「…顔色が悪いですよ、小鳥」
「…そんな事ないよ、いつも通りだし」
「そんな事あります。何か、無理をしていませんか」
「無理はしてないよ。…これくらい、薬飲まなくても大丈夫だし」
「…薬?」
「………此処に来てから、時々頭痛が酷くて、こんのすけに痛み止めもらってるんだ。元々不健康な方だから痛みには耐性ある方だと思うんだけど、支障をきたす時があって」
「…それだけ酷いなら医者にかかった方が良いのではありませんか」
「現世の方に門を繋ぐには申請込みで一週間はかかるって。許可なしには繋げないそうだし。…でも、痛み止め使ったら本当、全然痛くなくなるし、大丈夫だから」
「それは、大丈夫とは言いません。…しかし、妖横町の医者は妖の為の医者ですからね…」
「…だからって俺に任せていいのかい、旦那」
「少なくとも、悪感情は持っていないでしょう」
「…まあな」
薬研は改めて小鳥を見る。確かに、健康そのもので元気溌剌、という人間には見えない。病弱な、線の細さというか、妙な色気みたいなものもある。
「どういう頭痛がするんだい?」
「んー…側頭部のあたりが、拍動に合わせてずきずきする感じというか…弱い時はそれが不快なだけなんだけど、強くなってくるとそっちに意識が引っ張られて他の事に意識が向けられなくなる感じ、かなあ」
「いわゆる偏頭痛ってやつか。こんのすけに貰ってるっていう薬は?」
「いつもその場で飲むよう言われるし余分にもらわないから今手元にはないなあ」
「・・・」
薬研は頭痛がするような顔をして自分の頭をつついた後尋ねる。
「薬について詳しくは聞いてるのかい?」
「んー…鎮痛剤ってのと、副作用がある、ってのかなあ…頭痛酷い時に頼むからあんま細かいこと気にする余裕ないし、名前とか覚えらんないし」
「副作用ってのは」
「んー…なんかこう…体の奥が熱くなってきゅんきゅんする感じの不快感と、気持ち悪さがある。耐えらない程じゃないんだけど」
「うーん…?」
「っ、こんのすけ…」
「――はい、主さま」
こんのすけは小鳥の様子を見てすぐ己の呼ばれた理由を察知した様子で錠剤と水を出す。
「いつもの薬です、主さま」
「ん、ありがと…」
受け取ろうとした小鳥の手を薬研が遮る。
「その前に、ちょいと見せてもらうぜ」
「薬研藤四郎」
「あんまり妙なもんを使ってほしくないんでな。薬に頼り過ぎるのはよくないし…?んん?」
薬研は訝しげな顔になる。
「…これ、本当に鎮痛剤なのか?」
「…それは、主さまの頭痛を鎮めるための薬です」
「・・・」
薬研は錠剤を潰して粉を僅かに舐める。
「!」
「っ…?!」
「や、げん…?」
「てめぇ、ガキになんてもん、のませてやがる…」
薬研の呼吸は荒く、目元が潤んでいる。また、股間を押さえている。
「やげん、どうし、たの…?」
痛みに顔をしかめながら小鳥は問う。
「人間と刀剣男士では、効果に差のある薬もあるのですよ」
「つっても、全然違うってこともないだろう。刀剣男士は、人を模してるんだからな。…こんなもんで、何で、頭痛が治まるってんだ…っ」
こんのすけが用意し直した薬を飲んだ。
「…薬研、大丈夫か?」
「それは寧ろ俺の台詞だぜ、お嬢…そっちこそ、平気なのか?」
「うん、頭痛は治まったよ」
頬に差した赤みに、増した色気。薬研は、おぼろげな仮説を思い付く。
薬研は小鳥を床に押し倒した。抵抗せず倒れた小鳥に、薬研は興奮状態にあるそれを押し付ける。
「俺っちが一舐めしただけでこうなっちまうような代物を飲んで、お嬢は平然としてるのかい」
「ん、俺は平気、だけど…薬研はシたいの?」
「…。…正直どうにかして吐き出さなきゃ治まらなさそうではあるな」
「俺でよければ、"使って"いいよ」
「…本当なら、子供相手に、ってのは趣味じゃないんだがな」
「…自分自身の状態を正しく認識できてない、って感じか」
小鳥も肉体的には薬研と同じく発情状態になっているようだった。ただ、媚薬と性行為によってもたらされる快感を快感と認識しない。不快、変、きもちわるい。躯は正しく快楽としているようだが、精神がそれを受け入れていないというか。しかし、事実と違う事を口にして、それを否定している、という風でもない。本人は、本気でそれを不快なものとして認識している。…妙な状態だった。
「…?」
「痛くはないか」
「平気」
既に刺している。
…感覚の認識に異常があるとしたら、頭痛の方もそうでないという保証はない。彼女が堪えている痛みは、どれほどのものか、わかったものではない。…いや、そもそも痛みに対する耐性は個人差のあるものかもしれないが。
「…って感じなんだが…」
薬研はジト目で平安組を見る。
「…ぶっちゃけ、じーさんがたヤっただろ」
「あまりにも美味そうな匂いをさせていたものじゃからなぁ」
「すまんな」
「いやあ、据え膳はいただくのが甲斐性ってやつだろう?」
「・・・」
一振りとして反省の色がない。否、悪いと思っていないと言うべきか。
「子供に手ぇ出すか?幾ら据え膳だったからって」
「子供と言っても、あれくらいの年で嫁ぐのもそう珍しい話ではなかったじゃろう?現代では違うのかもしれんが」
「元服や裳着は終えている年だろうしねぇ」
「あんたら一体いつの常識で話をしてるんだ」
日本号が呆れたような顔をする。
「まあ、私は弁明せぬぞ。ぬしさまの有用性を知らせてしまったのは私じゃろうしな」
「…まあ、どう考えても君が原因だよな」
「反省はしておるが後悔はない」
小狐丸は赤と金のオッドアイになっている瞳を細める。
「反省してる奴の態度じゃないだろ…」
「しかし、穢れが祓われるのは必ずしも悪いことではないでしょう。…審神者殿に負担があると言っても」
「まぐわうのが手っ取り早いというだけで、きちんと契約を交わして霊力を取り込めばそれで穢れを祓えるじゃろうがな。数珠丸のやつもそれで持ち直したそうじゃし」
「それなんだよ。お嬢は押されると従順に従っちまうだけで、自分からしなだれかかったりするような、もっと言えば色狂いの類じゃない。…というか、刀剣男士と人間で効果に差があるって可能性があるにしたって、媚薬盛られて自分からは全く性を求めないのは大した胆力だと思うぜ、変な話」
正直、一発で薬に負けたようなもんである薬研には、小鳥の自制心(?)は一周回ってヤバいと思う。処女ではないのに。
「そんなお嬢に手っ取り早いからって複数の刀剣とまぐわうのを強要するってのはどうなんだ」
「と、言われても、僕は一応本人の了解は得てヤったつもりなんだけど」
「熱を持て余しておったからそれを吐き出す術を教えてやっただけで、そうでなければ特に手を出すつもりはなかったのだがなぁ」
「こうなればいっそ、ぬしさまにも快楽を得てもらう方が良いじゃろう?」
「これだから爺どもは」
「小鳥、大丈夫ですか?」
「大…丈夫。薬飲んだし、しばらく大人しくしてたら戻るから」
「・・・」
数珠丸はそっと小鳥の額に触れる。
「…熱があるのでは、ありませんか?少し顔が赤いように思います」
「そう…?」
小鳥は気持ち良さそうに目を細める。
「…うん、でも、毎日こうは困るなあ。何もできなくなっちゃう」
薬を必要とする程の頭痛の頻度が上がっている。そもそも、睡眠時間も長めなので日中の起きて動ける時間は短めになる。そして、審神者として必要な知識を得るための勉強の時間などを考えると、時間の問題は実は重要である。
「…私にも何かできる事があればよかったのですが」
「…そうやって、気遣ってくれるだけで僕は嬉しいよ」
「恒次が望むなら僕は何でもするよ」
望まないことはしないとは言い切れないけれど。
「…私はあなたが健やかであってほしいだけです」
「すこやか?…よく、わからない」
「あなたは、あなたのしたいようにすればいいのです。私はあなたの傍でそれを支えますから」
「…ぼくは、つねつぐがいっしょにいてくれれば、それでいいよ」
「・・・」
「そもそも、僕らに何ができるかって、思惑に乗ってやることくらいしか出来ないんだよね。あの子の頭痛をどうにか出来れば別だけれども」
小鳥が薬を飲むのは、あくまでも頭痛に耐えかねるからだ。それ以上でもそれ以下でもない。薬にそもそも中毒性があるのかはわからないが、少なくともそういう理由ではない。抱かれるのも訪れた刀剣が求めた場合だけだ。自分から求めることはない。
「…まあ、俺っちもどうするべきかわからないから相談しに来た、ってのが大きいんだが…旦那でも対処法は浮かばないのかい」
「ずず丸君に話すってのも考えたけど、その場合、極端な結果にしかならないだろうしねぇ」
「ああ、アイツはあの子を大事にしてるみたいだったな。いざとなれば政府を敵に回す位はするんじゃないか」
「或いは、堕ちる可能性もあるのう。一度は穢れに浸った身だそうじゃし」
「そもそも、政府が小鳥を使い潰そうとしておるとすれば、"次の審神者"も既に用意されておるかもしれんな」
「いやな予感しかしないんだがそれ」
「ぬしさまを使い潰して我らが清浄に戻った後に首を挿げ替えるつもりなら、その時には私たちも自害する、と脅すのじゃどうじゃ。審神者も刀剣も替えが利くとはいえ、両方潰れてはたまるまい」
「こちらが本気だと、あちらさんに理解する頭があるかが問題だがな。そもそも、何度審神者が害されても送ってくることを止めなかった奴らだぞ。素直に聞くとは思えないな」
やつらは俺たちを舐めている。