某有名温泉地から、一つ県を跨ぎ、悟史と愛美は九州の中で一番人気の低いとある県に来ていた。この県は、ある芸人が歌った事で一時期ブレイクしたが、今は以前と変わらずのどかな田舎風景に戻りつつある。
「……ねぇ、悟史」
頬を膨らませ、つまらなさそうに海岸を眺める愛美。それとは正反対に、黒いスコープを覗き込み、歓喜の声を上げる悟史。
「おお~!すげぇな。お前も見るか?」
悟史が掛けているのは、今流行りのVRである。そこに映し出されているのは。
「見ないわよ。それより、ここどこよ。何も無い海岸じゃない」
愛美の表情は少し怒っていた。悟史は愛美が怒っている理由が分からない。
「お前、知らないのか?ここ、世界遺産に登録されてる場所だぞ」
「……ふぅん、そうなの。こんな何も無い所がね」
疑いの眼差しで悟史を見つめる愛美。悟史はVRを愛美に差し出す。
「覗いてみろ。昔の資料を元に、この場所がどんな場所か再現されてるから」
愛美は渋々受け取ると、中を覗き込み、見渡してみる。すると、そこに映し出されているのは、昔の船や建物だった。
「へぇ~、凄いわね」
「だろ?ここは歴史的価値が高いらしいぞ」
胸を張り、悟史が言う。しかし、愛美は悟史にVRを差し戻すと、また不機嫌になった。
「つまらない。他に何かないの?」
「…………」
肩を落とし、溜め息をつく悟史。
(……価値が分からないとは)
悟史の腕に愛美が絡み付く。悟史は振りほどく気力もない。半ば強引に愛美に引き摺られながら、その県を後にした。
九州の南部地方
活火山を眺めながら、悟史と愛美はこの地の名物。シロクマを頬張っていた。少し疲れていた身体と熱が、程好く冷やされ心地好い。ほぼ移動時間に費やした為、観光すら出来なかった二人。足早に宿に向かう。高級とまではいかないが、それなりに値の張るホテルに二人はいた。
「ここ、一泊でも値が張るけど、悟史。大丈夫なの?」
少し不安げな愛美が言う。愛美の心配を余所に、悟史は特に焦ってはいない。
「ああ、問題ないけど?」
平然としている悟史に、愛美は見惚れている。フロントに向かう途中、悟史は愛美を見た。
「……お前、本当に同じ部屋に泊まる気か?」
「勿論よ。私と一緒だと困るの?」
上目遣いでそう言う愛美。悟史はぐらついた。そして、小さく溜め息をつく。
「俺は男だ。間違いが起きないとは限らない」
「間違って何よ。悟史が私を襲うかもって事?」
「そうだ。男は気持ちが無くても、その気になったら」
言い掛けた悟史の唇に、愛美の細くて綺麗な指先が塞ぐ。
「悟史は紳士だから大丈夫でしょう?」
にこりと微笑む愛美。その微笑みが、悪魔にしか見えない悟史。悟史は大きく溜め息をついた。諦めてフロントでチェックインの手続きをする。ホテルマンに案内され着いた部屋は、何故か悟史が予約していた部屋ではない、スイートルームだった。
「……ちょっと、何かの間違いじゃないですか?俺はスイートを予約してませんけど」
悟史はホテルマンにそう言う。しかし、ホテルマンは営業スマイルを絶やさず。
「いいえ、こちらで合ってますよ」
その一言。恭しく頭を下げて、部屋に荷物を置き出ていった。思考が完全に止まった悟史。この状況が整理できない。その間、愛美は部屋に備え付けられている冷蔵庫を開け、飲み物を出していた。両手に持っているのはオレンジジュースの缶。その内の一本を悟史に渡す。
「……何が何だか」
悟史は言いながら缶の口を開け、一口飲み込む。アルコール独特の匂いがした。
(これ酒か!?……っあ!)
振り向き愛美を見る。時既に遅し。愛美はその缶を飲み終えていた。頬をピンク色に染めた愛美が悟史を見ている。悟史は顔を手で覆うと溜め息をついた。
「悟史ぃ、抱っこぉ」
甘い声を上げて愛美が言う。覚束ない足取り。ふらつきながら、呆然と立ち尽くしている悟史に近付き、そのまま抱き付いた。悟史が愛美の身体を支える。
「お前、酒飲むのやめろ。未成年だろ。誰かに知られたら、俺が困るんだぞ」
呆れた表情で悟史が言う。そんな悟史の言葉に、愛美の目が潤んだ。
「何でぇ悟史、怒るのぉ……」
「ぅわあ、泣くな!」
涙を浮かべる愛美に悟史はあたふたしている。両手で愛美の身体を包み込み、子供をあやす様に背中をトントンと叩く。しばらくして、落ち着いた愛美が力なくその場に崩れ落ちそうになる。悟史は抱き上げると、そのままベッドに連れていった。ベッドの上でスヤスヤ眠る愛美。悟史は、愛美の寝顔を見ながら深く溜め息をついた。
(何なんだよ)
大きなスイートルームに二人きり。他の部屋にはゲスト用の寝室がない。愛美が寝ているベッドはキングサイズなのだが、一緒に寝る訳にもいかない。悟史はソファーに横になった。
(あいつと逢ってから調子が狂いっぱなしだ。ゆっくり観光も出来ない)
目蓋を閉じて、息を吐く。脳裏に浮かぶのは、愛美の不安げな表情。
(……でも、放っておけないんだよな)
次第に睡魔に襲われ、悟史は意識を手放した。
別の温もりを感じて目を覚ます悟史。目蓋を開けて、ギョッとした。悟史の身体に覆い被さるように愛美が寝ている。悟史の視界に映る愛美のふくよかな胸元。鼻孔を擽る甘い香り。一瞬で悟史の息子が起き上がった。
(……ぎゃあ~、ヤバイ~!)
悟史の息子はギンギンに反り上がり、愛美の柔らかな太股に当たる。
「……ぅん…」
愛美が身動ぎをした。その瞬間、悟史の息子が刺激を受ける。悶絶する悟史。
(うわぁ、マジでヤバイ!)
明け方まで悟史が苦悩する事は言うまでもない。
悟史君の悶絶はいつまで続く事やら……