*
「君は、どうしたい?」
そう口にして、明朝には此処を発つ、という事への名残惜しさをとっくりと含めた手つきで、イルザは少年の手をとった。彼は床の傍に置かれた灯りに照らされて暗がりに茫と浮かぶ、そんな彼女の姿へ、匂い立つような
彼女の纏う落ち着いた色合いの彩りが、やけに心を揺さぶった。
この
導かれるままに、身を、寄せた。
「正直なところ、まだ此処に居たい。でもやらなきゃいけない事がある」
「うん、私もだ」
凭れる少年の言葉に、微笑みながら彼女はそう答えた。どちらともなく言の葉を続ける機会が、ぴったりと揃った。
『だから、絶対に満足させてあげる』
「……ふふ」
「……あは」
互いににんまりと微笑い、抱きしめ合って、唇を合わせた。
始めはやさしく、触れていく。何度も啄む。
「……甘いね」
「……そうだな」
次第に繋がる時間が伸びていく。一秒ずつ、数秒ずつ、もっと長く、より激しく。
繋がる度に、甘さが濃くなっていった。舌を伸ばして絡め合う度に、互いの匂いに溶かされそうになった。歯茎を舐り合う度に、痺れを伴う快さが感じられた。
立ったままに、じっと動かないままに、たっぷりと時間をかけて唇を重ね合う。それだけではあるのだけれど、互いの色情は今までにないほどに燃え盛っていた。
その火が燃え移ったかのような熱気が、互いの身体の
「随分と苦しそう」
「そっちこそ」
寝巻の間から堂々と姿を見せる、雄肉ははち切れんばかりに膨らみ、恐ろしいほどの熱気と雄臭を漂わせて脈動に揺れた。その肉幹をやんわりと掌で包む彼女はといえば、少年の言う通り、厚い寝巻の上からでもはっきりと判る、ぷっくりと、乳頭を浮き立たせている。
「私は良いんだ。慣れている」
「……嘘でしょ?」
「うん、嘘だ。本当は君に胸を押し付けるだけで気をやってしまいそう」
「そうしてあげようか?」
「いや……今は私が君を満足させる番だ。あとで好きなようにさせてあげる。だから、その時まで我慢してくれるか?」
「じゃあ、我慢するよ」
名残惜しげな彼の言葉によろしい、と言いたげに頷いて、彼女は身を屈める。衣を留める帯を器用に片手で解きながら、脈打つ愛おしい雄の、獣の匂いを吸い込めば、じゅわりと音が聞こえそうなくらいに速やかに、早くもしとどに濡れた女陰はより潤みを増した。
解き終わって露わになった、灯りによる影さえ香りの装飾と感じられる、ひくひくと鼓動に震える精嚢に、彼女は僅かな時間鼻梁を埋めて、すん、と一嗅ぎ、そのまま一つを口に含み、舐め転がした。
「イルッ!? それっ!? やばっ!」
「
肉の味、雄の味、獣の味──愛おしい
それを口いっぱいに感じて、幸福感が彼女の心へ広がった。愛おしい雄への奉仕の味わいは、今の彼女にとっては極上の美味にも勝る。もう片方も口に含み、普段の美貌が嘘のように、下品に歪めながらも竿を柔らかに擦り上げた。
「あっ……出……ぐぅっ!? 」
少年は与えられる快楽に耐えられず、腰くだけになりながら彼女へ寄りかかり、今夜の第一射を放とうとしたが──竿の根元を彼女にぎゅうっと、思い切り握られて、それを押し留められる。
「
蕩けた顔で、彼女が玉袋を口にしたまま喋る。少年は次々に襲いかかる射精感にがくがくとしつつ耐えて、波が引いた隙に文句を言う。
「……口に、しなっ、がら……喋るっ……やめっ……」
「ん……ぷぁっ、ふぅ……初めは、ここだ」
ようやっと口を離した彼女が、とん、と指先で自らの身体を示した。少年はごくりと唾を飲み、彼女はと言えば、指し示したその場所、下腹部が刺激にか、ずくんと疼いた事を押し隠す。
「前言撤回。入れたくて堪らないんだけど、駄目?」
「まだ、駄目だ……心苦しいが、あと最低二回くらいは我慢してもらうよ」
「漏らしたりは……」
「漏らしそうになったらその度に指で締める」
ええ、と不満げな少年の文句には素知らぬ顔で、彼女は奉仕を再開した。
精嚢から裏筋へ沿い、ぞろりと舌を這わせ、強張る肉幹へと頬ずりしてから、今にも破裂しそうなほどにエラ張り、つるりとした光沢を見せる雁首へと唇だけを使ってむにむにと
「もし、かし、て……初日の、事を……恨んでる……?」
いつになく、ゆったりとした動きである事に気づいた彼が息も絶え絶えにそう問えば、雁首の裏をちろちろと
「ん、ふぁ……まさか。恨んではいないよ。でも、焦らした方が快感は大きくなる……君が教えてくれたんだ……はむっ」
「やっぱり、恨んでる、よね……? 」
そんな遣り取りでさえ心地よく、しかしそれが今の彼にとっては気を抜いてしまう一要素にも変貌しかねないので恐ろしくもあり。
彼女の激しくはない、ねっとりとした舌の動きが、いつまでも晴らされない淫欲に、熱を刻々と溜め込む肉茎を、
奉仕の内容はそのどれもが慈愛に満ち溢れ、しかし淫靡さを醸成し、その様は言葉にされない彼女の心が伝わるようで。豊かな黒髪がそよぎ触れるだけでも暴発しかねない。
口での奉仕はどれだけ続いたのか? 幾度となく襲い来てうねる快楽と、込み上げる射精感、それを無理矢理に留める彼女に時間の感覚は早くも失われ、それは同時に、予め二回と言われていた我慢が果たして何回であったのかを、彼がすっかり忘れた事を意味している。
彼を解き放つのは今や彼女の許しの言葉だけであり、さて、その言葉を紡がれただけで果ててしまうだろうというくらいには、抑えられ続けた男根は敏感に造り替えられてしまっていた。
「う……」
「……うん……よく出来た」
イルザは息を荒げて歯を食いしばる彼を座らせて、抱き合う形になりながら腰を下ろした。つぷりとほんの僅かな音を立てて、太股を伝い褥をびっしょりと濡らすほどに出来上がった、淫水に塗れた女陰が雄肉を飲み込む。
徐々に、徐々に腰を据え、根元まで飲み込む頃には互いの身体と、纏う衣も散々に湿らせて。
「もう、我慢しなくていい」
そっと顔を近づけて耳元で囁けば、その瞬間、彼女の膣内で噴火のような放出が始まった。
ふつふつと煮詰められた一度の迸りが恐ろしいまでの重量感で子宮内を叩いてへばりつき、保った熱は溶けた鉄さながらの、与えられた快楽は
「ひ、い、ぃぃ……」
咽ぶ声を上げながらも彼を抱き締めて、胎の子袋を源として荒れ狂う悦楽に、意識を飛ばされないよう、愛しい男への情を
そのうちに、ひと時の凪が訪れた事を彼の呻きを呼び水として知った。胎内に飲み込んだ雄肉は、あれほど吐き出したにもかかわらず未だに冷めやらず、むしろ硬さを増して、脈動にて彼女の子宮口を小突くばかり。
彼女の上気した顔にはじわりと汗が浮かび、それは速やかに香りへ変じて二人を包んだ……。
*
快楽の波にさらわれ、忘我に
珠の汗が身を寄せ合って形作った、ほんの僅かな水面が揺れる双丘の谷間にふらふらと誘われ、彼はその蜜へと思わず吸い付く──蜜は、凝りに凝った官能の精髄を裡に秘めていた。
山野にぽつりと佇む花の花弁に貯められた朝露は至上の甘露であるとは言われるが、少年が味わったこの蜜は、それに加えて薫り高くある。彼は俗に言われる極上の酒は水の様であるという話を思い返して、きっとこの蜜がそうなんだろうと考えた。
鼻腔を埋め尽くしたのは、美しい女の香りだった。
喉を通ったのは、肉肉しい雌の香りだった。
腑へ収まったのは、愛おしい母の香りだった。
五体に広がりゆく、どの様にあっても芳しい、彼女の薫り。
少年が残り香を鼻を鳴らして吸い込むと、背に柔らかな掌をそぅっと添えられ、優しく撫ぜられた。
触れる温もりと安心感に包まれて、微睡みに落ちそうで、しかし身体はまだ求め、心地良い眠りの水面に足先を浸した意識も、まだである、と気丈に告げ、本能の赴くままにその場所を辿って。探った先は衣の中は更に奥、闇の中にあって一際目立つ、むわりと甘いおんなの薫りが示す、濃い汗にじっとりと湿る、
嗅覚に狙いを任せて、その薄肌を
彼は愛おしい女を味わうという行為に伴う、凄まじい悦びを思い知った。愛しい人を味わうというのはここまで美味であるのかと驚き、また口付ける。これならば彼女が執拗に自らを味わおうとする事も頷ける、只ならぬ悦びが心中へ沁み渡る。
未だ確と保たれた常識がきっとそんな味ではないと語ったが、何度確かめようとも愛しい女の体液というものはその尽くが甘酸っぱく、薫り高く、えもいわれぬ、抗いようの無い昂りを与えてくれる味わいに感じられ、与えられた昂奮はさして間も置かずに、膣内にぴっちりと収められた雄肉へと期待を余す事なく伝え、潮にも似た勢いの先走りでもって子宮口を潤ませる。
今この時にも淫欲にふつふつと煮込まれ、生産と熟成を繰り返される胤は然程遠くない未来に来たる役目を果たす為、終わりの見えぬ作業を続けた。
イルザの甘露滴る柔肉を左右とも存分に味わい終わって、未だ満足には程遠い少年が次に目を付けたのは、先端がぷっくりと衣を浮かせていた豊乳である。
その乳房はじくじくと熟成された果てに、掴めば容易く指が沈み込む柔らかさが見てとれ、谷間の翳りは吸い込まれそうなほどに濃い夜を湛える。彼女の鼓動に合わせて乳頭はひく、ひくと物欲しそうに震え、肌に浮く珠の汗の煌めきは、その向こうにある柔肌を恐ろしく艶やかに映し出す。呼吸に上下する様子すら淫媚極まり、見ただけで達しそうになるほどの、むせ返る様な色気が発されている。
ごくりと彼が唾を飲んだ事により、膣肉に包まれる肉茎は大きく身を反り返らせた。
「ひ……あ────」
その刺激に彼女は嬌声をひとつ、それが治まる頃に乳輪ごと先端部を口に含まれ、今度は声にならない咽び声を上げた。少年は感じる甘い芳香と蕩けそうな肉感に、脳髄に幸福感が満ちるのを自覚する。意識ごと蕩かしそうなほどの、濃密な甘さを感じた。なのに先程に比べると安心させられるものがあり、咥えたままずっと身を委ねてやりたい衝動に駆られる。そのままくにゅりと甘噛みしてやると膣肉の反応は著しく、力一杯に雄肉を絞り上げる。
今やとろんとした
そのまっくらなものをちゅるりと音立てて啜り、嚥下し終えたとき、器から溢れる様にしてじわじわと先走りが吐き出された。彼はその事を全く自覚せず、その心の赴くままに、胎内に広がりゆく熱と快楽に悶える彼女を宥めるように抱き締めて、その豊かな胸元に頭を預ける。
とぷん、と桶に張ったぬるま湯に顔を浸すような心地に覆われて感じる、彼女の柔らかな肌の、肉の感触は、目を閉じれどもその触感から艶を含めて色づく、熱に浮かされた紅の色合いがありありと判別できるほどで、どこまでも緩やかに沈む、底知れない水底に彼を堕ろしていく……。
鼻は淫臭に包まれて馬鹿になり、眼は開けど茫洋として定かならず、耳は互いの鼓動が鳴り響いて反響する。ただ、頬の、掌の、肌に知る感覚のみが確として標の役割を担っていた。標を追って探るうちに、くらやみの最中に広がる柔肉にぽつんと、硬さと、張りのある、感触の違いを見出して、ゆっくりと、蕩けるような舌触りを味わい続けていた口腔に再び含んだ。
小指の先ほどの乳首を甘く噛み、膨らんだ乳輪と乳房の境を舌でなぞって、味わえるのは、たっぷりと彼女の血肉の薫り湛えた蜜の甘さと、ほどよい弾力。飴玉のように舐め転がし、時折舌で圧し潰し、あるいは軽く噛み付いて、彼は小一時間ほども縋り続けていた。
一心に身を預け舐めしゃぶる、あるいはじっと甘い吐息漏らしながらも抱き留めて許す、互いの姿は乳を与える母と、その胸で微睡む赤子に似て、しかし二人から漏れる吐息は色に染まり、爛れた空気が立ち込める。この有様を親と子の交流とするにはぴちゃ、ぴちゃと少年の舌が奏でる粘着質な音が邪魔をして、それは彼の髪にそよぐイルザの吐息も同様に。
交わりと言うには穏やかに過ぎ、交流と言うには淫らに過ぎたその光景は、ある種の矛盾を孕んでいながらも、二人の熱を冷ますこともなく、ただ際限なく高めていく……。
*
少年はそっと顔を上げた。たっぷりと柔肉を味わい尽くして、ひとまず満足がいったようだった。
長いことイルザの
「満、足……した……?」
「……イルザは、まだ、だよね?」
「いや……あぁっ……」
理由は無いのに、しかしはっきりとした確信のある感覚に意識は明瞭な陸へ上がって、そのままの勢いを乗せて答えた。
胎に呑まれたままにようやっと胤を吐き終えて、尚硬度を増すばかりである自らの脈動が、柔らかくなりつつある子宮口へと何度目かの小突きを行えば本心はいとも容易く露わになる。
今度はくにゅりと圧し潰した。脈打つ間隔に合わせて押し付けてやると、言葉とは裏腹に彼女の最奥が、その分ぐずりと融けて竿先を食んだ。
「まだ見たい、知りたい、溶かしたい」
「や、やめっ──いっ……」
小刻みに拍を打てば、その尽くを先走りにふやかされた胎が、どろどろと粘りつく悦びを与えられて震え、流体染みた動きで更にねだる。けれども、その身の主人は本意では無いようで。
「何っ、も゛ ……判、ら……、なくっ……な゛る、の、がぁ……」
「嫌?」
はらはらと涙を溢しながらも、必死で言の葉を紡ぐ彼女の姿にぴたりと動きを止めて、短く問えば。
彼女はすん、と鼻を啜ってこくりと頷き、続けた。
「わたっ、私だって、知りたいんだ。でも……でも、私は、君に比べれば、ずっと、弱い……。だから、手放さないで。私をずっと掴んで。目覚めさせて。導いて欲しい。何もかも差し出すから」
「うん」
顔をくしゃくしゃに歪めて、つっかえながらも紡がれた請い願う言葉へ、彼は静かに答えを返し。
「君に意識を飛ばされたら、
「……僕も、イルザを知りたい。髪の一筋さえ」
『この身にあるものは何もかもあげるから』
互いに揃って口にして、そのまま舌を絡めた。無情に互いを隔てる、無間に等しい壁を少しでも崩そうとした。身を寄せるだけで共に果て、吹き飛びそうな意識を手繰り、まだ多く残る、伝え足りない言葉を探して、しかし紡げず、代わりに溢れたものが一筋、頬を伝った。それらを互いに啜り合い、舌に載せて、味わって、飲み込んで。潮の薫る、魂の風味がほっとさせて、ちろちろと腑にかぎろう情念を僅かに鎮め、安らがせ、互いに楔を打った。
まだまだ足りず、見える肌に舌を這わせ、頬擦りして、食み、足りなくて。血の薫る、魄の風味が創を埋めて、快楽に痺れる髄の甘さを溶かし、分かち、互いを鎖で繋いだ。
互いを隔てる何もかも、僅かな衣、僅かな距離、諸々を尚打ち棄てる。互いの眼に映る、肌を晒して顕れた、各々の肉体を照らす灯りによる翳りさえ、今の、近づきたいという気持ちを昂らせるには十分に過ぎ、開放された淫臭が質量を持ったかのような重みを曳いて部屋へ立ち込める。その事に気付こうともせず、足に、叢に、腹に、脇に、耳に、髪に、凡ゆる部位に口を寄せ、延々と互いを貪り続けた。
愛おしい人へと仕える事が、綺麗にする事が、温める事が、味わう事が、伝える事が、解く事が、何もかもが、嬉しくて、堪らなくて、恋しくて。果てには融けて一つになるように、再び繋がり、身を寄せ合い、互いを構成する何もかもを紡いで、理解して、息を交わし、言葉を交わし、情を交わし、心を交わして、それでも、足りない。
互いに互いを擲ち、
幾度となく果てた先に、行き着いた言葉は驚くほど単純で、一点の曇りのない。心が探していたものをやっと見つけて、それを伴侶の為に捧げ、祈る。その姿は、様々な穢れに塗れているにもかかわらず神々しくもあり。
とくとくと密やかに、穏やかに、作られた端から鈴口より放たれ続ける胤はとうに役目を終えても止まる様子を見せず、同様に愛汁垂らす淫口と共にじわりと褥を汚して、濡らし続けたが、身を寄せ合う一組の
計り知れない交歓の果てに、どちらともなくぽつりと紡がれた言葉は静寂の沁み込んだ閨へ波紋を打ち、漣を響かせる。二人は波に攫われまいと互いをより強く抱き締めた。
限りなく小さな
*
「いつの日か、またお越し頂ければ幸いです。では……」
ワクラバの言葉に頷いた少年は、そっと傍に立つ伴侶の手を握り、隠を発った。
石畳に薄らと積もる雪を踏みしめながら、階段へ足を掛けた時、二人は何かに頭を撫ぜられた様な気がして、揃って振り向いたのだけれど。
何事も、ない。緩やかな風が粉雪散らして、宿の門を烟らせるばかり。
「何だろう?」
「マヨヒガかもね」
「ふふ、それはいい」
そう口にして二人して微笑いながら、麓までの僅かな旅路を、寄り添い山を降りて行く。
そのうち夫婦の姿が見えなくなった頃、唸るような、一際強い雪風が宿を隠すように吹きつけ、真白に染め上げていった。
隠宿交合録 了
これにて終了。いつか別の話を書くかもしれませんがそれはまだ先のこと。
具体的には古戦場が終わってから考えます。