※この作品はR-18です。

艦船少女にヒプノセラピーを試してみた   作:ですてに

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閑話です。

柔和になったと評判のネルソンさんの様子と、次の催眠療法の患者候補の名前が出てきます。


その後のネルソン(閑話)

「援護射撃し過ぎたなとちょっと後悔していますよ、姉様。今の姉様は私から見ても、普段はデキる人なのにプライベートではすごくキュートで……とても魅力的なんですから」

 

「わ、悪かったと思ってるわよ。以前の私は指揮官に対してかなり言い過ぎていたと分かってるから……。指揮官にそのつもりがあれば、退役させられてもおかしくはなかったって」

 

「だから、催眠療法のテスト被験者としてネルソンさんに話を持っていったわけですけど~。ここまで効くとは想定外でしたから~」

 

 催眠状態に誘導されるのが病みつきになり、毎晩仮眠室へと忍んで行き、最終的に指揮官の女になることを選んだあの幾夜を経て、ネルソンはロドニー、ヴェスタルと共に指揮官に寄り添い支える日々を過ごしていた。ロドニーは元より、ヴェスタルとも親交を深めたネルソンは今も指揮官を含めた四人で、業務時間外のプライベートな時間を同じ空間で過ごしていて、年頃の女性としての日常の会話も自然にやり取りしていた。

 

「経験してみて、とてもいいものだって初めて分かるものもあるじゃない? 例えばこの岩風呂とかもそうだけど……頑なになって視点が狭まっていたのよ、情けない話だけど」

 

 ネルソンは岩風呂の縁に組んだ腕に顔を隠しながら、そう呟いた。ツインテールに出来るほどに長い彼女の髪も今は頭に巻かれたタオルの中に収められている。ロドニーの紫色の長い髪も、ヴェスタルの紫銀の長い髪も勿論同様に巻かれたタオルの中に収まっていた。この辺りの入浴時の髪の処理などはヴェスタルや明石達から習ったのだが、入浴の良さに嵌ってしまった今では手馴れたものである。

 

「確かに入浴という習慣がこんな風にリラックスできるものとは、聞くのと体験するので大違いでしたからね」

 

「ふふふ、のぼせるぐらいまで長く入るのはいけませんけど、一日の疲れを癒すにはもってこいですから。気に入ってもらえて良かったです~」

 

 巻かれたタオルの下から見えるうなじは彼女達の持つ色香をさらに際立たせていて、指揮官は目のやり場に困ることになっていた。四人で入浴するのも習慣化して、彼女達の白磁の肌やお湯にぷかりぷかりと浮かぶ双子山の三連峰など、少しは見慣れたとしても本能に訴えかける威容は霞むことなく、彼は劣情に駆られないように自重に務める必要があった。劣情に身を任せたとしても喜んで受け入れる女性陣であるが、いかんせん三対一。一番疲弊するのは自分であり、寝台に場を移せば自然と自分も彼女達もその気になるのだから、今は入浴と視界の眼福の心地良さを楽しむべき時間と心得ている。

 

「こうしてお風呂に浸かりながら、遠くに波の音を聞くのもいいものだわ。ふふ、指揮官のセラピーを受けてから、毎日が新鮮に感じる。新しい気づきの連続だもの」

 

 寄り添う指揮官に穏やかな微笑みを向けながら、ネルソンは浴槽の中で彼とそっと手を繋ぐ。反対側にはロドニーがいて、四人の中では小柄なヴェスタルは指揮官の前にすっぽりと収まっている。

 

「この関係性が出来てから、新しい業務体制になって私も業務に余裕を持てていますし、指揮官にも無理をして頂かなくて済むようになりましたから。指揮官を支える女性同士として、これからも宜しくお願いしますね、姉様、ヴェスタルさん」

 

「はい、これからも二十四時間フルタイムケアで皆さんのかかりつけ医として頑張りますよ~」

 

「もちろんよ。これからも色々あるだろうし、指揮官を中心に四人でしっかりやっていかないとね」

 

 『新しい業務体制』とロドニーが口にしたが、実際に秘書艦はネルソンとロドニーの二人体制が確立されていた。主に、対外的な業務をロドニーが、基地内に関わる部分をネルソンが担う分業体制である。もちろん、どちらかの業務が多忙になれば、互いにフォローに入る。事務的な能力も高く、また研鑽を怠らない姉妹だからこそ、結局どちらの仕事もこなせるわけで、そういう臨機応変な対応が可能であった。また、ヴェスタルは工作艦という彼女の特殊性や、能力が傑出しているため、建造や艤装の修復等を行う女工廠長として活躍している。

 お互いの職務が被る部分については、指揮官が統括し三人に必要な指示を飛ばし逐次調整を行うことで、以前に比べてより円滑な艦隊や基地運営を行えている。情報共有についても各人が出撃や委託任務に従事していない限り、業務終了後から翌朝の業務開始まで指揮官を含めて同じ空間で過ごすわけだから、互いの業務進捗や連携して解決を図るべき事案なども密に共有が出来ている。

 

 その結果、指揮官だけではなく基地全体の業務時間も短縮され、ダブル秘書艦体制はおおむね好評であった。なお、指揮官はいつか爆ぜるといいと基地勤務の独身男性連中には揶揄されている。秘書艦達や工廠長の傾倒ぶりも合わせて目にしているので、もし口にすればどこぞの戦神や鬼神よろしく大変なことになるのも分かっており、艦船少女がいない場面限定の話題ではあったが。なお、ネルソンは仕事中はしっかり切り替えているつもりだが、執務の合間合間に時折、視線が指揮官を追いかけていたりするなど、周りから見れば隠し切れていなかったりしていた。様子を見守るロイヤルの仲間達が思わず微笑んでしまったりするのも致し方ないことである。

 

 そして、プライベートに関しては、指揮官も業務時間の終わりが早くなったことにより仮眠室で寝る必要がなくなっていた。そこで、秘書艦二人や工廠長が執務室以外で四人が一同に集まりやすい場所を検討した結果、明石や彼女がどこからかスカウトしてきた夕張の協力を得て、長らく開かずの間に近い状態になっていた指揮官の個室の改装工事を実施している。

 私的空間の改装ということもあり、権限としては指揮官の裁量で許される範囲だったのだが、改装に充てる資金は指揮官と彼女達が捻出していた。軍属でありつつも艦船少女自体が未だに一般社会には秘匿性が高いため、ネルソン達は出撃以外で基地の敷地外に出る機会が少なく、通販で多少嗜好品や服飾を手にしたところで、危険手当等を含めての給与の大部分が貯蓄や資産運用に回る一方だったのだ。三人の性格的に浪費よりは堅実といったことも多分に影響していた。指揮官にしてもこれまでがずっと多忙な日々で、私的な外出の時間は殆ど無かった。つまりは同じような懐事情だったわけである。

 そんなところから提供された潤沢な予算に明石と夕張は興奮し能力を最大限に発揮した。また、指揮官(と秘書艦たち)への忠誠を誓う。無駄遣いはしないが、必要とする時は躊躇無く使う四名のお金の使い方に、明石達の嗅覚がこの者達に付き従えと強く促していたとかいないとか。

 

 その結果、床上や床下、壁に収納可能な寝台や家具の追加、給湯室のシステムキッチン化が実施された上、シャワールームが拡張され、複数で利用可能な洗い場と浴室として生まれ変わった。彼女達がいる岩風呂がまさしくその浴室である。新たな福利厚生の試行という趣旨で、こちらも試験的なものだからと四名が費用面の多くを捻出し、艦船少女や基地所属の希望者から出資を募って大浴場の増築を差配したのだが、その時に配管を通して指揮官達が使う浴室を用意したのだ。

 これは余談となるが、ネルソンやロドニーはロイヤルという元の国柄の影響もあり、身だしなみの一環として毎日のシャワーは欠かしていないが、浴槽に浸かるという習慣自体が無かった。それをヴェスタルから伝え聞いた重桜出身の明石と夕張は、人の身体を持つ二度目の生の半分を損しているとばかりに目の色を変えた。

 指揮官が重桜出身の母を持つハーフであり、二人を後押ししてくれたのも大きかった。バスルームの良さを本艦隊の事務方トップと言えるネルソンとロドニーが認識してくれれば、希望者の個室や大部屋のシュワールームを浴室への改装すると約束したのだ。ヴェスタルも勿論口添えしますよと心強い言葉をくれたこともあり──。

 

『ユニットバスというトイレと浴室が一緒くたになった悪しき風習を一掃するのにゃ!』

 

『ご主人! 必ず入浴の良さを艦隊全員に布教してみせますぞ!』

 

 ジェバンニが一晩でやってくれましたの勢いで、明石と夕張は依頼内容を瞬く間に完遂し、かつ、ネルソン達が唸る出来栄えで仕上げてみせた。二人の技術力の天元突破ぶりに感心した四名は私費を一部投資して、彼女達の艤装や追加装備の開発費を捻出するのだが、それがさらに二人のやる気と忠誠を引き出したのは言うまでもない。

 海水の淡水化装置の高機能化や小型化についても正式な業務として彼女達に任せて、こちらもあっという間に成果を出したことで、新入り扱いだった夕張やスカウトしていた明石への、艦船少女たちや基地任務の従事者達が一目置くことにも繋がっている。

 

「あぁ……そういえば、ここに入る前に持っていった鍋をあの子達ちゃんと食べてたの?」

 

「明石さんも夕張さんも設備の開発に余念がないのに、自分のことには不精にも程がありますからね~。工廠の休憩室でしっかり見張った上で食べさせましたよ。平気でご飯抜きで徹夜を続けたりするので、ちゃんと見ておかないといけませんね~」

 

 たとえばシステムキッチンを造った翌日に、煮込み料理が手軽に出来る優れモノである『水なし自動調理鍋』を作って持ってきてくれたりしたのだが、実際に料理するなんて面倒臭いというのが明石や夕張という少女達であった。

 

「開発や改装においては飛び抜けたものをお持ちですけど、その分、身体状態などはこちらで見ておくべきでしょうね。彼女達の力は必ず私達の力を大きくしてくれますから」

 

 これからも食事は出来るだけ余分に作るようにして、アイツらには強引に食べさせよう。食堂に自分達から行こうとすらしないだろうから。そんな指揮官の言葉に三人も同意する。明石や夕張の与り知らぬところで、彼女達の健康がきっちり管理されるのが決まった瞬間であった。

 指揮官も息抜きの一環で料理を趣味にしていることがあることもあって、広いキッチンで四人で作れば人数分が増えても調理時間がそう変わるわけでもない。むしろ作れる機会が増えた指揮官は率先して取り組む勢いがある。重桜料理の基本である、昆布や鰹で取る『だし』をベースにした調理法は指揮官の影響を受けて、ネルソン達も熱心に学んでいるところだった。

 

「……身体が元気でも心が沈んでいたり澱んでいたりすると、結局調子が悪くなったり、実力を発揮出来なかったりするわ。そういう観点からすると、今の明石達は簡単に崩れそうには無いけど」

 

「姉様、他に気に掛けるべき仲間がいるということですか?」

 

「ええ、ヴェスタルにもそれとなく様子を伺ってもらったけどね。一筋縄では行かない、そんな感じはするわ」

 

「あのお二人ですね……。実力は確かなものをお持ちですし、心が向く方向が変わるだけですぐに第一艦隊に割って入ってきそうなものなんですけど~」

 

 その二名の同僚の名を、アリゾナとヨークタウンという。艦船少女が固有で持つスキルという名の特殊能力について、前衛艦隊の耐久度を回復する、あるいは自身の耐久度が危険域に入った際に自己回復を行い、強力な航空攻撃を発動するといった、特に継戦能力に優れた者達であるのだが──。

 

「接し方が難しい、そんな印象がありますね……」

 

 ヨークタウンは過去の史実や、この世界でもミッドウェー海戦の勝利が確定した後で、飛龍の最後の猛攻撃を受け、護衛を務めていたハムマン共々半ば沈みかけたところを既(すんで)の所で救出されたということもあり、自分に関わった結果命を落としてしまう、あるいは未来や希望を信じた瞬間に裏切られるという自身への強い脅迫観念を持っている。

 そんな背景から驚くほどに自己評価が低く、『私なんかが……』が口癖のようになってしまっていた。事務仕事などはしっかりこなすのだが、実の姉妹であるエンタープライズやホーネットですらプライベートに少しでも踏み込もうものなら、他の相手に時間を割くようにと厚い壁を作って関係の改善を拒絶している現状がある。

 ハクトウワシの『いーぐるちゃん』と始めとして動物にも好かれやすく、元来の温厚な性格や艦載機運用の巧みさなど……多くの仲間達に信頼されているのに関わらず、その想いに背を向けて、もう一度這い上がることすら完全に諦めることでこれ以上傷つかないようにと、必死に自己防衛に務めているのだった。

 

 アリゾナも史実で沈んだ理由から、忘れられることを何よりも恐れ、他者の記憶に残り続ける事を望むばかりに、他の艦船少女の盾になろうとする意識が強く、出撃のたびに中破や大破が絶えない状況であった。彼女の実力が伴っているからこそ、中破や大破で留まっていると言えるほどの損傷に、強い痛みに涙を流しながらも仲間達を守れて良かったと儚げに微笑む表情が、指揮官達に強く印象として残っている。

 彼女も悲観的な思考が強く、薄倖そうな雰囲気を纏っているため、彼女の表情と涙は切り離せないところが多い。応急修理装置など設備面で多少は補っているものの、このままではいずれ彼女を失いかねないという懸念があるのだ。

 

 ネルソンは指揮官に肩の荷を降ろしてもらったことで、無駄な力が抜けてより質のいい仕事が出来ていると感じているし、また私的な時間も楽しめるようになっていると感謝している。ゆえに優れた力を持っているのに、実力を発揮しきれない艦隊の仲間である二人が前の自分と重なって、少しでもいい方向に向けてあげたいという思いを抱いていた。

 

「そもそも誘導を受け容れるかどうかという話もあるしね。ま、指揮官や私達にこれまでより心を開いてもらえるようにするところから始めないと」

 

 食堂に増やす新メニューの提案と称して、重桜ベースの煮込み料理や魚料理の試食役を取っ掛りにして、ヨークタウンと縁の深いハムマンや、アリゾナの実姉であるペンシルバニアにも協力を仰ごうとネルソンは考えを巡らすのだった。

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