官能的な描写は少ないです。チラ見せくらいだと思います。
恋愛なんて、生まれて一度もした事がない。
『片思い?』
それは流石にある。
『片思いも恋愛の内だ』
俺の友人に言われた言葉だ。俺が言いたいのは、男女の交際だ。付き合う=恋愛と結び付けるのはどうなのかって意見も確かにあるんだが。所詮、恋愛観なんて、人の数だけあるのだろう。
兎に角、俺の恋愛観はその程度のレベルなんだ。そんな俺が、まさかこんな状況になるとは、夢にも思わなかった。事の始まりは、大学の春休み中に起こる。
篠崎悟史は某有名温泉地に観光に来ていた。この地へ来たのには特に理由はない。ただ、大学の春休みをどう過ごすのか悩んだ後、まだ来た事がなかった『九州に行きたい』と思い立ったのが昨日の夕方。たまたま空きのあった飛行機に乗り、九州へ。ホテルは空きがなく、野宿になった。どうも、大きなイベントがあったらしい。どこもかしこも人が多く、ビジネスホテルはおろか、ラブホも満室。悟史は公園のベンチをベッドの代わりにして一夜を過ごす。
次の日、悟史は銭湯巡りに夢中になった。温泉の性質が場所によって異なり、飽きが来ない。悟史は休憩を挟みながら数ある銭湯を巡り、移動の合間にホテルの予約も取る。
「さて、次はどこの銭湯に行こうか。口コミサイト見てみよう」
スマホを鞄から取り出す。歩きスマホはするなと良く言われるが、この時ほどそう思った事はない。悟史は夢中でスマホを操作していると、何かが真横から思い切りぶつかり、悟史はその場に転けた。
「……痛ってぇ」
「………ちょっと!」
その言葉に、悟史はようやく人とぶつかった事を認識した。悟史はぶつかった相手を見る。悟史の視界に入ったのは栗色の髪に、薄いピンク色のカーディガンを羽織り、白い花柄のスカート姿の女性。大きな目元に、鼻筋はシャープでぷっくりと膨らんだ唇。色白の肌が綺麗な女性。悟史は女性に見惚れていた。綺麗な顔が歪む。
「ちょっと!ぶつかっておいて。何か言う言葉があるんじゃないの?」
透き通ったソプラノボイス。女性にピッタリだ。そんな事を思っていると、肩まである栗色の髪を揺らし、女性は悟史を睨む。悟史は我に帰った。
「……いや、悪かった。怪我ないか?」
「無いわよ!……ヤバ、追い付かれちゃう!」
女性は今来ていた方を振り向くと、悟史が歩いて来ていた道に走って行った。呆然とする悟史。
(何だったんだ?)
道路に落ちたスマホを拾うと、悟史は平静を取り戻した。スマホで次の銭湯の場所を探し始める。
夕方、悟史は予約していたホテルの前まで来ていた。何かが悟史の袖を掴んだ。振り向くと、先程ぶつかった女性がそこにいた。
「あんた、ここに泊まるの?」
「……あぁ、そうだけど」
「ちょうど良かったわ!私も一緒に泊まるわ。って言うか、泊めなさい」
「……はぁ!?」
(おいおい、どこの誰かも分からない相手になんでそこまでしないといけないんだ)
悟史は内心でそう思った。女性の表情は焦っている。
(そう言えば、さっきも追われてるみたいな事、言っていたな)
悟史が思案している間も、女性の手はしっかりと悟史の服を掴み離さない。それどころか、焦りの表情が濃くなっていく。悟史は決心した。
「まぁ、俺のせいでぶつかったからな。その詫びでいいなら」
「それで構わないわ」
「今回だけだぞ」
そう言って、女性と共にホテルのロビーに向かう。女性はその間も後ろを気にしているようだった。悟史も肩越しに後ろを見る。スーツを着た男達が右往左往していた。
(何者なんだ?この女)
悟史の服をしっかりと掴んだまま、女性が悟史に身体を寄せる。悟史の腕に柔らかな感触。生まれて初めて女性の胸の柔らかさを悟史は知った。
(……こ、これが夢に見た女性の胸の柔らかさ)
悟史が染々感じていると、女性が横腹を殴ってきた。
「……痛てぇよ」
「いいから早くチェックインしてよ」
悟史は横腹を押さえながら無言でチェックインを済ませる。部屋の鍵を貰いエレベータに向かう。当然、女性もついてきた。エレベータの扉が閉まり、女性と二人きりになる。悟史は大きな溜め息を一つ。
「おい、冗談抜きで同じ部屋に泊まるのか?お互い、名前も知らない赤の他人だぞ」
悟史にそう言われ、女性の肩が震えた。
「……ぇえ、本気よ」
「俺は男だ。襲うかもしれないぞ?」
「………それ、本気で言ってないでしょ?」
女性は明らかに顔を強張らせていた。
「今なら別の部屋を取れるだろ?」
悟史がエレベータのボタンに指を向ける。女性はその指を掴み、動きを止めた。
「止めて、そんな事しないで」
ポーンと軽快な音と共に、エレベータの扉が開く。女性は悟史より先にエレベータを降りた。怪訝な表情で悟史も降りる。無言のまま二人は部屋の前まで歩く。部屋の鍵穴に鍵を差し込む悟史。
「……念を押すが、本当に良いんだな?」
女性は頷く。悟史はそれを確認すると、部屋の扉を開けた。中に入ると、下駄箱があり板張りの廊下の先には、襖がある。悟史は靴を脱ぎ、襖を開けた。部屋は十畳程の畳み部屋。部屋の中央には黒色のテーブル。そして、座椅子が2客分セットされている。少し古臭いその部屋に入るなり、女性は座椅子に座りテーブルに頬杖したまま外の景色に視線を向けた。悟史は再度溜め息をつく。女性の反対側に座ると、女性に視線を向け。
「俺は篠崎悟史、あんたは?」
「……名乗る必要性ある?」
「今日、とりあえず一晩過ごすんだから、名前くらい知っても問題ないだろ?」
「嫌よ」
悟史に視線を向ける事なく言い放つ女性。悟史は苛立った。
「嫌なら出て行けよ。」
無意識にワントーン声色が下がる。女性は身体をびくりと震わせた。
「あんた、誰に追われてんだ?さっきは詫びのつもりで話にはのったが、俺はあんたを部屋に泊める義理はないんだよ」
「……そ…れは…」
女性は明らかに動揺している。悟史は腕組しながら、座椅子に身体を預けた。ようやく女性が悟史に視線を向け、口をゆっくりと開く。
「……小金井愛美」
「小金井さん」
「愛美で良いわ。私も悟史って呼ぶから」
(……上から目線だなぁ)
悟史は呆れつつも頷いた。そこでやっと落ち着いたのか、愛美は部屋の中を見渡し、小さな襖を見つけるとそこを開けた。そこには浴衣が置いてあり、愛美はそれを手に取る。
「ちょっとこれに着替えるから、悟史。向こう向いて」
「はぁ!?」
悟史の事などお構い無しに、愛美は上着に手を掛けた。瞬時に視線を反らす悟史。悟史の耳には、愛美が服を脱ぐ音が入ってくる。悟史の心臓は早鐘を打つ。
「悟史、もう良いわよ」
愛美に言われて、悟史はゆっくりと振り向き、飲み始めたばかりのお茶を吹き出す。悟史の目に映っているのは、はだけた浴衣姿の愛美だった。
「お、お前!浴衣、ちゃんと着れ!」
両手で顔を隠し、視線を反らす悟史。
「ちゃんと着てるでしょ?」
「着れてねぇよ!お前、ちゃんとした着付け知らないのか!?」
「……だって、いつもマサがしてくれてたから」
悟史の言葉に、愛美はポツリと溢す。悟史は視線を向けず、小さく咳払い。
「兎に角、浴衣の着方が分からないんなら、着るなよ」
「…………悟史は着付け出来るの?」
今の言葉に悟史は一度だけ愛美に向け。
「まぁ、それなりには出来る」
「なら、悟史が着付けしてよ」
流石に今の言葉には、悟史は愛美を見てしまう。はだけた浴衣を少し戻した愛美が悟史を見ている。悟史は立ち上がり、愛美の横を通り過ぎた。
「……俺は言ったろ?部屋に泊めるだけだって。そこまでする義理はないんだよ」
それだけ言って、部屋を出ていった。ホテルの廊下に一人になった悟史。溜め息を一つ。
(あいつ、何考えているんだ?ってか何者なんだよ。浴衣もまともに着れないし、誰かに追われているし。……まぁ、俺も人の事言えないか。相変わらず、お人好しだな俺)
少し頭を冷し冷静になる悟史。部屋に戻る。部屋に戻ると、テーブルの上には数本のビールの空き缶が転がっていた。愛美は浴衣をはだけたまま畳の上で寝ている。悟史は呆然と立ち尽くす。寝ていた愛美の目蓋が開く。
「……悟史ぃ、どこに行っていたのぉ」
愛美がはだけた浴衣姿で悟史に抱き付く。
「酒臭い、愛美。お前この量を短時間で飲んだのか」
「喉が渇いたから、冷蔵庫に入っていたの飲んだのぉ。あはは、何だかフワフワして気持ちいいよぉ」
「お前、社会人なら飲む量を考えろよ」
「……私、19だよぉ」
愛美の言葉に、一瞬思考が止まる悟史。
「…………お前!?未成年か!……最悪だ」
愛美に抱き付かれたまま座り込む悟史。愛美はずっと悟史に抱き付いている。はだけた浴衣の隙間から、愛美のふくよかな乳房が少し見えていた。
(……あぁ…参ったなぁ…)
悟史はこの状況に困惑するのだった。
オリジナル2作目、前回の作品より話が纏まれたら良いかな?なんて、思ったりしてます。