俺と琴理が付き合い始めてから1年と少し経ち、俺らは高校を卒業した。そして卒業後はすぐに結婚をして…。
俺は就職し、琴理は専業主婦として生活を続けている。
まだこんなに若いのにどうして結婚したのかって?
それは言うなれば、二人の両親の策略結婚だったのだ。
決して政略ではないからそこは注意な。
お互い結婚を早くにさせたかったらしく二人をくっつける作戦を考えていた所に琴理が結婚したいと父親に宣言した事で話が一気に進んだとのこと。
あの時は気付かなかったが、実はコンドームに一定の割合で穴が開けられていて琴理を孕ませようとしていたのだ。
既成事実を作れば結婚までは一直線。
高校3年の冬、琴理が「妊娠しちゃった♡」と言った時はほんとに焦った。
すぐに琴理の家に行き、父親の目の前で土下座し孕ませた事の謝罪、琴理を嫁に貰う交渉をした。
交渉もなにもあっちは作戦通りだった訳で、君ならと快諾。
あとで皆グルだって知ったときはほんと恥ずかしかった。
琴理はもう子供出来ちゃったんだからと生でのsexをしたがったが、赤ちゃんが居るお腹に激しいものを出来るわけがなく。やっぱり静かなフェラやクンニなどが基本の生活をしていた。
「もう少しで生まれるね…」
ベットの上で大事そうにお腹をさする琴理はしみじみとそう言った。
「ああ、元気な赤ちゃんだといいな」
「2人目は男の子がいいなぁ…」
「お願いだから、今はその子を考えろよ」
「は~い。頑張って生まれてきてね~」
優しくお腹に語り掛ける琴理の顔は完全に母親の顔であり、少し不安になる。
「ん?どうしたの?」
不思議そうに俺の顔を覗き込んできた琴理を見てはっとする。
「琴理すっかりお母さんだなって思ってさ。俺はまだまだ父親っぽくなれてないのに…」
こういう時、男ってほんとダメだなと思う。
腹を痛めて子供を産むわけでなく、ただ近くに居るだけ。一体いつから男は父親になれるのだろうか。
「隆哉は充分お父さんだよ?」
「は?どこが…?」
全く理解出来ない。琴理はなにを思ってそう言うのだろう。
俺はただ種を撒いただけにすぎないのに。
「隆哉は私が辛くないように早い時間で帰って来てるし、最近は家事のほとんどは隆哉が負担しているでしょ?」
「それは二人で頑張るって決めたから…」
「それだけじゃないよ。私知ってるよ?隆哉は高卒だけど資格もいっぱい持ってるのに周りより二回りも若いから上司の人がエースとして働かせようとしてるって。
この前、上司の人から電話かかってきたの。家の事、大変なのにいろんなこと教えているからあまり怒らないでくれって。
それに、私のお腹触る時の隆哉の顔、お父さんの顔なんだよ?惚れちゃうよ…」
びっくりだった。自分の知らない所でこんなにもの感情が動いていたなんて。
琴理の負担を減らそうと頑張っていたけど、違う所で心配を掛けてしまっていたのか。
一人で突っ走ってしまっていた自分を叱責し、改めて琴理に向き直る。
「って琴理!?」
「ふぅううう、いたぃよおお…あ゛あ゛あ゛」
「すまないっ、今医者呼ぶから、堪えてくれよ!」
俺は慌ててナースコールのボタンを押した。
実は1週間前、琴理は倒れて入院をしていた。病名は貧血だった。
妊娠中の貧血は珍しくなく、俺も知識としてはあるんだなと知っていた。
だけれども、実際はそう簡単ではなかったのだ。
ソファに並んで座っているときだった。
琴理はふらっと俺にもたれ掛かってきた。この行為自体は最近寂しがり始めた流れでの甘えだと思った。
だが様子がおかしい。
不規則に繰り返す呼吸。苦しそうな呻き。そして、助けを求めるように裾を握る手。
すぐに救急車を呼んだのは言うまでもない。
医者から言われたのは妊娠中に起こりがちの貧血で、早めに来てくれて大事にならなかったと褒められた。
それからというもの流石に上司に詳しく伝え、育児休暇を貰える事にしてつきっきりで琴理の傍で励ましていたのだった。
「琴理、頑張れっ、俺がついてるから心配すんなっ!」
「んんんん…うんっ、うんっ!」
琴理の手を握り必死に応援する。俺に出来るのはこれ位しかないし、このために俺は、男は居るのだと思う。
情けない話だけどしょうがない。ほんとは頑張れって言葉は無責任で使いたく無いが、語彙力のない俺にはこう言うしかない。
「もう少しだ!琴理!踏ん張るんだ!!」
数十分後、病室には元気な産声が響き渡ったのだった。
妊娠中の貧血は本気でやばいらしく、母子ともに死の危険があります。父親になる皆様、頭の中に入れておいて必要なときに使えることを祈っております。