◆ ◆ ◆
昼下がりの空は青く澄んでいて、流れる白雲が綿菓子のような優しさを称えてゆっくりと流れている。
ポカポカとした陽気が
世界は魔王に脅かされている事を忘れてしまう程に、平穏な光景を広げている。
一方で――。
カズマとダクネスの2人は、
光と言えば、高い
だから2人は、この森を進むために、ランタンを片手に下げている。
(サキュバスのお姉さん達から"ランタンと長靴は必須です"と言われた時には、洞窟じゃあるまいしって鼻で笑ってたけど…。
まさか、これほどまでとは…)
カズマは胸中で呟きながら、ランタンを持っていない左手で額を伝う汗を拭う。
カズマの汗には、2つの理由が混じり合っている。
1つは、森を覆う蒸し暑さだ。森の中は暗い割には、真夏の日本で扇風機も回さずに放置された物置の中のように、猛烈な湿気を帯びた熱がこもっている。葉から放出される蒸気が、森の外から入ってくる陽気を捕らえて離さないのだろう。上着を脱ぎ捨てたくなるくらい、暑い。
そしてもう1つの理由は、疲労によるものだ。疲労の原因の第一は、悪すぎる足場にある。この森は人が近づかないだけあって、舗装された道は勿論、旅人達の足によって踏みしめられた道すらもない。暗い割にはウジャウジャと生い茂っているシダ植物やら、気を抜くと足を取られて滑ってしまいそうなコケ、そして複雑に入り組んだ木の根が
「だ、大丈夫かー、ダクネスー…」
カズマは上がった息の合間から、気遣いの言葉を絞り出す。すると、前を進むダクネスは軽やかな動きで振り向くと、力
「ああ、心配ない。足腰を鍛えるために、毎日森の中で走り込んでいるからな!
ここまで酷い森は初めてだが、大変という程じゃない」
「…その敏捷性を、モンスターと戦う時にも活かしてくれよ…」
カズマはポツリと呟く。ダクネスは相当な肉体修練を積み、運動神経は抜群であるはずなのだが、彼女の剣はどんな敵にもカスリもしない。"不器用なんだ"と説明されてはいるが、拳や蹴りが当たる事を考えると、どうもそれだけでは説明が付かないような気がするが…。
…と、そんな事を胸中で考えているカズマに、ダクネスは急に興奮し上気した声を上げる。
「そ…それにしても…!
こんないかにも前人未踏な危険スポットを、防具無しで歩けとは…!
流石はカズマ、私の見込んだだけの事はある鬼畜だな!」
「鬼畜とか言うなッ!」
カズマは反射的にそう叫んだものの…今回の目的は鬼畜行為そのものであるため、ちょっぴり胸の内がズキリとする。
しかし、頬を赤くして、蕩けそうな顔をして叫ぶダクネスの色っぽさを前にすると、罪悪感は直ぐに縮こまり、代わりに股間がムクムクと膨らんでくる。
加えて――ダクネス自身が言う通り、彼女が普段身につけている純白の鎧がなく、ダイナマイトなプロポーションに服が汗でピッタリと張り付いている様には、欲情を覚えずには居られない。健康的に引き締まりながらも、女性特有の柔らかさとボリュームを伴った体型は、正しくエロスの塊である。
(やっぱり、ダクネスを誘って良かったなぁ…!
あのはちきれんばかりの体を堪能出来るなんて…最高じゃないかッ!)
鼻息荒くダクネスの肉体を舐めるように眺めていると。ダクネスはハッとその視線に気づき、乳首の形までクッキリと浮き出ている胸の双丘をバッと両腕で隠す。
「な、なんだその視線は!
ま、まさか! 魔獣というのは、実はカズマ自身で、こんな人気のない所に呼び出して押し倒すつもりじゃなかろうな!」
「そ、そんなワケ…!」
と、カズマはここで思わず一息入れてしまう。今この場で襲いかかる気は無くとも、最終的な目標はダクネスの指摘で間違いないのだから。
しかし、カズマは嘘を飲み下し、力強く言い放つ。
「そんなワケ、あるか!
今回はキチンと、冒険者らしいクエストをしたいと思ってだな! 乗り気なお前に合わせて、わざわざ仕事を取ってきたんだ!」
「そ、そうか。そんな手間を掛けさせていたのに、疑ってしまって…悪かった」
ダクネスは律儀に頭を下げて礼を言う。普段はドMな変態のくせに、こういう時は"ノブレス・オブリージュ"とか言う高貴な態度を取るのだから、面食らってしまう。
それに、素直に謝れてしまうと、カズマの下心にグサリと刺さり、折角股間に疼かせる欲情が萎えてしまう。
(話題でも変えて、流れを変えないと…)
そう考えた矢先、ダクネスの方から話題を変えてくれる。
「しっかし、山野を歩き回るのは慣れているが、この暑さはどうにも厳しいな。
カズマの忠告通り、鎧を脱いで来て正解だったよ。そうでなければ今頃、汗の湖の中に沈んでしまっていたかも知れないな」
そんな事を語り、ダクネスはニッコリと笑みを浮かべる。
その表情を眺めながら、カズマは今朝の出来事を軽く思い返す――。
◆ ◆ ◆
昨日から今朝に掛けて、ダクネスは約束通り、アクアやめぐみんには今回のクエストの件を漏らさなかった。
騎士道を重んじるダクネスは、嘘を吐く事を激しく嫌う性格であるが。無言ならば嘘ではないと割り切るだけの柔軟さを持っているらしい。実際、ダクネスは苦悩した様子を一切見せず、ケロリとしていた。
…単に、強敵を相手に出来るかも知れない可能性を潰されたくなかっただけかも知れないが。
さて、今朝のめぐみんは朝食を終えると、カズマが頼んだ通り、アクアを伴って爆裂魔法の練習へと向かって行った。
面倒くさがり屋のアクアであるが、以前も同伴した事もあり、めぐみんの練習に付き合う事を歓迎しているようだ。
「爆裂魔法って、見てる分にはスカッとするじゃない? あの空気を突き抜けるような轟音と言い、身を震わせる衝撃波と言い、立ち上る盛大な黒煙と言い! 何より、あのド派手な爆発が最高よねー!
あれで、煙が巨大なドクロマークなら、文句なしの100点満点なんだけどなー!」
以前、そんな事を言っていたのを思い出す。…ドクロマークの黒煙とか言われた時、カズマは"コイツは暇にかまけて、レトロなアニメ鑑賞でもしてたのか?"なんて感想を抱いたものだ。
ともかく…めぐみんとアクアが出掛けてからタップリ10分経過した後、2人は出掛ける事にしたのだが。その際にカズマが一計を案じたのが、ダクネスの鎧を脱がせることだ。
ダクネスを蜘蛛の糸でぐるぐる巻きにしてから、その体にイタズラするのは良い考えであるが。その際に邪魔になるのが鎧である。鎧は胸部全体や股間などの致命的な部分をシッカリと守っている。その状態で蜘蛛糸に包まれたとしても、胸や股間をまさぐっても鎧の堅い感触を覚えるだけだろう。
(何とかして、あの鎧を脱がせないと…!)
アイディアに頭を色々と捻っては見たが、
「凄い深い森らしいから、その鎧を付けて行くと動きにくくて邪魔になるんじゃないか?
だから、ここで脱いで行った方が良いと思うんだよ。まさか、森の手前で脱いで置いておくワケにはいかないだろ?」
すると、ダクネスはあっさりとカズマの案に首を縦に振ってくれる。
「一理あるな。
山や森では動きやすい格好するのが定石だと言う。ましてや、未経験の地なら尚更のことだろう。
よし、脱いでくる!」
しかし…ダクネスは合理性だけを鑑みて、カズマの案に乗ったワケではないようだ。鎧を脱いで自室から戻ってきたダクネスの頬には赤味が差しており、息も荒くなっている。…大方、鎧もなく強敵に挑んで窮地に陥った時の事を考え、興奮したのであろう。
この時ばかりは、カズマはダクネスのドM具合に感謝せずにはいられなかった。
「それじゃあ、出発するか!
荷物はオレが持つから、ダクネスは前衛で探索と守備をお願いするぜ」
「ああ、任せろ! 守りこそはクルセイダーの本領だからな!」
…こうして2人は、めぐみん達はほぼ真逆の方向へと進み、この暗澹たる森へと到ったのである。
◆ ◆ ◆
「暑苦しいのも、それはそれで良いとして…」
ダクネスはこの状況下でもドMな性格をブレさせず、顎の下に滴を作った汗を拭いながら言葉を続ける。
「未知なる強敵どころか、生き物の気配すらロクにしないのは、どういうワケなのだ?」
(確かに…)
その感想はカズマも抱いていた。
鬱蒼とした暗い森と来れば、マンガの世界ならば、険をはらんだ眼光が奥の方で爛々と輝いているようなものだが。この森と来たら、眠り込んでいるかのように静まり返っている。
生き物の気配が全くしないワケではない。歩いていると、時折、地面を覆う草をガサガサとかき分けて遠ざかってゆく音が聞こえる。恐らく、臆病な性格のヘビが人の気配を嫌って逃走しているのだろう。
ヘビが居るということは、そのエサとなる動物も居るに違いないだろうが。居たとしても、カエルとかネズミとか、普通に小さなサイズの昆虫くらいなものなのかも知れない。
余りに陽光が届かない事で、生態系が慎ましいものになっているのかも知れない。
「まぁ、嵐の前の静けさってヤツかも知れないじゃないか。
緊張しっ放しの挙げ句に、肝心な時に疲れて力が出なくなるよりは良いと思うぜ?」
カズマはそう言いながらも、この森に対する不気味さを感じて止まない。前評判に
(もしかして…ズッと黙ってオレ達の事を追って来ていて…時期が来たらいきなりガバーッて襲いかかってくるとかだったら…洒落にならないよな…)
後ろを振り返ってランタンを上げ、光をなるべく遠くまで投げかけてみるものの…光に照らされるのは巨木やら背高く茂った雑草ばかりだ。…尤も、狡猾な野獣ならば、こちらの気配を察知して植物の影に隠れる事は造作もないことかも知れないが。
この静けさに加え、カズマはもう一つ、不安を抱えている。
(…サキュバスのお姉さんに、例の蜘蛛ってどこら辺に居るのか、
森は暗く、広い。この閑寂さから鑑みるに、例の蜘蛛はそこら中をノソノソと闊歩しているとは思えない。どこかに縄張りでも作って、仲間たちと宜しくやっている可能性が高い。
…しかしながら、その縄張りの場所が、カズマには分からない。
…かと言って、サキュバスから場所を聞いたとしても、土地勘のないカズマがその場所に正確に
(このまま実入りもなく、暑っ苦しい森を歩き回って、ハイ終わり…なんて事だけは、勘弁して欲しいが…)
汗だくの顔を、もうぐっしょりと濡れてしまっている袖で拭いながら、カズマは眠たげにも見える半眼でそんな事を胸中で呟く。
そんな矢先の事だ。
「見ろ、カズマ!」
先行しているダクネスが、元気一杯の、そして何処か興奮している大声を張り上げる。
「如何にも怪しげな光だぞ!」
「何々ー? どれどれー?」
鉛のように重くなった足を動かし、ダクネスが乗る苔むした岩の上に登る。途中、水気をたっぷり含んだ苔に滑りそうになるものの、何とかダクネスの隣に並ぶ事が出来た。
ダクネスが真っ直ぐに指差す先へ視線を投じる。すると、暗澹たる森の中、密に集った木々の合間から、暗黒の深夜に
ダクネスの言う通り、確かに怪しげな光である。
「めぐみんなら、魔力の質だとか分かるのかも知れないが…生憎今は不在だしな。
虎穴に入らずんば虎子を得ずだ、早速突撃しよう!」
ダクネスはそう言うなり、カズマが引き留める間もなく、一気に猛ダッシュ。悪路をもろともせず、砂の上ならばもうもうたる土煙を上げるであろう勢いで、光の中へと駆け込んでゆく。
「くそっ、あれが例の蜘蛛による影響かどうかも分からないってのに…! 別なヤバい魔獣のモンだったら、もう絶対にこの世界に生き返ってやらねーぞ!」
そう独り叫びながら、カズマはダクネスの後を追う。
ダクネスの背中が輝きの漏れる木々の向こう側に消えたかと思った…その瞬間。
期待よりも不安で一杯のカズマの頭の中に、しわがれた老人のような声が聞こえてくる。
(おお…待っていたぞ…!
男と女…! しかも、肉欲卑しき男…!
貴様らのような男女がやってくるのを、ずっとずっと待っていたぞ…!)
「!?」
カズマは頭に響いた声を警戒し、表情を堅くして足を踏ん張り、その場に留まろうとして…苔に足を取られて、盛大にスッテンと転ぶ。
◆ ◆ ◆
「
カズマは運悪く、ちょうど後頭部を石にぶつけてしまい、さすりながら上体を引き起こす。すると…。
(大丈夫か、肉欲卑しき男よ…!
念願の男よ、死んだりしてなかろうな…!)
露骨に心配する
「こんな間抜けな死に方、もうゴメンだっての!!」
カズマは反射的にそう反発してから直ぐにハッと理性を取り戻すと。暗澹とした木々ばかりが四方八方を囲む森の中に視線を巡らせながら、顔を伝う汗を冷たくして叫ぶ。
「だ、誰だ!
お、オレなんて食っても楽しくないぞ! 食べるなら、腹筋モリモリで肉々しいダクネスの方を狙え!」
(…肉欲だけでなく、根本的な人間性そのものが卑しい男だな…)
呆れかえる"声"に対して、カズマは何か言い返そうとするものの、羞恥で顔が火照って口が震え、うまく言葉が出ない。
その隙に、"声"は(オホン)と芝居掛かった咳払いをして、言葉を続ける。
(ともかく、我はお前のような男を待っていたぞ、肉欲卑しき男よ。
お前のそのはちきれんばかりの劣情を満たすために、我が力を貸そうではないか。
その見返りとして我が求めるのは、お前の女の快楽を少しばかり戴くだけだ。
なぁに、別に犯すワケではない。まぐわいならば、お前が存分に味わうが良い。我が欲するのは、肉欲に溺れる女の乱れに乱れた絶頂である)
声はカズマの質問には答えず、彼自身の要求を押しつけてきたが。カズマはその放しの流れから、この声の正体を何となく察する。
「お前…もしかして、サキュバスのお姉さんが言ってた、エロ蜘蛛か!? 喋れたのか!?」
(エロ蜘蛛などと不躾な呼び方をするでないわッ!)
声は即座にカズマの思考内で叫んだものの…ふと、何か思い返したかのように黙り込む気配を漂わせる。そして数瞬の沈黙の後、ポツリとこう漏らす。
(…いや、エロ蜘蛛と呼ばれても否定は出来ぬか…。
今の我は快楽の求道者。しかも、雄の心を持ちながら、雌の悦楽を貪る変態性欲の権化。
いくら貴様が肉欲卑しき雄だとは言え、異性に対して健全なる劣情を抱く分、蟲にまで身を落として尚、快楽を求道する我よりはマトモであろう)
(なんか、スゲーバカにされてるような気もするけど…)
カズマはジト目を作り、姿の見えぬ"エロ蜘蛛"を睨みつけてやりたい衝動に駆られる。その一方で、この"エロ蜘蛛"の言葉遣いの端々から感じられる、高貴と云うか高尚と云うか、ともかく知性の高さに只ならぬ事情を想起し、改めて"エロ蜘蛛"に正体を尋ねる。
「お前は一体、何者なんだ? そんなに難しい言葉がスラスラ出てくるなんて、ただの蜘蛛じゃ無さそうだよな?
魔族…って云うか、魔王軍の幹部だったりするのか?」
この疑問に対し、"エロ蜘蛛"はカズマの思考内で、フッ、と鼻で笑う気配を漂わせる。
(魔族…か。かつては魔王軍へ果敢に魔術の業火を味合わせたこの身だが、この異形の姿となっては、同類と思われても仕方あるまいか…)
「そんな
カズマがそう語れば、"エロ蜘蛛"は残念そうな苦笑いをしたような気配を漂わせてから、またもや(オホン)と咳払いを挟んでから、朗々と芝居掛かった物言いで自己紹介を始める。
(我は、かつてこの大陸を席巻せし大帝国に籍を置きし大魔術師にして、皇帝の右腕とも言われし大宦官。ジキテリオ・マーテリウスである!
後世に生きし肉欲卑しき男よ、浅学なる貴様でも我が名の事は聞き及んでいよう!)
「いや…オレ、異世界から転生してきた身なんで、この世界の歴史とかスゲー疎くてよく分からん」
カズマにアッサリとそう言われ、"エロ蜘蛛"もといジキテリオは数瞬絶句している。
…とは言え、仮にここに学業成績優秀なめぐみんが居たとしても、ジキテリオの名など聞いたことが無いと言ったはずだろう。なぜなら彼は、とある理由から歴史の闇に葬られてしまった、悲劇の人物なのだから。
「で、その大魔術師さんが、どうしてエロ蜘蛛なんかに成り下がって、この森に棲み着いてるんですかね?」
(よくぞ
ジキテリオは"待ってました"と言わんばかりに声を張り上げると、とうとうと身の上話を語り出す――。
◆ ◆ ◆
昔々――ジキテリオは、貧しい家庭の3人姉弟の第三子として生まれたそうだ。ちなみに上の2人はどちらも姉である。
娯楽とは縁遠い環境において、姉2人はジキテリオを玩具代わりにいじり倒して遊んでいたらしい。その内容は女装させるなど序の口で、時には性的な虐待にまで到る事があったそうだ。
具体的には、女装させられた状態でスカートから男性器を露出させられ、それを指でつねられたり、洗濯バサミで挟まれた事もしばしばあったと言う。
「うっわ、荒みまくった恐ろしい家庭だなぁ…!」
カズマは股間を抑えながら感想を漏らす。
「サキュバスどもから聞いたところによれば、私のような目に遭う事を望む者も居ると云うことだ。しかし、それは実際に経験した事のない者が抱く妄想でしかない。
あの恥辱と苦痛に
ジキテリオはそう前置いて、身の上話を続ける。
彼は姉を初め、世間を見返してやろうと、暇を見つけては勉学に励んだ。加えて、彼には魔術における天賦の才があった。この2つの要素を携えた彼は、魔王軍との交戦に従軍した際、軍団の上層部の目に止まり、士官として取り立てられる事となった。
これを機に、ジキテリオはメキメキと頭角を表してゆく。戦術のみならず政治的手腕にも長けていた彼は、帝国の行政部の目にも止まり、王宮内に取り立てられることとなった。苦しい貧民時代から大躍進した、彼にとっての黄金時代が到来したのである。
しかし…黄金時代は永久には続かない。誰もが羨む彼の繁栄も、没落の憂き目を見ることとなる。
「貧民出である我のスピード出世を妬んだ貴族の仕業であろうな…我はあらぬ罪を着せられて、男子として最上の恥辱の刑を受けたのだ。
しかし王は、我の手腕を必要としていた為、宦官として取り立ててくれたのだ」
「その…さっきも聞いたんだけどさ、"宦官"って、一体何なんだ?」
元引きこもりにであり、必然的に教養の無いカズマがそう問うと。ジキテリオは嫌な雰囲気を漂わせることなく、淡々と答えてくれる。
「去勢に処された官吏のこと…つまりは、男性器を切り取られた男の役人のことだ」
「げっ! ち、チンコ切られたのか、アンタ…! それでも生きてられるモンなんだな、人間って…うっわぁ、マジかよ…」
カズマは更に股間をギュッと抑える。
さて、ジキテリオの話はまだ続く。
「去勢という恥辱は、私に幼少期よりも尚も酷な、狂わしい程の苦悩を植え付けたよ。
そもそも、我が勉学や魔術に励んだのは、官吏となって人の上に立ち、私を弄んだ女どもを今度は我が囲って、玩具のように弄んでやるためであったのだからな。
官吏となったあの頃、我は女を貶めるハーレムを作るための準備を着々と進めていたというのに…。
志果たさずにして、女を[[rb:嬲>なぶ]]るための性器を、失ってしまったのだ…!」
幼少時の被虐の経験からか、性欲が旺盛であったジキテリオには、あまりにも過酷な日々の連続であった。美しい女を見れば、欲情がこみ上げてくるものの…それを形にして
日々を重ねる度に、悶々と膨らんでくる性欲。やがてその重みはジキテリオの精神を病み、彼は官吏を続けることが出来なくなった。枯れ果てて朽ちゆくばかりの低木のようになった彼は王や行政部からだけでなく、世間そのものから疎まれるようになり、自宅に引きこもるよううになる。
…やがて彼は、巨大な性欲に悶々と苛まれ、七転八倒した挙げ句、失意の死を遂げることとなったのである。
――だが。彼の強烈な失意は、死するくらいで簡単に消え失せるものではなかった。
「我の失意は死後、呪いとなり…今の我を作り出したのだ。
女体と快楽を求めて彷徨う、この
「"この"と言われても、アンタの姿、どこにも見えないんだけど…」
カズマはキョロキョロと辺りを見回しながらツッコんだが。感極まっているらしきジキテリオは、特に反応することはなかった。
――とにかく、"エロ蜘蛛"こと時来てろの壮大にして、決して誇れぬ身の上話は終わった。
◆ ◆ ◆
「…で、どうしてこの森に棲み着いたのかって質問には、答えてくれなかったワケだけど」
カズマがそうツッコむと、ジキテリオは(うっ…)と痛い所を突かれたようにお呻く。
しかし、カズマはその質問に対する興味を既に失っている。代わりに、別に沸いて出た好奇を満たすべく、問いを口にする。
「女体を快楽を求めて、って言ったけどさ。アンタさっき、"犯さない"って言ってたよな?
どうやって性欲を満たしてるんだ?
まさか…女の子の体を見ながら、蜘蛛の体でオナってるって…ワケじゃないよな?」
そう尋ねるカズマは、答えを聞く前からドン退きする。…彼の脳裏では、ひっくり返った蜘蛛が6本の足で股間を必死にさする、
(…随分と失礼極まりない、そして不気味な光景を想像しているようだが…。安心しろ、私は変態だが、そこまで落ちぶれてはいない)
自分の事を"変態"と称するジキテリオは、至極真面目に答えを返す。
(先に言ったであろう、"雄の心を持ちながら、雌の悦楽を貪る"と。
我は女体に糸を
ジキテリオは加えて、女性と性的悦楽を共有する仕組みについてもう少し詳しい話をする。糸は女性の神経と癒合し、快楽の信号だけをより分けてジキテリオの体に運ぶのだそうだ。その仕組みについてジキテリオは、元大魔術師らしく難解な技術的解説を行ったが、カズマには勿論、チンプンカンプンである。
ただ――男でありながら、女性の感ずる悦楽を味わうと言う行為には、大いに興味をそそられる。体験してみたい――元の世界のエロ漫画でみたような、子宮が疼く感じだとか、膣にキツキツにペニスを挿入される感覚だとか、胎内に濃い精液をブチ撒けられる感覚だとか…。
思わず、カズマの股間はムクムクと熱を帯びて勃ち上がってくる。
しかし…ふと、カズマの頭上に疑問符が浮かぶ。
「そんなに便利で夢のある技が使えるってのに、どうしてこんな人気の無い森に棲み着いているんだ?
もっと人気が多い場所の方が良いんじゃないのか? 例えば、果物が良く成る森なら、近くの村から女の子が取りにやってくる可能性だってある。
こんなおどろおどろしい場所じゃ、女の子は滅多に寄りつかないじゃんか」
(うむ…
実はな、我は以前は、もっと人気の多い所に居を構えておったのだ。
しかし…)
それからジキテリオが語るのは、先にカズマが質問した"どうしてこの森に棲み着いたのか"の答えである。
(人気が多いと、我が雌を襲うという話はあっと言う間に広まってしまってな。討伐の為に冒険者が雇われたり、酷い時には討伐隊まで差し向けられて、森中を追い回された事もある。
我の今の体は、戦闘能力に非常に乏しい。かつては戦場を勇猛に駆け抜けていた身だと言うのに、全く
「…なるほど、読めてきたぞ。
転々と場所を変えては人に追い回される事を繰り返した挙げ句、初心者冒険者の多いこの地にまで流れ下ってきた…というワケだな。
ただ、街の近くじゃあ、初心者が多いとは言え、冒険者の頭数が多くて危ないから、こんな辺鄙な場所に居を構えた…ってことだな」
(うむ。頭の中は肉欲で一杯のくせに、意外と察しが良いな)
…ジキテリオがちょくちょく癇に障るような言い方をするのは、元官吏であった頃の傲慢な正格に由来するようだ。カズマは何か反撃したい衝動に駆られたが…ふと別の、そして重要な疑問に思考を奪われる。
「ところで、エロ蜘蛛」
(ジキテリオだ)
「その名前言いにくいから、エロ蜘蛛で良いだろ。自分から変態だとか言っちまってるし。
それはそうと、オレの連れが先行が先行して、あの光ってる場所へ突撃したんだけどさ。あそこって、お前が何かしてる所なんだよな?
こんな所で余裕ぶっこいてオレとダベってて大丈夫なのか?」
(うむ、あの女騎士ならば、我と絶賛交戦中だが…全く問題ない。
我は戦うのは苦手だが、この体は逃げ回るには好都合だからな。それに…あの女騎士、剣を振るう構えは素晴らしいのだが…その…全く当たらんのだ)
「ああ…そうだね、ダクネスのヤツは不憫な程に不器用だからね…」
(不器用と一言で片づけられるレベルではない気もするが…。まぁ、とにかく、我ならば全く
故に)
ここで、ジキテリオは口調の雰囲気をガラリと変える。思わず息を飲んでしまうような真剣さで、こう語る。
(我はそろそろ、あの雌の捕縛に取りかかろうと思う)
「お、おう…」
カズマはゴクリ、と生唾を飲み込む。
ジキテリオの言葉はつまり、ダクネスを蜘蛛糸でグルグル巻きにし、据え膳としてカズマの性欲に提供する事を意味する。
(何なら、肉欲卑しき男よ、覗いてみるかね?
我がこの雌を捕らえる手際を?)
この時のジキテリオは、満面に浮かんだイヤラシい笑みを容易に想起させる、ネットリとした言葉遣いをカズマの思考に投げかける。
(足掻きながらも、全く力及ばず、全身を拘束され、体の輪郭がクッキリと浮き出る程にキツキツに締め付けられて行く雌の有様は…それなりに、そそると思うのだがな?)
カズマはもう一度ゴクリ、と生唾を飲み込む。そして、即断する。
「…覗かせて頂きます…!」
そしてカズマは、ジキテリオの声に誘われて、光の溢れる方へと歩みを進める。
◆ ◆ ◆
カズマは青白い輝きを全身に浴びて、この鬱蒼たる森の中に姿を浮かび上がらせないよう、巨木の影に隠れてチラリと覗く。
間近で見ると、輝きの正体がよく分かる――それは、地面に描かれた魔法陣から発される魔力の輝きである。魔法陣は結構大きく、直径にして10メートル程はある。
「あれって、一体何の魔法陣なんだ? なんか凄そうなんだけど?
敵の動きを鈍くする効果があるとか?」
(いいや、違う)
ジキテリオは即座に否定し、大仰に正解を語る。
(単なる餌寄せだ。
人の好奇心を
(蜘蛛にイカ扱いされてるぞ、ダクネス)
カズマは苦笑しながら、輝きの中にジックリと目を凝らす。
輝きを放つ魔法陣の上では、ダクネスが剣を両手で構え、激しく振り回している。彼女の剣閃が
蜘蛛の姿は、サキュバスの前評判とほぼ一致する。少し違うのは、腹部の縞の大半が腹部の毛に覆われているところくらいだろうか。
「お前、何匹も居るけど――変態のお仲間か?」
(いいや、全て我だ。
今の我は一つの統一意識の元、十数の体に分かれて活動している)
カズマは、ジキテリオの言葉から想像してみる――心は一つなのに、いくつもの体を動かす気分と言うものを。しかし、どうしても上手く想像できず、頭の中がムズ痒くなるような想いをして、想像は破れてしまう。
(さて…お前という観客が来たところで…早速、仕掛けるぞ。
興奮し過ぎて、本番を始める前にマスを掻き始めるなよ)
「そ、そんな事しねぇよ!
今更、ダクネスが縛られるくらいの事で、興奮なんか…!」
そうカズマが小さく喚いた頃。カズマの頭の中から、ジキテリオの意志がスーッと遠ざかってゆく雰囲気がする。
――ジキテリオは、彼自身の戦いを果たしに向かったのだ。
「このっ、魔獣めッ!」
ダクネスは決して当たらない――当てられない――剣を虚しく、しかし真剣に振り回しながら、怒声を上げている。
「お前たち、カズマを何処へやったんだッ!」
――どうやら彼女は、独りで興奮して先行した事実をさておいて、中々この場に現れないカズマの事を"哀れにもこの魔獣にやられてしまった"と思い込んでいるらしい。普段のように、強敵を前にして上気する程ワクワクしているような表情は見せず、至って真剣な表情でジキテリオ達を相手にしている。
(あいつ…こういう時だけ、騎士らしくありやがって…)
真剣なダクネスの様子に、ジキテリオと共に劣情で盛り上がっていたカズマは、しゅんとなって反省していたが。
その反省は、直ぐに雲散霧消することとなる。
シュルルルッ! 空を裂く音と共に、青白い魔力の輝きの中を、一陣の白い流れが宙を疾駆する。それは、ダクネスの背後の辺りに陣取っていた一匹の蜘蛛の腹部から放たれた、糸だ。糸は極太で、固体というよりはむしろ、少し固まりかけた接着剤を想わせる粘性液体を想起させる。
糸はダクネスの右手首に粘着して絡み付く。その瞬間――。
「あはぅッ!」
突如、ダクネスが身をくねらせて、叫ぶ。その有様は、かつてカズマがダクネスと初めて出会った際、パーティへの加入を断った際に見せた、ドMが苦痛を受けて悶え悦ぶ時の姿そのものである。
その証拠に、ダクネスの顔は一気に上気し、
まるで、性的に敏感な秘部をいじられたかのような反応だ。ダクネスが如何にドMとは言え、単に右手首を拘束されただけで、ここまで激しい反応を見せるだろうか?
(…そういえば、サキュバスのお姉さんが言ってたな。エロ蜘蛛の糸には催淫効果があるって!
その影響なのか!?)
カズマの予測は正に的を得ている。ジキテリオの糸は女体の快楽神経と癒合して感覚を共有する一方で、快楽刺激屁の感度を激増させるのである。
シュルルッ! シュルルッ! シュルルルッ! ダクネスを囲む蜘蛛達は、ダクネスがよがって動きを止めた事につけ込んで、粘性の糸を何筋も放つ。それはダクネスの左手首や両足首を拘束する他、腕ごと腹部を拘束してギリギリと締め上げる。
「ん…っくううぅんっ!」
ダクネスは何度も押し寄せる性的快楽に負けて、バランスを崩して地に倒れる。すると、締め上げられた腹部の上で、膨らみが強調された双丘がブルンブルンと激しく揺れ動く。
これにはカズマは、ゴクリ、と生唾を飲み込むざるを得ない。
(す、凄ぇ…! これが、おっぱいの3次元運動ってものなのか…!
ダクネスのヤツ、さっき乳首の盛り上がりが見えていた事と云い…まさか、ブラをつけてないのか!? あのボリュームで!?)
カズマは今にも鼻血が吹き出しそうな程、頭頂にまで興奮の熱が持ち上がっている。股間はムクムクどころか、ビキビキに堅く勃ち上がっている。
更に蜘蛛達は、倒れたダクネスに向けてシュルルッ! シュルルッ! と蜘蛛糸をブッ放しては、ギリギリと締め上げる。糸が粘性を帯びているだけに、その有様はハードなエロ漫画で描かれている、男集団によるぶっかけの様相を思わせる。
そしてダクネスは、全身における拘束の比率が大きくなる程に、更に顔を上気させ、形だけでも抵抗する表情を作っていたのが、露骨な悦楽の表情へと変わって行く。
「わ、わたひ…こんな、気味の悪い蟲達に囚われて…! 哀れにも、苗床になってしまうのか…! ああ…ああ…あああああーっ!」
(こいつ…獣姦とか蟲姦とかもイケるクチなのか…)
カズマは理性でドン退きしつつも、ダクネスの艶やかな嬌声にペニスを更に堅くする。その先端からはカウパーの小さな滴が溢れて来ていたが、彼は気付かない。
ダクネスはその後も数分ほど、嬌声を上げ続けていたが…。やがて、彼女の桜色の唇もスッカリと塞がれてしまい、「ムームー!」という呻き声すら漏れなくなってしまう。
そして出来上がったのは――純白の糸によってギッチギチに締め上げれた、ミイラのような代物である。
"ような"と称したのは、エジプトで見つかるもののように、体の輪郭があやふやになるまでグルグル巻きにされたものではないからだ。勃起した乳首の突出までもクッキリと浮かび上がる程に薄く、そして強靱に編み込まれた代物だ。
遠目から見ると、それは精巧に作られた彫像のように見えるだろう。
(据え膳が整ったぞ)
そんなジキテリオの声がカズマの思考の中に響き渡ると。カズマはゴクリと生唾を飲みながら、木陰からゆっくりと現れ、青白く輝く魔法陣の上に転がるダクネスのミイラに近寄る――。
- To Be Continued -