白い聖女と桜の剣士(プロローグ)
この世には自分じゃどうしようもない出来事というものがある。
少なくとも俺はぱっと思いつくものだけでも両手両足の指の数を容易に超えるほどにある。
「うがああああ!!もう許しません!!無明三段ーーー」
そして俺は今現在進行形でそれにぶち当たっていた。
「なっ!!そっちがそうくるならーーー!」
「ちょっ、バカ!!」
逆に聞いてみたい。サーヴァント同士の争いをただの人間が止められるだろうか?答えは否だ。
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「…すみません、りつ、マスター…ご迷惑を…」
「いいんだ、ジャンヌ」
「ごめんなさい…マスター」
「気にしてないよ、沖田さん」
俺は今カルデアの医療室に来ていた。
「立香くん、あの、私も悪ふざけが過ぎたというか…」
「ジャンヌはさ、もう少し手加減ってものを覚えような?」
「ついカッとなってしまって、もうしません、すみません……」
「うん、次生かせればいいんだよ。脳筋聖女、気を付けてな」
「脳筋…!」
「…本当にごめんなさい」
「沖田さんもさ、殺す気はなかったかもしれないけどこれからはあの技カルデア内じゃやらないようにしようか?」
「はい…ごめんなさい」
「うん、反省してればいいんだ」
「私には何かないんですか!?」
何故医療室にいるのか、それを話すと少し長くなる。そう、これは今から数時間前の話だ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『マスター、暇です!何かしましょうよ』
始まりは沖田さんのこの一声だった。
『確かにここ最近弛んでいますね。沖田さん、私もご一緒してよろしいですか?』
『はい!もちろん!』
『いや、待って?今の俺が弛んでるように見えるのジャンヌ?沖田さん、俺は見ての通り暇じゃないよ?』
その時俺は自分の部屋で日課のトレーニングをこなしていた。最初こそただの苦痛で義務感から鍛えていたのだが筋肉が付いてくるのを実感するとなかなか楽しくなってしまい、今では俗に言う細マッチョになった。
『はぁ、マスター、私暇です〜…どこかに遊んでくれるマスターいないかなぁ』
『はぁ…わかった…じゃあこれ、よいしょ!はい、あげる』
俺は先程まで使っていたダンベルを沖田さんに手渡す。
『…はい?』
俺の言葉を聞いて嬉しそうにしていた沖田さんは何か気に食わないことでもあったのか少し怒ったような顔をしてこちらを見た。
『立香くん…』
ジャンヌがうわ、こいつマジかよ…とでも言いたげな目で俺を見る。
『…なに?』
『『…なに?じゃありませんよ!!』』
『なんですかはい、あげる…って!沖田さん久しぶりに吐血しそうでしたよ!?』
『本当ですよ!立香くんはいつからそんな脳まで筋肉になっちゃったんですか!?うぅ、私が無駄なことを言ったばかりに…ごめんなさい沖田さん…!』
『いやいや、ジャンヌさんは悪くありません…それよりいつからマスターのこと名前で呼ぶようになったんですか?』
『いいえ、私のせいです!前に立香くんとアミューズメントエリアに行った時にふと思い付きで片手で懸垂出来る人とか憧れますって言ったから…』
『はい!?私それ呼ばれてませんよ!?ていうかカルデアにそんな施設あったんですねぇ…じゃなくてそもそもいつから名前で…』
『呼ばれてないも何も私と立香くん二人で行きましたからね?』
『なんと!?…ていうか名前!!』
『はぁ、俺ちょっと散歩行ってくる…』
俺は言い争いをしている二人を置いて、そのまま部屋を出ようとドアへ向かった。少し待てばこの争いも終わるだろう。争いは争いしか産まない、俺は悟ったような表情でそのまま部屋を出ていった。それが甘い考えだとも知らずに…
〜10分後〜
『……なんということでしょう』
それから少しして、そろそろ終わったかな?と思い自分の部屋に帰ると
『…わ、私はマスターと手繋いだことありますよ!痛っ!よくもやりましたね!?』
『私だってそれくらいあります!!沖田さんは知らないかもしれないですけど立香くんは寝る時抱き枕が無いと眠れないんですよ!』
俺の部屋は戦場と化していた。ダンベルは壁にささり、床には血痕、ベッドのシーツはグチャグチャになっていて、枕も何故か壁に刺さっている。いや、どうやって壁に刺さったの枕くん?
『ぐうう!!ま、マスターは私のこと好きだって言ってました!!』
『何にも知らないんですね!?立香くんは生粋の女たらしです!その気が無くてもホイホイ好きだって言いますよ!!沖田さんのそれも女としてではなく仲間として、みたいな意味に決まっているでしょう!!』
『コフッ!そ、んな…ありえそうなのが辛い…』
床に新たな血が垂れる。俺がいるのにも関わらずとても心無い事を言われているが恐らく二人は帰ってきた俺に気付いていないのだろう。というかジャンヌは俺の事をそんな奴だと思っていたのか。オルレアンの頃から共に戦ってきたジャンヌからの心無い言葉に俺はとてつもない精神的ダメージを喰らう。
『はぁ、はぁ、これで決着です…私は、立香くんと…共に夜を過ごしたことがあります』
『…なっ!?……そ、そんな…』
『ふ、私の勝ちですね…』
と、俺がショックから立ち直ると沖田さんは項垂れており、ジャンヌはドヤ顔で沖田さんを見下ろしている。そろそろ、止めに入ろうかと俺は声をかけようとした。
『う、うぅ……うがああ!!もう許しません!!無明三段ーーー』
『なっ!!そっちがそうくるならーーー』
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
その後、俺はまさかのリアルファイトをし始めた二人の間に入り、沖田さんの目にも止まらぬ三連左ジャブ(沖田さん曰く『無明三段突きですよ!』らしい)を肋に、ジャンヌの完璧なフォームから放たれた右ストレートを右腕に喰らい(ジャンヌ曰く『私のステータスを見てください。筋力のステータスが高いでしょう?これは旗がなくなったら殴れよという啓示なのです』らしい。正直何言ってるか分からない)
俺が二人を止めに入ったのは存在を認知さえしていなかった二人には予想外のことだったらしく力はできる限り弱めたけど止められなかったと言っている。
「その結果がさ、これだよ?見て、この右手、どっからどう見ても折れてるよね?ていうかこれで精一杯弱めたって何?沖田さんに当たってたら死んでたんじゃないのこれ」
お陰で俺の右手は見るも無残なことになっていた。青く死んだような色の痣、尋常じゃない腫れ、あと動かす度サッカーボールキックでタンスの角に小指をぶつける、もしくはサッカーボールキックで睾丸を蹴り飛ばされるほどの痛みが走る。これはレントゲンを撮るまでもなく折れているのが分かる。
「…脳筋ですみません」
ジャンヌは項垂れ、謝罪してくる。その顔は血でも抜かれたかのように青ざめており今にも泣きだしそうな表情だ。俺が脳筋って言ったからなのかそれとも俺に怪我をさせてしまったからなのか、それともどちらもなのか、俺には分からない。
「沖田さん、見てこれ、折れてはないかもしれないけどこれヒビ入ってんだよ。しかも3本」
俺は服をめくり沖田さんに殴られた箇所を見せる。剣がないからか一点集中型である本物の無明三段突きより狙いが定まらなかったのだろうか3回のジャブは俺の肋骨を狙っていたと言われても違和感を感じないくらい的確に打ち抜いた。
「ま、マスター本当に結構いい体してるんですね」
沖田さんは俺の話を聞いていなかったのか俺の体の感想を言ってくる。なんか言い方がとても卑猥だが他に言いようがないので許して欲しい。とりあえずこのバカ剣士は後で注意しておくとして二人が正座ている方へ改めて向き直る。
「とりあえずさ、二人にはなんらかのペナルティが無いとダメだと思うんだ」
俺のこの言葉を聞くとジャンヌは青ざめていた顔をさらに青くさせ、沖田さんは血を吐き、苦しげに言った。
「は、腹を切れ…と?」
「いや、ここ新撰組じゃないから!そんなこと言わねぇよ!!あとジャンヌ!別にそんな青白い顔にならなくていいよ?別にそんな言うほど重いものでもないから!!」
「…本当にすみませんでした」
「いや、もういいから!つかむしろ俺が真ん中入ったのが悪いんだからそんなに落ち込まなくていいから!もう無理だ、罪悪感に耐えられない!はい、二人にやってもらうのは俺の看病です!!」
「…」
「…」
「…え?」
あまりにも凹んでいるジャンヌに逆に申し訳なくなり一気に話してしまったのがダメだったのか二人は返事をしない。聞こえていなかったのだろうか?
「あ、あの…俺の看病を……あ、やっぱ包帯まくだけで」
「…」
「…」
「あっ、やっぱいいよ…勝手に俺が間に入ったのが悪いんだもんな…さっきはごめんね、なんか変に責めたりして…包帯もやっぱ自分で巻くよ…」
まずい、泣きそうだ。俺の看病がいやなのか二人は一言も話さず下を向いている。二人のことだからそんな事で済むならやりますとか言うと思ったんだけどなぁ…あっちは簡単なことで済んでハッピー、俺も二人の美女に看てもらえてハッピーなウィン・ウィンの関係だと思ったんだが、どうやらダメだったらしい晩年クソ童貞の俺なんかの世話は勘弁、ってか…死のう
「…あ、いえ!!立香くんの看病やらせてください!!私が折っちゃったんですもん!!私が世話しなければ!!」
「…わ、私もやりますとも!!そんな怪我させちゃったわけですし!?沖田さんが剣だけじゃないってこと見せてやりますよ!!」
「…いいよ、やらなくて」
優しい二人は俺が凹んでるのを見抜いたのか空元気を絞り明るく嬉しそうに看病をしてくれる、という。しかし俺は嫌がる女の子に無理やりやりたくないことをやらせるような外道に堕ちたくはない。
「た、大変です沖田さん。これから始まる立香くんとの看病生活を想像している間に立香くんが卑屈モードになってしまいました」
「…ジャンヌさんもでしたか、わたしも思わず妄想に走ってしまいました。しかしこの状態になったマスターは面倒ですよ」
「…となると、あれしかないですね」
やはり嫌だったのか二人は俺から背を向けひそひそ話をしている。俺ってそんなに気持ち悪いのだろうか?ブサイクではないと思うんだが、そんなことを考えていると突如後ろからとてつもない殺気を感じーーー
「ぐぅっ…」
俺はそのまま気を失った。最後に見えたのは青い顔で驚愕している沖田さんの顔だった。
ジャンヌが怒ったり、聖女らしくないことしてるのいいよね
沖田さんはなんだか、いいよね(適当)