静まった部屋に響く溜め息。溜め息の主は悟史である。溜め息を出させている相手は、勿論愛美だ。悟史の上でスヤスヤと寝息をたてる愛美。悟史は上に乗られていて動くに動けない状況。それだけではなく、愛美のふくよかな胸元に悟史の息子がギンギンに反り上がり、愛美の太股に当たっている。
(こいつが起きたら、完全にバレる…)
焦りが悟史の身体を硬直させていた。悟史が悩んでいる間に、愛美が目を覚ます。まだ少し微睡んでいる目で悟史を見た。二人の視線が絡まる。
「……お早う」
悟史の上で微笑む愛美。悟史は生唾を飲み込んだ。理由は愛美の服の隙間から見える大きな胸元。悟史の息子が脈打った。愛美の太股に息子が当たる。
「……っあ」
愛美が気付いた。視線を下に向け、その存在を確認している。その間、悟史は見られた恥ずかしさで、変な汗が流れていた。
「……悟史、エッチぃ」
頬を染めた愛美が、上目遣いで言う。
「……ぅ…五月蝿い、朝はこうなるんだ!いいから、早く退けよ」
顔を真っ赤に染め、悟史は言った。そんな悟史を、何故か嬉しそうに微笑む愛美。悟史をじっと見つめた後、ゆっくりと悟史から離れた。悟史が身体を起こす。
「ねぇ、今日はどうするの?」
「……ちょっと行きたい所が出来たから、そっちに移動する。悪いが、ここの観光はしない」
下半身を隠しながら言う悟史。その言葉を聞いて、愛美は頬を膨らませた。
「えぇ!?折角来たのに」
「文句を言うなら、ここで解散だな」
大分落ち着いたのか、悟史は立ち上がった。床に座り込んでいる愛美の目の前に、必然的に息子が見える位置になる。
「……ふぅん」
愛美の指が息子を突っついた。悟史の身体がびくりと反応する。悟史は下半身を隠し、愛美を睨んだ。
「止めろ!お前、令嬢だろうが、こんな事して恥ずかしくないのか?」
悟史は威嚇の為に言った。しかし、愛美は平然としている。
「こんな事、誰にでもする訳ないじゃない。悟史だけよ?」
「……何で俺なんだよ」
呆れた表情で愛美に言う悟史。愛美の上目遣い。悟史の鼓動が速まる。それを誤魔化す様に悟史は出発の準備を始めた。
とある芸人が県知事になったある某県。
二人がいるのは、某県と同じ名の神宮。その神宮は全国的にも珍しい社殿で、杉材だけで建てられている。何本もの赤い鳥居を潜り、二人は写真を撮った。
「……っあ、携帯の充電が」
言うのが早いか、スマホの電池が切れた。愛美は小さく溜め息をつく。悟史はそれを覗き込み。
「まぁ、後で充電すれば良いだろ。充電器持っているのか?」
悟史の問いに、愛美は首を横に振る。
「仕方ない。あとで俺の貸してやる」
愛美の頭を軽く撫で、悟史は歩き出した。次に向かったのは、天岩戸神社。ここは日本の神話で出てくる場所。天照大神が隠れたとされる岩戸があり、御神体として祀られている場所でもある。近年、パワースポットとしては有名な所で、沢山の参拝客が行き来していた。悟史は時間を忘れて写真を撮りまくる。置いてきぼりの愛美は、無言で悟史の後ろをついてくるだけ。
「……ねぇ悟史」
「何だ?」
「写真まだ撮るの?」
少し疲労感を滲ませて、愛美が言う。悟史はようやくその事に気付く。
「悪かった。そろそろ帰ろうか。宿まで歩けるか?」
「……ぅん」
疲れがピークなのが見てとれた。足元がふらつく愛美。悟史は愛美の前で、背を向け膝をついた。
「ほら」
愛美は素直に背負われる。悟史の背中に、愛美の胸が当たっているが、今の悟史にそんな気持ちにはなれない。背中でグッタリとしている愛美。悟史は無言のまま車の通る道まで歩く。タクシー乗り場に着くと、運良く一台が悟史達の前に停車した。タクシーの後部ドアが開く。
「すみません、ここまで」
愛美をゆっくり後部席に座らせると、悟史は宿泊予定のホテルを見せ、愛美の横に座った。動き始めるタクシー。
「ホテルに着くまで時間掛かるから、寝てていいぞ」
悟史は横目でそう言った。返事をする気力もない愛美は、そのまま目蓋を閉じる。それを確認すると悟史は小さく溜め息をついたのだった。
一時間後
タクシーがホテルに到着した。悟史は愛美を起こす。
「おい、着いたぞ。起きろ」
まだ微睡んでいる愛美。悟史を見ると抱き付く。
「……おい、止めろ。早く降りるぞ」
「……無理ぃ、悟史…」
二人のやり取りに、タクシーの運転手が小さく咳払い。悟史は渋々愛美を背負い、ホテルの中に入っていった。フロントに向かうと、ホテルマンが驚いた表情で悟史を見ている。
「……おい…愛美」
悟史の声で愛美がゆっくりと悟史の背中から降りる。まだふらついている愛美。悟史の腕に掴まり、身体を預けている。悟史は愛美の身体を支えながら、チェックインの手続きをした。悟史は愛美の身体を支えながら、エレベーターに向かう。
「お前、大丈夫か?」
そう言って、愛美の顔を覗き込む。愛美の目はトロンとしていた。部屋に着くと、ベッドに寝かせる。とりあえず、上着だけ脱がし、布団を掛けた。時計を見ると、19時を過ぎている。
(……風呂に入るか)
鞄から着替えを出し、浴室に向かう。このホテルには、各部屋に露天風呂があり、部屋から見える中庭とも続いている。悟史は服を脱ぎ、腰に手拭いを巻き付けた。掛け湯をして檜で作られた浴槽に身体を沈める。
「……ぅ…ふぅう」
歩き疲れた身体に、温泉の成分が癒す。悟史は小さく溜め息をつきながら、愛美の事を考えていた。
(これからどうしようか)
愛美の行動一つ一つが悟史を掻き乱す。悟史の頭に、朝の出来事が浮かんだ。愛美の綺麗な指が、悟史の息子を突っついたその場面。実際には、ボクサーパンツ越しからではあったが、悟史にしては刺激的だった。思い出して、悟史の息子が反応する。
(バカ、反応するな)
息子を戒め、悟史は深く溜め息一つ。悟史が動く度に、チャプとお湯が鳴る。悟史が湯槽の中で目を閉じ、一時の至福を味わっていた。しばらくして、水面が揺らぐ。悟史は振り向いた。そこにいたのは、バスタオルを身体に巻き付けた愛美。タオルで隠しているとは言え、愛美の綺麗な身体を全ては隠せない。肩や太股から下は丸見えだ。しかも、そのバスタオルですら愛美の艶かしい曲線を際立たせている。悟史は狼狽えた。
「お前、何してんだ!?」
「何って、お風呂入ろうとしているのよ」
「……そうじゃねぇよ!?」
慌てている悟史をしり目に、愛美は湯槽に身体を沈めた。悟史の横に愛美が座る。
「この露天風呂、意外と大きくて良かったわ。余裕で入れるから」
夜空を眺めながら愛美が言う。悟史はその横顔に見惚れていた。温泉の温もりに、ピンク色に染まった愛美の頬。肩に、髪に水滴が滴る。愛美に見惚れていると、愛美が悟史に視線を向けた。その仕草に鼓動が速まる。
「……悟史」
「……な、何だ?」
無意識に上擦る声。愛美は微笑んでいる。
「今日、楽しかった?」
悟史の顔は真っ赤だ。愛美はずっと微笑んだまま悟史を見ている。少し悟史は平静を戻した。愛美から視線を外し。
「まぁ、それなりには楽しかったよ」
「そっかぁ、良かった」
愛美の言葉に、悟史は愛美を見た。二人の視線が絡まる。悟史は無意識に身体を傾け、愛美の肩に手を置き、愛美の目蓋がゆっくりと閉じていく。悟史は少しずつ顔を近付け、二人の唇が徐々に近付く。
「……あのぅ」
別の声がして二人は振り向く。そこにいたのは、中居さん。
「お楽しみのところ、お邪魔して申し訳ございません。お食事をお運びしたいのですが」
愛美は小さく悲鳴を上げて、悟史の後ろに隠れる。
「……運んで下さい。すぐに上がります」
「畏まりました」
頭を下げ、中居さんが出ていく。気まずい雰囲気。
「先に上がるから、お前はゆっくり上がれ」
「……ぅ…うん」
返事を確認し、悟史は湯槽から出た。脱衣所に入り、悟史は大きく溜め息をついた。
(……何やってんだ俺は…)
脈打つ胸の鼓動に、悟史は深く息をした。愛美に触れた手を見る。
(あのまま誰も来なかったら、俺は)
昂る想いと比例して、悟史の息子も反応していた。そして、悟史は気付く。自分の中で芽生え始めた気持ちを。
(俺、あいつの事)
自覚し始めたら、もう止められない。愛美の全てが悟史を惑わせる。そして、夜。愛美はやっぱり悟史に抱き付いて寝ていた。愛美の匂いが悟史の理性を試す。悟史の息子は相変わらず反り上がっていた。
(……わぁ、もうどうしたらいいんだぁ~!?)
悟史は今回も悶絶し、眠れないのだった。
いゃ~、悟史と愛美の仲はどう進むんでしょうね!