたネルソンの首がふらふらと左右に揺れるのに合わせて、ツインテールに結わえられた彼女の膝ぐらいまである長い金髪がふわりふわりと揺れる。強い意思を宿す紅の瞳は閉じた瞼の中に隠され、口元からこぼれる吐息に合わせて、白地の丈のとても短いワンピースに包まれた豊かな双乳がやはりふわりふわりと揺れている。
彼女の斜め側面に位置している指揮官からは確認できないが、脱力している彼女の両足は閉じられずに開かれてしまっており、ジャケットと色合いを合わせた赤を基調としたトレンカタイプのゲイターの奥に純白の布地がハッキリと見えてしまう状態にあった。
「ふふっ、導入は大成功ですね。姉様、本当に気持ち良さそうに力が抜けて、下着が丸見えです」
今回の計画の立案者、ネルソンの妹であるロドニーが微笑む。深い青の瞳に浮かぶのはどこか嗜虐的な色があった。
「姉様がいけないんです。指揮官を鍛えたいという気持ちは分かりますが、あのやり方では心が折れてしまいますもの。指揮官は辛抱強い方ですから、これまで随分我慢して下さいましたが……ロドニーがもう許しません。敵に情けは無用。徹底的に堕ちて頂くとしましょう」
そこまでやる必要はないと制止する指揮官に、ロドニーは左右に首を振る。そして、彼女は指揮官の両頬を自らの両手で包み込み、ゆっくりと瞳を覗き込んでいく。
「ロドニーは、指揮官と一緒に過ごす毎日が記念日なんです……。だから、その記念日が不快な色合いに染められるのは嫌ですよ……? ねえ、指揮官。ロドニーと過ごす毎日は出来るだけ穏やかな気分で過ごしたいと思いますよね……?」
普段の彼女より少し低く、口調も囁くようにゆったりとしたペースで語りかけることで、鼓膜を通して指揮官の脳髄にロドニーの言葉だけが染み込んでいく。淡い紫色の長い髪から漂う甘い香りが身体の脱力を促していく。
艦船の頃の記憶が枷となり、悪夢に苛まれたり、性格への歪みが出る者が多くいる中、指揮官の着任後から最も長く秘書艦を務めるロドニーが指揮官に手ほどきしたのが『ヒプノセラピー』、催眠療法と呼ばれるものだった。何故彼女がそのような技術を習得していたのかは定かではないが、工作艦として名高いヴェスタルや明石の協力、被験者の手配も含めて熱心な指導を行った結果、こうしてネルソンに催眠導入を施すことに成功したのだ。だが、同時に指揮官がロドニーの催眠導入を受け入れやすい常態が日常となり、本格的な誘導ではなくとも、すぐに催眠状態に入ってしまいやすくなっており──。
「そうですよね、指揮官もロドニーとの時間は穏やかな気分で過ごしたいと思って下さっています。ですから、その時間にさざ波を立てる要因は取り除かなくてはなりません……」
指揮官がままならなくなっていく思考の中でネルソンを害してはいけないと懸命に言葉にすることも、ロドニーには予想の範疇だ。敬愛する優しい指揮官ならば、きっとそう言葉にするに違いないと。
「大丈夫、ネルソン姉様を傷つけるわけではありません。すこぉし今までの姉様よりも素直になってもらうだけです……だって、指揮官の誘導を受け入れたということは、内心は指揮官をちゃんと認めているということ。その内心と外に出ている態度をもう少し近づけてもらうだけ……」
もう少し素直に、もう少し険のない態度にしてもらうだけ。ロドニーの言葉は彼の思考を容易く溶かし、それが最もいいことなのだと認識していく。ロドニーの言葉に従うことは、とてもとても、気持ちがいいものなのだから。
「さぁ、姉様をもっと深い催眠状態に導いて上げてください。指揮官の言葉だけが、何も考えずに……頭を真っ白にして、ふわふわと波間に漂うようなとてもとても心地良い気分にさせてくれるのだと……指揮官に従うことが何より心の平穏を得られるのだと……」
そして、しばしの時間が経ち、執務室に西日が差し込み始める時間になる──。
「え、わ、私が完全に執務中に寝てしまうだなんて……!」
ソファーで意識を取り戻したネルソンは自分の失態に愕然としてしまっていた。ロドニーが同席し立会いの下でヒプノセラピーの被験者になったというやり取りをごっそり忘れてしまっていたのだ。企みの中心にあったロドニーが既にこの場を辞していることも、ネルソンが思い出す切っ掛けを失うことになっており、彼女の焦燥を加速させることになっていた。
「指揮官、言葉も無いわ。迷惑をかけてしまったわね……。結果を示し続けなさいと言っている私がこんな失態を演じていては……私が負け犬そのものだもの」
疲れがあったのだろう、誰だって失敗はあり得るものだからと声を掛ける指揮官の言葉がとても耳障りのいい旋律としてネルソンの鼓膜を震わせ、思わず彼女は身震いしてしまっていた。
「……だ、大丈夫よ? た、確かに疲れが知らずと溜まっていたのかもしれないわね……。ええ、早めに休むようにするわ」
幾度も深い催眠状態に繰り返し導かれて、身体も心もリラックスして非常に心地良い、夢と現実の合間を漂う時間をゆっくりと体験した上で、さらに彼だけがその状態へ導くことができるという暗示めいた刷り込みを受け入れてしまったネルソンは──そう、洗脳とは違うため、本当に嫌なことなら拒否も出来るけれど、彼女も指揮官のことを内心は認めつつあったから──、覚醒している今も『彼の声を聴いている』そのこと自体に安らぎを覚えていた。
「さっ、今日の書類をパパッと片付けてしまうわ。何だかとてもいい調子なのよ、疲れが自覚出来ないほど溜まっているとは思えないぐらいにね!」
彼女は催眠状態の間、深いリラックス状態にあったわけだが、合わせて指揮官により全身のマッサージを施されている。脱力しているところに全身の血行が良くなることで、非常に良質な催眠を得られたのと同じ効果が彼女には出ていた。
彼の秘書艦であるロドニーはネルソン同様素晴らしい胸部装甲を所持しているため、慢性的な肩こりに悩まされており、ロドニーの教育により指揮官は催眠だけでなく按摩技術もしっかりと身につけていた。彼のマッサージをMVPの褒美として欲しがる艦船少女も多いぐらいには評判が良いもので──。
『指揮官さまの言葉や手は聖なる光を宿しているかのようですわ~。ですから、私の身体も心も指揮官さまを受け入れちゃう準備はいつでも出来ておりますから~うふふっ』
とまぁ、こんな感想が聞こえるぐらいには評判が良かった。指揮官は青年相応の女性への欲というものはあったがロドニーとの甲斐甲斐しい献身により、しっかり解消されているから問題はない。ロドニーはヒプノセラピーの取得に協力をしてくれたヴェスタルもそうなのだが、指揮官のお世話を行えることに喜びを覚えてしまえる性質だった。自分を気遣い優しく接してくれた上で、指揮官として成長しようと努力を続ける彼に好意を抱き、文字通り心身ともに支えることで自分も精神的に安定した状態でいられることで、ロドニーは彼の艦隊の中核を担い続け、ヴェスタルは艦隊運用の要ともいえる地位を築いている。
「あら、少しは出来るようになったじゃない? この書類の量をもう捌き終わっただなんて。ふん、少しは認めてあげてもいい……わよ?」
どこか声色が柔らかくなってしまう自分に気づいても、ネルソンはあえて厳しいものに戻そうとは思えなくなっていた。一時的な健忘を引き起こすほど、心地良く気持ちいい時間を与え、疲れすら解してくれることを無意識下であっても理解しているからこそ、強く当たれない、棘のある言い方をしたくない。指揮官に悪く思われたくないという防衛反応がしっかりと働いている。
「ちょっと待ってなさい。お茶を淹れるわ。なによ? ちょっとした気まぐれみたいなものだから、あんたはそのまま待っていたらいいの」
執務室に併設している給湯室でお湯を沸かし、同時にティーポットやティーカップを温めていく。茶葉をティーポッドに注いだ熱湯で充分に蒸らし、カップに注ぐまでの動きは一切の無駄がなく、また非常に手際のいいものだった。
「普段はベルファストや他のメイドがすることが殆どだけど、フッド姉様やロドニーも自分で淹れるのは知ってるでしょう? 私もロイヤルの嗜みとして身につけてはいるのよ。最近、イラストリアスが自分で淹れるようになったけれど、私も手ほどきはしたんだから」
指揮官が出されたカップに口をつけてみれば、普段ロドニーに淹れてもらう飲み慣れた紅茶と変わりない香りと味がする。つまり、それはネルソンの腕の確かさを示すものでもあった。自然と美味しいと指揮官の口からこぼれる言葉に、耳障りの心地良さに加えて賛辞の言葉を掛けられたと認識した途端、彼女は頭が真っ白になる感覚を覚えた。奇しくも本日幾度も幾度も体験した、深い催眠に入った時の感覚と非常に近しいものだったのだ。
彼が机からカップを手に取り自分が淹れた紅茶を口にする様子を、隣に立ってどこか得意気な様子で見ていたはずの……普段は意思の強さを感じさせる紅の瞳は潤んで徐々に光を失い、口元は弛緩して開き、脱力してしまった身体が崩れ落ちそうになるのを、指揮官がとっさに支える始末だった。
「だい、じょう、ぶよ……」
抱き抱える形になったが、ネルソンはまだ意識がハッキリとしないのか、問いかける声にもつたない口調で指揮官へと寄りかかった姿勢のまま。むしろ、彼の言葉にさらに身体の脱力が進んだ感じすらあった。指揮官はネルソンに覚醒のために階段を登っていくイメージの誘導を施し、彼女の意識を覚醒状態へと導いていく。
「あ……。しき、かん、私……思い、出したわ……催眠、療ほ、う、だっけ、それで私、とっても深いところまで降りて、気持ち良ぉくなって、そのまま寝てしまったんだ……。今も、指揮官は、そのつもり無い、のに、私があの心地良さを思い出したから、入りかけて、しまって……」
彼に寄りかかった姿勢のまま、意識を取り戻したものの、ネルソンはまだどこか夢うつつな様子だ。いつもの彼女なら自ら指揮官を突き飛ばすなり引き剥がしにかかるところが、彼に自分の身体を全て預けてしまって離れようとする様子も無い。
「指揮官の声が、触れる手が心地良くて……その上、ちゃんと紳士として、私のデリケートなところには手を出さない……だから、私、あの心地良くて気持ちいい世界にずっと漂っていられたのよ……」
ネルソンはゆっくりと心の内を言葉にしていく。最初は頼りなく見えたものの、職務には真剣に取り込み向上心を持ち続けているのは分かっていたこと。妹であるロドニーが指揮官と男女の契りを結むほどに深く想いを寄せつつも、その環境に弛むこともなく、その充足感を糧にさらなる強さを身につけていること。大きな戦果は無くとも、着実に制海権を取り戻す戦果を積み上げていること。
「厳しい言葉はあんたへの期待の裏返しだった。あんたはそんな私を煙たがりもせずに、実戦と演習、訓練の機会をちゃんと与えてくれて、練度を上げて艦だった頃と変わらぬ働きが出来る所まで引き上げてくれた……。私自身が努力を欠かさないのは当然としても、その場を作ってくれたのはあんたなんだもの……」
自分の身体を支える指揮官の手を取り、ネルソンは自分の頬に当てる。それだけで彼女の身体は再び深い弛緩状態へと進んでいき、瞳の焦点も合わなくなっていく。
「気持ち、いいの。あなたの声も、手から伝わる温もりも、匂いすら、すごく気持ち良く、なっちゃうの」
どこか幼い話し方。普段のキビキビした話し方をする彼女からは想定も出来ない、完全に取り繕うことを辞めて、深層意識に眠るありのままの自分をさらけ出そうとしているネルソンを指揮官は好きにさせることを選んだ。それで背負っている肩の荷が降りて、今後の彼女が無理なく振る舞えるようになるなら、後は墓の下まで持っていくだけのことだと。
「私はお姉ちゃんだから、欠陥だらけなのに放っておかれても、いっぱい笑われても、頑張って頑張って、泣いても辛くても結果を出し続けるしかなかったから。自分を奮い立たせるのに、強い言葉で自分を縛らないと耐えられなかったの」
独白を受け止めながら、指揮官は彼女の頭をそっと撫でていく。何度も、何度も。頑張ったね、本当によく頑張ったねと言葉を掛けながら。
「辛かったよぉ、みんな褒めてくれなかったの、そうしないと。休んでもいいって誰も言ってくれなかったの。そうしたらね、私はもう止まれなくなっちゃってた。そして、そのまま艦として最期をむかえて、生まれ変わった後も艦船少女として突っ走ってきちゃった……」
指揮官はネルソンの心身が想定した以上に磨耗していたことを知る。本当は立ち止まって休みたかった彼女の奥底にある思いも含めて、自分の催眠誘導が入りやすい条件が揃っていたのだと。
仮に今回の一件が無かったとしたら、彼女はそのまま自他共に厳しく強くあり続けただろう、最後まで。だが、自分でも自覚し辛い心の一番奥底ではずっと軋みを上げ続けたままで。知ってしまえば、そんな真似はさせるわけにはいかなかった。彼女に信を預けられる指揮官として、彼女の義弟という家族の一員として、そして、傷ついた女の子を放っておきたくない一人の男の意地として。
「え……? うん、分かった……指揮官と二人の時だけは、私、ちゃんと、甘える……甘えて、いい……。覚えたよ……ずっと、忘れない……。あなたの前だけ、甘えたがりのネルソンに戻るんだ……えへへ」
彼の掛けた言葉はネルソンに深く染み込んで、強く根を張った。それは強固な鎖にも思えるものだが、その拘束をネルソンは歓喜と共に望んで受け入れたのだ。
この日の晩、執務室の奥、給湯室に隣接する仮眠スペースでネルソンは指揮官に抱き締められたまま、安心感を全身で感じつつ一晩の熟睡を得る。まだ空も暗い早朝に、今まで感じたことのないとても晴れやかな気分で目を覚ましていた。
「……ちゃんと全部、覚えてるわ。自分でも自覚してなかったけど、私って本当はものすごく甘えたがりみたいよ、指揮官。もう取り消しはきかないんだから。ロドニーやヴェスタルだけじゃなくて、私だってもう絶対に離れてなんてあげないんだから」
今までの振る舞いを消すわけではない。外向けにはこれまで通り厳格の象徴としてのネルソンであるだけのこと。ただ、彼と二人だけの時間は、甘えたがりな一人の女になると決めた。それだけでここまで心の充足感と安心感を得るのだから、現金なものだとネルソンは自分で自分を笑う。
「でも、今の私は私自身を好ましいと思えるもの。こんなわたしが指揮官に抱かれたら、どうなっちゃうのかしら。ふふ、変えた責任はちゃんと取ってくれる男だもんね、指揮官?」
唇をそっと眠りの中にある彼の口へと触れさせて、ネルソンは柔らかな微笑みを浮かべる。もし彼が目を覚ましていたなら、その微笑みが姉妹のロドニーの優しげな微笑みと重なって見えただろう。
「ロドニーが起こしに来るまでもうちょっと一人占めしちゃおうっと……ふふふっ」
彼の腕の中にもう一度潜り込み、彼の温もりと匂いを全身で感じ取り取ることで、ネルソンは自ら軽い催眠状態へと降りていくのだった。心地良さそうに表情を力なく緩ませながら。
あれ、エッチな場面まで辿りつけてないじゃないか……(おめめぐるぐる