雪が降ったら何をする?
「冬です!」
「はぁ」
「そうね」
「…だから?」
「私寒いのは嫌いです……」
立ち上がり声を上げる俺に、上からジャンヌ、メイヴちゃん、ジャンヌオルタ、沖田さんと返してくる。
「お前ら情けないぞ!!冬だからってコタツにずっと入ってばかりで!!俺を見習えよ!冬でも元気、立香くんだよ?」
「マスター、そんなに遊びたいなら私とベッドの中で遊びましょう?後悔はさせないわ」
「なっ!メイヴさん、ふしだらですよ!!」
「なによ!長い間一緒なのに相手されない私の気持ちも考えて!…あっ、そういえばあなたこの中で一番古参だったわね、ごめんなさい、ずっと一緒にいるのにマスターに全然相手にされてない聖女さん!あっはははは」
「ぐぬぬ!立香くん!!言ってやってくださいよ!!メイヴさんが!メイヴさんが!!」
「黙りなさい!!マスターが困ってるじゃない!!」
「そうですよ、マスターはメイヴさんとジャンヌさんより私のことが好きなんです!ね、マスター」
「みんな元気だな!よし!じゃあ雪合戦するか!!」
「「「「聞いてない!?」」」」
ゴチャゴチャしてて聞こえなかったんだもん、なんて言ったら間違いなく血で血を洗う戦いが始まる。そんな予感を信じ、俺は敢えて無視をする。
「なんかモチベーション低いね…そうだな、じゃあ優勝者の言うこと1つ俺が出来る範囲内なら叶えるよ」
「やりましょう!」
「マスター!今言ったこと間違いないわね!?」
「…なんでも…今なんでもするって?」
「マスターの初めては沖田さんが貰います!!えぇ、燃えてきましたとも!!」
ジャンヌは力強く立ち上がり、握りこぶしを作り、メイヴちゃんは鷹のような目で俺を睨みゆっくりと立ち上がる。
ジャンヌオルタはジャンヌとは対照的にブツブツと小さな声で何かを言っている。
「待って、沖田さん…今なんて?」
立ち上がりシャドーをする沖田さんに問う。その顔には不敵な笑みが浮かんでいる。
「なにって…これマスターの貞操をかけた聖戦なんですよね?」
「…え?」
…え?
え?
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
「と、いうことで!!今年から始まりました、チキチキカルデア雪合戦!!実況は私!優勝候補の沖田さんと、解説の!」
「なんで私が…」
「解説のジャンヌオルタさんです!」
と、いうことで始まったらしいチキチキカルデア雪合戦。賞品を汚すわけにはいかないとか変な理由から俺は参加出来ないらしい。正直泣きたい。
「立香くん!私が勝ったら私のこと聖杯で受肉させてください!」
「ジャンヌ、ごめん何言ってるか分からない」
こちらに大きく手を振るジャンヌ。聖杯に願いが無いのがルーラーって言ってなかったか?
「マスター!私が勝ったら私と愛の結晶を作ってもらうわ!」
「…ノーコメントで」
ジャンヌと同様こちらに手を振るメイヴちゃん。さっきから受肉だ、愛の結晶だ…なんなんだ、こいつらは。
「おーーっと!早速、火花を散らし合わせる白い聖女とピンクの女王!ちなみに私はマスターが私を愛してくれればなんでもいいです!解説のオルタさん、貴方はこれをどう捉えますか?」
「…っ…す…」
「…なんと?」
「あいつらぶっ殺すって言ってんのよ!!マスターの前であんなこと堂々と言うなんて!!女の子としてどうなの?!」
「オルタェ…」
ジャンヌオルタ…俺はお前を信じていたぞ。グレたJKみたいな話し方するけど心の中は乙女だもんな…うんうん、ジャンヌオルタが勝てば俺は平和に…いや、待てよ?
〜マスター、想像〜
『そういうわけで私が優勝しました。でも、そうねぇ…マスターなんていても要らないし…サンドバックにでも使いましょうか』
『えっ…自然に返してくれるんじゃ…?』
『アンタは怪我した野生動物か!…最近鬱憤溜まってんのよね、丁度いい反応するサンドバックが手に入ってよかったわ…』
『えっ、待って…オルタ、お前筋力ステータスAだろっ!!シャレにならな』
『ハアッ!!』
『ーーーーー』
『声にならない声ってやつ?いい反応するわね、楽しくなってきた…』
〜そして、時は再び動き出す〜
「…」
「ちなみにオルタさんは優勝したら何を願うんですか?」
「私?…そうねぇ……特に欲しいものなんてないけど…勝てばアイツが貰えるんでしょう?…じ、じゃあとりあえず貰っといてあげるわ」
オルタはそっぽを向いてそんなことを言っている。この反応で疑問は確信に変わる。ーーーこいつ、俺を殺る気だ!!
「ふふ、素直じゃないですね〜!マスター!私はマスターを愛していますよ!大好きです!…あれ、無反応?ひどくないですかー!」
何かが聞こえるがひとまず無視だ。この戦い、誰が勝てば俺が一番安全なのかを考える。
ジャンヌ、おそらくというか普通に安全だろう。選ぶとしたらジャンヌが真っ先に思い浮かぶ。願いも受肉したいだけらしいし、しかしそこが不自然なのだ。あのジャンヌがわざわざ聖杯を使ってまででも何故受肉したいのか…わからない、全くわからない。だから今はとりあえず保留とする。
次はメイヴちゃん、これは無しだ。普通に無し、死ぬかもしれない。あのスーパーケルトビッチと名高いメイヴちゃんと子作り。前々からメイヴちゃんからは感じていたがここまで来られると流石に分かる。メイヴちゃんは俺の事が好きなのだろう。いや、嬉しいけどさ…付き合ってもいないのに子供とか飛躍しすぎだし、子供産むんだったら受肉させなきゃいけないし…うん、正直一番ない。まぁ、この中で最も勝率が低いのは間違いなくメイヴちゃんだ。ステータスがほか3人に比べ貧弱すぎる。
次はオルタ、オルタか…先程の通りに俺が死ぬ可能性がある。これも無しだ。普通に死ねる、死にたくない。
最後に沖田さん、正直ジャンヌと同じ、もしくはそれ以上に信頼出来る。最近は聞き流したフリをしていることが多いが沖田さんは俺の事が好きらしい。とても嬉しいがまともに反応すると恥ずかしいし、そこはかとなくいいムードになってしまうのだ。だがここからが沖田さんの可愛らしいところでそういうムードになると自分自身も恥ずかしくなるのか固まってしまうのだ。これは今回の俺をかけての勝負、という所で俺からは高得点だ。
これは、沖田さんに勝ってもらうべきか…しかし、沖田さんはステータス的に勝つのが厳しい気がする。
「では、マスター!号令を、スリーカウントでお願いします!」
「お、おう…3,2,1…スタート?」
俺の曖昧な開始の合図を元に俺の前で雪合戦が始まった。
唐突だが皆さんは本物の戦場に行ったことがあるだろうか?おそらくはないと思われる。俺もマスターやる前は無かった。
今、俺の前で行われているのは戦争の、それである。弾丸と同じような、下手したらそれ以上の速さで飛ぶ白い何か。いや、飛ぶというよりは目の前を白い線が通っていると言った方が適切か。
「うぉおお、俺のこと巻き込むなよ!?俺のこと巻き込むなよ!?俺のこと巻き込むなよぉおお!?!?」
大慌てで戦地から逃げる俺。俺の中の何かが言っている、ジャンヌと沖田さんには気をつけろ、と。
「ふっ、はっ、せいやっ!!」
とてもではないが雪合戦をやっている時に出すであろう声ではない声を出すジャンヌ。投げている方の手が速すぎて俺からは右手が消えているようにしか見えない。
「さあ、私の勇者たち!進撃よ!にっくき恋敵達を蹴散らして!!これは合戦よ!戦いにおいては数が全て、それに私は軽い未来視なら出来るし幸運も高いのよ!こんな雪玉目をつぶっても避けられるわ!あっはははは!!」
「…嘘だろ」
即退場すると思っていたメイヴちゃんは予想を裏切りとてつもない速さで飛んでくる雪玉を華麗に避け、時には自分で召喚した兵士を盾にし、一撃も被弾した様子がない。
「えい!きゃっ、よくもやったわね!!あ……んんっ、は、はしゃぎすぎたわ、いった!…今なげたのだれよ!!絶対に許さないわ!!」
一番雪合戦っぽいことを言っているのはオルタだ。先程まで渋っていたにもかかわらず今ではとても楽しそうだ。つか可愛い。こっちの目線に気付いたのか咳払いをして大人アピールをしはじめたがその直後後頭部に当たった雪玉にブチ切れ、応戦に向かった。
「マスター、見ててください!!うぉおおおぉおぉぅあああああ!!秘技!無明三段投げーーー!!!」
凄まじい雄叫びと共にどこぞの大リーグボールのように振りかぶり雪玉を投げる沖田さん。その雪玉はてんでバラバラな方向に向かい、遠くから木が倒れる音を響かせるだけだった。
「…これ雪で刀作った方が絶対良いですね。」
自らの投球センスの無さに気付いたのか雪を集め刀を作り出す沖田さん。俺も投げる所を見ていたがパンツ丸見えだったこと教えてあげた方がいいのだろうか。
「ていうか…」
この戦いは何をもって勝利となるのだろうか?
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
「…長いなぁ」
戦いが始まってから30分。勢いは増していく一方で俺の元気はみるみる無くなっていく。最初はみんなで遊ぼうと思って雪遊びを提案したのに案を出した俺が景品で、雪合戦も楽しんでいるように見えるのはジャンヌオルタだけ。ほかの3人は目が遊びのそれじゃない。
「ーーーさあ、覚悟なさい!」
ジャンヌはエクストラアタックの時と同じ掛け声で雪を握っては投げ、飛んできた雪玉をどこかで行われた第四次聖杯戦争のバーサーカーのように掴んで投げ返すという離れ業を行い、
「いたっ、よくもやってくれたわね!?」
その雪玉はメイヴちゃんの後頭部に当たる。とてつもない音がしたがメイヴちゃんは平気なのだろうか?あ、ダメそうだ。足がガクガクしてる。
「あはははっ、思ったより楽しいわね!雪合戦って」
とても楽しそうに笑い雪玉を投げているジャンヌオルタ。どうしてだろう、一番筋力ステータスは高いはずなのに投げる玉は最も優しい。戦場の中にいるのにも関わらずその玉には殺意というものを欠片も感じない。一言で言って天使。
「出来ましたー!!会心の出来です!…ちょっと持ちづらいですね。柄の雪は払っちゃいますか」
やっと完成したのか刀の形をした雪玉…いや、雪剣を持ち素振りをする沖田さん。なにか気に食わなかったのか柄を叩く、すると雪の中から黒い柄が。
「って、おぉぉぉおい!!それ中に剣入ってるよね!?」
思わずその場まで行き、ツッコンでしまう。
「…な、なんのことでしょうか?あ、燕だ〜」
俺の注意などそしらぬと言わんばかりに沖田さんは敵地へ突っ込んでいく。…まぁ大丈夫ってことにしとこう。あれは俺の見間違いだったんだ。
「あははは、俺知らね…」
もう俺は疲れた。その場で大の字になり寝転ぶ。
「「「「あっ…」」」」
自然とは素晴らしいものだ。自分がどれほどちっぽけな存在かを教えてくれる。このどこまでも広がる大空を見るたびにそれを噛み締める。あそこに見える鳥も、雲も、雪玉も全ての事柄に意味があるような…雪玉?
「あー、また俺が怪我するパターンのやつか」
側頭部にとてつもない衝撃が走る。こめかみが焼けるように熱い、これ間違いなく大怪我だろ…
「な、なにやってんですか!?このノーコン!!あれ程気を付けろと言ったのに!!」
ジャンヌオルタが怒っている。
「ご、ごめんなさいぃ…!」
メイヴちゃんが謝っているってことは投げたのはメイヴちゃんか…筋力Eでもこの威力とは…サーヴァントってホント恐ろしい……
耳を澄ますと足音が近くから聞こえてきた。
「立香くん、大丈夫ですか!?」
「…痛い、死にそう」
足音の主はジャンヌだったらしい。目を開けると不安そうな顔をしてこちらをのぞき込むジャンヌととても慌てた様子の沖田さんが見える。
「マスター!死なないで!!雪玉にあたって死ぬとかチーズに当たって死ぬくらいないですから!本当に恥ずかしいヤツですから!!」
その言葉を最後に俺は意識を失った。死因が雪玉なんて…絶対に嫌だ。
グダグダで長い…そして続くという…