◆ ◆ ◆
女神アクアは、結構プライドが高い。
だからこそ、事ある毎に自分の事を自慢したがるし、残念な知力が冴えて茶化された事を認識した時には、烈火のように反応して怒ったり反抗したりする。
そんな彼女のプライドの琴線に今、触れまくっている"汚点"がある。
――カズマと肉体関係を持ってしまった、と云う事実である。
ダクネス達の罠に
「ああッ! ダメぇッ! 子宮がキュンキュンするぅッ! あへぇっ!
こんな下品で肉欲に満ちた、蕩けた台詞を放ちながら、自ら腰を振ってカズマの精――というより、自らの性欲を満たそうとすることはザラである。
カズマもそんな淫乱なアクアの姿に、多大な情欲を催しているようだ。相思相愛であるはずのめぐみんと体を交わすよりも、アクアと体を交わす機会の方が多くなってきているのだ。
「カズマは、私を愛してくれているんじゃないんですか!? アクアとばっかりえっちな事をして!!
私の事も、もっと一杯一杯愛してくださいッ!」
森からの帰り道では、頬を膨らませためぐみんがこんな文句を言う光景が恒例になっている。そしてカズマは、申し訳無さそう頭を
「だってさ、アクアの体から出る汁って、2人と違ってすごくサラサラで、綺麗なんだよ。味もジュースみたいに美味しいし。
めぐみんがオレの立場なら、分かると思うぜ。アクアの体を思わず選んでしまう理由」
カズマの言い訳は全く
一方のダクネスは、めぐみん以上にカズマと体を交わす機会が減っている。しかし、彼女は決して不満を漏らさない。むしろ、他の2人とカズマが交わっている姿を眺めて、鼻血が吹き出すような蕩け顔と荒い息を吐きながら、自慰に耽っている事が多い。
本番が欲しくはないのか、と尋ねてみれば…ダクネスは「勿論、たまには欲しくなる」と言いつつも、こう付け加える。
「しかし…私をそっちのけにして、私の目の前で他の女と交わる姿を見せつけられるのも…これはこれで物凄く良いものだと云う事に目覚めた…! これが世に言う、ネトラレ、というものなのだろうな!」
流石はダクネス、ドMの鑑である。
――話をアクアに戻す。
アクアは享楽を求めてカズマと肉体を交わす間柄になったのだが…その一方で、自己嫌悪にも陥っていた。即ち…。
(私は、女神という神聖極まりない存在なのに…! カズマなんて
超イケメンで超優秀な勇者様ならまだしも、あのカズマよ!? 勇者どころか、魔王軍すらドン引きするような鬼畜野郎のカズマよ!?
そんな奴の体に夢中になってるなんて…少なくとも、エリスには筒抜けなんでしょうね…!)
エリス――アクアの後輩の女神であり、カズマおよびアクアが転生したこの世界で死者を導く役割を担っている女神である。カズマのお気に入りであるが、アクアはその事を知らない。
(エリスの奴、今の私の事を見て、腹を抱えて笑っているんでしょうね…! あんな一般人…いや、クズの体に溺れるなんて、なんて下劣な女神なんだろうって! 女神失格、なんて思ってるかも知れないわッ!
くっそぉ…! あいつもカズマのチンポ地獄に浸からせてやりたい…!)
後輩女神を自分と同じ立場に
(このやり場のない苦しみを、一体どこへぶつけてやるべきか…!)
ある日の夜、館の自室で寝間着姿になったアクアは拳を握り締めて震わせつつ、低い知力の思考を必死に巡らせる。
その時、天恵――女神相手にこの言葉を使うのは、
「そうよッ!
"あいつ"よッ!
腐った死体のくせして、脳天気に清純気取っちゃってる、あのクソアマよッ!」
アクアは思わず大声を張り上げつつ、ガバッと直立すると、拳を天に振り上げる。
「待ってなさいよ、クソアマッ!
女神様の私がこんな目に遭ったんだからねッ! 下劣なアンタには、もっともぉーっとスンゴイ目に遭ってもらうんだからッ!
アーッハッハッハッハッ!」
高らかに――館中に響き渡る程の、雷鳴のような声を張り上げて、大笑いするアクア。
…そこへ偶然通り掛かったカズマに、「うるせぇよッ!」と文句を言われつつ、蹴りを叩き込まれたのは、数瞬後のことである。
◆ ◆ ◆
ある日の早朝。まだ朝靄煙るような時間帯に、非常に珍しくアクアはアクセルの街を出歩いている。
この時間帯は既に、通りで商人達が各々の店の開店準備を始めている。その合間には、早朝から仕事に出立する生真面目な冒険者の、商品を覗き込んでいたり、商人と熱心に会話している姿が見える。
日が高く昇る頃まではベッドでゆっくり眠っているアクアは、こんな朝の風景を目にしてある種の感嘆を覚えながらも…。
(冒険なんて、死ぬほど面倒でキツい仕事のために、こんな朝っぱらから熱心に準備するなんて…人間って、基本的にはドMよねー)
そんな失礼極まりない感想を抱く。
こうした光景を横目にしながら、アクアは人[r[b:集>だか]]りの中を出来るだけサッサと掻き分けて歩く。
彼女が目指すのは、街の郊外の方だ。
しばらく歩き続け、街並みが商業寄りから住宅寄りへ、そして閑散とした郊外の地区へと至ると…。間もなく、"その店"が目に入ってくる。
見た目は、飾りっ気のない非常に質素な一軒家。しかし、知る人に取っては、
魔王軍の幹部であるリッチのウィズが経営している魔法屋である。
重宝されているとは言え、客はこの店の商品に価値を見出しているのではない。店主のウィズは全く商才がなく、ガラクタ同然の商品ばかり陳列しているからだ。それでもこの店に客が足を運ぶ理由は、店主のウィズ自身に価値があるからだ。彼女の優秀な魔法使いとしての才に多大な需要があるのである。
――もっとも、最近は悪魔バニルが従業員として加勢したため、品揃えは大分マシになり、買い物目的の客がチョコチョコと増えてきている。
それはそうと…この早朝の時間帯には客の姿はない。そもそも開店しておらず、出入り口の扉には"準備中"とハッキリ書かれた札がぶら下がっている。
しかしアクアは、持ち前の傲慢さを発揮し、
――もしも鍵が掛かっていたら、無為な待ち時間を過ごすことになっただろうが…知力の低いアクアは、そんな事まで気を回したりしない。
「魔王軍幹部のクソリッチ、居るー!?」
失礼極まりない呼び掛けを大声で発しながら入店する。これに対して…。
「相変わらず泥のように汚い口ぶりだな、駄女神」
言葉を返してきたのはウィズではなく、小馬鹿にしているようにさえ聞こえる丁寧な口調をした男の声。悪魔バニルである。
アクアは声に反応して険悪な
「何よ、私は本当の事を言っただけよ? リッチなんて所詮はアンデッド、そこら辺に落ちている犬のウンコみたいなモンじゃない」
「恥じらいなく排泄物の名前を口にするとは、流石は駄女神の鑑」
バニルが大仰に踊るような動作を取りながら堂々と語れば、アクアは片眉をビクンと跳ね上げる。
「…この虫ケラ悪魔…! 今日この場で浄化してあげようかしら…!?」
「やってみるが良い、駄女神! 貴様程度の力でこの私をどうにか出来るとは思えないがなッ!」
売り言葉に買い言葉が続き、2人の間に険悪な雰囲気が漂い、一触即発の状況が形成された…かと思いきや。乏しいアクアの知性が冴え渡ると、彼女は首を左右に振って思い直し、険悪な雰囲気を引っ込める。
「アンタに構ってる暇は無いのよね。さっさと用事終わらせて、帰って二度寝したいんだから。
という事で、ウィズの奴を出してよ」
「ふむ、店主か…。
残念ながら、今は外出しているのだ。さほど時間は掛からないはずだが、少し待ってもらうことになる」
アクアは心底面倒そうな顔をする。もう"目的"なんぞほっぽり出して、すぐにでも帰って二度寝したい気持ちがムクムクと膨らんできたが…。
(ダメダメッ! これは私のプライドが掛かってるんだからッ!
一時のベッドの誘惑なんかに負けちゃダメッ!)
頭を左右に振り、両頬を自らの平手でパンパンと叩き、頭の中から甘えた心を叩き出す。
そんな様子を見ていたバニルは、普段の脳天気な様子と少し違うアクアの様子に違和感を感じ、露わになった口元に疑問を
「差し支えないのならば、店主に何の用があるのか、聞かせてもらえないだろうか?
もしかして、カズマが新しい商品を考えた…などではあるまいな? それならば、店主よりもこの私に相談してくれたまえ。店主以上にリーズナブルにウィンウィンの関係を作る事を約束しよう」
「いや…商売の話じゃなくてね…」
ここまで言って、アクアは困り果ててしまう。
知力の低いアクアは、足りない頭をフル回転させて、どうにかウィズを"罠に誘い込む"方法を考え出したものの…。バニルを初め、その他の者達を
勿論、正直に答えるワケには行かない。色々な意味でノリの良いバニルであるが、この"罠"は悪戯の域を遙かに越えた――下衆の極みと称されても仕方のない――代物に対して喜んで加担するような人物ではない。そもそも、バニルはアクアとは馬の合わない存在であり、加勢どころか邪魔に回る可能性も十分にある。
「商売じゃないのならば、何だというのかね? 駄女神が、我々魔王軍に対して用件を持ち込むなど、実に興味深い」
バニルが更に追求してくると、アクアは密かに冷や汗を一筋流す。何と説明して良いか、全く思いつかない。
(あーもーッ! なんで外出なんてしてんのよ、あのヘッポコ店主は!)
――そんな胸中の文句が、天か、はたまたは因果律というヤツに作用したのか。ガチャリ、と店の扉が開く音がしたかと思うと、アクアの待ち望んでいた店主が店内に姿を現す。
「バニルさん、ただいま。
あれ、アクアさんじゃないですか。珍しいですね、こんな時間に。何かご用でしょうか?」
おっとりした雰囲気で語る、色白ながらも暗い陰の気配を纏った女性。ゆったりとしたローブの上からでもわかる豊満な肉体は、ダクネスのものとは違う、女性特有の柔らかさが存分に発揮されている。
彼女こそ、この店の店主であり、魔王軍幹部の一人でもあるリッチのウィズである。
ウィズは両手に妙ちくりんな形をした壷を抱えている。アクアが察するに、相当な強さながらもへんてこな魔力を帯びているので、ウィズお決まりのガラクタ商品を仕入れてきたようだ。
この商品を真っ先に視界に入れたバニルは、ハァ…、と深いため息を吐く。
「店主よ、今度は何をどれほどの値段で仕入れてきたというのか」
「これはですね、本当に良いものなんですよ!
この壺に土を入れて、種を蒔いて育てると、虹色に変化するトマトが成るんですって! 珍しくて面白いでしょう?」
「…確かに珍しいが、そんなものにどれだけの価値があるというのか。どんな需要があるというのか…」
「ホラ、珍しい野菜で一儲けしたい! という農家の方に売れるかなーと思ったんですけど。
…ダメでしょうか?」
「はっきりいって、ダメダメです。ただのガラクタですよ、こんなモノ」
「えーっ! こんなに面白いのにーっ!」
…こんなウィズとバニルのやり取りは、黙っていれば何時までも続きそうだ。見ているのは楽しいが、それではアクアの目的が果たせない。
アクアはわざと大きめの咳払いをし、2人の注意を自分に向けさせて会話の流れと止めると。すかさずウィズの方へと顔を向けて語る。
「あのね、ウィズ。女神である私としては、凄く不本意極まりない話なんだけど…カズマがとても悩んでいるから、仕方なくアナタに頼みに来たのよ。
カズマの仕事を、手伝って欲しいのよ」
「カズマさんの、仕事ですか?
アクアさん他3名の仲間が居る上で、私に手伝いをお願いするという事は…よっぽど、難しいお仕事なんですね…」
「そ、そうなのよー。
もっとカズマが頼りになれば楽勝なんんだけど、足を引っ張るばっかりでねー。実質、マイナス一人ってところなのよー」
アクアと違って色々と察しのよいウィズは、良い意味でアクアにとって想定外の方向で作り話を都合の良い方向に解釈してくれたようだ。
ウィズはにこやかに微笑むと、仕事の詳細を尋ねるより早くに、アクアの頼みを快諾する。
「カズマさんには色々と恩がありますからね。是非、協力させていただきます」
「助かるわー」
そう語りながら、アクアはチラリとバニルの方へと目を向ける。バニルが「店主が居なくては商いが成立しない!」などのケチを入れてくるのではないか、と危惧したからだが…それは杞憂に終わる。
バニルは"どうぞどうぞ、勝手にやってくれ"と言わんばかりの態度で、微笑みすら浮かべつつ、ウィズに向けて手を振る。
「ぶっちゃけ、商才の無い店主に居られる方が、商売上の不都合を背負い込む事になるからな。どこへとなり、好きに連れて行ってくれたまえ。
この店は、私がよろしく切り盛りしておく」
「頼みますね、バニルさん!」
バニルの言葉は少々ならずとも侮蔑とも取れる内容を含んでいたが。のほほんとした性格のウィズは純粋なる好意として捉えている。お目出度い性格である。
(だからこそ、アンタを選んだんだけどね…)
アクアは内心でほくそ笑みながら、早速ウィズの手を引っ張って店の外へと連れ出しにかかる。
「そうと決まれば、早速仕事の内容を伝えるわね。
この辺に軽食屋でも無いかしら? そこでお話しましょう」
「はい、わかりました。軽食屋なら…」
こうして2人が店から出ていく一方で、バニルは早くも陳列された商品を検分し、並び替えを始めるなど、仕事に取りかかる。
◆ ◆ ◆
ウィズが案内した軽食屋は、ギルドの建物とは比べ物にならない程にこじんまりとした、貧相な建物である。
飾り気は全くない――いや、壁や屋根に蔓延る苔や亀裂を飾りを見立てることは出来るかも知れない。そんな年代ものの店であった。
この店が早朝でも開店しているのは、この辺りを活動の場としている稼ぎ人達が朝食を求めて来店するからである。店の中はそれなりに人々の姿があり、この店が見かけの割には繁盛している事が分かる。
酷くひび割れてガタガタに傾いているテーブルに着いたアクアは、いつもの調子で朝からシュワシュワを味わいたい衝動に駆られたが。目の前のウィズを見つめ直し、目的をガッチリと胸に刻むと、固唾と共に衝動を
しかしながら、朝から何も食べていない大食いのアクアは、アルコールは避けながらも、ガッツリとした肉系の定食を注文する。
一方のウィズは、紅茶と小さめのパンを頼むに留まる。既に朝食を摂った後なのかも知れない。
料理が運ばれてくるまでの間、アクアは早速ウィズに仕事の話――いや、"罠への誘い道"をしかける。
「街の外の森に最近、正体不明の魔物が住み着いたって話は聞いてる?」
「いえ…初耳ですね」
ウィズは職業柄、冒険者と接する機会もあるはずである。それでもカズマが引き受けた仕事の話を知らないという事は、この仕事が他の冒険者にとって魅力が無いという証拠なのだろう。実際、あまり人が足を運ばない無用な森の得体の知れない話など、一般的な冒険者なら首を突っ込みたくないだろう。
ウィズが情報を知らないという事実は、アクアの策略にとって有利に働く。思わずニンマリと
「そっか、初耳なんだ。
カズマがね、その森の調査の仕事を取って来たのよ。それで私達も強引に手伝いをさせられているんだけど…。そこの森って、物凄く暗いわ、木と草でゴチャゴチャだわで、思うように調査が進まないのよ。ちょっと歩き回るだけで、日が暮れちゃうんだもの。
これはもう、努力と根性だけじゃどうにもならないと思ってね。魔法の力を使って調査しようって話になったんだけど…。めぐみんは爆裂魔法以外に魔法を覚える気がないし、私も浄化や回復の魔法は得意だけど調査の魔法は使えないし…。
そこで、アンタなら色々な分野の魔法が得意そうだから、何とかならないかなー、と思ってね。相談に来たってワケ」
ここまで聞いた時、用心深い人物ならば疑問を呈する事だろう。"その仕事を引き受けたのがカズマならば、カズマ自身が手伝いの頼みに来るのが筋ではないのか? 何故アクアが足労しているのか?"と。
しかし、脳天気なウィズは「なるほど、よく分かりました」と疑問を呈する余地もなく、すぐに話に乗ってくれる。
「確かに、私は調査系の魔法もいくつか使えます。今回の件でどの程度のお役に立てるか分かりませんが…出来る限り、お力添えさせていただきます」
拳を強く握り、意気込みをアピールしてさえくれるウィズの純真さを前にして、アクアは大笑いがしたくて
(真っ白なものをドロッドロな真っ黒の中に叩き込みたくなる気持ちって、こういうものなのね…! クセになりそう…!)
だが、この胸中をウィズに悟られるワケには行かない。アクアは努めて冷静に、小さく咳払いをしてから語る。
「それじゃあ、早速なんだけど、明日から同行を頼めるかしら?
集合時間は、そうねぇ…」
アクアは遠出の冒険をするには少々遅い時刻を提示したものの、ウィズは突っ込む事なく、何の疑問も差し挟まない眩しい微笑みを浮かべて首を縦に振り、快諾してくれる。
――これで、下ごしらえは終わった。
館に戻ったアクアは、真っ先にカズマの元を尋ねると。ニヤリと陰を含んだ卑しい笑みを浮かべて、話を持ちかける。
「ねぇ、カズマ。アナタにとって、色んな意味で美味しい話があるんだけど。乗るわよね、乗るしかないわよね?」
有無を言わせぬ迫りように、カズマはジト目を作ってアクアを睨むが…すぐに観念したように溜息を吐く。
「お前の提案ってのは、正直、嫌な予感しかしないんだけど…。どうせ、ふんじばってでも言う事聞かせる気なんだろ?
乗ってやるから、話してみろよ」
…そして、アクアが語った提案の一部始終を耳に入れたカズマは…アクア以上に嫌らしい、手鏡で女子高生のスカートの中身を覗き込んで息を荒げるエロオヤジのような面持ちを作る。
「…お前ってば、女神のクセに悪よのう…!
だが、グッジョブな話だ!」
そしてカズマは、膨らんだ股間に手を置いて呟く。
「このときめきに、胸どころかチンコが膨らんじまうぜ…!」
◆ ◆ ◆
翌日。アクセルの街の出入り口近くで、アクアとウィズは合流する。
この時、ウィズはすぐに顔をキョトンとさせ、キョロキョロと辺りを見回す。
「あれ、カズマさんは来てないんですか? それに、めぐみんさんやダクネスさんの姿もないですけど?」
「カズマはちょっと用事があってね、後で追ってくるわ。
めぐみんとダクネスは別の仕事に行くことになったの。どうせ足手まといだしね」
アクアはすらすらと虚偽を答えるが、これは彼女自身が考え出した演技ではなく、カズマの入れ知恵である。
めぐみんとダクネスは他の仕事に行っているワケではなく、館で待機しているだけだ。2人も同行したがったのだが、カズマが説得に説得を重ねて、なんとか待機を承諾してもらっていた。
特にめぐみんは、今回の"罠"の全貌を知ると、非常に嫌がったのだが。彼女の子供っぽい抵抗よりも、カズマの鬼畜さが断然に上回ったのである。
そんなカズマは、今は既に館から姿を消している。一体何処へ行ったのかというのは…後ほど明らかになるだろう。
「分かりました。それでは、行きましょうか」
ウィズはやはり疑問を差し挟むことなく、純朴にアクアの言を信じて、[
道すがら2人は、近頃の出来事を面白おかしく語り合い、退屈且つ疲弊しがちな道程を潰す。
「そうなんですかー。カズマさんったら、やっぱり面白い人なんですね。フフフ」
アクアがカズマの恥ずかしい話を有ること無いこと構わず間断なく語っていると、ウィズは玉を転がすような声でクスクスと笑う。
その姿を目にしたアクアは、ウィズの穏やかにして魅力溢れる姿に、同性ながらも見とれてしまう。
おっとりとした、美人というよりはカワイイ系の顔立ちは、子供と楽しく
きっと、ローブの下には――ダクネスとは全く別の意味で――程良く柔らかな肉の着いた肉体があるのだろう。そんな空想をまざまざと思い起こさせる肉体は、男にとってどれほどの垂涎の的であろうか。
(そういえばコイツ、同じ魔王軍の幹部のデュラハンにセクハラされまくってた…って話だったわよね。
そりゃあ、こんなエロい体していながら、
アクアが嫉妬めいた感情を小さく胸中に抱いていると…意図せずに自然と、こんな事を口にして訊いてしまう。
「アンタって、昔は人間として冒険者もやってたんでしょ? むさ苦しい男達から、さぞかしモテたでしょうね?
実は、バリバリのヤリマンビッチだったりして!?」
その言葉を聞いたウィズは、顔を真っ赤にしながら必死になって掌をブンブンと振り、否定する。
「そ、そんなはしたない事、ないですよ!
そもそも私、男性の方とお付き合いした事なんてありませんし! お付き合い目的で声を掛けられた事すら、無いんですよ!」
この告白に、アクアは思わず口を丸くして言葉を失う。
元は凄腕の魔法職の冒険者として活躍していたと聞く。商才――というか、感性の問題なのかも知れない――はハズレかも知れないが、器量良し性格良しの好人物である。男が放っておくなど、信じられるワケがない。
――しかし、考えれてみれば――。セクハラに長けたカズマも、ウィズとは極普通に接するばかりで、イヤらしい手を伸ばした事は一度もない。
(おっとり過ぎる性格が、かーちゃんを思わせて、男の情欲を殺いでしまうのかしら?)
そんな事を考えながら、ダクネスはふとウィズの揺れる胸に視線を向ける。
――デカい。ダクネスもかなり大きいが、それに引けを取らない大きさだ。しかも、重力に負けてだらしなく垂れ下がる事もない。豊穣を司る女神の像を思わせる完璧な乳房が、ここにある。
(あんな立派なモノを持ちながら、男が手を出さないなんて、世の中どうにかしてるわ…)
ふと、ウィズがアクアの視線に気づき、キョトンとした顔で問うてくる。
「私の胸元に、何かありますか? 虫でも着いてました?」
「い、いえ! 何でも無いわ、ちょっとボーッとしちゃっただけ!」
そう誤魔化したアクアは、悶々としてしまう思考を振り切るように歩調を早めてウィズの前に出て、森へと進んでゆく。
◆ ◆ ◆
さて、2人はジキテリオの棲む鬱蒼とした森に至る。
ウィズは呪文こそ唱えないものの、瞼を閉じて精神を集中。森から発せられる魔力や生命力の気配を関知しているようだ。
ここで早速、アクアはギクリとする。ウィズも自分のように、強力な魔法攻撃で速攻でケリを付けようとするのではないかと。
(ここで気合いを入れられるのはマズいわ! "目標地点"まで誘い込まないと…私が面倒になる!)
アクアは口の中で言葉を転がし、ウィズを何とかして森の奥へ誘う口実を作り出そうと奮闘するが。彼女の危惧と努力は、杞憂に終わる。
「…サイズとしては小さいですけど、妙な気配が点々と、森の中の至るところにあるようです。
ですが…それ以上の事はよく分かりませんね。調査魔法を使ってみないことには、どんな相手なのか、はっきり言えないです」
「そ、そう。
そ、それじゃあ、奥に行きましょ、奥に! ここから魔法使っても、森の奥の方まで効果が届かないでしょ? だから、奥の方にね、奥の方!」
アクアの頭は残念な出来である。器用な演技を求めるのは酷というものだ。だから彼女の奥へ誘う台詞と態度は、はっきりとした挙動不審となって現れてしまう。
これには、流石のウィズも首を傾げる。
「でも…ここで一度調査魔法を使った方が良いと思いますよ。近くに潜んでいて、不意打ちしてくる事も十分に考えられます。ここは慎重に行くべきではないでしょうか?」
流石は元冒険者のウィズ、全く
しかし、ここで言い負かされては、アクアの計画に暗雲が垂れ込めてしまう!
アクアは取り敢えず、あたふたしてても構わずに、強引にでもウィズを説き伏せに掛かる。
「ほ、ほら、私達、もう何度もこの森に来てるけど、ここで襲われた事なんて一度もないわ! もっと、もっと奥に行かないと、会えないみたいなのよ! だから、ね、こんなところでね、魔力を浪費しても仕方ないから! 奥に行こ、奥に! ホラ、進も! ホラ、ホラ、行った行った!」
アクアは挙げ句の果てには、ウィズの背中を押して森の奥へと強引に歩ませる。
「あ、ちょっと! 今までが大丈夫だったといっても、今日が大丈夫とは限らないじゃないですか!
あの、あの! ちょっとぉ!」
ウィズは少し抵抗してみせるものの、アクアを止める程の強さはない。元々穏やかでのほほんとした性格のウィズだ、強引さに正面切って反抗するような反骨心は持ち合わせていないようだ。
「大丈夫、大丈夫!
いざとなったら私が何とかするから! ね、ね! だから、奥に行こ、奥に! さー、進めー! 冒険の始まりだー!」
「わ、分かりました、分かりましたから! 背中をあんまり押さないで下さい! 転んじゃいそうです!」
――そんなやり取りをして、2人は木漏れ日の少ない、鬱蒼とした森の奥へと進んでゆく。
アクアが足を止めたのは、常識ある冒険者ならば「え、何でこんな所で待機するの!?」と言い出しそうな場所である。
一抱えしても尚余るような太さの幹を有する大樹が林立し、見通しが悪すぎる。大地からは腰程の高さまで生えた雑草が生い茂り、足下も
魔獣にしてみれば隠れ放題だし、冒険者にしてみれば逃走したり体勢を立て直したりし辛い場所である。
「この辺なら良いでしょ!」
木々の幹に
「も、もう少し開けた場所に行きませんか!? ここじゃあ、奇襲を受けた時に大変です!
せめて、雑草だけでも何とかしないと! 走るのも大変ですよ!」
「…確かにね。雑草は邪魔だと思うわ。
でもそんな事、アンタが気にすることじゃないわ」
答えるアクアは、ニヤリ、と暗い輝きを灯した嫌らしい笑みを浮かべる。
ゾクリ、とウィズの背中に不安が氷のように
「え…それって、どういう事…」
ウィズが
「…!! んあああぁぁぁっ!!
ど、どうして…! んくあああっ! どうして、こんな事…あああぁぁぁ!」
電撃のような痛みを覚え、ウィズは叫ぶ。何とかアクアから手をふりほどこうとするが、注ぎ込まれる神聖な力によって、全身に力が入らない。膝が棒のようにカクンと脱力し、ウィズはその場で膝立ちへとへたり込む。
アクアは「アーッハッハッハ!」と悪の女幹部よろしく高笑いを木霊させると、更にこう叫ぶ。
「さあ、出番よ! ジキテリオ、そして…カズマ!!」
ウィズは眼を見開く。ジキテリオという名前には全く覚えがないが、カズマの名を忘れるワケがない。
そしてウィズは悟る。この出来事――いや、罠は、アクアとカズマによる企みであると。
しかし、理由が全く分からない。アクアだけならば魔王軍を目の敵にしているという事情も理解できるが…これまで再三とウィズを
だが…ウィズの眼前には、絶望的な光景が現れる。近傍の巨木の陰からスッと姿を表す、一人の男の姿。――アクアと同じく、暗く嫌らしい笑みを瞳に
「か、カズマさん…んあああぁぁぁっ!
ど、どうして!? どうしてこんな…くはあああんっ!」
激痛の中、困惑を拭えぬウィズが問い
「こういう事だよ…! スティィィィルッ!」
森中に木霊するような気合いと共に、カズマは高らかにスキルの名を叫ぶ。同時に、伸ばした掌が
輝きが消えたと同時に、カズマは開いていた右手をガッシリと握り締める。そして、キョトンと疑問符を頭上に浮かべる。
対象の持ち物を盗み取るスキル、スティール。それによってカズマはウィズから何かを奪い取ろうとしたワケだが…この表情から察するに、想定外のものを奪い取ってしまったようだ。
カズマは想定していたよりもコンパクトな感覚に違和感を感じながら、掌の中身を確認する。そこにあったのは、黒みがかった紫色を呈した、薄い布製の逸品――即ち、パンツである。
「おおう!? なんでパンツだけ!?
いや、これはこれで嬉しいけどさッ!」
「いやああああッ! スースーします…あああああッ!」
「何やってんのよ、このパンツマニア!
ちゃっちゃと目的を果たしなさいよ!」
「わ、分かってる! そ、それじゃあ気を取り直して…!
もう一回、スティィィィルッ!」
騒々しいやり取りを経て、再びスキルを発動させるカズマ。眩い輝きが鬱蒼とした森に広がり、それが徐々に収束してゆくと…カズマはニンマリと笑みを大きくする。今度は彼の目論見通りに行ったようだ。
そして、カズマがウィズから奪い取ったものは、一目瞭然である。
ウィズが身につけていた、ローブ一式である。
今、ウィズは黒みがかったブラジャーだけを身につけた状態だ。パンツは先に奪われているので、股間の秘部は丸出しだ。秘裂を覆う薄い茂みが露わになっている。
股間に目が行きがちだが、ウィズの裸体そのものも素晴らしい。リッチというアンデッド系統の存在でありながら、瑞々しい張りのある色白の皮膚。ブラジャーからこぼれ落ちそうな、タップリとした豊満なる乳房。触れると指を何処までも吸い込みそうに思える、ふくよかな柔軟性。
(想像した通りだ…!
なんてスゲェ体なんだ…!)
カズマは手にしたローブをそこら辺に捨て置きながら、興奮に鼻息を荒くする。股間は一気にビンと堅く、長く
「そんな、カズマさん…! こんな事、良くない…んあああぁぁぁッ!」
「何時までも五月蠅いわね、この処女ビッチッ!
さてジキテリオ、この女をグルグル巻きにしちゃいなさい!」
アクアの呼び声に応じて、周囲の背高い雑草がガサゴソと鳴り出す。草葉の陰に潜んでいたジキテリオ達が姿を現し、膨らんだ蜘蛛の腹部をウィズに向けると――プシュープシュープシューッ! と粘り気の強い液状の糸を吹き出す。
「な、何ですか、これ…!
んはぁんっ! 変な気持ちに…んあああぁぁぁっ!」
ジキテリオの糸は性感を増幅する作用を持つ。ほぼ全裸に近いウィズの体に次々と触れる糸は、ウィズの全身の性感を鋭敏にすると共に、アクアから流れ込む神聖なる力の刺激をも性的刺激に変えてしまう。ウィズの顔は見る見る内に上気して紅潮し、頭から湯気が出そうな程に熱くなる。
「どうしてこんな…! ああああ…!
私、カズマさんに、何か…んんああっ!」
「別に何もしてないさ、ウィズは」
カズマは両手を肩の高さに上げ、首を左右に振る。そして、「ただな…」と付け加え、言葉を次ぐ。
「男の
恨むなら、オレにこの話をそそのかした、アクアを恨め!」
「アクアさん!? わた…」
ウィズは、尚も何か告げようとしたが…もう時は遅い。ジキテリオ達による蜘蛛糸噴射の嵐は、ウィズの柔肌を完全に覆い着くし、ギチギチに拘束してしまったのだ。ウィズの顔も、目鼻口の輪郭は分かるものの、色白の肌は1ミリとて覗けやしない。
ウィズが完全な蜘蛛糸のミイラと化すと、アクアはウィズから手を離す。するとミイラは重力の為すがままに、雑草の生い茂る大地へと倒れる。
一仕事を終えたジキテリオは、溜息混じりにカズマの頭に言葉をかける。
(女神の次は、リッチか。お前も物好きな男だな)
「良いだろ、お前だって貴重な女体の感覚が味わえるんだからよ!
さーて、それじゃあ早速…」
カズマはズボンを脱ぎかけて…ピタリと手を止めると、そこら辺一帯に視線を這わせる。そして、ポツリと、こう漏らす。
「草刈り、するか…」
――そう、身動きの取れなくなった女を相手にするとは言え、あまりにも
カズマはめぐみんに"ちゅんちゅん丸"と名付けられた短刀を抜くと、しゃがみ込んで黙々と草を刈り始めたのだった。
- To Be Continued -