※この作品はR-18です。

俺は恋愛初心者   作:氷野心雫

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 前回に続いて、愛美sideからです。


愛美side~九州編②~

 悟史と行動を共にすると決めてから、愛美の心は浮き足立っていた。今、愛美がいるのは、昨日と同じホテルである。時間はすでに夕方を過ぎ、外は暗い。愛美は地下にある大浴場から戻ってきたばかり。服は昨日と違う服だ。淡いピンクのルームウェア。愛美は淡い色が好きなのだ。

「……頼むから、俺の布団に入るなよ」

 悟史が呆れた表情で言う。愛美は悟史をじっと見つめている。

「お前、俺の話聞いているのか?」

 悟史が再度愛美に言う。愛美は惚けていた。目の前の婚約者に胸が高鳴る。

 

 

 

 

 夕方、悟史の口から清水マサの名前を聞いた時は、焦った。清水マサは、愛美のお世話係だ。いつも愛美の側にいて、生活の様々なサポートをしてくれている。そのマサが愛美を捜しているのだ。

「私の事言ったの?居場所教えたの?」

 愛美は悟史の袖を掴み、詰め寄った。しかし、悟史は愛美の居場所も、愛美と一緒にいる事も話していないのだ。

 

(……どうして、悟史はそんな事するの?)

 

 愛美の心は悟史一色に染まる。今目の前でビールを飲みながら、食事をしている悟史。ビールを飲む度に、喉仏が上下している。愛美はそれを見つめていた。

 

(ねぇ悟史。私、悟史に恋しても良い?)

 

 豪快に食事する悟史に、愛美の心は問い掛ける。でも、それを口にはしない。まだその時じゃないと感じたからだ。

「お前、食わないのか?冷めるぞ」

「……ぅん、食べるよ」

 急に話し掛けられ、愛美は我に帰った。愛美の挙動不審に、悟史は怪訝な表情。それを誤魔化す様に愛美は食事を始めた。夜、寝静まった時間。愛美は布団から抜け出し、窓際の椅子に腰掛ける。窓の外からは月明かりが部屋の中を照らし出す。愛美は出入り口側で寝ている悟史を見た。昨日、一睡もしていない悟史。今は死んだように眠っている。

 

(悟史は私の事知らなかった。どうして?婚約の事、知らないの?)

 

 愛美が家出の理由を話した時、悟史は特に変化がなかった。ただ一瞬、表情が変化したのは見逃さない。

 

(本当は何か知っているの?どっちなの?悟史)

 

 愛美はゆっくり立ち上がり、悟史に近付く。そして、悟史の布団に入り、悟史の身体を抱き締める。大きな身体、悟史の匂いが愛美の心を掻き乱す。悟史の温もりが愛美を夢の世界へ誘う。悟史の胸の鼓動を聞きながら、愛美は目蓋を静かに閉じた。

 

 

 

 

 朝、鳥の囀ずりで目を覚ます愛美。悟史まだ眠っている。愛美は悟史を起こさない様に静かに布団から出ると、自分の布団に戻り、悟史に背を向けた。

 

(……どうしよう。ちょっとクセになるかも)

 

 顔をピンクに染め、愛美は悶えた。しばらくして、悟史が目を覚ます。身体を起こし大きな欠伸をしながら伸びをする悟史。その時、少しだけ腹部が見えた。一瞬なのに、愛美の脳はしっかりと悟史の腹部を焼き付ける。細身なのに、しっかりと引き締まった腹部。一瞬なのに、色気を感じて、愛美の目の前がクラクラする。

「何だ、お前。起きてたのか?」

 愛美が夜一緒の布団に入った事に気付いていない悟史。自分の布団に入っていない事に安堵していた。

 

(……何だか、気に入らない)

 

 愛美は不貞腐れる。そんな事など、悟史は知らない。上機嫌で身支度をしていた。上着を脱ぎ、上半身が露になる。愛美の目は釘付けになった。一瞬だけ腹部を見た時と同じで、その引き締まった上半身から色気と言う名のフェロモンが駄々漏れしている。

「そう言えば、お前。本当について来るのか?」

 上半身裸のままで悟史が問う。愛美は視線を反らした。それに気付いた悟史。

「ああ、悪い」

 そう言って服を着る。愛美は視線を外したまま。

「……昨日も言ったでしょ。ついて行くわ。」

 愛美の返事に溜め息をつく悟史。愛美の胸がチクリと痛む。

「なら、準備しろ」

 荷物を片付けながら悟史は言った。愛美は顔を上げ、悟史を見る。

「本当に良いの?」

「……正直、迷惑なんだけどな。仕方ねぇよ」

 その言葉に愛美の表情が暗くなる。

 

(……迷惑なんだ)

 

 シュンとしながら悟史を見る。悟史が振り向いた。

「ほら、お前の荷物入れるから」

 愛美に手を差し出す悟史。愛美は昨日買って着ていたルームウェアを渡す。今着ているのは、悟史に初めて会った時に着ていた服だ。ホテルのクリーニングにいつの間にか出されていた服。愛美の表情は少し明るくなる。支度を終え、悟史は立ち上がった。愛美も悟史の後を追う。フロントでチェックアウトをしている間、愛美は周囲を見渡した。

 

(……大丈夫、まだ気付かれていないわ)

 

 追っ手の気配がない事に、愛美は小さく安堵した。まさか、すでに見つかっている事など、愛美は知らない。

 

 

 

 

 某海岸通り。周囲は何もないだだっ広い海岸。愛美達の他にも、数人いる。悟史は、愛美そっちのけで、黒い箱を覗き込みながら興奮していた。悟史曰く、どうやらこの何もない海岸が、世界遺産に登録されているらしい。しかし、愛美には全く興味なかった。愛美の態度に飽きれ顔の悟史。愛美は半ば強引に悟史の腕を掴み引き摺って行った。

 

 

 

 

 

 活火山がある九州南部に向かう電車の中で、愛美は外の景色を眺めている。外の景色は、物凄い速さで流れていく。愛美は横に座っている悟史を見た。腕を組んで、うたた寝をしている悟史に、愛美の細い指が悟史の頬を突っつく。それでも悟史は気付いていない。愛美は優しく頬に触れた。

 

(……悟史)

 

 目的地に着くまで愛美は悟史を見つめ続けていた。

 

 

 

 

 愛美と悟史は、ホテルの部屋にいた。この部屋は、悟史が予約していた部屋ではない。何かの手違いかと悟史は言っていたが、ホテルマンは間違いないと言う。愛美はその話を遠巻きで聞いていた。備え付けられた冷蔵庫を開け、オレンジ色の缶を取り出す。愛美はそれがアルコールだと気付いていない。悟史に一缶渡し、飲み始めた。少し違和感を感じながら、それを飲み終える。視界がユラユラと揺れ、悟史は盛大な溜め息をついていた。

「……悟史ぃ~、抱っこしてぇ」

 揺れる視界で悟史に抱き付く。崩れ落ちる身体を悟史が支える。次第に睡魔に襲われ、愛美は目蓋を閉じた。

 

 

 

 

 次に目を覚ますと、愛美は大きなベッドにいた。大きさはキングサイズ。そのベッドを見渡すが、悟史の姿はない。愛美はベッドから降りると、部屋の中を歩く。寝室から出ると、別の部屋。その場所は、最初に入った部屋だった。そして、その中央には大きなTVと丸いテーブル。複数が同時に座れるソファーに悟史が寝ていた。

 

(一緒に寝れば良いのに)

 

 不満顔の愛美。ゆっくりと悟史に近付き、悟史の頬を突っつく。

「……ぅ…ん」

 反応するが、目を覚ます事なく悟史は寝返りをうつ。愛美は物足りない。もう一度頬を突っつく。悟史は眉間にシワを寄せて、今度は仰向けに。しかし、やっぱり起きない。愛美は徐に悟史の上に跨がり、覆い被さった。悟史は起きる気配はない。愛美は悟史の鎖骨辺りに頭を置き、悟史の鼓動を聞く。悟史の鼓動はリズム良く、心地好い。そして、再び睡魔に襲われ、悟史の身体の上で眠りについたのだった。




 とりあえず、愛美sideは終わりです。次回は、悟史視点に戻ります。
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