※この作品はR-18です。

俺は恋愛初心者   作:氷野心雫

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 愛美の正体や悟史の人となりは進むにつれて分かってくると思います。


困惑と誘惑~九州編②~

 外の景色が茜色に染まる。まだ陽がある状況で、悟史は悶々としていた。理由は、悟史の身体に寄りかかり、はだけた浴衣姿でうたた寝している愛美のせいだった。

 

(……あぁ、もうヤベェよ。俺、女に免疫ないのに!)

 

 頭を抱えて、心の中で叫ぶ悟史。当の愛美は身動ぎ。その度に、少しずつ愛美の肩が露になり、胸が見えそうだ。悟史は思い切り視線を反らす。溜め息を一つ。

 

(とりあえず、コイツをどうにかしないと)

 

 悟史はそろりと愛美を畳みの上に下ろすと、部屋の中をぐるりと見渡し、入り口に近い襖を開けた。そこには、敷き布団と掛け布団、枕の一式が二名分あり、中央のテーブルを隅に退けると、窓側に布団を敷く。寝ている愛美をお姫様抱っこする悟史。愛美は起きそうにない。悟史はゆっくりと愛美を敷き布団の上に下ろすと、布団を掛けた。

 

(これで、やっと落ち着ける)

 

 溜め息一つ。そこに、扉をノックする音が聞こえ、悟史は扉を開ける。入り口に立っていたのは、ホテルマン。

「お食事、お持ちしたのですが」

 その言葉に、怪訝な表情になる悟史。

「いや、頼んでないけど」

「……っあ、そんな筈は。確かに、こちらの番号から電話を頂いたのですが」

 フロントの奥にある事務所には、各部屋の番号を表示するモニターがあり、そこで色々な要望を受けるようになっているらしい。どうやら、愛美がフロントに電話を掛けていたようだった。

「……ちょっと連れが寝てるから、静かに運んでくれるか?」

「畏まりました」

 恭しく頭を下げるホテルマン。配膳台から料理を持つと、静かに迅速に運んでいく。時折、愛美の方をチラリと見ながら。最後の料理を運び終えると、ホテルマンは再度入り口に立ち。

「それでは、失礼します」

 頭を下げて、その場を去っていった。悟史は何度目かの溜め息。部屋に戻り、座椅子に座る。テーブルの上には、とり天、鳥飯。旬の魚の刺し身。だんご汁と数々の料理が並んでいる。悟史は生唾を飲み込む。一度、愛美のに視線を向ける悟史。

 

(……仕方ない。起きるまで待つか)

 

 盛大に鳴るお腹を押さえ、愛美が目を覚ますのを待つのだった。

 

 

 

 

 二時間後

 

 

 

 

 窓側に椅子があるのだが、悟史はそこで煙草に火を点けながら窓の景色を眺めていた。

「……ん…」

 ゆっくりと身体を起こし、まだ微睡んでいる愛美が悟史を見つめる。悟史も愛美に視線を向けた。

「起きたか?」

 煙草を口にくわえたまま、悟史は言う。愛美の表情は驚いているような、惚けているような表情。

「…………煙草、吸うんだ」

「まぁな。煙草も酒も飲むぞ」

 普通に返す悟史。愛美はじっと悟史を見続けている。

「俺の顔になんか付いているか?」

 そう言われ、愛美は我に帰ったようだ。

「……べ!別に何も付いてないわよ!」

 頬を赤く染め、愛美は言う。悟史はテーブルに置いてある灰皿に煙草を押し付け、火を消した。

「それより、お前。料理を頼んだのか?」

 言って、視線を料理に向ける。愛美はそれを見て、首を横に振り。

「頼んでないけど」

「……本当か?」

「本当よ、私頼んでない」

 愛美の言葉に嘘は見えない。悟史は首を傾げた。

「じゃあ、誰がこの料理を……。まぁいい。それより、お前起きたのなら、ご飯食べられるな?」

 悟史の言葉に頷く愛美。

「お前が起きるまで食べるの待ってたんだ。冷めてても文句言うなよ」

 言いながらテーブルを少し動かし、二人座れるようにする。愛美はその間も悟史を見続けていた。備え付けの冷蔵庫を開ける。愛美が先程飲んだ為、ビールが一本だけしか残っていなかった。

「……仕方ない。これで我慢するか」

 ポツリと溢す悟史。愛美はすでに座って料理を食べている。悟史は溜め息をつく。

 

(今日だけの辛抱だ)

 

 自分にそう言い聞かせ、悟史も料理を食べ始めた。

 

 

 

 

 三時間後

 

 

 

 

(どうしてこうなった?)

 

 悟史は今の状況に再び困惑している。予定は、愛美と料理を食べ終えて、特に互いを干渉しない様に過ごす予定だったはず。なのに、今の状況は想定外だった。今、悟史の布団には悟史が寝ている。が、しかし。何故か愛美も悟史に抱き付いて寝ていた。

 

(……おかしい。何でこうなったんだ?)

 

 頭の中で整理していく悟史。料理を食べ、悟史はビールを飲んでいた。すると、まだテーブルに残っていたビールを愛美は飲み空け、再び酔い始める。

「馬鹿か。お前、未成年だろ!?飲むなよ!」

 足元が覚束ない愛美を布団に戻し、無理矢理寝かし付けた悟史。そこまでは良かった。愛美も素直に寝息をたて始め、悟史も安堵。そこに再びホテルマンが食器を片付けに来たので、ついでにビールかワイン。それとおつまみを頼んだ悟史。しばらくして、ワインを持ってきたホテルマン。そこで運悪く、愛美が目を覚ました。

「私も飲む~」

 言いながら、ワインを飲んでしまった。ホテルマンに未成年だとバレないか悟史は不安になったが、特に不自然な行動がなかったのが幸いして、その場は切り抜ける。悟史は愛美からワインを取り上げた。

「……やめろ、お前。未成年で飲んでるのバレたら大変な事になるぞ」

 一喝する悟史。愛美は一瞬動きを止め、悟史を見た。そして、いきなり泣き始める。狼狽える悟史。無意識に愛美の頭を撫でた。

「泣くなよ」

 指で目元に溜まっている涙を拭う。愛美は悟史を見た。潤んだ瞳。愛美の身体がゆっくりと悟史に近付き、そして、抱き付いた。悟史は思考が止まり、身体を硬直させる。

「……ぅ…うおぃ、離れろ…」

 上擦る悟史に、愛美はキョトンとしている。しばらくすると、愛美から離れた。

「兎に角、もう寝ろ」

 動揺しながらも悟史は愛美に言った。愛美を布団に戻す。悟史はもう一つの布団を敷いた。本来ならホテルの従業員が敷きに来るだろうが、悟史は自ら敷く。部屋を暗くして、布団に入り込んだ。月明かりが窓から差し込んでくる。静かになった部屋に、壁掛け時計の音だけが響く。悟史は愛美に背を向けた状態で目蓋を閉じた。

 時間が経っても、一向に眠気は来ない。悟史は小さく溜め息をついた。愛美の布団が動く音。どうやら、愛美が起き上がったようだ。悟史は寝た振りをする。悟史の布団の横を通り過ぎ、廊下の途中にあるトイレに入っていく愛美。

 

(……なんだ、トイレか)

 

 安堵しながら、眠りの世界に入り始めた悟史。愛美がトイレから出てくる音を聞きながら、徐々に意識が途切れ始める。悟史の掛け布団が動いた。悟史は一瞬で意識を覚醒させる。悟史の目の前に愛美がいた。しかも、抱き付いて。

 

「布団、間違えてるぞ。お前の布団は向こうだ」

 悟史が言っても、動こうとしない愛美。悟史は離れようと身体を動かす。しかし、愛美は抱き付いて離れようとしない。

「マジでやめろ」

「……ぅん、いゃだ~動きなくない。離れなくなぁい」

 

(コイツ、まだ酔ってやがる)

 

 そんな事を考えている間も、愛美の腕は悟史の身体に巻き付き、離そうとしない。それより、寧ろ悟史の胸に顔を埋め、スリスリとすり寄り。

「悟史、温かぁ~い」

 猫なで声で甘えてくる始末。悟史は自分の胸に柔らかな感触が何なのか一瞬で理解した。マシュマロのような、それでいて程好い弾力のある愛美の胸の柔らかさに、流石の悟史も理性が飛びそうになる。

 

(……駄目だ!ここで手を出したら一生、後悔するぞ!)

 

 自分の中にある正義と闘う。そんな葛藤など、愛美は知る筈もなく、悟史の足に自分の足を絡めた。愛美と同じ様に浴衣に着替えていた悟史。悟史は後悔した。悟史の素肌と愛美の素肌が触れ合う。悟史の身体は嫌でも反応。

 

(ぅわあ!マジでヤバい~!?)

 

 悟史の葛藤は朝まで続いたのだった。




 なかなかラブコメらしくならない。まだまだ未熟者であります。
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