※この作品はR-18です。

stRing ~このすばらしき姦計に栄光を!   作:眼珠天蚕

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Part 8

 ◆ ◆ ◆

 

 アクアという女神について。

 カズマはこの世界に来て以来、一番寝食を共にする時間の長い人物といえば、アクアである。彼女こそカズマをこの世界へと転生させた張本人であり、カズマの願いによってこの世界に同行させられたのだから、当然である。

 アクアは、人が一般的に女神に対して抱くイメージ通り、美しい容姿をしている。その名に恥じぬ、透き通るような水色を呈し、流々と流れるような優美な長さを誇る髪。ファッションモデルとしても十分通じる、極端過ぎないバランスを誇るプロポーション。そして、想像上の人物を遙かに凌ぐ程の見目麗しさを兼ね備えた面持ち。

 大抵の男なら――いや、女性であっても――彼女を見たのならば、その魅力に心を打たれる事に違いない。事実、彼女は地球の女神として君臨していた時代、多くの死者に崇拝すらされている。

 そんな絶世の美少女が常に側に居るというのに…カズマは、このアクアに対して一度も情欲を催したことがない。

 

 「アクアかぁ…。

 あいつ、確かに黙ってれば可愛いんだけどさ。口を開いた途端に、隠しきれないアホさがドッと溢れて来てさー。全部台無しになっちまうんだよ」

 「あー、分かります。

 アレですよね、なんて言いましたっけ…そうそう、残念な美人」

 カズマとめぐみんがアクアに対する散々な評価を口にしたのは、ある昼下がりの事。いつもの如く、ジキテリオの暮らす森へと向かう途中、ダクネスから話題を振られたので、率直に答えているのである。

 「で、いきなりなんで、アクアの事なんて話題に持ち出すんだ?」

 カズマが訊けば、ダクネスは何やら悔しげに拳をフルフルと握りつつ、語り出す。

 「私たちのパーティの中で唯一、カズマに襲われていないのは、アクアだろう…?

 カズマは、その最後の砦を落としたいとは思わないのか…?」

 「いや、全然」

 カズマは即答し、言葉を続ける。

 「だってあいつ、残念過ぎて、何も催さないんだよ。

 いざヤろうとしたら、ギャーギャー喚きながら壮絶な顔芸を披露するだけじゃんか。あんな可愛さのへったくれもない顔を拝みながらヤるなんて、オレのエクスカリバーが萎えちまうっての」

 アクアを標的に定めないのには、確かに今語られたような理由も大きいが、もう1つ事情がある。カズマはダクネスとめぐみんの2人と関係を持った時点で、かなり満足してしまっているのだ。

 豊満を肉体を楽しみたいのなら、ダクネス。愛に溢(あふ)れるシチュエーションを楽しみたいなら、めぐみん。…と、2人を選べば、大抵が事足りてしまうからだ。しかも、一方の体に飽いたとしても、もう一方の全く違う体を楽しめるのだ。これ以上は、リスクを犯してまで獲物を増やす必要などない…とカズマは判断している。

 情欲が満たされ、そして愛情すら手に入れたカズマは、性格がかなり丸くなった。和やかに話す様子は、小春日和が似合う穏やかな老人のような雰囲気さえ醸し出している。

 そしてよく、めぐみんとイチャつくようになった。

 ダクネスの事を忘れたワケではない。森の中ではダクネスと体を交わしてくれるし、普通に会話もしている。しかし、何より第一にめぐみんの事を気にかけるようになった。

 「いや、オレはそんなつもりはないんだけど」

 と、カズマはよく言っている。事実、彼のめぐみんに対する態度は無意識のものだろう。だからこそ、傍から見ると、幸せなカップルという構図に認識されやすくなっている。

 本来ならば、祝福してあげるべき状況であるが。ダクネスは、そんなカズマが気に食わない。

 カズマの第一の気持ちの矛先が自分に向いてくれない…という不満も、確かにある。しかしそれ以上に、ダクネスが見込んだ鬼畜極まりない性格が鳴りを潜めてしまった事に、不満を隠せない。

 (このままではカズマは、いつぞや私の元に来た、貴族のクセに人格者に成り下がっていたボンボンのようになってしまう…!)

 ダクネスは何としてでも、カズマを鬼畜の道に引きずり戻そうと頭を巡らせた。その答えが、アクアへの襲撃である。

 「し、しかしだな、カズマ」

 ダクネスは精一杯の説得を開始する。

 「パーティの中で、何も知らずに放って置かれているのは、アクア唯一人だぞ…? あの3人の様子がおかしいと、気付き始める頃じゃないのか…?

 それで、私たちの関係や、ジキテリオの事がバレれば…パーティ存続の危機というだけじゃない、ギルドから呼び出されて、問題行動を糾弾されるかも…」

 「ないない」

 カズマは手をヒラヒラと振って、即座に否定する。

 「相手は、あのアクアだぞ? いくらレベルが上がろうが、知力が底辺に張り付いて動かないようなアクアなんだぞ?

 そんなに敏感に気を回すワケないって。めぐみんじゃあるまいし…なぁ?」

 話題を振られためぐみんは、当然ながら首を縦に振ってカズマに賛同する。

 めぐみんにとっては、現在もカズマと肉体関係を持っているダクネスは恋敵だ。そこにもう一人ライバルが増えるというのは、全く歓迎できない事態である。

 「アクアなら、ぐーたらし放題でも何の文句も言われない現状に満足してるだけで、私たちのことなんて詮索しないですよ」

 めぐみんのお墨付きが、いよいよカズマの穏便さを固定してしまう。

 (ま、マズい…! このままでは、私の見込んだ男が、骨抜きにされてしまう…!

 なんとか、なんとかしなければ…!)

 おかしな方向で焦りを感じるダクネスは、正真正銘の変人である。

 イチャイチャトークに花を咲かせる2人の一方で、ダクネスは必死に半分蕩けている頭を回転させ、打開策を探り出し…。

 「そうだ!」

 と、思わず大声を上げる。突然のことにビックリしたカズマ達は振り向き、目を丸くしてダクネスを見やる。

 …その視線の中には、"遂におかしくなっちまったんだな…"という哀れみとも呆れとも取れる感情が含まれているが。ダクネスは気にせずに語る。

 「あ、アクアはよく、自分が女神だ! なんて事を言い出す事があるだろう!?

 あんなにしつこく言うのだから、万が一にも、本当の女神かも知れない! アクアの事だから、何かやらかして、その罰で人間の世界に追い出されたのかも知れないし…!

 と、ともかく! 相手は女神なんだぞ、カズマ! 犯すことの許されぬ、聖なる存在なんだぞ! それを穢(けが)すと言うのは、どうだ! なんとも背徳的で、そそるシチュエーションではないのか!?」

 カズマは、しばし黙(もだ)す。しかし、彼の無表情――というか、白けきった表情を見る限り、ダクネスの提案を真剣に検討しているというより、"何言ってんだコイツ?"と呆れている感が強い。

 そして、その雰囲気は的中である事が、すぐに明らかになる。

 カズマはため息混じりでダクネスに語る。

 「女神だって言うのは結構な事さ。確かに、エロゲーなんかじゃそそるシチュエーションだって言うのも理解出来る。

 だがな、アクアがどんな存在だろうが、あの顔芸でギャンギャン喚かれる事を想像してみろよ? 色気の欠片もない顔芸だぞ?

 エロゲーのオークだって、顔を見合わせてゲンナリするだろうよ。

 あいつだけは、ホントに無い無い」

 カズマは手のひらを左右にパタパタと振って否定する。

 ダクネスはアクアが本当の女神である事を知らぬが、カズマは転生の経緯(いきさつ)で十分過ぎるほどに理解している。アクアが神聖な存在だという事は重々承知しているし、それがアークプリーストの浄化魔法の威力になって現れている事からも納得している。

 しかし、カズマは顔芸の件を差し引いても、アクアに対して情欲を感じない理由がある。…カズマは既に、アクアの上位互換とも言える、絵に描いたような真なる女神を知っているからだ。

 その女神とは、この世界を司る女神である、エリスである。

 この世界で何度か命を落としたカズマは、エリスに出会い、すっかりと心を奪われている。始めて見(まみ)える者に対しても、真心で接してくれる優しさ。顔芸などと全く無縁の、玉のように美しい面持ち。アクアに因れば胸はパッドで盛っているらしいが、そんなコンプレックスを持っている部分が、却って手に届く親しみやすさを演出している。

 エリスが相手になるというのなら、カズマは喜んでダクネスの話に飛びついたことだろう。――アクアは本当に、本当に残念な女神である。

 こうして捻り出した一計を一蹴されてしまったダクネスは、再び頭を回転させる。カズマにはどうにかして、アクアに興味を持ってもらいたい…!

 そうしてたっぷり時間を掛け、いつもの森の傍に至る頃にようやく捻り出した妙案は、ドMなダクネスにとっては主義に反する内容である。自分の口からこんな事を言うのは、ドMとしてのプライドに傷が付く。

 ――しかし、プライド如きにしがみついてはいられない。欲望のためには、そんな拘りは些末(さまつ)な事なのだ!

 「カズマ…気にならないのか? アクアの、真実を…?」

 「アクアの、真実?」

 全く心当たりのないカズマが片眉を跳ね上げて聞き返してくる。

 (よし、食いついて来たな…!)

 ダクネスは口角にニヤリと笑みを浮かべながら、言葉を続ける。

 「ダクネスの、尻のことだ」

 「尻………?」

 カズマは虚空に視線を向けて、しばし考え込み――そして、ハッと気付いて眼をクワッと見開く。

 「か、カズマ…? 一体、どうしたんですか…!?」

 めぐみんが心配そうに――主に恋敵が増えてしまう可能性が増える事を懸念して――問うものの。カズマは答えずに、ダクネスの続く言葉に耳を傾ける。

 「私も同じ女性ながら、すごく気にかけていた。

 戦う時や、宴会芸を披露している時。短いスカートからチラリと覗くアクアの尻――!

 そこには、桃色を帯びた肌色の肉だけが見えるものの――! 大事な部分を覆っているはずの布が、全く見えないではないか!」

 ダクネスの一言一言が、ズッシリとカズマの頭に突き刺さる。そして、脳裏には彼女が言及した場面が何度何度もリプレイされる。

 アクアは決してお淑(しと)やかではない。むしろ、いつも短いスカートを穿(は)いているくせに、こちらが「慎みを持て!」と警告したくなるほどに、めくれて下着が露出するなんて現象を考慮に入れていないかのように、活発に動き回っている。

 動く度にチラリチラリと揺れ動く、ミニスカート。その隙間から見えるのは、健全な桃色を帯びたプリリとしたお尻の肉だ。そこには全く、布のある気配がない。

 ――もしかして、パンツを穿いていないのではないか? 穿いていたとしたら、どれほど布の少ないエロ下着だというのか!?

 健全に性欲豊富な男子として、この好奇心に蓋をすることなど、到底できやしない。"パンツ穿いてない女子"は、男の夢の存在だ!

 カズマの表情が変わったのを見て取り、ダクネスはほくそ笑みながら、彼の胸に灯った炎を更に盤石に燃え上がらせるべく、言葉を次ぐ。

 「それにカズマ! 悔しくはないのか!

 先日のお前の股間に落書きをされた事件! あれは実行犯であるめぐみんだけに目が行きがちだが!」

 「も、もう過ぎた時の事を、ほっくり返さないでください!

 それにあの時は…! 私だって、カズマの事を思って、必死で…!」

 めぐみんが抗議するも、ダクネスは取り合わずに声を張り上げ、抗議をかき消しながら続ける。

 「思い返せ、カズマ!

 慌てて風呂から上がり、バスタオルで覆っていた股間が露わになった時! それを直視していたアクアは、どう反応したのか!

 笑ったのだ! "なにそのチンケなイチモツは? エクスカリバーというよりマッチ棒じゃない?"と、卑下してほくそ笑んだのだ!」

 「…そのマッチ棒って感想、お前の個人の感想じゃないよな…?」

 カズマはジト目で睨みながら問うたが、ダクネスは特に返答せず、カズマの心に訴える事だけに集中する。ちなみにダクネスは、マッチ棒などと考えてはおらず(そもそも、どれだけのサイズならば"大きい"とか"小さい"とかされるのか、その判断が出来ないのだ。そんな下(しも)の事情に触れる機会などないほど、彼女は箱入り娘だったのだから)、カズマの心に炎に油を注ぐための売り文句に過ぎない。

 しかし、それの効果は十分である。カズマはハッとした表情から、手のひらを返すように面持ちが激変。仁王にも似た激情が浮かび上がったのだ。

 ここに至り、ダクネスは安堵と共にグッドサインを胸中で作り出す。(やったぞ…!)と。

 「カズマ…! アクアがバカな事をやらかすのは、いつものことじゃないですか! そんなことを一々取り合っていても、カズマがストレスを溜めるだけで…!」

 めぐみんは必死にカズマの心を抑えようとするが。もうカズマの心の炎は、決して消せない程に燃え盛っている。今なら掛けられた水でさえ燃料にしてしまいそうだ。

 「…あのクソ駄女神は、犯す…! 絶対にだ…!

 いくら顔芸しようが、構わん…! 考えてみりゃ、ジキテリオに顔を覆ってもらえば、気にならないんだからな…!」

 「カズマぁ…!」

 めぐみんは涙ながらに軌道修正を望むものの、坂を転がり出した巨大な雪玉は止められないように、カズマを止めることは不可能である。

 「ダクネス、めぐみん!

 今日はあのクソ駄女神を犯し尽くす作戦を立てるぞ!

 …見てろ、あの知力最低辺…! オレがテメェの子宮を、子種でタプタプにしてやるぜ…!」

 

 ――こうして、ダクネスは狂喜し、めぐみんは失意に陥りながらも、カズマと共にアクアへの奸計に頭を捻る――。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 アクアという人物の傾向。その第一は、煽(おだ)てに弱いことだ。――これを突かない手は無い。

 

 カズマ達一行は森からの帰ると、激しい勢いで館のドアを開け、もつれ合うように転がり込む。ドタンバタン、と派手な音が館中に響き渡る。

 「クソ…ッ! あんなのが居るなんて、聞いてねぇぞ…!」

 カズマが顔を歪めながら大声を張り上げる。これはアクアの耳に届けるための方策であるが、これを使うまでもなく、アクアが小走りで玄関に赴く。

 そしてカズマ達一行の姿を見て息を飲むと、「何が遭ったの!?」と声を上げて問う。

 何せ、もつれ合って倒れ込んだ3人は皆、酷い有様なのだ。着ている服はボロボロになり、泥だらけで汚れ切っている。顔も擦り傷と泥だらけで、いかにも命からがら逃げ帰ったという風体だ。

 守備力は岩盤なみのダクネスすら、擦り傷こそないものの、ドロドロのボロボロの格好をしている。これを見ても危機感を覚えない程、アクアの知力は低くはない。

 「ねぇ、ホントにどうしたのよ!?

 マジでヤバそうなんですけど!?」

 「"ヤバそう"じゃない…! マジでヤバいんだよ…クソッ!」

 カズマは怯懦を露わにしながらも、悔恨が滲む激情を浮かべて歯噛みし、館の床を握り拳でドンッ! と叩く。

 アクアは久々に目にするシリアスな光景にオロオロと狼狽えつつも、足りない理性を何とか振り絞り、珍しく建設的な提案をする。

 「と、とりあえず、回復するわね!

 それで、少し落ち着いたら、事情を聞くわ…!」

 

 それからアクアは、狼狽を隠せないものの、彼女にしてはテキパキとした手際で回復魔法を使い、カズマ達一行の傷を癒す。それからドタバタと館中を走り回り、3人の服をかき集めると、ドロドロボロボロになった服を着替えさせる。

 すぐにお風呂に入れた方が良いのでは? とも気遣ったが…結局は薦めなかった。3人で一緒に入る事は出来ないので、待ちぼうけの者が消耗してしまうし、湯船の中で倒れてしまう危険性も考慮したのだ。

 そこでアクアは、暖炉に一杯の火を焚いた広間に3人を案内し、柔らかな暖かみで包んで心を落ち着かせることにしたのだ。

 アクアにしては珍しく機転の利く対応である。彼女は窮地に追い込まれると、火事場の馬鹿力のように頭が回るらしい。

 

 さて、優しい赤の輝きに顔を照らされた3人は、呆然と揺らめく炎に視線を投じ続けていたが。たっぷり時間を掛けた後に、カズマが一番に口を開く。

 「オレ達が、ギルドのクエストで森に調査に行ってるのは、知ってるだろ…?」

 「ええ、勿論よ。

 調査って程度の仕事の割に、みょ~に時間がかかってるから、森でマツタケ狩りでもして遊んでるのかなー、って思ってたんだけど」

 この言葉に、カズマ達一行は思わずギクリと顔がひきつりそうになる。

 アクアの言葉は、満更嘘というワケではない。仕事と見せかけて性的に遊んでいるのは事実だ。それに、"マツタケ"という表現が、男性の股間にそびえるイチモツを連想させられてしまって仕方ない。

 (こいつ、まさか女神らしく、オレ達の事を千里眼的な何かで見通してるんじゃないのか!?)

 アクアは以前"そういう能力(ちから)は使えなくなった"と語っていたものの、そんな事実をすっかり忘れてカズマは警戒する。

 しかし、彼の心配は杞憂であったようだ。アクアは本気で心配しながら、「それで、どうしたのよ!?」と話の先を続けろと催促してくる。

 カズマは安堵に胸を撫で下ろしつつ、語り始める。

 「初めは…暗いだけで、動物にもほとんど遭わないような状態だったから、問題なしって事でギルドに報告しようと思ったんだけどさ…。何ていうか…冒険者の勘(かん)ってヤツかな、それがどうにも働いてな。めぐみんにも手伝ってもらって、森の中を探索してたんだよ」

 「ペーペーの平冒険者であるカズマさんが、冒険者の勘とか言いますかぁ?」

 アクアがジト目で突っ込んでくる。カチンと頭に来そうになるが、ここは我慢である。小さく咳払いをして、話を続ける。

 「茶化すなよ、結果的にオレの勘は当たったんだからな…!

 居たんだよ、スゲェバケモノが…!

 森は暗いし、動きも速すぎるってことで、どんな姿をしてるのかよく分からんかったんだがさ…! ともかく、命が助かっただけでも奇跡だったぜ…!」

 「へぇー、あの森にそんなヤツがねぇ…!

 また魔王の幹部が近くに派遣されて着たのかしら…!?

 何にせよ、本当に洒落になってないみたいね…!」

 「ああ。あいつがどんな理由で森の中に留まっているのかは、分からない。

 だが…もしもこの街に出没してみろ。大惨事になるぞ…! ダクネスでさえ、この有様なんだ…! 一般人なんて、まな板の上のダイコンみたいにスッパスパとやられちまうぞ…!」

 「ひい…っ! グロい事想像しちゃったじゃない…!」

 アクアは顔を蒼白に染めて悲鳴を上げる。

 「そんなバケモノ、こんな駆け出し冒険者ばかりが集まる街で、どんな風に対処しろって言うのよ…!

 あのデュラハンの時みたいに、ノリに流されてくれるような感じには聞こえないわよ!」

 「ああ、その通りだ。

 あいつはノリどころか、人間の言葉を理解しているのかさえ、怪しいんだ」

 ここから先はダクネスがカズマの後を継いで、話を続ける。

 「あいつは全くの正体不明だ…だが、唯一分かったことはあるんだ。

 わたしのクルセイダーとしての能力が見極めたんだ…あいつは、邪念で出来た怨霊に近い存在であると…!

 あいつにはおそらく、剣はおろか、並の魔法も全く効かないだろう…!

 神にも紛うレベルの浄化魔法ならば、何とかなるかも知れないが…! そんな強烈な魔法を使えるアークプリースト、この街のどこから調達出来ると言うんだ…!

 そんな人物が居れば、まさに救世主になれるだろうに…!」

 めぐみんは始終黙っている。しかしながら、カズマとダクネスに言いたい事を全て語られているとか、物も言えない程のショックか疲労に襲われているとか…そういう理由によるものではない。

 彼女は単純に、尊敬の域にも達しようかと云うレベルで、2人の言動に呆(あき)れかえっている。

 (なんて露骨な誘導なんですかね…)

 

 そう、カズマ達の言動は全て、アクアを陥れるための迫真の茶番なのだから。

 

 そうとは知らずアクアは、ダクネスの"救世主"という言葉に対して耳をピクリと動かし、反応する。

 そして彼女は、目を三日月の形に歪めてニマニマと微笑むと。咳払いをして面持ちを整えてから、大きく胸を反らし、形の良い胸を誇示するようにドンと胸板を叩いてみせる。

 「偉大なるアークプリーストなら、ここに居るじゃない!

 魔王の幹部を斃(たお)し! 無能なこの世界の神の摂理を容易にねじ曲げて命を蘇生させる、偉大なアークプリースト…!

 この、私がッ!」

 ――このアクアの反応に、ダクネスもカズマも口角の端でヒッソリとほくそ笑む。

 (獲物が、掛かった!)

 しかし2人は、努めて冷静を装って、アクアの発現を紳士に検分するような素振りを見せる。

 「そうか…! 確かにアクアなら…! あのデュラハンの幹部を斃したアクアなら、あのバケモノ怨霊をどうにか出来るかも知れない…!」

 「なるほどな、その手があったか!

 それなら、作戦さえキチンと立てれば、アイツを斃せる…! このクエストを終えられるだけでなく、街まで救える…!」

 「そうよ!」

 アクアはいよいよ得意になり、鼻息を荒く吐きながら、再び胸板をドンと叩いてみせる。

 「このアクア様が居る限り! 魔王軍の幹部風情にデカい顔なんてさせないわ!

 明日、早速案内してちょうだい! サクッと斃して、街を救った偉大な女神として名を馳せるわよ!」

 そんなアクアの台詞にカズマとダクネスは小躍りして抱き合い、「助かったー!」「やったー!」などと喜び合う。

 勿論、全て振りである。

 こんな光景を傍から無言で眺めているめぐみんは、カズマがダクネスで抱き合っている様に不愉快さを感じつつも、溜息を吐きながら思い返す。

 (こんな陳腐な手に引っかかるなんて、アクアって本当に頭が弱いんですね…)

 

 アクアは全く知らない。

 この作戦…というか寸劇の計画は、森の中でカズマが2人の美少女相手にセックスを愉(たの)しみながら、片手間と云っても過言ではない程度の手間で考え出したものであると。

 「それ…あんっ! じゃあ…んんっ!

 アクアの事…あぁんっ! 騙すって、事ですか…んふぅあぁっ!」

 暗い森の中、四つん這いになっためぐみんはバックからカズマに挿入され、ズンズンパンパンと強烈に突かれながら、嬌声混じりで訊き返す。

 カズマはめぐみんのプリンとした尻をガッシリと掴み、貪るように腰を前後させつつ、唇に垂れた涎(よだれ)を舐めとってから答える。

 「騙すって言葉が聞こえ悪いが、まぁ、その通りだな。

 でも、デカい話でもでっち上げないと、あのぐーたらは重い尻を上げないだろ。

 なぁ、ダクネス」

 「んぷっ…ふぁ…っ、ああ、その通りだ」

 ダクネスはカズマの尻を割って顔をつっこみ、舌を肛門の中に突っ込んで直腸をチロチロと刺激していた。直腸は特に洗浄していないので汚物が残っているものの、ドMなダクネスには問題にならない。

 「めぐみんだって重々承知しているだろう、アクアの性格は。

 多少オーバーに煽(おだ)てなければ、興味すら示さないだろうな」

 「で、でも…ッ! 今の話は…んはぁんっ! いろいろと、つっこみどころが…あはぁんっ! 矛盾だって…うくうぅんっ!」

 カズマとダクネスとで考え出した寸劇には色々と問題があるぞ、と指摘しようとしているワケだが。絶頂が近づいて着ているので、マトモな言葉にならないのだ。それでもカズマはめぐみんの意図を悟る。

 「ああ、そういう細かい所は大丈夫だろ。アクアは頭が弱いし、"俺たちもよく分かってない"と言っておけば、それですんなり受け入れるだろ。

 …っと、イきそう…!」

 カズマがそう言った途端。ドビュルビュルビュルルルルッ! めぐみんの膣の中に精の奔流を一気に放出する。同時にめぐみんは絶頂に達し――。

 「ふぅううあぁぁぁぁんっ!」

 そう大声で叫んだかと思うと、クテッと脱力し、尻だけを突きだした形で倒れ込む。尻にはカズマの勢いよく飛び散った白濁の滴が幾つも付着している。

 この一連の性行為の最中、ジキテリオは勿論めぐみんと感覚を共有し、愉悦に浸っている。彼はめぐみんの首に首輪の如く蜘蛛糸を巻き付けている。

 そんなジキテリオに対し、カズマはめぐみんの膣からペニスを引き抜きながら訊ねる。

 「お前も新しい女体の感覚を味わえるようになるぜ。

 嬉しいだろ?」

 (う…む…。まぁ、その小娘のように、色々とツッコミ所は見受けられるが…。勢いさえあれば、どうとでも出来ような)

 ジキテリオも絶頂の余韻に浸っているためか、その言葉はぼんやりとしている。

 「それじゃ、戻り次第早速一芝居するとしようぜ。

 その準備の前に…ダクネス、お掃除のフェラを頼むぜ」

 「ああ、了解だ」

 カズマが突き出した、射精して少し萎えた男根に対し、ダクネスは四つん這いになって進み寄ると。ハチミツ色の髪を書き上げてから、しとったピンク色の舌を伸ばし、粘液にまみれた亀頭に絡みつかせる。

 ジュルジュル…チュパチュパ…。ダクネスは舌を這わせながらペニスを頬張り、唇と舌で男根の表面を愛撫しながら、粘液を丁寧に舐めとっていく。カズマの男根には血液が集結し、ビキビキと血管を浮き上がらせて硬度を増してゆく。

 「そんな…!

 カズマ、ついさっき私とヤったのに…! なんでダクネスに、そんな事してもらう必要があるんですか…!」

 妬き餅を焼くめぐみんが首だけ回してカズマに抗議すると。カズマは、はふぅ~、とご満悦の吐息を吐いて答える。

 「だって、そこに女体があるからだ。

 …しっかし…う…っ! ダクネス、フェラが巧くなったな…!

 舌テクだけで、金玉の中身を搾り取られそうだ…!」

 ダクネスは"ふふん、そうだろう"と誇らしげに笑みながら、カズマのペニスをしゃぶり続け…直後。

 「あ…やべっ! く…っ! そ、掃除したのに…! 射精(だ)しちまった!」

 そんな事をいいながら、ドビュルルルルルッ、と勢い良い白濁をダクネスの口内にブチ撒けたのだった。

 ――こうして肉体関係を愉(たの)しんだ後、3人は寸劇のための細工を始める。

 出来るだけ自然にダメージを受けたように見せつけるため、ジキテリオの案内で急な土手に案内してもらっては、わざと転げ落ちて服を裂いたり体に擦り傷を作った。…ただし、ダクネスは何度転がっても汚れるだけで、傷一つ付かなかったが。

 ――その後の展開は、先述の通りであり、アクアはまんまと寸劇を信じて罠にかかったのである。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 己の妄想的願望を叶えるため、森へ行くことを快諾したアクアであったが…。いざ当日となると、先の快諾時の高いテンションが嘘のように、いつもの自堕落な性格に収まってしまう。

 まず、普段よりも早い時間に寝床から起きる事を嫌がる。毛布を剥ぎ取って無理矢理起こそうとすれば、毛布をガッシリ掴んでミノムシのようにくるまり、維持でも惰眠にしがみつこうとする。

 「街を救った偉大な女神になるんじゃなかったのかよ!?」

 カズマが文句をぶつけながら、必死に毛布を引っ張れば――アクアも負けじと毛布を離さずに言い返す。

 「今でも十分偉大な女神なんだし、あと1時間寝かせてくれても、結果は変わらないってばー」

 (こンの、駄女神が…ッ!)

 カズマは唾でも吐き捨てたくなる衝動に駆られるが…ハッと股間にピンと来る目的を思い出し、生唾と共に不満を胃袋へとゴクリと飲み下す。

 (クックックッ…今のうちに、精々好き放題にしておけよ…!

 その内お前は、アンアンよがり狂って鳴き叫ぶことになるんだからな…!)

 カズマはめぐみんとダクネスの応援を呼び、アクアをなんとかベッドから引きずり出すことに成功する。

 …しかしその代償として、アクアは朝食の間中、不機嫌さを露わにし続ける。挙げ句の果てには、

 「やっぱ、面倒になってきたわ。

 もともとアンタ達が勝手に引き受けて始めた仕事なんだし、あんた達で何とかすれば良いじゃないの」

 なんて事まで吐いてくる。

 カズマは堅く握りしめた拳をアクアの頭蓋骨にガツンと抉り込みたくなるが…ここで股間の訴えに従い、我慢を重ねる。

 「そ、そんな事言わないでくれよ。オレ達だけじゃ、到底相手が出来ないような怪物なんだ。お前――いや、アクア様のお力を借りれなければ、この仕事を全うに終えることはできないですよ」

 カズマは出来るだけ顔がひきつらないよう努めながら、思い切り媚びを売ってアクアの機嫌を取る。

 この試みには、ダクネスも援助してくれる。

 「アクア、あなたの浄化魔法はこの街どころか、この世界でもトップレベルの実力を備えていると評価しても、決して過言ではない。

 そんな貴女(あなた)の非凡な力を、是非私たちのため――いや、この街のため――いやいや、この世界のために役立てて欲しい。

 頼む…!」

 「よろしくお願いします」

 と、付け加えたのは、めぐみんである。彼女はカズマやダクネスのようには今回の計画に乗り気ではない。しかし、恋い慕うカズマのため、出来る限りの援助の手を差し伸べたのだった。

 こうして3人に煽(おだ)てられて、ようやくアクアは乗り気を取り戻す。鼻高々とした尊大な態度を取り、形の良い胸に手を当てて、高説を語る講演者よろしく語り出す。

 「仕方ないわねー! このアクア様が居ないと、このパーティは成り立たないものねー!

 早く怪物とやらに遭いたいわ。魔王軍の幹部すら浄化し切って見せた私が、一瞬で塵に返してやるわ!」

 この態度を見て、ようやくカズマはホッと胸を撫で下ろす。

 (これくらいの労力でコイツを動かせるなら、安いモンだ)

 

 森への道中のこと。カズマ達は、移り気なアクアが「歩き疲れた~!」などゴネるのではないかと懸念していたが…それは杞憂に終わったようだ。アクアは上機嫌で鼻歌を歌いながら、自ら先頭に立って時折スキップを交えながら、森へ向かって進む。

 「ほら~! キリキリ歩かないと、私の伝説的な大活躍が夜の帳に隠されちゃって、見逃しちゃうぞ~!」

 朝の寝床の様子から一変したこの姿にカズマ達は苦笑を隠せない。

 だが同時に、これは歓迎すべき事態でもある。アクアは何の疑念も抱くことなく、自らすんなりと罠に向かってくれているのだから。

 (こいつがアホで本当に良かった…)

 カズマは内心でほくそ笑みながら、「待ってくれよ~!」なんて声をかけつつ、アクアの後ろを追うのであった。

 

 そして陽が南中に差し掛かるころ、一同は件の森に到着する。

 カズマ達3人には、"第二の我が家"と称しても違和感がない程に見慣れ親しんだ場所であるが。今回の寸劇の雰囲気を壊さないよう、真顔を作ってアクアに尋ねる。

 「どうだ…? 何か感じるか…?」

 木漏れ日が殆ど届かない森の中で、アクアは愛用の花状の杖を真っ直ぐ縦に持ち、目を瞑って集中を開始する。

 この光景にカズマは思わず吹き出しそうになる。この森には大した生き物が居ないのは分かり切っている。そんな事情に通じたカズマからすると、アクアの行為は余りにも空虚で滑稽極まりない行為に見えて仕方がないのだ。

 だが、ここで笑ってしまっては、流石のアクアも何かを感づいてしまうことだろう。咳払いすら聞こえないように努力しながら笑いを飲み込みながら、アクアの反応を待つ。

 「…居るわね…」

 アクアは至極真面目に答える。こういう行動だけを見れば、本物の歴戦のアークプリーストに見えるのだから、容姿というものはズルいものだ…とカズマは感想を抱く。

 「何て言うか…死者に近いけど…少し違う雰囲気ね…。でも、決して悪魔じゃない…。

 怨念が凝り固まって形を成したというよりも…そのまま何かに転生したような…少し奇妙な雰囲気ね…」

 このアクアの言葉に、カズマのみならずめぐみんもダクネスも思わず舌を巻く。ジキテリオの状況を、彼の姿を直視することなく、ピタリと言い当てたのだから。

 (駄女神とは言え、流石は転生を司っていた女神ってことか。加えて、アークプリーストって職業の特性が、アクアの長所をもっと引き出してるのかもしれないな…)

 カズマはそう分析し、素直に感心する。

 さて、アクアが森の雰囲気調査を終えて目を開くと。ダクネスが問い掛ける。

 「それで、どうする…?

 相手が非常に強力だというのも勿論だが、この森の広さも相当に厄介だ。ヤツが今何処を彷徨(うろつ)いているのか、検討が付かないからな。

 まずはパーティを二手に分けて、探索を…」

 「その必要はないわ」

 アクアは得意げに立てた人差し指を左右に振りながら、不敵な笑みを浮かべてみせる。そして、愛用の杖をチアガールよろしく器用にクルクルと回した後、ビシッと格好良く構えを取る。

 「この程度の相手で、この規模の森なら! ここから森全体に浄化魔法をブチかませば、一瞬で片が付くわよ!」

 その台詞に、カズマ達3人の顔がひきつる。

 (何ぃっ!?)

 想定外である。アクアがいくらアークプリーストとして長けていようと、強敵が相手と聞けば、まずは対峙する事を試みるだろうと予測していたのだが。何と、相手の顔も見ずに倒せてしまうと豪語するとは!

 「ま、マジか!?」

 カズマが思わず素になって問い返すと、アクアはフフンと鼻を鳴らして語る。

 「マジもマジよ。

 相手はアンデッドとは違うけれど、かなり似通った存在のようね。だから、浄化魔法が有効よ。

 バカ力だけは凄いらしいけど、怨念の強さはそれほどじゃないわ。至近距離に近づく手間なんて掛ける必要ないほどの、ザコね!」

 (ウソだろ!?)

 カズマは内心で問い返すが…一方で彼の理性が、仕方のない事だ、と言い聞かせる。

 ジキテリオは元は大魔法使いかも知れないが、今はその見る影もない蟲に過ぎない。しかも、昨今のカズマ達の性行為から快楽を得ているので、怨念が強まるどころか、彼の空虚な心が満たされてゆくばかりである。故に、現在の彼の存在を支えている怨念というエネルギーはかなり弱まっている。そこへ浄化魔法などブチ込まれたら、ジキテリオは即座に昇天してしまうだろう。

 (マズいッ! なんとかしないと…!)

 カズマはチラリとダクネスに視線を走らせる。すると…彼女はすでに、行動を起こしている。

 ダクネスは黙ってアクアの背後に回り込むと…彼女が誇る万力のような筋力を惜しみなく発揮し、杖を構えるアクアの両脇を捕らえて高速する。

 「え…っ!」

 突然の、そして想定外の行動に、アクアは驚愕の声を上げる。対するダクネスは、アクアの鼓膜にキンキンと響くくらいの声を張り上げる。

 「それをやらせるワケには、いかんのだ!」

 

 - To Be Continued -

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