小鳥は快楽に溺れない。寧ろ、性行為によって快楽を感じて、認識しているかどうかすら危うい。だから、小鳥が自ら三日月にまぐわいを望むことはない。どんなに三日月の手で快楽を躯に教え込まれても、自らそれを求めることはしなかった。
焦らされ、躯が火照り、更なる刺激を求めても、そのまま放置されても、三日月に続きを強請るどころか、自ら己を慰めることもしない。ただ、その熱を持て余している。己の躯がどうなっているのか、どうすればその熱を解放できるのか、三日月に調教された躯の求めるものがわかっていないわけではない。ただ、与えられるものだけを甘受している。
それが、三日月にはもどかしかった。小鳥が、快楽の為に己を求めないのが(快眠のための腕は求める)。その苛立ちが、ある時表に出た。鍛錬所、鍛刀の式神と何やら話をしている小鳥を見つけ、三日月は逆上した。乱暴に小鳥を抱え上げ、離れ家の格子の中に引きずり込む。
「みか、づき…?」
「なあ、小鳥。そなたには、俺以外必要なかろう?」
衣を脱がせて腕を縛める。
「他の刀も、人間も、いらぬであろう。俺が、この三日月宗近だけがそなたの
「三日月、怒ってるの?何で?」
小鳥の瞳に怯えが混じる。
「俺以外を求めるなら、その愚かさを思い知るまで仕置きをしてやる。そなたは、俺だけを見て、俺だけを求めていれば良い」
裸に剥いた小鳥に枷を付ける。小鳥が自分では何もできないように拘束する。
「なぁ、小鳥」
弦月は狂気と執着と色欲をない交ぜに映している。
「愛しいのは、俺だけか?」
小鳥にはわからない。快楽を求めることも、
格子の中に閉じ込められ、"夜の三日月"の共に溺れ死のうとするかのようなまぐわいが続いていても、小鳥はそれを受け入れるだけだった。そうする以外の選択肢を小鳥は知らない。逃げて抵抗しても、三日月を怒らせるだけだ。
それでも何故だか、主導権を握っているはずの三日月が泣いているような気がした。したけれど、小鳥には何もできなかった。拘束は小鳥の自発行動を許さない。自由に動く口は紡ぐべき言葉がわからない。だから小鳥は、ただただ行為を受け入れ、三日月を見つめるばかりだった。
「小鳥は、いけない子だなぁ。仕置きでこんなに感じて、蜜を溢れさせて。それとも、仕置きで酷くされるのが好きなのか?」
三日月に調教された躯は、夜の三日月に与えられるどんな刺激も快楽とする。最初は恐怖を感じるばかりだった玩具による責めも、何とも思わない。大きな張型を幾つも咥えこまされても、穴から蜜を垂らすばかりだった。
「…それとも、もはやこれでは仕置きにならぬか?」
三日月は、玩具はそのままに小鳥の足の縛めを解いた。腕を後ろ手に固定し、首輪に紐を付けて立たせる。正中線を通るように紐を躯の前後にくぐらせる。三日月が紐を引くと、紐が股の間を擦れた。
「おいで、小鳥。散歩をしよう」
足を踏み出すたびに玩具と紐が性感を刺激する。座りこまぬよう、三日月は腕と紐を引く。
「そなたがこんなにもいけない子になってしまったのだと、式にも見せてやるか。…どう思うだろうな?」
「…やだ。あの子たちに、こんなの見せたくない」
「仕置きは嫌な事をするものだろう?」
「…三日月以外に、見られたくない」
「…ほう」
「みかづきだけが、いい」
「…ふむ。だが、やはり少し庭を散歩しようか。なに、俺たちが離れ家におる時に寄ってくる無粋ものはおらぬ」
三日月はうっとりと微笑した。
「もう、無理」
座りこもうとする小鳥を三日月の手と紐が邪魔をする。
「これ、このような所で座りこもうとするな。まだ散歩は終わっておらぬぞ」
「だって、もう動きたくないんだもん」
「そうは言っても、このまま此処に立っているわけにはいくまい?」
「…みかづき、だっこ、して?」
三日月は瞠目した後、頬を緩ませた。
「…仕様がないなぁ、そなたは」
小鳥は、三日月が自分に何かを求めてほしいのだということを学習した。
「だってもう動くのやだもん」
三日月が小鳥を抱き上げると、小鳥は猫のように頭をすりよせた。
小鳥の世界は彼女一人で完結している。だから、他者に何も求めない。自分で動いて自分で解決する。あるいは、そもそも問題に気付かず、不都合もそのまま受け入れる。
他者に働きかけるより自分で動く方が楽だと思っている。ある意味では、それも間違いではないのだろう。